田舎貴族の学園無双~普通にしてるだけなのに、次々と慕われることに~

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一撃

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 野営地の外を走っていると、すぐに異変に気付く。

 これは慣れ親しんだ空気感……戦いの匂いだ。

「……風の結界!」

 匂いがする方に最大の結界を伸ばし、音を拾おうとする。

「くそっ! 数が多すぎる!」

「情けないこと言うな! この先には学生達がいるのだ!」

「しかし、我々だけでは……!」

「わかってる! だが、フール殿が来るまで持ちこたえるぞ!」

 ……どうやら、広範囲で魔物が襲ってきてる?
 ここを突破されると、すぐに野営地の中にやってきてしまう。

「どうする? 勝手な真似をしていいものか」

 俺がいくら生徒の中では強くとも、実戦となれば話は別だ。
 何より、指揮系統を混乱させる恐れがある。
 その時、俺の側に見知った気配がした。

「ユウマ殿!? ……ここで何をしているのですか?」

「フールさん。いえ、少し運動をしてました。それより、魔物が襲ってきてるようですね?」

「気づいているのですね。ええ、なので野営地に入ってください。ここは、我々が何とかしますので。もしかしたら、防衛する際に手伝ってもらうことはあるかもしれないですが」

「ですが、あっちもだいぶキツそうですよ? ……俺は邪魔になりますか?」

 ここで邪魔と言うなら、大人しく防衛に回るつもりだ。
 多分、この人が野営地の中の冒険者で一番強い人だし。

「……いえ、貴方の実力は校長先生から伺っておりますので。おそらく、私でも勝てるかどうか……恥を忍んで頼んでもいいでしょうか?」

「いえいえ、まだまだ若輩者ですよ。ですが、俺でよければ好きに使ってください。ちなみに、俺の魔法なら一回きりですが敵を一掃できます」

 こういう言い方を出来る人は信頼できる。
 状況を把握した上で、プライドを捨てられる人は中々いない。

「本当に学生さんなんですかね? まったく、指揮系統には従うようにという手間が省けましたよ。では、今だけは命令をします。この先にいる魔物を倒すことにご協力をお願いします。多分、そこが一番数が多いはず。私は、右回りから魔物達を駆逐していきますので」

「わかりました、フールさんもお気をつけて」

「ユウマ殿こそ、無理はしないように」

 フールさんが走り去った後、俺は軽く伸びをする。
 これはライカさんに教わったことで、戦う前ほどリラックスするべきだと言われてきた。
 そうしないと、実力の半分も出せないとか。

「……他の箇所もあるけど、そっちは頼りになる仲間がいる。だったら、俺はまずはここを片付けるとしよう」

 足に風をまとい、その声のする方へ駆け出すのだった。




 ◇


 走ること数分後、戦いの音が聞こえてくる。

 オークにゴブリンにコボルト、更には上位種もいるみたいだ。

 何より、その数が多い……ここだけで数百体はいそう。

「ひるむなっ!」

「怪我人は下がれ!」

「は、はい!」

 ……まずは怪我人の治療が先か。
 俺は後方に固まっている人たちに近づく。

「君は……生徒じゃないか!」

「ユウマと申します。フールさんの許可を得ていますのでご安心を」

「その名前は……確か学生とは思えないと聞いていた」

「ひとまず、ここにいる方々に回復を……聖なる水よ、傷ついた者を癒したまえ——エリアヒーリング」

 青い光が彼等を包み込み、その傷を癒していく。
 回復魔法は同意じゃないから、重傷者がいなくて良かった。

「おおっ……! かたじけない!」

「これで我らも戦えます!」

「君は下がって回復に専念を!」

「いえ、ここは俺に任せてください……責任者の方はいますか!?」

 すると、すぐに銀の鎧を着た兵士さんがやってくる。
 体格も大きく、正に歴戦の騎士といった感じだ。

「私が責任者のモルグだ。まずは回復に感謝しよう。しかし、君は生徒のようだが?」

「ユウマと申します。フールさんから許可は得ていますのでご安心ください」

「君が……」

「俺の魔法で敵を一掃します。兵士達を一度下がらせていただきたい」

「……魔法の腕は校長先生から話は聞いている。わかった、お願いしよう」

「ありがとうございます。それでは、タイミングはお任せしますので」

 モルグさんが頷き、すぐに最前線に踵を返す。
 俺はその間に、目を閉じて特大の魔法を放つための準備に入る。





 ……きたかな。

 戦場の空気が変わったので目を開けると、そこには魔物達しかいなかった。

「ユウマ殿!」

「はいっ! 氷の波よ、全てを凍らせろ——アイスノヴァ」

「ギャキャ!?」

「ブルァ!?」

 俺の放った、幅数十メートルに及ぶ氷の波が魔物達を飲み込んでいく。
 徐々に外側に広がっていき……ほとんどの魔物を凍らせた。

「はぁ……はぁ……流石に全部はきついや。魔力も結構使っちゃったなぁ」

「……これは上級魔法……冒険者Aクラス級だと?」

「宮廷魔導師でも、打てる者は限られてるのに……」

「あ、後は任せて良いですか?」

「む、無論だ! 例は後で必ず!  皆の者、今のうちに殲滅するぞ!」

「「「はっ!」」

 兵士さん達が動くのを見送り、その場でひと息つく。

「さて、魔力はほとんど使ってしまったけどセリス達も心配だ」

 俺は急いで野営地へと引き返すのだった。

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