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1章
愚者の狂想曲 14 決着!
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「取引を断る?…それは…本気で言っているのか?」
静まり返っているアジトの広間で、ギルスは凍る様な瞳で俺を見つめて言う。周りで見ている、マルガリーゼロッテは勿論の事、村の人々も驚きの表情で俺を見ていた。
「ああ!本気だ!俺は、お前と取引をしない!俺はお前達3人に勝って、俺の道を進む!」
グリムリッパーの剣先を、ギルスに向けて、不敵に笑う俺を見て、盛大に溜め息を吐くギルス。
「…ったっく、最近の若い奴らは、身の丈を超える野心を、抱きすぎだな。お前LVの奴が、俺達3人に勝つなんて、夢のまた夢なのによ。正に愚者のやる事だぜ?ちょっとは、使えそうな奴だと思ったが、違った様だな!」
剣を肩に担いで、トントンと剣を揺らし、見下す様な冷たい目で俺を見ているギルス。
「愚者で結構!…そんなお前達は、その愚者にやられるんだ!俺の切り札でな!」
俺はグリムリッパーを構え、再度、闘気術を展開させる。俺の体は、薄紅色の輝くオーラで包まれてゆく。
「言葉で言っても、解らねえ様だな…。なら…きっちりその体に教え込むのが、大人の役目ってな!」
ギルスも気戦術を展開する。淡黄色に光るオーラがギルスを包み込む。
「もう、容赦はしねえ…覚悟するんだな!」
そう言い放つと、もの凄い勢いで間合いを詰めてくるギルス。
「俺も、本気だ!ただではやらせないね!」
俺は高速で間合いを詰めて来るギルスの少し前の足元に、グリムリッパーの魔法弾を、多数撃って行く。
「ガガガガガガガオン!!!」
けたたましい銃声が鳴り響き、地面に撃ち込まれた魔法弾は、沢山の砂煙を巻き上げ、一瞬視界を悪くする。それと同時に、ギルス目掛けて、多数の石や砂と一緒に、飛んでくるものがあった
「なにいい!!地面から魔法弾だと!?」
地面に撃ち込んだと思われた魔法弾が、地面で跳ねて、複数ギルスに向かっていた。俺はグリムリッパーの魔法弾の威力を弱めて、斜めから撃ち込んで、地面で弾を跳弾させたのだ。
「そいつは跳弾だ!で…此方が俺の切り札だ!!!」
俺は一気に気勢を高める。体を包む、薄紅色の輝くオーラが光り輝く。
「くらえ!!迦楼羅流銃剣術、奥義、百花繚乱!!!」
跳弾した魔法弾を避ける為に、動きの止まったギルスに、グリムリッパーから射撃された、何百と言う流星嵐の様な魔法弾が襲いかかる。余りの射撃の連射で、銃声が獅子の唸り声の様に、爆音となって、辺りに響き渡っていた。
「これが狙いだったのか!!!」
顔を歪める、ギルスであったが、流星嵐の様な魔法弾が当たる直前に、気戦術の淡黄色に光るオーラが光り輝き、一瞬でギルスの姿が消える。
「気戦術…瞬迅…斬…!」
その呟きは微かなものだった。俺の左後方から、物凄い殺気を感じ、俺は無意識に跳躍してその場を離れた。その後、風の様な物が俺の胸辺りを掠めて行った。その次の瞬間、俺の胸が、黒鉄のブリガンダイン事斬れて、大量の血が胸から吹き出す。そして、風が吹き抜けた先に、名剣フラガラッハを、振り切った体制のギルスの姿が目に入った。俺は片膝をついて蹲る。
「ご主人様ー!!!もうやめて下さい!!」
マルガは可愛い瞳から、涙を流しながら俺に叫ぶ。その隣で、リーゼロッテが激しく瞳を揺らしている。
「まさか…まだあんな手を持っていやがったとはな。言うだけの事はあったな。しかも、無意識で殺気を感じ取り、俺の技…瞬迅の斬を躱し、その程度の傷で、済ますとは…素直に褒めてやるよ」
大量の血を流して蹲る俺に向き直り、鋭く光る眼光を向けるギルス。
「だが、俺の瞬迅の斬を躱したとはいえ、それは即死を避けただけの事。その傷は、致命傷に近い。もうお前に、戦うだけの力は無いだろう?…最後の機会をやろう。俺の部下になれ。悪い様にはしない。最後の切り札も、俺には通じなかった。もう十分に戦っただろう?これ以上愚者の様な行為をするのは、辞めるんだな」
再度俺に諭すように言うギルス。俺は、血を流しながら、フラフラしながら立ち上がった。
その俺の姿を、目を細めて見ているギルスに、
「…何時まで…上からモノ言ってんだよ…ザコが…」
「…なに?」
「何時まで、上から物言ってんだって、言ってんだよ!!このザコが!!」
ギルスを激しく睨みながら、俺は雄叫びの様な声を、ギルスに吐きかける。
「俺に、部下になれだって?ふざけた事を!俺はな、誰の部下にもならねえよ!ましてや…俺より弱いザコの部下になんか、願い下げだ!お前は俺より…弱い!」
「…この俺が…お前より…弱いだと…?」
「ああ!弱いね!何故なら、俺はこの通り、まだこうしてお前の前に立っているからな!お前の、ネコを撫でる様な剣技では、俺は殺せねえなあ~!俺はまだ生きている…俺の鼓動は脈々と打っているぞ?俺を殺したきゃな、俺の心臓でも、一突きにでもする事だな!解ったか!調子に乗ったザコが!!」
嘲笑う様に、胸を叩きながら、言い放つ俺を見て、ギルスは今迄見た事の無い、凍る様な目付きで俺を見て
「…お前の言いたい事は良く解った。そんなに死にたいのなら…一瞬でそうしてやろう…」
ギルスは淡々とそう言うと、名剣フラガラッハの剣先を、静かに俺に向ける。ギルスを包んでいた、気戦術の淡黄色に光るオーラが、眩い光を放っている。
そして、それは…一瞬の出来事であった。
目の前で、名剣フラガラッハを構えていたはずの、ギルスの姿が消える。その後に吹き抜ける風…
「トン…」
微かに、胸に何かを感じる。ふと視線を胸元に下ろすと、ギルスが名剣フラガラッハを、俺の左胸、心臓に、柄の部分まで、深々と突き刺していた。背中に視線をやると、俺の体を突き抜けている、名剣フラガラッハの剣先が見えた。
「気戦術…瞬迅…突…」
ギルスは静かにそう呟く。それと同時に、夥しい流血が、俺の左胸と背中から、まるで噴水の様に吹き出した。
「ゴ…ゴフォ…」
俺は口から大量の血を吐く。気管に血が入り、呼吸も出来ない。体が痙攣を始め、そして、糸の切れた人形の様に、俺の首は項垂れ、事切れる。
「いやーーーー!!!ご主人様ーーーー!!!!!」
マルガは両手で顔を抑えながら、嗚咽混じりに叫ぶと、膝から崩れ落ちてしまった。リーゼロッテは綺麗な透き通る様な、金色の瞳に涙を溜めながら、
「貴方達…許さない…何時か必ず…貴方達の首に、牙を立てて…さしあげます!」
リーゼロッテは、一筋の涙を流しながらも、決してギルスから目を逸らさずに、静かにそう告げる。そんなリーゼロッテに、フッっと少し寂しそうに笑うと
「そんな事出来る訳ねえだろ?お前はそこの亜種の少女と一緒に、奴隷商人に売られ、どっかの金持ちのジジイの慰み者になる運命なんだからよ!」
マルガと、リーゼロッテを見ながら、吐き捨てる様に言うギルス。
「この世な、力なんだよ!力が全て!力の無いお前達は、俺の言う通りにしか出来無いんだよ!そうじゃないと、この行商人の少年みたいに、死んじまうんだよ!…力が支配するこの世界がな…ひっくり返る事なんか…ねえんだよ!」
そう声高に叫ぶギルスに、マルガとリーゼロッテは、きつく睨みながら、涙を流していた。
アロージオや村の人々は、目の前で、刺殺されている、行商人の少年を見て、全てを諦めた様で有った。
ギルスの言葉を最後に、広いアジトの広間は、静寂に包まれた。まるで全ての終わりを告げる様に…
それを理解したギルスが、行商人の少年の死体から剣を抜こうと考え、振り向こうとした時だった。
「そうかな…?」
呟く様な、何処か聞き覚えのある声が、聞こえるはずの無い方向から聞こえる。ふと、その声のする方にギルスは振り返る。そして、驚愕の表情を浮かべる。
「世界は意外と簡単に、ひっくり返るものかもよ?」
「うわあああ!!!」
瞳を真紅色に光らせている、俺の顔を見て、俺の声を聞いて、初めてその顔を恐怖に染め、声を上げるギルス。それと同時に、死んでいると思っている俺の体から、薄紅色のオーラが光り輝き、包み込む。
「迦楼羅流銃剣術、奥義、雪月花!!!」
闘気術で高められた気が、グリムリッパーの剣先に宿り、薄紅色に輝く三段の斬撃波が、ギルスに襲いかかる。
「グッハアア…!」
無意識に気戦術の防壁を張った、ギルスであったが、超至近距離からの雪月花の三段の斬撃波を、完全に防ぐ事は出来無かった。左手の手首を切断され、胸を十字に深く斬りつけられ、唸り声を上げながら、壁に叩き付けられた。地面で大量の血を流しながら、蹲っているギルス。
「ご主人様!!!!」
マルガのなんとも言えない、喜びの声が聞こえる。チラっとマルガを見ると、可愛く大きな瞳が、涙でグシャグシャになりながら、喜びの表情を浮かべている。それにちょっと、吹き出しそうになる。
「本当に可愛いんだからマルガは…。おら!ギルス!世界がひっくり返った瞬間だ!咄嗟に気戦術でダメージを減らして、即死は免れた様だが、その傷は確実に致命傷!これがトドメだ!!!」
俺は声高らかに、そう宣誓する様に叫ぶと、2丁拳銃のグリムリッパーを、蹲っているギルスに向ける。
そして、魔法弾を撃とうとした時に、素早くギルスの前に立ちはだかる人影が居た。
「マジックシールド!!!」
ギルスを庇う様に前に立ち、魔法障壁効果のある、マジックシールドを張り巡らせ、魔法弾の攻撃からギルスを守っているカチュア。その行動に、思わず瞳が歓喜に染まる。
「予定通りの行動をしてくれて、ありがとよ!」
俺はそう叫び、2丁拳銃のグリムリッパーを腕を伸ばして、前方で2丁を合わせる。闘気術の薄紅色のオーラが光り輝く
「迦楼羅流銃剣術、奥義、迦楼羅咆哮!!!!」
前方で2丁合わせられた銃口から、何かのレーザーの様な太い光線が、渦を巻きながら、超高速で発射される。その超高速の渦を巻く虹色の光線は、マジックシールドを突き破り、カチュアの右胸に、大きな風穴を開ける。それは、一目見て致命傷だと解る傷であった。
「グウ…」
小さな唸り声を上げて、地面に伏せて、撃ち抜かれた右胸を押さえるカチュア。
「これで2人目!最後は…」
その続きを発しようとした時、強烈な殺気と、気の力を感じ、左に力一杯跳躍する。
「ドッッガガガン!!」
俺がさっき迄立っていた地面は、大きな音を立てて、地響きと共に激しく陥没していた。それは巨躯の男、ホルガーと呼ばれた男が、巨大なバトルアックスを振り下ろしていた結果だった。
ホルガーは瞬時に体制を立て直すと、俺目掛けて跳躍してきた。その両手には、巨大なバトルアックスを大きく振りかぶっている。
俺は避けようとしたが、まだ胸に、名剣フラガラッハが刺さったままで、思う様に力が出ない。
俺は咄嗟に、壁際で蹲っている、ギルスとカチュアに、グリムリッパーの銃口を向け、数発発砲する。
それに気が付いた、ホルガーは、気戦術を使って、一瞬で2人の前に立ち、グリムリッパーの魔法弾を、巨大なバトルアックスで弾き飛ばす。それを確認して、ゆっくりと俺は体制を立て直す。
「へ!あんな残虐な事を平気でするお前達なのに、仲間は大切ですってか?」
俺のその言葉に、表情を一切崩さずに、俺を睨みつけるホルガー
「…これは全て…お前の計算の上での事だったのだな?」
「…計算通りとは?」
「ギルスの意表を付いて、大技で仕留める為に演技をして…死んだふりをして、避けられない至近距離で攻撃出来る様にし、その後、ギルスを庇って、カチュアがマジックシールドを張る事を予測して、マジックシールドを貫通する攻撃を放ち、カチュアを行動不能にし、そして、その2人を俺が庇うと解っていて、あの状況で、俺の攻撃を避けようともせず、2人に銃口を向け、発砲した…。その胸に剣が刺さっているのに平気なのは、どんな細工が有るか俺には解らないが…大したものだな…行商人の少年よ!」
冷静に淡々と話すホルガー。
まあ…大体その通りだね。唯一の計算外は、ギルスのやつが俺の胸に、余りにも深く、この剣を…柄の部分まで突き刺してくれたって事だな。こんなに深く刺されたら、グリムリッパーの召喚を解除して、両手で剣を引き抜かないと、抜けやしない!そんな事、この巨躯のホルガー相手にしたら、その隙に一瞬でやられるよ!クソ…ギルスの奴を、挑発しすぎたかな…?…反省!…ガク…
「ま~お前の言った通りだね。ギルスの奴をやった時点で、俺の賭けは成功していたんだ。ギルスがやられれば、必ずその女が、真っ先に助けに入るのも解っていた。その女はギルスの女なんだろ?愛する男に必ず身を捧げるって解っていた。そして、その女は頭の回転が速いから、きっと、俺がグリムリッパーの魔法弾での追撃を、予測する事も解っていた。その女は、一切無駄な事をしそうにないタイプだからな。後は…お前だけだった。だがそれも俺の予測通りだったな。お前達は、そこで死んでいる兵隊達とは何か違う、絆みたいなものを感じた。コイツらとは違う…もっと深い絆をな。だから、お前が2人を絶対に庇うと確信していた」
胸の剣は、ヴァンパイアハーフの超回復のお陰なのは秘密だけどね!しかし…マジで苦しい…
ホルガーは俺をキッと睨み、そして、軽くカチュアに振り返る。
「カチュア。お前と、ギルスを回復するのに、どれ位かかる?」
「…今は応急処置の治癒魔法を、2人同時にかけている段階よ…。本格的に回復する迄には、まだかなり時間が掛るわ…お願い出来る?ホルガー」
「承知した。此処は俺が何としても守る!お前は治癒魔法に専念しろ!」
2人の前に立つホルガーは、巨大なバトルアックスを掲げ、身構えている。
っち…やっぱりあの女、治癒魔法を使えたか。此方は、ぎりぎり超回復でもっている状態。一刻も早く剣を抜きたいが、この状態では抜けやしない。かと言って時間を与えすぎると、折角行動不能にした、ギルスとカチュアが復活しやがるし…そうなったら、今度こそ終わりだ。早めに決着を着けないと…
「お前にそれが出来るのか?2人を守りながら、俺と戦うって事をな。確かにお前の方が、LVも経験も上だろうが、俺にも通常じゃない攻撃力がある。それに、まだ切り札を持っているかもしれないぜ?」
俺のその言葉に、初めて顔を歪ませるホルガー。
俺にこれ以上の策は無いけど、コイツには少しでも焦ってもらわないと。俺の力が尽きる前に…倒す!
