反逆の英雄譚~愛する幼馴染が処刑されそうだったので国を捨てることにした~

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二章

期待の新人

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 魔物、それは大陸のあちらこちらに生息する生き物である。

 様々な種類があり、人類が把握していない魔物もいるほどだ。

 主な二足歩行の魔物は、ゴブリン、オーク、オーガ、トロールなど。

 四足歩行では、ドック系、キャット系など。

 空を飛ぶのは、ワイバーンや、ドラゴンなど。

 さらには、それらに上位種というものが存在する。

 例えばだが、ゴブリンジェネラルや、ゴブリンキングといったような。

 特に、この魔の森と言われる場所は種類が多いようだ。

 大陸の南西部を占めていて、奥の方には誰も行ったことがないらしい。

「クロウ、何処行くの? そっちには魔物がいないわ」

 「いや、盗賊に勘違いされては困る。なので指揮官に参戦の許可を取らねば。あの中で一番強そうな人……アレだな」

 俺は当たりをつけ、その人物に近づいていく。
 おそらく年齢四十歳ほど、俺並みの身長に俺以上にゴツい身体。
    頭髪は黒く短め、サイドをピシッと刈り上げている。
    立ち振る舞いや佇まいからして、おそらく強いだろう。

「そこの御仁!」

「……見ない顔だな。その目は盗賊ではない……それに強い。それで、俺に何の用だ?」

 俺は敵意がないのを示すため、一度馬を降りて礼をする。

「失礼、俺の名前はクロウといいます。ここで冒険者として活動したいと思い、今たどり着いたところです。こちらの指揮官とお見受けしますが……」

「なるほど、そうか。指揮官なんて上等なもんじゃないが、まあ……まとめ役ではあるな」

「戦闘中に申し訳ない。単刀直入に言うと、参加してもよろしいか?」

 俺がそう言うと、相手の視線がカグヤに向けられる。

「だが、お前……女連れじゃないか。いや、お前自身が強いのは見ればわかるが」

「私は大丈夫だわ、クロウがいるもの」

「ああ、任せていただきたい。むしろ、強くなるくらいです」

「……まあ、いい。じゃあ、あっちに行ってくれ。トロールがいるから、新米の中には死んじまう奴もいる」

 ゴブリンは百六十センチほどの魔物で、小鬼とも呼ばれる。
 醜い見た目と、出っ張った腹が特徴的だ。
 オークは百七十センチほどの魔物で、通称ブタ人間とも言われる。
 少し太った人の身体に、豚のような顔がついている。
 そしてトロールは三メートル近い魔物で、食人鬼とも言われる。
 でかい胴体の割に短い手足、口が大きく人を丸齧りできる。
   なので……強さ習性共に危険な相手だが、俺の敵ではない。

「了解した。では、軽く蹴散らしてこよう」

「いや、軽くって……」

「まあ見ていてください。カグヤ!しっかり掴まってろ!」

俺は再び馬をまたがり、反転する。

「わかったわ!クロウ、行きなさい!」

「任せろ! 怖いなら目をつぶっていろよ!」

「怖くなんかないわ! クロウがいるもの!  守ってくれるんでしょう……?」

「当たり前だ!ハッ——蹴散らしてくれる!」

 惚れた女にそんなことを言われて、やる気が出ない男などいない。
 さて、どちらの剣を使うか……アスカロンだな。
 アロンダイトでは潰れてしまうから、カグヤの目にもよくない。
  右手にアスカロンを構え、左手でカグヤを抱き寄せる。

