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31◇ゲームのその後は世知辛いですかぁ?◇
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思いの外長くなりました。
オーフェンside最後です。
いや~、年を取ると話が長くなりまして・・・
スイマセン、蛇足が多いんですよね・・・
読んでもらえると嬉しいです。
※病気に関して出てきますが、作者は医療関係者でないので詳しくありません。全て、ファンタージーな世界観でお読みください。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
オーフェンside
その3日後、私たちは無事魔王を封印することが出来た。
しかし、その戦いは熾烈を極め、やはり聖女の力なくして魔王討伐など無理だったと自覚させられた。
魔王城の魔王の待ち構える場所までもかなりの手間がかかった。
いくつもの罠と、行きてを塞ぎ現れる強力な魔物たち。
それらを協力し合い倒してやっとたどり着いた魔王は、人外と分かるような禍々しいほどの美しい男の姿をしていた。
何故か、ヒナコが大興奮して「ヤンデレカクシキャラキター」と叫んできたが、なんの魔術詠唱だったのか、いまだに不明だ。
その魔王に撓垂れかかっているのは、ピンク髪の魔女。
面立ちは、人外美人の魔王の隣にいることでどこかぼんやりとして印象に残らなかった。だが身に着けているドレスは、足の付け根までスリットが大きく入っており白い太ももが見えるような妖艶な姿だった。
魔王との戦いは今までの戦闘が嘘のように苦戦した。
連携した一斉攻撃、間髪入れない波状攻撃など様々な手法を取り攻撃をしても、与えるダメージよりもこちらの受けるダメージの方が大きかった。
それでも、クレイの強力な結界とヒナコの治療魔法で体制を整え直すことができ、対等の戦いができていた。
だが、それは魔女が行動を起こすまでの話。魔女は長引く戦闘に苛立ちを覚え、禁術を用いて魔王を暗黒竜化させてしまった。
暗黒竜となった魔王は自我を失っており、大きな翼で竜巻を起こして城の屋根を吹き飛ばし、堅い鱗と凶悪な棘のついた大きなしっぽで床を破壊し、鋭い牙の口からは炎火を吹いた。
敵味方関係なく、仕掛けられる攻撃は、先が読めず避けるだけで精一杯だった。
一瞬の隙が死に繋がるような熾烈な戦いは、ヒナコの掛け声で終わりを迎えた。
「アーサー!今よ!!!!!」
ヒナコの持つ、神具『スマホ』から眩い光が放たれ、目くらましの間にアーサーが聖剣で魔王の紅い瞳を切り裂いた。
魔王の力は、その赤い瞳に宿るのだと言う。
竜となった魔王の口からは、声ともつかない絶叫が響き渡り苦しみだした。
その間も、ヒナコの手からスマホの光は絶えず放たれ続け、竜はもだえ苦しみながらその姿を石と化した。
完全に石となって光はゆっくり収まり、魔王は封印された。
魔王が封印された瞬間、空が晴れ渡り眩しい太陽が姿をはっきりと現し、雨上がりでもないのに虹がかかった。
その光景は、世界中で見られ、魔王が封印されたことを周知された。
だが、残念なことに魔女は暴れた竜の混乱に交えて姿を消してしまった。
とはいえ、戦いで魔力を消耗し魔王を竜に変異させるなどという禁術を使った代償は大きいとヒナコは安全を請け負った。今頃は、身動きができないくらいに魔力を枯渇しているだろうという。
実際にあれほど溢れていた、魔女の魔力を探査魔法を用いて探ったがその欠片さえも辿ることができなかった。
そうして、世界の救世主となった私たちは、魔力と体力の回復を待って帰還した。
私は帰城の前夜、ヒナコにプロポーズをした。
仲間の見守る前で定番通りだが、
「
私と一緒に歩んでいってほしい」
と・・・
そう、希い口にした。
ヒナコも、私の言葉に顔を赤らめながら「はい」と頷いてくれた。
その時の私の胸に広がった思いは、
─────安堵だった。
私は予定どおり、それからすぐ王太子となった。
◇
私たちは、世界を救った英雄として世界中から称賛され、歩む道々で人々の喝采を浴びた。
さらに、それぞれ報奨を頂き、新たに得た地位を与えられた。
だが、魔王が封印されて大きな脅威は消えたが、魔物がいなくなったわけではない。
数も減り、力も弱くなったが傷ついた土地では、復興と討伐が同時進行で行われ忙しい日々を過ごすことになった。
旅のメンバー全員が、各地に散り散りに広がり、支援に一軍を率いて遠征をする中、ヒナコは神殿で民の病気や怪我の治療を行い、その合間に王族に嫁ぐ教育を行われていた。
異世界から来たヒナコは、知識が豊富で勉学の教育はスムーズに進んだがマナーに関しては難航したが、様々な横槍や妨害に会いながらも、私たちは魔王討伐から2年後、結婚した。
結婚するまでも、結婚して夫婦になってからも様々なことがあったが、時間と共にお互いを信頼し、そして愛し合うようになった。
結婚5年で、待望の子供が生まれたときは、柄にもなく歓喜した。
生まれたのは王女だったが、わが国では女性も王位に立てることから不満はなかった。
寧ろ、ヒナコ似よく似た愛らしい容貌に嬉しさのあまり構いすぎて5の年を数えるころには、私を笑顔で冷たくあしらう、私によく似た性格の子に成長していた。
結婚10年目の時に、ヒナコに欲しいものを聞いたときに返ってきたのは、愛情だと言われた。