「じゃ~此方から行く!」
俺は闘気術を展開する。光り輝く薄紅色のオーラが、俺の体を包む。そして一気に、気勢を高める
「くらえ!迦楼羅流銃剣術、奥義、百花繚乱!!!」
グリムリッパーから射撃された、何百と言う流星嵐の様な魔法弾が、何百という花が咲き乱れる様に、ホルガーに襲いかかる。
それを見たホルガーは、気戦術で気勢を上げる。力強く淡黄色に光るオーラが、ホルガーの体を包む。
「気戦術、坊壁陣!」
ホルガーの周りに、淡黄色に光るオーラの光が、盾の様に集まりだす。
「ギャリリリリリリリリリリ!!!」
何百と言う魔法弾が、気戦術の盾に、衝突して行く。その衝突の余波で、辺りに砂煙が舞い上がる。
全ての魔法弾の衝突が終わり、砂煙が晴れて来た時に、傷ひとつ付いていない、ホルガーの気戦術の盾が見えた。
『オイオイオイ…アレだけの魔法弾を食らって、無傷かよ…クソ…』
そう心の中で呟いて、再度構え直そうとした時に、膝に力が入らなくて、跪いてしまった。
「…どうやら…貴様も限界に近い様だな…。このまま守りに徹していれば、ギルスもカチュアも、いずれ回復する。それまでにお前の方が、力尽きそうだな」
そう言ってニヤっと嗤うホルガー。
確かにヤバイ…。思ったよりもダメージが蓄積している。奥義クラスの技も、使えて後1回が限界だろう。ギルスの奴め…剣という足枷を最後に付けやがって!此れがなければ、もっと楽に戦える予定だったのにな!
名剣フラガラッハが刺さっている所の体の細胞と心臓が、斬られては、再生を繰り返し、かなりの痛みと苦痛を伴い、気持ちが悪い…出血も止まっていないし、このままでは、どんどん超回復の回復値を削られて、全く動け無くなるのも近いだろう。一気に片を付けないと!
俺はフラフラしながら立ち上がり、2丁拳銃のグリムリッパーを構える。
「一気に勝負を付けさせて貰う!」
「…今のお前に…出来るかな?」
俺とホルガーは激しく睨み合い対峙する。俺は闘気術を使って、瞬時にホスガーに跳躍する。
そして、後少しで間合いに入ると言った所で、膝の力が抜けて、バランスを崩し、蹲ってしまった。
『しまった!思ったよりも、超回復が削られていたのか!足に…ち…力が…入らない!』
ホルガーに視線を戻すと、嬉々とした表情で、巨大なバトルアックスを振り上げていた。
『あの巨大なバトルアックスで、頭を割られたら、超回復のある俺でも即死は必死!避けたいけど、足に力が入らなくて、動けない!クソ!ここまで来て、俺は終わってしまうのか!?ここまで追い込んだのに…あと一歩で、手が届くのに!な…何か無いのか!?何か!!!!』
俺のそんな心の叫びも虚しく、ホルガーは今まさに、巨大なバトルアックスを振り下ろそうとしていた。俺はホルガーを睨み、キュッと唇を噛む。ホルガーの殺気が大きくなり、巨大なバトルアックスが振り下ろされる瞬間、何かがホルス目掛けて飛んで来た。
「グアアアア!!!」
全く予期せぬ所からの攻撃に、ホルスは為す術が無かったであろう。ホルスの右目には、細い釘の様な物が刺さって、血を流しながら、唸り声を上げる。それと同時に声が聞こえた。
「葵兄ちゃん今だ!今が好機だよ!やっちゃええええええ!!!!」
声の方に振り向くと、アジトの広間の入り口で、ホルガーに投擲をしたマルコが、声高に叫ぶ。
「ああ!マルコがくれた好機を逃す訳にはいかないね!!!!」
俺はそう叫んで、闘気術の気勢を高める。薄紅色のオーラが光り輝く。そして、2丁拳銃のグリムリッパーの銃口をホルガーに向ける。
「これで終わりだ!!!迦楼羅流銃剣術、奥義、百花繚乱!!!」
マルコの投擲によって、右目を潰され、隙を作った無防備なホルガーに、2丁拳銃のグリムリッパーから射撃された、何百と言う流星嵐の様な魔法弾が、何百という花が咲き乱れる様に、襲いかかる。
「ぐぎゃああ!!!!」
断末魔の叫び声を上げるホルス。その巨躯の体に、何百と言う魔法弾を浴びて行く。ホルガーの巨躯の体は、魔法弾に撃ち抜かれ、肉片になって、血を撒き散らしながらグシャっと地面に崩れ落ちた。
「やっったああああああ!!!葵兄ちゃんの勝ちだ!!」
アジトの広間の入り口で、勝鬨の様な声を、嬉しそうに上げているマルコ。
俺はゆっくりと、足に力を入れて、フラフラしながらも、何とか立ち上がった。そして、残されたカチュアとギルスの前にゆっくりと、足を引きずりながら歩いて行く。
「どうやら俺の勝ちの様だな!ギルスは気絶中、お前も辛うじて、応急処置の治癒魔法が使える程度。俺もギリギリだけど、まだ、グリムリッパーでお前達2人を、魔法弾で撃ちぬく力は残っている。勝負あったな!」
俺はそう告げると、ギルスとカチュアに、銃剣2丁拳銃のグリムリッパーの銃口を向ける。カチュアは、俺を睨みつけながら、
「助けて…と、言っても、助けてはくれなさそうね。…本当に私達を倒すなんて…貴方一体…何者?」
俺を睨みながらも、静かに言うカチュアの問に、満面の笑顔で
「俺は旅の行商人!それ以上でも、それ以下でもないね!商人は、自分の利益を最優先にする。その、利益を守る為なら、なんでもするんだよ。覚えておくんだな!」
俺のその言葉に、フッと軽く笑い
「そう…私達は、騎士や傭兵でもない、行商人に負けたのね。フフフ…でもね、行商人の少年さん。この次に会った時は、この様にはなら無い事を、覚えておきなさい」
「はあ?お前達に、この次なんか無いよ?俺はそうやって、逆恨みされるのなんか嫌だから、対峙した野盗や盗賊は、きっちり殺す事にしてるから」
その言葉を聞いて、フフフと嗤うカチュア
「そう、良い心がけね。でもね…次からは、すぐにそれを実行する事ね」
そう言ってニコっと微笑むカチュアは、胸に付けていた、ネックレスの飾りの宝石のトップを、握り締める。次の瞬間、まばゆい光が発せられ、俺は視界を奪われる。
「さよなら…行商人の少年。次に会う事があったら、油断なくきっちり貴方を殺して上げるわ。楽しみにしてなさい」
そう言い残して、まばゆい光に包まれたギルスとカチュアは、一瞬で消えてしまった。
「ええええ!?ちょ…消えちゃいましたけど!?」
俺がキョロキョロ辺りを見ながら、驚き困惑していると
「恐らく…転移のマジックアイテムを使ったのでしょう。物凄く高価な品らしいですけど、一瞬で、遥か遠くまで移動できるマジックアイテムらしいです。もう、この周辺にはいないでしょう。探すのは不可能ですね」
リーゼロッテが、そう言ってエルフの博学を披露してくれた。転移って聞いた事あるけど、本当に出来るんだな…魔法世界…怖す…
俺は、脅威が無くなった安心からか、一気に力が抜けて、その場で蹲ってしまった。
「ご主人様ー!!!!!」
マルガが、泣きながら物凄い速さで、俺まで走り寄って来た。
「ご主人様!大丈夫ですか!?す…すぐに、手当をしないと!!」
俺の胸に刺さっている、名剣フラガラッハと、そこから流れ出ている大量の血を見て、マルガの顔は蒼白になっていた。俺は、慌ててアワワとなっている、マルガの頭を優しく撫でる
「だ…大丈夫だから。今はこれ位じゃ死なないから安心して」
その言葉を聞いて、綺麗なライトグリーンの瞳に、涙を一杯浮かべて、安堵の表情を浮かべるマルガ
「一体どうやったら、剣が心臓に刺さっているのに、死なずに動けるのですか?」
「だよね!どういう仕掛けになってるのか、教えてよ葵兄ちゃん!」
いつの間にか傍に来ていた、リーゼロッテとマルコが、興味ありげに刺さった名剣フラガラッハを見つめていた。
「その説明は置いておいて、とりあえず…マルガとリーゼロッテさんとマルコで、この剣抜いてくれない?今気が付いたけど、俺じゃ剣を全部引き抜くには、手が届か無いっぽいから」
俺が苦笑いしながら言うと、3人は頷いて、俺の胸に刺さっている、名剣フラガラッハの柄を3人で握る。
「ウ…クウウウウ!」
柄を握った振動が響き、思わず痛さで声を上げてしまった。
誰だよ!心臓には痛覚がないって言った奴は!めっちゃ痛いんですけど!まあ…心臓じゃなくて、他の部位が痛いんだろうけどさ!
麻酔…してほちい…衛生兵!衛生兵はどこですか~?…居ないのは解ってますよ…おちっこチビリそう…ガク…
「では、ゆっくりと抜きますね」
「いや!一気に行って~~!!」
間髪入れずそう言った俺のその言葉に、3人はキョトンとしていた。
だってさ!ガムテープとか、顔に張られたやつを剥がす時ってさ、ゆっくりだと、痛いのが長く続くじゃん?オラそんなのやだ!痛いのは一瞬だけが良い!
俺のビビリな感じを汲み取ったのか、3人は顔を見合わせ、名剣フラガラッハの柄に力を入れる。その瞬間だった。
「オロロロ!」
胸に刺さっている名剣フラガラッハの柄に、力を入れられた事で、俺の口から血が流れだした。
マルガは再度蒼白になって、アワワとなっていたが、大丈夫だからと、続けさせた。再度、3人は名剣フラガラッハの柄に力を入れる。
「オロロロロロロ!!」
やっぱり口から血が出ちゃう俺。それを見たリーゼロッテがパッと横を向き、体を小刻みに震わせている。
「リーゼロッテさん…もしかして…笑ってません?」
俺がジ~~~っとリーゼロッテを見つめると、コホンと軽く咳払いをして、
「そんな事はありませんよ。こんな時に、私がこんな事で笑うなんて、ありえませんわ」
そう言って微笑むリーゼロッテは、視線を合わせてはくれなかった。
「本当に…?」
「勿論です。まあ…昔、お腹の仕掛けを引っ張ると、口から水を吐く玩具を、少し思い…出しました…けど…プププ」
そう言って、再度横を向いて、小刻みに体を震わせているリーゼロッテ。
やっぱり笑ってるじゃん!!プププっての聞こえちゃいましたよ?リーゼロッテさん!
そうです!私が変な玩具です!とか、おじさん風に言った方が良かったですかね~~~???
