PARADOX=世界の真相を巡る旅に始まり終焉へと帰結する、数多の矛盾と真実で紡がれる物語

小鉢 龍(こばち りゅう)

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2話:スティグマの尖兵

動き出す聖痕

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 岩肌と地面が剥き出しになった大きな空間に、似つかわしくないアンティークの机と椅子が6つ。発した声がわずかに反響する程度には狭く、6人が密談を交わす場としてはあまりに大きい容量をした祠の様だった。

「止まっていた時が動き始めた・・・・・・
その深淵の色は世界を覆い尽くし、我が君と再びまみえる瞬間は近づいている」

 口元を覆い隠す髭、右半分の顔を隠す様に歪に伸びた前髪、わずかにウェーブしたその色の髪は背中まで伸びている。心もとない一本の蝋燭が、その奇妙な席を照らしている。お互いの顔も視認できない暗さの中で、言葉を重ねていた。

「かつて世界を混沌に誘った、多瞳孔の王」
「その色に愛され、その色を愛した我らが君」
「真に我々が覗くべき深淵」

 それぞれの言葉ではあったが、一様に一つのものについて恍惚を孕ませる声で謳う。それは憧れや信頼という概念を超越した感情によってのみ発せられる狂気を含む声だった。

「それなのに・・・・・・ああ、我が君よ御労しい」

 一瞬にして緊張感が空間を支配した。それは長髪に髭を蓄えた男から発せられた殺意に他ならず、闇に紛れていたそれぞれに同行させていたブレイグルが、主人を守る為に一部能力を解放する程のものだった。

よ、鎮まれ」
「・・・・・・ん? 私に命令したのか? 私に何かを命じることができるのは我が君、唯1人・・・・・・死ぬか虐殺狂よ?」
「ふん、案山子の若造が・・・・・・やってみろい」

 武装した2人が、椅子を破壊するほどの勢いで飛び出し闘いを始める。それを合図に、その場を支配していた緊張の糸が切れた。

「かー、結局いつも通りじゃないっすかあ。せっかく『重瞳の王』の復活が近づいてるってのに爺様2人はいつも通りじゃれ合ってるだけ、マジだる、帰りてー」
「ダルいのは貴様の喋り方じゃ。5柱いつはしら
「あ? 女装ジジイが舐めた口聞いてんじゃねえぞ、3柱みはしら

 口を開けば一触即発の空気。祠の中には先に飛び出した2人の闘う音が木霊し続けている。

「ーー全員、少し黙れ」

 その時、蝋燭の火が激しく揺れたかと思うと、ふっと消えた。椅子に座っていた者達の首下では何か黒い刃の様なものが薄皮一枚を突き破りながら、停止していた。5柱と呼ばれた男は「怖い怖い」 と言いながら、両手を挙げ、3柱は顔を醜く歪めながら湧き上がる感情を抑えている。

「ところで、我ら『聖痕6柱』の集会に何故席が欠けているのだ?」
「6柱か・・・・・・知らねぇよ、だからあんなガキに柱は務まらねぇって言ったっしょ。頭固い老いぼれ集団なんだから、若人の金言に耳かせっつの」
「貴様も大概ガキじゃないかえ。それに金言じゃと? 貴様のは只の戯言じゃ」
「あ?」
「ーー五月蠅い、囀るな。6柱むはしら・・・・・・圧搾狂か」

 スティグマを統括する6人は、一人を除いてそれぞれにの持つ罪の名前を冠して呼ばれている。無法者が寄り集った烏合の衆に過ぎないスティグマが衆として存在できているのは、抜きんでた戦闘力を誇る6人が暴力支配を見事に成しえていることに他ならない。

「あれに目的が遂行できるとは思えないが・・・・・・」
「くしざーーおっと、2柱ふたはしらは、まさかアイツが不敗の兵器如きに敗れると思ってらっしゃるんですかぁ?」
「勘違いするな。私が心配しているのは、またターゲットを死に至らしめるなどという愚行を犯さぬかということだ。連れ帰ったものの、になりました、などと笑えもせん冗談だ」

 2柱の言葉に、それを否定する言葉は続かなかった。その言葉を発したのは、十分に運動を満喫して帰ってきた髭の男だった。

「あれには難があるがブレイグルは優秀だ、問題はなかろう。それにしても、くかか、老いたな虐殺狂」
「はいはい、4柱よはしら支柱つかはしらももう良いじゃろう? 6柱は先走ったが、既にサンジャミツヤクは破棄された」
「これからは、『悠久の騎士団』も『キャラバン』も我らスティグマも入り乱れる合戦の時代」
「真に『黒涙』を手にした者がーー世界を治める」

 スティグマは決して群れることはない。ただ一つの悲願に向かう道中を共にしているだけの烏合の衆。故に協力はしない。故に邪魔もしない。それぞれの狂気を以て目的を遂行するべく散った。

「さあ、世界は漸く廻り始めたぞ。感じているのだろう? 世界の秘事を分け合った我が親友、シリウス王、そして」

 誰も居なくなった祠に笑い声がいつまでも響いていた。
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