その時になって、初めて私はヒナコに「愛している」の一言を言っていなかったことを知り真っ青になって慌てた。
出会い、旅を共にして世界を救い、婚約、結婚と苦楽を共にしてきたというのに、ただ一言『好き』という言葉さえも伝えていなかったようだ。
そのことに、本人の口から告げられるまで気が付かないなど、私らしくなく愚の行いをしていた。
最初は、義務だった。
世界を救ってもらうために、彼女のご機嫌取りのように優しくしていた。
だが、徐々に彼女の勇敢なところや知識が豊富でありながら傲慢にならず惜しみなく授け、さらには困っている人に平等に手を差し伸べるところなどに心が揺さぶられた。
誰もが、褒め称えて尊敬される、聖女ヒナコ。
だが、一緒にいることでたくさん知った。
彼女は、本当は臆病で寂しがりや・・・
魔物と戦うのは、怖いが聖女なのだからと踏ん張り頑張っていた。
その支えが、遠く離れて会うことが叶わなくなった親友の女の子だったということも私たちしか知らない。
長い付き合いで。ヒナコの心の拠り所になったと思っていたが、やはり、その親友は特別なようでことあるごとに遠くを懐かしむようにその名を口にしていた。
頼ってほしい───と、いつの間にか思うようになっていた。
それが恋の始まりだと知るのは、随分と先。
まさか、子供が出来て初めて自覚するとは思いもよらなかった。
自分の感情に鈍感にも程があると、情けなく頭を抱える、それからどうやってこの気持ちをわかって貰うか苦難の道だった。
なかなか私の愛情を義務だと勘違いして、受け入れてくれないことに焦燥感と苛立ちを覚え、結婚25年のときに『ヒナコ』という名前は、私以外が呼ぶことが出来ないように制約をかけてしまったのは、まぁ、若くもなかったが“若気の至り”だ。
募り募った愛情は、重苦しいと回りから引かれていたがそこまでしてやっとヒナコが私を本当の意味で受け入れてくれて報われた。
ヒナコから久々に、異世界の呟きを受けたが、あまり気にしないことにした。
一応、何かの為にと書きつけておいたが、聞かない方が身のためと今も思っている。
『え~っ!何でぇ?オーフェンは王道溺愛系のはずなのに、ソフトだけどヤンデレキャラ発動したの?
やだぁ~、ヤンデレは見てる分には萌えるけど、実体験はお断りだったのにぃ~~~』
ヒナコが真っ赤な顔で逃げ回るほど、楽しく構い倒して本当の相思相愛になったは、それからすぐだった。
周りからは、生ぬるい視線を浴びるほど注がれたが、今まで気が付かなかった年月と信用してもらえなかった年月を足した長さで溜まった愛情は、生ぬるいくらいの視線などで消えるようなものではなく、結婚を控えていた王女が年の離れた兄弟が今頃できるかも?と心配するほどだった。
そんな愛情いっぱいの日々は、緩やかに終焉と向かっていた。
それはいつもと変わりなく、毎朝の体調チェックをしていた時だった。
ヒナコがセルフチェックと称して広めた、魔力回遊。
自分の体を魔力が駆け巡り、体の変化をチェックするというもの。
この普及のおかげで、魔力暴走の発生が格段に減少した。魔力操作の訓練にも役立つし、魔力を体内を巡らすことで少しの不調ならそれで治ってしまうということが分かったのだ。
その日々のチェックにおいて、ヒナが微かに引っ掛かりを覚えたという。
本人ではわかりにくいということで、神官から引退して今は隠居生活を送っていたクレイに診てもらうことにしたのだが・・・何も、わからなかった。
ヒナも体調がおかしいわけでもないからと、しばらく静観することにしたのだがそれから半年、まさかの事態となった。
「・・・オーフェン、どうしよう・・・」
ヒナの誕生日の朝、目覚めると横でヒナはポロポロと涙を流していた。
私はあわてて抱き寄せ、泣きじゃくるヒナに辛抱強く途切れ途切れ話す内容を聞いた。
「ガンなの・・・、でもいくらヒールをかけても治らないのよ・・・。どうしよう、神様がもう時間がないって・・・どうしよぅ・・・」
ヒナは神の導きで召喚されて世界を救った。
帰ることのできないこの召喚を許可したのは、神である。
神は、家族や親友と離れたヒナコに召喚の後、1年に1度願いを聞いていた。
それは、ヒナコの誕生日に行われており、いくつか制約があるもののヒナコが願ったものが神から与えられてきた。
神は、元の世界へ返すことと、人体への干渉以外なら何でも願いを叶えてくれるらしい。
実際に、ヒナコが暮らすこの離宮の建物もヒナコが暮らしていた世界のものらしい。
ヒナコの暮らしていた本当の家屋は、少し違うらしいが『ニホン』らしい家なのだと言う。それ以外にも、植物や食材なんかもヒナコの誕生日の朝に現れる。ヒナコの持つスマホもそうだ。最初は神から魔王討伐の道具として使いなさいと言われたようだが、討伐後も使えるように願ったらしい。
最近は物欲が無くなったと、ものを願わなくなり、周りの人の安寧、健康と幸せを願っていた。
『本当に聖女みたいね』と言っていたが、そんなことを言わなくても誰もが彼女を聖女と認めているし、王妃としても立派に務めていると思っている。
年をとっても、そんなかわいらしことを口にするヒナコが愛おしくてしょうがなかった。
なのに・・・
何時ものように、夢で神から願いを聞かれ「みんなが末永く健康で幸せであればいい」と口にしたらしい。
その時に神から返って来た言葉がヒナコが病気に罹ってると言う宣告だった。
