愚者の狂想曲☆

ポニョ

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2章

愚者の狂想曲 44 人攫い達の襲撃

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翌日、俺達は昨日ルチアから言われた通り、人攫いから得た自滅のマジックアイテムを、メーティスに見て貰うた為に、グリモワール学院の本館の最上階に来ていた。そして豪華な扉をノックする。



「アルベルティーナ学院長、葵です。入っても良いですか?」

「どうぞ~。お入りになって下さい」

その声に扉を開けて部屋の中に入って行くと、執務机に座って書類に目を通していた顔をこちらに向け、優しく微笑むアルベルティーナ。俺達は挨拶を交わし、机の傍まで行く。



「よく来ましたね葵さん。今日はどうしたのかしら?」

「ええ、今日はメーティスさんに用がありまして。アルベルティーナ学院長なら、メーティスさんがどこに居るか知ってるんじゃないかと思いまして来ました」

俺の言葉を聞いたアルベルティーナは、机の端の何も無い所に視線を向ける。



「…葵さん達はメーティス統括理事にお話があるみたいですよ?」

「…聞こえてるわよアルベルティーナ」

その声と同時に、何も無いはずの机の端に姿を現すメーティス。それを見てビクッと驚いているマルガにマルコ。

メーティスは机に座りながら、艶めかしい身体を見せびらかす様に美しい足を組み、マルガやリーゼロッテに勝るとも劣らない美しい顔に微笑みを湛えていた。



「恋人の私に会いに来てくれたの葵ちゃん?嬉しいわ~」

「恋人ではありませんが…メーティスさんに用があって来ました」

「あら何かしら?私に用だなんて。…結婚の申し込み?」

ニコニコと微笑むメーティスは俺の傍までやって来ると、その艶めかしい身体を味合わせる様に俺に腕組みをする。

メーティスにドキッしている俺を見たマルガは、アワアワしながら俺に腕組みをするメーティスを引き離そうと、メーティスの腕をうんしょと引っ張っている。



「冗談はそれ位にして、メーティスさんに見て欲しい物があるのです」

俺とメーティスとマルガの3人を、楽しそうに見ていたリーゼロッテが、アイテムバックから自滅のマジックアイテムを取り出す。

マルガに俺から引き離されたメーティスは、リーゼロッテから自滅のマジックアイテムを受け取る。



「このマジックアイテムの腕輪がどうかしたの葵ちゃん?」

「このマジックアイテムの腕輪の事を調べて欲しいのです。どこで作られたとか、誰が作ったとか解ったらありがたいのですけど」

俺の言葉を聞いたメーティスは、少し考え俺に向き直ると



「それは…この前依頼を受けた、人攫い達の事を調べている事に、関係する事なの?」

「あれ?俺メーティスさんに、冒険者ギルドで依頼を受けた事言いましたっけ?」

俺が思い出しながら少し考えているのを見て、ニコニコしているメーティス。



「…また姿を消せる魔法のミラージュコートを使って、宿舎に忍び込んでたのでしょうメーティスさん?」

「忍び込むだなんて…非道いわ。一緒にお風呂に入った仲じゃない」

メーティスのその言葉を聞いたマルガは、猛ダッシュで俺の傍に来る。



「ご…ご主人様!いつメーティスさんと一緒にお風呂に入られたのですか!?お風呂に入って何をされたのですか!?」

マルガはアワアワしながら、ねえねえどうなのですか!?と、俺の腕を握り、ブンブンと上下に揺らす。



「マ…マルガ落ち着いて!いつも一緒にお風呂に入ってるでしょ!?メーティスさんは居なかったでしょ?!?メーティスさんも適当な事を言わないで下さい!」

俺の慌てながらの言葉を聞いて、そう言えばと言いながら、コクコクと頷いているマルガ。



「…本当につれないんだから。湯浴み場では、その子達にあんな事をしてるくせに…」

そう言って艶かしい微笑みを向けるメーティスの言葉を聞いて、マルガはボッと赤くなってモジモジして、マルコも少し赤くなりながら、ボクチャンな所を押さえていた。



まさか…湯浴み場での事を全て見られちゃってた!?

そう言えば…たまに湯浴み場で、女性の衣服が一組多く脱ぎ捨ててある時があった。

俺はてっきりマルガ達の誰かの物だと思っていたけど…あれはメーティスさんの物だったのか!

ミラージュコートを使って…湯に浸かりながら…俺達の事を見ていたの?…ウウウ…オラ…ハズカチイ!



