PARADOX=世界の真相を巡る旅に始まり終焉へと帰結する、数多の矛盾と真実で紡がれる物語

小鉢 龍(こばち りゅう)

文字の大きさ
43 / 46
1話:森の都の外套技師

面白い眼

しおりを挟む
 シドとネオンは、リンクタウンに入った時とは逆方向となる南の門から出発しようとしていた。リンクタウンには持ち出し不可能な植物などもある為、出発の際にも関所の検問を通過する必要があった。

「・・・・・・聞いたか? 例の殺し屋が今までこの街に居たって話だぞ?」
「なんだよそれ、騎士団の警備はザルなのか?」

 シドは検問の列に並びながら、ルーザのメモを取り出していた。

「学術都市ワトソン・クリック・・・・・・ワトソン、クリックどこかで」

 その都市の名前の由来は、ある学問における功績を遺した学者2名の名前になっている。記憶の消失以後ゴミ溜めから出ていないシドは、その名に触れる機会は限られている。

「何の本だったかな・・・・・・学者だよな?」

 シドは必死に積まれた書籍から記憶を辿ろうとするが、思い出すことはなかった。ゴミ溜めに廃棄されている本はそこまで多くはなく、加えてシドの興味を引くテーマの物ともなれば更に数は限られる。その為、一度拾った書籍は複数回目を通すことになる。そうした上で記憶に留まらなかったということは、そこまで関心をもつ内容では無かったのだろうと早々に断じる。

「リンの服気に入ったみたいだな」

 シドはネオンにそう話しかけた。ネオンは無言で、少しだけ目を細める。

 それから程なくして、シドとネオンの検問は終わり、2人はリンクタウンの外に足を踏み出した。道は3つに分かれておりただ地名を書いた木板が、そのおおよその方向を指しているだけの簡易的な案内板が分かれ道の中央に立っている。その案内板の下に2人の人影があり、シドはその2人が自分達を意識していることに気付き無意識にネオンのフードを頭に被せた。

 ゆっくりと進んでいく。案内板の下にいる2人に動きはないが、シドはその姿に見覚えがあった。数日前に検問の列に並んでいた時に、門の先から現れた女性と、その執事の様な男性だ。

「リンクタウンは楽しめましたか?」

 すれ違いざまに凛とした声が小さく、でも確かにはっきりと響く。シドは立ち止まり、顔だけをイセリアに向ける。セバスチャンが威嚇とも取れる怒気を発しようとしたのを、イセリアは手で制した。

「ええ、とても」
「そうですか。この先の道のりは危険な場所も少なくありません、どうぞお気を付けて」

 シドは何か違和感を感じてイセリアのことを見つめていた。そして、コートを着ていて分かりずらかったが、その女性の左の肩から先が無いことに気付く。イセリアはそう言うと、リンクタウンに引き返し歩き始める。セバスチャンも無言でその後を追った。

「何だったんだ?」

 シドがそう零して、顔を前に向けようとした瞬間。

「つかぬことを聞くが、『黒涙』という言葉に何か心あたりはあるかな?」

 皮膚がひりつく様な、研ぎ澄まされた刃物の様な威圧感が背後から自分に向けられている。

「どうした、お嬢様の問いに心して答えたまえ」

 シドはゆっくりと後ろに身体を向けてイセリアとセバスチャンを見る。

ですか? リンクタウンのピツァーの生地は絶品でしたよ」

 シドの答えを聞いて、イセリアはふと笑った。その瞬間に、全身に食い込む棘のような威圧感が消えた。

「そうか、参考にしよう。では、失礼するよ」

 イセリアはそれきり何をするでもなく、本当に門の内へと消えていった。セバスチャンは不服そうにシドを睨みつけていたが、主人の意向に背くつもりはないようでイセリアの後を追って消えていった。

 シドは2人の姿が見えなくなると、足早に歩き出した。ネオンは小走りでついていく。いつも大きく安心感のあるシドの手がじっとりと汗ばみ、小刻みに震えていた。

「お嬢様、あれで良かったのですか?」
「良かったとは?」
「たまたま『黒涙』と例の医師を見かけたというのに、拘束もせず」

 イセリアはコートを脱いで、セバスチャンに預ける。二翼の正十字が朝日に照らされている。セバスチャンは受け取ったコートを皺がつかないように丁寧に畳んで、自分の左腕にかける。

「良いじゃないか。実際に会えたことで足取りは掴めたし、次の目的地も推測できる。封衣を手にいれたことで拘束も容易になり、何も我々でなくても何時でも拘束することはできる」
「ですが、あの力は『スティグマ』や『商会』も目を付けているはずですし、ハイリの動向も気になります。私はここで捨て置くべきではなかったと思います」
「そうかもしれないね。だが、私はあの医師を気に入ってしまったのだよ。覚悟と、それに乖背する感情・・・・・・実に面白い眼をしていた」
「また、あなたはそんなことで・・・・・・」

 セバスチャンは額に手を当てている。その姿を見て、イセリアは少し悪戯な表情を見せていた。

「それに今回は恩義に報いたが、もし彼らが騎士団や世界に害をなすことがあれば、その時はーー
私が直々に、聖剣の錆にしてくれよう」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

異世界と地球がダンジョンで繋がった ー異世界転移者の私ー

黒木夏
ファンタジー
2040年の初春、突如として地球上の主要都市に謎のダンジョンが出現した。 その特異性は明らかで、人口密集地を中心に出現し、未開の地には一切現れないという法則性を帯びていた。 人々は恐怖に震えつつも、未知なる存在に対する好奇心を抑えきれなかった。 異世界転移した最強の主人公のほのぼのライフ

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

処理中です...