夢から覚めたヒナコは、自らに『ヒール』をかけたが変化は見られなかったらしい。
神、曰く。病気は、胸に出来た癌という異世界特有の、人の細胞が悪性になったものらしい。
ヒナコの持つ知識で知り得る限り癌というものの説明をされたが、この世界では聞いたことのない病気だった。
その日、慌てて侍医に診させたが聖女でさえ治せない未知の病気、病巣さえ掴むことが出来なかった。
翌日、クレイに診てもらい場所は『探索』を使い見つけられたが、治すことはできなかった。
ヒナコが聞いた神からの話では、この癌は胸からすでに体の彼方此方に転移しており、ヒナコの体を蝕んでいた。
それから、クレイを始めとした神官や魔術医師、学者が極秘に集まり治療法を探した。
禁書となっている古代文書まで読み漁り、治療の手がかり探したが類似の事柄さえ見つからず時間だけがすぎていった。
神から、宣告されて半年、ヒナコの体に癌が広がり起きることさえも儘ならず、食事も喉を通らず寝ていることが増えていった。
「オーフェン・・・、聞いて」
周りも、本人すらも覚悟を決めていた。
覚悟が出来ず、足掻いていたのは私だけだった。
「何れ、魔王の封印が解かれ蘇る日が来るの。私は、その時まで死ぬことは許されないわ。
だから──────
その日まで、眠りにつきます。」
魔力が多いものは、長寿だ。普通の魔力を持つ人族は寿命80年に対して、魔力が多いと120年くらいは生きられる。しかも、若さを保ったまま。寿命を延ばしたければ、時間通り老いればいい。若さを保って120年だ。外見を老いに任せたままなら、150年は生きられる。
過去、コリーが魔力だけで生き永らえたように、外見を取り繕わなければ魔力だけで生きることが出来る。
ヒナコは、新たな聖女が現れた時、導き手を担っているのだと言う。
眠ることで、生きる為だけに魔力が使われるだろう。病魔も少しは緩やかになるだろうと言う。
そこからは、マーリンを始めとした王宮魔術師が加わりヒナコが求める魔道具の製作に入った。異世界の空想上の道具『コールドスリープ』が見本となっているのだと言う。
その間も、起きている短い時間、出来る限りの指示を残していった。
神から教えられた、新たな聖女の特徴らしい。
・新たな聖女は、召喚ではなくこの世界の女性である
・ヒナコと同じ世界のことを知っている
・ヒナコのスマホを起動し、使用できる
・『ヒナコ』の名を制限なく口にすることが出来る
・ヒナコが使っていた、魔術の詠唱で癒しの魔術が使える
その5点だった。
ヒナコの名前を口にすることが出来るのは、その聖女が神からの加護を貰っているからだと言うが、面白くないと苦虫を噛んだ顔をした。
それに困ったように笑ったヒナコだが、そんな重大な話をするのでさえも苦しそうに息をしながらになってしまい、時間が迫っているのを痛感させられた。
それから、やっとできた眠るための魔道具。
純度の高い透明な長方形の箱。
蓋は、軽くカーブを描いている。縁にどうやって掘ったのか模様が入っているがそれは魔術式であると見れた。さらには、蓋の中央に掌よりも少し大きな魔方陣が描かれていた。
蓋は取り外して開けることができる。
中には柔らかく手触りの良い絹の敷布が敷かれていた。
頭を支える枕も置かれていて、それはまさしくガラスの棺であった。
「みんな、ありがとう」
完成の品を聖堂に運び込み設置したとき、ヒナコがそこに姿を現した。
食が減り細くなった体を、娘の王女が支えてやっと歩むことが出来る状態で入り口の扉に立っていた。
私は慌ててその体を抱き上げて、小さく私に指示を口にするヒナコに従い聖堂真ん中、ガラスの棺の傍まで連れて行った。
「もう時間がないの・・・、私は、このまま眠りにつきます。
無責任なことになってごめんなさい。
私を起こすとき、新しい聖女の魔力をこの魔方陣に流して。そうすれば、私は目覚めることが出来るから。」
そういうと、私の腕から降り棺に躊躇なく入る。
「ヒナコ・・・・」
この場で、その名を呼べるのは私だけ。『ヒナコ』という名を呼ぶとき、私はいつも喜びに満ちていた。だが、今は・・・こんな気持ちで名を呼ぶ日が来るとは思わなかった。
「・・・オーフェン、ごめんね。寝ている間、貴方の魔力が必要なの。毎日一度、この魔方陣に魔力を少しでいいから注いでね──────
あと、みんなにもごめんね、多分、起きても私は3日と生きられないかもしれない。今でも、生きているのが不思議だもの。」
そう言ってヘラっと、まるで困ったように笑うその顔は、昔よく見ていた。
今ではわかる、ヘラっと笑う時のヒナコは辛い時だ。
討伐の旅の間、よく見ていた顔。
想い合ってから、それが辛いことを我慢しているときの顔だと知った。
ヒナコのそんな顔なんてもうさせないと、愛情を注いで守って来たというのに・・・
私は、自分が不甲斐ない。
私は、魔王討伐の時も足手まといこそなっていないが特別な力もなく、婚約してもヒナコへの愛情に気が付かず辛い思いをさせてしまった。結婚してからも、王妃となってからも・・・ヒナコには苦労しかさせていない。
どうして、この世界は、救世主であるはずのヒナコに世知辛いのだ?
流れない涙が胸を締め付ける。
その日、魔物討伐のメンバーと家族に見守られてヒナコは、眠りについた。
何れ来る魔王復活に備えて・・・その時は、あと50年後かなぁと言いながら。
『ねえ、起きたらみんなおじいちゃんおばあちゃんかな?
