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2章
愚者の狂想曲 43 依頼者達
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今俺達は、ルチアから貰った地図に書かれている場所に向かっている。
昨日人攫いの内の1人を倒し、その死体の事でルチアに相談をしにヴァレンティーノ宮殿に赴いたまでは良かったが、当のルチアがどこかに出かけていて不在だったのだ。
それでルチアの専属侍女をしている、ルイーズ、アンリ、ジュネにその件を書いた羊皮紙を渡しておいたら、夕方位に3人が宿舎にやって来て、この地図を渡されたのだ。
3人曰く、そこの場所で話を聞きたいとの事らしい。
なぜ王宮や宿舎で話をしなかったのだろうなどと、ルチアの考えを少し疑問に思いながら、俺達は地図に書かれた場所まで歩いて行く。
「…葵さん。どうやら…地図に書かれた場所は、ここの様ですわね」
リーゼロッテの声に皆がその建物に視線を送る。
その建物は、俺達が住んでいる宿舎の様に、造りは古いが格調の高い美しい建物であった。
柵や壁の向こうには、綺麗に手入れされている庭園が広がり、その中心に孔雀を模した銅像のある噴水から、美しい水が湛えられていた。
そして豪華な装飾のされた門の横には、規律正しく並んでいる警護の兵が、切れ味の鋭いハルバートを持ち、凛々しく立っていた。
その上には、白地に孔雀が羽を広げている旗が、風に靡いている。
俺達がその光景に目を奪われていると、1人の護衛兵が近寄って来た。
そして、俺達を一通り見て、フンフンと頷く。
「…貴方達は…葵様ご一行ですかな?」
「あ!はい!そうです」
優しく落ち着きのある護衛兵の言葉に、慌てながら返事をすると、少し可笑しそうに笑う護衛兵。
「そうですか。貴方達の事は聞いています。ご案内致しますので、こちらにどうぞ」
護衛兵の言われるままにその美しい館に入っていく俺達。
ヴァレンティーノ宮殿にも引けを取らない美しさと優雅を備えている館の中を、キョロキョロと眺めながら歩いていたマルガが口を開く。
「ご主人様…ここは誰のお屋敷なのですか?」
俺に腕組みをしながら聞いてくる可愛いマルガの言葉を聞いた護衛兵が、俺達に振り返る。
「ここは、フィンラルディア王国、六貴族の内の1つである、ハプスブルグ伯爵家の別邸ですよお嬢さん」
「はうう!?そうなのですか!?」
驚きながら少し変な声を上げたマルガは、恥ずかしそうに両手で口を抑えて赤くなっていた。
そんなマルガを見た護衛兵は、フフフと優しく笑いながら頷いていた。
ハプスブルグ伯爵家…
フィンラルディア王国で権力を持つ六貴族の内の1つであり、フィンラルディア王国の南に位置する大都市、農業都市ヴェローナを治める領主でもある。
温暖な気候や、豊満な大地、澄み渡る水に囲まれ、農業を中心として発展した領地でもある。
ロープノール大湖から流れ出す川を航路とし、この王都ラーゼンシュルトとも繋がっている。
ヴェローナ周辺で取れる農作物は、このフィンラルディア王国を潤している。
そして、このフィンラルディア王国の司法を取り仕切っている大貴族としても知られている。
この世界にも裁判所の様な所があり、民民の事柄や紛争などは、裁判所で法律に則り裁かれていたりもするのだ。
国の警護や守備も担当していて、正義の象徴である、孔雀をシンボルとした紋章を掲げている。
バルテルミー侯爵家同様、善政を敷く領主として知られ、正義を貫くその姿勢は、一切の不正を許さないと言われている。
このフィンラルディア王国の正義の代名詞といっても過言ではないだろう。
「では、行きましょうか」
優しく語りかける護衛兵に、気恥ずかしそうに頷くマルガ。
俺達は再度護衛に案内されて後を付いて行くと、豪華な扉の前でその歩みを止める。
「こちらになります。中に入ってください」
護衛兵の言われるままに、俺達は豪華な扉を開けて部屋の中に入って行くと、聞き慣れた声が聞こえてきた。
「いつもこの私を待たせるなんて、本当に良い度胸よね!まったく!」
少し不機嫌ないつものルチアの声を聞いた嬉しそうなマルガにマルコが、ルチアの元に小走りに進みだして、カチッと音がする様に固まる。
マルガとマルコの視線の先に目を向けると、50代位の偉丈夫が鋭い眼光を俺達に向けていた。
「晩餐会以来だな。…元気そうだな葵」
「ラ…ランドゥルフ様もお元気そうで何よりです」
俺が少し苦笑いしながら挨拶をすると、フフと笑い、その手に持ったワイングラスを傾けている。
「まあまあ堅苦しい挨拶は無しにして、座ってくれたまえ葵殿」
その声に視線を向けると、楽しそうな顔で俺達を見つめるルクレツィオとイレーヌ、マティアスの姿があった。
俺達はランドゥルフとルクレツィオに挨拶を済ませ、ソファーに座ると、メイドがワインを入れてくれる。マルガやマルコは果実ジュースを入れて貰い、それをグイッと飲み干している。
そして、軽くワインに口をつけたリーゼロッテが、綺麗な声を響かせる。
「所で…今日は何故ルクレツィオ様やランドゥルフ様がいらっしゃるのでしょうか?」
「…私達が居たら…何か話しにくい事でも有るのかリーゼロッテ?」
「いえ、その様な事はありませんわランドゥルフ様」
ギラッとした眼光を向けるランドゥルフに、涼やかな微笑みを返すリーゼロッテ。
それを楽しそうに見ているルクレツィオを見て、ルチアが軽く溜め息を吐く。
そして、ルチアが口を開こうとした時に、一同の後ろから声が聞こえた。
「それは私から説明させて頂きましょう」
その声に振り向くと、そこにはルクレツィオやランドゥルフに年の頃の近い、赤み掛かった金髪の偉丈夫が立っていた。優しくもどこか清い感じのするその声の持ち主に、どこか威厳が感じられる。
その横には、同じ赤み掛かった金色の美男子が俺を値踏みする様に見つめていた。
「お待たせしてすいませんルチア王女。公務が長引いてしまいまして」
「構わないわアリスティド卿。無理を言って時間を割いて貰ったのは私なんだから」
ルチアはそう言うと頭を下げているアリスティドの肩に優しく手を置いている。
…オラの時とは随分と対応が違いますねルチアさん!
まあ…権力を持つ六貴族とオラとじゃ、対応が違うのは解りますけどね!