「…今度そんな事したら、訴えますからね!それと遊びに来る時は、ミラージュコートを使わずに、普通に来て下さい」

「解ったわよ葵ちゃん~。…照れ屋さんなんだから」

「て…照れてません!」

俺の慌てながらの言葉を聞いて、嬉しそうにフフフと口に手を当てて笑っているメーティス。

俺とメーティスを見て呆れ顔をしているアルベルティーナは溜め息を吐きながら



「メーティス統括理事、そろそろマジックアイテムの腕輪を見てあげたらどうですか?」

「…解ってるわよアルベルティーナ。本当に真面目なんだから…」

メーティスは小声でブツブツと言いながら、識別の魔法をマジックアイテムの腕輪に当てる。



「…なるほどね。このマジックアイテムの名前は自滅の腕輪ね。闇属性の呪い系の効果を持っていて、これを装備した者は、気絶、死亡、意識を奪われる等が装備者に起こると、炎を召喚して装備者を焼きつくす見たいね」

「そうみたいですわ。効果の方は、実際に倒した人攫い達が、全て焼かれて炭になるのを見ていますので解ります。その自滅の腕輪の出処がどこか…解りません?メーティスさん」

リーゼロッテの言葉に、顎に手を当てて少し考えるメーティス。



「…そうね。この自滅の腕輪は闇属性で作られているわ。知っての通り、闇属性の魔法を扱うのには、国の厳正な許可を貰った者のみ。一般人は使う事を許されてはいないわ。この王都ラーゼンシュルトで、闇属性の魔法の使用許可を持っている者はそこそこ居るけど、こんなマジックアイテムを数多く作っている者の心当たりは無いわね」

「では…出処は解らないのでしょうか?」

リーゼロッテの言葉を聞いたメーティスは、自滅の腕輪を見ながら



「…王都ラーゼンシュルト周辺では居ないけど…魔法都市カステル・デル・モンテの魔導師達なら…作っている可能性が有るわね」

「…魔法都市カステル・デル・モンテ…ですか?」

マルガは可愛い小首を傾げながらメーティスに聞き直す。



「そう、魔法都市カステル・デル・モンテ。フィンラルディア王国の六貴族の1人、アーベントロート候爵が治める大都市よ。魔法都市カステル・デル・モンテには沢山の魔導師や魔法使い達がいて、数多くの様々な種類のマジックアイテムが作られて、国中に売りだされているわ。こと魔法の技術だけを見れば、このグリモワール学院に勝るとも劣らない技術を持っているしね。魔法都市カステル・デル・モンテには、闇属性の魔法の使用許可を貰っている魔導師も沢山いるし…その中の1人に発注している可能性は有るわね」

そう説明してくれたメーティスは、自滅の腕輪をアルベルティーナに手渡す。



「アルベルティーナその自滅の腕輪の事を調べておいて」

「解りましたメーティス統括理事。魔法都市カステル・デル・モンテに住む友人に聞いてみます」

「そういう事だから、少しの間この腕輪を借りるわよ葵ちゃん」

メーティスの言葉に頷く俺。



「所でその依頼の件は、どんな感じになってるの葵ちゃん?」

メーティスはソファーに座り直し、美しい足を組む。



「ま…メーティスさんとアルベルティーナ学院長になら…話してももよさそうですね」

俺は今までの依頼に関する事を説明する。

俺の話を聞いたアルベルティーナとメーティスは顔を見合わせていた。



「なるほど…メネンデス伯爵家がねえ…」

そう言いながら何か思い当たるふしの有りそうなメーティス。それを感じたリーゼロッテがメーティスに



「何か…知っている事でもおありなのですかメーティスさん?」

「…いえ、そうじゃないわリーゼロッテ。実はね、宿舎で貴方達の依頼の話を聞いて、少し気になったから私も調べに行ったのよ。…でもね、すぐに見つかっちゃったんだけどね」

そのメーティスの言葉を聞いたマルガが驚きながら



「ええ!?姿と気配を消せる魔法のミラージュコートを使っても、バレちゃうのですか?」

マルガにマルコは顔を見合わせながら困惑していた。



「姿と気配を消せるミラージュコートは、確かに便利な魔法だけど、マスタークラス、つまり、LV100以上の感知スキルを持った者や、戦闘職業に就いている者には、魔力で感知されてしまうのよ。郊外町の中でミラージュコートを使って姿や気配は消せても、魔力で感知される。魔力を持たない一般市民の多い郊外町で、魔力を放出しながら歩いている人なんて、感知出来る者からしたら不自然きまわりないしね」

メーティスの説明にコクコクと頷くマルガにマルコ。



「私がバレちゃったから、郊外町の者に変装させた私の部下を送り込んだのだけど…その部下迄バレてしまったわ。隠密組織を持つ、ハプスブルグ伯爵の手の者でも情報を掴めない位の相手ですものね。どんな相手かと思っていたけど…メネンデス伯爵家の者だったとはね」

「そんなにメネンデス伯爵家の騎士団は、手練揃いなの?メーティスさん」

マルコの言葉を聞いたメーティスは静かに頷く。



「そうね。実力だけなら、六貴族のお抱え騎士団達と同じだと思うわ。特に団長のルードヴィグは、バルテルミー侯爵家、ウイーンダルファ銀鱗騎士団の副団長のイレーヌと、互角に戦える位の実力を持っているしね」

