愚者の狂想曲☆

ポニョ

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1章

愚者の狂想曲 15 帰って来たイケンジリの村にて

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「ご主人様!村が見えてきました!」

馬のリーズに乗って、俺の乗っているモンランベール伯爵家の馬車の隣で、嬉しそうに指をさしているマルガ。

屋根付きの豪華な箱馬車なので、後方は見えないが、後ろの荷馬車から、マルコの嬉しそうな声が聞こえる。



俺達は、川で女性達を綺麗にした後、すぐにイケンジリの村を目指して戻って居た。

勿論、マルガも俺も、警戒をしながら帰って来たが、途中で何かに襲われると言った事は無く、無事に村に着けた事に、皆が一様に安堵感を漂わせて居た。

村の門らしきモニュメントを通り、村の広場に到着すると、一台の割りと作りの良い馬車が広場に止まっており、そこにアロイス村長が、数人の男達と話をしている様であった。そんなアロイス村長が、俺達の馬車に気がついて、小走りに近寄って来た



「葵殿!よくぞご無事で!おお!他の方もご無事なのですか!」

馬車を止め、降りてくる面々を見て、嬉しそうな顔をするアロイス村長。



「何とか無事です。後でご報告させて貰います。所で…後ろの方達は…」

「ああ!この方達は、西都エディンバラから来られた公証人様と、護衛の兵士様ですじゃ」



西都エディンバラ…港町パージロレンツォや工業都市ポルトヴェネレと同じく、大都市として有名な町である。フィンラルディア王国の西側に位置し、港町パージロレンツォ同様、交易や商業を中心とした大都市であり、西側の守備も務める要所である。バルテルミー侯爵家やモンランベール伯爵家と同じく、強大な力を持つ六貴族の内の一つ、クレーメンス公爵家が治める町でもある。



アロイス村長に紹介された男達が、俺の前にやって来た。身なりの良い文官を中心に、鎧を着た兵士が3人、文官を警護する様に立っている。



「私は西都エディンバラからやって来た、公証人だ。この村で、とある人物と待ち合わせをしている。もうすぐしたら、この村にやって来ると思うので、待たせて貰っておる」

身なりの良い文官は、ニヤっと笑い、俺達を憐れむ様な眼差しで見ている。その身なりの良い文官の雰囲気に、俺はどういう事か理解するのに、時間は掛からなかった。



『なるほど…あの盗賊団の手引きで、この村の人々を…奴隷にする為に呼ばれた公証人…か』



一般人が初めて奴隷になる時は、公証人が主人と奴隷に魔法で奴隷契約を結ばせる。そして奴隷には首に、首輪の様な奴隷の紋章が刻まれる。ネームプレートにも身分が刻まれ、奴隷になるのだ。

初めの一回目は必ず公証人が行うのである。初めの奴隷契約は、公証人以外出来無い様に法律で決まっている。それを破ると厳しく処罰(処刑)される。

通常は役所に赴き、公証人に奴隷の契約をして貰うのだが、役所が無い村や、役所のある町から遠い場所で、奴隷の契約や、商売の契約に立ち会って貰う時は、役所に申し立て、手数料を払えば、その場所まで公証人を派遣してくれるのだ。



そんな公証人が、あの盗賊団が村を襲う時に、その現場に居ると言う状況が指し示すものは…この村の人々を奴隷として契約させる為に、あの盗賊団に呼ばれ、派遣されて来たのであろう。

この国でも人攫いや、強制的に一般人を奴隷にする事は、禁止されていて、その様な事をすれば罰せられる。

役所の中であれば、他の役人の目もある事から、理由無しに無理やり奴隷に契約させる事は難しいが、この様に、派遣先であれば、担当の公証人の判断次第で、幾らでも奴隷の契約をする事が出来る。

公証人に賄賂でも渡しておけば、見て見ぬふりをして、奴隷契約を行う公証人などいくらでも居る。

今回も、あの盗賊団に賄賂でも貰って、この村の人々を、奴隷として契約するつもりで居たのだろう。



しかし、その盗賊団は、もう全滅している。頭のギルス達も逃げ、エイルマーが港町パージロレンツォに、救援を求めに行っていて、明後日には助けの守備隊がやってくる。この公証人の出番は無いのだ。



「そうですか。公証人様方はこの村で待ち合わせを…。ですが、この村の近くで、盗賊団が出ましてね、今村の人が、港町パージロレンツォの守備隊に、救助を求めに向かっているんですよ。一応盗賊団は、僕達で壊滅させたのですが、お待ちになっている方が、無事に此処まで就けると良いですね」

俺のその言葉に、驚き顔を見合せている、身なりの良い公証人と兵士達。その驚き様で、俺の推理は当たっていた事を確信する。



「そ…それは、本当の事なのですかな?」

「ええ!本当の事です。私が証人ですからね」

俺の後ろから出て来たアロイージオが、公証人達に言う。



「えっと…貴方は…」

「私は、フィンラルディア王国、モンランベール伯爵家が三男、アロイージオ・イレール・オラース・モンランベールだ。よろしく」

その名前を聞いた途端、公証人達の顔色が変わる。アロイージオに片膝を付いて跪く、公証人達。



「此れは、失礼を!…と言う事は、先程のお話は、本当と言う事なのですね?アロイージオ様」

「ああそうだよ。盗賊団は全滅。盗賊団の頭は逃げたし、もう此処には戻って来れないと思うよ。此処で待ち合わせしている人が、無事だといいね」

アロイージオの言葉を聞いた公証人達は、慌てる様に立ち上がると、



「そ…そうですね、私達は、待ち合わせをしている者が心配なので、途中まで迎えに行ってみます。でわ、失礼します!」

「いや!村の外は、まだ完全に安全と言う訳では…」

立ち上がって、自分達の馬車に向かう公証人達を、心配して止めようとしているアロイージオの肩を優しく掴み、



「行かせてあげて下さい。余程、待ち合わせの人が心配なのでしょう。それに、あの人の護衛の方は、強いお方達なので、心配は無いですよアロイージオ様」

そう言ってアロイージオに微笑むと、少し心配そうに頷くアロイージオ。



アロイージオは解っていないが、この公証人達が、あの盗賊団に襲われる事は無い。仲間と言っても過言ではないのだから。予定外の盗賊団の全滅と言う結果に、早くこの場から立ち去りたい気持ちで一杯であろう公証人達は、そそくさと馬車に乗り込むと、挨拶をして村から出立してしまった。

不思議そうに公証人を見ている、アロイージオとアロイス村長。



「…とりあえず、此れまでの事を説明したいので、アロイス村長の家で、説明させて下さい。村の女の人は、それぞれの家に帰って、ゆっくりして下さいね」

女性達は頷くと、それぞれの家に帰って行く。残ったメンバーで、アロイス村長の家に行き、此れまでの事情をアロイス村長に説明すると、その表情を険しいものに変えるアロイス村長。