非の打ち所が無いと思われていた、リーゼロッテさんにも、マルガ同様、こんな所でマイナス修正されていたとは…意外とSなんですね…リーゼロッテさん…
俺達は気を取り直して、どうにか名剣フラガラッハを胸から抜く事に成功した。抜く瞬間まで、リーゼロッテさんは、俺を見ない様にしてたのは、俺だけの心の中に留めておこう…ウウウ…
そして、名剣フラガラッハの無くなった、胸の傷から、大量の血が流れ出るが、忽ち胸の傷が塞がって、出血も止まってしまった。それを見たリーゼロッテとマルコは驚愕している
「ど…どういう事なんですか?魔法も使っていないのに、傷がこんなに早く塞がるなんて…」
「葵兄ちゃん凄い!ねえねえ!どんな仕掛けなの!?教えてよ葵兄ちゃん!」
俺が2人に追求されてるのを見たマルガは、アタフタしながら
「え…えっと!そ…それはですね!…そう!…アレです!マ…マジックアイテムです!マジックアイテムを使ったので、回復出来たのですよ!です!」
アワワとなりながら、必死で俺を庇う為に、ウソの説明をするマルガ。
ああ…可愛い…アワワマルガに癒される…
「ま~そういう事です。マジックアイテムですね」
そう言って苦笑いする俺は、マルガの頭を優しく撫でる。マルガは嬉しそうに、尻尾を揺らしていた。
暫く、体力が回復するまで蹲っていた俺は、回復して来たので、皆の所に3人と一緒に戻る。
「凄いですね…私のラウテッツァ紫彩騎士団、第5番隊を全滅させた、アノ集団を、一人で撃退してしまうとは…感服しましたよ葵殿」
アロイージオが、感嘆した表情で、俺を見ている。村人も同じ様な表情だった。
「いえ…彼奴等が油断してくれて、俺の思惑通りに、動いてくれたから、たまたま勝てただけですよ。もし最初から、本気で3人で攻撃されるとかされていれば、勝負は一瞬で決まり、俺はそこの巨躯の男みたいに、肉片になって死んでいた事でしょう。…運が良かっただけですね」
俺が苦笑いしながら言うと、首を軽く横に振り、
「それでも、その結果をもたらせたのは、葵殿の功績です。本当にありがとう葵殿」
「いえ…まだお礼を言って貰うには、早いですね。えっと…メラニー?さん。ちょっと質問良いですか?」
俺の言葉に、少し緊張気味のメラニーが、エイルマーと一緒に、俺の前に来た。
「あ…あの…なんでしょうか…?」
「あ…別に、貴女に何かしようとか、思ってません。貴女は、脅されてこいつらの手先になっていた。って事は、こいつらの、大体の兵力や動向、予定とか解りませんか?この後の対策を練りたいので、教えて欲しいのです。こいつらの他に…まだ兵力は有りますか?」
「えっと、兵隊達は、ここに居るのが、全部だと聞いています。ただ…先程の…転移したお頭達の仲間が、まだ3人程居るとは聞いています」
その言葉に一同の顔が蒼白になる。
オイオイオイオイ!!あんなクラスの奴等が、まだ3人も残ってるの!?
やっとこさ、3人を撃退出来た所なのに、これ以上あれ位のクラスを相手にして、勝てる自信は無い。
どうする…どうする…何か手を、至急考えないと!
顔を蒼白にし、深刻そうな俺を見て、気まずそうに言うメラニー
「あの…その3人は、遠くの街か何処かに取引中とかで、此処に来るのは7日は掛るって言ってました。…言うのが遅くて…すいません」
苦笑いをして、頭を下げるメラニー。
「なるほど!7日掛るのなら、この村に港町パージロレンツォから守備隊が来る方が早いですね」
守備隊の方が早く着ける事に、皆が頷き、安堵していた。
「って事は、馬でエイルマーさんに、港町パージロレンツォに守備隊を呼んで来て貰って、俺達はその間、村で防衛戦を張って、村を守っています。…メラニーさんの話では、もう、兵隊達は居ないとの事ですが、護衛も付けずに、港町パージロレンツォに向かうのは危険かもしれませんけど…エイルマーさんよろしいですか?」
エイルマーは暫し目を閉じ、覚悟を決めた様な表情で
「ええ!私が行きます!元々そのつもりでしたしね。それに私は此れでも副村長ですからね。村の危機とあれば、なんでもします!」
そう言って、死体になっているハンスを、淋しげに見て居るエイルマー。
「…そうですか…。ではお任せします。それから…村の女性の方…こっちに来てくれますか?」
俺に呼ばれ、5人の村の女性が、俺の元に集まって来た。
「貴女達に集まって貰ったのは、僕が、貴女達と取引をしたいからです」
「わ…私達と…取引ですか?」
俺の思いもよらない言葉に、戸惑っている女性達。
「ええ取引です。僕は今の貴女達が、とっても欲しがる物を持っているんです」
俺はアイテムバッグから、小さな羊皮紙で包まれた物を取り出した。
「そ…それは…なんですか?それが、私達の欲しがる物…なんですか?」
「はいそうです。これは…子卸こおろしの薬です…」
その言葉を聞いた女性の顔が、一変する。
子卸こおろしの薬…つまり、堕胎させ、妊娠させない為の薬である。この薬を飲めば、妊娠している女性は堕胎し、妊娠前なら、中で出しても妊娠しないと言った薬なのだ。以前、とある商人から、どうしても金がいるからと言われて、10個程安く買った物っだ。
「その顔を見ると、この薬の効果は知っているみたいですね。…貴女達は、あの男達に、何度も精を、注がれてしまった。貴女達は…この死んでいる野盗達の…どれかの子供を宿している可能性があります。そんな汚されて生まれた子供を、貴女達は愛する事が出来ますか?貴女達の愛するご主人は、生まれたその子供を愛してくれると思いますか?貴女達の愛する子供さんは、生まれたその子供と仲良くしてくれるでしょうか?恐らく…答えは難しいでしょう。男なら特に、他の男の種なぞ望ま無いでしょうしね。どうですか?この薬…欲しくはありませんか?」
女性達は俺の掌にある薬を見て、瞳を揺らしている。
「欲しいです!是非売って下さい!お幾らなのですか?」
「はい。お売りしましょう。一つ、金貨10枚でお売りしましょう」
その価格に、一同が唖然としていた。特に女性達は、顔を蒼白にしていた
「き…金貨10枚!?…わ…私達には…そんな大金…とてもありません…も…もっと…お安く売っては頂けませんか?」
「出来ませんね~。この薬は、金貨10枚の価値がある物ですから。特に…貴女達には必要な物でしょう?」
俺の拒絶の言葉に、女性達は、顔を蒼白にして、俯いていた。
「では…こうしましょう。僕の出す条件を聞いて頂けるのであれば、この薬は差し上げましょう。どうですか?」
「…どんな…条件なのですか?」
女性達は、どんな条件を言われるのか気になっているのか、それぞれが戸惑いの表情をしている。
「もう、貴女達は、ほとんどの事を知っていると思いますが、ハンスさんが貴方達にした事は許せる事では無いのは解っています。僕も大切な奴隷に手を出した、ハンスさんを恨んでいます。もし、彼が生きていたなら、僕が彼を容赦無く殺していたでしょう。ですが…ハンスさんのお陰で、貴女達は今生きていられる事も解っていますよね?もし…ハンスさんがこいつらと取引をしなければ、僕が此処に来るずっと前に、貴女達は勿論の事、貴女達の愛するご主人さんや、子供さんは死んでいました。言わば、ハンスさんに、貴女達の愛する、ご主人さんや、子供さんは助けられたと、言う事になります」
俺の言葉を黙って聞いている女性達。
「僕の出す条件は、此処であった事は、誰にも話さないと言うのが、条件です。貴女達は、誰にも汚されていない。つまり、捕まって人質にされただけで、何もされなかったと言う事にして下さい。貴女達の中には、愛する人に、ウソを付く事が嫌な人がいるかも知れません。ですが、全ての真実を話す事が、全ての幸せに繋がるとは思えません。真実を言ってしまったら、さっき言った様に、今まで通り、幸せな家庭生活を送る事は難しいでしょうからね」
女性達は顔を見合せて、俯いている。
「貴方達は、今生きています。家に帰れば、此れから何十年と、愛する人と幸せな日々を送れるでしょう。ハンスさんがした事を許す必要はありません。僕も許す気はありませんからね。ですが…彼はそうするしか無かった…村の人を守る為には…。その事だけは、頭の隅に置いてやって下さい」
胸を貫かれて死んでいるハンスを見ながら、なんとも言えない表情をしている女性達。
「さあ、貴女達はどうしますか?真実を言って、全てを受け入れて、きつい日常と向かい合いながら、生きて行くのか、それとも、僕からこの薬を取って、此れからも幸せに生きるのか…。選んで下さい」
女性達は、戸惑いの表情を浮かべるが、暫く考えた後、何かの決意をしたかの様に、俺の掌の上にある、羊皮紙に包まれた薬を取って行く女性達。無言だが、そこに取引が成立した事を、理解する。
これで…多少なりとも、村の内部が荒れる事は無くなるだろう。
イケンジリの村は小さな村。村長の息子が、如何に村を守る為だと言えど、村の女性にこの様な事をしたとなれば、その責任をアロイス村長は取らされるし、アロイス村長の人格なら、自分から責任を取ってしまうかも知れない。当然エイルマーも、その積を一緒に負うだろう。
アロイス村長や、エイルマーが仕切っていないイケンジリの村など、何の利益もない。
今後の事も考えて、良好な関係を築ける、アロイス村長やエイルマーが、村を仕切って貰わないとね。
「それと、エイルマーさんと、メラニーさんも来て下さい」
俺に呼ばれたエイルマーとメラニーがやって来た。俺はエイルマーに、羊皮紙に包まれた薬を渡す
「葵さん…この薬は…」
「ええ、さっきの女性達の渡した物と同じ、子卸の薬です。メラニーさんにも必要でしょ?」
手渡された薬を見ながら、エイルマーとメラニーは顔を見合わせて、言いにくそうに
「…私は、ベルントに脅されていたとは言え、ハンスさん同様、大変な事をしました。…こんな私にも、その薬を頂けると言うのですか?」
「…そうですね。直接とは言いませんが、貴女もマルガの誘拐に関わって居たと言えば、そうかも知れません。マルガが誘拐されるのを知っていて、僕に教えてくれなかったんですからね」
罪の意識からか、瞳を逸らして俯くメラニー。その隣でエイルマーがメラニーの肩を抱いている。
「ですが、結果的に、マルガは汚されずに済み、マルガを攫ったハンスさんは死に、それを指示いていた奴等も居なくなりました。僕は、今回の事はこれで、自分の中で幕を引こうと思っています。決して、ハンスさんを許す訳には行きませんが…彼の気持ちも解りますしね。そして、メラニーさんの気持ちも…但し、先程の村の女性達と同様、女性達が汚された事は、内密にして貰いますけどね」
そう…ハンスとメラニー…この2人は…俺に似ている。大切な物の為なら、どんな物をも犠牲にしてしまう…正に愚者…。もし、俺がハンスやメラニーと同じ立場だったなら、きっと同じ事をしていただろう。
俺とハンスやメラニーに、大した差はない。ただ、偶然今の位置に居たと言うだけだ。
2人のした事は許せないが、2人はもう十分に、その分の罰は受けている。もう…それで十分だ…。
「メラニーさんはもう十分に、辛い目にあった。これ以上は僕は望みません。ですから、この薬を飲んで、もう一度エイルマーさんと、幸せになって下さい。…マルガも…それでいいかな?」
「ハイ!私はご主人様がそれで良いなら、私には問題ありませんです!…メラニーさんも、エイルマーさんに、一杯幸せにして貰って下さい!」
満面の笑顔でマルガが言うと、メラニーは両手を顔に当てて、涙を流している。そんなメラニーを、包み込む様に抱きしめているエイルマー。マルガはそれを見て、嬉しそうに俺に腕を組んできた。優しくマルガの頭を撫でると、ニコっと微笑んで、金色の毛並みの良い尻尾を、フワフワ揺らしている。
「葵さん…本当にありがとう…」
エイルマーとメラニーは深々と頭を下げる
「ま~此れからも、行商でお世話になりますからね。また、良い取引をお願いします」
「此方こそ!」
俺とエイルマーが、笑顔で握手していると、何やら真剣な顔をしたマルコが、俺の傍に来た。何か心配事でもあるのか気になった。
「どうしたのマルコ?何か気になってる事でもあるの?」
「…オイラ…オイラを、葵兄ちゃんの、本当の弟子にして!」
真剣な面持ちで、俺を見るマルコ。俺は軽く溜め息を吐いて、呆れながらマルコに
「だから…ご両親の許可が…」
「オイラは真剣なんだ!葵兄ちゃんも、真剣にオイラの話を聞いて!」
俺の言葉を遮って、そう言うマルコは、一段と真剣な顔になった。
「…オイラ今迄さ…只漠然と、行商人に憧れていたんだ。自由に世界を旅出来る事を、素敵な事だと、楽しいだろうなって、そう思っていただけだったんだ。でもさ…ハンスさんやメラニーさんの話を聞いて、これじゃダメだって思ったんだ。今はね、村の役に立ちたい!遣り方はまずかったかも知れないけど、村の為に命を掛けたハンスさんみたいに…。ううん…本当は、そんな大きい事じゃなくて、大切な人を、守れる力と知恵が欲しいんだ!その上で、村の役に立てればって、思ってる。だから…お願いします!なんでもするから、オイラを…葵兄ちゃんの弟子にして下さい。お願いします!」
マルコは声高にそう告げると、土下座して頭を地面に付けている。
ムウウ…その真っ直ぐな気持ちは解るけど…どうしよう…
俺がマルコを見て困惑しているのを、感じ取ったマルコが、何かを考えニヤっと笑う