「あのイレーヌさんとですか!?」

メーティスの言葉を聞いたマルガにマルコは、顔を見合わせてポカンと口を開けていた。



イレーヌのLVは185だったはず。ハイマスタークラスだ。

そのイレーヌと同等の実力を持つ人物が団長の騎士団か…。

六貴族お抱え騎士団と同等の実力を持つ騎士団が相手じゃ、簡単に情報が掴めないのも頷ける。



「…兎に角、腕輪の方は調べてあげるから、貴方達も注意しなさい。まだそうと決まった訳じゃないかもしれないけど、モリエンテス騎士団の関与があるなら…一筋縄では行かないわ」

メーティスの言葉に緊張した面持ちで頷くマルガにマルコ。



「解りました十分に注意しますメーティスさん。では、腕輪の件で何か解りましたら教えてください。僕達はこれから、先に依頼を受けている人達の所に行って来ます」

「また…郊外町を調査するの葵ちゃん?」

「いえ、今日は人攫い…モリエンテス騎士団の隷属の紋章をつけていた死体を、その人達と一緒にハプスブルグ伯爵家の別邸に運ぶ事になっているんです」

「そう、解ったわ。もし、何かあったら、すぐにこのグリモワール学院に逃げ込みなさい。この学院には、私直属の部隊を常駐させているから。…私の軍団も、六貴族のお抱え騎士団には、引けをとらないから」

そう言って優しく微笑むメーティス。マルガにマルコも安堵の表情で微笑んでいる。



「解りました。では、行ってきます」

「行ってらっしゃい葵ちゃん。恋人の帰りを健気に待っているわ」

「…別に待っていなくていいですよ?」

「…本当に?」

その妖艶な身体を俺に重ねるメーティス。

メーティスの女体の柔らかさにドキッとなっている俺は、マルガにズルズルと引きずられて、理事長室を出ていくのであった。













「そろそろ時間だね、ゴグレグ、ヨーラン準備はいいかい?」

「ああ、問題ない」

「こちらも大丈夫じゃよマリアネラ」

マリアネラの言葉に頷くゴグレグとヨーラン。それを心配そうに見つめていたジェラードが口を開く。



「マリアネラ…貴女の頼みであったのでその遺体を預っていましたが…葵さんの話も考えると…何か危険な予感がします。もう…その依頼を放棄した方が良いのではありませんか?」

ジェラードの言葉を聞いたマリアネラは、ニコッと微笑み



「心配してくれてありがとうジェラード。だけど、この依頼はアベラルド支店長からの直々の依頼でもあるし、報酬も良いからね。きちんと依頼をやり遂げたいんだよ」

「貴女の気持は解りますが…出来れば貴女には、危険な冒険者等は廃業して私の手伝いをして貰って、ヴィンデミア教…女神アストライア様の為に、一緒に力になって欲しいのですがね」

「…解ってるってジェラード。私だって色々考えているよ。だけど…もう少し…ね」

そう言って優しく微笑むマリアネラを見て、軽く溜め息を吐くジェラード。



「解りました。…全く頑固なのですから貴女は」

ジェラードの呆れ顔を見て苦笑いしているマリアネラ。



「まあ、この人攫いの遺体をハプスブルグ伯爵家に運ぶだけだし、郊外町の入り口で葵達と待ち合わせてもいるしさ。それに何かあったら、王都ラーゼンシュルトの中に逃げこむしさ。流石の奴らでも、王都ラーゼンシュルトの中では、何も出来やしないさ」