「そうか…ハンスがその様な事を…。葵殿、マルガさん、本当に申し訳なかったですの」

アロイス村長は深々と頭を下げ、謝罪をする。そんなアロイス村長の頭を上げさせ



「もう終わった事ですから。それにハンスさんも亡くなってしまってますしね。…ハンスさんの亡骸は、荷馬車の方に乗せて来ましたので、後ほど…」

感謝しますと言い、アロイス村長は静かに頭を下げる。



「兎に角、エイルマーさんが港町パージロレンツォから守備隊を連れて帰ってくる間、村で防衛戦を張って、守備を固めましょう。メラニーさんの話では、もう盗賊団の人員は居ない様ですが、もし、メラニーさんの知らない兵隊が居たら厄介ですからね」

俺の提案に、一同が賛同する。アロイス村長は、村の人々を集めて、盗賊団が襲撃してくる可能性がある事を説明して、防衛戦を張る様に伝える。

イケンジリの村の人口は100人弱。女子供をアロイス村長の家と、その両隣の家に集め、残りの男達で、交代しながら夜通し警戒する事となった。皆がそれぞれの役割に分担して、手際よく防衛戦を張って行く。

そんな中、リーゼロッテが、食事を持って俺とマルガの所にやって来た。



「葵さんもマルガさんも、此れを食べて下さい」

リーゼロッテが持って来たのは、羊の塩漬け肉を焼いた物を、野菜と一緒にパンに挟んだ、物だった。

その美味しそうな匂いに、マルガは可愛い鼻をピクピクとさせて、嬉しそうにしている。



「マルガ、食べようか」

「ハイ!ご主人様!いただきます!」

マルガは、食事を受け取ると、可愛い口を目一杯開けて、パンを頬張っている。モグモグと実に幸せそうだ。



「所で、葵さんは夜の警護を担当すると聞きました。日中はマルガさん、夜は葵さんなんですね」

「ええ、そうです。僕は夜目がききますので、その方が良いと思いまして。マルガも感知範囲なら、この村に居る誰よりも広いですからね。一応僕とマルガが別れて警戒する事になってます」

感知範囲の広いマルガと、今現状で、この村で1番戦闘力の有る俺は、別れた方が良いだろうとの事で、日中はマルガ、夜間は夜目のきく俺と、別れて警護する事になったのだ。



「この食事を食べ終わったら、夜まで寝かせて貰います。マルガ…何かあったら、すぐに起こしてね」

「ハイ!交代の夜迄、一杯警戒して頑張っちゃいます!任せて下さいご主人様!」

マルガは、ムムムと顔を真剣にして、胸に握った拳に力を入れている。俺とマルガは食事を終え、少し休憩している時に、マルコがやって来た



「あ!やっぱり此処だったんだねマルガ姉ちゃん!オイラと一緒に、夜まで見回りだから、頑張ろうね!」

「うん!じゃ~ご主人様行ってきます!」

「気をつけてねマルガ。無茶しちゃダメだよ」

俺の言葉に頷くと、マルコに連れられて、村の警護に行ったマルガ。俺が手を振ると、同じく嬉しそうに、手を降っている。



「とりあえず、葵さんも夜まで、お休みになられたらどうですか?」

「そうですね。そうさせて貰います」

リーゼロッテのその言葉に甘えて、俺は丸太で作られた腰掛けに寝そべろうとした時、俺の体は、フワっと引き寄せられた。

そして、ゆっくり優しく、柔らかい感触の膝の上に、頭を寝かせられた。

俺は女の子座りをしているリーゼロッテに引き寄せられ、膝枕をされているのだった。



「あ…あの…リーゼロッテさん?」

「はい?どうかしましたか?葵さん?」

俺の問いかけに、問いかけで答えるリーゼロッテの顔は、優しい微笑で俺を見ていた。俺の戸惑う顔を、面白げに見てニコニコしている。



「いや…リーゼロッテさんに、こんな事して貰って…いいのかなと…」

「私の膝枕では…ご不満ですか?」

少し寂しそうに言うリーゼロッテに、ドキっとしながら慌てて



「いえ!凄くいいです!柔らかくて気持ち良いですし!」

「そうですか。それは良かったです」

俺の返答に満足したのか、嬉しげな顔をしているリーゼロッテ。

オオウ…本当に…このままでいいのかな!?リーゼロッテさんの微笑みが、可愛すぎる…

てか…リーゼロッテさんの肌…綺麗ですべすべで、柔らかいな…。手に吸い付く様だ。肌もマルガに勝るとも劣らないね。



「もっとくつろいでくれて良いですよ葵さん…」

リーゼロッテのその言葉に、鼓動が早くなる。

マジですか?そんな事言われたら、ちょっと大胆になっちゃいますよ!?後悔しても知らないんだからね!

俺はリーゼロッテの方に顔を向け、リーゼロッテの柔らかいお腹に顔を埋め、腰をギュっと抱きしめる。リーゼロッテの華奢で細い腰の抱き心地は最高だった。マルガとは違う、甘く優しい香りが俺を包み込む。



「うん…」

リーゼロッテが少し吐息の混じった声を、微かに上げる。その声に、何故か少し興奮してしまった。

う~ん。気持ち良い…マルガとは違う、大人の感触だ…抱いていて気持ち良い。もっと色々したくなる…

俺は、ゆっくりと、リーゼロッテのカモシカの様な綺麗で細い足を、ゆっくり撫でてゆく。

太ももからゆっくりと、つま先まで。その足の指も、軽くマッサージする様に触る。足の指の間に、俺の指を入れると、少しピクンとなった。やりすぎたかな?と思い、リーゼロッテの顔を見る。



「どうかしましたか葵さん?」

リーゼロッテのその顔は少し赤くなっていた。気持ち良さそうに微笑みながら言うリーゼロッテに、再度鼓動が早くなる。

…そんな顔されたら…もっと…したくなるよ?リーゼロッテさん…

俺はリーゼロッテの太ももに、何度もキスをしながら、再度リーゼロッテの足を触ってゆく。リーゼロッテは少し、何度もピクンと身を捩らせているが、明確な拒否は一切なかった。その事が気になって、再度リーゼロッテの顔を見ると、何故か幸せそうな顔で、



「ゆっくりとくつろいで下さいね。夜迄…私の膝の上で…」

綺麗な金色の瞳を揺らしながら、顔を少し赤らめているリーゼロッテの表情に、俺の心は囚われそうになる。そんな俺の頭を、ゆっくりと撫でてくれるリーゼロッテ。その撫でてくれるのがとても気持ち良くて、疲れが溜まって、お腹も膨れていた俺は、リーゼロッテの膝の上で、あっという間に眠ってしまう。

膝の上で寝ている俺を、慈しむ様に、優しく寝かせてくれるリーゼロッテ。



「…本当に、意外と寝顔も可愛いのですから…」

リーゼロッテの唇が、俺の額にキスをする。

俺は、夜の交代の時間まで、リーゼロッテの膝の上で、夢見心地で過ごしたのであった。











エイルマーが港町パージロレンツォに、救援を求めに行って2日目の昼前の事だった。

通常の予定で有れば、今日の夕方位に救援の守備隊が到着するはずだったのだが、ソレは予想外の早さで現れた。



「ご主人様起きて下さい!空から竜が一杯来ちゃいました!」

「ふええ!?空から竜!?」

また変な声を出してしまった…オラ恥ずかしい…

マルガは俺を起こすと、テントから引っ張って、俺を外に連れ出した。マルガは空を指さす。マルガの指す空を見ると、15匹位の空飛ぶ竜が、イケンジリの村の広場に降りようとしていた。

