反逆の英雄譚~愛する幼馴染が処刑されそうだったので国を捨てることにした~

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二章

守るためには

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 さて……まずは、相手の様子を見るとしよう。
   
    どんなに力の差があろうと、負ける時は負ける。

    俺の後ろには、カグヤがいる……確実な勝利を。

「ク、クロウ……」

「大丈夫だ、敵ではない。ただ初めての魔物だ……様子を見る」

 奴から視線を逸らさずにいると——何かくる。
   すると奴の口から、連続して水の玉が吐き出される!

「ゴパァァ!」

「名前の通りか……」

「きゃ!?」

 カグヤを抱えて、その場から跳躍する。
 そして、水の玉が木にぶつかり……木がへし折れる。

「うわぁ……木が折れちゃったわ」

「ふむ……当たった瞬間に弾ける性質を持っていて、威力はかなりある。当たれば、吹き飛ぶか何処かしらに怪我を負うだろう。速さもそれなり……流石は魔の森の魔物か」

「クロウ! また来るわ!」

 カグヤの言う通り、奴が口を開けて撃つ態勢に入る。
 おそらく、俺が避けたことでこれが効くと思ったのだろう。

「ゴパァァ!」

「はっ!」

 迫り来る水の玉を、剣で全てを叩き斬る。
    切った時、かなりの重さを感じた。

「シャー!?」

 奴は戸惑い、オロオロしている。
 避けると思ったのに、俺が打ち消したからだろう。
 ならば、ここで仕留める!

「魔刃剣!」

「ゲヒャー!?」

 胴体を真っ二つにされ、奴が生き絶える。

「鋼等級の魔物か……やはり、雑魚ではないな」

「そ、それに魔法みたいのを使ってきたわ」

「そうだな……そういえば、カグヤは攻撃魔法は覚えなかったのか?  それとも、覚えられなかったのか?」

「私は覚えられなかったわ。特別、覚えたいとも思わなかったのだけれど……今は覚えたいと思う。そしたら、少しはクロウの助けになれるのに」

 俺がカグヤを守りたいという想いを、本人に押し付けてはいけない。
 カグヤがしたいなら、それを手助けするのも俺の役目であろう。

「……わかった。カグヤが戦う術を学びたいなら、俺は協力を惜しまない。俺に守られるだけでは、カグヤは嫌なのだろう?」

「そ、そうなの! もちろん、クロウみたいに強くはなれないけど……でも、そうしないと私は……クロウに対して一歩も踏み出せないから」

「そうか……わかった。では、帰ったら話し合うとしよう」

「クロウ……ありがとう!」

 その後、周囲を警戒しながら魔物を魔法袋に入れる。
 やはり便利だな……耳を切り取るのを、後回しにできるのは大きい。

「よし、進むとしよう」

「うん!」

 少し吹っ切れた表情になった。
 やはり俺に頼るばかりで、それを気にしていたようだ。
 俺のエゴで、カグヤを籠の鳥にすることだけはしてはいけない。
 その後も、出てくる魔物を始末しながら進んでいく。