「…そうだと良いのですけどね」

少し寂しそうに言うジェラードの肩に、そっと手を置くマリアネラ。



「大丈夫さ…じゃ行ってくるよジェラード!」

「…行ってらっしゃいマリアネラ。貴女に女神アストライア様の加護があらんことを」

ジェラードの祝福の言葉に、ニコッと微笑むマリアネラは、教会の外に出て用意してあった馬車に人攫いの遺体を乗せる。



「ヨーランよろしく」

マリアネラの言葉に頷くヨーランは、馬の手綱を握り馬車を進める。

場所の荷台に乗っているマリアネラとゴグレグは、周辺の警戒をしながら、いつでも戦える様に注意を払っていた。

郊外町の細い路地をゆっくりと進む荷馬車は、以前葵達が人攫い達と戦った十字路の辺りに差し掛かった。

いつもならこの町に来た冒険者などの往来が多いこの十字路であったが、今日は何故かその喧騒はなく静まり返っていた。

それを不思議に思っていたマリアネラが、辺りを見回し始めた時であった。

ヨーランの操る馬に、高速で何かが飛んできた。



「ヒヒイイン!!!」

高い声を上げる馬の頭に、弓矢が刺さる。

明らかに即死だと解る馬は、頭から血を流しながらドッと地面に倒れてしまう。



「敵だよ!ヨーラン!ゴグレグ!」

マリアネラの甲高い声を聞いたヨーランとゴグレグは馬車から降り、武器を身構える。

マリアネラも馬車から降り、武器を構え隊列を組むと、十字路のそれぞれの方向から、1人ずつ行く手を遮る様に人影が見えた。



「なんだい、いつもはこっちから探し回らないと見つけられないのに、今日はそっちから来てくれたのかい。…探す手間が、省けたってもんだね!」

マリアネラが短剣の切っ先を、人攫いらしき男に向けながら不敵に微笑む。

そんなマリアネラを見た男は、ククッと軽く嘲笑っていた。



「…気に入らないねその笑い。…すぐに笑えなくしてやるよ!」

マリアネラは声高にそう叫ぶと、両手に短剣を構え、高速で男に向かって跳躍する。

そして、その両手の短剣で斬りつけるが、男はそれを苦もなく紙一重で躱すと、マリアネラの腹に蹴りを入れる。

その衝撃に、呻き声を上げながら地面に飛ばされるマリアネラ。

腹を抑えながらヨーランに起こされるマリアネラは、キッと男を睨む。

男はそんなマリアネラを楽しそうに見つめながら、右手をあげる。それを合図に、他の男達が一斉にマリアネラ達に襲いかかる。



「隊列を組み直すよ!」

マリアネラの鬼気迫る言葉に、武器を構え直すヨーランとゴグレグ。



「グフッ!」

短い声を上げるゴグレグ。

高速で斬りつけた剣が、ゴグレグの右肩を貫いていた。



「この!ゴグレグから離れろ!」

ゴグレグに剣を突き刺している男にマリアネラが斬りかかるが、ゴグレグを相手にしながらもマリアネラの高速の短剣を躱すと、マリアネラに蹴りを入れて弾き飛ばす男。



「グウウ…しつこい!ウォーターブレス!!」

ゴグレグは男に向かって全力のブレスを吐きかける。

近距離のゴグレグのブレスは流石に危険だと判断したのか、ゴグレグに突き立てていた剣を抜き、一瞬で距離を取る男。

人攫いらしき男達は隊列を組み直すと、武器をマリアネラ達に向けて身構えていた。

マリアネラ達も隊列を組みなおし、男達に対峙する。



「ゴグレグ、肩は大丈夫かい?」

「…かなり深いが…戦えぬ訳ではない」

「今治癒の魔法をかける。暫く待つのじゃ」

ヨーランは魔法の詠唱を始めると、治癒の魔法をゴグレグの肩にかけていく。

ヨーランの魔法で肩の傷が塞がっていくゴグレグは、グルリと肩を回す。



「詠唱の短い緊急用の治癒魔法じゃから、全快とはいかんぞゴグレグ?」

「…4割回復と言った所か。助かったヨーラン」

ゴグレグの言葉に頷くヨーランは男達に視線を移す。



「しかし…まずいの。こやつらは今までの人攫いの奴らとは段違いじゃ。ワシらだけでは荷が重すぎる」

ヨーランの言葉にキュッと唇を噛むマリアネラ。



「…だね。馬車は放棄して、積んである遺体を担ぎながら、王都ラーゼンシュルトまで撤退するよ!」

マリアネラの言葉に頷くゴグレグは、遺体を馬車から回収しようと跳躍して、馬車の手前で急停止する



「ファイアーハリケーン!!!」

火と風の混合上級魔法が、炎の嵐となって遺体を載せた馬車を包こみ、全てを燃やしていく。



「しまった!遺体が!」

「あれではもう遺体はダメじゃ!放棄して撤退するのじゃ!」

ヨーランの言葉に頷くゴグレグとマリアネラ。

事も無げに混合上級魔法を1人で放った男は、再度魔法の詠唱を始めていた。

それに危機感を感じたマリアネラ達は、全力で十字路を抜けようと駆け出すが、その先に当然の様に待ち構えていた男の追撃を受ける。

マリアネラとゴグレグを相手にして尚、余裕のある男の後ろから、別の男がマリアネラを斬りつけた。



「グッ!!!」