銀色の綺麗な鱗に、頭や心臓に、鎧を付けられていて、背中に鞍の様な物を付け、人を乗せている。ドラゴンにしては小柄?なのか、大きさは7m位、翼を広げて18m位だと思う。ワイバーン種だ。

その先頭の、銀色のワイバーンから、一人の女性と、男が降りて来て、俺達の方にやって来た。



「葵さん!村は無事だったんですね!良かった…」

「エイルマーさんも、無事だったみたいで良かったです!」

お互いの無事を喜び合う俺とエイルマー。そんな俺達を見ていた女性が、近寄って来る。

銀色のかなり豪華な鎧に身を包み、綺麗な赤毛の髪を靡かせ、純白のマントを揺らしながら、やって来た。

綺麗な顔立ちの、キリっとした目付きだが、女性らしい美しさもある美女だ。20代前半、身長も俺より高く、170cmは有るだろう。その威厳に満ちた佇まいから、相当に身分の高い人物だと伺える。

そんな女性が、俺を上から下まで見て、フンフンと頷いている。



「エイルマー殿。此方が件の行商人で宜しいのですか?」

凛とさせる綺麗な声を響かせ、エイルマーに問う美女の騎士。エイルマーは頷きながら



「はい。此方が私達を救ってくれた行商人の葵さんです」

「ど…どうも…。行商をやっています葵 空 と言います」

エイルマーの紹介に、美女の騎士に挨拶をすると、その威厳の有る顔を、ニコっと親しみやすい笑顔に変える美女の騎士が



「そうか!よくぞこの村を助けてくれました!貴方のお陰で、沢山の領民の命が守られました!心より感謝します!」

そう言って、深々と頭を下げる、美女の騎士。俺は慌てて、美女の騎士に頭を上げて貰うと、ニコっと笑う美女の騎士が



「自己紹介がまだでしたね。私はフィンラルディア王国、バルテルミー侯爵家、ウイーンダルファ銀鱗騎士団の副団長を務めています、イレーヌ・エメ・プレオベールです。よろしく!」

胸に手を当てて、綺麗にお辞儀をするイレーヌ。

うほ!エイルマーさん凄い人を連れてきちゃったね!六貴族のバルテルミー侯爵家のお抱え騎士団の副団長とか、そんじょそこらの貴族より、身分が高いんじゃないの?

俺がアタフタしていると、俺の後ろから優しく肩に手を置くリーゼロッテが



「葵さん、挨拶は終わった様ですし、イレーヌ様をアロイス村長とアロイージオ様の所に、ご案内されてはどうでしょうか?」

「そ…そうだね。イレーヌ様、ご案内いたします」

リーゼロッテの助け舟に乗っかった俺は、何とかそう告げると、クスっと微かに笑うイレーヌ。そして、表情を引き締めなおして、



「ウイーンダルファ銀鱗騎士団、銀竜部隊は、この村を警護せよ!上空と地上より監視をし、敵を発見次第、容赦なく排除せよ!」

その凛とした綺麗な声に、規律正しく待機していた、銀色のワイバーンに乗っていた竜騎士達は、行動を開始する。一糸乱れぬその行動の早さに感服する。



「では、案内を頼みます葵殿」

その顔を再度親しみのある笑顔に戻すイレーヌ。その切替の早さにも戸惑いながら、俺はアロイス村長と、アロイージが居る家に、イレーヌを案内する。家の中に入り、2人が居る部屋にノックをして入って行く。

部屋に入ると、イレーヌはアロイージオに駆け寄り、



「おお!アロイージオ様!よくぞご無事で!エイルマー殿から話を聞いた時は、我が主人も大層心配しておりました!」

「此れはイレーヌ殿。お久しぶりですね。そこの葵殿のお陰で、この様に何とか無事です」

アロイージオとイレーヌは握手をして、無事を喜んでいる。そこにアロイス村長が



「イレーヌ様お久しぶりでございます。救援に来て頂いて、ありがとうございます」

「いえ、アロイス村長殿、礼には及びません。我らは領民を守るのが役目。お気になさらないで下さい」

アロイス村長の言葉に、笑顔で言うイレーヌ。



「では早速で恐縮ですが、アロイス村長殿、アロイージオ様、今の状況と、過程を教えて頂けますか?」

アロイス村長とアロイージオは、今迄あった事をイレーヌに報告して行く。その内容を聞いたイレーヌの顔が歪む。



「フム…アロイージオ様の護衛役の、モンランベール伯爵家、ラウテッツァ紫彩騎士団、第5番隊が全滅ですか…。敵はかなりの手練だったのですね。…やはり、元グランシャリオ皇国領であった、内戦の残兵や敗戦兵でしたか?」

「はい。盗賊団は皆、元グランシャリオ皇国領で戦っていた、ラコニア南部三国連合の正規軍の焼印を、防具に刻んでいました。現地で盗賊団の死体を、確認して貰えれば解って貰えるかと」

俺の追加の説明に、肯定をするイレーヌ。



「しかし…気になる事も少しあるのですが…」

「葵殿…どんな事か、説明してくれませんか?」

俺は、イレーヌに、気になっている事を説明する。



まず、あのギルス達の強さだ。いかに元ラコニア南部三国連合の正規軍だったとしても、あのクラスになってくると、部隊長クラスだ。30人近く居た兵隊達なら兎も角、あのギルス達のクラスが、何故わざわざ盗賊団などしていたのだろう。ギルス達の実力なら、他でもっと良い稼ぎ口もあるだろうに…

もう一つは、持っていた物が高価過ぎる事。名剣フラガラッハも去る事ながら、結界魔法陣や転移のマジックアイテムを使うなど、金目当ての盗賊がする事なのか疑問に思う。

その事をイレーヌに説明すると、



「フム…確かに、葵殿の言う事も解りますね。ま…その者達が逃げているので、今となっては解り兼ねますが、後で来る兵を廃坑に向かわせた時に、もう一度良く調べさせましょう」

イレーヌの回答に、俺は静かに頷く。



「私達は、エイルマー殿の報告を受けて、領地内の全ての町や村に、兵を送っています。騎士団も活発に監視しますので、今後この様な事が起こる事は、無いと思います。今日の夕方には、この村にも常駐する騎士団の兵士達が到着します。此れからは安心して生活をして下さい」

流石善政をしく事で有名なバルテルミー侯爵家だ。仕事が早い。そのイレーヌの言葉に、アロイス村長もエイルマーも安堵の表情を浮かべる。



「今日は此れからアロイージオ様を先に、我が主がいる港町パージロレンツォに、私のシルバーワイバーンに乗って、一足先にお連れする様に言われています。宜しいですかな?アロイージオ様」

「はい。私はそれで結構ですが…もう一人、モンランベール伯爵家の客分である、このリーゼロッテさんも一緒に宜しいですか?私はリーゼロッテさんを、港町パージロレンツォにあるモンランベール伯爵家の別邸にお連れする事になっていますので。リーゼロッテさんもそれで宜しいでしょうか?」

