静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

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それぞれの未来へ

それぞれの進路

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 食事を済ませた俺は、挨拶だけをしに裏へと行く。

「こんにちは、店長」

「冬馬君、こんにちは。よく来てくれたね!」

「すみません、土曜日に来ちゃって。一応、忙しい時間帯は避けたんですけど……それに、テスト終わったのにシフト入らなくて」

「気にしないでよ~! 冬馬君が友達と来てくれるなんて初めてだから嬉しかったよ!」

「店長……ありがとうございます」

「ウンウン、青春してるって感じでいいよね。あと、シフトも気にしないでいいからね。恵美さんも仕事を覚えてきたし。あっ、もちろん冬馬君が用済みとかそういうあれではなくて!」

「店長、落ち着いて。それじゃ、逆に変に思われますよ? ふつうに言えばいいんですよ。こっちのことは気にせずに、自分のことを優先してくれて良いとか」

「あっ、友野さん。こんにちは」

「おう、高校生らしいことしてるな」

「はは、すみません。あと、色々とご迷惑を……」

 少し騒がしくしてしまった。
 色々とトッピングをサービスしてもらったのに……。

「気にするな。ほとんどノーゲスだったしな。それに、あの程度なら可愛いもんだ」

 そう言いながら、俺の頭をガシガシしてくる。

「あざっす」

「おう。ところで……ミスターコンテストで優勝したらしいな? ププッ!」

「ダメだよ! 笑っちゃ! ……ププ!」

「お二人共……パワハラで訴えますよ?」

「す、すまん。いや、しかし……良いもんだな」

 そっか、友野さんは高校生になったことがないんだ。

「ウンウン、僕もはるか昔の話だし、時代も違うから楽しかったよ」

「そもそも、どうしてきたんですか?」

「いや、詳しいことはわからないけど……恵美ちゃんから聞いてさ。なんでも、一位を取るために数がいるって」

「だから、休憩中に二人で抜け出したってわけだ」

「そうだったんですね……ありがとうございます。綾に見合う男だということを、周りの奴らに知らしめる必要があったので」

「なるほど、それは良いことだ。あんだけ可愛いと大変だろうからな」

「ウンウン! 冬馬君、かっこいいよ!」

「そ、そうですか……あざっす」




 恵美さんにも挨拶を済ませ、店を出て皆と合流する。

 恵美さんが知っていたということは……。

「啓介、ミスターコンテストのことを恵美さんに伝えたな?」

「ご、こめんね。僕でも力になれるかなって……」

「いや、ありがとう。その気持ちが嬉しいさ。しかも、それを俺に言わないところとかな?」

「へへ……そういうのって、かっこ悪いもんね?」

「おっ、わかってきたな」

「なになに? なんの話?」

「俺らにも教えろよ!」

「啓介が男前って話だ」

「わかるよ、最初の頃とは違うもんね」

「俺が声をかけても驚かなくなったしな!」

「へへ……」

 四人でそんな会話をしながら、目的地へと向かう。





 さて……意外性があったな。

「うめえな!?」

「やるな、啓介」
 
「ほんとだね、初心者とは思えないよ」

「ぼ、僕もびっくりしてるかな……ただ、ゲームではやったことあるから」

 飯を食ってる時に、どこで遊ぶかを決めたのだが……。
 まさか、ダーツが得意だとはな。
 失礼ながら、何となく下手かと思ってしまった。
 気をつけないと……よくないな、こういうのは。