てか…オラだけだった…ガク…
少し黄昏れながらアリスティドとルチアを見ていると、可笑しそうに微笑みながら俺の前に来るアリスティド。
「初めまして葵殿。私はハプスブルグ伯爵家当主、アリスティド・グザヴィエ・アルフレッド・ハプスブルグだ。私の横にいるのが長男のマクシミリアン・ジェローム・アルセーヌ・フォルジェ・ハプスブルグ。歳はルチア王女や葵殿と同じ16歳。親しくしてやってくれたまえ」
アリスティドの言葉に一歩前に出るマクシミリアンは、軽く頭を下げる。
「マクシミリアンだ。ハプスブルグ伯爵家、ヴィシェルベルジェール白雀騎士団の副団長をしている。よろしく頼む」
少し気に食わなさそうなマクシミリアンに皆が挨拶をする。
「ではそろそろ…何故六貴族であられるお三方が、この様に集まっておられるのかを…教えて頂きたいのですが?」
「フフフ解っていますよエルフの美しいお嬢さん」
リーゼロッテの涼やかな笑みを見て、楽しそうに微笑むアリスティドは話を続ける。
「今君達は、冒険者ギルドから、人攫いの目的を探ると言う依頼を受けていますね?」
「…はい、受けています。ですが…それがどうかしたのですか?」
「…その依頼を冒険者ギルドに依頼したのは…私なのですよ」
「え!?アリスティド様が!?」
少し驚いている俺に静かに頷くアリスティド。マルガとマルコも顔を見合わせて驚いていた。
「しかし…何故…大貴族であるハプスブルグ伯爵家であるアリスティド様が、国民と認定されていない者達が多く住む郊外町の人攫いの事など…知ろうとなされたのですか?」
驚いている俺達の中で、平然と話を聞いていたリーゼロッテがアリスティドに問いかける。
確かにリーゼロッテの言う通りだ。
如何に正義を掲げるハプスブルグ伯爵家だからと言って、国民と認定されていない郊外町に住む者の事などには、手を差し伸べるはずがないし、手を差し伸べられない。だからバミューダ旅団の様な奴らに、郊外町の事は任せているのだ。
税金を納めていない奴らを助けたとなると、きちんと税金を払っている他の国民の反感を買う事になるからだ。
リーゼロッテの言葉を聞いたアリスティドは、全てを解って質問をしていると理解したのか、フフと軽く笑う。
「…なるほど、流石は上級亜種族のエルフですね。それには少し込み入った話が関係しているのですよエルフのお嬢さん」
「それは…どの様なお話なのですかアリスティド様?」
マルガが可愛い小首を傾げながら言う。
「ワーフォックスのお嬢さん、私達ハプスブルグ家が、このフィンラルディア王国の司法と守備を担っているのはご存知かな?」
アリスティドの言葉にコクコクと頷いているマルガにマルコ。
「ウム。では、その守備に対して、私達ハプスブルグ家はフィンラルディア王国の約半分位しか守備出来ていないのはご存知かな?」
「それは…どういう事なのですかアリスティド様?」
マルガとマルコは顔を見合わせて首を傾げていた。
「それはですね、このフィンラルディア王国には沢山の貴族が居て、その貴族にはそれぞれ自分達の騎士団を持っているからなのですよ」
アリスティド、は説明を続ける。
このフィンラルディア王国には、大小合わせて約50以上の貴族がいる。その貴族達は、それぞれ王家より領地を与えられている。
王家より与えられた領地は、領主が守る事が当然の様に義務付けられている。なので貴族達はそれぞれに自分達の騎士団を持っているのだ。
ハプスブルグ家はフィンラルディア王国全体の守備の権限を与えられてはいるが、貴族達が管理しているその領地までは干渉出来ない。
それを超えて何かをする時には、その領地を治める貴族の了承を得なければならないのだ。
「まあ余程の緊急事態ならば、領地を治める貴族の了承なしに、その領地で守備行動を取れるのだがね。だが、その緊急事態と言うのは、国家の危機や貴族や民の謀反、他国の侵略等、ごく僅かなものしかないのだがね」
「その話は良く解りますが…そのお話が今回の件と、どの様な関係がおありなのですか?」
アリスティドの話を冷静に聞いていたリーゼロッテが、軽くワインに口をつけアリスティドに告げる。
「ハハハ。そう急かさないでくれエルフのお嬢さん。話はここからが本番だ。このフィンラルディア王国には沢山の貴族が居て領地があるのは解って貰えただろう?だが…領地を収めている貴族達をそのまま放置する事も、危険な事である事も解って貰えるかな?」
アリスティドの言葉にコクコクと頷くマルガにマルコ。
そりゃそうだ。
領地を与えられている貴族をそのままほったらかしにしたら、何をしでかすか解ったものじゃない。
どこかの国と通じて謀反を起こすかも知れないし、どの様に与えられた領地を守備するかなんて解らない。
実際領地は、その領地を治める貴族によって、随分と違いがある。
治安の悪い領地も有れば、バルテルミー侯爵家やハプスブルグ伯爵家の領地みたいに、善政で守られている領地もある。
まあ大半の貴族達は、自分の身と財産を守れれば良いと考える者が多いので、バルテルミー侯爵家やハプスブルグ伯爵家の領地の様ではないのだ。
それでも、この大国フィンラルディアは、他国と比べて比較的治安が良いと言われている。
それは一重に、アウロラ女王の尽力の賜物なのだろう。
「だからハプスブルグ伯爵家には、フィンラルディア王国を守護する為に、領地を治める貴族達を監視出来る権限が、女王から与えられているの」
アリスティドの説明に付け足すように言うルチアの言葉を聞いて、オオ~!と声を出すマルガにマルコ。
「確かにルチア王女の言われる通り、私達ハプスブルグ家は領地を持つ貴族を監視出来る権限を与えられています。ですが…表立って貴族を監視する事は…非常に難しいのですよ」
「それは何故なのですアリスティド様?女王様の命を受けている事なのにですか?」
「それはですねマルガさん、貴族には誇りと名誉があるからですわ」
不思議そうにしているマルガの頭を優しく撫でながら言うリーゼロッテ。
貴族は誇りと名誉を重んじる。故に貴族なのだ。
貴族は王族に仕える。王族はその誇りを貴族に与えている。
貴族はその名誉を胸に領地を治め、王家の為に尽力する。これが本来の貴族の姿である。
まあ…本当に国や王家の為を考えて行動している貴族なんて、僅かだろうけどさ。
この辺は地球や日本だって変わらないだろう。本当に人々の事を考えている政治家が少ないのと同じであろう。
だが、その上っ面の誇りと名誉だけは主張する貴族の多い事。
ハプスブルグ家は貴族の監視をする権限を与えられてはいるが、表立って監視してますって訳には当然行かないであろう。
そんな事をすれば、その忠誠を疑う事にもなるし、誇りも名誉も傷つける事にも繋がり、それが忠誠心の低下にもなる。それはフィンラルディア王国の国益にそぐわない事にも繋がる。