アロイージオの言葉に、暫く考えたリーゼロッテが



「私は…この葵さんに、港町パージロレンツォに送って貰おうと思います。葵さんも港町パージロレンツォに向かわれる様ですし」

「…そうですか。それでは葵殿、リーゼロッテさんを宜しくお願いします」

リーゼロッテは俺の腕を掴みながら言うと、その言葉に肯定するアロイージオ。俺はいつの間にか、リーゼロッテを、港町パージロレンツォに送る事になっていた。少し戸惑っている俺に、



「私と一緒に港町パージロレンツォに行くのは、ご不満ですか?」

リーゼロッテの少し寂しそうな顔に、胸が少しキュっとする



「いえ!全然いいですよ!マルガも喜ぶだろうし。ね?マルガ」

「ハイ!リーゼロッテさん、港町パージロレンツォ迄、ご一緒しましょう」

マルガは嬉しそうにそう言うと、リーゼロッテの手を握っている。リーゼロッテもマルガに嬉しそうに微笑み、頷いていた。それを微笑ましく見ていたイレーヌは



「では話は決まりましたね。アロイージオ様は私と一緒にと言う事で。それから、葵殿。港町パージロレンツォに着きましたら、バルテルミー侯爵家の官邸迄、お越しください。我が主人が貴方に面会を希望されています」

「私のモンランベール伯爵家の別邸にも来てくれたまえ。リーゼロッテさんの件もありますが、私を助けて貰ったお礼もしたいのでね」

イレーヌとアロイージオは俺にそう告げると、一同に挨拶をして、部屋から出て行く。イレーヌとアロイージオを見送る為に、俺達も部屋から出て来た。

村の広場には、立派なシルバーワイバーンが大人しく待っている。



「ウイーンダルファ銀鱗騎士団、銀竜部隊、1番員から5番員迄は、私と同行してアロイージオ様を、港町パージロレンツォ迄お送りする。残りの銀竜部隊10員は、騎馬隊の到着迄村の警護、騎馬隊と合流後は、予定通り、近隣の村の警護に当たれ!以上!」

凛とした綺麗な声でそう告げるイレーヌ。銀竜部隊が命令通りに動いてゆく。

俺はかなり訓練された、ウイーンダルファ銀鱗騎士団、銀竜部隊に興味が出て、どれ位の強さが有るのか気になったので、ちょっと霊視で視てみる事にした。



『うは!15人の兵隊さん達のLVは80代前半から後半、全員上級者クラスか~。スキルも凄いものを持っているし、流石だね。兵隊さんでこのクラスだと…副団長のイレーヌさんはどれ位なんだ?』

俺はイレーヌに霊視をしようとして見つめる。そして、詳しく視ようとした瞬間、バチチと頭の中で鳴り響き、霊視が解除された。俺がその衝撃に軽く頭を抑えていると、フフフと笑っているイレーヌが



「葵殿。どんなスキルや魔法なのかは解りませんが、無暗に使う物ではないですよ?私は此れでも、一応乙女だと思っていますので、その辺も考えて下さいね」

俺を面白そうに見ているイレーヌに、苦笑いをする俺。



ムウウ…まさか霊視を見抜き、阻止されるとか凄いね。あの盗賊団のギルスですら、そんな事されなかったのに。まあ…阻止される前に、イレーヌのLVだけは視れたけど…

イレーヌのLVは、脅威のLV185。

上級者どころか、マスタークラスを飛び越え、ハイマスタークラス。化物クラスだ。

さしものギルス達も、体制を立て直して、やって来たとしても、返り討ちにあうだけであろう。

それだけの実力を秘めている。流石はバルテルミー侯爵家、ウイーンダルファ銀鱗騎士団と言った所だ。



「では、私達は港町パージロレンツォに向かいます」

「アロイージオ様、イレーヌ様、お気をつけて」

アロイス村長が、皆を代表してそう言うと、ニコっと微笑むイレーヌは、シルバーワイバーンの手綱を引くと、瞬く間に上空に飛び上がった。それに続き、お供の兵士のシルバーワイバーンも5匹飛び上がる。

イレーヌとアロイージオは上空で此方に手を振ると、港町パージロレンツォに向かって飛んでいった。



「フム…行ってしまわれましたの。警護の騎士団様方も来てくれたし、これでもう全て安心ですの。明日には予定通り、葵殿と取引した品物を揃えましょう。…色々有りましたし、全てが元通りと言う訳には行きませんが…この村も、何時もの日常を取り戻して行く事でしょう」

アロイス村長はそう言うと、静かに目を閉じる。



孫であるハンスの死、ハンスが村の女性やマルガにした事を、思っているのであろう。

当初、ハンスが女性達やマルガにした事を、内密にする予定だったが、エイルマーが村の長が知らないと言うのは都合が悪いと言うので、アロイス村長とエイルマーが、此れからもこのイケンジリの村を仕切るならと言う条件で、俺は承諾をして、全てを話したのだ。



そして、ハンスの亡骸は、この村に俺達が帰って来たその日に、村の墓地に埋葬された。村の警戒中と言う事で、葬儀はごく小さいもので終わった。ハンスがした事を知っているのは、ごく一部の当事者達のみで、アロイージオやリーゼロッテも、口裏を合わせてくれた事により、ハンスは盗賊団に殺された、ただ一人の村での被害者と言う事で村人には理解され、ハンスの死は村人に悲しまれている。



「では、私とエイルマーは明日の事と、此れからの村の事を相談しないといけませんので、行かせて貰います」

そう言って、家の中に入って行くアロイス村長とエイルマー。

その2人の…此れからの日常と、向き合う覚悟を決めている背中を見つめているマルコが、キュっと握り拳に力を入れる。



「オイラ…此れから、父さんと母さんに、話をしてくる!だから…しっかり見てて葵兄ちゃん!」

マルコは真剣な眼差しをしながら、自分の家に向かって歩き出した。俺とマルガ、リーゼロッテはマルコの後をついて歩く。そして家の前に来て、大きく深呼吸をするマルコは、勢い良くその扉を開けた。

そこにはマルコの両親、ゲイツとメアリーが、昼食の準備をしていた。俺達に振り返り、笑顔を向ける夫妻。



「おう!マルコ帰ったか!葵さん達も一緒だな。もう少しで昼食が出来るから、テーブルに就いて待ってて下さい」

笑顔でそう言うゲイツに、マルコは一歩前に出る。そして、再度深呼吸をして、ゆっくりと話しだす。



「父さん、母さん、大切な話が有るんだ。聞いて欲しい」

静かに語るマルコを、流し目で見ながら、軽く貯め息を吐くゲイツ



「…葵さんの弟子になって、行商に付いて行くって話しなら、昨日もしたはずだ。駄目だ。お前にはまだ早い」

「違うんだ!きちんと話を…」

「だまれマルコ!…葵さんすいませんね。マルコがご迷惑を掛けちゃって」

強引にマルコの話を遮る様に言うギルスに、相手にされていないマルコは、俯きギュっと唇を噛んでいる。



「いえ…お気になさらずに。初めての弟子の、一世一代の交渉なんで、迷惑とは全然思ってませんので」

「葵兄ちゃん!」

微笑みながらゲイツに答える俺を見て、嬉しそうに此方を見るマルコ。その言葉を聞いたゲイツの目がきつくなる



「葵さん…それはどういう意味でしょうか?まさか本当に…マルコを弟子になさる気ですか?」

「そうですね。マルコがゲイツさん達に了解を得られればって、条件を付けましたけど、その条件をきちんと達成出来るのであれば、僕はマルコを連れて行っても良いと思っています」