「きゃっ!」

「大丈夫か? すまんが、ちょっと我慢してくれ」

「う、うん……」

 そして、魔物の群れに突撃する。
 この乱戦では、魔刃剣は迂闊には使えない。
 なので、人に気を付けながら剣を振るう。

「なんだ!?  あいつは!?」

「つ、強えぇ!  新人か!?」

「ゴブリンや、オークが瞬殺されていく……」

「まるで猛獣のようだ!」

 まずは一撃を入れ、自分が味方であることをアピールする。

「訳あって助太刀する! 俺の間合いには入らないようにしてくれ! トロールは俺に任せていい!」

「わ、わかった!  聞いたなオメーら!」

「「「おうよ!!!」」」

 それだけで通じ、俺の近くから離れていく。
 状況判断が早い……流石は戦い慣れているな。

「なんだか、荒くれ者が多いわね……」

「そういう土地柄なんだろう。魔物と戦うために、礼儀とかは気にしていられないんだろうな」

「そういうことなのね」

「それにしても余裕ありそうだな?」

 こうして話している間にも、俺は魔物共を駆逐している。
 その際に血飛沫や、色々な部位が飛び散っている。
 普通なら、悲鳴をあげていてもおかしくはない。

「だって、クロウがいるもの。この左腕に包まれると安心するわ……」

    そういい、身を寄せてくる……ゴハッ、なんだこの可愛い生き物は!?

「そ、そうか!」

 いかんいかん! 今はこっちに集中!
 ……一つだけ言えることは、俺のやる気が増したということだ。

「邪魔だ!  退けぇ!」

 剣を振るい、次々とゴブリンやオークを始末していく。
    もちろん狙いは……この奥にいるトロールだ。

「助かるぜ! ニイちゃん!」

「あっ! トロールだ! トロールがきたぞぉぉぉ!」

 声の方を見ると、奥の方に確かにいた……そして、トロールが兵士に近づいていく。
    兵士は腰が引けたのか逃げきれず、その大きな手に捕まる。

「トロールに捕まったぞ!?  もうダメだ!」

「ク、クロウ! どうにかならないの!?」

「問題ない」

 トロールの近くには、あの兵士しかいない……ここだ!

「魔刃剣!」

「ガァァァァァァァア!?」

 俺が放った斬撃は、狙い違わず兵士を掴んでいたトロールの腕を傷つけた。
 そして、腕に掴まれていた兵士が解放される。
    流石はトロール、あの距離とはいえ切断は出来ないか。

「今のなんだ!?」

「斬撃が飛ぶだと!?」

 騒ぎ出す兵士を尻目に、俺は馬を走らせトロールに接近する。

「そこの人!   早く逃げろ!」

「す、すまねえ!  恩にきるぜ!」

 男が後方へ下がっていくのを確認し、改めてトロールに向き合う。
    その目は怒りに染まり、俺を見下ろしていた。

「大きいわ。ク、クロウ……大丈夫よね……?」

 俺は不安を取り除くように、左腕で優しくカグヤを包む。

「大丈夫だ、怖がらなくていい。一瞬で終わらせる……!」

「グォォォォォォ!」

 怒りに任せて、両腕の拳を振り下ろしてくる!
    その拳は土煙を上げ、地面には穴が開いていた。
   トロール痛覚も鈍く頭も悪いが、そのパワーはゴブリンやオークとは一線を画す。

「だが、俺の敵ではない——剛・魔刃剣!」

 俺は、いつもより大量の魔力を込めて剣技を放つ。
 そして、その斬撃はトロールを真っ二つにした。
 奴は自分が死んだことにも気付かずに、二つに分かれ地面に伏す。

「す、凄い……凄いわ! 本当に強くなったのね!」

「ああ。この力があれば、カグヤを守れる」

「クロウ………えへへ」

「おーい! クロウとやら!」

 すると、先程の指揮官がこちらにやってくる。

「いかがされたか?」

「助かった、もう大丈夫だから下がってくれていい。可愛いお嬢さんもいることだしな。
 しかし、トロールを一撃で……こいつは、期待の新人だな」

  その言葉を皮切りに、周りの兵士や冒険者達も声を上げる。

「うおお! あんたすげーよ!」

「あんなの見たことないぜ!」

「犠牲者なしにトロールを倒せるとは!」

 ふう……これでいいだろう。
  
 打算がなかったといえば嘘になる。

 これで、この都市に住みやすくなるはずだ。

 
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