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璃音編 名探偵璃音 その2

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そして卒業シーズンの3月がやってきて

龍崎プレジデントヒルズの公園に植えた梅の木が

今年も華麗なピンクの花びらを満開にさせた頃……

ついに玲と結婚をした璃音は世界で一番幸せな新婚生活を送っていたから

本当は今日も今からサッサと家に帰りたかったけど、

今夜は鋼牙と『ある話』をしなければならないので……

*****

この日は定時で仕事を切り上げた璃音はこの後

大学時代に彰のバンドでサポートメンバーをしていた涼宮鋼牙と歓楽街で落ち合って

サファイアホテルのステーキハウスで最高級のステーキを食べた後すぐに

鋼牙と二人で久し振りのClubベルサイユを訪れていたのだが……

いつ来ても沢山の客で溢れる店の様子を目にした璃音は思わず心の中で


(しかしやっぱり彰は凄い男だよなぁ。お前が少し店に顔を出すだけで
毎晩こんなに沢山の客がワンサカ来てくれるんだから、やはり彰は昔から、
ドコへ行っても何をやってもスター性に満ち溢れていると言う事なんだろうな……)

ふと そんな事を考えながら鋼牙と乾杯をしていたのに……

この後なぜか鋼牙はいきなり、なんだか微妙に明るい声で


「今夜はお前を指名するから俺の隣に座れよ」

と自分の意思で黒服の女を指名したので、

ついつい璃音は鋼牙が指名した小さな女の顔をジッと見てみたが

この女は東涼会の会長である鋼牙を相手にしても全くどうじない強い女で、

しかもアニメのヒロインみたいに、やたらと明るい天真爛漫な、

「こんばんはー、イケメン&イケボのドラフトお兄さん。
私は野球部出身じゃないからメジャーで二刀流は出来ないけど、
でも今日の指名は勇気ある行動だと思いました!
一日も早く女性のピッチャーが誕生するといいですね?エヘヘへ~」

「えっと仕事だから一応来たけど、どうして会長は何回も私を呼ぶの?
私と会長はもう友達なんだから、今度一緒にラーメンとかを食べに行けばいいじゃん」

て感じの貴重なバカ女だったから、


(もしかすると、このチビは……
彰がドンピシャのタイプなんじゃないのか?)

と密かに呟く璃音はまさにこの瞬間

きっと今からClubベルサイユで何かが起こると直感的に思ったが

目の前の小さな女は鋼牙ではなく、彰の方が合っていると思ったから

思わず璃音は女の顔をじーっと見つめながら


(…ん?まさかこの女はスッピンなのか?大人しい玲でさえ、
この店でホールメンバーをしていた時は薄いメイクをしていたのに、
何故この女はリップも塗らずにスッピンで飲み屋の仕事をしてるんだ?)

と至極当然な事を考えていたのに、

次の瞬間、璃音の耳に届いた声は

「…恵さん?」と小さく呟いた彰の声だったから


(なる程な…やはり小さなこの女は、
太陽みたいに明るい彰の女神だったのか、フフフッ)

こうして遂に予感を的中させた璃音は、

鋼牙とは正反対の穏やかな表情をしながらブランデーをひと口飲んでいたけれど

*****

突然すぎる彰の女神の登場は……

この店の女を狂わせてしまった様だから

「なぁ璃音、こんな俺が……
こんなに可愛い恋人を作っちまってもいいのか?」

と店中の女達に見せ付ける様なキスをした彰はどうらやこのタイミングで、

璃音と鋼牙の死角の位置からルナと言う名のホステスに

危うくナイフで刺されそうになったらしいが、昔から彰は勘が鋭い男なので


「おいジョニー、今すぐこの女を摘まみ出せ」

と元オブシディアンのメンバーであるジョニー坂田に命令をして

サッサとこの女を退場させた後すぐに、彰も小さな女と一緒に店の中から姿を消したので

どうやら今夜は残念な事に、『とある話』を彰に聞かせる事は出来なかったけど

でも彰にしてみれば、今夜ココで起こった奇跡の再会は、

『とある話』よりも遥かに大切な出来事だと思うから、

気を取り直して鋼牙と乾杯をした璃音は、この後ひそかに心の中で

(けっきょく彰を本気にさせた唯一の女は、
真っ赤に輝く太陽みたいな明るいチビの女だったか……
なぁ彰…やっぱり俺が思った通りになっただろう?)

と彰に向かって語り掛けていたけれど……

そんな事よりも名探偵の璃音は今、自分の推理が明るい太陽に姿を変えて、

孤高のロマンティストを明るく照らし始めていた事を心の底から嬉しく思っていた。
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