あっ、クレイは変わらないかも、今でもおじいちゃんって感じだしっ、」
眠りにつく瞬間まで明るく話すヒナコの口を静かにさせたのは、嫉妬狂いの私のそれだった。
「起きた時も、こうして口づけで起こしてあげるよ。」
そう約束して、蓋は閉じられ魔術は施された。
◇
あれから、まだ5年しか経っていない。
あの後すぐに、聖女の病気療養を理由に私は、王女に王位を譲位した。
王子も聡明にそだっていっているし、王配との仲も良好。なによりも、王女自らが、言い出したことだ。
「お父様も、もう御年ですから隠居なさってください。」
手厳しいその言葉には、存分に愛憎が含まれていた。
私と同じで、ヒナコが何よりも大好きな娘は、ヒナコと聖堂に来る前に話していたことを教えてくれた。
『お母様が神様に、最後のお願いってさっき夢でしてしまったんですって・・・アイリさんに最後に一目合わせて少しでいいから会話をさせてくださいって。お父様が聞いたら、嫉妬されちゃうから早く眠りにつかないとね、だって』
ふんッと鼻で笑うように教えてくれる魂胆は、最後にヒナコに口づけて話を遮ったことへの報復なのだろう。
それでも、日永一日愛しい妻の傍にいられるようにしてくれる娘には深い愛情を覚える。
ウィルフレッドの話が、どのくらいかかるか・・・
まだ、もう少しだけこのままがいい様な、早く目覚めてほしいと願うような、複雑な気分だ。
でも、目覚めの口づけは私の役目。
『王子様の口づけでお姫様は目覚めるのが、地球の童話のテッパンなのよ!』
ヒナコの願いは、私が全て叶えてあげないと・・・・・・私が、ヒナコの王子様だからね。
そう、ヒナコに愛おしく目を細めた瞬間だった。
バッターンッッ!!!!!
けたたましい音共に拓く扉。脚光に見えずらいが、そこには一人の女性が肩で息をして立っていた。
「アイリッ!」
追いかけてきたウィルフレッドとアシュトン達が声をかけるが、そのシルエットの少女がさっきのアイリだと思いだした。
「っ!!!日奈子ぉぉぉぉぉ!!!!!」
そう認識した瞬間、アイリは中へ、ヒナコの棺へ名を叫びながら突進してきた。
その気迫に動くことが出来ずにいたら、アイリはまさかの行動に出たのだ。
普通なら、聖女という尊い存在にそんなことをするなど、今まで見たことも聞いたこともなかったことが、目の前で行われた。
「なにやってんのっ、アイリ!!!」
「「「やめろ!!!」」」
「・・・はっ、何をするんだ!!!っ!」
後から来たフィオナとアシュトン達の声に我に返り彼女を止めようと手を伸ばす。だが、こちらを見た彼女の強い目に動きがとまる。
彼女の手は、棺の蓋に手をかけて中を開け放っていた。
その乱暴な行動でヒナの顔に罹っていたベールがふわりと浮いて顔が露わになる。
自覚前から私の一言で、ヒナコは聖女に神聖性を持たせるために人前ではベールを被って顔半分は隠していた。
今思えば、それは私の独占欲の一つだったとおもう。
「日奈子・・・」
そのベールが外れて露わになった顔を見た、少女は懐かしむ顔をした後、こちらにまっすぐな視線を向けて微笑んだ。
「日奈子を死なせません。私が・・・・・・治します。」
その強い意思の籠った視線の笑顔。
ヒナコが覚悟を決めたあの時の表情に似ていた。
懐かしいあの時。最初に話した、帰れないと知って笑顔で前向きに話を促した、あの表情。
あの時、ヒナコを強いと思ったが違っていた。
強くないと、不安に潰されそうだから強くなっていたのだと・・・・・
彼女も、そうなのか?
~◇~◇~◇~◇~◇~◇~◇~
「見て見て、天使!!!」
「本物っ!素敵!!!」
あれから、一旦お菓子とジュースで休憩を挟んだ後、着替えたのは真っ白なレースの子供用ドレス。
丸い襟ぐりのノースリーブドレス。足首までの繊細なリバーレースで覆われたスカート。ウエストも白い幅広のオーガンジーで結ばれ後ろでリボンで結ばれている。
更には、背中。
そこには、白い羽根は付いているのだ。
「懐かしぃ、これって、女王様が結婚される時に私たちがリングガールをした時のお衣装よね?
あの時、頭に花冠を被って・・・」
「そうそう、でっ、聖女様が興奮されて羽根まで作られて・・・。
その日は、みんなに天使って言われて嬉しかったわねぇ。」
「あ~あ、わたくしの時も誰かにしてほしかったのに却下されたのよね。」
「わたくしもよ・・・、ちょうどいい年齢の女児がいなかったからって・・・。男の子でもいいのにね?」
「そ~ね~ぇ~」
お姉様方二人の視線は、窓の外。息子たちへ向けられる。
「あらっ?」
「まぁ、いつも間に?」
そうして外で遊ぶ息子たちを見ていると、そこへ駆け寄るドレスアップした幼女。いや、天使。
さっきまで、ドレスを着て褒めちぎられていたマナちゃんは、昔話に花を咲かした隙に脱走を試みて見事成功をしたのです。
「マナちゃんも、遊ぶ。い~れ~て~ぇ」
「なんだ、こいつ?」
「誰の子だ?」
訝しがるちょっとお兄さんな男とたちに遠慮なく駆け寄るマナちゃん。
「マナちゃんね、じぃじのところに来たの。」
「「だから、誰だよじぃじって」」
マナちゃん3歳になったばかり。
クレイをじぃじと呼んで、名前はまだ覚えていません。
かみ合わない会話でも、一緒に遊べるのは子供の特権。
「まぁ、いいかぁ。」
「あの木に登るぞ。」
そう言って代々、子供たちが昇っている大木を指さす男児たち。
首が痛くなるほど高い大木を見上げてポカーンと口を開くマナちゃん。
「うん、いいよ!」
マナちゃん満面の笑みで頷いて、天使ドレスで木登りを始めます。
それを見たお姉様方は、慌てて部屋から外に駆け出ますが・・・
さて、どうなりますか?