「…エルフのお嬢さんの言う通りです。ですから我々ハプスブルグ家は、各地の領地を持つ貴族の領地や騎士団に、私達の息の掛かった者を忍びこませているのです」
「つまり…密偵…間者をそれぞれに送り込んで、情報を収集していると言う事ですわね?」
「…その通りですな。まあ…余り大きな声で言える事では無いのは確かな事ですがね。ですが…今回はそれが関係してくるのです」
アリスティドの言葉に皆が静かに聞き入る。
「事の始まりは、とある貴族の騎士団に忍び込ませた者からの報告によるものでした。その者からの報告によれば、その貴族は郊外町で人を攫って、何かをしていると言うのです」
「その何か…と言うのは、何なのですか?」
「それは解りません。その忍び込ませていた者は…その事だけを私達に報告して、行方不明になってしまったのです。それ以降…その者との連絡は取れず…安否も不明なのですよ」
「…つまり…密偵である事がバレて…始末された可能性があると?」
「…エルフのお嬢さんの言う通りかも知れませんね」
それを聞いたマルガとマルコは顔を見合わせて悲しそうにしている。
「その貴族というのが、今回葵達が私に相談を持ちかけた、例の死体の所属している貴族の騎士団と同じなのよ」
「なるほどね。でも…それは解ったけどさ…もう1つ聞きたいのは、俺達とルチア、アリスティド様以外にランドゥルフ様とルクレツィオ様が何故ここに居るの?それが…」
俺がその続きを言おうとした時に、誰かの声が掛かった。
「その続きは私が説明しましょう」
そう言ってソファーに座っているルクレツィオの横に立つ男が語りかける。
その男は顔に大きな刀傷があり、身長もマティアス位ある屈強な男であった。
立ち振舞からしてかなりの実力者である事が解る。バルタザールの様な屈強のイメージではあるが、雰囲気は何処か違う様に感じられた。
「えっと…貴方は…」
「私は港町パージロレンツォの郊外町であるヌォヴォを統治させて頂いている、アガッツァーリ旅団の団長、カモラネージです」
そう言って頭を下げるカモラネージ。
マルガとマルコは、郊外町を支配していると聞いて、あのバルタザールを想像したのか、少し警戒しながらカモラネージを見つめていた。
カモラネージはそんなマルガとマルコを見て、フフと笑っている。
「聞いて頂いた通り、アリスティド様の配下の者から情報を得た事は理解して頂いた事と思います。実はあの様な集団で行われている人攫いは、数年前からあった事だったのです。私達は郊外町であるヌォヴォの統率を取る為に、その集団人攫い達と抗争を繰り広げてきました。その事は港町パージロレンツォの領主であるルクレツィオ様に報告させて頂き、郊外町の民を守る様に指示を受けておりました。私達もあの人攫い達の正体を突き止められないままでいたのですが、その時にアリスティド様のお話を聞いたのです。とある貴族が郊外町で人を攫って…何かをしている可能性があるとね」
カモラネージの話を真剣に聞いているマルガにマルコ。
先ほどまでカモラネージを警戒していたマルガにマルコは、バルタザールとは違う雰囲気を感じ取ったのか、その表情は先程とは違うものになっていた。
「当然私の領地であるヴェローナの郊外町を統治させている旅団の頭領にも話を聞いたが、王都ラーゼンシュルトや港町パージロレンツォ同様、数年前から人攫いが横行していたらしい。そして同じ様に、その正体を掴めないでいた。なので私はランドゥルフ卿とルクレツィオ卿に、今回の話を持ちかけたのだ。他の郊外町ではどうなのかとね」
「…そしてその結果、どの郊外町でも…集団で人が攫われていたと言う事が解ったのですね?」
リーゼロッテの言葉に頷くアリスティド。
「私がお前と初めて会った春先に港町パージロレンツォに居たのも、それが主だった理由だ。私の領地であるポルトヴェネの郊外町を統治させている旅団が、その貴族と何か良からぬ事をしていないかどうかを調べる為に、わざわざ公務を作ってポルトヴェネを空にさせた。その間に、そこのカモラネージにポルトヴェネの郊外町を統治させている旅団の事を調べて貰っていたと言う事だ。まあ…あの時は色々とあったがな」
俺にそう言って、少し楽しそうな顔をしているランドゥルフ。
そうか…あの時リーゼロッテの件だけで港町パージロレンツォに居た訳じゃ無かったって事か。
そりゃよく考えれば、同じ大都市である工業都市ポルトヴェネでも、奴隷をオークションする所位あるだろう。
それをわざわざ港町パージロレンツォに来てオークションに出す様な手間を、このランドゥルフがするはずはない。
「まあ…調べた結果、その貴族とは繋がりは無かった事が解ったのだがな。同じ様にその人攫いの集団と対立していた。後に話をして、その人攫い達を駆逐する様に指示を出したと言う訳だ。これで私とルクレツィオ卿がこの場に居る理由が解っただろう?」
「ええ、良く解りましたわランドゥルフ様」
リーゼロッテの涼やかな微笑みを見て、フンと鼻を鳴らしながら楽しそうにリーゼロッテを見つめているランドゥルフ。
そして、静かに腕組みしながら話を聞いて居たルチアが口を開く。
「貴方の事だから、大体の話の流れは解ってきたと思うわ。詳しい話は後でするから、先に葵の報告を直に皆に聞かせて欲しいの」
俺はルチアに頷き、今までの人攫いの件で得た情報を皆に話す。
そして、リーゼロッテから出された、死んだ人攫いの肩に入っていた隷属の紋章のスケッチを見て、腕組みをするアリスティド。
「…やはり…メネンデス伯爵家の騎士団、モリエンテス騎士団の者か…」
「その騎士団はどの様な騎士団なのですか?」
マルガが興味深げにアリスティドに質問する。
「メネンデス伯爵家はビンダーナーゲル伯爵家やクレーメンス公爵家と同じ派閥に属する、なかなか力を持った貴族よキツネちゃん」
そう言ってアリスティドの代わりにマルガに説明をするルチア。
「ビンダーナーゲル伯爵家と言えば…確かこのフィンラルディア王国の宰相である、ジギスヴァルト宰相の派閥で良かったですわねルチアさん?」
「その通りよエルフちゃん。そして、ビンダーナーゲル伯爵家、ジギスヴァルト宰相の管理している領地は、王都ラーゼンシュルト」
「ええ!?この王都ラーゼンシュルトって、王族が管理しているんじゃないのルチア姉ちゃん?」
ルチアの話を聞いたマルコが、驚きの声を上げる。
「このフィンラルディア王国は大国で、その国土も広いわ。王族はフィンラルディア王国全体の事を考えて行動しなければならないの。だから王族の公務は、大きな国の枠での事を考えているの。確かに、この王都ラーゼンシュルトはフィンラルディア王国1番の大都市だけど、国全体から見たら1つの都市と言う事なのよ。だから王都ラーゼンシュルトの管理はビンダーナーゲル伯爵家に任せて、王族は国全体の事を考え公務に当たる。これが数百年も前から続いて来たやり方なのよ」
ルチアの説明を聞いてなるほどと頷いているマルガにマルコ。
