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27◇聖女を起こす前に茶をしますかぁ?◇
しおりを挟むガラスの柩の中には、ベールで顔を被った女性が横たわっている。
この女性が私の知る、日奈子なら今すぐ叩き起こして、再会を喜び合いたい。
だが、オーフェン様の言葉にそれは躊躇われた。
「――――――そのために、ヒナは眠って生き永らえているのだから・・・・・・
ヒナは、異世界特有の病に侵されているんだよ。」
その言葉を告げるオーフェン様の顔は、静かだった。
異世界特有の、病?
「えっ、どういう・・・なに、病って?」
聖女って、癒しの力とかって怪我でも病気でもチートな魔力で簡単に治せるんじゃないの?
それに、この世界で暮らしだしてもう3年以上経ってる中で聞いた聖女の伝承はすごかったはず。
魔物の瘴気に冒された町を一つ丸々浄化したり、長年病気で寝込んでいた人を治療したりは当たり前で戦いで欠損した体の部位を修復させたり、魔物に襲われたトラウマになるほど傷ついた子供の心を優しく癒して正常に直したり・・・それこそ、本当に小説で読んでいたような内容が聞けば聞くほど出てきてすごいなぁって思ったものだ。
それが、なんで?
聖女が病に侵されている?
それも、異世界特有の?
って、どんな病気なの?
「ヒナは、新たな聖女を待ちわび眠りにつきました。いつか目覚めるその日まで・・・
さぁ早く、ヒナの願いを叶えてください。」
オーフェン様の急かす声に、棺の中の女性とオーフェンに視線を彷徨わせる。
「・・・日奈子」
私が日奈子の名前を口にした時、オーフェン様の顔が歪んだ。
辛そうにも苦々しそうにも見える表情?だが、それよりも一瞬、垣間見えた顔に驚き言葉を失った。
一瞬で鋭く射るような視線が、私を矢のように刺した。
驚きと共に、なぜそんな敵を射るような視線を向けられたのか分からなかった。
不吉な言葉にもだが、彼からの視線に前へ踏み出そうとした足が動かなくなる。
「お祖父様、そんなに射殺しそうな顔をしたらお祖母様を起こすことなんてできませんよ。
彼女は、何も事情を知らないんです。
例え、死神だとお祖父様が思っていてもね。」
ウィルフレッド様は穏やかに、穏やかじゃない言葉を紡ぐ。
「えっ、どういうことよっ!」
「なんだと?!」
それにいち早く反応を返したのは、見守っていたフィオナさんとアシュトンさんだった。
私を、死神と・・・?
それと、日奈子を起こすことと聖女の話と、どう繋がっているの?
大体、攻略本やスマホを見れるだけで聖女認定とか、おかしい。何よりも、日奈子の名前に制約をかけているとか、意味が分からない。
現に、日奈子の名前なんて何度も私は口にしている。
あれ?でも、他の人は?
そういえば、マーリンとか討伐の仲間だったのに、日奈子のことを誰もが『聖女』としか言っていない?
ゲームでも仲間になれば、呼び名が親密度で変わっていたような・・・?その辺は定かでないけど、日奈子が聖女として魔王討伐をしたのなら、聞いた話ではもう50年以上前のはず。それだけの年月、共にいる人たちが日奈子のことを他人行儀に『聖女』なんて呼ぶかしら?
