愚者の狂想曲☆

ポニョ

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1章

愚者の狂想曲 17 港町パージロレンツォ

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色々あったイケンジリの村を出て2日。俺達の荷馬車は順調に港町パージロレンツォ向かっていた。

俺達と一緒に港町パージロレンツォに戻る騎馬隊の護衛も居る事もあってか、道中で何かに襲われるといった事も無く、もうすぐ港町パージロレンツォに到着出来るだろう事に安堵する。

そんな俺の荷馬車の御者台には、右側にマルガが俺の膝枕で気持ち良さそうに、胸に白銀キツネのルナを抱きながら寝息を立てて眠って居て、左側には俺に寄り添ってマルガと同じく、気持ち良さそうに寝息を立てて眠っているリーゼロッテが居る。2人の柔らかい乙女の柔肌を感じ、優しく甘い匂いに包まれている。



そう…はっきり言って…幸せです!間違いなく!もうね…美少女最高!

美少女2人を侍らかして居る様に見える俺を、港町パージロレンツォに一緒に向かっている騎馬隊の人達も、最初は羨ましそうに嫉妬の目で見られていたけど、流石に2日目になってくると、呆れているのか此方を見なくなっていた。ま~当然と言っちゃー当然だろうけどさ。ちょっと…優越感です!たまにはいいよね?



でも…リーゼロッテは、港町パージロレンツォに就いたら、どこぞの貴族様と結婚しちゃうんだよな…

このまま、マルガと一緒に連れ去りたい…そして…全てを奪いたい…俺だけの物にしたい…

しかし、リーゼロッテがそれを望んでいない以上、俺は何も出来ない…

胸を有刺鉄線で締め付ける様な苦しみが突き抜け、一瞬体の感覚が自分の物じゃない様な錯覚に見舞われる。何とか早まる鼓動を無理やり押さえつけ、ふと左の肩口に視線を落と、気持ち良さそうなリーゼロッテの美しい寝顔が目に入る。

深く溜め息を吐きながら、リーゼロッテの美しい顔を優しく撫でていると、うんんと言って目を覚ます。金色の透き通る様な瞳が俺を見つめ、虜にされる様な微笑を向ける



「あら…私ったら…また寝ちゃってたのですね」

まさに女神と見まごう微笑で俺を見るリーゼロッテに、見蕩れながら



「い…いいよ。春先で陽気も良いし、気持ち良いからね。マルガもこの通りだし…」

俺の膝の上で、気持ち良さそうに寝ているマルガに視線を落とすと、クスクスと口に手を当てて、上品に笑うリーゼロッテ。



「そうですね。キツネさん達も気持ち良さそうですもんね。……私も…膝枕をして欲しかったですが…それも出来無かった様ですね…」

リーゼロッテの瞳は淋しげに前方に向けられる。そちらに視線を移すと、街道の両端に建物が見えて来た。

港町パージロレンツォの郊外町に差し掛かって来たのだ。

荷馬車を進めると、街道の両側に、宿屋や酒場、色んな商店が軒を並べている。沢山の人々が行き交い、人々の賑やかな声が、街に到着した事を実感させる。

その喧騒に、耳をピクッとさせるマルガは、眠たそうに可愛く大きな目を擦ると、パチクリさせながら俺を見る。



「お…マルガ起きたんだね」

「ハイ!…ご主人様の膝枕…気持ち良かったです!」

嬉しそうに言うマルガの尻尾は楽しげにフワフワ揺れている。相変わらず可愛いよマルガちゃん!

そして、周りを見渡し、沢山の建物や人々を見て、パっと俺に向き直り



「ご主人様!港町パージロレンツォに就いたのですか?」

「もう少しかな?此処は港町パージロレンツォの郊外町、通称ヌォヴォ。港町パージロレンツォの市門や市壁の外に有る町なんだ」

「郊外町…ですか?」

マルガは可愛い頭を傾げながら俺に聞いて来る。



郊外町と言うのは、この港町パージロレンツォの様に巨大な都市の、市門や市壁の外に作られて居る町の総称である。都市の市門や市壁の中で居住出来無い人間、つまり、住民登録をしていない、市民権の無い者達が多く住む町なのだ。市民権を持つ住民の都市の中での生活は、守備隊によって警護され安全に生活出来、法律によって保護もされている。しかし、その代償に、年収の5割近い税金を収めなければならない。その税金を支払って尚、生活を出来る者達のみが、都市の中で生活出来るのだ。郊外町に住む者達は、その多額の税金を払えない者が多く住む町。貧困層が多い。大都市に仕事にありつく為に集まって来て、そう言う人々が集落を作り、出来た町が郊外町だ。



マルガにそう説明しながら荷馬車を進めていると、辺りの視界が開ける。そして、眼前に迫る物に目を丸くしているマルガ。



「わああ…」

感嘆の声を漏らすマルガの目に映っている物こそが、俺達の目的地、港町パージロレンツォだ。



港町パージロレンツォ…フィンラルディア王国の六貴族、バルテルミー侯爵家が治める人口約35万人が暮らす大都市だ。郊外町であるヌォヴォの人々を合わせると、50万人位は居るであろう。異国に繋がるムーロス海に面し、沢山の船が出入港出来る様に、完備された港を備え、交易と商業を中心に発展した商業都市だ。すぐ傍に、冒険初心者御用達ダンジョンである、ラフィアスの回廊もあり、様々な人々が集まる大都市である。



市門と市壁に囲まれたその巨大都市を見て、開いたままになっているマルガの口に指を入れると、ネコの様にアウンと言って、ピクっと体を反応させるマルガが面白い。可愛い口をモゴモゴさせている。



「…ご主人様…意地悪です~」

「いや…余りにも開いちゃってたから…つい…」

楽しそうに微笑む俺を見て、ウウウと少し唸り、恥ずかしそうに見つめる拗ねマルガの頭を優しく撫でると、此れ位じゃ誤魔化されませんよご主人様?と、言わんばかりに、頭をグリグリして擦りつけて来るマルガが可愛すぎる。



「ほら…2人で戯れていないで、私達も荷馬車用の市門に並びましょう」

リーゼロッテが少し呆れる様に言う。俺とマルガは顔を見合わせて気恥ずかしそうに頷く。此処まで一緒に来た騎馬隊に挨拶をして別れ、荷馬車を専用の市門に向かわせると、数台の荷馬車が順番を待っていた。俺達もその最後尾に回り、荷馬車を就ける。その様子を見ているマルガは



「ご主人様、ここで何をなさるのですか?」

「俺達は港町パージロレンツォの住人じゃ無いから、此処で通過税と滞在税、あと関税を払うんだよ」

「町に入って取引や宿泊するだけで、お金や税金が掛るのですか!?」

マルガが戸惑いながら疑問の声を上げる。



今まで行った、ラングースの町やイケンジリの村は小規模に属する町や村で、通過税や滞在税、関税を徴収していなかった。小規模の町や村でその様なものを徴収すると、人が寄ってこなくなる可能性があるからだ。通過税や滞在税、関税を徴収しない代わりに、沢山の人に来て貰って、お金を落として行って貰った方が儲かるのだ。実際、通過税や滞在税、関税を取るのは、そこそこ発展した大きな都市のみである。