「…と、言う事は、今回の人攫いの件に関して…ビンダーナーゲル伯爵家、つまり、ジギスヴァルト宰相の関与が有ると言う事なのでしょうかルチアさん?」
リーゼロッテの直球の言葉に、部屋全体が静まり返る。
そして、可笑しそうに笑いながらアリスティドが口を開く。
「ハハハ。その様な事を証拠も無しに大っぴらに言えば、侮辱罪ですぐに処刑されてしまいますよエルフのお嬢さん。まあ、この場であるからそう言ったのは解っているがね」
「アリスティド卿の言う通りよエルフちゃん。私達も調査をしているけど、人攫いの件に関して、ビンダーナーゲル伯爵家、つまり、ジギスヴァルト宰相の関与の証拠は1つも無いわ。それどころか…今の所、メネンデス伯爵家の関与している証拠も、何一つ掴めないでいた位なのよ」
そのルチアの言葉を聞いたマルガは、ハイハイ!と右手をあげて猛アピールをしながら、ルチアに近づく。
「では、今回の人攫いの死体は、凄い証拠になるのでは無いのですかルチアさん!?だって死体には、メネンデス伯爵家のモリエンテス騎士団の隷属の紋章が有ったのですから!動かぬ証拠と言うやつなのです!」
フンフンと鼻息の荒いマルガの頭を、苦笑いしながら撫でているルチアは
「…それだけじゃダメよキツネちゃん。確かにその人物自体の関与は否定出来ないでしょうけど、モリエンテス騎士団、いいえ、メネンデス伯爵家全体の関与を証明するには至らないわ。もし、今その事を追求しても、個人のみが関与していたと言う事で処理されるだけよ。もっと確実な証拠を掴まなければ、無駄に終わると言う事ね」
「ハウウ…残念なのです~」
金色の毛並みの良い尻尾をショボンとさせ、余りにも残念そうなマルガを見て、皆がププッと笑う。
マルガは気恥ずかしそうにモジモジしていた。
「兎に角、私達のしなければいけない事は、人攫い達の目的を掴み、そして、メネンデス伯爵家が何を行い、何を企んでいるかを掴まなければいけいない。その結果、フィンラルディア王国の法に触れるのであれば、拘束して法廷でその罪を裁かなければならないと言う事だ」
アリスティドの厳粛な言葉に、マルガとマルコは静かにコクッと頷いている。
「葵達には、引き続き人攫い達の情報を集めて貰おう。私達には色々なしがらみもあるし、大ぴらに動けぬ事情も多々ある。だから秘密にして冒険者ギルドに依頼をしたのだからな。先に依頼を受けている者達と協力して、調査をしてくれ。勿論、ここからの報酬は別途支払う。幾ら欲しい?」
ランドゥルフがそう言い、ギラッとした視線を俺に向ける。
それに苦笑いしながらも、俺は以前から考えていた欲しい物をランドゥルフに告げる。
それを聞いたランドゥルフはククッと笑い、ルチアはハア~と大きな溜め息を吐く。
「…葵貴方ねえ…。本当に呆れるわ」
そのルチアの呆れ顔をみて、マルガとマルコがアハハと笑っている中で、リーゼロッテが嬉しそうに瞳を揺らし、俺の腕にギュッと抱きついていた。
その中で、ふと俺は疑問に思う事をルチアに聞いてみた。
「そう言えばルチアさ…前に俺達と話して依頼の内容を聞いた時に、何故この事を俺達に言ってくれなかったの?そうすれば…」
俺が話を続け様とすると、マティアスが俺の傍に近寄り耳打ちをする。
「…葵殿。ルチア様は…この様な事に皆さんを、巻き込みたく無かったのですよ」
そうか…ルチアは国のゴタゴタに、俺達を巻き込みたくは無かったんだ。
そう言えばルチアは、依頼を変えて貰う様にとか、辞めればと言う様な事を言っていた。
恐らく、俺達が沢山ある冒険者ギルドの依頼から、この依頼を受けるとは思っても見なかったのだろう。
以前マリアネラからこの依頼は、冒険者ギルド、王都ラーゼンシュルト支店の長である、アベラルド支店長から直接依頼を受けたと言っていた。
アリスティド卿達の事だから、アベラルド支店長に、信用の出来る人物をこの依頼につけて欲しい事を、言っている事は容易に想像出来る。
そして、信用の出来るマリアネラ達が選ばれ、マリアネラからの応援の要請に、同じく港町パージロレンツォの支店の長であるアガペトからの推薦状を持ってきた俺達が、その条件に合うとしてたまたま選ばれてしまったと言う訳か…
俺がそんな事を考えながらルチアを見ると、少し頬をプクッと膨らませていた。
「…本当に頑固で、間が悪いんだから…」
「うん?何か言ったルチア?」
「何も言ってないわよ!この色狂い!」
そう言いながらプリプリしているルチアは、俺の傍に近寄る。
「…葵。解ってると思うけど、十分に注意してね。相手はフィンラルディア王国でもなかなかの力を持った貴族。何をしてくるか解らないわ。危険だと感じたら、すぐさま依頼を放棄しなさいよ。放棄しても報酬は支払ってあげるから…無茶は…しないでよ?」
そう言って少し不安そうな顔をするルチア。
「…解ってるよルチア。ありがとね」
そう言ってルチアの肩に手を置くと、フンと言ってソッポを向くルチア。
「それから葵、貴方が人攫いから外したその自滅の腕輪だけど、メーティス先生に見て貰いなさい。メーティスならひょっとしたらマジックアイテムから何か情報を掴めるかもしれないわ」
「解ったよルチア。帰ったらメーティスさんにこの自滅の腕輪を見て貰う事にするよ」
俺の言葉に頷くルチア。
「では打ち合わせ通りにと言う事で宜しいですかな皆さん?何か有ればすぐに報告しあって、対処すると言う事で」
アリスティドの言葉に頷く一同。
「じゃ~俺達は一度宿舎に帰るよ。皆と相談もしたいしね」
俺達は皆と挨拶を交わして部屋を後にする。
そして、宿舎のあるグリモワール学院の門をくぐり宿舎の前に来た時に、ユーダとエマとレリアが楽しそうに鳥に餌を上げていた。
俺達に気がついたエマが元気一杯の挨拶をしてくれる。
「あ!葵お兄ちゃんお帰りなさい!」
「ただいまエマ」
エマの頭を優しく撫でると、エヘヘと可愛い微笑みを見せてくれる。
「鳥に餌を上げているんだね」
「あ!大切な食料を鳥に与えてはダメでしたか?」
少し罰の悪そうなユーダが申し訳無さそうに言う。
「あ!別にいいですよ。気にしないで下さい。エマも喜んでいますし、マルガや他の皆も、結構動物好きな子が多いので。好きにして下さい」
俺の言葉に、嬉しそうな顔をしているユーダ。エマもキャキャとはしゃぎながら、鳥達と戯れていた。
「とりあえず皆と相談したい事があるから集まってくれる様に言ってくれるユーダ?」
「解りましたわ葵さん」
優しい微笑みを俺に向けるユーダは、小走りに宿舎に入っていく。
「じゃ~俺達も宿舎に入ろうか」
俺達は宿舎に入って行くのであった。
ここは豪華な部屋の一室。
その部屋で大きな声が上がる。
「ヒュアキントス!例の行商人が、我らの事を調べだしたと言うのは、どういう事だ!」
怒涛に近い言葉を浴びせられるヒュアキントスは、一切表情を変えずに男に向き直る。