「そろそろ、引き返した方がいいかもしれん」

「もう、そんな時間?」

「体感的に、お昼ぐらいにはなっているはず……いきなり頑張りすぎても良くないしな」

 すると、カグヤが何かに気づいたようだ。
 近くにある木に近づき、何やら観察をしている。

「これは確か……この木にリンゴがあるはずだわ!」

「そうなのか……俺には違いがわからん」

 俺には、同じような木々が並んでいるように見える。

「ほら!この葉っぱの色見て! 他のより緑が薄いわ!」

「……言われてみれば、たしかに。すごいな、カグヤ」

「エヘヘ、クロウに褒められた……嬉しい」

 可愛い……今なら、ドラゴンすら瞬殺できそうだ。

「さて、なら俺の出番か……ハァ!」

 木に向かい、正拳突きを放つ。
 バサバサという音と共に、上からりんごがいくつも降ってくる。

「わー! すごい! すごい! りんごがいっぱいあるわ!」

「これだけあれば沢山食べられるな」

「私、アップルパイ作るわ」

「アップルパイか……懐かしいな」

 それは生前の母上が良く作ってくれた思い出の食べ物だ。
 良くカグヤと一緒に食べていた。

「うん、懐かしい……」

「ただ、作れるのか?」

「むっ……作れるわよ……多分」

 指摘すると、口をもごもごさせる。
 これは中々に怪しいぞ。

「まあ、カグヤが作ったのならどんなものでも食べるさ」

「なんか、まるで酷いものしか作らないみたいじゃない!」

「おいおい、泥団子を食わせようとしたのは誰だ? そもそも、食い物ですらない」

「あ、あれはおままごとだもん!」

 そんな懐かしい話をしていると、無粋な輩が現れる。
 ズシーン、ズシーンと、大きな足音が聞こえてきた。
 おそらく、木が揺れる音を感じ取ったのだろう。

「なにかくるの?」

「そうみたいだな。カグヤ、回収は後にするぞ」

「う、うん!」

 再び、カグヤを左腕に収める。
    すると、森の奥からその生き物が正体を現す。
 どうやら、大物が釣れたようだ。
 
「来たか……」

「ク、クロウ……あ、あれがドラゴン……!」

 現れたのは、二メートルを超えるドラゴン。
 赤い皮膚をまとい、二足歩行で歩いてくる。
 爪は鋭く、牙も強靭、長い尻尾。
 そして翼がない……これがレッサードラゴンだ。

「まあ、俺にとってはただのトカゲだな」

「グァァ——!」

「きゃっ!?  こ、怖い……!」

 カグヤは、俺の腰にしがみ付き震えている。
    俺にとってはトカゲであっても、カグヤにとってはそうではない。
    ドラゴンの鳴き声には、生物を恐怖させる力がある。

「お前の様子見はやめだ——カグヤを怖がらせるとは万死に値する」

「ブハァ!!」

 奴から、幅一メートルほどの火の玉が放たれる!

「ク、クロウ!」

「トカゲごときが——十字魔刃剣!」

 魔力を込めたアスカロンを水平に振る、そしてそのまま腕を上げて上段から振り下ろす。
 一つ目の斬撃に二つ目が追いつき十字になり、火の玉ごと奴を十字に切り裂く!

「グゲェ!?」

 やつは四分割に切り裂かれ、徐《おもむろ》に地に伏せる。
    ドラゴンの生命力が高いとはいえ、これでは生きてはいまい。

「なに今の!?  色々な技があるのね!」

「まあな。戦う場所や相手、状況によって使い分けなくてはいけない。でないと、臨機応変な対応ができないからだ」

「クロウは凄いわね! 褒めてあげる!」

「お、おう……」

   急に頭を撫でられて、どうしていいのかわからない。
 なんだか、むず痒い……とりあえず、一生懸命に背伸びをしているカグヤは可愛い。

「クロウ、照れてる……エヘヘ」

「なんだかなぁ……ほら、そろそろ引き返すぞ」

「でも、他にも依頼あったわよね?」

「鋼等級最上位であるレッサードラゴンがいるということは、結構奥まで来ている。それより弱い奴や、バナナは最初の方にあるだろう。別のルートから引き返して、運が良ければ見つかるだろう」

「あっ、そういうことね」

 その後引き返しつつ、俺は依頼の魔物を仕留めていく。
    するとカグヤが、森の入り口付近でバナナが生っているのを発見する。

「あっ!こんな近くに……見逃してたわ」

「仕方あるまい、俺らはまだまだ素人だ。とりあえず、一度都市に戻ろう。ファイアウルフは、明日以降でも平気だ。流石に昼抜きは腹が減る」

「そうか……そうなると、お弁当みたいのも必要ね」

「幸い、魔法袋がある。行きに何か買って、それを入れておけばいい」

「ふんふん、私でも出来そうだわ……」

「ん? なにをするんだ?」

「フフーン……秘密よ!」

 なにやら、ご機嫌のようで何よりだ。
 その後、都市に戻ると……とある光景が目に入る。
 それを見て、カグヤが俺の服を引っ張る。

「クロウ!  みてみて! ウルフ系の魔物が都市の中を歩いているわ!」

「ああ、あれは……そうか、そういう手もあるか」

「どういうこと?」

「あの国にはほとんど存在していなかったから、知らないのも無理はない。あれは、主従契約を結んだ魔物だ。魔力の紐を繋いで、あちらが認めたなら契約が成立する」

「なんでクロウは知ってるの?」

「ザラス王国では、割と盛んなはず。たまに戦場に出てきたが、テイマーっていうらしい。この国は魔の森に面しているから、盛んなのかもしれないな」

「それは、どんな魔物でも良いの?」

「いや……ある程度の知能がないと無理だったはず。こちらの言葉を理解して、実行できるくらいには」

 とりあえず、今回のことで実感した。

 カグヤを抱えながらでは、この先の強敵に苦戦するだろう。

 そもそも、カグヤの身体が俺の動きについていけまい。

 魔力を使った技をカグヤに教えてみるのは決まりだとして……従魔か。

 これは、カグヤを守る良い術を見つけたかもしれない。
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