PARADOX=世界の真相を巡る旅に始まり終焉へと帰結する、数多の矛盾と真実で紡がれる物語

小鉢 龍(こばち りゅう)

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prologue:積まれた書籍とタバコケース

フハイ

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 聖石の光は玄関の前のほんの5メートルほどまでを照らしている。炎のような暖色ではなく、ただ白いその光が、昼よりもはっきりと砂礫の陰影まで映し出している。

「頭は整理できてきたのかい?」

 小さくそう言って、ルーザはお気に入りの葉巻にマッチで火を点けた。シドは今日の出来事を回想するが、未だに確かな現実感は得られずにいた。ゆっくりと背中を店の壁に預けると、黒くはっきりとした影がしっかりとした輪郭を保ちながら壁に写る。

「あんたは知ってたんだな?」
「・・・・・・それはを言っているんだい?」
「どれってーー」

 確かに話題を確定するには主語が足りていない。シドが今回見聞きしたこと全てが真相だと飲み込んでも、消化不良で眩暈がしていた。

「ブレイグルの存在を知っていたんだな?」
「ああ」
「あの情報を出せば俺がすぐにでもヒュージの欠片を探して中心地に入ることも分かっていた?」
「ああ」
「・・・・・・てことは、ネオンが連れられてきたタイミングで話をしたってことか?」
「ああ」
「不敗の兵器、黒涙の呪いとはなんだ?あんたは・・・・・・
あんんたはいったい何者なんだ?」

 顔を迫りながら強い口調でルーザに言葉をぶつけるシド。抑揚もない一言だけで応えていたルーザが、シドを一瞥して笑う。

「あんたは駄々をこねる子どもかい?今日見てきたことを、まだ空想だと言って欲しいと縋っている。
あんたの目は何を見た?あんたの耳は何を聞いた?不快な硝煙と血の匂い、闘いの衝撃で伝わる波動、悪意に追われて切れた口の中の鉄の味・・・・・・諦めな、これは」

 一呼吸でシドを追い込むルーザ。無意識に退いた右足の踵が壁にぶつかり、鈍い小さな音を漏らす。ルーザは真っ赤な唇で葉巻を咥え、強く吐いた白煙が切り裂く様に真っすぐに伸びていった。

「ーー現実さね」

 眩暈に襲われたシドが右手で、右目も覆いながら頭に手を当てて、その場に座り込んだ。ルーザは横目にそれを見ていたが、興味ないと言わんばかりに視線を闇に戻して薫るそれを吸っては吐き出す。

「・・・・・・最後の質問にまだ答えてないぞ。黒涙の呪いとはなんだ?アレックスはどうなる?」
 
 シドは丸めた背中を壁に預けながら、頭をがくりと項垂れたまま、吐き出す様にそう言った。アレックスの意識は未だ戻らないまま、死の淵から引き戻せはしたものの、回復の目途は立っていない。

「アレックスの傷口にあんたも違和感があっただろう?あんたがシルビーの回復薬を迅速に使っていなければ、あたし達が着いた頃にはアレックスの身体はグズグズに崩れ落ちていただろうね」

 一時で血の池ができる程のおびただしい出血。内臓も筋肉もことごとく切り裂かれた痛みによるショック症状、普通の怪我であっても、ブレイグルの超常的な回復能力の助けが無ければ息を吹き返すことはなかった。シドは記憶から消し去ろうとしていたアレックスの傷口を思い出す。ぞわっと背中を虫が這った様な嫌悪感が全身に痺れを生んだ。

「ネオンの持つ黒涙の力は『』、触れた物が何であろうと、その組成そのものから腐らせ、爛れさせ、瞬く間に毟り取る。今ある医学や化学での対処は不可能で、黒涙の成分を解析することも人間如きには到底敵わないだろうさね。
 シルビーも相当に強力な回復能力を持っているが、それでも黒涙の腐敗を完全に止めることはできなかった。今のアレックスはシルビーの力によって力を閉じ込めている黒涙の呪いに、全ての生命力を注ぎ込んで、ようやく均衡を保っている様な状態と言って良いだろう」

 ルーザのアレックスの容体についての説明は、無慈悲とも思える宣告そのものだった。真意を汲み取ったシドはぐしゃりと髪の毛を握り込んだ。

「ネオンはなぜその呪いに触れて平気なんだ?」
「・・・・・・平気とは言い切れないさ。そうだね、この世には外敵から身を護る為に、毒を扱う生物は多い。それも、ヒュージの影響を受けた魔獣の話ではなく、元々自然界に存在していた生物にね。それらの持つ毒というのはシルビーの注射の様に、外部に取り込まれない限りは毒性を発揮しないようになっている。涙嚢に黒涙を溜めている間に関しては、そうした事例に準拠していると思うが、分泌された瞬間にネオンに触れているからな、あたしの見立てでは選択的に対象を定めていると考えているよ」
「つまりネオンだけは、黒涙に触れても呪いの影響がない・・・・・・ということか。だったら、あの時のネオンの独り言は、いったい」

 ホニカから身を守る為だったのだろう、間に割って入ったアレックスを黒涙によって貫いた後、ネオンは空を向いて立ち尽くしていた。空を見上げ涙が零れない様にしているかの様だった。頬に伝った黒涙は、ネオンの大きな目いっぱいに溜まっていた。シドはその後のことを思い出して、自分の右手の親指を確認する。

「・・・・・・考えず過ぎか?」

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