Ray of Light ~コミュ障ぼっち女子高生と恋愛スキルゼロの寡黙な天然イケメン社長~

Pink Diamond

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Graduation

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人生で初めてのロックコンサートを経験した玲は

最近すこし、ロック系の音楽に興味が出てきたので

パソコンのエクセルと経理の勉強が終わった後は、

璃音に貰ったオブシディアンのCDを聞きながら

炊事や洗濯などの家事をたくさん頑張っていたけれど

そうは言っても今の玲は卒業前の高校3年生であり、

まだ璃音と正式な夫婦になった訳ではないから、

ちゃんと入籍をする迄は、日々の暮らしを近況報告する為に

*****

「こんにちは蓮、最近の私は家事の合間に
オブシディアンのアルバム曲を聞いているんだけど
円行寺さんって超~メチャクチャ歌が上手うまいから、
なるべく蓮も、彰さんを目指して歌の練習を頑張ってね。
じゃあまた来週にメールを送ります。玲より。」

なんと今度は弟の蓮とメールを交わしていたので

なんだかんだで毎日が楽しくて、

もうすっかり卒業した気になっていたけれど、

残念な事に今の玲は卒業証書を持っていないから

とにかくサッサと『あの』3年B組とお別れをする為に、

3月10日の卒業式を、今か今かと指折り数えて待っていたのに

ふと気が付けば、今日は3月9日だったから

*****

そんなこんなであっと言う間に一夜が明けて、

翌朝6時に目を覚ました玲は

(えっと今日は遂にそのぉ、最後の登校って言うか……
つまり今日が私達3年生の、卒業式~なんだよね?きっと)

て感じのお気楽な気分で寝室を出て、

いつもの様に慣れた手つきで朝食の準備に取り掛かり、

今日が晴れの日だとは思えない位の通常運転で、

適当に家事を済ませて璃音と一緒に豪華な朝食を食べた後、

龍崎邸のメッチャ広いパウダールームで出掛ける準備をトットと済ませて、

そして、このままの勢いで


(さてとー、じゃあ今から学校に行こうかな?)

と元気な態度で扉を開けて、広い廊下に出てみると、

なぜか廊下のソファーで食後のコーヒーを飲んでいた璃音から

「なぁ玲、本当に車で送らなくてもいいのか?」

と心配そうな表情で話しかけてもらったが、やっぱり今日は卒業式なので、

「心配してくれてありがとう。
でも卒業式が終わる迄は、一応私も高校生だから、
最後は普通に電車とバスで登校しようと思うので、
…て事で、今から学校に行ってきますね、璃音さん」

「そうか、わかった。じゃあ気を付けて行っておいで」


こうして清々しい表情で璃音のマンションを出た玲は

最後の登校を噛みしめる様な気持ちで駅に向かい、

1本の電車と2本のバスを乗り継いで、無事に桜ヶ丘高校へと到着したけれど

*****

いつもの様に下を向いておとなしく

今日もザワザワと騒がしい3年B組の教室に入ってみたら

(うわっ、今日はまた一段と凄いなぁ……
教室の中がカーネリアンホールみたいになってるよ~!)

と思ってしまう位の大きな声で

たくさんのクラスメイト達が騒いでいたから

思わず玲はグルっとあたりを見渡すと……


「ねぇねぇ、皆で写真を撮ろうよ~!」

「さんせ~い!でもやっぱ最後はさぁ、
皆で黒板の前に並んだ方が良くない?
あーっ!ちょっともう、男子は入って来ないでよ~!」

て感じで教室の中は最高に盛り上がっていたので

もしかしたら最後の最後に、今日『だけ』は、

楽しい輪の中に入れるのかな?とドキドキしながら期待をしたのに


「はぁあ~?なんで女だけで黒板を占領してんの?」

「はいはい、ごめんごめん、じゃあ今日は特別に~、
男子も女子も皆で一緒に写真を撮ろうよー!ほらほら早く早く!
みんなココに並んで並んでー!じゃあ皆いくよ~!はいチーズ!」

「うわぁー!やべぇ…思いっきり目ぇ瞑ったし~!」

「アハハハハー、じゃあ今度は動画を撮ってみる~?」 

*ー* ー*ー*ー*

(……ですよねぇ……)

結局やっぱり思った通り、

卒業記念の楽しい写真撮影に、

ボッチの玲が呼んでもらえる事はなく、

最後の最後まで…

一条玲は3年B組の空気だったから……

*ー*ー*ー*ー*

こうしてまさに最後まで、孤高のぼっちを貫いた玲は

朝から誰とも口をきかない残念すぎる状態で、

広くて大きな体育館へと無言で向かい、

そしてやっと、待ちに待った卒業式に参加する事が出来たけど、

そんな事よりも、なんだかんだで毎年必ずこの式典は……

*****

「卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。
この3年間で、皆さんは立派に成長されました。
それはひとえに勉強や部活動、そして野外活動を通じて培った様々な経験と――」

て感じで無駄に長いスピーチが

やたらとダラダラ続くから、ついつい玲は心の中で、

(PTA会長さんの祝辞って、どうして毎年こんなに長いの?)

と素朴な疑問を呟いていたけれど、やっぱりそんな事よりも、


(…て言うか会長さんの長い話が終わっても、
この次は市長さんとか桜ヶ丘大学の先生とかが
めっちゃ分厚い祝辞を持って来賓席で3人くらい控えているし~……)

きっとまだまだ この式典は終わらない雰囲気なので、

あまりにも退屈すぎるボッチの玲は

なんだか微妙にイライラしている残念な心を落ち着ける為に、

めっちゃ退屈だった桜ヶ丘高校での3年間を思い出す事にしたのだが、

この後も次々と現れる祝辞を持った皆さんの

長い長い話を無視して静かに目を閉じてみると……


◇◆◇◆◇◆◇


『お前…どこに住んでいるんだ?俺が家まで送ってやるよ』


わずか3秒で玲の脳裏に浮かんだ映像は、

Clubベルサイユの事務所で、初めて璃音と出逢った時の想い出だったから


(あれっ?これは高校の想い出じゃないからダメだよね、もう一回やり直さなきゃ……)

と急いで頭を切り替えて

そして再び下を向いて瞳を閉じてみたけれど……


『そうだったな。まだ俺は、自分の名前すらも
お前に教えていなかったよな。俺の名前は龍崎璃音だ…』

『なぁ玲…今から俺の恋人になってくれないか?』


やっぱり何度やり直しても、

孤独な高校生活を送っていた玲の心に甦る出来事は、

全てが璃音との想い出ばかりだったから、

あっと言う間にボッチの玲の、小さな小さな心の中は

世界中の誰よりも優しくて暖かい、瑠璃色の光で満たされて………

初めて璃音と料亭に行った時の想い出を

璃音と彰が体育祭に来てくれた時の想い出を

そして黒いドレスを着せてもらったあの日の夜に、

初めて彼と結ばれた…甘く切ない初体験の想い出を……

まるで映画のフイルムみたいに次から次へと振り返っていくうちに


(璃音さん、もしも貴方が居なければ、
私はずっと、一人ぼっちのままでした……)

いつの間にか玲の瞳は涙で溢れていたけれど、

幸いな事に今日は卒業式だから……


「卒業生起立!式歌斉唱!」


こうして周りの女子達が、

すすり泣く様な声で歌う、仰げば尊しの大合唱に、

玲の小さな嗚咽おえつは綺麗にかき消されて……

そしてこの後、ようやく遂に……!


「卒業生退場!」

この瞬間、一条玲は……

長かった3年間の孤独な高校生活に、やっとの思いでピリオドを打っていた。
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