そう言って微笑む俺を見て、マルコは嬉しそうな顔をする。そんなマルコを見て、一層瞳をきつくするゲイツは



「…葵さんはもう成人されて、まだお歳はお若いですが、立派に行商を生業として生活されている良識のある方だと思っていましたが…まさか…11歳の子供が言う事を、真に受けられるのですか?」



「そうですね…マルコは確かにまだ子供です。ですが…言葉の意味の解らない子供であれば、叩いて、押さえつけて教えるのも、親の役目かも知れませんが、マルコはもう話して解らない様な歳では、ありません。その事は既にゲイツさんも感じておられるのでは?ならば、正面から話し合って、親の経験から、マルコを説き伏せてみてはどうですか?マルコの話を聞かずに、押さえつける事はもう出来無いでしょうしね」

俺の話を静かに聞いていたゲイツは、う~んと唸り声を上げ、暫し考えていたが、軽く貯め息を吐き



「解りました…確かに葵さんの言う事も一理あります。とりあえず、話だけは聞いてみましょう」

ゲイツの言葉に、沈んでいた顔が晴れてゆくマルコは嬉しそうだ。



「俺がしてやれるのは此処までだからねマルコ。後はマルコ次第。許可を貰えなかったら、連れて行かないのは本当だからね?」

「うん!解ってる!ありがとう葵兄ちゃん!」

マルコはグッと胸の前で両手の握り拳に力を入れて、ゲイツの方を向く。そして、静かに大きく深呼吸をして、ゆっくりと話しだした。



「オイラは今迄、ただ行商人に憧れて…ただ世界を見てみたくて、父さんと母さんに、行商人になりたいって言っていただけだと思う。けど…今は違うんだ!」

「…何がどう違うんだ?きちんと説明してみろ」

ゲイツの言葉に、ゆっくりと説明を始めるマルコ。

マルコは、ここ数日起こっていた盗賊団が、村を脅かしていた事を説明し始めた。

初めに、この話は此処だけの話にして欲しいと、ゲイツ夫妻に了承を貰い、村の女性達やメラニーが陵辱された事は伏せて、ハンスがこの村の為に、命を掛けて、どんな犠牲を出してでも村を守ろうとしていた事を話す。

その内容に、顔を見合わせる、ゲイツとメアリー夫妻。



「ハンスさんが村の事を考えて、その様な事をしたのは解った。でもそれが、お前とどういう関係があるんだ?」

当然疑問に思うゲイツの言葉を解っていたマルコは、



「…オイラね、葵兄ちゃんが盗賊団の頭と戦ってる時に、入り口付近で隠れて見ていたんだ。その時、盗賊団の頭が言ったんだ…。『この世はな、力なんだよ!力が全て!力のないお前達は、俺の言う通りにしか出来ないんだよ!』ってね。オイラもそう思った…きっとそれが事実なんだろうって。でも同時に、とても悔しかったんだ…何も出来無い自分に…守れない自分が…嫌だったんだ」

「…お前の言いたい事は良く解る。でも、だからと言って、お前がハンスさんの真似をする必要はないだろう?」

諭すように言うゲイツに、真剣な眼差しを曇らせないマルコは



「でも父さん、次に今回見たいな事が有ったら、どうするの?また…ハンスさんみたいな人を犠牲にして、自分達だけ安全な所で、今回みたいにほっと安心しているだけなの?今回は本当に葵兄ちゃんが居たからこれ位の被害で済んだけど、次にこんな事があったら、凄い事になるかも知れないよ?それに、次はハンスさんみたいな人も居ないかも知れないんだよ?」

「そ…それは…そうだが…」

マルコの言葉に、思わず口籠もるゲイツは戸惑っていた。



「オイラはね、葵兄ちゃんの弟子になって、色々な力と知恵をつけたいんだ!大切な物を守れないで、ただ見ているだけじゃ嫌なんだ!大好きな父さんや母さん、この村の人の力になれる様に、守れる様になりたいんだ!父さんや母さんの言っている事も良く解ってる!でも…オイラを信じて、今は行かせて欲しいんだ!お願いします!父さん!母さん!」

マルコは一気に言うと、土下座をして頭を床に擦り付ける。恐らくこんな真面目に真剣な思いを、今迄聞いた事が無かったであろうゲイツは、複雑な表情で瞳を揺らしていた。そして、俺の方を向き



「葵さん…貴方はどうしてマルコを弟子にしても良いと思ったのですか?」

「いや…純粋に凄いな~と思いましてね」

「…凄いとは?」

「ええ…僕がマルコと同じ歳の頃は、遊ぶ事しか考えてませんでした。それなのに、小さい時から、投擲の練習を欠かさずして、今は大切な物を守りたいって、頑張ろうとしてるんですからね。僕は善人ではありませんが、そんなのを見せられたら、少しは何かしたくなっても、可笑しくは無いでしょう?」

その言葉を聞いたゲイツは、静かに俺を見ている。そんな2人を見ていたメアリーが、ゲイツの傍まで来る



「あなた…マルコを行かせてあげましょう。この子の気持ちは…本物よ…」

「だが!しかし…」

メアリーの言葉を聞いて、再度口籠もるゲイツの肩に、優しく手を添えるメアリーは



「葵さんの言う通り、もうマルコを押さえつける事は出来無いわ。あなただって、マルコの気持ちを聞いて、説き伏せる事は難しいと思っているのでしょう?私達の子供を信じてあげましょう…」

優しい口調で、諭す様にゲイツに言うメアリー。ゲイツは腕を組んで、暫く思案すると、俺の方を再度見て



「…もし、葵さんの弟子になるとして、葵さんはマルコの事を守って頂けますか?マルコの安全を保証して貰えるのでしょうか?」

「それは…お約束出来ませんね」

思いもよらない俺の言葉を聞いて、表情をきつくするゲイツ



「行商や冒険には、危険が満ち溢れています。今回の件もそうですが、ギリギリの所で生死を分ける事なんて言うのは多々あります。そんな中で、身の安全を守るなんて事を、約束するなんて事は出来無いんですよ。…僕もまだ勉強中で、此れから色々学んで行かないといけない身です。僕はマルコを弟子じゃなくて、旅の仲間として迎えるつもりです。勿論、僕の指示には従って貰いますけどね。僕と一緒に行く中で、マルコが何を学ぶのかは、マルコ自信に任せようと思っています。その中で、もしマルコが死んでしまっても、僕は責任を負うつもりはありません」

ゲイツと同じ様に、表情のきつくなっている俺を、黙って見ているゲイツ



「…行商や冒険は自己責任が基本です。行商で損をしたり、冒険で危険な目に合ったからと言って、それを人の所為にしている様では、やっていけないでしょう。自分で考え、自分自身で責任を取らなければいけないのです。…きっとマルコもそう言う覚悟を決めて、ゲイツさんとメアリーさんにお願いしているのだと思いますよ」