オーフェンside最後です。
いや~、年を取ると話が長くなりまして・・・
スイマセン、蛇足が多いんですよね・・・
読んでもらえると嬉しいです。
※病気に関して出てきますが、作者は医療関係者でないので詳しくありません。全て、ファンタージーな世界観でお読みください。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
オーフェンside
その3日後、私たちは無事魔王を封印することが出来た。
しかし、その戦いは熾烈を極め、やはり聖女の力なくして魔王討伐など無理だったと自覚させられた。
魔王城の魔王の待ち構える場所までもかなりの手間がかかった。
いくつもの罠と、行きてを塞ぎ現れる強力な魔物たち。
それらを協力し合い倒してやっとたどり着いた魔王は、人外と分かるような禍々しいほどの美しい男の姿をしていた。
何故か、ヒナコが大興奮して「ヤンデレカクシキャラキター」と叫んできたが、なんの魔術詠唱だったのか、いまだに不明だ。
その魔王に撓垂れかかっているのは、ピンク髪の魔女。
面立ちは、人外美人の魔王の隣にいることでどこかぼんやりとして印象に残らなかった。だが身に着けているドレスは、足の付け根までスリットが大きく入っており白い太ももが見えるような妖艶な姿だった。
魔王との戦いは今までの戦闘が嘘のように苦戦した。
連携した一斉攻撃、間髪入れない波状攻撃など様々な手法を取り攻撃をしても、与えるダメージよりもこちらの受けるダメージの方が大きかった。
それでも、クレイの強力な結界とヒナコの治療魔法で体制を整え直すことができ、対等の戦いができていた。
だが、それは魔女が行動を起こすまでの話。魔女は長引く戦闘に苛立ちを覚え、禁術を用いて魔王を暗黒竜化させてしまった。
暗黒竜となった魔王は自我を失っており、大きな翼で竜巻を起こして城の屋根を吹き飛ばし、堅い鱗と凶悪な棘のついた大きなしっぽで床を破壊し、鋭い牙の口からは炎火を吹いた。
敵味方関係なく、仕掛けられる攻撃は、先が読めず避けるだけで精一杯だった。
一瞬の隙が死に繋がるような熾烈な戦いは、ヒナコの掛け声で終わりを迎えた。
「アーサー!今よ!!!!!」
ヒナコの持つ、神具『スマホ』から眩い光が放たれ、目くらましの間にアーサーが聖剣で魔王の紅い瞳を切り裂いた。
魔王の力は、その赤い瞳に宿るのだと言う。
竜となった魔王の口からは、声ともつかない絶叫が響き渡り苦しみだした。
その間も、ヒナコの手からスマホの光は絶えず放たれ続け、竜はもだえ苦しみながらその姿を石と化した。
完全に石となって光はゆっくり収まり、魔王は封印された。
魔王が封印された瞬間、空が晴れ渡り眩しい太陽が姿をはっきりと現し、雨上がりでもないのに虹がかかった。
その光景は、世界中で見られ、魔王が封印されたことを周知された。
だが、残念なことに魔女は暴れた竜の混乱に交えて姿を消してしまった。
とはいえ、戦いで魔力を消耗し魔王を竜に変異させるなどという禁術を使った代償は大きいとヒナコは安全を請け負った。今頃は、身動きができないくらいに魔力を枯渇しているだろうという。
実際にあれほど溢れていた、魔女の魔力を探査魔法を用いて探ったがその欠片さえも辿ることができなかった。
そうして、世界の救世主となった私たちは、魔力と体力の回復を待って帰還した。
私は帰城の前夜、ヒナコにプロポーズをした。
仲間の見守る前で定番通りだが、
「
私と一緒に歩んでいってほしい」
と・・・
そう、希い口にした。
ヒナコも、私の言葉に顔を赤らめながら「はい」と頷いてくれた。
その時の私の胸に広がった思いは、
─────安堵だった。
私は予定どおり、それからすぐ王太子となった。
◇
私たちは、世界を救った英雄として世界中から称賛され、歩む道々で人々の喝采を浴びた。
さらに、それぞれ報奨を頂き、新たに得た地位を与えられた。
だが、魔王が封印されて大きな脅威は消えたが、魔物がいなくなったわけではない。
数も減り、力も弱くなったが傷ついた土地では、復興と討伐が同時進行で行われ忙しい日々を過ごすことになった。
旅のメンバー全員が、各地に散り散りに広がり、支援に一軍を率いて遠征をする中、ヒナコは神殿で民の病気や怪我の治療を行い、その合間に王族に嫁ぐ教育を行われていた。
異世界から来たヒナコは、知識が豊富で勉学の教育はスムーズに進んだがマナーに関しては難航したが、様々な横槍や妨害に会いながらも、私たちは魔王討伐から2年後、結婚した。
結婚するまでも、結婚して夫婦になってからも様々なことがあったが、時間と共にお互いを信頼し、そして愛し合うようになった。
結婚5年で、待望の子供が生まれたときは、柄にもなく歓喜した。
生まれたのは王女だったが、わが国では女性も王位に立てることから不満はなかった。
寧ろ、ヒナコ似よく似た愛らしい容貌に嬉しさのあまり構いすぎて5の年を数えるころには、私を笑顔で冷たくあしらう、私によく似た性格の子に成長していた。
結婚10年目の時に、ヒナコに欲しいものを聞いたときに返ってきたのは、愛情だと言われた。
その時になって、初めて私はヒナコに「愛している」の一言を言っていなかったことを知り真っ青になって慌てた。