「はい、どうやら自滅のマジックアイテムが不具合で、人を攫わせていた者の死体が残ってしまった様です。何故マジックアイテムが発動しなかったのかは解りませんが」
ヒュアキントスの言葉に、更に顔をきつくする男。
「…で、これからどうするつもりなのだ ヒュアキントス?」
「は、それはもう既に手を打ってあります。ご安心下さい」
そう言って綺麗にお辞儀をするヒュアキントス。
ヒュアキントスの説明を聞いた男は、少しその表情を緩める。
「…解った。その様に進めよ。くれぐれも失態の無い様にな!」
そう言い放った男は、豪華な部屋を足早に出ていく。
それを見て軽く溜め息を吐くヒュアキントス。
「…お前などに言われなくても、事は進んでいる。馬鹿な奴め…」
小声でそう呟いたヒュアキントスは、窓の外に視線を向ける。
「…葵 空。今回は…僕が全て奪わせて貰うよ…」
恍惚の表情で空を見上げるヒュアキントス。
闇は更に大きな動きを見せていくのであった。
昨日人攫いの内の1人を倒し、その死体の事でルチアに相談をしにヴァレンティーノ宮殿に赴いたまでは良かったが、当のルチアがどこかに出かけていて不在だったのだ。
それでルチアの専属侍女をしている、ルイーズ、アンリ、ジュネにその件を書いた羊皮紙を渡しておいたら、夕方位に3人が宿舎にやって来て、この地図を渡されたのだ。
3人曰く、そこの場所で話を聞きたいとの事らしい。
なぜ王宮や宿舎で話をしなかったのだろうなどと、ルチアの考えを少し疑問に思いながら、俺達は地図に書かれた場所まで歩いて行く。
「…葵さん。どうやら…地図に書かれた場所は、ここの様ですわね」
リーゼロッテの声に皆がその建物に視線を送る。
その建物は、俺達が住んでいる宿舎の様に、造りは古いが格調の高い美しい建物であった。
柵や壁の向こうには、綺麗に手入れされている庭園が広がり、その中心に孔雀を模した銅像のある噴水から、美しい水が湛えられていた。
そして豪華な装飾のされた門の横には、規律正しく並んでいる警護の兵が、切れ味の鋭いハルバートを持ち、凛々しく立っていた。
その上には、白地に孔雀が羽を広げている旗が、風に靡いている。
俺達がその光景に目を奪われていると、1人の護衛兵が近寄って来た。
そして、俺達を一通り見て、フンフンと頷く。
「…貴方達は…葵様ご一行ですかな?」
「あ!はい!そうです」
優しく落ち着きのある護衛兵の言葉に、慌てながら返事をすると、少し可笑しそうに笑う護衛兵。
「そうですか。貴方達の事は聞いています。ご案内致しますので、こちらにどうぞ」
護衛兵の言われるままにその美しい館に入っていく俺達。
ヴァレンティーノ宮殿にも引けを取らない美しさと優雅を備えている館の中を、キョロキョロと眺めながら歩いていたマルガが口を開く。
「ご主人様…ここは誰のお屋敷なのですか?」
俺に腕組みをしながら聞いてくる可愛いマルガの言葉を聞いた護衛兵が、俺達に振り返る。
「ここは、フィンラルディア王国、六貴族の内の1つである、ハプスブルグ伯爵家の別邸ですよお嬢さん」
「はうう!?そうなのですか!?」
驚きながら少し変な声を上げたマルガは、恥ずかしそうに両手で口を抑えて赤くなっていた。
そんなマルガを見た護衛兵は、フフフと優しく笑いながら頷いていた。
ハプスブルグ伯爵家…
フィンラルディア王国で権力を持つ六貴族の内の1つであり、フィンラルディア王国の南に位置する大都市、農業都市ヴェローナを治める領主でもある。
温暖な気候や、豊満な大地、澄み渡る水に囲まれ、農業を中心として発展した領地でもある。
ロープノール大湖から流れ出す川を航路とし、この王都ラーゼンシュルトとも繋がっている。
ヴェローナ周辺で取れる農作物は、このフィンラルディア王国を潤している。
そして、このフィンラルディア王国の司法を取り仕切っている大貴族としても知られている。
この世界にも裁判所の様な所があり、民民の事柄や紛争などは、裁判所で法律に則り裁かれていたりもするのだ。
国の警護や守備も担当していて、正義の象徴である、孔雀をシンボルとした紋章を掲げている。
バルテルミー侯爵家同様、善政を敷く領主として知られ、正義を貫くその姿勢は、一切の不正を許さないと言われている。
このフィンラルディア王国の正義の代名詞といっても過言ではないだろう。
「では、行きましょうか」
優しく語りかける護衛兵に、気恥ずかしそうに頷くマルガ。
俺達は再度護衛に案内されて後を付いて行くと、豪華な扉の前でその歩みを止める。
「こちらになります。中に入ってください」
護衛兵の言われるままに、俺達は豪華な扉を開けて部屋の中に入って行くと、聞き慣れた声が聞こえてきた。
「いつもこの私を待たせるなんて、本当に良い度胸よね!まったく!」
少し不機嫌ないつものルチアの声を聞いた嬉しそうなマルガにマルコが、ルチアの元に小走りに進みだして、カチッと音がする様に固まる。
マルガとマルコの視線の先に目を向けると、50代位の偉丈夫が鋭い眼光を俺達に向けていた。
「晩餐会以来だな。…元気そうだな葵」
「ラ…ランドゥルフ様もお元気そうで何よりです」
俺が少し苦笑いしながら挨拶をすると、フフと笑い、その手に持ったワイングラスを傾けている。
「まあまあ堅苦しい挨拶は無しにして、座ってくれたまえ葵殿」
その声に視線を向けると、楽しそうな顔で俺達を見つめるルクレツィオとイレーヌ、マティアスの姿があった。
俺達はランドゥルフとルクレツィオに挨拶を済ませ、ソファーに座ると、メイドがワインを入れてくれる。マルガやマルコは果実ジュースを入れて貰い、それをグイッと飲み干している。
そして、軽くワインに口をつけたリーゼロッテが、綺麗な声を響かせる。
「所で…今日は何故ルクレツィオ様やランドゥルフ様がいらっしゃるのでしょうか?」
「…私達が居たら…何か話しにくい事でも有るのかリーゼロッテ?」
「いえ、その様な事はありませんわランドゥルフ様」
ギラッとした眼光を向けるランドゥルフに、涼やかな微笑みを返すリーゼロッテ。
それを楽しそうに見ているルクレツィオを見て、ルチアが軽く溜め息を吐く。
そして、ルチアが口を開こうとした時に、一同の後ろから声が聞こえた。
「それは私から説明させて頂きましょう」
その声に振り向くと、そこにはルクレツィオやランドゥルフに年の頃の近い、赤み掛かった金髪の偉丈夫が立っていた。優しくもどこか清い感じのするその声の持ち主に、どこか威厳が感じられる。
その横には、同じ赤み掛かった金色の美男子が俺を値踏みする様に見つめていた。
「お待たせしてすいませんルチア王女。公務が長引いてしまいまして」
「構わないわアリスティド卿。無理を言って時間を割いて貰ったのは私なんだから」
ルチアはそう言うと頭を下げているアリスティドの肩に優しく手を置いている。
…オラの時とは随分と対応が違いますねルチアさん!
まあ…権力を持つ六貴族とオラとじゃ、対応が違うのは解りますけどね!