私が聖女だという話も、納得できない。
私は、物語のように召喚されたわけではないのだから・・・
「ああ、そうだったこれは僕ら家族しか知らない話だったね。」
「はぁ?だから、何の話よ!」
フィオナさんは、相手が王子様だというのに臆することなく、というよりヒューバートさんたちに対するのと変わらない態度で突進して詰める。
アシュトンさんは、いつの間には私の傍に来て、動けずにいる私の手を引っ張って棺に近づいた歩み分だけ引き戻され守るように肩を抱かれた。
「まぁまぁ、私の話を聞きなさい。
・・・・・・お祖父様、少し時間をください。彼女に説明をきちんとした方がいいと思いますよ。
任せて貰えますか?」
間近で迫るフィオナさんに両手を立てて制しながら緩く笑うウィルフレッド様が首を廻らせオーフェン様に進言する。
オーフェン様の一瞬見せた視線の鋭さからアシュトンさんに引っ張られ肩を抱かれるように守られていた。
その私をさっきの視線は嘘だったかのように、もう辛そうに歪ませた顔も跡形もなく穏やかなおじ様の顔でいる。本当にさっきのあの鋭さは何だったのか。
「では、ウィルに任せるとしよう。私はもう少しヒナの傍に居たいから話なら外でしておくれ。」
そういうと、こちらに背を向けると棺のそばに座り込んでしまった。
少し見える横顔は、愛おしそうに棺の中に視線を向けていた。この空間には二人しかいないかのような、こちらを気にされることはなかった。
「さて、母上。お祖父さまの許可ももらいましたし、少し外に出てきます。」
「ちょと、ウィルっ!」
女王様も頷いたのを見て、私のほうへ足を向けるウィルフレッド様にフィオナさんが腕を掴んで止める。
「離してもらえるか?」
「ッ!なっ!」
フィオナさんの静止に今までの穏やかな声から一転、低く冷たい声に抗議の声を出しながらも手が離れた。
掴まれたことで皺が寄ったらしい袖を手で慣らしてこちらに視線を向け目が合うとニコッと、所謂王子様スマイルを浮かべる。だが、作られた笑顔であると、流石の私でもわかる。
アシュトンさんのするキラキラスマイルとは違って、見られることを計算された、完璧に見える微笑み。いつもアシュトンさんから向けられる笑顔を知らなければ、コロリと見惚れそうな綺麗な微笑みだった。
「さあ、アイリ嬢。」
差し出された手の平から、有無を言わさない圧を感じるのは気のせいだろうか。アシュトンさんに肩を抱かれてぬくもりがあるはずのなのに、背筋がブルっと悪寒がする。
「ウィル、俺たちも一緒に」
「アシュたちは、ダメだよ。これは、王家の秘密もあるんだから。
聖女であろう、彼女にしか話せないことだ。君らも、別室で待っているように。」
ぎゅっと、私の肩を抱くアシュトンさんの指に力が込められた。それが、離れるのを嫌がって守られているようで心がじわりと安心する。
いつの間にかジェフさんもヒューバートさんもそばにいた。
フィオナさんも、心配そうに私を見ている。目が合った瞬間「大丈夫?」と唇が声がなくても動いて分かった。それに、小さく頷くと肩に置かれたアシュトンさんの手にそっと触れる。大きくて、硬い皮膚の手にいつも助けてもらっていた。
でも、そろそろ人を頼ったばかりなのは、やめないといけない。
王子の話が、王家にまつわる話で、聖女にしか聞かせられないというのなら彼らに同席してもらうことはできない。
彼らの親しそうな仲を見ても、ダメなものはダメだし、いつまでも誰かに付いてもらわないと一人で話も聞けないようでは、一人立ちなんて遠い。
きちんと、聞くかどうかも含めて自分で判断しないと・・・
「ありがとうございます。大丈夫です。
まずはさっきから、私が新たな聖女と言われている話から説明をいただけますか?
そちらの話というのは、それから聞くかどうかを判断します。」
アシュトンさんの腕の中から、一歩抜け出してそう胸を張って声が震えないように言う。
手を外されたアシュトンさんは、驚きの顔をして私に何か言いたげに気を遣うような視線を向ける。ほかのみんなも同じようであったけど、ただ一人王子だけは違った。
大きく目を見開き、じわじわと何かが広がるように唇に弧を描き笑みを浮かべた。
それは、面白いといいたげな笑みで、さっきまで浮かべていた王子様スマイルとは違った、人間らしい内面が滲み出た笑みだった。
「ああ、きちんと君の質問にはすべて答えよう。
最高のお茶を用意して、私のお茶会へご招待しよう。」
浮かべたその笑みのまま、今度はどこかおどけたようなしぐさで再度手を差し出されたのだ。
そして、今度は別の意味で怖いが挑むようにその手のひらに手を乗せて招待に応じた。
~◇~◇~◇~◇~◇~◇~◇~
その頃
「キャーッ、マナちゃんかわいい」
「やっぱり女の子は、何着せてもかわいいわぁ」
「こちらのリボンを付けてみましょう」
キラキラ金髪のお姉様方二人によって着せ替えごっこで遊ばれているマナ。
アシュトンの姉二人は、美しきの既婚で子持ちの貴婦人であったが、子供はすべて息子。しかも、幼少より冒険者になるためと辺境の屈強な騎士達に揉まれて育ったため可愛らしさがないと最近二人は不満だった。
「マナちゃん、キラキラすきぃ」
そんな不満の渦中、お人形のようにかわいらしい幼児を預けられた二人は、お城の侍女たちと仕舞い込まれていた子供服を引っ張り出して『マナちゃん着せ替えごっこ』で時間を潰していた。
先日よりお姫様ブームが始まったマナちゃんもご機嫌。
只今のマナちゃんのスタイルは、幼女らしくツインテールをレースのリボンで結び、フワリと膨らんだロココ調のピンクのドレスでぴょんぴょん跳ねて喜んでいます。
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「幼女定番のビンクドレスとツインテールは、最強よねぇ」
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