【完結】この冤罪の多い世界で生き抜くには、優秀な部下が必要だったようです

Cattleya

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「救ってあげましょうか。」

この声は、私の執事のものに間違いない。
パニックで視界が暗転して、体勢を崩した私を抱き止めながら、

「ここからは私に全てお任せ下さい。私が話して良いと言うまでお嬢様は黙っておいて下さい。」

彼は、私の耳元で小声で呟く。
助けてくれた執事が不敵にかっこよく思えてしまう。
困った時にいつも駆けつけてくれる彼は、身分の差はあるが友人のような関係だと思う。

「セシル様。つかぬことを申し上げますが。」

彼が私の間に入って、婚約者に冷静に語り出す。

「申せよ。リュカ。」

「お嬢様がそちらの令嬢に嫌がらせをしたということですが、それを証明できる者はいらっしゃいますか?目撃者がいないのでしたら、お嬢様の犯行は認めることはできません。」

「私がセシルと仲良くしているのを見て、スカーレットが嫉妬してやったのよ。ほら、窓ガラスで切った切り傷がここにあるでしょう?」

そういえば私がたまたま廊下で転んでいるのを見たら、スフィア令嬢が急に泣き出したことがあったな。スフィアはそのまま言葉を続けた。

「私が腕を怪我をした時、その場にスカーレットがいたの。絶対に彼女が犯人よ!」

違うと言いたかったが、口止めされているので私は答えられない。

「窓ガラスはなぜ割れたんですか?」
「外から投げられて。」

リュカは、彼女の言葉を聴きながら少し考えながら言う。

「あの後騒ぎを聞きつけた私は、お嬢様のところに行ったのですが、窓ガラスは内側から破られていました。」

「そんなの嘘よ!」

スフィアは激昂する。

「いえ、破片が廊下に散らばった形跡がなかったので、外側から破られたと言う根拠はありません。あなたの妄想ではないでしょうか?」

「絶対ないわ!」

彼女は言い切ったみたいだ。
ここまで自信ありげな相手にリュカはどう対応するのか不安しかない。

「それでは、貴方の腕の傷はどうでしょう。外からガラスが割れたとしたら、素肌を晒しているところを怪我しますが、貴方が怪我したのは、制服で隠れている手首より下ですよね。この制服は、外敵から身を守るために加護の糸を使用して製作されております。ですから、そう言った場所に怪我はするはずはないのですよ。」


そういえば、彼の言う通りかもしれない。
自分でやったとしか思えないところに傷があるのは妙だ。
私は納得しながら聴いていると、

「そうなのか?じゃあなんで、スフィアは怪我をしたんだ!」

セシルが不安を感じ、リュカに問うた。
リュカは鼻で笑いながら、

「何故って?自作自演ですよ。それしか考えられません。
きっと貴方に構ってほしくて、怪我をお嬢様のせいにしてしまうのが都合が宜しかったのでしょう。」 

「そうだったのか!それならそれと言ってくれれば良かったのに!」
「そうなの!セシル~!!!」

抱き合う2人に不快感を感じた。

明らかにスフィア令嬢が問題のある行動を取ったというのに、怒りもしない元婚約者の様子を見て、恋は人を盲目にするというのは本当だと実感する。

呆れて何も言えない。


「貴方たちはわかっていませんねぇ。先ほどの発言で、スフィア令嬢の発言は虚言だと言うことが証明できました。」

冷笑するリュカは、普段の天使のような微笑みとは違い、いつも私に悪戯する時のような意地悪な顔つきをしていた。

「だからどうしたのだ?」

セシルがそう答えた時、私は落胆した。婚約破棄を言われた時点で失望していたので、これ以上悪い気持ちにはなれない。

怒りの感情より失意の方が勝って、どうすれば良いかわからなかった。
リュカの方を見てみると、私に任せておけと発音したように口唇が動いたような気がした。

「婚約の条件は、伯爵家の持参金でしたね。婚約破棄を撤回されないということなら、全て返済して頂きますが宜しいですか?」
「持参金は、婚約者に付与されるものだ。返済義務などない。」