出会い、旅を共にして世界を救い、婚約、結婚と苦楽を共にしてきたというのに、ただ一言『好き』という言葉さえも伝えていなかったようだ。
そのことに、本人の口から告げられるまで気が付かないなど、私らしくなく愚の行いをしていた。
最初は、義務だった。
世界を救ってもらうために、彼女のご機嫌取りのように優しくしていた。
だが、徐々に彼女の勇敢なところや知識が豊富でありながら傲慢にならず惜しみなく授け、さらには困っている人に平等に手を差し伸べるところなどに心が揺さぶられた。
誰もが、褒め称えて尊敬される、聖女ヒナコ。
だが、一緒にいることでたくさん知った。
彼女は、本当は臆病で寂しがりや・・・
魔物と戦うのは、怖いが聖女なのだからと踏ん張り頑張っていた。
その支えが、遠く離れて会うことが叶わなくなった親友の女の子だったということも私たちしか知らない。
長い付き合いで。ヒナコの心の拠り所になったと思っていたが、やはり、その親友は特別なようでことあるごとに遠くを懐かしむようにその名を口にしていた。
頼ってほしい───と、いつの間にか思うようになっていた。
それが恋の始まりだと知るのは、随分と先。
まさか、子供が出来て初めて自覚するとは思いもよらなかった。
自分の感情に鈍感にも程があると、情けなく頭を抱える、それからどうやってこの気持ちをわかって貰うか苦難の道だった。
なかなか私の愛情を義務だと勘違いして、受け入れてくれないことに焦燥感と苛立ちを覚え、結婚25年のときに『ヒナコ』という名前は、私以外が呼ぶことが出来ないように制約をかけてしまったのは、まぁ、若くもなかったが“若気の至り”だ。
募り募った愛情は、重苦しいと回りから引かれていたがそこまでしてやっとヒナコが私を本当の意味で受け入れてくれて報われた。
ヒナコから久々に、異世界の呟きを受けたが、あまり気にしないことにした。
一応、何かの為にと書きつけておいたが、聞かない方が身のためと今も思っている。
『え~っ!何でぇ?オーフェンは王道溺愛系のはずなのに、ソフトだけどヤンデレキャラ発動したの?
やだぁ~、ヤンデレは見てる分には萌えるけど、実体験はお断りだったのにぃ~~~』
ヒナコが真っ赤な顔で逃げ回るほど、楽しく構い倒して本当の相思相愛になったは、それからすぐだった。
周りからは、生ぬるい視線を浴びるほど注がれたが、今まで気が付かなかった年月と信用してもらえなかった年月を足した長さで溜まった愛情は、生ぬるいくらいの視線などで消えるようなものではなく、結婚を控えていた王女が年の離れた兄弟が今頃できるかも?と心配するほどだった。
そんな愛情いっぱいの日々は、緩やかに終焉と向かっていた。
それはいつもと変わりなく、毎朝の体調チェックをしていた時だった。
ヒナコがセルフチェックと称して広めた、魔力回遊。
自分の体を魔力が駆け巡り、体の変化をチェックするというもの。
この普及のおかげで、魔力暴走の発生が格段に減少した。魔力操作の訓練にも役立つし、魔力を体内を巡らすことで少しの不調ならそれで治ってしまうということが分かったのだ。
その日々のチェックにおいて、ヒナが微かに引っ掛かりを覚えたという。
本人ではわかりにくいということで、神官から引退して今は隠居生活を送っていたクレイに診てもらうことにしたのだが・・・何も、わからなかった。
ヒナも体調がおかしいわけでもないからと、しばらく静観することにしたのだがそれから半年、まさかの事態となった。
「・・・オーフェン、どうしよう・・・」
ヒナの誕生日の朝、目覚めると横でヒナはポロポロと涙を流していた。
私はあわてて抱き寄せ、泣きじゃくるヒナに辛抱強く途切れ途切れ話す内容を聞いた。
「ガンなの・・・、でもいくらヒールをかけても治らないのよ・・・。どうしよう、神様がもう時間がないって・・・どうしよぅ・・・」
ヒナは神の導きで召喚されて世界を救った。
帰ることのできないこの召喚を許可したのは、神である。
神は、家族や親友と離れたヒナコに召喚の後、1年に1度願いを聞いていた。
それは、ヒナコの誕生日に行われており、いくつか制約があるもののヒナコが願ったものが神から与えられてきた。
神は、元の世界へ返すことと、人体への干渉以外なら何でも願いを叶えてくれるらしい。
実際に、ヒナコが暮らすこの離宮の建物もヒナコが暮らしていた世界のものらしい。
ヒナコの暮らしていた本当の家屋は、少し違うらしいが『ニホン』らしい家なのだと言う。それ以外にも、植物や食材なんかもヒナコの誕生日の朝に現れる。ヒナコの持つスマホもそうだ。最初は神から魔王討伐の道具として使いなさいと言われたようだが、討伐後も使えるように願ったらしい。
最近は物欲が無くなったと、ものを願わなくなり、周りの人の安寧、健康と幸せを願っていた。
『本当に聖女みたいね』と言っていたが、そんなことを言わなくても誰もが彼女を聖女と認めているし、王妃としても立派に務めていると思っている。
年をとっても、そんなかわいらしことを口にするヒナコが愛おしくてしょうがなかった。
なのに・・・
何時ものように、夢で神から願いを聞かれ「みんなが末永く健康で幸せであればいい」と口にしたらしい。
その時に神から返って来た言葉がヒナコが病気に罹ってると言う宣告だった。
夢から覚めたヒナコは、自らに『ヒール』をかけたが変化は見られなかったらしい。
