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料理人は異世界で生きていく

都市の闇

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 翌日の朝、いつものように朝食を済ませる。

 ちなみに、今日も起きるなり顔はべちゃべちゃだった。

   どうしてかって? それはハクが舐め回すからです。
  
 しかも成長が早いからか、少しずつ重くなってきた気がする。

「さて、顔も洗ったし……今日はどうするか」

「クゥン?」

「いや、ハンターギルドに新しいギルドカードを貰いにいくが……その後の予定をどうしようかと思ってな」

 昨日の夕飯の時に、家については少し待ってくれと言われた。
 もちろん、こちらが頼んでいる身なので待つつもりではいる。
   しかし、少し手持ち無沙汰なのは否めない。

「ワフッ!」

「おっ? ……その顔は散歩に行きたいのか?」

「キャウン!」

 言葉が通じたからか、ハクが嬉しそうに俺の足元にじゃれつく。
 それを見ていると、俺の方も嬉しくなってくる。

「そうだな、昨日は放っておいてしまったし。それじゃあ、ギルドに行ったら散歩に行くか」

「ワフッ!」

「ただし、それが終わったら訓練に行くぞ?  今度こそ、戦いに連れて行けるように」

「っ!? ……アオーン!」

「良し、良い子だ」

 今日の予定が決まったので、まずはハンターギルドに向かう。
 そこでコカトリスの素材と新しいカードを、ギルドマスターから直接受け取る。

「これでタツマ殿もC級ハンターだ。ここからは、こちらから依頼を頼むようなこともある。引き続き、よろしく頼む」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

「……ほんと、腰の低い男だ。俺個人としては好ましいと思うが、それでは舐められる場合もあるぞ?」

「……ええ、わかってます」

「ふむ、それなら良い」

 確かに、抑止力として力を見せておくことは悪くはないと思う。
 ただどうしても、そういう人間が好きになれない自分がいる。
 ギルドマスターの忠告を肝に銘じ、俺はハクの散歩に出かけるのだった。

「クンククーン~」

「随分とご機嫌だな?」

「ワフッ!」

 昨日離れていたのが寂しかったのかもしれない。
 どうやら、少し甘やかしすぎたか?
   しかし、愛情を注ぐことは大事だと思うし。

「うーん、この辺りの調整は難しい」

 もっと、厳しくする必要もあるか?
 強くなるためには、そういうことも必要だし。
 俺自身も、親父さんにはそういう風に育てられたから今がある。

「クゥン?」

「……可愛い奴め!」

「アオン!?」

 首を傾げてこちらを見てくるので、思わず膝をついて顔をわしゃわしゃしてしまう。
 やれやれ、厳しくするのも大変そうだ。
 その後、屋台でブルスカの串焼きを買って食べ歩く。
 こいつは豚の味がするから、一度狩りに行きたいところだ。

「美味いか?」

「ワォン!」

「そいつは良かった。そういえば、こうして二人で散歩するのは初めてか」

「クゥン?」

「ほら、案内はしてもらったけど、こうして自分達だけで歩くのは初めてだろ?」

「ワフッ!」

「そういや、まだこの世界に来て数日しか経ってないんだよなぁ」

 なんか、めちゃくちゃ濃い時間を過ごしているからそんな気がしない。
 慣れてはきたが、まだまだしらないことばかりだ。
 道を適当に歩いていると、何やら寂れた場所にやってくる。
 知らない場所で気になったので、道を進んでいくと……。

「この辺りはひと気もないし寂れているな……さて」

「ガルルッ……!」

「ああ、囲まれてる……なにか用かな?」

 視線には気づいてはいたが、害はないと思って放っておいた。
 すると建物の陰から、みすぼらしい格好をした女の子が現れた。
 その姿はやせ細っていて、思わず当時の自分を思い出してしまう。

「あ、あのぅ……」

「今だっ!」

「おっと……」

「わわっ!?」

 とっさに、後ろから襲ってきた男の子を片手で捕まえる。
 軽いので片手で持ち上がってしまう。

「なるほど、悪くない手だ。片方が引きつけ、その間にもう一人が物を盗ると」

「は、放せよっ!」

「ご、ごめんなさいっ! お兄ちゃんを殴らないで!」

 俺は女の子の方に、男の子を軽く放り投げる。
 よくよく見ると、この二人は獣人のようだ。

「あいたた……」

「これくらいで済ませてやる。ただし、次にやったらわかってるな?  あんまり、妹を悲しませるなよ?」

「う、うるさいっ! お前なんかに何がわかるんだ!? 僕たちがどれだけ食べてないかと……」

「その気持ちはわかるさ、痛いほどに。ハク、良いだろうか?」

「ワフッ!」

「ありがとうな」

 俺は彼らに近づき、膝をついて目線を合わせる。

「なんだよ? な、殴るなら僕にしろ!」

「わ、わたしが悪いのっ! お腹が空いたってお兄ちゃんに言ったから……」

「いや、殴らないさ。さっきのは教訓として少し痛い目に合わせたけどな。世の中には、もっと酷いやつらが沢山いる。ほら、これを食べると良い。ただし、取られないように今すぐに食べると良い」

 俺は口をつけてない串焼きを二人に手渡す。
 しかし、相手はおどおどして受け取ってくれない。

「へっ? ……良いんですか?」

「き、気をつけろ! 人族の男は、そうやって油断させて女の子を誘拐するって!」

 ……参ったな、警戒心が強すぎる。
 俺が困っていると、ハクが前に出てきた。
 確か獣人は意思疎通ができるとか……ここはハクに任せるとしよう。

「ガウッ! ガウッ!」

「なっ……この人は良い人だって?」

「このワンちゃんは、お腹を空いて死にそうなところを助けられたって……」

「ワフッ!」

「「………」」

 すると、二人が顔を見合わせ頷く。
   俺はハクを助けた覚えはないのだが……まあ、良いか。

「本当にいいのか?」

「た、食べてもいいの?」

「ああ、もちろんさ」

 二人が俺から串焼きを受け取り、すぐにかぶりつく。

「……はぐはぐ……うぇぇーん!」

「お、美味しい……! グスッ……」

「ゆっくりで良い。大丈夫だ、誰もとらないから」

 俺は安心させるように、二人を見守る。

 お腹が空いてる時に食べる飯の美味さは、誰よりも知っているから。

   



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