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30◇ちょっと時を戻しましょうかぁ?◇
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聖女ヒナコは、持っていた書物と手のひらサイズの板のようなものを使い、魔王の封印に必要な知識をこちらに惜しげもなく授けてくれた。
まずは、討伐に重要な戦力なのだがこれはこちらから幾人か候補を挙げていたがほぼその通りとなった。違ったのは、あの見習い神官ととある貴族家で監禁されていた膨大な魔力を持った少年だった。
彼女の進言で、とある貴族家を捜索した。そして、発見されたのは、地下牢の中で転がされてた骸骨のような少年。
彼は、その貴族家の正当な実子であるにも関わらず、生まれた時から魔力が多く周りの人々を気絶させるほど強かった。母親は出産と同時に亡くなってしまい、それも彼がもつ膨大な魔力のせいであると思われたため、家族から疎まれ地下牢で捨て置かれるようになった。乳飲み子である赤子など、放っておけば数日と持たず死ぬだろうと思われてたにもかかわらず、どういったわけか死することなく発見されるまで生きていたのだ。
そのころには、家族は彼を魔物だと思っており、だが強い魔力に中てられ近寄ることができなかったのだ。
耐性をもった魔術師と共にその地下室に入ったのは聖女だった。
彼女自らの手で助け出し、手当てをして傍にいて魔力を抑え、操作を教えた。
彼女は、異世界から来たにも関わらず、不思議と魔力操作が上手かった。
そうして、みるみる元気になった少年は、数か月で背も伸びて肉が付き急成長をした。
聖女曰く、彼は今までは、体の成長を最低限で生き延びるために無意識に魔力を栄養として生きてきた。それが助け出され、まともな食事の栄養で今まで止めていた成長を解放したのだという。
元気になった少年は、名前はコリーと神殿で名付けられ保護された。のちに、魔術師団長のもとに養子となった。
件の貴族家からは、彼に対しては絶縁が突きつけられていたが、もとより返すつもりなどなかった。
少年は、元気になると聖女の後ろを雛鳥のようについて回った。
彼女が食事をすれば傍で一緒に食べ、この世界のことを学ぶ授業も一緒に受け、流石に入浴や寝室まで一緒ではなかったがそのぎりぎりまでついて回った。
勿論、魔術の訓練も一緒に行った。
魔術訓練は、魔術師団長が請け負ったが、伯爵令嬢のマーリンが手本として一緒に訓練をすることになった。
マーリンは、17歳の聖女より1つ年上の同世代の同性で、話しやすいだろうという理由から推挙された。
だが、私は一抹の不安があった。
何せ、マーリンは気位が高く、酷く負けず嫌いなのだ。
魔術師団の副団長の娘のマーリンは、伯爵令嬢ながら魔術師団に籍を置いている。
しかも、魔獣討伐にも参加して隊を纏めるほどの腕前を持つ。
幼少から魔術に精通しており、繊細な操作のいる移転や探査魔術から大胆に大地を大きく抉るような強大な攻撃魔術まで彼女はありとあらゆる魔術を使いこなせる。
本人も魔術に関しては、魔術師団長と同等の使い手だと自負している。実際に魔術師団に籍を置いてから、負け知らず連勝の女神とまで言われるようになっていた。
そんな彼女は、貴族令嬢の気位と相まって気性の激しさは有名だった。
訓練の際、偶々一瞬の隙で負けたことが一度ある。
彼女は、人との対戦で負けたことがない。その彼女が、偶々足元の泥濘に足を取られて詠唱が遅れて負けを期したことがあった。
たった一度だ。その一度で彼女は、魔術師演習場を半壊するほど暴れたのだ。
その後、再試合をして勝利を収めた事で怒りはおさまったが、再試合をした相手は連勝の女神に唯一土をつけたというだけで全治2か月の大怪我を負う羽目になったのは、災難としか言いようがなかった。
そのマーリンと一緒に訓練など、どうなるのかと思っていたら驚くほど聖女は、マーリンと上手くやっていた。
魔術については、言うところなしのマーリンだが、性格面は難が多かった。
ご令嬢仲間とのお茶会では、乱闘騒ぎを起こし、小さな嫌味に相手の家の秘密の醜聞を平気でくちにするなどひどかった。
だが誰もが、マーリンの魔術の強さに口を噤んでいたのだ。
魔物が闊歩するご時世だ、いつ何時彼女が率いる隊に助けてもらうかわからない。
魔術の腕の前では、性格の難など些末なことと、誰もが注意をしていなかった。