「返済義務がないと誰が言ったのでしょうか。契約書の婚約破棄した場合の要項はちゃんと目を通されましたか?家に帰って御当主様と一緒に確認してみて下さい。」

常に落ち着きながら話す彼は、とても人間とは思えない所業だ。年齢は少しぐらいしか離れていないのに無駄に修羅場慣れしていて、貫禄まで感じる。

私がこのまま話さなくても大丈夫なんじゃないかと安心し切っていたが、その期待は裏切られる。

「そういえば、お嬢様。最近物を無くしてはいませんか?例えば、幼少期にセシル様に頂いたネックレスとかは、今もお手元にありますか?」

「えっ…そういえば、今年に入ってから見当たらない気がするわ。」

「そのロケットなんですけど、スフィア令嬢が今、付けてる物とよく似ていませんか?」

私がまじまじと彼女の首元を見ると、彼に貰ったそっくりなネックレスをつけていた。もしかしたら、私が持っていたものと同じ物をセシルに強請ったのかもしれない。

「気のせいよ!」

セシルが同じ商会から購入したもので、別物なのではと思った。

「そのロケットの裏側には、 私の主人の名前、スカーレットの文字が彫られているはずですよ。セシル様確認してみて下さい。」

そういえばリュカは、執事ではあるが、司祭の資格も持っていた。司祭と言っても教会に常駐する必要はないので、いつも私の傍に控えている。

ちなみにリュカはただの司祭ではない。恩恵持ちの珍しい神父で、千里眼のような能力を持っている。
人が知らないことを知っているというのは、誠に信じられない話で、あまり世間一般的には認知はされていない。

「それは本当か?少し、見せてはくれないだろうか。もしかしたらリュカがスカーレットと結託して嘘を言っている場合もある。」

セシルがロケットの裏側見ようと、画策するが、スフィアは意地となって見せようとしない。

「私のセシルへの愛を疑うの?ロケットの裏側には何にも書いてないわよ。」

セシルに試すような事ばかり言う罪作りな彼女に怒ってはいけない。
リュカが公然で嘘をつくはずもないのだけど、ここは耐えて成り行きを見守る。最初に必要な時以外黙ってろって言われたし。

「ここで確認しないと、私とお嬢様が結託しているかどうかずっと分からないままになりますよ。おや、この騒ぎを聞きつけて来た周囲の人も、スフィア令嬢の発言を疑い始めています。セシル様は、彼女の身の潔白を証明しないんですか?」

リュカの言葉は本当か気になり、周りを眺めると、人だかりができていた。
早く確認しろとヤジも飛ばすものさえいる。
自分のことばかりで精一杯だったので思ったより人が集まっていたので驚いた。


意を決して、ロケットの裏側を見てみると、
そこには彫られた文字を抉るような傷ができていた。文字は全ては読めないが、私の名前の文字数と同じだけ傷があることが判明した。

セシルは青ざめた。
最愛の恋人が、元婚約者の所有物を盗み自分の物にしていたなんて。
何にも言えなくなったセシルが呆然としているところに、すかさず執事は言い放つ。

「どうやら、刻印された文字が削られていたようですね。スフィア令嬢は、私のお嬢様の私物を盗み自分のものにしていたようです。」

「これは私のよ!私がセシルに貰ったの!」

スフィアは諦めずに無罪を主張する。
唖然としているセシルから、いとも簡単にペンダントを取り戻した。 

その言動を予想していたかのような私の執事は、
「貰っただと。甚だしい。これは、僕のお嬢様のためにセシル様がプレゼントしたものだ。そもそもお前はこのロケットの中身を見たことがないだろう?」

リュカは、スフィアからペンダントを強引に奪い、ロケットに元々かけられていた保護魔法を解呪する。


中を開くと、そこには幼少期の私とセシルが並んで立っている姿絵が描かれていた。
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