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prologue:積まれた書籍とタバコケース
災難
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「アニキ?」
「お前はちょっと離れてろ・・・・・・俺がやる」
そう言うと、まるで子どもが広場で見つけた小さな虫を親に見せるかのように、ただ口が淋しくなったからタバコを取り出すかのように、躊躇いなど一切なく、手下の手から抜き取った拳銃の銃口を少女に向けた。男が躊躇わないこと、これから起こる未来はもう誰にも変えることができないこと、この男が人間を処分することが初めてではないこと、全てをそのたった一つの動作だけでまざまざと見せつけられる。これ以上は見ることも憚られ、シドが身を引こうとした瞬間。ふいに、地面にうなだれていた少女がまた顔を上げ、シドと再び目が合った。
すると、シドの脳内にある記憶が突然にフラッシュバックした。それが何時で、何処だったかも分からないが、真っ白な空間、自分の手が前方に向けて必死で伸びきり、その先では二人の人物が涙を流し必死で叫びながら、自分に向かって手を伸ばす少女を抱え上げる様にして連れ去ろうとしているかのような光景。
「・・・・・・スアロ?」
目の前にいる少女が別人物であることはあきらかだったが、愛しいその少女の名前が、自然と零れ出ていた。
「アニキ、今声が」
「誰だ!!」
後方からの声に男2人は一斉に振り返る。少女に向けられていた銃口がそのまま、シドが潜んでいた壁に向けて向け直された。シドは声を漏らしてしまった瞬間に、すぐに駆けだしていた。しかし、相手は銃を所持しており、仮にこの場から逃げ切ることができたとしても、この現場を見て、2人の会話を聞いていたシドを易々と見逃すはずもない。ゴミ溜めの隅々まで調べ上げ、例え遠くへ逃げようとも何処までも追いかけられることは避けられない。
「逃がすなヤコフ!オレもコイツを連れて後を追う」
シドは背中越しに、怒号のような声を聞いた。もう自分の未来に破滅しか待っていないと分かっていても、命を狙われれば必死で逃亡を図る以外にない。シドは泥に足を取られながらも必死で走る。ここまで来た道とは逆方向に走っていたのは、あの温かな光が強かった場所を無意識に目指したからでもあり、あるモノがその先に見えることを確認していたからでもあった。そこにさえ辿り着ければあるいは助かるかもしれないという打算だけが、もつれる足を必死で動かし続ける。
少しでも速くしたい一心で強く地面を踏もうとするが、ぬかるみの強いこの場所では逆効果でしかなく、泥を跳ね上げながら何度も態勢を崩した。転んで足が止まってしまえば簡単に銃弾の的になる。前のめりに倒れ込みながらも必死で腕を着いて、無理矢理に体勢を整える。跳ねた泥が顔を汚し、大きな口を開けて必死で呼吸をして口の中に入ろうとも、地面に着いた手がべっとりと泥にまみれても、今はただ必死でその先を目指すしかなかった。
しかし、それだけ動揺していれば普通の道であっても転倒していたかもしれず、早く走るには悪条件でしかないこの場所ではそれほど進むことも出来ずに、倒れ込んだのは無理もないことだった。
「観念するでやんす」
背の高い男にヤコフと呼ばれていた男の声が、すぐ近くではっきりとシドに向かって発せられた。あまりにも短すぎる情けない逃走劇、泥に塗れながら地面に這いつくばり肩で息をしていた。ヤコフは反対の胸元から、あの命を散らす為だけに造られた鉄塊を取り出した。その手は、わずかに揺れていた。振り返ることなどできないシドだったが、その様子を見てしまっていただけにヤコフが何かを取り出した気配から、銃口が向けられていることを悟る。
「ゆっくり体を起こして両手を挙げるでやんす」
そう促されてシドはゆっくりと体を起こしていく。お互いの浅い呼吸の中に、泥から手を離した滑稽な音が吸い込まれていった。もう助かる術は無いと理解していたためかシドの心臓はほとんど平常なリズムで脈を刻んでいた。逃走は不可能。命乞いも通じることはないだろう。特に人生に、この世界に未練などは無かったがたった二つだけの心残りが胸の奥でチクチクと棘を伸ばす。
少女を見た時にフラッシュバックしたあるはずの無い記憶の鍵はルーザの手にある。これまでも数回その記憶が頭によぎったことがあり、無意識に零れ出た名前をシドは記憶に留めることが叶わなかった。連れ去られていく少女は自分の妹であると、根拠はない中で確証していた。妹を見つけ出すことだけがシドをこのゴミ溜めでも生かしてきたし、様々な見識を深めたのも妹を探す助けになると助言を受けてのことだった。その中でも医学に傾倒していたのは、妹を守ることができなかった自責の念が強く影響していたのかもしれない。
「おい、さっさと歩け」
シドの耳に遠くで聞こえていた二つの足音が段々と大きくなって止まり、同時に何か大きな塊が地面に放り出される音が響く。背の高い男が少女を乱暴に引っ張りながら追い付いて、少女を地面に放り投げる様に突き出した音だった。少女が勢いよく泥に飛び込んだことで、跳ねた泥がヤコフのスーツのズボンに大きな染みをつける。
「お兄さん災難だったな。たまたま立ち寄ったオレらと同じタイミングでこんな所に来ちまったこと。これの処分の可能性も考えてヤコフが銃を2丁持っていたこと。いや、そもそもこんなゴミ溜めでしか生きることができなかった人生そのもの、つまるとこあんたの全て災難としか言えないね」