てか…オラだけだった…ガク…
少し黄昏れながらアリスティドとルチアを見ていると、可笑しそうに微笑みながら俺の前に来るアリスティド。
「初めまして葵殿。私はハプスブルグ伯爵家当主、アリスティド・グザヴィエ・アルフレッド・ハプスブルグだ。私の横にいるのが長男のマクシミリアン・ジェローム・アルセーヌ・フォルジェ・ハプスブルグ。歳はルチア王女や葵殿と同じ16歳。親しくしてやってくれたまえ」
アリスティドの言葉に一歩前に出るマクシミリアンは、軽く頭を下げる。
「マクシミリアンだ。ハプスブルグ伯爵家、ヴィシェルベルジェール白雀騎士団の副団長をしている。よろしく頼む」
少し気に食わなさそうなマクシミリアンに皆が挨拶をする。
「ではそろそろ…何故六貴族であられるお三方が、この様に集まっておられるのかを…教えて頂きたいのですが?」
「フフフ解っていますよエルフの美しいお嬢さん」
リーゼロッテの涼やかな笑みを見て、楽しそうに微笑むアリスティドは話を続ける。
「今君達は、冒険者ギルドから、人攫いの目的を探ると言う依頼を受けていますね?」
「…はい、受けています。ですが…それがどうかしたのですか?」
「…その依頼を冒険者ギルドに依頼したのは…私なのですよ」
「え!?アリスティド様が!?」
少し驚いている俺に静かに頷くアリスティド。マルガとマルコも顔を見合わせて驚いていた。
「しかし…何故…大貴族であるハプスブルグ伯爵家であるアリスティド様が、国民と認定されていない者達が多く住む郊外町の人攫いの事など…知ろうとなされたのですか?」
驚いている俺達の中で、平然と話を聞いていたリーゼロッテがアリスティドに問いかける。
確かにリーゼロッテの言う通りだ。
如何に正義を掲げるハプスブルグ伯爵家だからと言って、国民と認定されていない郊外町に住む者の事などには、手を差し伸べるはずがないし、手を差し伸べられない。だからバミューダ旅団の様な奴らに、郊外町の事は任せているのだ。
税金を納めていない奴らを助けたとなると、きちんと税金を払っている他の国民の反感を買う事になるからだ。
リーゼロッテの言葉を聞いたアリスティドは、全てを解って質問をしていると理解したのか、フフと軽く笑う。
「…なるほど、流石は上級亜種族のエルフですね。それには少し込み入った話が関係しているのですよエルフのお嬢さん」
「それは…どの様なお話なのですかアリスティド様?」
マルガが可愛い小首を傾げながら言う。
「ワーフォックスのお嬢さん、私達ハプスブルグ家が、このフィンラルディア王国の司法と守備を担っているのはご存知かな?」
アリスティドの言葉にコクコクと頷いているマルガにマルコ。
「ウム。では、その守備に対して、私達ハプスブルグ家はフィンラルディア王国の約半分位しか守備出来ていないのはご存知かな?」
「それは…どういう事なのですかアリスティド様?」
マルガとマルコは顔を見合わせて首を傾げていた。
「それはですね、このフィンラルディア王国には沢山の貴族が居て、その貴族にはそれぞれ自分達の騎士団を持っているからなのですよ」
アリスティド、は説明を続ける。
このフィンラルディア王国には、大小合わせて約50以上の貴族がいる。その貴族達は、それぞれ王家より領地を与えられている。
王家より与えられた領地は、領主が守る事が当然の様に義務付けられている。なので貴族達はそれぞれに自分達の騎士団を持っているのだ。
ハプスブルグ家はフィンラルディア王国全体の守備の権限を与えられてはいるが、貴族達が管理しているその領地までは干渉出来ない。
それを超えて何かをする時には、その領地を治める貴族の了承を得なければならないのだ。
「まあ余程の緊急事態ならば、領地を治める貴族の了承なしに、その領地で守備行動を取れるのだがね。だが、その緊急事態と言うのは、国家の危機や貴族や民の謀反、他国の侵略等、ごく僅かなものしかないのだがね」
「その話は良く解りますが…そのお話が今回の件と、どの様な関係がおありなのですか?」
アリスティドの話を冷静に聞いていたリーゼロッテが、軽くワインに口をつけアリスティドに告げる。
「ハハハ。そう急かさないでくれエルフのお嬢さん。話はここからが本番だ。このフィンラルディア王国には沢山の貴族が居て領地があるのは解って貰えただろう?だが…領地を収めている貴族達をそのまま放置する事も、危険な事である事も解って貰えるかな?」
アリスティドの言葉にコクコクと頷くマルガにマルコ。
そりゃそうだ。
領地を与えられている貴族をそのままほったらかしにしたら、何をしでかすか解ったものじゃない。
どこかの国と通じて謀反を起こすかも知れないし、どの様に与えられた領地を守備するかなんて解らない。
実際領地は、その領地を治める貴族によって、随分と違いがある。
治安の悪い領地も有れば、バルテルミー侯爵家やハプスブルグ伯爵家の領地みたいに、善政で守られている領地もある。
まあ大半の貴族達は、自分の身と財産を守れれば良いと考える者が多いので、バルテルミー侯爵家やハプスブルグ伯爵家の領地の様ではないのだ。
それでも、この大国フィンラルディアは、他国と比べて比較的治安が良いと言われている。
それは一重に、アウロラ女王の尽力の賜物なのだろう。
「だからハプスブルグ伯爵家には、フィンラルディア王国を守護する為に、領地を治める貴族達を監視出来る権限が、女王から与えられているの」
アリスティドの説明に付け足すように言うルチアの言葉を聞いて、オオ~!と声を出すマルガにマルコ。
「確かにルチア王女の言われる通り、私達ハプスブルグ家は領地を持つ貴族を監視出来る権限を与えられています。ですが…表立って貴族を監視する事は…非常に難しいのですよ」
「それは何故なのですアリスティド様?女王様の命を受けている事なのにですか?」
「それはですねマルガさん、貴族には誇りと名誉があるからですわ」
不思議そうにしているマルガの頭を優しく撫でながら言うリーゼロッテ。
貴族は誇りと名誉を重んじる。故に貴族なのだ。
貴族は王族に仕える。王族はその誇りを貴族に与えている。
貴族はその名誉を胸に領地を治め、王家の為に尽力する。これが本来の貴族の姿である。
まあ…本当に国や王家の為を考えて行動している貴族なんて、僅かだろうけどさ。
この辺は地球や日本だって変わらないだろう。本当に人々の事を考えている政治家が少ないのと同じであろう。
だが、その上っ面の誇りと名誉だけは主張する貴族の多い事。
ハプスブルグ家は貴族の監視をする権限を与えられてはいるが、表立って監視してますって訳には当然行かないであろう。
そんな事をすれば、その忠誠を疑う事にもなるし、誇りも名誉も傷つける事にも繋がり、それが忠誠心の低下にもなる。それはフィンラルディア王国の国益にそぐわない事にも繋がる。
「…エルフのお嬢さんの言う通りです。ですから我々ハプスブルグ家は、各地の領地を持つ貴族の領地や騎士団に、私達の息の掛かった者を忍びこませているのです」
「つまり…密偵…間者をそれぞれに送り込んで、情報を収集していると言う事ですわね?」
