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璃音編 名探偵璃音 その1

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高校生の頃からの親友である円行寺彰がどんな男かと聞かれたら

たぐいまれなる美しい容姿を持った『やり手』の副社長だと答えるが……

その美しい風貌ふうぼうゆえに、

とにかくモテる彰は昔から一度も女に不自由をした事がないので

殆ど毎晩その日の気分で、様々なタイプの『良い女達』と熱い恋をしているけれど

明るく社交的な笑顔の裏で、常に一人で孤独を抱えるロマンティストの彰の恋は

高校の頃から今も尚、

誰を抱いても満足できないアバンチュールの恋『だけ』が永遠と続いているので

今からほんの少しだけ、高3だった頃の彰を紹介してみるが、

この頃の彰は自分の思っている事を

だれ彼構わずズバズバと喋るデリカシー皆無の超絶イケメンだったから……

*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*

「円行寺先輩!私の事もお試しの彼女にしてくれませんか?」

「私はお試しの彼女は嫌だなぁ、
だって私は遊びの女とかじゃなくて、円行寺くんのマジカノになって、
高校を卒業したらオブシディアンのマネージャーになりたいんだもん!」

「へぇ?マジカノ兼マネージャーとは大きく出たね~、
もしもそんな女が居るなら、俺は必ずその子に堕ちるから、
じゃあまずはそうだなぁ…今から俺とホテルに行って、
きみの可愛い唇で、俺のハートをメロメロにしてもらおうかな?フフフッ」

とまぁこんなふうに……

高校生の頃から気に入った女を堕として抱いてトットと捨てて、

そしてサッサと次の女に目移りをして

そしてまたまた口説いて抱いてを永遠と繰り返していたけれど

毎日必ず百戦錬磨の彰がみずから好意を持つ女とはつまり

早い話がスリルを味わう為のセフレか、ヤリ捨てにする為の手軽な女『のみ』だから、

こんな感じで常に誰かといびつな恋をしていた彰が幸せを感じる事なんて、

勿論ただの一度もなかった。

小さなシンデレラに出逢うその日までは……。

*****

と言う事でここからは、

彰の親友である璃音の視点で色々と彰の事を語っていこうと思うが

やはり一番最初に言うべき事は、もちろんClubベルサイユの件だから

どうして彰がこの店のオーナーになったのか…と言う事を、

あくまで璃音の解釈で軽く説明をしておこう。

*****

去年の夏に……

荒木涼子と佐竹組長とオペラ座の怪人に命を狙われた璃音は紆余曲折を経て

Clubベルサイユが入っていた店舗を綺麗にしてから新たなオーナーを募集していたが……

新オーナーに名乗りを上げた人物は、意外な事に親友の円行寺彰だったから

もちろん璃音はふたつ返事で店の権利を全て彰に譲ったが、

結構な予算を掛けたリフォーム工事を終わらせて、

以前よりも更に美しい店へと生まれ変わった、新しいClubベルサイユの鍵を渡す日に、


「なぁ彰、一応これが新しい鍵だが…鍵の事よりもな?
お前は何百万もの金を使って店の内装をリフォームしたのに
肝心の店の名前は本当に、Clubベルサイユのままでいいのか?」

「あぁ勿論そのままでいいよ璃音、だって俺がこの店の権利を買った理由はさ?
尻軽のいい女を新規開拓する為だから、店の名前なんて正直どうでもいいんだよね~、フフフッ」

と彰は璃音に言ったけど、

昔から常に数え切れない数のセフレを持つ彰が何故いきなり、

わざわざ潰れかけの飲み屋に500万もの投資をしてまで尻軽女の開拓をする必要があるのか、

聞くだけヤボだから敢えては突っ込まなかったけど、

こんなくだらない理由で店の権利を買った訳ではない事位、

彰とは長い付き合いの璃音は当然の事ながら全てお見通しだったので

だからClubベルサイユの名前を新しい屋号やごうに変えなかった理由も敢えて聞かなかったのだ。

でも璃音は昔から、彰本人よりも彰の事をわかっているから……


(なぁ彰、お前は美人の女よりも美しい容姿の男だろ?
だからどんなに美人のいい女と寝ても、トキメキを感じる事が出来ないんだよきっと。
つまり綺麗な顔のお前がドキッとする女がいるとすれば……
昔お前がバカウケしながら読んでいた漫画のヒロインみたいな、
明るいチビの二次元的な女『だけ』しか存在しないんじゃないのか?
とは言っても実際にそんな女が居るならば、まぁ是非とも俺も見てみたいところだが……)


こうして彰自身も気付いていない彰の理想を見抜いていたのに

彰が店を開店してから半年の時間が過ぎても

孤高のロマンティストである彰を落とす女は一人も現れなかったから

最近の璃音はClubベルサイユで起きた奇跡をすっかり忘れていたけれど

この後さらに2ヶ月の時間が過ぎて、3月の卒業シーズンを迎える頃に……

ある日突然、太陽みたいな明るいチビの二次元的なシンデレラがこの店に現れて、

そして再びトンデモナイ奇跡が巻き起こる事になるだなんて、もちろん夢にも思っていなかった。
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