「それに…葵兄ちゃんは、俺を弟子にしないといけないんだよ?解ってるよね?」
「はへ!?どういう事!?」
マルコの思いもよらない言葉に、また変な声を出してしまった俺。…オラ恥ずかしい…うう…
「オイラが、あのでっかい男に、投擲で攻撃しなかったら、葵兄ちゃんは、今生きていないんだよ?きっとマルガ姉ちゃんやリーゼロッテ姉ちゃんも、ひどい目に合う事になってたと思うんだよね。言わば、オイラは、葵兄ちゃんに貸しがあるんだ!もし、オイラを弟子にしないなら、貸しはお金で払ってもらうよ?すごい金額になっちゃうけど、今の葵兄ちゃんに払える?」
不敵な笑みを浮かべながら立ち上がったマルコは、俺の傍まで近寄ってきて
「お金が払え無いなら、オイラにその分を投資して!一杯勉強して、強くなって、投資に見合う様になるから!それとも…命の恩人に、恩を仇で返す様な事をするの?葵兄ちゃん?」
ニヤニヤと笑うマルコに、言葉を無くしていると、マルガとリーゼロッテが楽しげに
「それは仕方ないですね~。大きな借りを作っちゃいましたねご主人様~。」
「そうですね。心配しなくても、葵さんはそんな事しませんよ。ね~葵さん?」
マルガとリーゼロッテは、楽しげに俺を見て、微笑んでいる。そんな、マルガとリーゼロッテを見て嬉しそうにしているマルコが、再度真剣な顔をする。
「葵兄ちゃん!お願いします!俺を弟子にして下さい!」
真剣な面持ちでそう言って、深々と頭を下げるマルコ。そんなマルコを見て、マルガとリーゼロッテは、ジィ~~~~~っと、解ってますよね?と、言わんばかりの視線を投げかけてくる。
ううう…マルガとリーゼロッテの視線が痛い!美少女2人が、追い込みを掛けて来ちゃうよ…うう…
「ったく…投資なんて言葉何処で覚えたのやら……通常のお給金は出せない。食事や宿は同じ様に手配して上げる。何かで儲けが出た時は、その都度相談。利益配分は俺が決める。行商上の俺の指示は、絶対に守ってもらう。いいね?」
観念した様に言う、俺のその言葉を聞いた、マルコは、目一杯の笑顔を浮かべて
「それじゃあ!!オイラを弟子にしてくれるんだね!葵兄ちゃん!」
「但し!きちんとご両親を説得して、許可を貰わないとダメ。それが出来無いと連れて行かない」
「解ってるよ!オイラもきちんと解ってもらって、出立したいからさ!」
マルコは喜びながら、よし!と言って、両手の拳に力を入れている。
「やっぱり、ご主人様は優しいです~。ご主人様大好きです!」
マルガがピョンと俺の腕に抱きつき、微笑む。俺が苦笑いしながら
「俺は優しくないよ。てか、殆ど脅迫ぽかったのは、気のせい?」
「美女2人にそんな事して貰えるのですから、幸せですね葵さんは」
俺がその言葉に憤っていると、マルガ、リーゼロッテ、マルコが嬉しそうに俺を見ていた。
俺は溜め息を吐いて、気を取り直すと、
「よし!此処を出る前に、戦利品を集めるよ!マルガは武器を一箇所に集めて、マルコは死体から、お金を集めて。俺はあっちの馬車を見てくる。マルガは周辺の警戒も忘れないでね」
俺の言葉に、ハイ!と元気に右手を上げて、テテテと走って武器を集めだすマルガ。マルコは死体からお金を集めるのに戸惑っていた
「此れ位で、戸惑っているようじゃ、投資しても無駄かな?」
ニヤっと笑いながら言った俺に、キッと目をキツくして、
「こ…これくらい出来るよ!任せといて!」
マルコは、死体を漁り始めた。そんなマルコを微笑みながら、馬車の所まで行く。
そこには、モンランベール伯爵家の馬車が数台と、盗賊団が使っていたであろう荷馬車があった。
その近くには、モンランベール伯爵家の綺麗な馬と、盗賊団の馬であろう、リーズと同じ丈夫で力のある品種の重種馬だ。荷馬車の方も、細かい作りは荒いが、丈夫に出来ている。
フム…この荷馬車と馬は、なかなかいいな。俺は荷馬車に馬をつなぎ、広間の中央に誘導する。
「この荷馬車と馬を貰う事にしたから、この荷馬車に武器を積んでねマルガ。マルコも終わったら、マルガを手伝って」
「ハイ!了解です!ご主人様!」
「任せといて!葵兄ちゃん!」
2人は元気に返事をすると、指示通りに荷馬車に武器を積んでゆく。俺はアロイージオの所に行き、
「えっと、アロイージオ様。とりあえず、村の人を連れて帰る為に、モンランベール伯爵家様の馬車をお借りして良いですか?」
「ああ、構わないよ。存分に使ってくれたまえ」
アロイージオから承諾を貰ったので、モンランベール伯爵家の馬車一台と、馬を一頭借りる事にした。その馬車も、荷馬車の隣に並べて止める。マルガとマルコは武器を荷馬車に積み終わったみたいだった。
「それじゃ、さっき言った通り、エイルマーさんは港町パージロレンツォに、僕達は村で防衛戦を張りましょう。では行きましょうか。村の人と、アロイージオさんは、この馬車に乗って下さい。少し狭いかも知れませんが、我慢して下さい。マルコは荷馬車を、俺はモンランベール伯爵家様の馬車を、マルガは外のリーズに乗ってね」
皆はそれぞれの馬車に移動する。その時、村の女性達の格好が気になった。女性達は、メラニーを除いて、服を破られていて、半裸状態だった。体も、土で汚れているし、何より、性器は、男達の精液にまみれている。
「女性の方は、そのままの格好で帰ったら、乱暴されたとすぐに解ってしまいますね…。服も破れちゃってますし…」
俺が考えて居ると、何かを思い出したアロイージオが
「それでしたら、あの馬車に、土産に買った、女性の服が積んであったはずです。それをさし上げましょう」
アロイージオはそう言って、一台の馬車を指さす。俺と女性達はその馬車に向かい、服を拝借する。かなり上等な服で、少し女性達は喜んでいる様であった。
「体の方は、村に帰る途中で、川に寄り道しましょう。隅々まで綺麗に洗いましょうね。特に、性器の方は、マルガに手伝わせますので」
俺がそう言うと、マルガは両手をニギニギと、開いたり閉じたりして
「ご主人様直伝の洗い方で、隅々まで綺麗にしちゃいます!」
そんな笑顔のマルガを見て、若干引き気味で、苦笑いしている女性達。
俺達はそれぞれの馬車や馬に乗り、廃坑を出る。
「エイルマーさん、気をつけて下さいね」
「ええ!葵さんも村をよろしく頼みます!」
笑顔で挨拶を交わし、俺達は川に向かい、イケンジリの村に向かうのであった。
此処は、イケンジリの村から遠く離れた、山間にある寂れた教会である。
この世界で、一番広く信仰されている、女神アストライアを崇める、ヴィンデミア教の教会であったのだが、打ち捨てられて、かなりの年月が経つのか、礼拝堂は朽ちて荒んでおり、人が長年手入れをしていない事が容易に伺える。その礼拝堂で、一人の男が目を覚ます。
「う…うん…」
「目が覚めましたか?ギルス」
その優しい声に、ギルスはぼやけた頭を覚ましてゆく。そして、ゆっくりと辺りを見回し、そこが廃坑のアジトで無い事を理解する。
「カチュア…此処は…ランポールのアジトか?…イツツ…」
ギルスは、体を起こそうとして、痛みで身を捩れさせる。
「まだ…動かないで下さい。先程、治療が終わったばかりですので。後1日は、体を動かすのはキツイでしょう」
カチュアは諭す様にそう言うと、ギルスを膝の上に再度寝かせる。ギルスはそれに逆らう事なく、その柔らかい膝に、頭をもたれかけた。
「何故俺達が、此処に居るんだ?俺は一体どうなった?」
「…私が、転移の首飾りで、このアジトまで、貴方と共に転移しました…」
静かにゆっくりと語るカチュアに、此れまでの事を思い出して、軽く溜め息を吐くギルス。
「って事は…俺が…負けたのか?」
「…はい。貴方だけでなく、私やホルガーも、負けてしまいましたわ」
カチュアが、ギルスが気を失った後の事を説明して行く。その内容に、キュっと唇を噛むギルス
「そうか…ホルガーがな…。まんまとあの行商人の少年に、嵌められたって所か…」
「傷が回復したら、報復に出ますか?」
カチュアのその凍る様な声と瞳に、ククッと可笑しそうな声を上げるギルス。そんなギルスに、不満そうな顔を向けるカチュアが
「…何が可笑しいのですか?」
「いや…お前が珍しく…先の事を考えないていない様な事を、言うから可笑しくてさ。…そんなに、愛する俺を傷つけられたのが、我慢出来無かったのか?」
茶化す様に言うギルスを、軽く抓るカチュア
「イテテ…」
「私だって、たまにはそういう時もあります」
少し膨れている、カチュアの顔を触ろうと、ギルスが左手をカチュアの顔に持って行こうとして、左手の手首より先が無くなって居るのが目に入った。
「…斬られた手首を一緒に転移する暇はありませんでしたので」
少しそっぽを向きながら、拗ねる様に言うカチュアに、
「…心配させて、悪かったなカチュア」
「いえ…貴方を守りきれなかった、私が悪いのです…」
カチュアが優しくギルスの頭を撫でる。その手を右手でギュッと握るギルス。
「…今は報復はしない。あの村の奴等は、きっと港町パージロレンツォのバルテルミー侯爵家に、助けを求めている。俺達が体制を整えている間に、バルテルミー侯爵家は自分の騎士団を領地に派遣して、守備を強化しているだろう。バルテルミー侯爵家は、その辺の貴族とは一味も二味も違うからな。それに、バルテルミー侯爵家お抱えの、ウイーンダルファ銀鱗騎士団は、化物揃いで有名だ。そんな化物騎士団を相手になんかしたくねえしな。ほとぼりが冷めるまでは、手が出せ無いだろう」
ギルスの言葉に静かに肯定して頷くカチュア。
「しかし…あの行商人の少年…何者だったんだろう?俺の剣は、確かに心臓を貫いていたはずだ。あの状態で生きていられる訳が無い」
「そうですね…魔法を使った様な感じはありませんでしたので、恐らく何かのマジックアイテムを使ったと思うのですが…」
「そんなマジックアイテム有るのか?俺の知ってる物で心当たりがあるのは、身代わりの人形位しか思いつかないけど、あれって確か…物凄い金額のマジックアイテムだったよな?」
「そうですね、軽く金貨1000枚はする代物ですね。本人の代わりに、1回だけ身代わりになってくれるマジックアイテム。死すらも、身代わりにしてくれるとか…。でも、そんな高価な品を持てる様な財力は無さそうでしたね…」
ギルスとカチュアは顔を見合わせながら考えていた。
「あの行商人は、戦った感じ、LV30弱位だと思う。そんな奴が、身分不相応な強力な召喚武器に、気戦術系のスキルを持ち、尚且つ、身代わりの人形クラスの高価なマジックアイテムも持っていたと…ったく、謎だらけだな」
ギルスが溜め息を吐きながら言うと、カチュアも同じ様に頷く。
「で…此れからどうしますかギルス?」
「そうだな…。イケンジリの村の奴等やバルテルミー侯爵家の連中は、俺達を敗戦兵か脱走兵の集団と思っているだろうから、俺達に辿り着ける様な手がかりは一切掴めないだろう。俺達の、本当の目的には、気付けないだろうさ。その辺は安心して良いだろう…俺達の作戦はまだ始まったばかりだ。港町パージロレンツォに近いあの村を、手に入れられなかったのは痛手だが…仕方無い。とりあえず、俺達は、あの方の御命令を忠実にこなして行くだけだ。とりあえず、あの村に向かう事にする。此処から近いしな。あの3人はどうなってる?」
ギルスの問に、涼やかな微笑みを浮かべるカチュアが
「あの3人は、早馬の伝令を出して、呼び戻しました。暫くすれば、此方に帰って来るでしょう」
「流石仕事が速いなカチュア!後の段取りは任せた!」
ギルスが痛む体をゆっくりと起こす。その体を背中から、優しく抱く様に支えるカチュア
「…しかし、あの行商人の少年のお陰で、かなりの損害が出たな。名剣フラガラッハも奴に取られちまったしな。幸い、貴族の坊ちゃんから巻き上げた、金貨が100枚程あったのが、唯一の救いか?それでも、こっちが大赤字なのは変わらないけどな」
軽く貯め息を吐くギルスに。クスっと笑うカチュアが
「とりあえずは、左手の義手を作りましょう」
「…そんな物無くったって、お前を十分に満足させてみせるぞ?試してみるか?」
ニヤッと笑うギルスの、頬を抓るカチュア
「イテテ…」
「それよりも早く体の方を回復して下さい。その話はそれからです」
「ああ!解ってるよ。じゃ、お言葉に甘えて、もう一休みさせてもらうか。明日には行動を開始する。よろしく頼むカチュア」
ギルスがカチュアの膝の上に再度頭を預けると、その頭を優しく撫でながら頷くカチュア。
新たな脅威は、静かに、小さく芽吹く事になる。誰も知らない内に根を張り、少しずつ侵食して行く。
来る時に、その花がどの様に咲き乱れる事になるのかを、この時は知る由も無かった。
静まり返っているアジトの広間で、ギルスは凍る様な瞳で俺を見つめて言う。周りで見ている、マルガリーゼロッテは勿論の事、村の人々も驚きの表情で俺を見ていた。
「ああ!本気だ!俺は、お前と取引をしない!俺はお前達3人に勝って、俺の道を進む!」
グリムリッパーの剣先を、ギルスに向けて、不敵に笑う俺を見て、盛大に溜め息を吐くギルス。
「…ったっく、最近の若い奴らは、身の丈を超える野心を、抱きすぎだな。お前LVの奴が、俺達3人に勝つなんて、夢のまた夢なのによ。正に愚者のやる事だぜ?ちょっとは、使えそうな奴だと思ったが、違った様だな!」