 そのあとはカラオケに行き、夕方頃に解散となる。

「あぁー楽しかったな! 勉強のストレスが飛んで行ったぜ!」

「いや、マサは大してやってないでしょ?」

「お前、赤点あったろ?」

「ぐぐ……補習があるってよ。いいよなー、お前達は成績良いし」

「まあ、啓介も二十番代には入ってるしな……そういや、皆は将来は決まってるのか?」

「うーん……俺は大学に行って、経済の勉強がしたいかな」

「俺は行かないつもりだ。身体を動かす方が性に合ってるから、就職すると思うぜ」

「僕も大学かなぁ。自分の好きな趣味に携われる仕事に就きたいかなって」

「へぇ……みんな、色々考えてんだな」

「冬馬は?」

「うん?  ああ……実は、教師を目指そうかと思ってる」

「へえ! 似合うね! 面倒見いいしね」

「たしかに! 意外と熱い男だしな!」

「うんうん! 良いと思うよ! 冬馬君なら、人に寄り添える先生になれるよ!」

「お、おう……ありがとな」

 ……そっか、やっぱりみんなも考えてるんだな。

 俺も、そろそろ親父に相談でもしてみるかね。




 博とマサは別方向なので、帰りは啓介と二人になる。

「あっ——まだ、少し時間あるか?」

「えっ? う、うん、平気だけど……」

「うちに少し寄ってくれるか?」

「い、良いの!?」

「いや、誘ってるのはこっちなんだが……」

「そ、そうだよね! うん! もちろん!」

「そうか。じゃあ、このままついてきてくれ」

 一度止まり、麻里奈にラインを送っておく。

 そして自転車を走らせ、家の方向へと向かっていく。




 無事に家に到着すると……。

「お兄! お帰りなさい! あ、あの、いらっしゃいませ!」

「こ、こんばんは! お、お邪魔します」

「お前は彼氏の家に来た彼女か。ほら、さっさと上がってくれ」

「う、うん」

「もう、お兄ったら。啓介さんは、お兄みたいに図太くないんだよ」

「へいへい、そうでございやす」

「ほら! 手洗いうがいして! あっ、啓介さんもどうぞ」

「あ、ありがとうございます」

「おーい? 兄に対する態度と違い過ぎないか?」

「そ、そんなことないし! わ、わたし、お菓子とお茶用意する!」

 ドタドタという音を立てて、リビングへと向かっていく。

 ……まったく、複雑な感じ。

 まあ、どうなるかはわからないが……頭ごなしに否定だけはしないようにしよう。






 洗面所から出ると……。

「冬馬君、挨拶してもいいかな?」

「ん? ……ああ、もちろんだ」

 そのまま和室へと向かう。
 そして啓介は、一礼をしてから写真の前に座った。

「はじめまして、冬馬君のお母さん。僕の名前は田中啓介です。冬馬君、僕にとってのヒーローです。不良から助けてもらったり、狭かった僕の世界を破壊してくれて……おかげで、僕は偏見から抜け出すことができました。リア充って人たちにも、当たり前に悩みがあったり、良いことばかりではないこと。マウントを取ってくる人もいるけど、それ以上に良い人も沢山いるということを知ることができました」

「へっ……よせよ」

「へへ、たまには良いかなぁって。普段は照れ臭いけど……ありがとう、冬馬君。僕の世界を壊してくれて。もしよかったら、これからも友達でいてください」

「ばかやろ、こっちの台詞だ」

「へっ?」

「人は変われる、変わっていけるってお前が教えてくれた。偉そうなことを言いながら、俺今更変わることを恐れていた。でも、お前を見て思った。変わることに遅いことなんかないと……まあなんだ、これからもよろしくな」

「う、うん!」

「うぅー……」

「うおっ!? ……何泣いてんだ?」

「だってぇぇ……お兄が、高校の友達を初めて連れてきて……それが、全然タイプの違う人で……それでも、こうして友達になって……啓介さん、ありがとうございます!」

「い、いや! 礼をいうのは僕の方で……」

「それもありますけど……わ、わたしを助けてくれてありがとうございます」

「う、うん、大したことはできてないけどね」

「そんなけどありません! か、かっこよかったです」

「へっ? あ、ど、どうも」

「なあ、啓介……殴っても良いか?」

「えぇ!? ご、ごめんなさい!」

「もう! 何言ってんの!?」

 だって……見たことない顔してたぞ?

 あんなん、親父が見たら発狂するんじゃなかろうか?

 ……待った……今の俺には他人事ではなかった。

 やっぱり……綾のお父さんに殴られる覚悟はしておこう。

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