「…その通りですな。まあ…余り大きな声で言える事では無いのは確かな事ですがね。ですが…今回はそれが関係してくるのです」
アリスティドの言葉に皆が静かに聞き入る。
「事の始まりは、とある貴族の騎士団に忍び込ませた者からの報告によるものでした。その者からの報告によれば、その貴族は郊外町で人を攫って、何かをしていると言うのです」
「その何か…と言うのは、何なのですか?」
「それは解りません。その忍び込ませていた者は…その事だけを私達に報告して、行方不明になってしまったのです。それ以降…その者との連絡は取れず…安否も不明なのですよ」
「…つまり…密偵である事がバレて…始末された可能性があると?」
「…エルフのお嬢さんの言う通りかも知れませんね」
それを聞いたマルガとマルコは顔を見合わせて悲しそうにしている。
「その貴族というのが、今回葵達が私に相談を持ちかけた、例の死体の所属している貴族の騎士団と同じなのよ」
「なるほどね。でも…それは解ったけどさ…もう1つ聞きたいのは、俺達とルチア、アリスティド様以外にランドゥルフ様とルクレツィオ様が何故ここに居るの?それが…」
俺がその続きを言おうとした時に、誰かの声が掛かった。
「その続きは私が説明しましょう」
そう言ってソファーに座っているルクレツィオの横に立つ男が語りかける。
その男は顔に大きな刀傷があり、身長もマティアス位ある屈強な男であった。
立ち振舞からしてかなりの実力者である事が解る。バルタザールの様な屈強のイメージではあるが、雰囲気は何処か違う様に感じられた。
「えっと…貴方は…」
「私は港町パージロレンツォの郊外町であるヌォヴォを統治させて頂いている、アガッツァーリ旅団の団長、カモラネージです」
そう言って頭を下げるカモラネージ。
マルガとマルコは、郊外町を支配していると聞いて、あのバルタザールを想像したのか、少し警戒しながらカモラネージを見つめていた。
カモラネージはそんなマルガとマルコを見て、フフと笑っている。
「聞いて頂いた通り、アリスティド様の配下の者から情報を得た事は理解して頂いた事と思います。実はあの様な集団で行われている人攫いは、数年前からあった事だったのです。私達は郊外町であるヌォヴォの統率を取る為に、その集団人攫い達と抗争を繰り広げてきました。その事は港町パージロレンツォの領主であるルクレツィオ様に報告させて頂き、郊外町の民を守る様に指示を受けておりました。私達もあの人攫い達の正体を突き止められないままでいたのですが、その時にアリスティド様のお話を聞いたのです。とある貴族が郊外町で人を攫って…何かをしている可能性があるとね」
カモラネージの話を真剣に聞いているマルガにマルコ。
先ほどまでカモラネージを警戒していたマルガにマルコは、バルタザールとは違う雰囲気を感じ取ったのか、その表情は先程とは違うものになっていた。
「当然私の領地であるヴェローナの郊外町を統治させている旅団の頭領にも話を聞いたが、王都ラーゼンシュルトや港町パージロレンツォ同様、数年前から人攫いが横行していたらしい。そして同じ様に、その正体を掴めないでいた。なので私はランドゥルフ卿とルクレツィオ卿に、今回の話を持ちかけたのだ。他の郊外町ではどうなのかとね」
「…そしてその結果、どの郊外町でも…集団で人が攫われていたと言う事が解ったのですね?」
リーゼロッテの言葉に頷くアリスティド。
「私がお前と初めて会った春先に港町パージロレンツォに居たのも、それが主だった理由だ。私の領地であるポルトヴェネの郊外町を統治させている旅団が、その貴族と何か良からぬ事をしていないかどうかを調べる為に、わざわざ公務を作ってポルトヴェネを空にさせた。その間に、そこのカモラネージにポルトヴェネの郊外町を統治させている旅団の事を調べて貰っていたと言う事だ。まあ…あの時は色々とあったがな」
俺にそう言って、少し楽しそうな顔をしているランドゥルフ。
そうか…あの時リーゼロッテの件だけで港町パージロレンツォに居た訳じゃ無かったって事か。
そりゃよく考えれば、同じ大都市である工業都市ポルトヴェネでも、奴隷をオークションする所位あるだろう。
それをわざわざ港町パージロレンツォに来てオークションに出す様な手間を、このランドゥルフがするはずはない。
「まあ…調べた結果、その貴族とは繋がりは無かった事が解ったのだがな。同じ様にその人攫いの集団と対立していた。後に話をして、その人攫い達を駆逐する様に指示を出したと言う訳だ。これで私とルクレツィオ卿がこの場に居る理由が解っただろう?」
「ええ、良く解りましたわランドゥルフ様」
リーゼロッテの涼やかな微笑みを見て、フンと鼻を鳴らしながら楽しそうにリーゼロッテを見つめているランドゥルフ。
そして、静かに腕組みしながら話を聞いて居たルチアが口を開く。
「貴方の事だから、大体の話の流れは解ってきたと思うわ。詳しい話は後でするから、先に葵の報告を直に皆に聞かせて欲しいの」
俺はルチアに頷き、今までの人攫いの件で得た情報を皆に話す。
そして、リーゼロッテから出された、死んだ人攫いの肩に入っていた隷属の紋章のスケッチを見て、腕組みをするアリスティド。
「…やはり…メネンデス伯爵家の騎士団、モリエンテス騎士団の者か…」
「その騎士団はどの様な騎士団なのですか?」
マルガが興味深げにアリスティドに質問する。
「メネンデス伯爵家はビンダーナーゲル伯爵家やクレーメンス公爵家と同じ派閥に属する、なかなか力を持った貴族よキツネちゃん」
そう言ってアリスティドの代わりにマルガに説明をするルチア。
「ビンダーナーゲル伯爵家と言えば…確かこのフィンラルディア王国の宰相である、ジギスヴァルト宰相の派閥で良かったですわねルチアさん?」
「その通りよエルフちゃん。そして、ビンダーナーゲル伯爵家、ジギスヴァルト宰相の管理している領地は、王都ラーゼンシュルト」
「ええ!?この王都ラーゼンシュルトって、王族が管理しているんじゃないのルチア姉ちゃん?」
ルチアの話を聞いたマルコが、驚きの声を上げる。
「このフィンラルディア王国は大国で、その国土も広いわ。王族はフィンラルディア王国全体の事を考えて行動しなければならないの。だから王族の公務は、大きな国の枠での事を考えているの。確かに、この王都ラーゼンシュルトはフィンラルディア王国1番の大都市だけど、国全体から見たら1つの都市と言う事なのよ。だから王都ラーゼンシュルトの管理はビンダーナーゲル伯爵家に任せて、王族は国全体の事を考え公務に当たる。これが数百年も前から続いて来たやり方なのよ」
ルチアの説明を聞いてなるほどと頷いているマルガにマルコ。
「…と、言う事は、今回の人攫いの件に関して…ビンダーナーゲル伯爵家、つまり、ジギスヴァルト宰相の関与が有ると言う事なのでしょうかルチアさん?」
リーゼロッテの直球の言葉に、部屋全体が静まり返る。
そして、可笑しそうに笑いながらアリスティドが口を開く。
「ハハハ。その様な事を証拠も無しに大っぴらに言えば、侮辱罪ですぐに処刑されてしまいますよエルフのお嬢さん。まあ、この場であるからそう言ったのは解っているがね」