剣を肩に担いで、トントンと剣を揺らし、見下す様な冷たい目で俺を見ているギルス。
「愚者で結構!…そんなお前達は、その愚者にやられるんだ!俺の切り札でな!」
俺はグリムリッパーを構え、再度、闘気術を展開させる。俺の体は、薄紅色の輝くオーラで包まれてゆく。
「言葉で言っても、解らねえ様だな…。なら…きっちりその体に教え込むのが、大人の役目ってな!」
ギルスも気戦術を展開する。淡黄色に光るオーラがギルスを包み込む。
「もう、容赦はしねえ…覚悟するんだな!」
そう言い放つと、もの凄い勢いで間合いを詰めてくるギルス。
「俺も、本気だ!ただではやらせないね!」
俺は高速で間合いを詰めて来るギルスの少し前の足元に、グリムリッパーの魔法弾を、多数撃って行く。
「ガガガガガガガオン!!!」
けたたましい銃声が鳴り響き、地面に撃ち込まれた魔法弾は、沢山の砂煙を巻き上げ、一瞬視界を悪くする。それと同時に、ギルス目掛けて、多数の石や砂と一緒に、飛んでくるものがあった
「なにいい!!地面から魔法弾だと!?」
地面に撃ち込んだと思われた魔法弾が、地面で跳ねて、複数ギルスに向かっていた。俺はグリムリッパーの魔法弾の威力を弱めて、斜めから撃ち込んで、地面で弾を跳弾させたのだ。
「そいつは跳弾だ!で…此方が俺の切り札だ!!!」
俺は一気に気勢を高める。体を包む、薄紅色の輝くオーラが光り輝く。
「くらえ!!迦楼羅流銃剣術、奥義、百花繚乱!!!」
跳弾した魔法弾を避ける為に、動きの止まったギルスに、グリムリッパーから射撃された、何百と言う流星嵐の様な魔法弾が襲いかかる。余りの射撃の連射で、銃声が獅子の唸り声の様に、爆音となって、辺りに響き渡っていた。
「これが狙いだったのか!!!」
顔を歪める、ギルスであったが、流星嵐の様な魔法弾が当たる直前に、気戦術の淡黄色に光るオーラが光り輝き、一瞬でギルスの姿が消える。
「気戦術…瞬迅…斬…!」
その呟きは微かなものだった。俺の左後方から、物凄い殺気を感じ、俺は無意識に跳躍してその場を離れた。その後、風の様な物が俺の胸辺りを掠めて行った。その次の瞬間、俺の胸が、黒鉄のブリガンダイン事斬れて、大量の血が胸から吹き出す。そして、風が吹き抜けた先に、名剣フラガラッハを、振り切った体制のギルスの姿が目に入った。俺は片膝をついて蹲る。
「ご主人様ー!!!もうやめて下さい!!」
マルガは可愛い瞳から、涙を流しながら俺に叫ぶ。その隣で、リーゼロッテが激しく瞳を揺らしている。
「まさか…まだあんな手を持っていやがったとはな。言うだけの事はあったな。しかも、無意識で殺気を感じ取り、俺の技…瞬迅の斬を躱し、その程度の傷で、済ますとは…素直に褒めてやるよ」
大量の血を流して蹲る俺に向き直り、鋭く光る眼光を向けるギルス。
「だが、俺の瞬迅の斬を躱したとはいえ、それは即死を避けただけの事。その傷は、致命傷に近い。もうお前に、戦うだけの力は無いだろう?…最後の機会をやろう。俺の部下になれ。悪い様にはしない。最後の切り札も、俺には通じなかった。もう十分に戦っただろう?これ以上愚者の様な行為をするのは、辞めるんだな」
再度俺に諭すように言うギルス。俺は、血を流しながら、フラフラしながら立ち上がった。
その俺の姿を、目を細めて見ているギルスに、
「…何時まで…上からモノ言ってんだよ…ザコが…」
「…なに?」
「何時まで、上から物言ってんだって、言ってんだよ!!このザコが!!」
ギルスを激しく睨みながら、俺は雄叫びの様な声を、ギルスに吐きかける。
「俺に、部下になれだって?ふざけた事を!俺はな、誰の部下にもならねえよ!ましてや…俺より弱いザコの部下になんか、願い下げだ!お前は俺より…弱い!」
「…この俺が…お前より…弱いだと…?」
「ああ!弱いね!何故なら、俺はこの通り、まだこうしてお前の前に立っているからな!お前の、ネコを撫でる様な剣技では、俺は殺せねえなあ~!俺はまだ生きている…俺の鼓動は脈々と打っているぞ?俺を殺したきゃな、俺の心臓でも、一突きにでもする事だな!解ったか!調子に乗ったザコが!!」
嘲笑う様に、胸を叩きながら、言い放つ俺を見て、ギルスは今迄見た事の無い、凍る様な目付きで俺を見て
「…お前の言いたい事は良く解った。そんなに死にたいのなら…一瞬でそうしてやろう…」
ギルスは淡々とそう言うと、名剣フラガラッハの剣先を、静かに俺に向ける。ギルスを包んでいた、気戦術の淡黄色に光るオーラが、眩い光を放っている。
そして、それは…一瞬の出来事であった。
目の前で、名剣フラガラッハを構えていたはずの、ギルスの姿が消える。その後に吹き抜ける風…
「トン…」
微かに、胸に何かを感じる。ふと視線を胸元に下ろすと、ギルスが名剣フラガラッハを、俺の左胸、心臓に、柄の部分まで、深々と突き刺していた。背中に視線をやると、俺の体を突き抜けている、名剣フラガラッハの剣先が見えた。
「気戦術…瞬迅…突…」
ギルスは静かにそう呟く。それと同時に、夥しい流血が、俺の左胸と背中から、まるで噴水の様に吹き出した。
「ゴ…ゴフォ…」
俺は口から大量の血を吐く。気管に血が入り、呼吸も出来ない。体が痙攣を始め、そして、糸の切れた人形の様に、俺の首は項垂れ、事切れる。
「いやーーーー!!!ご主人様ーーーー!!!!!」
マルガは両手で顔を抑えながら、嗚咽混じりに叫ぶと、膝から崩れ落ちてしまった。リーゼロッテは綺麗な透き通る様な、金色の瞳に涙を溜めながら、
「貴方達…許さない…何時か必ず…貴方達の首に、牙を立てて…さしあげます!」
リーゼロッテは、一筋の涙を流しながらも、決してギルスから目を逸らさずに、静かにそう告げる。そんなリーゼロッテに、フッっと少し寂しそうに笑うと
「そんな事出来る訳ねえだろ?お前はそこの亜種の少女と一緒に、奴隷商人に売られ、どっかの金持ちのジジイの慰み者になる運命なんだからよ!」
マルガと、リーゼロッテを見ながら、吐き捨てる様に言うギルス。
「この世な、力なんだよ!力が全て!力の無いお前達は、俺の言う通りにしか出来無いんだよ!そうじゃないと、この行商人の少年みたいに、死んじまうんだよ!…力が支配するこの世界がな…ひっくり返る事なんか…ねえんだよ!」
そう声高に叫ぶギルスに、マルガとリーゼロッテは、きつく睨みながら、涙を流していた。
アロージオや村の人々は、目の前で、刺殺されている、行商人の少年を見て、全てを諦めた様で有った。
ギルスの言葉を最後に、広いアジトの広間は、静寂に包まれた。まるで全ての終わりを告げる様に…
それを理解したギルスが、行商人の少年の死体から剣を抜こうと考え、振り向こうとした時だった。
「そうかな…?」
呟く様な、何処か聞き覚えのある声が、聞こえるはずの無い方向から聞こえる。ふと、その声のする方にギルスは振り返る。そして、驚愕の表情を浮かべる。
「世界は意外と簡単に、ひっくり返るものかもよ?」
「うわあああ!!!」
瞳を真紅色に光らせている、俺の顔を見て、俺の声を聞いて、初めてその顔を恐怖に染め、声を上げるギルス。それと同時に、死んでいると思っている俺の体から、薄紅色のオーラが光り輝き、包み込む。
「迦楼羅流銃剣術、奥義、雪月花!!!」
闘気術で高められた気が、グリムリッパーの剣先に宿り、薄紅色に輝く三段の斬撃波が、ギルスに襲いかかる。
「グッハアア…!」
無意識に気戦術の防壁を張った、ギルスであったが、超至近距離からの雪月花の三段の斬撃波を、完全に防ぐ事は出来無かった。左手の手首を切断され、胸を十字に深く斬りつけられ、唸り声を上げながら、壁に叩き付けられた。地面で大量の血を流しながら、蹲っているギルス。
「ご主人様!!!!」
マルガのなんとも言えない、喜びの声が聞こえる。チラっとマルガを見ると、可愛く大きな瞳が、涙でグシャグシャになりながら、喜びの表情を浮かべている。それにちょっと、吹き出しそうになる。
「本当に可愛いんだからマルガは…。おら!ギルス!世界がひっくり返った瞬間だ!咄嗟に気戦術でダメージを減らして、即死は免れた様だが、その傷は確実に致命傷!これがトドメだ!!!」
俺は声高らかに、そう宣誓する様に叫ぶと、2丁拳銃のグリムリッパーを、蹲っているギルスに向ける。
そして、魔法弾を撃とうとした時に、素早くギルスの前に立ちはだかる人影が居た。
「マジックシールド!!!」
ギルスを庇う様に前に立ち、魔法障壁効果のある、マジックシールドを張り巡らせ、魔法弾の攻撃からギルスを守っているカチュア。その行動に、思わず瞳が歓喜に染まる。
「予定通りの行動をしてくれて、ありがとよ!」
俺はそう叫び、2丁拳銃のグリムリッパーを腕を伸ばして、前方で2丁を合わせる。闘気術の薄紅色のオーラが光り輝く
「迦楼羅流銃剣術、奥義、迦楼羅咆哮!!!!」
前方で2丁合わせられた銃口から、何かのレーザーの様な太い光線が、渦を巻きながら、超高速で発射される。その超高速の渦を巻く虹色の光線は、マジックシールドを突き破り、カチュアの右胸に、大きな風穴を開ける。それは、一目見て致命傷だと解る傷であった。
「グウ…」
小さな唸り声を上げて、地面に伏せて、撃ち抜かれた右胸を押さえるカチュア。
「これで2人目!最後は…」
その続きを発しようとした時、強烈な殺気と、気の力を感じ、左に力一杯跳躍する。
「ドッッガガガン!!」
俺がさっき迄立っていた地面は、大きな音を立てて、地響きと共に激しく陥没していた。それは巨躯の男、ホルガーと呼ばれた男が、巨大なバトルアックスを振り下ろしていた結果だった。
ホルガーは瞬時に体制を立て直すと、俺目掛けて跳躍してきた。その両手には、巨大なバトルアックスを大きく振りかぶっている。
俺は避けようとしたが、まだ胸に、名剣フラガラッハが刺さったままで、思う様に力が出ない。
俺は咄嗟に、壁際で蹲っている、ギルスとカチュアに、グリムリッパーの銃口を向け、数発発砲する。
それに気が付いた、ホルガーは、気戦術を使って、一瞬で2人の前に立ち、グリムリッパーの魔法弾を、巨大なバトルアックスで弾き飛ばす。それを確認して、ゆっくりと俺は体制を立て直す。
「へ!あんな残虐な事を平気でするお前達なのに、仲間は大切ですってか?」
俺のその言葉に、表情を一切崩さずに、俺を睨みつけるホルガー
「…これは全て…お前の計算の上での事だったのだな?」
「…計算通りとは?」
「ギルスの意表を付いて、大技で仕留める為に演技をして…死んだふりをして、避けられない至近距離で攻撃出来る様にし、その後、ギルスを庇って、カチュアがマジックシールドを張る事を予測して、マジックシールドを貫通する攻撃を放ち、カチュアを行動不能にし、そして、その2人を俺が庇うと解っていて、あの状況で、俺の攻撃を避けようともせず、2人に銃口を向け、発砲した…。その胸に剣が刺さっているのに平気なのは、どんな細工が有るか俺には解らないが…大したものだな…行商人の少年よ!」
冷静に淡々と話すホルガー。
まあ…大体その通りだね。唯一の計算外は、ギルスのやつが俺の胸に、余りにも深く、この剣を…柄の部分まで突き刺してくれたって事だな。こんなに深く刺されたら、グリムリッパーの召喚を解除して、両手で剣を引き抜かないと、抜けやしない!そんな事、この巨躯のホルガー相手にしたら、その隙に一瞬でやられるよ!クソ…ギルスの奴を、挑発しすぎたかな…?…反省!…ガク…
「ま~お前の言った通りだね。ギルスの奴をやった時点で、俺の賭けは成功していたんだ。ギルスがやられれば、必ずその女が、真っ先に助けに入るのも解っていた。その女はギルスの女なんだろ?愛する男に必ず身を捧げるって解っていた。そして、その女は頭の回転が速いから、きっと、俺がグリムリッパーの魔法弾での追撃を、予測する事も解っていた。その女は、一切無駄な事をしそうにないタイプだからな。後は…お前だけだった。だがそれも俺の予測通りだったな。お前達は、そこで死んでいる兵隊達とは何か違う、絆みたいなものを感じた。コイツらとは違う…もっと深い絆をな。だから、お前が2人を絶対に庇うと確信していた」
胸の剣は、ヴァンパイアハーフの超回復のお陰なのは秘密だけどね!しかし…マジで苦しい…
ホルガーは俺をキッと睨み、そして、軽くカチュアに振り返る。
「カチュア。お前と、ギルスを回復するのに、どれ位かかる?」
「…今は応急処置の治癒魔法を、2人同時にかけている段階よ…。本格的に回復する迄には、まだかなり時間が掛るわ…お願い出来る?ホルガー」
「承知した。此処は俺が何としても守る!お前は治癒魔法に専念しろ!」
2人の前に立つホルガーは、巨大なバトルアックスを掲げ、身構えている。
っち…やっぱりあの女、治癒魔法を使えたか。此方は、ぎりぎり超回復でもっている状態。一刻も早く剣を抜きたいが、この状態では抜けやしない。かと言って時間を与えすぎると、折角行動不能にした、ギルスとカチュアが復活しやがるし…そうなったら、今度こそ終わりだ。早めに決着を着けないと…
「お前にそれが出来るのか?2人を守りながら、俺と戦うって事をな。確かにお前の方が、LVも経験も上だろうが、俺にも通常じゃない攻撃力がある。それに、まだ切り札を持っているかもしれないぜ?」
俺のその言葉に、初めて顔を歪ませるホルガー。
俺にこれ以上の策は無いけど、コイツには少しでも焦ってもらわないと。俺の力が尽きる前に…倒す!
