PARADOX=世界の真相を巡る旅に始まり終焉へと帰結する、数多の矛盾と真実で紡がれる物語

小鉢 龍(こばち りゅう)

文字の大きさ
27 / 46
1話:森の都の外套技師

森の惨劇

しおりを挟む
 森の都に入るまでは、延々と樹海の様な過酷な環境が続いている。その過酷さから、一部では自ら命を積む為に樹海に入るものや、ゴミ溜めの様に表に出すことが出来ない密談の場となることがままある。その日は、ある組織からのリークがあって、各地の警護を担い「公正」の大義を掲げる「第Ⅲ騎士団」の警務部隊が樹海に入っていた。

 鬱蒼と生い茂る木々や草花を掻き分けるようにしながら進んでいく、その影は3つ。背中には「2翼の正十字」の紋章が施されており、先頭を進む男の胸元には勲章が2つ施されている。3人はアレックスの持っていたリボルバー式の拳銃ではなく、各々が用意したであろう武器を備えている。それぞれが契約を交わしているブレイグルの武器を所持しているようだ。

「さて、この辺で一度休憩をしよう」
「了解しました。自分用をたしてきます」
「ホシが来るまで後20分弱、そこからは気を張っていかなければなりませんね。
ニック達も武器化を解除して休みなさい」

 普段は、暴徒鎮圧や市民を巻きこむような事件、もしくは標的もブレイグルと契約をしたブレイザーでない限りはブレイグルを連れていくことは無い。今回の任では闇のブローカーが情報交換や違法な取引を行っている「キャラバン」に属している可能性があり、ブレイグルが事件に絡んでいる可能性が高いので完全武装となっていた。

 隊長であるゴレットの元、理知的で鎮圧能力にも優れるアメリア、そして物静かだが持久戦に定評のあるトリオールの三人編成となっている。

「あー! また、安い方の戦闘糧食レーションだ、これ口の中乾くからニケル嫌い!」
「いつもいつも文句ばっかり言って、大切な栄養なんだから黙って食べなさい」

 武器から戻った瞬間に、一番幼い11歳のニケルがぶーぶーと文句を言い始める。ニケルよりも5歳年上のミアは、自由なニケルの態度が好きではないようだ。2人はいつも通りの口喧嘩をしながら、配給されたレーションのビスケットを食べる。そんな2人を見ていたアメリアがあることに気付く。

「あれ、シイナ知らない? また武器化中に寝てるのかしら」
「いやー、たぶん3人以上だから出てこれなくなってるんだと思うよ。」
「だったらトリオールが持ってっちゃったんじゃない? 今おしっこでしょ?」
「はあ・・・・・・あんた達もだけど、手のかかる子達ね」

 ゴレットは地べたに座り、アメリアが用意したコーヒーを片手に樹海の地図に目を通している。やいやいと喧しくしゃべりながら食べるニケルとミアを見つめながら、自分もチョコバーをかじっていた。

 その時、外れた場所で用をたしたトリオールの後方で、じっと彼を見つめる視線があったことに誰も気付いてはいなかった。

 そして、その視線の主も、特に騎士団の動きを見ていたわけではなく、旅を共にしている人とはぐれてしまっていたからだということは誰も知らない。

「ーートール、背後に敵影。すさまじい殺気」
「なっ・・・・・・」

 木の陰から織物の裾がひらりと見えた。トリオールは視線を決して外さないままで、シエナを近くにあった太い木の根元に隠した。

「誰だーー?この殺気はブローカー連中ではないな」

 トリオールは未だ顔すらも、木々の影に隠れた人物に強い語調で言う。衣擦れの音が微かに、草を分け、次いで「キン」と高い音が小さく鳴った。

 トリオールは騎士団に入って5年の経験を積んでいる。陣頭指揮などは不得手で、昇進の目には恵まれなかったが、高い運動能力と仲間を援護する能力を高く評価されている。暴徒鎮圧や同盟諸国の戦争に参加したこともあり、勝負勘と言われるものは鋭いと自負していた。その、勘が「殺される」ことを叫ぶでもなく、既に飲み込んでしまっていた。

「騎士団を狙っているのかは分からないが、近くには武装した仲間が控えている。大人しく退くことを勧めよう」
「ーーそうか、武装した騎士もいるのか。良い情報をありがとう。
さようなら」

 木の陰でシエナは声も出せずに震えていた。怒気を放つトリオールを見るのも長らくなかったので、すぐ後ろで怒っている事態が最悪の状況なのがひしひしと伝わっていた。

 相手が「さようなら」と言った瞬間。シエナの耳に、刀を鞘に納める時の様な金属の小さい音が響き、刹那、小さい塊と大きな塊がほぼ同時に「ごつん」と鈍い音を立てて地面に落ちた音を聞いた。シエナはそれがどういうことなのか、見ずとも分かってしまい恐怖から人間の姿に戻ることも、一緒に来た仲間に警告をすることも、助けを呼ぶこともできなくなっていた。しかし、それが結果としてシエナ自身の命を長らえさせることになるのだが、その結果は絶望という他ない悲惨なものとなる。

 恐ろしく静かで、敏感になっているシエナの耳ですら、ほとんど聞こえない程に消された気配で、その人物はゴレット達のいる方向へと去って行った。その気配が感じられなくなると、シエナはようやく人間の姿に戻る。木の陰に身体を預け、膝を抱えながら、苦悶の表情を浮かべながら全身を激しく震わせている。がたがたと震える肩を、無理矢理抑えようと両手で強く握りしめても、震えも汗と涙も止まる気配はなかった。

「トール? トール・・・・・・?」

 小さく名前を呼びながら、シエナはゆっくりと木陰から身を乗り出し、トールの居た場所を覗き込んだ。そこには人影はなかったが、シエナはすぐ真下に何かがあることに気が付いたが、本能がそれを確認することを拒否していた。強すぎる不安が血の気を引き、それを確認する前から涙を止めることが出来なくなっていた。一度ぎゅっと両目を瞑って、シエナは恐る恐るトリオールが居たはずの場所、その下にある何かに視線を落としていく。

 木々の緑と大地の茶色に、蛇足の様な白と赤が零れたペンキの様に浮いている。

「ーーーーひっ! いや、嘘。嘘よ。トール、あああああ」

 シエナは力なく転がるトリオールの身体の横にあった、頭部を抱きかかえながら声を殺して泣く。一刀に両断された首は、不自然なほどに真っすぐ綺麗に寸断されていて、自分の命が刈り取られた瞬間するら分からなかったのであろう、トリオールの顔は目の前に居た危険人物を睨んだ表情のままだった。シエナは自分の涙で濡れるトリオールの上瞼に優しく手を当てて、トリオールの目を閉じた。

「ーーみんなは!?」

 数秒放心してしまったシエナだったが、他の4人の安否が気になり、飛び跳ねる様に立ち上がると、トリオールの首を抱いたまま、小隊が休憩をしていた場所へと急ぐのだった。



 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

異世界と地球がダンジョンで繋がった ー異世界転移者の私ー

黒木夏
ファンタジー
2040年の初春、突如として地球上の主要都市に謎のダンジョンが出現した。 その特異性は明らかで、人口密集地を中心に出現し、未開の地には一切現れないという法則性を帯びていた。 人々は恐怖に震えつつも、未知なる存在に対する好奇心を抑えきれなかった。 異世界転移した最強の主人公のほのぼのライフ

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

処理中です...