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とにかく怪しいIn The Mirror 

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そして化粧室を出た恵はこのままの勢いで

いつもの様にサッサと歩いて軽食コーナーのカウンターに向かい

*****

「おまたせしました彰さん」

「お帰り恵さん、じゃあメインホールに行く前に
店長の桐生を紹介してあげるから、とりあえずココにお座り?」

「はい!わかりました~」

こうして上機嫌な彰の指示に従って

オシャレなカフェのカウンター席に座ってみたけれど、

次の瞬間、いきなりカウンターの奥から出てきた派手な男性に

「へぇ?きみが噂の恵ちゃんかい?」とフレンドリーに声を掛けてもらったので

「あっ、はい、こんにちはー」と無難な返事をしてみたら


「しかし噂以上のおチビちゃんだなぁ……
おい彰、お前どこでこの可愛いチビちゃんを見つけたんだ?」

と恵をスルーしながらも

嬉しそうな表情で彰に向かって話し掛けたので

きっとこの二人は友達なんだろうなぁと思った部外者の恵は勿論この場の空気を読んで

ニコニコしながら無言で二人のやり取りを見ていたが


(うわぁ、腕に本物のタトゥーをしている人なんて初めて見たよ~)

な~んて事を密かに思っているうちに、


「ん?それは俺と恵の大切な想い出だから
誰にも教える事は出来ないなぁ、フフフッ……
そんな事よりも桐生、今からカーネリアンセットを作ってくれないか?
恵は事務の仕事じゃなくて、厨房と受付がメインの業務になる予定だから、
まずはうちの人気メニューの味をしっかりと覚えて貰わないとね」

「OK、じゃあカーネリアンセットをふたつ作ってくるよ」

て感じの会話が終わった後すぐに

桐生店長が厨房の奥へと消えたので

カーネリアンホールの人気メニューである『カーネリアンセット』が出来上がるのを

もちろん恵は楽しみに待っていたけれど

そんな事よりも なんとこの後、いきなり唐突に!


『おやおや~?きみが噂のおチビちゃんかい?
俺は名誉店長のアベルだよ?今日から宜しくね~、
俺の可愛い恵ちゃん、フフフッ……』

と彰にメッチャそっくりな、

とある生き物の声がハッキリと聞こえたので、


(はぁああ~!?名誉店長のアベルって誰??)

とは言えない恵は思わず、あたりをキョロキョロと見渡してみたら

彰と同じ甘いセリフの言葉を話した相手はなんと!

大きな鳥籠の中からコチラを見ていたメガネフクロウのアベルだったから

ビックリしすぎた恵は勿論、冷凍コロッケみたいにカチカチに固まったのに

*****

そんな恵をジッと見つめる可愛らしいフクロウのアベルはこのままの勢いで

『しかし難攻不落の彰を落とす女がカーネリアンホールに現れるなんて……
地下室のルビーを攻略された時よりも遥かに驚きましたよ俺は…フフフッ……』

と前代未聞の爆弾発言をしてくれたので!

この瞬間に光の速さでルビーに近づいた恵はもちろん

このまま何も気付いていないフリをして、


(地下室のルビーを攻略されたって何?
…って言うかフクロウのアベルがルビーの件を知っているって事はつまり、
彰さんのルビーはカーネリアンホールの地下室に置いてあったって事?)

こうして早くもルビー強奪事件の貴重な情報を得る事が出来たけど……

だからと言って今すぐアベルが

謎の地下へと続く道のりを喋ってくれる訳ではないので

とりあえず一旦頭を切り替えて

このあと桐生店長が作ってくれたサンドイッチで軽い食事を済ませた恵はこの後すぐに

彰と二人でメインホールの見学に向かったが……

*****

(まぁいくらなんでも初めての見学で
彰さんの最高機密を見つける事は出来なかったか~)

とガッカリしている恵は勿論、

今回の調査で地下に繋がる通路を発見できなかったから

これが普通の一般人ならば

簡単に目視もくしできる地下用のエレベーターと階段などが無い時点で

アベルが嘘を吐いたと思いがちになるけれど

やはり恵は不可能を可能にする事が出来るヒーロー研究会の名誉会長なので


(そもそもカーネリアンホールの案内地図に
地下室の情報が全く書かれていない時点で……
秘密の隠し通路からでなければ地下に行く事は出来ない訳だから
きっとルビーを盗んだ犯人はこの店の設計図を持っていると思うけど、
そんな事よりもさぁ…やっぱり素人は詰めが甘いよね~?
これじゃあ地下室の秘密なんて、簡単に攻略されちゃう筈だよ彰さん)

こうして恵はこの時既に

アベルではなくて彰の方が嘘を吐いている事を密かに見抜いていたのだが

なぜノーヒントの状態で彰の嘘を見抜く事が出来たのか?

その理由は見学を終えた彰の『とある行動』がキッカケなので

ここからはメインホールの見学を終わらせた後の恵と彰の様子を見てみよう。

*****

と言う事で……

初めての見学を済ませた恵は彰の後ろをテクテクと歩きながら

「じゃあこれで粗方あらかたの見学は終わりましたから……
今から上の社長室で紅茶を飲んで休憩をしましょうか恵さん」

「えっ?社長室に紅茶があるの?」

「えぇ、もちろん。
イギリスの美味しい紅茶を常に置いていますよ?
しかも社長室の奥の部屋にはベッドもシャワーも付いていますから、
今度俺と一緒にカーネリアンホールでお泊りをしませんか?フフフッ……」

こうしてカオスな会話と共に、

めっちゃ上機嫌な彰と二人で2階の社長室に向かったが

初めて入ったカーネリアンホールの社長室には、

金色と銀色の額縁に入った、超~目立つ大きな鏡があったから!


(うわっ!めっちゃ怪しい部屋じゃんココ!)と恵は密かに思ったが……

冷静に考えてみると彰はサファイアホテルの時からいつも鏡を見ていたので

もしもこの鏡に秘密が隠されていないなら、

きっと必ず彰は今日も、大好きな鏡を無意識に見ている筈なのに

「お待たせ恵さん、
美味しいダージリンの紅茶を作りましたから
今からこのソファーに座って、一緒に紅茶を飲みましょうか」

と優しい声で話す彰は思った通り、ただの一度も大きな鏡を見なかったから


(やっぱり彰さんって基本的に天然だよね?
だって鏡の中に秘密がある事を自分でバラしたんだもん……)

とは言えない恵はニコニコと微笑んで

なんだかソワソワしている彰と二人で美味しい紅茶を飲みながら

とにかく怪しい社長室に飾られた『金と銀の鏡の位置』をしっかりと頭に叩き込み、

そしてこの後カーネリアンホールを出てすぐに、再び頭を切り替えて、

めっちゃ上機嫌な彰の車で龍崎プレジデントヒルズのマンションに帰宅をしたけれど

この時の恵はまだ、白いピアノの『あの部屋』が

今夜のうちにトンデモナイ状況になってしまう事を全く気付いていなかった。
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