「じゃ~此方から行く!」
俺は闘気術を展開する。光り輝く薄紅色のオーラが、俺の体を包む。そして一気に、気勢を高める
「くらえ!迦楼羅流銃剣術、奥義、百花繚乱!!!」
グリムリッパーから射撃された、何百と言う流星嵐の様な魔法弾が、何百という花が咲き乱れる様に、ホルガーに襲いかかる。
それを見たホルガーは、気戦術で気勢を上げる。力強く淡黄色に光るオーラが、ホルガーの体を包む。
「気戦術、坊壁陣!」
ホルガーの周りに、淡黄色に光るオーラの光が、盾の様に集まりだす。
「ギャリリリリリリリリリリ!!!」
何百と言う魔法弾が、気戦術の盾に、衝突して行く。その衝突の余波で、辺りに砂煙が舞い上がる。
全ての魔法弾の衝突が終わり、砂煙が晴れて来た時に、傷ひとつ付いていない、ホルガーの気戦術の盾が見えた。
『オイオイオイ…アレだけの魔法弾を食らって、無傷かよ…クソ…』
そう心の中で呟いて、再度構え直そうとした時に、膝に力が入らなくて、跪いてしまった。
「…どうやら…貴様も限界に近い様だな…。このまま守りに徹していれば、ギルスもカチュアも、いずれ回復する。それまでにお前の方が、力尽きそうだな」
そう言ってニヤっと嗤うホルガー。
確かにヤバイ…。思ったよりもダメージが蓄積している。奥義クラスの技も、使えて後1回が限界だろう。ギルスの奴め…剣という足枷を最後に付けやがって!此れがなければ、もっと楽に戦える予定だったのにな!
名剣フラガラッハが刺さっている所の体の細胞と心臓が、斬られては、再生を繰り返し、かなりの痛みと苦痛を伴い、気持ちが悪い…出血も止まっていないし、このままでは、どんどん超回復の回復値を削られて、全く動け無くなるのも近いだろう。一気に片を付けないと!
俺はフラフラしながら立ち上がり、2丁拳銃のグリムリッパーを構える。
「一気に勝負を付けさせて貰う!」
「…今のお前に…出来るかな?」
俺とホルガーは激しく睨み合い対峙する。俺は闘気術を使って、瞬時にホスガーに跳躍する。
そして、後少しで間合いに入ると言った所で、膝の力が抜けて、バランスを崩し、蹲ってしまった。
『しまった!思ったよりも、超回復が削られていたのか!足に…ち…力が…入らない!』
ホルガーに視線を戻すと、嬉々とした表情で、巨大なバトルアックスを振り上げていた。
『あの巨大なバトルアックスで、頭を割られたら、超回復のある俺でも即死は必死!避けたいけど、足に力が入らなくて、動けない!クソ!ここまで来て、俺は終わってしまうのか!?ここまで追い込んだのに…あと一歩で、手が届くのに!な…何か無いのか!?何か!!!!』
俺のそんな心の叫びも虚しく、ホルガーは今まさに、巨大なバトルアックスを振り下ろそうとしていた。俺はホルガーを睨み、キュッと唇を噛む。ホルガーの殺気が大きくなり、巨大なバトルアックスが振り下ろされる瞬間、何かがホルス目掛けて飛んで来た。
「グアアアア!!!」
全く予期せぬ所からの攻撃に、ホルスは為す術が無かったであろう。ホルスの右目には、細い釘の様な物が刺さって、血を流しながら、唸り声を上げる。それと同時に声が聞こえた。
「葵兄ちゃん今だ!今が好機だよ!やっちゃええええええ!!!!」
声の方に振り向くと、アジトの広間の入り口で、ホルガーに投擲をしたマルコが、声高に叫ぶ。
「ああ!マルコがくれた好機を逃す訳にはいかないね!!!!」
俺はそう叫んで、闘気術の気勢を高める。薄紅色のオーラが光り輝く。そして、2丁拳銃のグリムリッパーの銃口をホルガーに向ける。
「これで終わりだ!!!迦楼羅流銃剣術、奥義、百花繚乱!!!」
マルコの投擲によって、右目を潰され、隙を作った無防備なホルガーに、2丁拳銃のグリムリッパーから射撃された、何百と言う流星嵐の様な魔法弾が、何百という花が咲き乱れる様に、襲いかかる。
「ぐぎゃああ!!!!」
断末魔の叫び声を上げるホルス。その巨躯の体に、何百と言う魔法弾を浴びて行く。ホルガーの巨躯の体は、魔法弾に撃ち抜かれ、肉片になって、血を撒き散らしながらグシャっと地面に崩れ落ちた。
「やっったああああああ!!!葵兄ちゃんの勝ちだ!!」
アジトの広間の入り口で、勝鬨の様な声を、嬉しそうに上げているマルコ。
俺はゆっくりと、足に力を入れて、フラフラしながらも、何とか立ち上がった。そして、残されたカチュアとギルスの前にゆっくりと、足を引きずりながら歩いて行く。
「どうやら俺の勝ちの様だな!ギルスは気絶中、お前も辛うじて、応急処置の治癒魔法が使える程度。俺もギリギリだけど、まだ、グリムリッパーでお前達2人を、魔法弾で撃ちぬく力は残っている。勝負あったな!」
俺はそう告げると、ギルスとカチュアに、銃剣2丁拳銃のグリムリッパーの銃口を向ける。カチュアは、俺を睨みつけながら、
「助けて…と、言っても、助けてはくれなさそうね。…本当に私達を倒すなんて…貴方一体…何者?」
俺を睨みながらも、静かに言うカチュアの問に、満面の笑顔で
「俺は旅の行商人!それ以上でも、それ以下でもないね!商人は、自分の利益を最優先にする。その、利益を守る為なら、なんでもするんだよ。覚えておくんだな!」
俺のその言葉に、フッと軽く笑い
「そう…私達は、騎士や傭兵でもない、行商人に負けたのね。フフフ…でもね、行商人の少年さん。この次に会った時は、この様にはなら無い事を、覚えておきなさい」
「はあ?お前達に、この次なんか無いよ?俺はそうやって、逆恨みされるのなんか嫌だから、対峙した野盗や盗賊は、きっちり殺す事にしてるから」
その言葉を聞いて、フフフと嗤うカチュア
「そう、良い心がけね。でもね…次からは、すぐにそれを実行する事ね」
そう言ってニコっと微笑むカチュアは、胸に付けていた、ネックレスの飾りの宝石のトップを、握り締める。次の瞬間、まばゆい光が発せられ、俺は視界を奪われる。
「さよなら…行商人の少年。次に会う事があったら、油断なくきっちり貴方を殺して上げるわ。楽しみにしてなさい」
そう言い残して、まばゆい光に包まれたギルスとカチュアは、一瞬で消えてしまった。
「ええええ!?ちょ…消えちゃいましたけど!?」
俺がキョロキョロ辺りを見ながら、驚き困惑していると
「恐らく…転移のマジックアイテムを使ったのでしょう。物凄く高価な品らしいですけど、一瞬で、遥か遠くまで移動できるマジックアイテムらしいです。もう、この周辺にはいないでしょう。探すのは不可能ですね」
リーゼロッテが、そう言ってエルフの博学を披露してくれた。転移って聞いた事あるけど、本当に出来るんだな…魔法世界…怖す…
俺は、脅威が無くなった安心からか、一気に力が抜けて、その場で蹲ってしまった。
「ご主人様ー!!!!!」
マルガが、泣きながら物凄い速さで、俺まで走り寄って来た。
「ご主人様!大丈夫ですか!?す…すぐに、手当をしないと!!」
俺の胸に刺さっている、名剣フラガラッハと、そこから流れ出ている大量の血を見て、マルガの顔は蒼白になっていた。俺は、慌ててアワワとなっている、マルガの頭を優しく撫でる
「だ…大丈夫だから。今はこれ位じゃ死なないから安心して」
その言葉を聞いて、綺麗なライトグリーンの瞳に、涙を一杯浮かべて、安堵の表情を浮かべるマルガ
「一体どうやったら、剣が心臓に刺さっているのに、死なずに動けるのですか?」
「だよね!どういう仕掛けになってるのか、教えてよ葵兄ちゃん!」
いつの間にか傍に来ていた、リーゼロッテとマルコが、興味ありげに刺さった名剣フラガラッハを見つめていた。
「その説明は置いておいて、とりあえず…マルガとリーゼロッテさんとマルコで、この剣抜いてくれない?今気が付いたけど、俺じゃ剣を全部引き抜くには、手が届か無いっぽいから」
俺が苦笑いしながら言うと、3人は頷いて、俺の胸に刺さっている、名剣フラガラッハの柄を3人で握る。
「ウ…クウウウウ!」
柄を握った振動が響き、思わず痛さで声を上げてしまった。
誰だよ!心臓には痛覚がないって言った奴は!めっちゃ痛いんですけど!まあ…心臓じゃなくて、他の部位が痛いんだろうけどさ!
麻酔…してほちい…衛生兵!衛生兵はどこですか~?…居ないのは解ってますよ…おちっこチビリそう…ガク…
「では、ゆっくりと抜きますね」
「いや!一気に行って~~!!」
間髪入れずそう言った俺のその言葉に、3人はキョトンとしていた。
だってさ!ガムテープとか、顔に張られたやつを剥がす時ってさ、ゆっくりだと、痛いのが長く続くじゃん?オラそんなのやだ!痛いのは一瞬だけが良い!
俺のビビリな感じを汲み取ったのか、3人は顔を見合わせ、名剣フラガラッハの柄に力を入れる。その瞬間だった。
「オロロロ!」
胸に刺さっている名剣フラガラッハの柄に、力を入れられた事で、俺の口から血が流れだした。
マルガは再度蒼白になって、アワワとなっていたが、大丈夫だからと、続けさせた。再度、3人は名剣フラガラッハの柄に力を入れる。
「オロロロロロロ!!」
やっぱり口から血が出ちゃう俺。それを見たリーゼロッテがパッと横を向き、体を小刻みに震わせている。
「リーゼロッテさん…もしかして…笑ってません?」
俺がジ~~~っとリーゼロッテを見つめると、コホンと軽く咳払いをして、
「そんな事はありませんよ。こんな時に、私がこんな事で笑うなんて、ありえませんわ」
そう言って微笑むリーゼロッテは、視線を合わせてはくれなかった。
「本当に…?」
「勿論です。まあ…昔、お腹の仕掛けを引っ張ると、口から水を吐く玩具を、少し思い…出しました…けど…プププ」
そう言って、再度横を向いて、小刻みに体を震わせているリーゼロッテ。
やっぱり笑ってるじゃん!!プププっての聞こえちゃいましたよ?リーゼロッテさん!
そうです!私が変な玩具です!とか、おじさん風に言った方が良かったですかね~~~???