俺の説明に納得したマルガは、なるほど~と頷いていた。

暫く待っていると、俺達の順番が回って来た。俺とマルコの荷馬車を、市門迄寄せると、担当の文官と護衛の兵士が近寄って来た。

盗賊団から奪った荷馬車に乗っているマルコも降りて来て、俺の傍に来る。

俺は文官と兵士に一礼して話をする。



「どうも、こんにちわ。港町パージロレンツォに行商と、60日位の滞在を考えています」

俺がそう伝えると、俺の横に居る美少女のマルガとリーゼロッテが当然目に入り、少し機嫌の悪そうな文官はフンと鼻で言うと、



「…そうか。用件は解った。人が3名に、一級奴隷が1名。荷馬車が2台、馬が2頭だな?」

文官の問に頷くと、手に持っている羊皮紙を見て、何やら計算をはじめる。それが終わると、此方に再度振り向き



「通過税は…人が3人で、銀貨6枚、一級奴隷は銀貨1枚、荷馬車が2台で銀貨1枚、馬2頭で銀貨1枚、計銀貨9枚。それと滞在税が、1人1日銅貨10枚で60日だから、3人分で銀貨18枚。一級奴隷は銀貨3枚、馬2頭で銀貨1枚と銅貨50枚、荷馬車2台で銀貨1枚と銅貨50枚の、計銀貨24枚。合計、銀貨33枚だ」

「高っけ~~~!!銀貨33枚って…普通に生活したら、30日以上は暮らせる金額だよ!」

マルコは呆れながら溜め息混じりにそう言うと、その横でマルガもコクコクと頷いていた。

そんな2人を見て、目をきつくする文官の前に立つ俺。



「…すいませんね文官様。この子達は初めてこの町に来たものでして…後で良く言っておきますので許してやって下さい。金額も当然それで結構ですので」

苦笑いしながら俺が言うと、フンと言って表情を緩める文官



「解れば良い…。此処での手続きが終わったら、向こうで関税の手続きをするんだな」

「まだお金取る気なの!?」

マルコが思わず口に出した言葉に、マルガもまたコクコクと頷いている。再度文官の表情がきつくなる。俺はマルコとマルガの傍に行き、軽くチョップをお見舞いする



「アイタ!」

「ハウウ!」

マルコとマルガは可愛い声を出して、頭を摩って居る。少し怒られてシュンとなっているマルガとマルコの頭を優しく撫でながら



「…本当にすいません…ハハハ…」

俺の苦笑いしている顔を見て、ハーっと深く溜め息を吐く文官は呆れ顔だった。

そんな俺達を見ていたリーゼロッテが文官に近づく



「文官様。私がこの町に来たのは、モンランベール伯爵家の客分として、モンランベール伯爵家の別邸にお伺いする事なのです。ですから、通過税は解るのですが、滞在税をどうしたら良いのか…」

リーゼロッテの問に、何かを思い出した様な顔をする文官が



「モンランベール伯爵家に客分としてですか?…失礼ですが、ネームプレートを確認させて下さい」

文官の言葉に、ネームプレートを差し出し見せるリーゼロッテ。そのネームプレートを見た文官の顔色が変わる。



「貴方達のネームプレートも見せてくれますか?」

文官が俺とマルガ、マルコのネームプレートを提示する様に求めるので、リーゼロッテと同じ様に、ネームプレートを見せる3人。それを確認した文官は、暫く此処で待って居て欲しいと言い残し、市門の文官達の詰所に向かう。

暫く待っていると、少し身なりの良い文官と一緒に、先程の文官は帰って来た。恐らく、先程の文官の上官だと伺える。そんな上官の文官は、俺達を見てフンフンと頷いている。

そして、再度ネームプレートを提示する様に求める、上官の文官。確認し終わって、ネームプレートの返却を受けると、親しみのある笑顔を向ける上官の文官。



「貴方達の事は、我が領主から伺っております。丁寧に対応する様にと指示を受けております。貴方達からは一切、通過税と滞在税は頂くなとの事です。関税に関しては、今回は無料にせよとの事です。次回から港町パージロレンツォに入る時は、関税のみで結構です」

そう告げると、部下のさっき迄俺達と話していた文官に、俺達の手続きをする様に指示を出す、上官の文官。

俺達の戸惑いの顔を見て、少し愉快そうな表情をして



「…もし、何か不服が有るなら、直接我が領主に申し立て下さい。領主も貴方達に会いたがっております。貴方達が到着した事は此方から伝えておきますので、暫くしてから向かわれれば宜しいでしょう。此れはこの港町パージロレンツォの地図になります」

そう言って、一枚の羊皮紙を俺に手渡し、先程と同じく親しみの有る笑顔を浮かべこう告げた。



「港町パージロレンツォにようこそ!私達は貴方達の来町を、心より歓迎します!」

俺達はやや戸惑いながら手続きを済ませ、通過滞在許可証を貰い、港町パージロレンツォの中に荷馬車を進めるのであった。











港町パージロレンツォの市門を通り抜け、少し小腹の空いて来た俺達は、休憩がてら何か食べる事にした。露天で蜂蜜パンと果実ジュースを買い、広場の隅に荷馬車を止め、休憩する。



「蜂蜜パンは何処で食べても美味しいですね~ご主人様~」

「そうだね。果実ジュースも美味しいからホッとするよね」

「オイラの村でも良く食べたけど、この港町パージロレンツォにも他に美味しい物あるのかな?」

「此れから葵さんが一杯食べさせてくれますよ。ね?葵さん」

「ハハハ…頑張るよ…」

リーゼロッテが悪戯っぽく言うのを、俺が苦笑いしていると、マルガとマルコはアハハと笑っていた。



「でも、大都市って色々お金が掛るんだね。オイラの村じゃあんなお金掛からないのに…」

マルコは蜂蜜パンを齧りながら少し納得が行かない感じで言う。マルガも同じ様にウンウンと頷きながら、蜂蜜パンを頬張っている。俺は口の周りに蜂蜜をつけてベトベトになっているマルガの口を、指で綺麗にしてあげると、ニコっと微笑むマルガの頭を撫でながら



「確かにお金の掛る事だけど、良い事だってあるんだよ?」

「どんな事なんですかご主人様?」

俺の言葉にマルガは可愛い首を傾げている。マルコもどんな事なのか気になっている様だ。



「この港町パージロレンツォの住民じゃない、住民登録をしていない、市民権も持ってない者でも、町の市門で税金を払って、通過滞在許可証を発行して貰えたら、通過滞在許可証の有効期間中は、市民権を持っている住民と同じ様に扱ってくれるんだ」

「って事は、此処の住民と同じ様に、法律で守られて、守備隊の人も助けてくれるって事?」

「そう言う事だね。もし、通過滞在許可証の有効期間中に何か有ったら、守備隊だけじゃなく、騎士団も動いてくれるよ。お金を払う事によって、安全を買っていると思えばいいかな?確かにお金を払う事は勿体無い部分もあるけど、全てを考えて払った方が得かどうかも、きちっと考えないとダメなんだ」