「アリスティド卿の言う通りよエルフちゃん。私達も調査をしているけど、人攫いの件に関して、ビンダーナーゲル伯爵家、つまり、ジギスヴァルト宰相の関与の証拠は1つも無いわ。それどころか…今の所、メネンデス伯爵家の関与している証拠も、何一つ掴めないでいた位なのよ」
そのルチアの言葉を聞いたマルガは、ハイハイ!と右手をあげて猛アピールをしながら、ルチアに近づく。
「では、今回の人攫いの死体は、凄い証拠になるのでは無いのですかルチアさん!?だって死体には、メネンデス伯爵家のモリエンテス騎士団の隷属の紋章が有ったのですから!動かぬ証拠と言うやつなのです!」
フンフンと鼻息の荒いマルガの頭を、苦笑いしながら撫でているルチアは
「…それだけじゃダメよキツネちゃん。確かにその人物自体の関与は否定出来ないでしょうけど、モリエンテス騎士団、いいえ、メネンデス伯爵家全体の関与を証明するには至らないわ。もし、今その事を追求しても、個人のみが関与していたと言う事で処理されるだけよ。もっと確実な証拠を掴まなければ、無駄に終わると言う事ね」
「ハウウ…残念なのです~」
金色の毛並みの良い尻尾をショボンとさせ、余りにも残念そうなマルガを見て、皆がププッと笑う。
マルガは気恥ずかしそうにモジモジしていた。
「兎に角、私達のしなければいけない事は、人攫い達の目的を掴み、そして、メネンデス伯爵家が何を行い、何を企んでいるかを掴まなければいけいない。その結果、フィンラルディア王国の法に触れるのであれば、拘束して法廷でその罪を裁かなければならないと言う事だ」
アリスティドの厳粛な言葉に、マルガとマルコは静かにコクッと頷いている。
「葵達には、引き続き人攫い達の情報を集めて貰おう。私達には色々なしがらみもあるし、大ぴらに動けぬ事情も多々ある。だから秘密にして冒険者ギルドに依頼をしたのだからな。先に依頼を受けている者達と協力して、調査をしてくれ。勿論、ここからの報酬は別途支払う。幾ら欲しい?」
ランドゥルフがそう言い、ギラッとした視線を俺に向ける。
それに苦笑いしながらも、俺は以前から考えていた欲しい物をランドゥルフに告げる。
それを聞いたランドゥルフはククッと笑い、ルチアはハア~と大きな溜め息を吐く。
「…葵貴方ねえ…。本当に呆れるわ」
そのルチアの呆れ顔をみて、マルガとマルコがアハハと笑っている中で、リーゼロッテが嬉しそうに瞳を揺らし、俺の腕にギュッと抱きついていた。
その中で、ふと俺は疑問に思う事をルチアに聞いてみた。
「そう言えばルチアさ…前に俺達と話して依頼の内容を聞いた時に、何故この事を俺達に言ってくれなかったの?そうすれば…」
俺が話を続け様とすると、マティアスが俺の傍に近寄り耳打ちをする。
「…葵殿。ルチア様は…この様な事に皆さんを、巻き込みたく無かったのですよ」
そうか…ルチアは国のゴタゴタに、俺達を巻き込みたくは無かったんだ。
そう言えばルチアは、依頼を変えて貰う様にとか、辞めればと言う様な事を言っていた。
恐らく、俺達が沢山ある冒険者ギルドの依頼から、この依頼を受けるとは思っても見なかったのだろう。
以前マリアネラからこの依頼は、冒険者ギルド、王都ラーゼンシュルト支店の長である、アベラルド支店長から直接依頼を受けたと言っていた。
アリスティド卿達の事だから、アベラルド支店長に、信用の出来る人物をこの依頼につけて欲しい事を、言っている事は容易に想像出来る。
そして、信用の出来るマリアネラ達が選ばれ、マリアネラからの応援の要請に、同じく港町パージロレンツォの支店の長であるアガペトからの推薦状を持ってきた俺達が、その条件に合うとしてたまたま選ばれてしまったと言う訳か…
俺がそんな事を考えながらルチアを見ると、少し頬をプクッと膨らませていた。
「…本当に頑固で、間が悪いんだから…」
「うん?何か言ったルチア?」
「何も言ってないわよ!この色狂い!」
そう言いながらプリプリしているルチアは、俺の傍に近寄る。
「…葵。解ってると思うけど、十分に注意してね。相手はフィンラルディア王国でもなかなかの力を持った貴族。何をしてくるか解らないわ。危険だと感じたら、すぐさま依頼を放棄しなさいよ。放棄しても報酬は支払ってあげるから…無茶は…しないでよ?」
そう言って少し不安そうな顔をするルチア。
「…解ってるよルチア。ありがとね」
そう言ってルチアの肩に手を置くと、フンと言ってソッポを向くルチア。
「それから葵、貴方が人攫いから外したその自滅の腕輪だけど、メーティス先生に見て貰いなさい。メーティスならひょっとしたらマジックアイテムから何か情報を掴めるかもしれないわ」
「解ったよルチア。帰ったらメーティスさんにこの自滅の腕輪を見て貰う事にするよ」
俺の言葉に頷くルチア。
「では打ち合わせ通りにと言う事で宜しいですかな皆さん?何か有ればすぐに報告しあって、対処すると言う事で」
アリスティドの言葉に頷く一同。
「じゃ~俺達は一度宿舎に帰るよ。皆と相談もしたいしね」
俺達は皆と挨拶を交わして部屋を後にする。
そして、宿舎のあるグリモワール学院の門をくぐり宿舎の前に来た時に、ユーダとエマとレリアが楽しそうに鳥に餌を上げていた。
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「鳥に餌を上げているんだね」
「あ!大切な食料を鳥に与えてはダメでしたか?」
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「あ!別にいいですよ。気にしないで下さい。エマも喜んでいますし、マルガや他の皆も、結構動物好きな子が多いので。好きにして下さい」
俺の言葉に、嬉しそうな顔をしているユーダ。エマもキャキャとはしゃぎながら、鳥達と戯れていた。
「とりあえず皆と相談したい事があるから集まってくれる様に言ってくれるユーダ?」
「解りましたわ葵さん」
優しい微笑みを俺に向けるユーダは、小走りに宿舎に入っていく。
「じゃ~俺達も宿舎に入ろうか」
俺達は宿舎に入って行くのであった。
ここは豪華な部屋の一室。
その部屋で大きな声が上がる。
「ヒュアキントス!例の行商人が、我らの事を調べだしたと言うのは、どういう事だ!」
怒涛に近い言葉を浴びせられるヒュアキントスは、一切表情を変えずに男に向き直る。
「はい、どうやら自滅のマジックアイテムが不具合で、人を攫わせていた者の死体が残ってしまった様です。何故マジックアイテムが発動しなかったのかは解りませんが」
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「…解った。その様に進めよ。くれぐれも失態の無い様にな!」
そう言い放った男は、豪華な部屋を足早に出ていく。
それを見て軽く溜め息を吐くヒュアキントス。
「…お前などに言われなくても、事は進んでいる。馬鹿な奴め…」
小声でそう呟いたヒュアキントスは、窓の外に視線を向ける。
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