短い声を上げるマリアネラは脇腹を斬られ出血していた。そんなマリアネラに追い打ちを掛ける男は、ロングソードを動きの鈍ったマリアネラ目掛けて振り下ろそうとしていた。



「マリアネラ!しゃがむのじゃ!」

ヨーランの声に咄嗟に身を屈めるマリアネラの頭上を、光属性の攻撃魔法、ライトボールが高速で男に向かって飛んでいく。

少し顔を歪める男であったが、その男の腕が赤く光ると、その光りに包まれた腕でライトボールを弾き飛ばした。

その次の瞬間、男はマリアネラとゴグレグに強烈な蹴りを入れる。

蹴り飛ばされたマリアネラとゴグレグは、再び十字路の中央に戻されているのに気がつく。

地面に蹲るマリアネラとゴグレグの元に戻って来たヨーランは、脇腹から出血しているマリアネラに、緊急の治癒魔法を施していた。



「クソ!私達をここから出さないつもりかい!」

「ここで俺達の事を…始末するつもりなのだろう」

ゴグレグの言葉に、顔を歪めるマリアネラ。

人攫いの男達は4人。それぞれが自分達よりはるかにLVが高い強者であると言う事が、戦闘を通じてひしひしとその身に感じられる。

その絶望感にギュウウと握り拳に力を入れるマリアネラ。



「…こんな所で…死ぬ訳には行かないんだよ!私にはまだやりたい事があるからね!」

ヨーランの緊急の治癒魔法によって、少し回復したマリアネラが、フラフラしながら立ち上がる。

そして両手の短剣を人攫いの男達に向ける。

それを楽しそうに見つめている男達は、一斉にマリアネラ達に襲いかかってきた。



陣形を組み直しているマリアネラ達ではあったが、男達の見事な連携に、一瞬で陣形を崩されてしまう。

マリアネラは体中を斬られ、夥しく出血し、そのマリアネラを庇っているゴグレグも、腹と肩を大きく斬られ、片膝をついていた。

血を流しながら、もう殺されるのは時間の問題だと、マリアネラやゴグレグが感じていた時であった。

ヨーランの身体が茶色の激しい光を放つ。

次の瞬間、地面が割れると、そこから木の根の様な物が出現し、男達4人の体中に絡みついた。

その木の根の様な物に動きを鈍らせられる男達4人。男達は木の根を持っている武器で斬るが、瞬く間に再生し、再度男達に絡み付いていく。



「今じゃ!ワシが術でこやつらの動きを封じ込めている間に逃げるのじゃ!」

「に…逃げるって…ヨーランはどうするつもりなのよ!」

鮮血を流しながら、ヨーランの言葉に動揺しているマリアネラ。



「ワシはこの術を発動させてるから動けん!2人で逃げるのじゃ!」

「そんなの出来ないよ!ヨーランを置いて逃げる位なら、ここで一緒に戦って死ぬ!」

「馬鹿な事を言うでないマリアネラ!お前にはやりたい事があるのであろう!?ならば、死んではならぬ!ゴグレグ!マリアネラを頼む!」

ヨーランの声を聞いたゴグレグは静かに頷くと、血を流しながらも動けないマリアネラを抱え上げる。



「は…離せ!ゴグレグ!私はまだ戦うんだ!」

ゴグレグに担がれているマリアネラはジタバタと暴れるが、戦闘で受けた傷のせいで、ゴグレグの腕力から逃れる事は叶わなかった。



「…ゴグレグ。マリアネラの事を…頼んだぞ」

「…解った。すまないヨーラン…」

ゴグレグは呟くようにそう言うと、マリアネラを担ぎながら十字路を王都ラーゼンシュルトに向かって走りだした。



「いやだ!ヨーランーーーー!!!!!」

ゴグレグに担がれながら遠くなって行く、必死に叫び手を伸ばすマリアネラを、優しく見守る様な瞳で見つめるヨーラン。



「…これが噂に聞く、ノーム族の秘術、地縛りの霊樹か?最近では使える者の居ないと聞いていたが…まさかお前が使えたとはな」

ヨーランの術に縛られながらも不敵に笑う男。



「ホホホ。なんじゃ口をきけるのじゃな。いつも何も言わんから、口までマジックアイテムで封じられとると思っておったわ」

術を発動させながら皮肉に笑うヨーランの言葉を聞いて、ククッと笑う男。



「ノーム族の秘術、地縛りの霊樹は膨大な魔力を使うと聞く。お前LVの奴がその秘術を使える事には驚くが…お前は魔力量自体は、LV相当の量しか無いと見た。…長くは、私達を拘束出来ぬであろう?」

ニヤッと寒気のするその笑いを見たヨーランは、ホホホと楽しそうに笑う。



「…普通の奴らであれば、この術で絞め殺す事も出来るのじゃがな。お前たちを絞め殺すには…残念じゃが威力が足らぬ様じゃ。ま…マリアネラとゴグレグが、王都ラーゼンシュルトに駆け込める位の時間は、稼ぐ事は出来るじゃろう」

「…己の身を犠牲にしてまで…あの者達を救う価値があったのか?」

「ホホホ。人を攫って何かをしておるお前等などには解るまい。…マリアネラは私の娘の様なものじゃ。一緒に冒険や旅をする中で、あの2人には実に色々な物を貰った。それだけで十分じゃ。それに、私は長く生き過ぎた。この辺りで、幕を引くのも良いじゃろうて」