非の打ち所が無いと思われていた、リーゼロッテさんにも、マルガ同様、こんな所でマイナス修正されていたとは…意外とSなんですね…リーゼロッテさん…
俺達は気を取り直して、どうにか名剣フラガラッハを胸から抜く事に成功した。抜く瞬間まで、リーゼロッテさんは、俺を見ない様にしてたのは、俺だけの心の中に留めておこう…ウウウ…
そして、名剣フラガラッハの無くなった、胸の傷から、大量の血が流れ出るが、忽ち胸の傷が塞がって、出血も止まってしまった。それを見たリーゼロッテとマルコは驚愕している
「ど…どういう事なんですか?魔法も使っていないのに、傷がこんなに早く塞がるなんて…」
「葵兄ちゃん凄い!ねえねえ!どんな仕掛けなの!?教えてよ葵兄ちゃん!」
俺が2人に追求されてるのを見たマルガは、アタフタしながら
「え…えっと!そ…それはですね!…そう!…アレです!マ…マジックアイテムです!マジックアイテムを使ったので、回復出来たのですよ!です!」
アワワとなりながら、必死で俺を庇う為に、ウソの説明をするマルガ。
ああ…可愛い…アワワマルガに癒される…
「ま~そういう事です。マジックアイテムですね」
そう言って苦笑いする俺は、マルガの頭を優しく撫でる。マルガは嬉しそうに、尻尾を揺らしていた。
暫く、体力が回復するまで蹲っていた俺は、回復して来たので、皆の所に3人と一緒に戻る。
「凄いですね…私のラウテッツァ紫彩騎士団、第5番隊を全滅させた、アノ集団を、一人で撃退してしまうとは…感服しましたよ葵殿」
アロイージオが、感嘆した表情で、俺を見ている。村人も同じ様な表情だった。
「いえ…彼奴等が油断してくれて、俺の思惑通りに、動いてくれたから、たまたま勝てただけですよ。もし最初から、本気で3人で攻撃されるとかされていれば、勝負は一瞬で決まり、俺はそこの巨躯の男みたいに、肉片になって死んでいた事でしょう。…運が良かっただけですね」
俺が苦笑いしながら言うと、首を軽く横に振り、
「それでも、その結果をもたらせたのは、葵殿の功績です。本当にありがとう葵殿」
「いえ…まだお礼を言って貰うには、早いですね。えっと…メラニー?さん。ちょっと質問良いですか?」
俺の言葉に、少し緊張気味のメラニーが、エイルマーと一緒に、俺の前に来た。
「あ…あの…なんでしょうか…?」
「あ…別に、貴女に何かしようとか、思ってません。貴女は、脅されてこいつらの手先になっていた。って事は、こいつらの、大体の兵力や動向、予定とか解りませんか?この後の対策を練りたいので、教えて欲しいのです。こいつらの他に…まだ兵力は有りますか?」
「えっと、兵隊達は、ここに居るのが、全部だと聞いています。ただ…先程の…転移したお頭達の仲間が、まだ3人程居るとは聞いています」
その言葉に一同の顔が蒼白になる。
オイオイオイオイ!!あんなクラスの奴等が、まだ3人も残ってるの!?
やっとこさ、3人を撃退出来た所なのに、これ以上あれ位のクラスを相手にして、勝てる自信は無い。
どうする…どうする…何か手を、至急考えないと!
顔を蒼白にし、深刻そうな俺を見て、気まずそうに言うメラニー
「あの…その3人は、遠くの街か何処かに取引中とかで、此処に来るのは7日は掛るって言ってました。…言うのが遅くて…すいません」
苦笑いをして、頭を下げるメラニー。
「なるほど!7日掛るのなら、この村に港町パージロレンツォから守備隊が来る方が早いですね」
守備隊の方が早く着ける事に、皆が頷き、安堵していた。
「って事は、馬でエイルマーさんに、港町パージロレンツォに守備隊を呼んで来て貰って、俺達はその間、村で防衛戦を張って、村を守っています。…メラニーさんの話では、もう、兵隊達は居ないとの事ですが、護衛も付けずに、港町パージロレンツォに向かうのは危険かもしれませんけど…エイルマーさんよろしいですか?」
エイルマーは暫し目を閉じ、覚悟を決めた様な表情で
「ええ!私が行きます!元々そのつもりでしたしね。それに私は此れでも副村長ですからね。村の危機とあれば、なんでもします!」
そう言って、死体になっているハンスを、淋しげに見て居るエイルマー。
「…そうですか…。ではお任せします。それから…村の女性の方…こっちに来てくれますか?」
俺に呼ばれ、5人の村の女性が、俺の元に集まって来た。
「貴女達に集まって貰ったのは、僕が、貴女達と取引をしたいからです」
「わ…私達と…取引ですか?」
俺の思いもよらない言葉に、戸惑っている女性達。
「ええ取引です。僕は今の貴女達が、とっても欲しがる物を持っているんです」
俺はアイテムバッグから、小さな羊皮紙で包まれた物を取り出した。
「そ…それは…なんですか?それが、私達の欲しがる物…なんですか?」
「はいそうです。これは…子卸こおろしの薬です…」
その言葉を聞いた女性の顔が、一変する。
子卸こおろしの薬…つまり、堕胎させ、妊娠させない為の薬である。この薬を飲めば、妊娠している女性は堕胎し、妊娠前なら、中で出しても妊娠しないと言った薬なのだ。以前、とある商人から、どうしても金がいるからと言われて、10個程安く買った物っだ。
「その顔を見ると、この薬の効果は知っているみたいですね。…貴女達は、あの男達に、何度も精を、注がれてしまった。貴女達は…この死んでいる野盗達の…どれかの子供を宿している可能性があります。そんな汚されて生まれた子供を、貴女達は愛する事が出来ますか?貴女達の愛するご主人は、生まれたその子供を愛してくれると思いますか?貴女達の愛する子供さんは、生まれたその子供と仲良くしてくれるでしょうか?恐らく…答えは難しいでしょう。男なら特に、他の男の種なぞ望ま無いでしょうしね。どうですか?この薬…欲しくはありませんか?」
女性達は俺の掌にある薬を見て、瞳を揺らしている。
「欲しいです!是非売って下さい!お幾らなのですか?」
「はい。お売りしましょう。一つ、金貨10枚でお売りしましょう」
その価格に、一同が唖然としていた。特に女性達は、顔を蒼白にしていた
「き…金貨10枚!?…わ…私達には…そんな大金…とてもありません…も…もっと…お安く売っては頂けませんか?」
「出来ませんね~。この薬は、金貨10枚の価値がある物ですから。特に…貴女達には必要な物でしょう?」
俺の拒絶の言葉に、女性達は、顔を蒼白にして、俯いていた。
「では…こうしましょう。僕の出す条件を聞いて頂けるのであれば、この薬は差し上げましょう。どうですか?」
「…どんな…条件なのですか?」
女性達は、どんな条件を言われるのか気になっているのか、それぞれが戸惑いの表情をしている。
「もう、貴女達は、ほとんどの事を知っていると思いますが、ハンスさんが貴方達にした事は許せる事では無いのは解っています。僕も大切な奴隷に手を出した、ハンスさんを恨んでいます。もし、彼が生きていたなら、僕が彼を容赦無く殺していたでしょう。ですが…ハンスさんのお陰で、貴女達は今生きていられる事も解っていますよね?もし…ハンスさんがこいつらと取引をしなければ、僕が此処に来るずっと前に、貴女達は勿論の事、貴女達の愛するご主人さんや、子供さんは死んでいました。言わば、ハンスさんに、貴女達の愛する、ご主人さんや、子供さんは助けられたと、言う事になります」
俺の言葉を黙って聞いている女性達。
「僕の出す条件は、此処であった事は、誰にも話さないと言うのが、条件です。貴女達は、誰にも汚されていない。つまり、捕まって人質にされただけで、何もされなかったと言う事にして下さい。貴女達の中には、愛する人に、ウソを付く事が嫌な人がいるかも知れません。ですが、全ての真実を話す事が、全ての幸せに繋がるとは思えません。真実を言ってしまったら、さっき言った様に、今まで通り、幸せな家庭生活を送る事は難しいでしょうからね」
女性達は顔を見合せて、俯いている。
「貴方達は、今生きています。家に帰れば、此れから何十年と、愛する人と幸せな日々を送れるでしょう。ハンスさんがした事を許す必要はありません。僕も許す気はありませんからね。ですが…彼はそうするしか無かった…村の人を守る為には…。その事だけは、頭の隅に置いてやって下さい」
胸を貫かれて死んでいるハンスを見ながら、なんとも言えない表情をしている女性達。
「さあ、貴女達はどうしますか?真実を言って、全てを受け入れて、きつい日常と向かい合いながら、生きて行くのか、それとも、僕からこの薬を取って、此れからも幸せに生きるのか…。選んで下さい」
女性達は、戸惑いの表情を浮かべるが、暫く考えた後、何かの決意をしたかの様に、俺の掌の上にある、羊皮紙に包まれた薬を取って行く女性達。無言だが、そこに取引が成立した事を、理解する。
これで…多少なりとも、村の内部が荒れる事は無くなるだろう。
イケンジリの村は小さな村。村長の息子が、如何に村を守る為だと言えど、村の女性にこの様な事をしたとなれば、その責任をアロイス村長は取らされるし、アロイス村長の人格なら、自分から責任を取ってしまうかも知れない。当然エイルマーも、その積を一緒に負うだろう。
アロイス村長や、エイルマーが仕切っていないイケンジリの村など、何の利益もない。
今後の事も考えて、良好な関係を築ける、アロイス村長やエイルマーが、村を仕切って貰わないとね。
「それと、エイルマーさんと、メラニーさんも来て下さい」
俺に呼ばれたエイルマーとメラニーがやって来た。俺はエイルマーに、羊皮紙に包まれた薬を渡す
「葵さん…この薬は…」
「ええ、さっきの女性達の渡した物と同じ、子卸の薬です。メラニーさんにも必要でしょ?」
手渡された薬を見ながら、エイルマーとメラニーは顔を見合わせて、言いにくそうに
「…私は、ベルントに脅されていたとは言え、ハンスさん同様、大変な事をしました。…こんな私にも、その薬を頂けると言うのですか?」
「…そうですね。直接とは言いませんが、貴女もマルガの誘拐に関わって居たと言えば、そうかも知れません。マルガが誘拐されるのを知っていて、僕に教えてくれなかったんですからね」
罪の意識からか、瞳を逸らして俯くメラニー。その隣でエイルマーがメラニーの肩を抱いている。
「ですが、結果的に、マルガは汚されずに済み、マルガを攫ったハンスさんは死に、それを指示いていた奴等も居なくなりました。僕は、今回の事はこれで、自分の中で幕を引こうと思っています。決して、ハンスさんを許す訳には行きませんが…彼の気持ちも解りますしね。そして、メラニーさんの気持ちも…但し、先程の村の女性達と同様、女性達が汚された事は、内密にして貰いますけどね」
そう…ハンスとメラニー…この2人は…俺に似ている。大切な物の為なら、どんな物をも犠牲にしてしまう…正に愚者…。もし、俺がハンスやメラニーと同じ立場だったなら、きっと同じ事をしていただろう。
俺とハンスやメラニーに、大した差はない。ただ、偶然今の位置に居たと言うだけだ。
2人のした事は許せないが、2人はもう十分に、その分の罰は受けている。もう…それで十分だ…。
「メラニーさんはもう十分に、辛い目にあった。これ以上は僕は望みません。ですから、この薬を飲んで、もう一度エイルマーさんと、幸せになって下さい。…マルガも…それでいいかな?」
「ハイ!私はご主人様がそれで良いなら、私には問題ありませんです!…メラニーさんも、エイルマーさんに、一杯幸せにして貰って下さい!」
満面の笑顔でマルガが言うと、メラニーは両手を顔に当てて、涙を流している。そんなメラニーを、包み込む様に抱きしめているエイルマー。マルガはそれを見て、嬉しそうに俺に腕を組んできた。優しくマルガの頭を撫でると、ニコっと微笑んで、金色の毛並みの良い尻尾を、フワフワ揺らしている。
「葵さん…本当にありがとう…」
エイルマーとメラニーは深々と頭を下げる
「ま~此れからも、行商でお世話になりますからね。また、良い取引をお願いします」
「此方こそ!」
俺とエイルマーが、笑顔で握手していると、何やら真剣な顔をしたマルコが、俺の傍に来た。何か心配事でもあるのか気になった。
「どうしたのマルコ?何か気になってる事でもあるの?」
「…オイラ…オイラを、葵兄ちゃんの、本当の弟子にして!」
真剣な面持ちで、俺を見るマルコ。俺は軽く溜め息を吐いて、呆れながらマルコに
「だから…ご両親の許可が…」
「オイラは真剣なんだ!葵兄ちゃんも、真剣にオイラの話を聞いて!」
俺の言葉を遮って、そう言うマルコは、一段と真剣な顔になった。
「…オイラ今迄さ…只漠然と、行商人に憧れていたんだ。自由に世界を旅出来る事を、素敵な事だと、楽しいだろうなって、そう思っていただけだったんだ。でもさ…ハンスさんやメラニーさんの話を聞いて、これじゃダメだって思ったんだ。今はね、村の役に立ちたい!遣り方はまずかったかも知れないけど、村の為に命を掛けたハンスさんみたいに…。ううん…本当は、そんな大きい事じゃなくて、大切な人を、守れる力と知恵が欲しいんだ!その上で、村の役に立てればって、思ってる。だから…お願いします!なんでもするから、オイラを…葵兄ちゃんの弟子にして下さい。お願いします!」