その説明を聞いたマルガとマルコは、なるほど~と言って、腕組みしながら頷いている。



「ま…この言葉も、俺に行商の事を教えてくれた人の言葉なんだけどね」

「へえ!葵兄ちゃんのお師匠さんか~。ならオイラの師匠の師匠になるんだね!一度会って見たいな~」

「行く機会があれば紹介してあげるよ」

マルコはその言葉に、ヨシ!と言って嬉しそうにしている。その隣りのマルガが



「私は…ギルゴマさん苦手です~」

果実ジュースの入っている木のコップの縁を、カリカリと齧りながら、ウウウと唸っているマルガの頭を優しく撫でると、小さい舌をペロっと出してはにかんでいる。

可愛いマルガに思わず微笑むと、ギュッと腕組をしてくるマルガの顔は、とても幸せそうだ。

そんな俺とマルガを静かに見ていたリーゼロッテは、すっと立ち上がった。そして俺の方に向き直る。



「じゃ…そろそろ、モンランベール伯爵家の別邸まで、送って頂けますか?葵さん…」

何処か吹っ切れた様に言うリーゼロッテの顔を見た俺は、きちんと視線を合わせる事が出来無かった。



「も…もう少し…ゆっくりしようよ。な…何なら、夕食を一緒に食べてからでも…」

俺が少し口籠りながら言うのを遮る様に、俺の唇にそっと優しく人差し指を添えるリーゼロッテは、ゆっくりと首を横に振り、優しく微笑む。



「短い間でしたけど、葵さん達とご一緒出来て楽しかったです。私にとって、忘れられない思い出になりました。…もうそれだけで十分です…」

リーゼロッテは静かに優しくそう告げると、俺の両手をしっかりと取って立たせた。そして、手を引いて荷馬車迄来ると、御者台に俺を乗せるリーゼロッテ。それを見たマルガとマルコも急いで荷馬車に乗り込む。



「さ…行きましょうか…葵さん…」

笑顔で言うリーゼロッテの言葉に、俺は手綱を握る事が出来無いで居た。

そんな俯いている俺を感じて、手綱を俺の手に取らせ、一緒に手綱を握るリーゼロッテ。

そして、リーゼロッテが馬のリーズに手綱で合図を送ると、荷馬車はゆっくりと進みだした。

無言で進んでゆく荷馬車に揺られながら、手綱と一緒に握られているリーゼロッテの手は、柔らかく暖かい筈のに、何故か冷たく感じる。それがひどく嫌だった。



『このまま到着すると、リーゼロッテは他の奴の物になってしまう…いっそ此のまま…攫ってしまって、あの盗賊団がしようとした遣り方で奴隷にしてしまえば、リーゼロッテはマルガ同様俺だけの物に…』



その様な事を考えていたら、左手に大きく豪華な石造りのお屋敷の門が見えてきた。

綺麗な装飾のある丈夫そうな鉄の門の前には、鎧を着た兵士が10人、ハルバートを持って警護している。俺達の荷馬車がその門の前に止まると、一人の兵士が近寄って来た。



「此処はモンランベール伯爵家様の別邸だ。何か用なのか?用が無ければ早々に立ち去るが良い」

何者か解らない俺達を見て、キツイ表情で淡々と告げる兵士に、荷馬車から降りたリーゼロッテは、涼やかな微笑を兵士に向ける。



「私はモンランベール伯爵家様の客分として、此方に来る様になって居ましたリーゼロッテと言います。どなたかお解りになられる方はいらっしゃいませんか?」

リーゼロッテがそう告げると、暫し待つ様に言って、兵士は石造りの立派な屋敷に入って行った。

暫くすると、兵士は一人の執事服を着た男と一緒に帰って来た。

そして、執事服を着た男は、リーゼロッテと俺達を見て、フムと頷く。



「貴方がリーゼロッテ様ですか?そして…そちらが葵様で宜しかったでしょうか?」

俺とリーゼロッテが肯定して頷くと、ネームプレートを確認したいと言うので、俺とリーゼロッテはネームプレートを提示する。



「確かに確認いたしました。私はモンランベール伯爵家、此方の別邸で執事をしております、アニバルと申します」

執事のアニバルは綺麗にお辞儀をする。それを見て、リーゼロッテも綺麗に挨拶をしている。俺とマルガとマルコも慌てて挨拶をすると、少し表情を和らげるアニバル。



「貴方達の事は、我が主人と、アロイージオ様より伺っております。葵様につきましては、後日、日程を調整して、我が主人とアロイージオ様との面会をさせて頂きたいと思います。葵様はどれ位の期間、この港町パージロレンツォに滞在なさるつもりですか?」

「えっと…約60日位は滞在する予定です」

執事のアニバルにそう伝えると、その期間中に、執事のアニバルの方から、面会の日程を伝えると告げられ了承をする。



「では、葵様よろしくお願いします。リーゼロッテ様は、別邸の中の方にお入り下さい」

執事のアニバルにそう告げられ、頷くリーゼロッテ。そして、別邸の中に入って行こうと歩み始める。



「リーゼロッテ!!!」

思わず出た俺のその声に、歩みを止めるリーゼロッテ。そして、俺に振り返る。リーゼロッテのその淋しげな表情を見た俺は、リーゼロッテの傍まで走り寄った。



「リーゼロッテ…俺…」

そう呟いた俺に、リーゼロッテはギュっと俺を抱きしめる。リーゼロッテの柔らかい肌の感触と、甘く優しい匂いが俺を包み込む。俺もリーゼロッテが愛おしくて、ギュっと抱き返すと、リーゼロッテの柔らかい唇が、俺の唇に迫り、優しくキスをする。



「…葵さんの事は、ずっと忘れません…ありがとう…さようなら…」

そう小さく俺の耳元で囁くと、パッと体を離すリーゼロッテ。俺はリーゼロッテの言葉に、頭が真っ白になっていた。



「マルガさんもマルコさんもお元気で」

「リーゼロッテさんも…お元気で…」

「リーゼロッテ姉ちゃん…」

少し涙目になっているマルガとマルコにニコっ微笑むと、リーゼロッテは勢い良く踵を返し、屋敷に向かって歩み出す。それが目に入った俺は堪らなくなってリーゼロッテに手を伸ばそうとするが、それを予期していたリーゼロッテはスルリと俺の手を躱して、屋敷の中に入って行った。