神、曰く。病気は、胸に出来た癌という異世界特有の、人の細胞が悪性になったものらしい。
ヒナコの持つ知識で知り得る限り癌というものの説明をされたが、この世界では聞いたことのない病気だった。
その日、慌てて侍医に診させたが聖女でさえ治せない未知の病気、病巣さえ掴むことが出来なかった。
翌日、クレイに診てもらい場所は『探索』を使い見つけられたが、治すことはできなかった。
ヒナコが聞いた神からの話では、この癌は胸からすでに体の彼方此方に転移しており、ヒナコの体を蝕んでいた。
それから、クレイを始めとした神官や魔術医師、学者が極秘に集まり治療法を探した。
禁書となっている古代文書まで読み漁り、治療の手がかり探したが類似の事柄さえ見つからず時間だけがすぎていった。
神から、宣告されて半年、ヒナコの体に癌が広がり起きることさえも儘ならず、食事も喉を通らず寝ていることが増えていった。
「オーフェン・・・、聞いて」
周りも、本人すらも覚悟を決めていた。
覚悟が出来ず、足掻いていたのは私だけだった。
「何れ、魔王の封印が解かれ蘇る日が来るの。私は、その時まで死ぬことは許されないわ。
だから──────
その日まで、眠りにつきます。」
魔力が多いものは、長寿だ。普通の魔力を持つ人族は寿命80年に対して、魔力が多いと120年くらいは生きられる。しかも、若さを保ったまま。寿命を延ばしたければ、時間通り老いればいい。若さを保って120年だ。外見を老いに任せたままなら、150年は生きられる。
過去、コリーが魔力だけで生き永らえたように、外見を取り繕わなければ魔力だけで生きることが出来る。
ヒナコは、新たな聖女が現れた時、導き手を担っているのだと言う。
眠ることで、生きる為だけに魔力が使われるだろう。病魔も少しは緩やかになるだろうと言う。
そこからは、マーリンを始めとした王宮魔術師が加わりヒナコが求める魔道具の製作に入った。異世界の空想上の道具『コールドスリープ』が見本となっているのだと言う。
その間も、起きている短い時間、出来る限りの指示を残していった。
神から教えられた、新たな聖女の特徴らしい。
・新たな聖女は、召喚ではなくこの世界の女性である
・ヒナコと同じ世界のことを知っている
・ヒナコのスマホを起動し、使用できる
・『ヒナコ』の名を制限なく口にすることが出来る
・ヒナコが使っていた、魔術の詠唱で癒しの魔術が使える
その5点だった。
ヒナコの名前を口にすることが出来るのは、その聖女が神からの加護を貰っているからだと言うが、面白くないと苦虫を噛んだ顔をした。
それに困ったように笑ったヒナコだが、そんな重大な話をするのでさえも苦しそうに息をしながらになってしまい、時間が迫っているのを痛感させられた。
それから、やっとできた眠るための魔道具。
純度の高い透明な長方形の箱。
蓋は、軽くカーブを描いている。縁にどうやって掘ったのか模様が入っているがそれは魔術式であると見れた。さらには、蓋の中央に掌よりも少し大きな魔方陣が描かれていた。
蓋は取り外して開けることができる。
中には柔らかく手触りの良い絹の敷布が敷かれていた。
頭を支える枕も置かれていて、それはまさしくガラスの棺であった。
「みんな、ありがとう」
完成の品を聖堂に運び込み設置したとき、ヒナコがそこに姿を現した。
食が減り細くなった体を、娘の王女が支えてやっと歩むことが出来る状態で入り口の扉に立っていた。
私は慌ててその体を抱き上げて、小さく私に指示を口にするヒナコに従い聖堂真ん中、ガラスの棺の傍まで連れて行った。
「もう時間がないの・・・、私は、このまま眠りにつきます。
無責任なことになってごめんなさい。
私を起こすとき、新しい聖女の魔力をこの魔方陣に流して。そうすれば、私は目覚めることが出来るから。」
そういうと、私の腕から降り棺に躊躇なく入る。
「ヒナコ・・・・」
この場で、その名を呼べるのは私だけ。『ヒナコ』という名を呼ぶとき、私はいつも喜びに満ちていた。だが、今は・・・こんな気持ちで名を呼ぶ日が来るとは思わなかった。
「・・・オーフェン、ごめんね。寝ている間、貴方の魔力が必要なの。毎日一度、この魔方陣に魔力を少しでいいから注いでね──────
あと、みんなにもごめんね、多分、起きても私は3日と生きられないかもしれない。今でも、生きているのが不思議だもの。」
そう言ってヘラっと、まるで困ったように笑うその顔は、昔よく見ていた。
今ではわかる、ヘラっと笑う時のヒナコは辛い時だ。
討伐の旅の間、よく見ていた顔。
想い合ってから、それが辛いことを我慢しているときの顔だと知った。
ヒナコのそんな顔なんてもうさせないと、愛情を注いで守って来たというのに・・・
私は、自分が不甲斐ない。
私は、魔王討伐の時も足手まといこそなっていないが特別な力もなく、婚約してもヒナコへの愛情に気が付かず辛い思いをさせてしまった。結婚してからも、王妃となってからも・・・ヒナコには苦労しかさせていない。
どうして、この世界は、救世主であるはずのヒナコに世知辛いのだ?
流れない涙が胸を締め付ける。
その日、魔物討伐のメンバーと家族に見守られてヒナコは、眠りについた。
何れ来る魔王復活に備えて・・・その時は、あと50年後かなぁと言いながら。
『ねえ、起きたらみんなおじいちゃんおばあちゃんかな?
