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料理人は人々と交流する

まだまだ未熟

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 その後階段が見つかり、地下三階へ降りていく。

 降りてみると、森になっていた。

「さて、ここにはテイルモンキーが出るわ。大きさは60センチほどで、尻尾だけが異常に長い魔物よ」

「モンキーか……食用ではない?」

「そうね、おすすめはしないわ。どうしても食べたいっていうなら止めないけど」

「……やめておくか」

 やはり、前世の倫理観から食べるのは憚れるし。
 犬系とか猫系も、多分無理かもしれない。

「それが良いわよ」

「強さ的にはどうなんだ? ハクは勝てるかな?」

「一対一なら問題ないわ。集団になると、少し厳しいわね」

「わかった。集団が出てきたらどうする?」

「ひとまず、私がやるわ。タツマってば、遠距離攻撃ないでしょ? あいつら、基本的に木の上にいるから」

「あぁー、そうだな。では、お願いする」

「ふふ、任せてちょうだい」

 警戒しながら歩いていると、木々がガサガサ揺れ始めた。

「くるわよ」

「ハク、俺から離れるな。今回は見るだけだ。次に戦うために、まずは敵の動きや力量を確認しろ」

「キャン!」

 十数匹の猿らしき魔物が、尻尾を器用に使い木々を渡ってくる。
     その姿は、まさしくテールという名前に相応しい。

「さてさて……全てを切り裂け——ウインドスラッシュ!」

 カルラの手から、半月形の緑の刃が飛び出す。
 それは、テイルモンキー達を真っ二つにしていく!

「おおっ、魔法だ……!」

「ふぅ、少し逃したわ。というか、魔法は見るの初めて?」

「いや、火の魔法とかは見たことあるけど風は初めてだな。そもそも、魔法を使える人が少ないし」

 アリアさんも魔法は得意じゃないし、獣人は魔法が使えない。
 俺には才能がないので使えない……実はハクが一番使えたりする。

「まあ、攻撃魔法を使える人がそもそも少ないわ。そしたら……良いもの見せてあげる」

「良いもの?」

「魔法を極めると、こういうこともできるわ」

 そう言うと、腰にある壺から弓を取り出した。
 そのまま、矢のない状態で弓を構えた。

「逃がさない……ウインドアロー!」

 すると、上空に緑の矢が放たれて落下していく。
 それらが、残りのテイルモンキーを貫いていった。

「ふぅ、久々に使ったけど……オーバーキルね」

「すごいなっ!」

「フフン、凄いでしょ? 私の魔法と武器を組み合わせたオリジナルよ。人によっては魔法剣とか、魔法槍とか使えたり」

「奥が深いな……ただ、俺には出来ないか」

「でも、魔力だけはそこそこあるでしょ?」

「そうらしい……生活魔法を大量に使えるくらいしか使い道ないけど」

 その後、テールモンキーをカルラが仕留めていく。
    たまに出てくるハウンドドッグやゴブリンは、ハクに任せて対処する。
  そして、地下四階への階段を見つけた。
       降りていくと……ハクが伏せをしてしまう。

「ハフ……」

「ハク、大丈夫か?」

「クーン……」

「疲れてるわね。無理もないわ、まだ産まれたばかりだもの」

「どうする? 俺が担いでワープがある地下五階までいくか?」

「大丈夫よ。ダンジョンで手に入る、使い捨ての脱出アイテムをもっているから。まあ、救済アイテムみたいなものね。これを一個でも持っておくことをおすすめするわ」

 確かに命を守るために必要になりそうだ。
 あと泊まるにしても、見張りとかも必要になる。
 いやはや、色々考えなくてはいけない。

「すまん、世話になってばかりだ」

「いいのよ、これが案内人の役目だし。意外と大変ということがわかれば良いし……タツマは全然平気って感じだけど」

「いや、そんなことはないさ。やはり、先達の人の教えは貴重だよ」

「そう? でも、良い心構えだわ。さて……私の肩に触れなさい、でないと置いてけぼりになるわよ?」

「わかった……これで良いか? ハクも、しっかり触れておけ」

「よし、良いわね……エスケープ!」

 すると光に包まれる……気がつくと、洞窟の入り口の近くにいた。

「もう、日が暮れてるわね。どう? 課題は見えた?」

「……まずは、ハクを鍛えなくてはいけない。最低でも、地下5階までは行けるように」

「まあ、成長早いからすぐにいけると思うわ」

「よし、ハク。まだまだ未熟だとわかったな? 明日から特訓だ……いいな?」

「ワフッ!」

 今回はハクの慢心を防ぐためにも良かった。
 自分で納得したなら、これからの鍛錬にも身が入るだろう。

「よし、決まりだな……でも、どこがいいだろう? ゴブリンでは物足りないのは確かだ」

「なら、荷物運びの依頼を受けるといいわよ。西に海があって街もあるわ。その街道には、オークなども出るし。お金も入るし、ハクも経験値積めると思うわよ?」

「ふむ、いい考えだ。ついでに、討伐依頼でも受ければ……カルラ、ありがとう」

 何より、海があるなら海産物もあるということだ。
 ……まだ見ぬ美味いものが手に入るかもしれない。

「べ、別に良いわよ。その代わり……私にも何か美味しいものを用意してね」

「もちろんさ。この礼は必ずするから待っててくれ」

「ふふ、楽しみにしてるわ」

 そうして初めてのダンジョン探索を終え、俺達は都市へ向けて帰還するのだった。
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