「リーゼロッテ姉ちゃん…振り返らなかったね…」

寂しそうにそう呟くマルコ。マルガはリーゼロッテの入って行った、豪華な屋敷の扉と、項垂れている俺を交互に見て、ギュッと拳を握って居た。

俺は自分の手から、零れる様にすり抜けて行ったリーゼロッテの事を思い、ただ扉を見つめるだけだった。











俺達を乗せて居た荷馬車は今、港町パージロレンツォの領主であるバルテルミー侯爵家の官邸の前に止められている。

モンランベール伯爵家の別邸の前で、茫然自失になって居た俺を、マルガとマルコが荷馬車に乗せて、此処まで連れて来たのだ。



「ご主人様…大丈夫ですか?」

そう言って俺の顔を覗き込むマルガの顔は、ひどく心配そうで悲しそうだった。マルガのその顔を見て、血の気が戻って来るのを感じる。



『マルガに…こんな顔させちゃダメだよね…頼りないご主人でゴメンネ…マルガ…』

心の中でそう呟き、マルガをギュッと抱きしめる。するとマルガは小さく可愛い手で俺の頭を優しく撫でてくれる。それがとても心地良く、目を瞑って暫くそうしていると



「ご主人様…元気を出してください…。私じゃリーゼロッテさんの代わりには、なれ無いかも知れませんが、精一杯頑張りますので…」

そう優しく言うマルガは、優しく俺にキスをする。



「イッツ…」

「あ!ゴメン!…痛かった?」

マルガが可愛い声を上げ、首をフルフルと横に振りニコっと微笑む。どうやら、マルガの気持ちが嬉しくて、強く抱きしめすぎた様だった。



「…マルガはリーゼロッテの変わりじゃないよ。マルガは俺の大切なマルガだよ。誰の代わりでもない。マルガは俺の一番だよ」

それを聞いたマルガは、涙で瞳を揺らしている。そんな可愛いマルガを再度抱きしめる。マルガの柔肌と、ずっと嗅いでいたい様な甘い香りに、心が安らいでゆくのが解る。

そして、ゆっくりと体を離す俺とマルガ。



「マルガ…ありがとね。マルガのお陰で元気が出たよ。…もう大丈夫だから心配しないでね」

マルガの頭を優しく撫でながら言うと、涙目になりながらも、ニコっと極上の微笑みを帰してくれる愛しいマルガ。それを見ていたマルコは、ちょっとホっとした様な顔で



「ほんとに大丈夫?…荷馬車に乗せる時なんか、心を何処かに落としちゃったみたいに元気無かったけど…」

「ハハハ…ゴメンゴメン。もう大丈夫だよマルコ。さあ!港町パージロレンツォの領主であるバルテルミー侯爵家当主様にご対面と行こう!」

俺の言葉に、マルガはハイ!っと元気良く右手を上げて、マルコも同じく元気に返事をする。

…リーゼロッテの事を簡単に忘れれる訳は無いけど、せめて…マルガとマルコの前では、いつも通り居れる様にしないとダメだね…



俺達は案内係りの後をついて、バルテルミー侯爵家の官邸の中に入って行く。官邸の中には、真っ赤な美しい絨毯が敷かれており、壁や天井の装飾も、今迄見た事の無い様な豪華な装飾がされている。目に入る全ての物が高級品と解る。流石はフィンラルディア王国の六貴族。権力だけじゃなく、資産も莫大なのだろう。ふと横を見ると、マルガとマルコは、キョロキョロと辺りを見回し、瞳を真ん丸にして、開いた口が塞がらないと言った感じだ。



正に田舎者のお上りさん状態で案内役について行くと、一際大きく装飾の豪華な美しい扉の前で歩みを止める。案内役に暫く待つ様に言われ、案内役は扉の中に入って行く。

暫く待っていると、案内役が出て来て、中に入る様に言われる。俺達は案内役が開けてくれた扉を通り、その部屋の中に入る。結構広いその部屋は、どうやらこの官邸の接見室の様だった。

一層美しく、豪華な絨毯が敷いていて、その奥に大きめの豪華な机があり、その席に座っている人物が



「良く来たな。もっと此方に来たまえ」

その男の言われるままに近寄ってゆく。その男は、年齢は40代中頃であろうか。立派な髭を蓄え、眼光の鋭い偉丈夫だ。短い言葉だったが、その中に何か威厳を感じさせる声であった。

その男に気を取られていたが、ふと横に視線を移すと、見知った顔を見つける。



「イレーヌ様!」

俺は思わず声を出してしまった事に、恥ずかしさを感じていると、ニコっと親しみのある微笑を向けてくれるイレーヌ。それを見て、少し眼光を弱める偉丈夫の男。



「イレーヌの事は既に知っているんだったな。私がこの港町パージロレンツォの領主であり、バルテルミー侯爵家当主でもある、ルクレツィオ・シルヴェストロ・バルテルミーだ」

威厳に満ちたその言葉に、身の引き締まる思いを感じながら挨拶をする。



「初めましてルクレツィオ様。僕は行商をしています、葵あおい 空そらと言います。此方は、僕の一級奴隷のマルガと、旅の仲間でマルコと言います」

「は…初めましてルクレツィオ様!わ…私はご主人様の一級奴隷をやらせて貰っているマルガです!宜しくです~」

「オ…オイラ!…じゃなくて!ぼ…僕は、イケンジリの村出身のマルコです!初めましてルクレツィオ様!宜しくです!」

ぎこちない挨拶をする俺達3人を見て、イレーヌは口に手を当ててクスクスと笑っている。しかし、3人の気持ちは伝わった様で、フフと少し楽しそうに笑うルクレツィオも、表情を緩める。



「ウム。堅苦しい挨拶はここまでにしよう。まずは我が領民を守って頂いた事に礼を述べよう。良く領民を守ってくれた。感謝する。それと、モンランベール伯爵家のアロイージオ殿を助けてくれた事も、同じく感謝する」

軽く頭を下げるルクレツィオに、アタフタしている俺達3人。フィンラルディア王国の、しかも六貴族の当主であるルクレツィオが、平民に頭を下げるなどまず無い事であろう。それをいとも簡単に、純粋に感謝の念だけで行えるこのルクレツィオは、評判通りの人物だと伺える。

アタフタしている俺達を見て、少し愉快そうな顔をするルクレツィオ。



「とりあえず、イレーヌやアロイージオ殿から事態の詳細は聞いているが、葵殿からも直接聞きたい。詳細を話して貰えるか?」

俺達はルクレツィオに、イケンジリの村であった事を詳細に伝える。俺の言葉を静かに目を閉じて聞いているルクレツィオ。



「フム…。イレーヌとアロイージオ殿からの報告に間違いは無い様だな…よく解った。葵殿に今回来て貰ったのは、我が領民を守って頂いた事の礼を、させて貰おうと思ってな」

ルクレツィオはそう言うと、イレーヌに合図をする。イレーヌは懐から袋を取り出し、俺に手渡した。

その袋を開けてみると、金貨が入っていた。俺やマルガ、マルコが目を丸くして驚いていると、



「それが今回の謝礼だ。金貨20枚入ってある。それと、この町に入る時に知ったと思うが、今後この港町パージロレンツォに入る時に掛る通過税と滞在税は、葵殿の一行からは頂かぬゆえ、ゆっくりとこの港町パージロレンツォでくつろがれると良いであろう」

そう言ってフフっと笑うルクレツィオ。その隣で、イレーヌも同じ様に微笑んでいた。



「あ…ありがとうございますルクレツィオ様。でも…こんなにして貰っても良いのですか?金貨だけじゃなくて、通過税と滞在税の免除もして貰って…この町の住民でもないのに…」

「何かまわぬよ。それだけの事をしてくれたのだからな。ま…そんなに気になるなら、この町の住民になってくれても良いのだぞ?お前達なら歓迎しよう」

僅かに口元を上げてニヤっと笑うルクレツィオ。



「い…僕はまだ修行中の身ですので、暫くは此のままでいようかと…」

「…そうか、それは残念だ。その気になった時は、いつでも申請するが良い」

「はい、ありがとうございますルクレツィオ様」

俺の返答にフムと頷くルクレツィオ。

面会してからそこそこの時間も経って来た事だし、迷惑にならない内にそろそろ引き上げるとしよう。



「では、僕達はそろそろ御暇させて頂きます。ルクレツィオ様もお忙しいでしょうし、ご迷惑かと思いますので」

「フムそうか…気を使わせて済まぬな。そう言えば、葵殿はどれ位この町に滞在する予定なのだ?」

「えっと…とりあえずは60日位を予定しています。マルガとマルコは、まだ戦闘職業にも就いて居ませんので、明日職業訓練所で戦闘職業に就かせて、暫くは職業訓練所でレベルを上げさせ様と思ってます」