あっ、クレイは変わらないかも、今でもおじいちゃんって感じだしっ、」
眠りにつく瞬間まで明るく話すヒナコの口を静かにさせたのは、嫉妬狂いの私のそれだった。
「起きた時も、こうして口づけで起こしてあげるよ。」
そう約束して、蓋は閉じられ魔術は施された。
◇
あれから、まだ5年しか経っていない。
あの後すぐに、聖女の病気療養を理由に私は、王女に王位を譲位した。
王子も聡明にそだっていっているし、王配との仲も良好。なによりも、王女自らが、言い出したことだ。
「お父様も、もう御年ですから隠居なさってください。」
手厳しいその言葉には、存分に愛憎が含まれていた。
私と同じで、ヒナコが何よりも大好きな娘は、ヒナコと聖堂に来る前に話していたことを教えてくれた。
『お母様が神様に、最後のお願いってさっき夢でしてしまったんですって・・・アイリさんに最後に一目合わせて少しでいいから会話をさせてくださいって。お父様が聞いたら、嫉妬されちゃうから早く眠りにつかないとね、だって』
ふんッと鼻で笑うように教えてくれる魂胆は、最後にヒナコに口づけて話を遮ったことへの報復なのだろう。
それでも、日永一日愛しい妻の傍にいられるようにしてくれる娘には深い愛情を覚える。
ウィルフレッドの話が、どのくらいかかるか・・・
まだ、もう少しだけこのままがいい様な、早く目覚めてほしいと願うような、複雑な気分だ。
でも、目覚めの口づけは私の役目。
『王子様の口づけでお姫様は目覚めるのが、地球の童話のテッパンなのよ!』
ヒナコの願いは、私が全て叶えてあげないと・・・・・・私が、ヒナコの王子様だからね。
そう、ヒナコに愛おしく目を細めた瞬間だった。
バッターンッッ!!!!!
けたたましい音共に拓く扉。脚光に見えずらいが、そこには一人の女性が肩で息をして立っていた。
「アイリッ!」
追いかけてきたウィルフレッドとアシュトン達が声をかけるが、そのシルエットの少女がさっきのアイリだと思いだした。
「っ!!!日奈子ぉぉぉぉぉ!!!!!」
そう認識した瞬間、アイリは中へ、ヒナコの棺へ名を叫びながら突進してきた。
その気迫に動くことが出来ずにいたら、アイリはまさかの行動に出たのだ。
普通なら、聖女という尊い存在にそんなことをするなど、今まで見たことも聞いたこともなかったことが、目の前で行われた。
「なにやってんのっ、アイリ!!!」
「「「やめろ!!!」」」
「・・・はっ、何をするんだ!!!っ!」
後から来たフィオナとアシュトン達の声に我に返り彼女を止めようと手を伸ばす。だが、こちらを見た彼女の強い目に動きがとまる。
彼女の手は、棺の蓋に手をかけて中を開け放っていた。
その乱暴な行動でヒナの顔に罹っていたベールがふわりと浮いて顔が露わになる。
自覚前から私の一言で、ヒナコは聖女に神聖性を持たせるために人前ではベールを被って顔半分は隠していた。
今思えば、それは私の独占欲の一つだったとおもう。
「日奈子・・・」
そのベールが外れて露わになった顔を見た、少女は懐かしむ顔をした後、こちらにまっすぐな視線を向けて微笑んだ。
「日奈子を死なせません。私が・・・・・・治します。」
その強い意思の籠った視線の笑顔。
ヒナコが覚悟を決めたあの時の表情に似ていた。
懐かしいあの時。最初に話した、帰れないと知って笑顔で前向きに話を促した、あの表情。
あの時、ヒナコを強いと思ったが違っていた。
強くないと、不安に潰されそうだから強くなっていたのだと・・・・・
彼女も、そうなのか?
~◇~◇~◇~◇~◇~◇~◇~
「見て見て、天使!!!」
「本物っ!素敵!!!」
あれから、一旦お菓子とジュースで休憩を挟んだ後、着替えたのは真っ白なレースの子供用ドレス。
丸い襟ぐりのノースリーブドレス。足首までの繊細なリバーレースで覆われたスカート。ウエストも白い幅広のオーガンジーで結ばれ後ろでリボンで結ばれている。
更には、背中。
そこには、白い羽根は付いているのだ。
「懐かしぃ、これって、女王様が結婚される時に私たちがリングガールをした時のお衣装よね?
あの時、頭に花冠を被って・・・」
「そうそう、でっ、聖女様が興奮されて羽根まで作られて・・・。
その日は、みんなに天使って言われて嬉しかったわねぇ。」
「あ~あ、わたくしの時も誰かにしてほしかったのに却下されたのよね。」
「わたくしもよ・・・、ちょうどいい年齢の女児がいなかったからって・・・。男の子でもいいのにね?」
「そ~ね~ぇ~」
お姉様方二人の視線は、窓の外。息子たちへ向けられる。
「あらっ?」
「まぁ、いつも間に?」
そうして外で遊ぶ息子たちを見ていると、そこへ駆け寄るドレスアップした幼女。いや、天使。
さっきまで、ドレスを着て褒めちぎられていたマナちゃんは、昔話に花を咲かした隙に脱走を試みて見事成功をしたのです。
「マナちゃんも、遊ぶ。い~れ~て~ぇ」
「なんだ、こいつ?」
「誰の子だ?」
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「「だから、誰だよじぃじって」」
マナちゃん3歳になったばかり。
クレイをじぃじと呼んで、名前はまだ覚えていません。
かみ合わない会話でも、一緒に遊べるのは子供の特権。
「まぁ、いいかぁ。」
「あの木に登るぞ。」
そう言って代々、子供たちが昇っている大木を指さす男児たち。
首が痛くなるほど高い大木を見上げてポカーンと口を開くマナちゃん。
「うん、いいよ!」
マナちゃん満面の笑みで頷いて、天使ドレスで木登りを始めます。
それを見たお姉様方は、慌てて部屋から外に駆け出ますが・・・
さて、どうなりますか?
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