反逆の英雄譚~愛する幼馴染が処刑されそうだったので国を捨てることにした~

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二章

魔の森

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 それから数日後、依頼を達成したカグヤは無事に鉄等級冒険者となった。

   その傍、俺も順調に依頼をこなしてお金を稼いだ。

お陰で、未だに紹介して貰った宿に泊まることができている。

この宿は小さい庭もあるし風呂もあるから、出来れば変えたくはない。

そんなことを考えつつ、早朝の静寂の中で素振りをひたすら行う。

「フゥ……ひとまず、こんなものか」

 もっと強くならなければ。
どんな理不尽なことからも、カグヤを守れるように。
 これからが、ある意味で本番だ。
 冒険者活動もしかり、追っ手にも注意を払わなくてはならない。

「クロウ……?   いた!」

「カグヤ、おはよう」

振り返ると、宿の中からカグヤが出てくるところだった。

「おはよう! 起きたらいないから、不安になったじゃない……」

「それはすまん。最近、稽古をサボっていたからな。良い機会だから、もう一度基本から鍛え直そうかと……今よりもっと強くなるために」

「それって私のためよね……?   私は何をすれば良いかしら?」

 俺は気にしないが、カグヤが気にしてしまうのだろう。
 さて、どうしたものか。

「そうだな……今まで学んできたことを、紙に書き出してみるとか。そして、それらがどんなことに活かせるかを考える」

「今まで学んできたこと……確かに、採取では学んでいたことが役に立ったわね……わかった! 朝ご飯まで部屋で勉強してくる!」

 そう言い、宿の中に戻っていった。
その顔からは、不安や焦りは少し消えていた。

「……良かった、少しずつ元気が出てきたか。やはり、カグヤには笑っていてほしいからな。そのためなら、俺はどんな苦労も厭わない」

 さて、続きをするとしよう。
 次は型の稽古を始める。
 上段からの振り下ろし、そこからの逆袈裟。
 下段からの振り上げ、振り下ろし。
 最後は二本の剣を持ち、剣の勢いと体重移動により、流れるように剣を振るう。
そのまま三十分ほど稽古をした後、人々が起き出し活動し始める。

「さて、目立つのはあれだし風呂入って汗を流すか」

 部屋に戻ると、カグヤが真剣な表情で机に向かっていた。
 俺に気づいていないようなので、俺は黙って風呂に入る。
   そして、ささっと風呂から出る。

「フゥ……スッキリしたな」

「クロウ? ……キャァァァァァ!?」

「なんだ!?  曲者か!?」

俺は咄嗟に無手で扉の方に向いて構えを取る。
しかし、そこには何もいなかった。

「なんだ、何もないじゃないか」

「曲者はアンタよ!?  な、なんで上半身裸なのよ!?」

「いや、なんでって……風呂に入ったからだよ。それに、別に下は履いてるだろ」

「いつよ!?  私、知らない! いいから上も着て! これからはそうして!」

「そうか……配慮が足りなかったな。嫌な思いをさせて、すまない」

 しまったな……まだ、戦場での暮らしの癖が抜けないようだ。
   鍛錬の後は、いつもこの格好だったし。
 カグヤは女の子だからな、気をつけなくては。

「ち、違うの! 嫌じゃないの! あの、えっと、ああもう——クロウのバカ~!」

「おい! 待てって! 着るから! 一人でどっかに行くんじゃなーい!」

 俺は慌てて着替え、カグヤを追いかけるのだった……。
その後、宿の入り口でオロオロしていたカグヤを捕まえ、そのまま食事をとることにする。 
しかし、ガクヤはぶすっとしたまま不機嫌な様子だ。
  