だが、それを聖女は、マーリンの尊敬するところと直した方がいいところを上手に伝えた。最初こそは、機嫌を悪くしていたマーリンだが、擦れていないコリーからも言われて何か思うところがあったのだろう。徐々にではあったが、刺々しかった性格が柔くなっていた。
そうしてくると、聖女の成長も早く、同時にコリーも戦力としてなりえるほどの力を備えるようになっていた。
この3人の仲は特別で。魔王討伐では、3人で仲良く話し込んでいるほどになっていた。
そのほとんどが、魔術の連携についてだが笑い声さえも聞こえてくるときもあった。
思い起こせば、カーラやアドルフのことも、最初から詳しく知っていた。
聞けば答えてくれていたが、持っていた書物にはこれらのことが書かれていたのだという。
それもあってか、魔王討伐の旅は順調で泣き言一つ言わない、魔物との戦いが終わればヘラヘラと笑っていた。
魔王討伐に必要なアイテムを集めると言って、古代遺跡に眠るガラクタのようなものを探し回ったり、タイミングよく湧きでた見たこともない魔獣が街を襲うところに出くわしたり、すべて書物に書いてあったらしい。
その書物は、聖女ヒナコしか読むことができなかった。
書いてある文字は、この世界のものでなく地図なども書いてあったようだがそこは私たちの目には黒く塗り潰されているようで見ることができなかった。
ヒナコの言う通りに進めば、ガラクタと思っていたものは、古代竜の鱗から作られた防具だったり、今は失われた伝説の鉱物で作られた聖剣だったりした。それらは、魔王に対抗できる唯一の武器と防具だった。
何もないと思われた森に向かうと、誰も知らなかった精霊王に出会い、全員が祝福されたり。さらには何故か気に入られたクレイが、特別な結界のスキルを貰った。
聖女の寄り道で、一番の収穫はなんと言っても遥か昔に国を守護していた神獣だ。実は魔王によって操られていて、町を襲うところだった。聖女の助言により、私の王族の血によって正常化させ新たに旅の戦力に加わったりなど、誰も知らなかった真実が次々ヒナコによってもたらされた、きっと彼女のもつ書物は、神からの予言の書なのだろうと私は結論付けた。
これなら魔王討伐は、楽なものだと思い込んでいた。
そんなわけ、あるはずがないのに・・・
聖女ヒナコのおかげで順調に魔王の根城に近づき翌日には、いよいよ魔王城につくという日だった。
「明日には、魔王の元につく、か・・・」
「いよいよかぁ」
それは夕食の後の寛いだ時間だった。
アーサーが薪に木をくべながら、どこか遠くに呟く声を漏らした。
それにアドルフは、クレイが調合した薬草茶をしかめっ面で飲み干して吐き出す息とともに感慨深い声で同調する。。
「そうね・・・なんだかここまで順調すぎて怖いくらいだわ・・・」
マーリンも揺らめく薪の炎から目を離さず、いつになくまじめな声で答える。
この3人の心中は複雑だろう。
魔王が現れる前から魔物が大量に発生して、ここ数十年世界中は混乱の極みだった。
さらには、魔女と魔王の登場に、魔物や魔獣をいくら討伐しても増える一方。人の体を殺し乗っ取っられるなど人智を超えた恐ろしい魔王と魔女の侵攻は世界中は恐慌に陥り、人類の滅網まで覚悟したほどだ。
アドルフもマーリンも、成人してから戦場に駆り出され魔物を相手にしてきた。アーサーの領地は、魔獣によっていくつもの村が襲われ戦った。そこでの戦列は、言わずもがな熾烈を極め、仲間の死を何度も経験したことだろう。
斯く言う私も、13歳になると国内だけだが討伐に何度も向っている。
私の立場上、前線に立つことはないがそれでも、王族が戦場に立つことで戦士たちの士気は上がる。
本来なら、第一王子なる私は、後継としてそのような場所に立つ必要はない。
だが、私は王太子ではない。
私の母は、幼いころに亡くなり今の王妃は当時の側妃だった伯爵令嬢。第二王子と第一王女を生んでおり権力も持っている。
亡くなった母は、魔物討伐で功績をあげた辺境伯の令嬢だった。
前王妃だった母は中央貴族に支持基盤は弱く、亡くなってしまえば私の王座継承の話は頓挫した。
父上は、国を守ることに精いっぱいで王位争いなど視界にも入れないほど興味を持っていなかった。
私が王位を得るためには、力を示す必要があった。
幸いに私の側近は、辺境伯の縁者が多く魔物討伐のための力と知識を授けてくれた。
だが、その側近たちも討伐で帰らぬ人となった。
もし、この聖女召還をもっと早くに行っていたなら大切な人が守れたのではなかったのか?
