上 下
3 / 59

力を司る春川村の守護神 赤麗

しおりを挟む
そして何がなんだか訳がわからない状態で

とりあえず自転車をおりた恵はそのままの勢いで

ゆっくりと自販機に向かって歩き出しながら……

*****

(なんだかメッチャ変わった犬だなぁ……)

と心の中で独り言を呟いていたけれど

そんな事よりも赤い子犬を注意深くジーッと見ていたら

(…て言うか何これ?尻尾が1、2、3、4…9本?
じゃあえっと~、尻尾が9本って事はつまり~…
このワンちゃんは九尾の子犬…って事になるんだよね?)

こうして至って冷静に

目の前の不思議な子犬が九尾きゅうびの生き物である事を理解できたので

特に驚いた様子もない強者つわものの恵は赤い子犬に笑顔を向けて

「こんばんはー」と挨拶をしながら自販機の前に立った後、

いつもの様に大好きなレモネードのボタンを押してみたけれど、

次の瞬間、この子犬はハッキリと!!


『卒業おめでとう!
きみの家は決して裕福ではないのに……
いつも僕にチョコレートをプレゼントしてくれてありがとう恵』

流暢りゅうちょうな日本語で

いきなり突然、恵に向かって話し掛けてきたから!

こんなの普通は誰でも絶対、

ビックリしすぎて腰を抜かしてしまう場面なのに

やはり全く驚いていない正義のヒーロー星野恵はメッチャ落ち着いた表情で


「ん?いつもチョコレートをプレゼントって事は~……
じゃあ九尾君は春川神社の狛犬さんとか お狐さんなの?」

と普通に返事をしながら

ベンチに座って赤い子犬を優しく撫でて


『ん~、確かに僕の尻尾は九本あるけど~、
名前が九尾君じゃあ流石にカッコ悪いでしょ?
本当に君は素直で可愛い女の子だなぁフフフ……
僕の名前は九尾君ではなくて、赤麗せきれいだよ恵。
ずっと遥か昔から、春川村の神界領域に住んでいるんだよ?』


「えっ?春川村にそんな凄い領域があるの?やるじゃん赤麗~。
…て言うかそんな事よりもさぁ、赤麗って超カッコいい名前だよね~?
でもでも どうして赤麗は、村で一番貧乏な私の名前を知っているの?」

て感じで早くも楽しい会話で盛り上がっていたけれど

この後いきなり赤麗は……!

『それはね?きみが毎週チョコレートを持って
僕のやしろに来てくれたからだよ。僕は力をつかさどる神だから、
きみの様に強くなりたいと願う女の子が大好きなんだ。だから恵……
チョコのお礼に君の願いをひとつ叶えてあげるから、なんでも願い事を言ってごらん?』

と嬉しい事を言ってくれたので

もちろん恵は間髪かんぱつ入れずにこの直後


「えっ?どんな願い事でも叶えてくれるの?
じゃあそうだなぁ、ピンチの時に物凄い力を出せるとか、
悪い奴から弱い人を守る為に、超人的な正義の力が使えるとか、
とにかく正義のヒーローみたいな最強のパワーが欲しいなぁ」

と素直な気持ちを答えていたのに、

そんな恵をじっと見つめる赤麗は、なぜか微妙に不敵な感じで微笑みながら


『つまり、きみが望む力は、正義のちからって事なんだね?
確かに正義の力は最強だけど、残念な事に『この力』は、きみが本当に困った時と、
きみに対して悪意を持った者『だけ』にしか使えない特殊な力だから………
僕はあんまりオススメできないなぁ。だって誰が自分に悪意を持っているかだなんて
普通の人間に分かる筈がないでしょ?つまり超人的な正義の力とは……
善と悪を見極める『能力』がなければ使いこなせない『力』って事だよ恵。
でも漆黒の力で良ければ、善も悪も関係ない状態で、恵が倒したいと思う相手に
何度でも使える『お手軽な力』だから、結構オススメだよ?まぁ正義の力と比べたら
威力はかなり弱いけど、そうは言っても超人的な力が手に入る訳だから、
恵の様に身体が小さい人間にとっては、漆黒の方が便利な力だと思うよ~。フフフッ……』

て感じで明らかに、人の目には見えない何かを試す様な雰囲気で

やたらと何度も超人的で、しかも便利でお手軽な

なんとも怪しい『漆黒の力』をヒーローおたくの恵に勧めてきた挙げ句、

『さぁ恵ちゃん?きみは一体どっちを選ぶのかな~?』と返答を迫ってきたけれど


(つまりこれは…勇者の試練?)

と心の中で密かに呟くヒーロー恵にとっては全くの愚問ぐもんだったので

次の瞬間、キラキラと輝く純粋な瞳で、真っ赤な子犬の赤麗を見つめながら


「そりゃあ勿論、正義の力が欲しいに決まってるよ~!
なんだか赤麗はさっきから、悪意を持った人間の見極めが難しいって言うけどさ?
一応私はヒーロー研究会の終身名誉会長だし、そもそもヒーロー物を見ていれば、
そんなの簡単に分かるじゃん。だって優しい顔をした『トンデモナイ悪人』も居れば、
めっちゃ強面の善人も居るんだからさ?つまり人は見掛けによらないって事だよ赤麗」

こうして何も迷う事なく正義の力を選んでいたが

そもそも今の恵は赤い子犬とヒーローごっこで遊んでいるだけの『つもり』だったから

この後すぐに子犬の赤麗が、お年寄り専用ベンチをピョコンと飛び降りて、


『うん、わかったよ恵ちゃん。
きみの願いは必ず僕が叶えてあげる……
明日の朝一番で、きみを最強シンデレラにしてあげるよ!』

と嬉しそうな声で、

身長150センチの小さな恵を最強シンデレラと呼んだ後、

爽やかな夜風と共に、突然どこかに消えてしまっても正直この時は

めっちゃ不思議な子犬と遊べて楽しかったなぁ……

そしてまたいつの日か、可愛い赤麗に逢いたいなぁ……

て感じの平和な事しか考えていなかったから、一夜明けて翌日の朝が

そりゃあもうトンデモナイ騒ぎになる事を、もちろん恵は全く気付いていなかった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

不埒な関係

BL / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:13

神様を名乗る者

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

長い登り坂の休み

現代文学 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

運命の恋人

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

ヤンデレ王子の甘い誘惑

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:103

勇者に転生したはずなのに魔王の子供になっていた

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

【翅を染めた天使達の話】

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

生意気な弟がいきなりキャラを変えてきて困っています!

BL / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:393

スキルシーフで異世界無双

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:89

処理中です...