俺がそう説明すると、ウム頑張るが良いと言って頷いているルクレツィオ。

俺達はルクレツィオに、丁寧にお礼と挨拶をして接見室から出て行った。



そんな俺達と入れ違いで、奥の扉から接見室に入って来る人影が居た。その入って来た2人はルクレツィオの机の直ぐ側まで移動する。その内の1人の少女が、ルクレツィオの机の上に、腰を掛けて座る。



「あれが…噂の行商人の少年?何か…想像と違うわね~。もっとルクレツィオやマティアスみたいな偉丈夫だと思っていたのに…。身長は私より少し高い位、体つきもとりわけ良い方でも無く、覇気もなくそこら辺に居る様な平民にしか見えなかったし…。本当にあの頼りなさそうな行商人の少年が、あのモンランベール伯爵家、ラウテッツァ紫彩騎士団、第5番隊を全滅させた盗賊団を、一人で壊滅させた人物なの?」

懐疑心の塊の様な目をルクレツィオに向ける少女。そんな少女に軽く溜め息を吐きながら、一緒に入って来たもう一人の男が



「ルチア様…人を見た目だけで判断してはならないと思いますよ」

「そりゃ~そうだけどさ。…マティアス貴方は、あの行商人の少年を見て、盗賊団を壊滅させた人物に見えた?」

「…見えませんでしたね。ですがそれが、彼の全てでは無いと言う事なのかも知れませんよ?」

マティアスの言葉に、腕組みをしながらま~ね~と軽く言うルチア。



「ルチア様の気持ちも解りますが、報告は正しいものでした。実際、廃坑で死んで居た盗賊団は皆、元グランシャリオ皇国領で戦っていた、ラコニア南部三国連合の正規軍の焼印を、防具に刻んでいました。それに、アロイージオ殿や、村長や副村長の話しも聞いています。その内容は、さっきの行商人の少年と、全く同じものですしな」

ルクレツィオの言葉に、少しイタズラっぽい笑みを浮かべるルチアは



「本当にそうなのかしら?廃坑で死んでいた盗賊達は兎も角、アロイージオと村長達が口裏を合わせて、過大に言っている可能性もあるわよ?敵が強かったから、負けたんだって言い訳しやすい様にね」

ニヤニヤしながら言うルチアに、否定し軽く首を横に振るルクレツィオ。少しムっとしているルチア



「それはないでしょう。現にラウテッツァ紫彩騎士団、第5番隊は全滅しているのです。それだけの敵が居た事は事実。それにイケンジリの村の村長と副村長はその様な事が出来る人物ではありません。それはアロイージオ殿にも言える事ですからね」

「でもアロイージオって、あの箱入り息子で有名な奴でしょ?自分の騎士団を全滅させられて面目が立たないから、口裏を合わせて貰ってるんじゃないの?」

「ルチア様!言葉が過ぎますぞ!モンランベール伯爵家のご子息の事を、その様に言われては…」

ルチアの言葉を諌める様に、マティアスが言うと、はいはい~とまた軽く言うルチア



「アロイージオ殿についても、真実を言っているでしょう。彼はルチア様もご存知の通り、箱入りの世間知らず。彼に面目を保つとか、対面を気にすると言う様な知恵はありません」

「アハハ!確かにルクレツィオの言う通りね!彼にはそんな事を考える知恵はなさそうね!」

ルクレツィオの言葉に、面白そうにコロコロとお腹を抑えて笑っているルチア。そんな2人を見ているマティアスは盛大に溜め息を吐いて、呆れている。



「って事は…報告の件は事実だとして…中級者の集団の盗賊団30名に、LV97戦闘職業アサルトバスター、LV86戦闘職業アークセージ、LV72戦闘職業ソリッドファイター…か。ねえ、イレーヌ。バルテルミー侯爵家、ウイーンダルファ銀鱗騎士団の副団長の貴女なら、一人で戦って勝てると思う?」

突然話をふられて、若干戸惑っていたイレーヌだったが、コホンと軽く咳払いをして、



「そうですね…。勝てるとは思いますが、楽な事では無いのは確かです。きっとかなり苦戦を強いられると思います。マ…マティアス様なら、余裕なのでしょうけど…」

イレーヌはそう言うと、尊敬の眼差しでマティアスを見ている。それを見たルチアはニヤっと悪戯っぽい笑みを浮かべる



「そりゃ~マティアスは変態騎士だもの。そんな奴等なんか簡単に一蹴しちゃうのは解ってるわよ。この変態に勝てる奴を、この世界で探す方が難しいわよ。ね?変態騎士さん?」

ニヤニヤしながら言うルチアに、呆れているマティアス。



「マ…マティアス様は変態ではありません!マティアス様は我ら騎士の誇りであり、憧れです!そ…それに、優しくて…格好良くて…素敵ですし…」

「なになに?優しくて、格好良くて、素敵で…その後は~?」

ルチアはイレーヌに顔を近づけて、囁く様に続きを聞こうとするが、イレーヌは顔を真赤にしながら、両手の人差し指をチョンチョンと合わせながら、チラチラとマティアスを恥ずかしげに見ている。

そんなイレーヌの視線に、意味の解っていないマティアスは首を傾げていた。



「…イレーヌ頑張りなさい…。敵はかなりの強敵よ…応援してるわ…」

「はい…ありがとうございますルチア様…私めげずに頑張ります!」

涙目になっているイレーヌの頭を、よしよしと撫でているルチア。意味が解らず首を傾げたままのマティアス。そしてそんな3人を見て、手を顔に当てて、ハーっと溜め息を吐き呆れているルクレツィオ。

ルチアはイレーヌから離れると、ルクレツィオ達に向き直り



「でも、あの行商人の少年気になるわね…。よし!決めたわ!」

そう言って腰に手を当てて、自信たっぷりにニコっと微笑むルチアに、ルクレツィオ、マティアス、イレーヌは、嫌な予感を感じ取っていた。



「ど…どうしたのですか?ルチア様」

少し顔の引き攣っているマティアスが聞くと、その顔を小悪魔の様にニヤニヤさせているルチアは



「あの行商人の少年は、明日職業訓練所に行くって言ってたわね?だから私も行く事にするわ!私が、あいつの事を、確かめて上げる!ルクレツィオ!マティアス!イレーヌ!此れから私が言うものを準備して頂戴!…当然拒否権は無いからね?」