そんな考えが頭をもたげる。
亡くなった側近は、部下であり、教師であり、剣の師匠であり、友人であった。
彼が願ったのは魔王を倒して、平和になった世で私が王になることだった。
そのために、この聖女召喚の代表責任者となった。半年遅く生まれた第二王子も候補に挙がっていたが、代表は討伐に同行するということに難色を示した王妃が止めに入り、私がその座を得た。
この討伐出立前、王座の間に呼ばれた聖女以外のメンバーは、王から激励と共にかけられた言葉があった。
『何があっても聖女を生かして帰るように。失敗しても、命に代えても聖女だけは守り抜け』
聖女は世界の希望。だから、失敗することよりも、聖女の死によって世界中にもたらす混乱のほうが重大で、聖女さえ生きているなら何度でも魔王に戦いを挑めるということだ。
当たり前のことを言われているようで、私にはとても冷たい一言だった。
父は、私が死んでもいいと言っているようなものだったから。
魔物討伐に出ても、私は戦いながら守られていた。
その俺が、聖女を守って死ねと言われた。
王族なら言われることがない一言だ。
私が死んでも王位を継ぐ者はいる。
だから、死んでもかまわない。だが、聖女は一人しかいない。また召喚できるとは限らないのだから、その通りだが・・・
あの時ほど、己の存在意義を強く示したいと、見返してやりたいと思ったことはなかった。
それも、魔王との戦いで報われる。
聖女の言う通り戦えば、今までのように魔王に勝てるのではないかと安楽な考えもあった。
「・・・順調?」
だが、そんな俺たちの考えを炎の揺らめきのような声が破る。
「本当にそう思っているのか?」
普段はヒナコに構われて鬱陶しそうにしかめっ面、無口なクレイが俺たちを見渡して声を上げる。その声は少年らしく私たちより少し高いが、偶にしか話さない内容は重みがあった。
神官の簡易な法衣のせいもあって、その言葉に誰もが耳を傾ける。
「・・・・・・ヒナコのことを誰も見ていないんだな」
私たちが誰もそれに答えずいると、フイっとその場から離れてこちらに背を向けてテントに入っていった。
俺たちの考えを読んだようなクレイの言葉に誰も何も言えない。
実際、思っていたよりも時間はかかっているがここまでの魔物との戦いも順調で特別、危機に瀕したこともない。むしろ、聖女が現れる前の討伐のほうが何度も命の危機を感じた。それに比べると今の状態は、順調といっておかしくない。
だが・・・・・・、何か、見落としている?
