反逆の英雄譚~愛する幼馴染が処刑されそうだったので国を捨てることにした~

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二章

街の様子

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 トロールを倒したことで、俺達は認められたようだ。

 なので、無事に都市の中に入ることが出来た。

 今は馬を預け、先程の指揮官殿に都市の中を案内してもらっている。

「さて、今更だが……俺の名前はゼトだ。冒険者でもあるが、この都市の防衛をまとめている将軍でもある」

「ゼトさんですね、わかりました。これから、よろしくお願いします」

「カグヤといいます。ゼトさん、よろしくお願いします」

 見た目は三十代後半ってところか……この若さ将軍とは、やはり実力者とみた。
 立ち振る舞いにも確固たる自信と、強者特有の空気感がある。

「こっちこそ、強い奴は大歓迎だ。ただ、金は出せないんだ。まだクロウは、冒険者登録もしていないようだしな」

 話を聞いてみると、どうやら都市の防衛に参加した冒険者には、手当が出るシステムのようだ。
 冒険者ギルドと国から同時に報酬が出る……やる気が起きないわけがないな。

「いいえ。こうして都市を案内してくれるだけで、有り難いことです」

「ほう……?  若いのに随分としっかりしているな。 よし気に入った、今日は俺が金を出そう。そもそも、部下を救ってくれたしな」

 このタイプには、遠慮はむしろ失礼になるな……。
    ここは素直に好意を受け取っておこう。

「では、お言葉に甘えさせていただきます」

「ゼトさん、ありがとうございます」

 二人で、きちんと頭を下げて礼を言う。
    すると、ゼトさんが照れ臭そうに頭をかく。

「ハハ……おふたりさん、良いカップルじゃねえか」

「にゃい!? カ、カップル!?」

「なんだ違うのか?  あ、兄妹だったか?」

「いえ、カップルです。すみません、恥ずかしがり屋さんなもので」

 カグヤが凄い勢いで俺の腕を掴んでくる。
 そして、口がパクパクしている……可愛いな、おい。

「なんだ、そういうことか。すまんな、お嬢さん」

「い、いえ、大丈夫ですわ」

「見たところ、騎士と姫ってとこか。頑張れよ、俺はそういうの好きだぜ」

「はは、ありがとうございます」

 適当にごまかし、その場を切り抜ける。
 ちなみに、カグヤはずっと俺を睨みつけていた。
 その後宿に到着し、ゼトさんは受付の人に事情を説明している。
 なので、俺とカグヤは少し離れて待つことにすした。
 すると、顔を真っ赤にしたカグヤが小声で話しかけてくる。

「クロウ……!ど、ど、どういう意味よ?」

「ああ、アレか。そういうことにしておいた方が、都合が良いと思ってな……」

「……何か考えがあってのことなのね?」

「ああ、まあな。詳しいことは部屋に入ってからにしよう」

 そう言うと、カグヤがほっと息を吐く。

「ええ、わかったわ……もう、ドキドキして損しちゃった」

「すまん、驚いたよな。事前に言っておくべきだったか」

「そういう意味じゃないんだけど……もう! 相変わらずね!」

 すると、話を終えたゼトさんが戻ってくる。

「おいおい、お二人さん。痴話喧嘩なら、部屋でやってくれや。ここは割と音漏れもしないから、色々と遠慮なくできるぜ?」

「すみません。色々と配慮していただき感謝します」

「音漏れ……! 色々……うぅー」

「クク、若いってのは良いね。何、良いってことよ。アンタは使えそうだからな。先行投資して、恩を売っておいた方が良さそうだ」

 ……ふむ、中々の当たりを引いたのかもな。
 今のところだが、気持ちの良い人物のようだ。

「では、遠慮はいりませんね。そして、いずれ返すとしましょう」

「おっ、言うねぇ。ますます気に入った。三日分は払っておいたから、あとは自分でどうにかしてくれ。ではな、また会おう」

「ええ、また。どうもありがとうございました」

「あ、ありがとうございました!」

 その後、受付の人に案内され、部屋の中に入る。
 良し……きちんとゼトさんに伝えておいて良かった。
 恥ずかしがり屋さんだからという理由で、ツインの部屋をお願いしておいたのだ。

「わぁー!思ったより、良い部屋ね!」

「ああ、これは借りが大きそうだ。まあ、有り難いことだ」

 ベッドが二つと、テーブルが一つ、椅子が二つある。
 広さも十分にあり、共同だがトイレや風呂まで付いている。

「で、さっきのはどういうことなの?」

「いや、簡単な話だ。二人でいることに違和感がない。年頃の兄妹じゃあ、そこまで一緒にいることはないかと。むしろ、部屋を分けたいだろ?」

「……確かに、お兄様とは絶対に嫌ね」

 アラン様、ご愁傷様でした……小さい頃はよく寝てたけどな。

「それはそれで可哀想だな……まあ、あとは言葉遣いや所作だな」

「どういうことかしら?」

「カグヤはどう見てもお嬢様だ。所作や言葉遣いに、それが表れている」

「まあ、そうね……クロウ以外には、出てしまいそう」

 カグヤは辺境伯令嬢にして、王妃としての教育を受けた者。
 普段の言動や行動はアレだが、しかるべき時になればきちんとしてしまうはず。

「おそらくだが、俺も平民には見えないだろう。ということで、騎士とどっかの貴族令嬢の駆け落ちということにしようかと。そうすれば、多少は怪しまれずに済むだろう。加えて助けたことで、俺らに悪感情は持たない。誰かに聞かれても、黙っていてくれる可能性が高い。ゼトさんも、そう思ったようだしな」

「だから、私はお嬢さんって呼ばれていたのね。ごめんなさい、色々考えてくれて……私は、全然気が回らなかったわ」

「別にいいんじゃないか? それぞれにできることをすれば良いと俺は思う」

「うーん、私に何ができるかしら? そもそも、私は何がしたいのかしら?」

 無理もない……今までは、王妃になるために必死に生きてきた。

「前にも言ったが、ゆっくりでいい。まずは、身体と精神を休ませることが重要だ。それから、色々なことをしてみたり、考えたりすればいい。その間、俺が側にいよう」

「私、貴方に甘えてばかり……どうしたらいいの?」

「そんな泣きそうな顔をするな。俺が好きでやっていることだ。誰にも強制されていない、俺自身が決めたことだ。ただ……カグヤには笑っていてほしい」

「それだけでいいの……? うん……わかったわ!」

 すると、明るい笑顔を見せてくれる。
 気持ちとは不思議で暗いと暗くなるし、明るくしてれば明るくなるものだ。

「ああ、それでいい。さて、流石に疲れたな……風呂に入って寝るか」

「ク、クロウが先でいいわ!」

「お、おう?  では、そうしよう」

 俺は風呂場に行き、シャワーを思いきり浴びて考える。

 「……俺の理性よ、ここからが本番だ」

   俺とて成人した普通の男。
 野営ならともかく、好きな女の子と同じ部屋はきつい。
 もちろん、無理強いをする気は毛頭ないが。

「……よし、出るか」

 気合を入れて部屋に戻ると……寝息を立てるカグヤの姿があった。

「スー、スー……」

「寝てしまったか。まあ、風呂なら明日でもいいか」

 布団もかけずに、倒れこむようにベットの上で寝ている。

「やはり、疲れていたのだろうな……寝かせてやろう」

 布団をかけてあげ、俺も寝床につく。

 果たして、好きな子が隣にいて寝られるだろうか……。

 こうして、新しい生活が始まろうとしていた。
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