俺は静かに語ると、それを聞いていたゲイツは軽く溜め息を吐きながら、



「…なるほど、確かにそうですね。しかし…実の親に、そういうキツイ事を平然と言われるとは…。少しは安心させる事を言ってくれても良いのでは?」

「…言い難い事やキツイ事も、言うべき所では言う。出来ない約束はしないと言うのは、商売をする者にとっては大切な事なんです。そこに甘えがあってはならない。それがのちに、信用にも繋がる…。と、まあ偉そうに言いましたけど、僕に商売を教えてくれた人の言葉なんですけどね。僕は、まだまだ修行中ですから、良く怒られていますけど」

苦笑いしている俺を見て、フッと笑うゲイツは、



「…良き人に教えを乞うていらっしゃいますね。確かに…葵さんの言う通りですな」

そう言って静かに目を閉じ沈黙するゲイツ。暫くそうして居たが、ゆっくりと瞳を開け、土下座をしたままのマルコに向き直り



「…20日~30日置きに必ず手紙を送ってくる事…そして…また必ず元気に帰って来る事…約束出来るかマルコ?」

優しく語りかける様に言うゲイツの言葉に、ガバっと頭を上げるマルコは



「うん!約束する!オイラ言われた通りにするし、一杯勉強して、強くなって帰って来る!絶対に元気で帰ってくるよ!」

「…なら行って来なさい。父さんと母さんは…お前を信じる。父さんと母さんの信用を、裏切る様な事をしたら許さないからな」

「解ってる!ありがとう父さん!」

マルコはガバっと起き上がり、ゲイツの胸に飛び込んで泣いている。それを優しく迎えるゲイツの顔は、大切な息子を認め、巣立って行くその姿を慈しむ様に、嬉しさと寂しさ、心配が折り重なった複雑な表情ではあったが、しっかりとマルコを受け止め胸に抱く姿は、何処かの聖堂に飾られている絵の様に、威厳と慈悲に満ち溢れていた。



「葵さん…自己責任でと言う事は解っていますが、マルコは私達の大切な子供…また此処に元気に帰って来れる様に、力を貸してやって下さい。…マルコの事を宜しくお願いします」

「ええ…僕も極論を言わせて貰っただけです。旅の仲間になったのですから、出来得る限りの事はさせて貰います」

マルコを抱きしめるゲイツの横で、深々と頭を下げる妻のメアリーの心からの願いの声に、俺がそう答えると、目に涙を浮かべながら微笑んでいる。そんなメアリーにも優しく抱かれていたマルコは、涙を袖口で拭くと、俺の前までやって来た。



「葵兄ちゃん!きちっと承諾を貰えたから、約束通り、オイラを弟子にしてくれるよね?」

「そうだね。ま~弟子と言うよりかは、旅の仲間として迎えるよ。条件は前に言った通り。いいね?」

「うん!じゃ~此れからヨロシクね!葵兄ちゃん!」

「うんよろしくねマルコ」

俺が掌をマルコに向けると、少し飛び上がって、掌を打ち付けハイッタッチをするマルコの顔は、とても輝いていた。マルガとリーゼロッテも微笑み合っている。



「葵さんはこの村を何時出立される予定ですか?」

「えっと…商品が揃うのが明日なんで、明後日の朝に出立しようと思っています」

ゲイツの問に俺がそう答えると、フンフンと頷いているゲイツは、



「じゃ~今からはマルコの出立祝いに、美味しい物を更に一杯出しましょう!準備しますので、テーブルに掛けて待っていて下さい」

ゲイツのその言葉に、マルガが涎の出そうな顔で、ニマニマしていたのは言うまでも無い。そんなマルガを楽しげに笑っている一同。マルガはテヘっと笑い、可愛い舌をペロッと出している。

俺達は豪華な食事を、心ゆくまで楽しんだ。













騎士団の到着した村は平穏を取り戻し、夜の帳が降りた村の広場には、数本の篝火が焚かれ、騎士団が交代で村の警備をしている。

昼食に引き続き、豪華で楽しい晩餐も終わり、俺とマルガは部屋に帰って来て居た。

テーブルに並べられた料理を、パクパクと食べていたマルガと白銀キツネの子供のルナは、ベッドの上で、お腹を膨らませて実に満足そうに腰掛けている。



「はあ~今日もご夕食、とっても美味しかったです~。お腹一杯です~」

プクっと膨れたお腹を摩りながら、満足そうなマルガの膝の上には、同じ様にお腹を膨らませている白銀キツネのルナが、眠たそうに目をショボショボさせている。

そんなキツネコンビが可笑しくて、ププっと思わず吹いて笑ってしまうと、マルガはプクっと可愛い頬を膨らませる



「ご主人様…また何か意地悪な事考えてませんか?」

ちょっとウウウと唸りながら拗ねているマルガが、ジ~~~~と俺を見てくる。金色の毛並みの良い尻尾を、機嫌の悪いネコの様に、ベッドにペンペンと軽く叩きつけている。

うは!拗ねてるマルガ可愛ゆす!可愛く膨らませてる頬を、突っつきたくなるよ!

このまま拗ねマルガを堪能していたい気もあるが、可哀想なのでやめておこう。

そろそろ機嫌を直して貰う為に、釣り餌投入なのです!



「マルガ…マジカル美少女キュアプリムちゃんの続き見る?」

その釣り餌に、ピクっと耳を動かすマルガ。どうやらHITの予感です。



「ハイ!プリムちゃん見たいです!」

ハイ!と右手を上げて元気良く言うマルガの尻尾は、嬉しそうにブンブン振られている。

そんな盛大に釣り針に掛かってくれるマルガが可愛すぎて、思わずニマニマしていると、ハっと何かに気が付いたのか



「何か…ご主人様に誤魔化されている気がします~」

ハウウと言った感じで言うマルガは、プリムちゃんは見たいけど、俺の釣り餌にこのまま食いついて良いのか、迷っている。マルガの尻尾が奇妙な動きをしているのが面白い。

此処でマルガ魚を逃がす訳にはいかない!最後の追い込みです!

俺はハウウとなっているマルガを、優しく抱きしめ頭を撫で、マルガの柔らかい感触を存分に楽しむ。



「ご主人様ずるいです…」

可愛く拗ねる様にそう言うが、しっかりと俺の体を抱き返してくるマルガが愛おしい。

口に軽くキスをして、ギュっと抱きしめると、嬉しそうに俺の胸に顔を埋めるマルガ。尻尾が嬉しげにフワフワと揺れていた。



「じゃ~用意するから待っててね」

「ハイ!解りましたご主人様!」

ニコニコ顔に戻ったマルガを見てニマニマしながら、俺はアイテムバッグからパソコンを取り出し立ち上げる。テーブルをベッドの傍まで移動させて、その上にパソコンを乗せる。マルガはベッドの上できちんと正座をして用意してくれるのを待っていた。

特に正座する様に言っては居ないんだけど、マルガは何時もこの体制で待っている。俺と違って、根が真面目なんだよね。そんなマルガの頭を優しく撫でると、ニコっと微笑見が帰って来る。ホント可愛ゆすな~。

用意し終わって、動画サイトを開く。見慣れた画面が出て来て、始まった。



「皆さんこんにちわ~♪」

「ハイ!こんにちわですプリムちゃん!」

そう言って、微笑みながら可愛い頭を、パソコンの画面の中のプリムちゃんに、ペコリと下げて挨拶をするマルガ。

本当に毎回きちんと挨拶してるよね!マジで可愛すぎるんですけど!