ニヤーと微笑むルチアに、盛大な溜め息を吐く、ルクレツィオ、マティアス、イレーヌ。その顔は、もう既に諦めムードであった。



「マティアス…ルチア様の事を頼んだぞ…」

「任せて下さい!ルチア様は命に変えても、私がお守りしますので!」

「マティアス様…頑張ってください…」



接見室の真ん中で、ドヤ顔でアハハと声高らかに笑っているルチアを見ながら、3人は項垂れていた。











バルテルミー侯爵家の官邸を後にした俺とマルガとマルコの3人は、昼食を取る為に食堂に来ていた。

ちょうどお昼時と言う事もあり、食堂は沢山の人で賑わっている。マルガもマルコも、人の多さに戸惑っている様だった。そんな俺達は、空いている10人掛けのテーブルの隅に、何とか座る事が出来てホッとしていた。



「本当に凄い人の多さですね~ご主人様~」

「だね~。俺も最初この町に来た時は、面食らったもんだよ」

「それ解るよ葵兄ちゃん。こんなに多い人、どっから湧いてくるのかって思っちゃうよね」

マルガとマルコは、相変わらず辺りをキョロキョロと、興味津々で見回している。



「とりあえず、献立表を見て食べる物を決めよう。此処の食堂の品物なら、何頼んでもいいから、好きなの食べるといいよ」

なんでも食べて良いと聞いて嬉しそうなマルガとマルコは、献立表を引っ張り合いながら見ている。あれもこれもと言い合いながら選んでいるが、2人共実に楽しそうだ。かなり悩んだ挙句決まった物を、店員に注文して行く。

マルガもマルコも成長期なのか、非常によく食べる。量自体は俺とそんなに変わらないだろう。

注文も終わり、少し落ち着きを取り戻したマルガとマルコ。



「でも、謝礼で金貨20枚なんて大金貰えるなんて凄いですねご主人様」

「だよね!しかも、税金もずっと無料なんでしょ?」

「そだね。ま~死ぬか生きるかって所だったから、なんとも言えない部分もあるけど、装備を整えるには十分な資金になるから助かるね」

実際、官邸に招待された時に期待はしていたが、思っていたより金額が多かったのが嬉しい誤算だった。この資金と、イケンジリの村から積んできた商品を売れば、十分に装備も整えれるだろう。

そんな事を考えていた俺達のテーブルに、注文した昼食が運ばれて来た。

マルガは右手にナイフ、左手にフォークをチャキーンと構えて、店員さんに、早く早く!と言わんばかりに尻尾をブンブン振っている。急かされている店員さんも苦笑いしていた。



「「いただきます!」」

並べ終えられた料理を前に、目を輝かせているマルガとマルコは声を揃えて言うと、料理達に襲いかかる。

もりもり削られていく料理。マルガとマルコの頬は一杯になっている。実に幸せそうに食べるマルガとマルコ。

ま~俺はロリであって、ショタじゃないけど、マルコの様な無邪気な少年は割りと好きだったりする。

マルコが居る事で、多少の出費は掛るだろうけど、マルガも嬉しそうだし、この子達のこの笑顔が見れるなら、ま~いいかって気になるね。

マルガとマルコを見てニマニマしながら、俺も昼食を食べ始める。



「ご主人様、昼食を食べ終わった後はどうするのですか?」

「そうだね…まずは積んできた商品を売ろう。鮮度が関係する物もあるからね。その後は、冒険者ギルドに登録と、役所で商取引の許可申請と、最後に職業訓練所に行って、戦闘職業を決めてって感じかな?」

「マルガ姉ちゃん良かったね!これでマルガ姉ちゃんも、一端の冒険者や行商人と同じ事が出来るね!」

自分の事の様に喜んでくれるマルコに、嬉しそうにありがとうと言うマルガの尻尾は、フワフワ振られている。そんなマルガを見て、マルコはニコニコしている。



「マルガだけじゃないよ?マルコの登録も一緒にするんだよ?」

「えええ!?オイラも手続きしてくれるの!?」

「当たり前だよ。マルガにしてあげる事は、余程の事を除いて、マルコにもしてあげる。2人共一緒に勉強して、一緒に強くなって行ったらいいよ」

マルコはその言葉を聞いて、瞳を潤ませながら嬉しそうにコクっと頷いている。マルガも嬉しそうにマルコの頭を優しく撫でてあげている。マルガはマルコの面倒を良く見てやっている。きっと弟が出来た様な気持ちなのだろう。マルコの方も姉が出来た様に思っているのか、マルガの手伝いを積極的にやっている。そんな2人に癒される。



「とりあえず昼食を食べて、少し休憩したら取引をしに商会に向かおう。料理が冷めない内に、全部食べちゃおうか」

「ハイ!ご主人様!」

「うん!葵兄ちゃん!」

嬉しそうに元気良く返事をして、料理を美味しそうに頬張るマルガとマルコ。

俺達は昼食を済ませ、商会に向かうのだった。











昼食を済ませた俺達は、商会に向けて荷馬車を進めている。

沢山の荷馬車や人々が賑わう町を見て、また開いたままになっているマルガの口に指を入れ様と、マルガの可愛い口に持って行くと気づかれたみたいで、持ってこられた俺の人差し指をパク!っと咥えるマルガ



「しょうなんろも、同じ手にはかかりまへんよご主人しゃま~」

俺の人差し指を咥えながら喋るマルガはモゴモゴと言うと、嬉しそうにチューチューと人差し指に吸い付いている。

うは!チューチューマルガが可愛すぎる!今夜もまた可愛がるんだからね!

そんなマルガを見てニマニマしている俺に、フフフと可愛く笑うマルガ。



「ご主人様。此れから行かれる商会はどういう所なんですか?」

「えっとね、此れから行く商会は、ラングースの街にもあったリスボン商会の港町パージロレンツォ支店だよ」

俺に商売の事を教えてくれたギルゴマが、初めて港町パージロレンツォに行くと言った時に、リスボン商会の港町パージロレンツォ支店に紹介状を書いてくれた。その時より付き合いをしている。

マルガにそう説明していると、件のリスボン商会の港町パージロレンツォ支店が見えて来た。

リスボン商会はフィンラルディア王国の中でも中堅の商会。取引もなかなかに活発だ。それを証拠に、沢山の商人らしき人々が、荷馬車に商品を沢山積んで、商会の前に並んでいる。

その中に俺達も混じり列に並んでいると、リスボン商会の受付が俺に話掛けて来た。



「こんにちわ。今日はどう言った用件でしょうか?」

「はい、今日は商品を売りに来ました。何時も僕を担当してくれている、リューディアさんはいらっしゃいますか?」

「リューディアですね。リューディアは今他の取引をしています。荷馬車を商品搬入口迄こちらで回しますので、商品搬入口の商談室で暫くお待ち頂く事になりますが、よろしいですか?」

俺は頷き、受付の言う通りに荷馬車から降りる。マルコも俺とマルガの傍までやって来た。

受付はそれを見て3人の三級奴隷を呼ぶ。受付の男の傍までやって来て足元で平伏している三級奴隷達は、受付の男の指示を受けて、俺とマルコの荷馬車を商品搬入口迄回して行く。その残りの1人の三級奴隷が、商品搬入口の商談室まで案内してくれた。