マルコは声高にそう告げると、土下座して頭を地面に付けている。
ムウウ…その真っ直ぐな気持ちは解るけど…どうしよう…
俺がマルコを見て困惑しているのを、感じ取ったマルコが、何かを考えニヤっと笑う
「それに…葵兄ちゃんは、俺を弟子にしないといけないんだよ?解ってるよね?」
「はへ!?どういう事!?」
マルコの思いもよらない言葉に、また変な声を出してしまった俺。…オラ恥ずかしい…うう…
「オイラが、あのでっかい男に、投擲で攻撃しなかったら、葵兄ちゃんは、今生きていないんだよ?きっとマルガ姉ちゃんやリーゼロッテ姉ちゃんも、ひどい目に合う事になってたと思うんだよね。言わば、オイラは、葵兄ちゃんに貸しがあるんだ!もし、オイラを弟子にしないなら、貸しはお金で払ってもらうよ?すごい金額になっちゃうけど、今の葵兄ちゃんに払える?」
不敵な笑みを浮かべながら立ち上がったマルコは、俺の傍まで近寄ってきて
「お金が払え無いなら、オイラにその分を投資して!一杯勉強して、強くなって、投資に見合う様になるから!それとも…命の恩人に、恩を仇で返す様な事をするの?葵兄ちゃん?」
ニヤニヤと笑うマルコに、言葉を無くしていると、マルガとリーゼロッテが楽しげに
「それは仕方ないですね~。大きな借りを作っちゃいましたねご主人様~。」
「そうですね。心配しなくても、葵さんはそんな事しませんよ。ね~葵さん?」
マルガとリーゼロッテは、楽しげに俺を見て、微笑んでいる。そんな、マルガとリーゼロッテを見て嬉しそうにしているマルコが、再度真剣な顔をする。
「葵兄ちゃん!お願いします!俺を弟子にして下さい!」
真剣な面持ちでそう言って、深々と頭を下げるマルコ。そんなマルコを見て、マルガとリーゼロッテは、ジィ~~~~~っと、解ってますよね?と、言わんばかりの視線を投げかけてくる。
ううう…マルガとリーゼロッテの視線が痛い!美少女2人が、追い込みを掛けて来ちゃうよ…うう…
「ったく…投資なんて言葉何処で覚えたのやら……通常のお給金は出せない。食事や宿は同じ様に手配して上げる。何かで儲けが出た時は、その都度相談。利益配分は俺が決める。行商上の俺の指示は、絶対に守ってもらう。いいね?」
観念した様に言う、俺のその言葉を聞いた、マルコは、目一杯の笑顔を浮かべて
「それじゃあ!!オイラを弟子にしてくれるんだね!葵兄ちゃん!」
「但し!きちんとご両親を説得して、許可を貰わないとダメ。それが出来無いと連れて行かない」
「解ってるよ!オイラもきちんと解ってもらって、出立したいからさ!」
マルコは喜びながら、よし!と言って、両手の拳に力を入れている。
「やっぱり、ご主人様は優しいです~。ご主人様大好きです!」
マルガがピョンと俺の腕に抱きつき、微笑む。俺が苦笑いしながら
「俺は優しくないよ。てか、殆ど脅迫ぽかったのは、気のせい?」
「美女2人にそんな事して貰えるのですから、幸せですね葵さんは」
俺がその言葉に憤っていると、マルガ、リーゼロッテ、マルコが嬉しそうに俺を見ていた。
俺は溜め息を吐いて、気を取り直すと、
「よし!此処を出る前に、戦利品を集めるよ!マルガは武器を一箇所に集めて、マルコは死体から、お金を集めて。俺はあっちの馬車を見てくる。マルガは周辺の警戒も忘れないでね」
俺の言葉に、ハイ!と元気に右手を上げて、テテテと走って武器を集めだすマルガ。マルコは死体からお金を集めるのに戸惑っていた
「此れ位で、戸惑っているようじゃ、投資しても無駄かな?」
ニヤっと笑いながら言った俺に、キッと目をキツくして、
「こ…これくらい出来るよ!任せといて!」
マルコは、死体を漁り始めた。そんなマルコを微笑みながら、馬車の所まで行く。
そこには、モンランベール伯爵家の馬車が数台と、盗賊団が使っていたであろう荷馬車があった。
その近くには、モンランベール伯爵家の綺麗な馬と、盗賊団の馬であろう、リーズと同じ丈夫で力のある品種の重種馬だ。荷馬車の方も、細かい作りは荒いが、丈夫に出来ている。
フム…この荷馬車と馬は、なかなかいいな。俺は荷馬車に馬をつなぎ、広間の中央に誘導する。
「この荷馬車と馬を貰う事にしたから、この荷馬車に武器を積んでねマルガ。マルコも終わったら、マルガを手伝って」
「ハイ!了解です!ご主人様!」
「任せといて!葵兄ちゃん!」
2人は元気に返事をすると、指示通りに荷馬車に武器を積んでゆく。俺はアロイージオの所に行き、
「えっと、アロイージオ様。とりあえず、村の人を連れて帰る為に、モンランベール伯爵家様の馬車をお借りして良いですか?」
「ああ、構わないよ。存分に使ってくれたまえ」
アロイージオから承諾を貰ったので、モンランベール伯爵家の馬車一台と、馬を一頭借りる事にした。その馬車も、荷馬車の隣に並べて止める。マルガとマルコは武器を荷馬車に積み終わったみたいだった。
「それじゃ、さっき言った通り、エイルマーさんは港町パージロレンツォに、僕達は村で防衛戦を張りましょう。では行きましょうか。村の人と、アロイージオさんは、この馬車に乗って下さい。少し狭いかも知れませんが、我慢して下さい。マルコは荷馬車を、俺はモンランベール伯爵家様の馬車を、マルガは外のリーズに乗ってね」
皆はそれぞれの馬車に移動する。その時、村の女性達の格好が気になった。女性達は、メラニーを除いて、服を破られていて、半裸状態だった。体も、土で汚れているし、何より、性器は、男達の精液にまみれている。
「女性の方は、そのままの格好で帰ったら、乱暴されたとすぐに解ってしまいますね…。服も破れちゃってますし…」
俺が考えて居ると、何かを思い出したアロイージオが
「それでしたら、あの馬車に、土産に買った、女性の服が積んであったはずです。それをさし上げましょう」
アロイージオはそう言って、一台の馬車を指さす。俺と女性達はその馬車に向かい、服を拝借する。かなり上等な服で、少し女性達は喜んでいる様であった。
「体の方は、村に帰る途中で、川に寄り道しましょう。隅々まで綺麗に洗いましょうね。特に、性器の方は、マルガに手伝わせますので」
俺がそう言うと、マルガは両手をニギニギと、開いたり閉じたりして
「ご主人様直伝の洗い方で、隅々まで綺麗にしちゃいます!」
そんな笑顔のマルガを見て、若干引き気味で、苦笑いしている女性達。
俺達はそれぞれの馬車や馬に乗り、廃坑を出る。
「エイルマーさん、気をつけて下さいね」
「ええ!葵さんも村をよろしく頼みます!」
笑顔で挨拶を交わし、俺達は川に向かい、イケンジリの村に向かうのであった。
此処は、イケンジリの村から遠く離れた、山間にある寂れた教会である。
この世界で、一番広く信仰されている、女神アストライアを崇める、ヴィンデミア教の教会であったのだが、打ち捨てられて、かなりの年月が経つのか、礼拝堂は朽ちて荒んでおり、人が長年手入れをしていない事が容易に伺える。その礼拝堂で、一人の男が目を覚ます。
「う…うん…」
「目が覚めましたか?ギルス」
その優しい声に、ギルスはぼやけた頭を覚ましてゆく。そして、ゆっくりと辺りを見回し、そこが廃坑のアジトで無い事を理解する。
「カチュア…此処は…ランポールのアジトか?…イツツ…」
ギルスは、体を起こそうとして、痛みで身を捩れさせる。
「まだ…動かないで下さい。先程、治療が終わったばかりですので。後1日は、体を動かすのはキツイでしょう」
カチュアは諭す様にそう言うと、ギルスを膝の上に再度寝かせる。ギルスはそれに逆らう事なく、その柔らかい膝に、頭をもたれかけた。
「何故俺達が、此処に居るんだ?俺は一体どうなった?」
「…私が、転移の首飾りで、このアジトまで、貴方と共に転移しました…」
静かにゆっくりと語るカチュアに、此れまでの事を思い出して、軽く溜め息を吐くギルス。
「って事は…俺が…負けたのか?」
「…はい。貴方だけでなく、私やホルガーも、負けてしまいましたわ」
カチュアが、ギルスが気を失った後の事を説明して行く。その内容に、キュっと唇を噛むギルス
「そうか…ホルガーがな…。まんまとあの行商人の少年に、嵌められたって所か…」
「傷が回復したら、報復に出ますか?」
カチュアのその凍る様な声と瞳に、ククッと可笑しそうな声を上げるギルス。そんなギルスに、不満そうな顔を向けるカチュアが
「…何が可笑しいのですか?」
「いや…お前が珍しく…先の事を考えないていない様な事を、言うから可笑しくてさ。…そんなに、愛する俺を傷つけられたのが、我慢出来無かったのか?」
茶化す様に言うギルスを、軽く抓るカチュア
「イテテ…」
「私だって、たまにはそういう時もあります」
少し膨れている、カチュアの顔を触ろうと、ギルスが左手をカチュアの顔に持って行こうとして、左手の手首より先が無くなって居るのが目に入った。
「…斬られた手首を一緒に転移する暇はありませんでしたので」
少しそっぽを向きながら、拗ねる様に言うカチュアに、
「…心配させて、悪かったなカチュア」
「いえ…貴方を守りきれなかった、私が悪いのです…」
カチュアが優しくギルスの頭を撫でる。その手を右手でギュッと握るギルス。
「…今は報復はしない。あの村の奴等は、きっと港町パージロレンツォのバルテルミー侯爵家に、助けを求めている。俺達が体制を整えている間に、バルテルミー侯爵家は自分の騎士団を領地に派遣して、守備を強化しているだろう。バルテルミー侯爵家は、その辺の貴族とは一味も二味も違うからな。それに、バルテルミー侯爵家お抱えの、ウイーンダルファ銀鱗騎士団は、化物揃いで有名だ。そんな化物騎士団を相手になんかしたくねえしな。ほとぼりが冷めるまでは、手が出せ無いだろう」
ギルスの言葉に静かに肯定して頷くカチュア。
「しかし…あの行商人の少年…何者だったんだろう?俺の剣は、確かに心臓を貫いていたはずだ。あの状態で生きていられる訳が無い」
「そうですね…魔法を使った様な感じはありませんでしたので、恐らく何かのマジックアイテムを使ったと思うのですが…」
「そんなマジックアイテム有るのか?俺の知ってる物で心当たりがあるのは、身代わりの人形位しか思いつかないけど、あれって確か…物凄い金額のマジックアイテムだったよな?」
「そうですね、軽く金貨1000枚はする代物ですね。本人の代わりに、1回だけ身代わりになってくれるマジックアイテム。死すらも、身代わりにしてくれるとか…。でも、そんな高価な品を持てる様な財力は無さそうでしたね…」
ギルスとカチュアは顔を見合わせながら考えていた。
「あの行商人は、戦った感じ、LV30弱位だと思う。そんな奴が、身分不相応な強力な召喚武器に、気戦術系のスキルを持ち、尚且つ、身代わりの人形クラスの高価なマジックアイテムも持っていたと…ったく、謎だらけだな」
ギルスが溜め息を吐きながら言うと、カチュアも同じ様に頷く。
「で…此れからどうしますかギルス?」
「そうだな…。イケンジリの村の奴等やバルテルミー侯爵家の連中は、俺達を敗戦兵か脱走兵の集団と思っているだろうから、俺達に辿り着ける様な手がかりは一切掴めないだろう。俺達の、本当の目的には、気付けないだろうさ。その辺は安心して良いだろう…俺達の作戦はまだ始まったばかりだ。港町パージロレンツォに近いあの村を、手に入れられなかったのは痛手だが…仕方無い。とりあえず、俺達は、あの方の御命令を忠実にこなして行くだけだ。とりあえず、あの村に向かう事にする。此処から近いしな。あの3人はどうなってる?」
ギルスの問に、涼やかな微笑みを浮かべるカチュアが
「あの3人は、早馬の伝令を出して、呼び戻しました。暫くすれば、此方に帰って来るでしょう」
「流石仕事が速いなカチュア!後の段取りは任せた!」
ギルスが痛む体をゆっくりと起こす。その体を背中から、優しく抱く様に支えるカチュア
「…しかし、あの行商人の少年のお陰で、かなりの損害が出たな。名剣フラガラッハも奴に取られちまったしな。幸い、貴族の坊ちゃんから巻き上げた、金貨が100枚程あったのが、唯一の救いか?それでも、こっちが大赤字なのは変わらないけどな」
軽く貯め息を吐くギルスに。クスっと笑うカチュアが
「とりあえずは、左手の義手を作りましょう」
「…そんな物無くったって、お前を十分に満足させてみせるぞ?試してみるか?」
ニヤッと笑うギルスの、頬を抓るカチュア
「イテテ…」
「それよりも早く体の方を回復して下さい。その話はそれからです」
「ああ!解ってるよ。じゃ、お言葉に甘えて、もう一休みさせてもらうか。明日には行動を開始する。よろしく頼むカチュア」
ギルスがカチュアの膝の上に再度頭を預けると、その頭を優しく撫でながら頷くカチュア。
新たな脅威は、静かに、小さく芽吹く事になる。誰も知らない内に根を張り、少しずつ侵食して行く。
来る時に、その花がどの様に咲き乱れる事になるのかを、この時は知る由も無かった。
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