そんなマルガを見てニマニマしていると、画面の中のプリムちゃんが元気良く始まりを宣言する。



「マジカル美少女キュアプリム!はっじまるよ~ん♪」

「ハイ!今日もよろしくですプリムちゃん!」

何がよろしくなのかは、あえて突っ込まないでおこう!だって可愛いんだもん!それでOKです!

マルガを見ながらニマニマしていると、主題歌が流れだし、本編が始まった。

前回と同じ様に、食い入る様にアニメを見ているマルガ。アニメの少女と同じ様にに、一喜一憂のリアクションをしているのが面白い。時折キャっとか、プリムちゃん頑張って!とか、叫ぶマルガを俺はニマニマ顔で見ているのである。俺の膝に抱かれている白銀キツネのルナも、今回は起こされずにスヤスヤ気持ち良さそうに寝ている。



今回は5話から見て、8話が終わった頃に、コテっと俺に頭を持たれかけて、眠ってしまったマルガ。

再度キツネコンビが、ムニャムニャ寝ているのを微笑ましく思いながら、椅子に腰掛けてタバコを吸っている時に、羊皮紙張りの窓の外に人影が見える。

俺は静かに立ち上がって、ゆっくりと扉を開けて外に出ると、そこには、金色の妖精が、儚げな顔をして、この世界独特の土星の様にリングの付いた、青い月の優しい光の下立っていた。

その金色の妖精は、俺に気が付き、ニコっと優しい微笑みを向ける。



「あらあら、もう美少女キツネさんとの、楽しい時間は終わりましたの?」

この世界独特の土星の様にリングの付いた、青い月の優しい光を浴びて、何処か幻想的にも見える金色の妖精は、悪戯っぽい微笑みを浮かべて俺を見ていた。

その微笑みに俺は息をするのも忘れて見蕩れていると、口に手を当ててクスクスと笑う、金色の妖精。



「また…私の顔に…何か付いてますか葵さん?」

「は!?え…いえ!な、何も付いて無いです!」

思わず声がうわずっちゃったよ!…オラ恥ずかしい…

そんな俺を、楽しそうに見ているリーゼロッテが、俺の隣まで近寄ってくる。リーゼロッテの甘い匂いに、クラっとする。



「今日もマルガさんは楽しそうでしたね…羨ましいわ…」

儚げに青い月を眺めるリーゼロッテの姿が、俺の心をギュっと掴む様な感覚に囚われる。

そんな俺の視線に気がついたリーゼロッテが、俺の方に向き直る。



「…葵さん、お聞きしたかった事があるのですが…どうしてマルガさんを、奴隷から開放してあげないんですか?あんなに好きで、大切にしている女の子なら、奴隷から開放してあげて、普通の恋人として、一緒に居た方が宜しいのではなくて?」

リーゼロッテは透き通る様な、美しい金色の瞳を俺に向ける。



『…その事は、今迄何回も、考えた事はある。あるけど…したくないんだ…』

俺はその理由を言うべきかどうか悩んでいたが、俺に向けられている、透き通る様な美しい金色の瞳は、全てを受け入れてくれる様な、輝きを放っていた。

その瞳に、宥められたかの様に、俺は自然と話しだしていた。



「はい…その事は今まで何度も考えました。でも…そうする事は…出来無いんです…」

「…どうしてですか?マルガさんの事が、大好きなんでしょう?」

「はい…大好きです。大好きだからこそ出来無いんですよ」

俺の言葉を聞いて、不思議そうに俺を見るリーゼロッテ。

そのリーゼロッテの表情を見て、一瞬言うかどうか躊躇ったが、最後まで言う事にした。



「俺は…マルガが大好きです。それこそ、何を犠牲にしても良い位に。でもそれと同じ位、マルガを他の奴が汚す事を嫌っています。マルガが他の奴に汚される、他の奴に心を開く、他の奴に…身を捧げるなんて事は…考えられないんですよ…そんな事は許さない…」

静かに俺の話を聞いていたリーゼロッテは、静かに目を閉じる。



「マルガを…他の奴に渡したくは無い…絶対に。マルガは俺だけの物…俺だけを好きでいないと駄目なんです。マルガの全ては俺だけの物…誰にも渡さない…」

黙って俺の話を聞いていたリーゼロッテは、ゆっくりと瞳を開ける。



「…だから…奴隷から開放しないのですか?ずっと手元に置いておく為に…」

「…はい。恋人だと、誰か他の人を好きになって、俺の手から離れて行くかもしれませんからね…」

俺は静かにこの世界独特の、土星の様にリングの付いた青い月を眺める。

その青い月は非常に美しく、無限に広がる様な夜空に天高くにある青い月は、俺を見下す様に優しい光を湛えていた。



「…本当は解っているんです。マルガをそんな方法で縛り付けても、全てが手に入らない事も。…俺は、アロイージオ様やエイルマーさんの様に、美男子や男前ではありません。見た目も普通、身長も高く無いし、特に賢い訳でも無い。ましてや大金持ちや、権力を持っている訳でもありません。…俺は怖いんです。こんな特に取り柄の無い俺に、何時まで好きと言ってくれるのか…。超美少女のマルガなら、もっと凄い男が此れから言い寄って来る事が、容易に想像出来ますからね」

俺はリーゼロッテに視線を戻すと、先程と同じ様に、全てを受け入れてくれる様な、透き通る様な美しい金色の瞳を、俺に向けてくれている。その美しい瞳に、何処か癒される…



「…汚い三級奴隷だったマルガを偶然手に入れて自分の物にし、それを良い事に、世話を焼き恩を売り、マルガを逃げ無い様にしただけなんですよ。マルガはそれを勝手に勘違いして、好きと言ってくれているんです。そんなマルガの気持ちを利用して、好き勝手やって居るんですよ俺は。…本来なら…高嶺の花であるはずのマルガにね…」

儚く微笑む俺に、リーゼロッテはすぐ横まで体を寄せる。リーゼロッテの柔らかい肩の感触が心地良い。



「…俺は最低でしょ?」

「…そうですね…最低ですね」

苦笑いする俺に、優しい微笑みを湛えながら、キツイ言葉をサラリと奏でるリーゼロッテ。

しかし、俺はキツイ事を言われている筈なのに、何故か心が苦しくならない。

きっとその理由は、リーゼロッテの透き通る様な美しい金色の瞳が、そんな俺の全て包み込む様な、優しい光を放っていたからであろう。

暫く見つめ合っていた俺とリーゼロッテであったが、リーゼロッテが口に手を当ててフフフと笑い出した。



「や…やっぱり…変ですよね…」

「ま~確かに変ではありますね。でも…葵さんは大切な事を見落としていますよ?」

「ど…どんな事ですか?」

俺の困惑する顔が楽しいのか、クスクスと笑うリーゼロッテは、何処か愉しげだった。



「…最低であり、最高でもある…世の中には、そんな事も有るのかも知れませんよ?」

「はえ!?ど…どう言う意味ですかリーゼロッテさん?」

「さあ~?そのうち可愛いキツネさんが、教えてくれるかも?」

変な声を上げて、更に困惑している俺を見て、より一層、愉しげな顔をしているリーゼロッテ。

暫く可笑しそうにクスクス笑っていたリーゼロッテは、夜空の星々を見て、ハァ~っと大きな溜め息を吐く



「…本当にマルガさんが羨ましいですわ。葵さんにそこまで思われているなんて…。あの盗賊団の頭相手に、取引を断り、命を掛け、全てを捨てて助けちゃう位ですものね。私はあの時、盗賊団の頭の取引を、葵さんが受け無かった事が理解出来ませんでしたが、ようやく今納得出来ましたわ」