「お前はちょっと離れてろ・・・・・・俺がやる」
そう言うと、まるで子どもが広場で見つけた小さな虫を親に見せるかのように、ただ口が淋しくなったからタバコを取り出すかのように、躊躇いなど一切なく、手下の手から抜き取った拳銃の銃口を少女に向けた。男が躊躇わないこと、これから起こる未来はもう誰にも変えることができないこと、この男が人間を処分することが初めてではないこと、全てをそのたった一つの動作だけでまざまざと見せつけられる。これ以上は見ることも憚られ、シドが身を引こうとした瞬間。ふいに、地面にうなだれていた少女がまた顔を上げ、シドと再び目が合った。
すると、シドの脳内にある記憶が突然にフラッシュバックした。それが何時で、何処だったかも分からないが、真っ白な空間、自分の手が前方に向けて必死で伸びきり、その先では二人の人物が涙を流し必死で叫びながら、自分に向かって手を伸ばす少女を抱え上げる様にして連れ去ろうとしているかのような光景。
「・・・・・・スアロ?」
目の前にいる少女が別人物であることはあきらかだったが、愛しいその少女の名前が、自然と零れ出ていた。
「アニキ、今声が」
「誰だ!!」
後方からの声に男2人は一斉に振り返る。少女に向けられていた銃口がそのまま、シドが潜んでいた壁に向けて向け直された。シドは声を漏らしてしまった瞬間に、すぐに駆けだしていた。しかし、相手は銃を所持しており、仮にこの場から逃げ切ることができたとしても、この現場を見て、2人の会話を聞いていたシドを易々と見逃すはずもない。ゴミ溜めの隅々まで調べ上げ、例え遠くへ逃げようとも何処までも追いかけられることは避けられない。
「逃がすなヤコフ!オレもコイツを連れて後を追う」
シドは背中越しに、怒号のような声を聞いた。もう自分の未来に破滅しか待っていないと分かっていても、命を狙われれば必死で逃亡を図る以外にない。シドは泥に足を取られながらも必死で走る。ここまで来た道とは逆方向に走っていたのは、あの温かな光が強かった場所を無意識に目指したからでもあり、あるモノがその先に見えることを確認していたからでもあった。そこにさえ辿り着ければあるいは助かるかもしれないという打算だけが、もつれる足を必死で動かし続ける。
少しでも速くしたい一心で強く地面を踏もうとするが、ぬかるみの強いこの場所では逆効果でしかなく、泥を跳ね上げながら何度も態勢を崩した。転んで足が止まってしまえば簡単に銃弾の的になる。前のめりに倒れ込みながらも必死で腕を着いて、無理矢理に体勢を整える。跳ねた泥が顔を汚し、大きな口を開けて必死で呼吸をして口の中に入ろうとも、地面に着いた手がべっとりと泥にまみれても、今はただ必死でその先を目指すしかなかった。
しかし、それだけ動揺していれば普通の道であっても転倒していたかもしれず、早く走るには悪条件でしかないこの場所ではそれほど進むことも出来ずに、倒れ込んだのは無理もないことだった。
「観念するでやんす」
背の高い男にヤコフと呼ばれていた男の声が、すぐ近くではっきりとシドに向かって発せられた。あまりにも短すぎる情けない逃走劇、泥に塗れながら地面に這いつくばり肩で息をしていた。ヤコフは反対の胸元から、あの命を散らす為だけに造られた鉄塊を取り出した。その手は、わずかに揺れていた。振り返ることなどできないシドだったが、その様子を見てしまっていただけにヤコフが何かを取り出した気配から、銃口が向けられていることを悟る。
「ゆっくり体を起こして両手を挙げるでやんす」
そう促されてシドはゆっくりと体を起こしていく。お互いの浅い呼吸の中に、泥から手を離した滑稽な音が吸い込まれていった。もう助かる術は無いと理解していたためかシドの心臓はほとんど平常なリズムで脈を刻んでいた。逃走は不可能。命乞いも通じることはないだろう。特に人生に、この世界に未練などは無かったがたった二つだけの心残りが胸の奥でチクチクと棘を伸ばす。
少女を見た時にフラッシュバックしたあるはずの無い記憶の鍵はルーザの手にある。これまでも数回その記憶が頭によぎったことがあり、無意識に零れ出た名前をシドは記憶に留めることが叶わなかった。連れ去られていく少女は自分の妹であると、根拠はない中で確証していた。妹を見つけ出すことだけがシドをこのゴミ溜めでも生かしてきたし、様々な見識を深めたのも妹を探す助けになると助言を受けてのことだった。その中でも医学に傾倒していたのは、妹を守ることができなかった自責の念が強く影響していたのかもしれない。
「おい、さっさと歩け」
シドの耳に遠くで聞こえていた二つの足音が段々と大きくなって止まり、同時に何か大きな塊が地面に放り出される音が響く。背の高い男が少女を乱暴に引っ張りながら追い付いて、少女を地面に放り投げる様に突き出した音だった。少女が勢いよく泥に飛び込んだことで、跳ねた泥がヤコフのスーツのズボンに大きな染みをつける。
「お兄さん災難だったな。たまたま立ち寄ったオレらと同じタイミングでこんな所に来ちまったこと。これの処分の可能性も考えてヤコフが銃を2丁持っていたこと。いや、そもそもこんなゴミ溜めでしか生きることができなかった人生そのもの、つまるとこあんたの全て災難としか言えないね」
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