「此方で暫くお待ち下さい。今お飲み物をお持ちしますので」

三級奴隷は俺達の足元で平伏しながら言うと、忙しそうに小走りに立ち去って行った。

商品搬入口の商談室で、三級奴隷が持って来た紅茶を飲みながら待っていると、コンコンと商談室の扉がノックされ、一人の女性が部屋の中に入って来た。

その女性は、20代中頃の身長は俺と同じ位で、肌色は日本人に近く、髪の毛の色もダークグレーだが、顔立ちは西洋人で、きつめの顔立ちではあるが、なかなかの美人だ。

そんな、なかなかの美人が、ニコっと微笑む。



「葵!久しぶりだな!元気にしてたか?」

「リューディアさんもお忙しそうでなによりですね」

「当たり前だ!私はこの支店で一番の売上を誇る、売り子交渉人なのだからな!」

「流石リューディアさん。師匠のギルゴマさんも喜んでいるでしょうね」

それも当たり前だ!と、得意顔で笑うリューディア。俺とリューディアは微笑み握手を交わす。



「ご主人様…この方は…」

「ああ!言い忘れていたね。この人はリューディアさん。ギルゴマさんの一番弟子さんで、このリスボン商会の港町パージロレンツォ支店で、何時も俺の担当をしてくれている人なんだ」

俺がそうマルガに説明すると、横で聞いていたリューディアが、俺のほっぺたを抓る。



「イテテテ!」

「それだけじゃないだろう?お前は私の姉弟弟子だろうが!その辺もきちんと説明しないか!ったく…ギルゴマ師匠の弟子と言う自覚をもっと持てと、何時も言っているだろう?」

ほっぺたを摩っている俺に、少し説教気味で腕組みしながら言うリューディアは、そんな俺を戸惑いながら見ているマルガとマルコに視線を落とす。



「で…この子達は何なんだ?何かの商談で雇っているのか?」

「い…いや…。こっちの亜種の女の子は俺の一級奴隷でマルガ。そっちの少年は、旅の仲間のマルコ。今は3人で旅をしてるんだ」

そう言って、マルガとマルコを見ると、姿勢を正してマルガとマルコがリューディアの方を向き



「は…初めまして!わ…私はご主人様の一級奴隷をさせて貰ってますマルガと言います!よろしくです!」

「オイラは、葵兄ちゃんの弟子をしてます、イケンジリの村から来たマルコです!よろしくです!」

マルガとマルコは少し緊張気味に自己紹介すると、可愛い頭をペコリと下げている。

それを聞いたリューディアは、ポカンと口を開けて暫く呆けていたが、ハっと我を取り戻して俺に向き直り



「はああああ!?葵の一級奴隷に、弟子だって!?…お前…姉弟子である私でさえ、奴隷や弟子なんて持っていないのに、そんな私を差し置いて…弟弟子のお前がか!?…へえ…ほんの少し見ない内に、随分偉く立派になったもんだな?え~葵ちゃんよ~そこんとこ、どう思ってるのかな~?」

「あ…いえ…そ…その件につきましては…少し反省もしてたり…してなかったり…」

「ああん!?なんだって!?」

「ハイ!とっても反省してます!姉弟子であるリューディアさんを差し置いて、一級奴隷や弟子を持ってしまった事、大いに反省しています!」

リューディアは俺の言葉を聞いてか聞かずか、俺の頬を両手で引っ張って、まるで何処まで頬が伸びるか試している様に、ミョイ~ンと引っ張っている。そんな痛がっている俺を見て、マルガはテテテと小走りで近寄ってきて



「私のご主人様をいじめないで下さい!」

ムウウと少し唸って、リューディアに言うマルガの尻尾は、少し逆立っている。

リューディアはマルガに視線を移すと、両手を俺の頬から離して、マルガをギュっと抱きしめた。

マルガは突然抱きしめられて、そのまま固まっている。



「可哀想に…あんたみたいな凄い美少女が、葵みたいな出来損無いで、見た目もぱっとしない奴の奴隷にされちゃうなんて…酷い事されてないかい?」

何か酷い事をさらっと言われた気がするよママン!…泣いて良いですか?…ウウウ…

リューディアはそう言いながら、マルガの頭を優しく撫でている。マルガはハッと我を取り戻して、アワワとなりながらリューディアに言う。



「い…いえ!私は自分からご主人様の奴隷になったんです!そ…それに、ご主人様はとっても優しくしてくれますし…」

「クウ~可愛いじゃないか~健気だねえ~。もし、理不尽や変な命令を言う様なら、私にすぐに言うんだよ?私が葵のアソコを鋏でちょん切ってお仕置きしてあげるからね」

何気に怖い事を言われてる!なんかアソコガ痛い様な気がして、思わずアソコを押さえちゃったよ…

マルガは優しく撫でてくれるリューディアに、戸惑いながら嬉し恥ずかしいと言った感じの顔をしている。



「そっちの少年も、葵の口車に乗せられちゃったんだね~。こき使われて可哀想に…」

「い…いや…オイラが無理を言って連れて来て貰ってるんだ!オイラ行商の事や、色々知って力を蓄えたいから。だ…だから、騙されて付いて来たわけじゃないよ」

瞳を輝かせて居るマルコに、フっと優しく微笑むリューディアは、マルガとマルコを優しく抱きしめる



「…お前達は良い子だねえ…。もし…何か有ったら、すぐに私に言うんだよ?葵は私の弟弟子。あんた達も私の弟や妹みたいなものなんだから。…葵…この子達をしっかり守ってやるんだよ?酷い事したら、私が只じゃ置かないからね」

「…うん、解ってるよリューディアさん」

俺の微笑みながらの言葉に、ウンウンと頷くリューディアの表情は、優しく見守る聖女の様だった。



「よし!時間を無駄にする訳にも行かないし、ちっちゃな取引を開始しようか!」

そう言ってニヤっと笑うリューディアは、俺の顔を見てすこぶる楽しそうだった。

ウウウ…リューディアさんにもちっちゃいって言われた!ほんと何時か大きい取引を持ってきて驚かせてやる~~~!!

俺達は商談室を出て、荷馬車に向かう。



「葵、今回はどんな物を仕入れてきたんだい?」

「えっとね…鹿の角が17本と半分、熊と鹿の毛皮が、熊が5枚、鹿が10枚、熊と鹿の塩漬けの肉が、熊が5樽、鹿が10樽、蜂蜜が10樽、そして最後は山菜が7樽。山菜は中樽で、あとは小樽だね」

その説明を聞いて、ふうんと小声で言うと、俺達の荷馬車の積み荷を確認してゆく。

そして、羊皮紙を一枚取り出し、商品を確認しながら計算をしていっている。暫くリューディアの検品を待っていると、フンフンと頷きながら、満足そうな顔で此方に振り返るリューディア。



「…流石はイケンジリの村の品物だね。鮮度は良いし、質も中々」

好感触のリューディアが、書き込んだ羊皮紙を俺に見せ説明をはじめる



「まず鹿の角は、金貨1枚と銀貨65枚、熊と鹿の毛皮が、金貨1枚と銀貨45枚、熊と鹿の塩漬けの肉が、銀貨90枚、蜂蜜が銀貨85枚、山菜が銀貨80枚、合計、金貨5枚と銀貨65枚って所だね」