一切の揺るぎのないヨーランの言葉を聞いて、フッと笑う男。



「…なるほど、上級亜種であり、寿命の長いノーム族らしい卓越した言葉だな。…貴様の魔力が尽きるのが楽しみだ」

ギラッした瞳をして笑う男を見て、フッと笑うヨーラン。

どれ位男達を拘束していたか解らないが、ヨーランの額から汗が流れだす。

そしてそれを合図に、ヨーランを包み込んでいた茶色の激しい光が消え去ってしまう。

全ての魔力を使い果たしたヨーランは、その場に四つん這いになって蹲る。術が消滅し、身体の自由を取り戻した男達は、一斉に手に持つ武器で襲いかかる。



「…グフッ…」

短い声を上げ、口から血を吐くヨーラン。

ノーム族特有の小さな体には、4本のロングソードが急所に貫かれ、夥しい血を吹き出させていた。

即死に近いその斬撃を受けて、ドッと地面に倒れるヨーラン。地面にみるみる血だまりができていく。



「クソが!時間をとらせやがって!」

男の中の1人が、既に事切れたヨーランの死体の腹を蹴り上げる。

うつ伏せだったヨーランの亡骸は、蹴られた勢いで仰向けになった。

仰向けになったヨーランの顔は、実に満足そうな顔で、一切の曇りのない様に感じられるものであった。

そのヨーランの顔を見た苛立った男の1人が、再度ヨーランの亡骸を蹴り上げ様として、別の男に止められる。



「もういいやめろ。こんな事をしている時間は無い。あちらには彼奴等が居ると思うが、俺達もすぐに後を追うぞ」

リーダーらしき男の言葉に、チッと舌打ちする男は頷く。

そして、王都ラーゼンシュルトの方に向かって跳躍を始める男達。

戦闘の終わった静まり返っている、郊外町の十字路の中心で、満足そうに天を仰ぐヨーランの亡骸には、秋晴れの少し肌寒い光が射していた。











「今日はマリアネラさん達遅いですね~ご主人様~。いつもなら時間通りに来るのに。待ち合わせの場所を間違えたのでしょうか?」

マルガは可愛い小首を傾げながらウ~ンと唸って、マルコと顔を見合わせていた。

それを見て優しく微笑むリーゼロッテ。



「待ち合わせの場所は、ここであってますわマルガさん。マリアネラさん達にも色々と準備に時間がかかっているのかも知れませんわ」

「リーゼロッテの言う通りだね。もう暫くここで待ってみよう」

「「は~い!」」

声を揃えて返事をするマルガとマルコを微笑ましく思いながら、マルガの頭を優しく撫でていると、リーゼロッテが辺りをキョロキョロと眺めているのが気になった。



「リーゼロッテどうしたの?何か気になる事でもあるの?」

「…はい。今日はやけに辺りが静かだと思いまして…」

そう言いながらまた周りを見渡しているリーゼロッテ。



そう言えば、今日は静かだ。

いつもならこの郊外町の入り口には、様々な人の往来があり、喧騒に包まれている。

しかし今日はその喧騒はなく、人が歩く姿さえ見当たらない。

まるでこの郊外町の入り口には、俺達しか居ない様な感じさえ漂っていた。

俺もそれを不思議に思い、辺りを見渡し出した時であった。マルガが可愛い鼻をスンスンとさせ、耳をピクピクと動かし始めた。



「ご主人様!血の臭いがします!」

マルガのその声を聞いたと同時に、少し離れた路地から何かが飛び出し、地面に転がった。

そして地面に蹲って居るその人影に近づいて、俺達の表情は一変する。



「マ…マリアネラさん!?それにゴグレグさんじゃないですか!」

俺は思わず驚きの言葉を上げる。マルガもマルコも同じ様に驚いていた。

そこには地面に蹲って、体中斬られて血だらけになっているマリアネラとゴグレグの姿があったからだ。

しかも、ゴグレグは微かに意識が有る状態で、マリアネラに至っては出血が多すぎたのか、既に意識を失っている。



「マルガ!リーゼロッテ!至急2人に治癒魔法を掛けて!」

「解りました!ご主人様!」

「了解ですわ葵さん」

俺の甲高い声を聞いたマルガとリーゼロッテは、マリアネラとゴグレグに治癒魔法を施していく。

顔色の青かったマリアネラの顔に、少し赤みがかかってくる。マルガの治癒魔法が効いてきたのであろう。

そして、リーゼロッテに治癒魔法を掛けて貰っていたゴグレグが微かに口を開く。



「に…逃げろ葵殿。や…奴らが…追ってくる…は…早く…王都の…中…に」

「一体どうしたんですかゴグレグさん!?」

ゴグレグを抱きかかえながら言う俺。

ゴグレグは今迄相当無理をしていたのか、意識を失ってしまった。

俺は何かヤバイ事になったのだと理解し、マルガ達にマリアネラたちを運び、王都ラーゼンシュルトの中まで撤退命令を出そうとした時であった。民家の屋根の上から低い声が聞こえる。