にこやかに微笑むリーゼロッテの言葉に、俺は若干の違和感を感じた。なので、その違和感を訂正する事にした。



「いえ…違いますよ?あの取引を受けても、マルガは俺の物のままでいられたんです。そりゃ~多少の理不尽は有るでしょうが、力無き者はそれに従うのが宿命です。俺はその宿命に従うつもりで最初は居ました。俺はあの時マルガさえ無事ならそれで良かった。…本心は、マルガの為に、イケンジリの村の人を、切り捨てるつもりでいましたしね」

俺の話を聞いて、困惑した表情を浮かべるリーゼロッテ。



「で…では何故、あの盗賊団の頭の取引を断ったのですか?」

「それは…あのギルスの取引を承諾しようとした時に…リーゼロッテさんの瞳を見てしまったからです…」

そう…あの時、俺はマルガさえ無事ならそれで良いと思っていた。

あんな化け物のギルス達3人に、歯向かう事の無謀さなど、頭の悪い俺でさえ解る。

あれだけ優遇してくれた取引を、危険を犯して反故にするなど、何時もの俺なら絶対にしない。

それをしてしまったのは、あの時…リーゼロッテの…必死に助けを求め縋り付く様な…金色の透き通る瞳を揺らしている、リーゼロッテの姿を見たからだ。

…まるで、何時かのマルガの様なその瞳…

それを見て、俺は血の滾りを我慢出来無くなったんだ…



俺とリーゼロッテは見つめ合っていた。

リーゼロッテは俺の言葉に、何か思い当たる節でもあるのか、金色の透き通る瞳を、激しく揺らしていた。



「俺は嫌だった…リーゼロッテさんが奴隷商に売られて…何処か他の奴の慰み者にされるのが許せなかった…他の奴の慰み者にされる位なら…いっそ…俺が!」

俺はきっと無意識だったのだと思う。

吐息の掛かる位近くに居たリーゼロッテの、柔らかく華奢な白い手を、強く握っていた。

そんな俺に対して、リーゼロッテからの明白な拒絶はなく、何処か、何かを求める様な瞳で俺を見るリーゼロッテ。その金色の透き通る瞳を、激しく揺らしていた。



「では…私の為に…取引を断ったと…私の為に命を掛けたと…。そ…そんな…マルガさんを見る様な瞳で…わ…私を見てくれるのですか?あ…葵さんは…私の事が…好き…なのですか?」

「…解りません。俺はマルガの事が大好きです。でも…それと同じ位に…リーゼロッテさんに惹かれて居る自分も居ます…だから…あの時…ギルスとの取引を断った…リーゼロッテさんを…渡したくは無かったから…」

その言葉を聞いたリーゼロッテは、今までに見た事の無い位、その金色の透き通る瞳を、激しく揺らしている。

そして、その瞳が、何処か嬉しさに包まれて行き、リーゼロッテの顔が俺に迫る。

春風に誘われた、金色の美しい髪が、俺の顔を撫でる。リーゼロッテの甘い髪の香りに俺は囚われる。



「…ん…うん…」

微かに声を出す、俺とリーゼロッテ。

リーゼロッテの柔らかい唇が、俺の唇と重なっている。

それは優しいキス…唇と唇が優しく触れ合うだけの…高貴で…慈しむ様な…そんなキスだった。



どれ位の時間そうしていたのかは解ら無い。一瞬の様な、永遠とも感じる。

自然と顔を離した、俺とリーゼロッテは、只々見つめ合っていた。

暫く見つめ合っていた俺とリーゼロッテだったが、リーゼロッテは一瞬瞳を下に向け、



「葵さん…私の話を…聞いてくれますか?」

掠れる様に小さく呟くリーゼロッテに、俺は静かに頷く。



「…私は…港町パージロレンツォに着いたら、とある貴族の殿方の物にならなければいけないのです。その為に…港町パージロレンツォにある、モンランベール伯爵家の別邸まで、向かう途中の旅路だったのです」

言いにくそうに話すリーゼロッテの言葉を聞いて、俺は一瞬目の前が真っ暗になった。

どれ位そうしていたかは解らないが、微かに気を取り直した俺は、



「そ…それは、何処かの貴族と…結婚すると言う事ですか?」

「…そうですね。そんな感じですね」

力なく微笑むリーゼロッテの表情に、俺は堪らない気持ちが沸々と湧いてくる。



「リーゼロッテさんは…その結婚を…望んでいるのですか?リーゼロッテさんは、その貴族の人を好きなのですか?」

「…いえ、望んではいませんし、その人とも、まだ会った事は無いんです」

「なら!そんな結婚辞めてしまえばいいじゃないですか!」

俺はリーゼロッテの手を握り、少し声高に言うと、金色の透き通る瞳を、激しく揺らして居たリーゼロッテだったが、握っている俺の手をギュっと握り返し、



「此れは私の居た村で、決まった事なのです。私もそれを承諾して此処に居ます。…もし、私が辞めてしまったり、逃げてしまえば、村に多大な被害が出てしまうのです。…ですから…辞める事は出来ませんし、私も辞める事や逃げる事は望みません」

その俺の言葉に対する明確な拒否とは裏腹に、俺の手を握っているリーゼロッテの手は、微かに震えていた。



この世界には望まぬ結婚を強要される女の人など、星の数ほど居るであろう。

それがまかり通る世界であり、変え難い事実だ。リーゼロッテもそれに巻き込まれた内の一人。

リーゼロッテはそれを逃れられ無い宿命として、受け入れ様としている。

そんな微かに震えている金色の妖精が、堪らなく切なくて、リーゼロッテをきつく抱きしめる。

リーゼロッテもその気持ちを打ち消す様に、俺をギュっと抱きしめる。リーゼロッテの柔らかい体に包まれる…

その快感に、俺は自然とリーゼロッテに接吻をしていた。

リーゼロッテの口の中に舌を忍び込ませ、リーゼロッテの舌を見つけ、味わう。リーゼロッテも同じ様に俺の舌に、甘く柔らかい舌を絡めてくる。微かに身を悶えさせるリーゼロッテが、とても愛おしく感じる。

心ゆくまでお互いを感じ合った俺とリーゼロッテは、顔を離す。リーゼロッテは嬉しさと切なさが折り重なった、金色の美しい透き通る瞳を、揺らしている。

そして、ギュっと俺の胸にしがみつき



「私は…処女で居ないといけません。ですが…葵さん…私が…他の人の物になる前に…私は思い出が欲しい。…私に…葵さんとの思い出をくれませんか?私の処女以外を…他の全ての初めてを…葵さんに貰って欲しい」

悲しさと艶めかしさが交じり合うその瞳に、俺の心は鷲掴みにされる。



俺はリーゼロッテに手を引かれて、リーゼロッテの寝室に入って行くのであった。

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