リューディアが提示した値段に、思わずう~んと唸ってしまう。いきなりこっちの理想の価格を提示してくるとは…

俺の仕入れ値は、金貨3枚と銀貨35枚。金貨5枚と銀貨65枚の売値なら、金貨2枚と銀貨21枚の儲け。此れ位の儲けなら十分納得出来る。

そんな俺の顔を見たリューディアは、口元を上げニヤっと笑う



「葵…ギルゴマ師匠にも言われてると思うが、顔に出すぎだぞ?そんな事だと、これで満足ですってのが、手に取る様に相手に解ってしまうぞ」

「いや~余りにも理想的な価格だったからつい…」

「ハハハ。ギルゴマ師匠は何時も吹っ掛けるからな。あれはギルゴマ師匠なりの、お前に対する教え見たいなものだ。私もさんざんやられているからな」

リューディア苦笑いしながら俺に言う。



確かにギルゴマは、何時も取引の時に、初めにこっちに若干不利な条件を突きつけてくる。その条件を通常のものに戻す為には、納得の行く理由を説明して、証明しなければならない。納得の行く説明をしなければ、そのままの条件で取引をするか、辞めるかの選択になってしまう。俺も納得の行く説明を出来ずに、若干不利な取引を何度もさせられて、悔しい思いをしていたりするのだ。

ま~俺の為にそうしてくれているのは解ってるんだけどさ。でも…説明出来無い時の、ギルゴマのあの顔と言ったら!思い出すだけで悔しくなるよ!

リューディアの苦笑いにも、きっと俺と同じ気持が含まれているであろう。



「ま~そういう事はギルゴマ師匠が葵にしてくれるだろうから、私は現状お前に提示できる適正価格ってやつを教えてるつもりだ。役に立ってるだろう?」

「…うん。何時も感謝してるよリューディアさん」

「お前は私の弟弟子なんだ。私に出来うる事はしてやるつもりだ」

そう言って俺の頭をポンポンと優しく叩くリューディア。そんなリューディアに自然と微笑んでしまう。

マルガもマルコもそんな2人を見て、ニコニコ微笑んでいる。



「じゃ~葵、取引成立でいいか?」

「うん、取引成立でお願いするよ」

俺の言葉にニコっと微笑むリューディアは、取引成立の証明である羊皮紙を出す。俺はそこに署名して、取引を成立、終了させた事を示す。それを確認したリューディアは、三級奴隷を呼んで、俺の荷馬車から商品を降ろして行く。俺はリューディアから、商品の代金を貰い、アイテムバッグにしまっていると



「葵…気になっていたんだが、もう一台の馬車に積んである武器はどうするんだ?そこそこ量もありそうだけど」

「ああ!その武器は何処かの武器屋に売ろうと思ってるんだ。売ったお金で、鍛冶屋に頼みたい事もあるから…何処か良い武器屋知らない?」

「ならリスボン商会が経営している武器屋に行くといいだろう。彼処の武器屋なら、鍛冶屋も一緒にやっているから、ちょうど良いと思う。私の紹介と言えば、良い取引が出来ると思うしな。場所を教えてやるから行ってみろ」

俺は頷いて武器屋の場所を教えて貰う。その間に荷馬車から商品が降ろされて、荷台は綺麗サッパリ空っぽになっていた。無事に取引を終えて、そろそろ次に向かおうとした時に、ハっとリューディアが、何かを思い出した様だった。



「葵!待ってくれ!ギルゴマ師匠から私に連絡があってな。この町に着いたら、ギルゴマ師匠宛の手紙は王都ラーゼンシュルトの支店の方に送ってくれとの事だ」

「王都ラーゼンシュルト?ギルゴマさん取引可何かで、王都ラーゼンシュルトに向かってるの?」

「いや…ギルゴマ師匠は、王都ラーゼンシュルトに配置換えされて、次のリスボン商会、王都ラーゼンシュルト支店の、支店長に任命されたんだ」

「ええ!?ギルゴマさんが、王都ラーゼンシュルトの支店の長になるの!?」

思わず大きな声を出してしまった。それ位リューディアの言葉は大きなものだった。



リスボン商会は、フィンラルディア王国の中でも中堅の商会。この国にも沢山の支店を抱え、大手商会には及ばないが、上から数えた方が早い位の力を持った商会である。

しかも、王都ラーゼンシュルトは、このフィンラルディア王国の中で1番大きな大都市である。そんな、大都市の支店長と言ったら、リスボン商会でもかなり地位を固めた人物でないとなれない。



「大体おかしかったのだ。ギルゴマ師匠程の人が、ラングースの街の一売り子交渉人として扱われてる事自体がな。やっと本来の居るべき所に収まったと言った所だな」

「そうなんだ…でも何故そんな事になってたの?」

「…まあ、リスボン商会の中でも色々あってな」

そう言って苦笑いするリューディア。

ま~リスボン商会位の規模の商会なら、商会内でも色々権力争いもあるか…。恐らくそんな所だろう。

俺がそんな事を考えていると、俺の表情を見て、俺がなんとなくその事理解したと思ったのか、リューディアはフっと笑っている。



「所で葵。ギルゴマ師匠に何か頼み事でもされていたのか?」

「あ…うん。ま~リューディアさんになら話しても問題無いか…」

俺はイケンジリの村であった事を説明する。その話を聞いて顔を歪めるリューディア。



「そうか…エドモンさんがな…良き行商人だっただけに残念だな」

「リューディアさんエドモンさんを知ってるの?」

「まーな。私の担当していた行商人でもあったし、彼の人柄は信用に値する人物だったから、私も懇意にさせて貰っていたんだよ」

少し儚げに微笑むリューディアは、視線を少し宙に向ける。きっとエドモンさんの事を思っているのだろう



「…葵。ギルゴマ師匠には、私からエドモンさんの事を、手紙で伝えておくよ。…エドモンさんの形見の品…渡して貰えるか?」

俺は静かに頷き、アイテムバッグから、千切れかかった、血に染まっている、青いスカーフをリューディアに渡すと、それがエドモンさんの物だと理解したリューディアは、ギュっとスカーフを握りしめていた。

そして、スカーフをポケットにしまうと、俺の傍まで来て、俺をギュっと抱きしめる。

いきなりの抱擁に俺が戸惑っていると、優しく俺の頭を撫でながら



「お前も良く生き残れたね。何度も言うが、お前は私の弟弟子なんだ。余り無理な事をするんじゃないよ?何が何でも生き延びて、また元気な顔を見せに来るのが、お前の役目でもあるんだからな?」

「…うん、解ってる。…ありがとねリューディアさん」

俺の言葉に、ウンウンと頷くリューディアは、優しい微笑みを俺に向けてくれる。その微笑みはとても心を優しく包んでくれている感じがする。

俺は一人っ子だけど、実際に姉が居たらこんな感じなのかな…

そんな事を思いながら、体を離す俺とリューディア。



「さあ!取引も終わった事だし、お前達も次の目的を果たしな!」

「そうするよリューディアさん。ではまた次の取引で」

「ああ!いつでも待ってるよ!マルガもマルコも、元気で顔を見せにおいでよ!」

「「ハイ!リューディアさん!」」

リューディアの言葉に、声を揃えて元気に返事をするマルガとマルコ。そんな2人を見て、顔を見合わせて微笑む俺とリューディア。

俺達は挨拶を済ませ、リスボン商会、港町パージロレンツォ支店を後にした。
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