「何故そいつらがここに居るのだ?…チッ…奴らめ…いらぬ仕事を増やしてくれた様だな」

その声に民家の屋根の方に振り向くと、覆面を被った4人の男達が、俺達を見下ろしていた。

男達の出で立ちを見て、あの人攫い達であると認識するのに時間は掛からなかった。

それを理解したマルガ達は、すぐに武器をアイテムバッグから取り出し装備し身構えていた。

俺達が陣形を組んで身構えているのを見て、ククッと笑いながら屋根から飛び降りる男達。



「まあ良い。どちらにしろ…簡単な仕事なのだからな!」

そう言い放った4人の内の一人の男が、一瞬でマルコに間合いを詰める。

マルコはその早さに対応出来ず、男の蹴りをまともに食らって、民家の壁に大きな音を立てて衝突する。地面に蹲っているマルコ。



「マルコちゃんをよくも!」

マルガは風属性の移動強化魔法であるエアムーブを発動させて、素早く男に大熊猫の双爪で斬りかかるが、それを苦もなく躱す男は、マルガにも強烈な蹴りを入れる。

マルガは何とかそれを大熊猫の双爪でガードしたが、マルコと同じ様に壁に飛ばされ衝突する。



「マルガ!貴様!!」

俺は一瞬で闘気術を発動させる。俺の身体は薄紅色のオーラで包まれる。

身体強化をされた俺は、名剣フラガラッハで男を斬りつける。

しかし、俺の剣速に瞳をきつくする男の身体から、淡黄色に光るオーラが発せられ、俺の剣先は空を切り、男の体に触れる事はなかった。男は気戦術を発動させて、一瞬で仲間の元まで戻っていた。

リーゼロッテに起こされたマルコとマルガは、むせながら陣形を組み直す。



「葵さん、あの人達の情報を」

リーゼロッテの言葉に頷く俺は男達を霊視して、背中に寒気がするのを感じる。



「LV102のソリッドファイター、LV99のアサシン、LV100のマジックハンター、LV98のマジックスカウトの計4人!スキルもかなりやばい物を持ってる!」

俺の言葉を聞いたマルガにマルコは、ギュウと手に持つ武器を握りしめ、顔を歪めていた。



あの盗賊団の頭であったギルスクラスの奴らが4人。そのすべてがマスタークラス。

今の俺達の実力では、一瞬でやられてしまうのは明白。

俺の強張る雰囲気を感じて、マルガにマルコも緊張が走っている。

その中でリーゼロッテが俺達より一歩前に出て、綺麗な声で叫ぶ。



「皆さん目と耳を塞いでください!」

そう言い放ったリーゼロッテは、一瞬で召喚武器である2体の人形、ローズマリーとブラッディーマリーを召喚すると、別々の方向から人攫いの男達に向かって何かを投げつけた。

