反逆の英雄譚~愛する幼馴染が処刑されそうだったので国を捨てることにした~

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三章

カグヤの特訓

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 自主練を終えたが、まだ日が暮れるまで時間はある。

 なので、少し特訓をしようと思う。

    俺は、ハクの背中に寄りかかり休憩をしているカグヤに視線を向ける。

「カグヤ、魔力を放つ練習をしよう」

「うん?クロウみたいに?」

 カグヤは首を傾げている……可愛い。
 ハクも真似している……なんか、不思議と可愛く見えてきた。

「ゴホン……そうだ。俺までとはいかなくても、ある程度なら出来るはずだ。魔力があり、先入観がない。エリゼのことも、よく知っている。ならば、最低条件は満たしている」

「あの魔力の弾みたいなやつ……よく、クロウは追いかけられていたわ。たまにくらってたけど……アハハ!  思い出しちゃった!」

「笑い事じゃない。 何度死ぬかと思ったか……あの人、俺には容赦ないし」

 エリゼの魔力による指弾は、壁を貫通する威力がある。
 俺はそれを時に避け、時に弾き、時に食らっていた。
 ……よく、生きていたものだ。

「でも、エリゼは言ってたわよ?  クロウがどんどん避けたり、同じ魔力で応戦したりするから楽しかったって」

「俺は楽しくない……まあ、感謝はしているが。ともかく、エリゼは徒手空拳の使い手だから、魔力の弾を指で打ち出していた。俺は剣を使っていたから、剣で練習して出来るようになった。カグヤは弓でいくなら……矢を魔力で作ってみるか」

「そうね。それなら、イメージしやすいかも」

  もう一つの理由として、それなら生物を殺す忌避感も減るだろう。
 直接生き物を殺す時の感触は、しらないに越したことはない。

「よし、早速やってみるか」

「うん!  どうしたらいいの?」

「まずは弓を構えてくれ」

「……できたわ」

 カグヤが弓を構えるが、その姿は美しい。
 背筋が伸び、靡く赤髪にその綺麗な横顔に見惚れてしまう。

「魔力はわかるか?」

「うーん、感覚が光魔法とは違うのよね……」

「なら、これが一番早いか。カグヤ、失礼する」

 俺は後ろから、カグヤを抱きしめるような形になる。
 俺の両手で、カグヤの両手を握る形だ。

「にゃ!?  ク、クロウ!?」

 まずい……なんだ、この良い匂いは……?
 落ち着け、俺……平常心だ。

「……落ち着けって」

「お、お、落ち着けないわよ!?」

 実は俺も落ち着いてはいない。
 するとハクが『僕も遊んでー』とでも言うように擦り寄ってくる。

「………ハク、違うから。あとで、遊んてやるから待ってなさい」

「グルルー!」

 ハクは大人しく下がり、芝生で寝始めた……だが、お陰で落ち着いた。
 カグヤは相変わらず、アワアワして耳まで赤いが。

「カグヤ、俺が今から魔力を高めるから、それを肌で感じ取れ」

「う、うん……が、頑張るわ!」

 ……まずは、俺が落ち着け。
 魔力制御は正常な状態でないといけない。
 ……よし、いけるな。

「どうだ?」

「あっ、んっ、なんか温かいわ……」

 すると、ガクヤが艶っぽい声を出す。
 ……ダメだ! よくない!  何かわからないが、これはよくない!
 俺は慌てて、カグヤから離れる。

「ど、どうしたの?」

「ゼェ、ゼェ……大丈夫だ、繊細な魔力制御に少し疲れただけだ」

「そ、そうなのね……もっとギュってしてもいいのに……」

「はい?なんだって?」

「な、なんでもないわよ!  それより、わかった気がするわ!」

「ほっ、それは助かった」

 色々な意味で……あのままでは、俺の精神が参ってしまう。

「見てて!  いつも魔力を変換する……でも、それをそのまま放つ感じで……えいっ!」

 そして、弓を引いている方の手が眩い光を放つ!
 風切り音がして壁に当たるが……。

「まあ、仕方あるまい。鍛錬あるのみだ」

「はぅ……全然、威力ないわね」

 魔力の矢は出たが、壁には大して傷もついてない。
    だが、ここは思い切り褒めるべきだろう。
    俺はガクヤの髪を両手でワシワシする。

「でも、できたな。偉いな!  凄いぞ!」

「ちょっと!?  髪がぐちゃぐちゃになっちゃうわよ~!」

「グルルー!」

「ちょっと!?  ハクまでやめて~!」

 ハクがガクヤにじゃれつき、草むらの上に押し倒すのだった。
 その後、やりすぎたので二人で謝ることに。
 俺は正座、ハクも伏せをしている。

「べ、別に怒ってないし! その……楽しかったわ」

「グルルー!」

「うむ、懐いたようで何よりだ」

 俺の従魔ではあるが、メインはガクヤの護衛なのだから。
 すると、ガクヤが片付けを始める。
 空を見ると、日が暮れ始めていた。

「もう、夕方か」

「うん、だからご飯作るわね」

「だ、大丈夫か?  俺、死なないか?」

 小さい頃に、何度も食べさせられた。
 泥団子以外はどうにか食べたが、何度酷い目にあったことか。

「失礼ね……あの頃とは違うわよ!」

「そ、そうなのか……回復魔法あるから平気か」

「むぅ……ギャフンって言わせてあげるんだから」

 そう言いながら庭から部屋に戻り、エプロンを身に着けた。
 そして髪をまとめ、ポニーテールにする。

 「……グハッ!?」

    な、なんだ!? この破壊力は……!
 俺が動揺していると、カグヤは部屋の中でクルッと回転する。

「えへへ……似合うかな?」

「ああ、よく似合う」

「……あ、ありがとう」

 照れ顔の破壊力も凄まじく、俺は心臓が跳ね上がる。
 それを抑え込むためにひたすら素振りをしていると、あっという間に料理ができたようだ。
 対面の席に着き、目の前のカレーを食べる……どうやら、嘘ではなかったようだ。

「美味いな……」

「なんで複雑そうな顔なのよ?  まあ、いいけど」

「ありがとう、美味しいよ」

「フ、フン!  初めからそういえばいいのよ!」

「グルルー!」

「あら? ハクも美味しい?  お肉たっぷりあるからね!」

「グルッ!」

 ハクにはオークを解体して、その一部を与えている。
 ちなみに足を綺麗にして、部屋の中に入れてある。
 でないと、護衛の意味がない。

「フゥ、ご馳走さまでした。作ってくれてありがとな」

「お粗末様でした。これで、役に立ってるかしら?   私……クロウに何も返せてないわ」

 ポニテをイジりながら、そんなことを言い出した。
 ここで、そんなことないと言うことは簡単だ。
 だが、きっと……それではいけないのだろう。

「少しずつでいい、焦らなくていい……俺はいつまでも側にいる」

「クロウ……うん! ありがとう!」

「グルルー!」

「ハクもありがとう!」

 その後風呂に入り、寝る時間となる。
    当然、俺は別の部屋だ。

「ハク、カグヤを頼むぞ?」

「グルッ!」

「そ、そうね! 別々の部屋よね!」

「ああ、ハクがいれば安心だ。パスで繋がっているから、異常があればすぐに伝わる」

「うぅー……おやすみ!」

 なぜか、頬を膨らまして部屋に入った……さっぱりわからない。

 誰が、女心について助言をしてくれないだろうか?

 そんなことを考えてつつ、夜が更けていく。
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