「ねぁ、ヒナコは、どうしているのかなぁ・・・・」
考え込む私にコリーの小さな声が引き戻す。
ヒナコは、眠るまでに少しの時間をいつも一人で過ごす。
明日のことを確認したいからという理由から。
あの予言の書も『スマホ』という道具も私たちは誰も見ることができない。何度か、それを見ながら声をかけられたがわからないことだらけだった。
そして、いつしかヒナコはクレイが張った結界の中ならという制限付きで、一人で過ごすようになった。神獣付きで・・・
そういえば、いつもならもう戻っている時間なのに今日は長いな。
「・・・私が見てこよう」
そう言いおいて、席を立ちあがった。
アドルフとマーリンはクレイの言葉に考え込んでいたが、コリーはにこっと笑って送り出してくれた。
コリーは最初、ヒナコ以外になかなか心を開かなかったが、マーリンやクレイに心を開けば、旅立つ頃には私にも素直に笑いかえるようになっていた。彼の何も含まない笑顔は、戦い荒んだ私たちの癒しだった。
私は野営地から離れると、神獣の気配を探した。
私の血で王家の守りに戻った神獣は、私の血でつながっており遠くからでも探すことができる。今は神獣はヒナコのそばにいる。
その気配を辿って森に少し入れば、木にもたれるようにカーラがいた。
「殿下・・・」
カーラは、ヒナコの護衛騎士を担っている。騎士家系の生まれ堅苦しい騎士らしい礼をとることをいつも忘れない。
それを、手で制して数歩先に進めば大きな木の根元に座り込んで俯くヒナコがいた。
「・・・っく、愛李ぃ・・・ヒック、ぅ、・・・こわいよぉ」
声をかけようと、一歩踏み出したとき微かに届いた掠れた声。それは明らかなに濡れた声だった。
「どうしようぉ、・・・・・・合ってるのかなぁ。これでいいの?・・・愛李ぃ、助けてよぉ」
俯いた顔は、青白い光に照らされてる。最初に暗闇に浮かぶその姿を見た時は、誰もが恐怖したがそれが『スマホ』なる神具からの光だと今なら理解できている。
スマホには、ヒナコしか読めない情報とシャシンという本物そっくりの絵画がはいっているらしい。絵画は、動く絵もあり最初に見た時は驚いた。
ヒナコがいつもシャシンを見せては、アイリという人物を嬉しそうに話して聞かせてくれていた。
今、ヒナコが泣きぬれて出した声にそのアイリなる名前もあった。
そして、怖いとも・・・
「いつも、ですよ。」
動けず立ち止まった私の傍にカーラがいた。ヒナコに聞こえないような、小さな声で話すのは、一切知らなかった知ろうともしなかったことだ。
「ああやって、毎晩不安と戦っていらっしゃいます。
私が行くと泣くのをやめて強がるので、隠れて見守っていますが・・・、日に日にお辛そうで・・・」
私たちは、ヒナコにこの世界を託した。
だから、ヒナコの言葉に従い旅をしてきたが、本来、ヒナコはこの世界のことを知らないはずだ。
だが私たちは、順調に進み過ぎていることに安堵して、ヒナコの気持ちを慮ることを忘れていた。
いくら、聖女だからと言ってもヒナコは、本人は戦ったことなどないと言っていたではないか。
魔物を初めて見た時は、確かに怯えていたではないか。
それを叱咤して、慰めたのは私だ。
あれから、ヒナコのそんな姿を見ていない。
「この世界でヒナコ様に寄り添える人はいないようで・・・」
いつも一人孤独と重圧に耐えてるヒナコをいつも見ているカーラは、自責を強く含んだ声で責める。
魔王討伐の全責任者は私だ。
聖女が魔王を御した後は、私が娶り王太子に立つことが決まっている。
そのためにも、聖女の心も繋ぎとめるようにと私だけに王は命じていた。
だが・・・・・・
魔王城を目前に、一人恐怖に耐える彼女を支えていたのは、『スマホ』に映るこの世界にはいない親友だけだった。
~◇~◇~◇~◇~◇~◇~◇~
「キャーッ!!これよ、これっ!!!」
「懐かしい~。王女様も子供時に着ていたのよねぇ」
「あとは、この帽子なんだけど・・・」
お姉様方の目の前には、白いタイツを履き、上着は大きなフリルをあしらった白い襟と大きく膨らんだパフスリーブの付いた青色の騎士服擬き。
摸擬剣ではあるが、腰にはベルトに通した剣がちゃっかり付いている。
お姉様の手には、大きなリボンが特徴の黄色い帽子があったのだが帽子嫌いで機嫌を損ねたばかり。
「こえ、かわいくない・・・」
更には、かわいいお姫様ブームのマナちゃんの琴線には一切触れる箇所がなくつまんなそう。
「やっぱり、ムリかしらぁ」
手に持った帽子のリボンをついついいじって諦めきれないお姉様。
「聖女様が異世界の「マンガ」なるものの、お衣装だって作らせたのよね。」
「そうそう、男装麗人っていうらしいわよ。懐かしいわねぇ、私たちも、一回ずつ着たけどこの足がね・・・」
「でも、あの時は───」
マナちゃんそっちのけで、思い出話に花が咲きだすお姉様たち。
「ママ・・・」
マナちゃん、ちょっと限界が近い?
お外を見れば、お姉様たちのお子様たちが庭を駆け回っています。
マナちゃんもその輪に加わりたくって、ウズウズ・・・
さて、次の試着はご機嫌にできるかなぁ?
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