「悪かったよ。ほら、これあげるから。目玉焼き好きだったろ?」

「好きじゃないし! こ、子供じゃないもん!」

「あれ? 違ったっけ? 昔、よくぶんどられた記憶があるんだが……まあ、好みも変わるか」

「……別に食べないなんて言ってないわよ」

そして、俺の分の目玉焼きを食べるのだった。
食事を済ませたら、どうにか機嫌を直したカグヤと共に、ギルドへ入る。

「さて……カグヤ」

「どうしたの?」

「今日から、本格的に稼ぐことにする。なので、魔の森に入ろうかと思う。必ず守り抜くから、一緒に来てくれるか? 流石に、カグヤを一人にしてはおけない」

「わ、わかったわ。私も出来るだけ頑張るから」

「ああ、無理はしなくていい」

 話がまとまつたので、二人で掲示板を眺める。

「私は薬草系と、果物のリンゴやバナナを採ってきて、それを配達する……うん、これならできそう」

「俺は……オーク五匹、ゴブリン十匹、レッドウルフが三匹、ウォターキャットが一匹、最後はレッサードラゴンか……よし、これくらいにしておくか」

「随分たくさんね……大丈夫、無理してない?  ド、ドラゴンって強いんでしょ?」

カグヤが少し不安そうに言った。
確かにドラゴンというのは、普通の人にとっては恐怖の対象だ。

「安心しろ、これくらいなら余裕だ。カグヤこそ、平気か?」

「そ、そうなのね。ちょっとドラゴンが怖いなって思っただけ……」

「大丈夫だ、下位のドラゴンなど俺の敵ではない。カグヤは安心して、俺に身を預けてくれ」

「身を預ける……!  いざという時は任せるわ……私、全然わかんないだから」

 カグヤは何故だかわからないが、両手で頬を押さえてモジモジしている。
   どちらにしろ、不安を取り除かなくては。

「任せておけ、俺は熟練者だ」

「えぇ!?  そうだったの!? クロウは経験済みなの? ……うぅー……」

「……なんの話だ? ドラゴンなら退治したことあるが」

「そ、そうよね! ドラゴンの話よね! ……行くわよ!」

 ……よくわからん。
 依頼を受けたらカグヤを連れて、都市を出発する。
 馬に乗り、魔の森に向かっていると、カグヤが話しかけてくる。

「クロウ、ご、ごめんなさい……」

「ん? ああ……さっきから様子が変なことか。気にするな、昔からよくあったことだ」

「何よ! 余裕こいちゃって!」

「おい!? 背中を叩くなって!」

 そして、一時間かけて魔の森に到着した。
   いつものように馬を預けたら最終確認をする。

「さて、カグヤ。ここからは、何があっても俺から離れるなよ?」

「わ、わかったわ!」

「よし……行くか」

 警戒をしつつ、二人で魔の森に入っていく。 
   カグヤはあちこちの草を見て、楽しそうに採取している。

「あっ、これとこれ……えっと、こっちがあれかな?」

 きっと自分にできることがあり、嬉しいのだと思う。
 話を聞くと、自由のない生活を強いられていたようだし。
 カグヤが楽しく安心して過ごせるように、俺が全てのものを蹴散らすとしよう。

「言ってるそばから来たか……カグヤ、敵がくるから側に」

「うん!」

 事前の打ち合わせ通りに、カグヤが俺の側に来る。
  すると、林の向こうから次々と魔物達がやってきた。

「ギャキャ!」

「ブヒー!」

「ゴブリン十匹以上に、オークが八匹か。さすがは魔の森……まあ、多い分には問題ない」

 依頼書は、後から報告でもいいらしい。
   なので、こいつらは全部倒すことにしよう。

「た、たくさんいるわ……」

「安心しろ、しっかり掴まってろよ?」

「う、うん!」

 俺は左腕でカグヤを抱き寄せ、右手でアスカロンを構える。
 すると、魔物達が一斉に動き出す!

「カグヤに近づく奴は容赦しない」

「ゲヒー!?」

「ブヒャー!?」

 アスカロンを振るい、ゴブリンやオークを一撃のもとに始末していく。
   この程度なら本気を出すまでもない。

 「あ、あっという間に……相変わらず凄いわね」

「ゴブリンやオーク程度なら、百匹以上いても問題ない」

「でも、あの魔刃剣ってやつは使わないの?」

「アレは中々の魔力を消費するからな。こんな序盤で使っては、魔力切れになってしまう。それにこう木々が多いと、威力も落ちるしな」

「魔力……魔力供給……私にも出来ることあったかも?」

「ん? どうし……すまん、失礼する!」

「きゃあ!?」

 承諾を得る前に、カグヤを抱えてその場から跳躍する!
 すると今まで俺達がいた場所に、大型の猫のような生き物が襲いかかってきた。
   どうやら、木の上から奇襲をしてきたようだ。
   水色の皮膚をしているので、こいつがウォーターキャットで間違いない。
 
「シャァァァァァ!」

「……少しはやりそうだな」

 鋼等級の魔物とはいえ、初めて戦う魔物だ。

   俺は無敵ではないし、カグヤを守らなければならない。

 ……さて、油断せずに戦うとしよう。
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