その玉の様な物が地面に触れた瞬間、激しい音と光が発せられ、辺りを黒い煙が充満する。



「今です!王都迄逃げますよ皆さん!マルガさんとマルコさんは、マリアネラさんを!私はローズマリーとブラッディーマリーでゴグレグさんを運びます!」

リーゼロッテのその指示に頷き、皆が王都に向かって全力で走り出す。



「リーゼロッテ、さっきのは何?」

走りながらの俺の問に、同じ様に走りながらニコッと微笑むリーゼロッテは



「あれは私が調合のスキルを使って作った、撤退用の煙玉ですわ。こういう時の為に、用意しておいたのです」

「流石リーゼロッテ!助かったよ!」

俺の言葉に、嬉しそうに頷くリーゼロッテ。

あの煙玉は、スタングレネードとそう変わらない威力はあった様に思う。

如何にマスタークラスの彼らでも、あれをまともに食らったら、暫くは追ってこれないであろう。



実力差だけではなく、こちらには戦闘不能の気絶しているマリアネラとゴグレグモいるのだ。

2人を守りながら、あのマスタークラスの4人組みと戦うなんて、無謀すぎる所であった。

リーゼロッテの起点の早さと、行動力に感謝しないと。

そんな事を考えながら走っていると、マルコが嬉しそうに声を上げる。



「見えた!王都ラーゼンシュルトの門だよ!あそこに行けば守備隊が居るから、助かるよ!」

嬉しそうに叫ぶマルコを見て、皆が安堵の表情で頷く。

俺達は門の傍に有る詰所に、一目散に駆け込む。



「助けてください!賊に追われています!」

詰所の扉を開けるなりそう叫んだマルコであったが、マルコの叫びに応える者は居なかった。



「あれれ!?いつもここには守備隊の人が居るのに…」

マルガが詰所の中をキョロキョロしながら首を傾げていた。



「そう言えば…門の外にも守備隊の人は居ませんでしたね…」

リーゼロッテは顎に手を当てながら、何かを考えていた。

その時、マルガがバッと俺に振り返る。



「ご主人様!さっきの人達が、こっちに向かって来ています!早くここから逃げないと!」

マルガのその叫びを聞いた皆は詰所から出て、王都ラーゼンシュルトの中に向かって全力で走り出す。



「とりあえず、グリモワール学院に向かおう!あそこなら、メーティスさん直属の兵が居る!」

俺の言葉に全力で走りながら頷く一同。

王都ラーゼンシュルトの町を行き交う人々は、全力で走っている俺達を、何事かと困惑しながら見つめていた。



「クソ!いつもなら、沢山いるはずの、町を見回っている守備隊も1人も居ないなんて!」

王都の中を走りるマルコの言葉を聞いて、コクコクと頷くマルガ。



「…兎に角、グリモワール学院に全力で向かいましょう。私達には、彼らと対峙して、生き残る術は無いのですから」

リーゼロッテの冷静な言葉に、走りながら無言で頷くマルガにマルコ。



リーゼロッテの言う通り。

俺達の今出来る事は、いち早くグリモワール学院に逃げ込む事のみ。

戦った所で、無残に殺されるだけであろう。

唯一の対抗できる手段である、俺の種族能力解放も、こんな町中の目撃者の多い所なんかで使えるはずもない。



「もうすぐでグリモワール学院だ!皆頑張って!」

全力で走る俺の言葉に頷く一同であったが、次の瞬間、その歩みを強制的に止められてしまう。



「グランドブラスト!!」

土と風の上級混合魔法が、地面を抉りながら、俺達の後方から迫ってきた。

まるで地面の津波の様な岩岩が、俺達目掛けて襲いかかる。



『バシュウウウウンン!!!!』

激しい空気の様な音が辺りに響き渡り、岩の津波は大きな音を立てて、あらぬ方向にはじけ飛ぶ。

岩の津波は、民家の壁を突き破り、大きな音をさせて崩してしまった。

通行人はそれを見て、叫び声を上げながら、蜘蛛の子を散らす様に、逃げ始める。

それはマルコが風妖精のバックラーの効果で、魔法を弾き飛ばした結果であった。

しかしマルコはその衝撃で飛ばされ、地面に尻餅をついてへたり込んでいた。

マルガに起こされるマルコは、すぐに体制を整える。



「マルコ助かったよ!」

「うん!でも、あのクラスの魔法は、この風妖精のバックラーでもそうそう防げないよ葵兄ちゃん!衝撃で弾き飛ばされちゃうから、連続の魔法は防ぐのは無理だよ!」

「解ったよマルコ!防げるものだけでいいよ!」

俺の言葉に頷くマルコは、その視線を追いついたマスタークラスの男達に向ける。



「こんな町中で、堂々とやってくれるねお前等。これでも…喰らえ!」

俺は名剣フラガラッハをアイテムバッグにしまうと、両手に銃剣2丁拳銃のグリムリッパーを召喚する。そして、闘気術を全開に開放する。



「くらえ!!迦楼羅流銃剣術、奥義、百花繚乱!!!」

薄紅色のオーラで包まれる俺の両手に握られているグリムリッパーから、何百と言う流星嵐の様な魔法弾が放たれる。

その無数の魔法弾は、地面や民家のレンガの壁に跳ね返り、あらぬ方向に跳弾して、男達に襲いかかる。

俺は威力を緩めた百花繚乱を、角度をつけてあちこちに放ったのだ。

そして流星嵐の様な魔法弾全てを跳弾させる事により、魔法弾の弾幕の壁を、マスタークラスの男達と俺達の間に作ったのだ。



「今だ!逃げるよ皆!」

俺の意図を理解した皆は、全力でグリモワール学院に向かって走り出す。

マスタークラスの男達は、暫く百花繚乱で足止めされていたが、魔法弾の消滅により、再度俺達に迫っていた。

しかし、俺達の顔には、絶望の二文字は無かった。

何故ならば、俺達はグリモワール学院の門をくぐっていたからだ。



「み…皆さんどうなされたのですか!?」

全力で鬼気迫る表情で走りこんできた俺達を見て、困惑の表情をするグリモワールの守備の兵士達。



「賊です!賊に追われているんです!助けてください!」

マルガの叫び声を聞いた守備の兵は、追ってきた4人の男の存在に気が付き、手に持つハルバートをの切っ先をマスタークラスの男達に向ける。



「ここは神聖なる学び舎グリモワール学院である!害をなすならば、我らが排除する!」

そう言い放った守備の兵士達は、マスタークラスの男達目掛けて戦闘を開始する。

守備の兵士達のLVは70前後ではあるが、常に十数名待機している。

流石のマスタークラスの4人でも、上級者十数名を一度に相手をしては、俺達にたどり着く事は難しいらしく、俺達に攻撃を加えられないでいた。

それに安堵している俺達の前に、さらなる絶望が振りかかる。

俺達を追ってきたマスタークラスの4人の男達とは別に、グリモワール学院の壁を飛び越えて、新手の4人の人攫いらしき男達が、俺達の目の前に現れたからだ。



「そ…そいつらは…俺達を襲った奴らだ。…私やマリアネラでさえ全く歯が立たなかった…気をつけろ…」

微かに意識を取り戻したゴグレグの言葉に、悲壮感を漂わせるマルガにマルコ。

俺はギュッと唇を噛み締めながら、闘気術を開放してグリムリッパーを構えた時、後方の塔の上から、凍りつく様な凄まじい魔力を感じる。

その魔力に当然気がついた、マスタークラスの男達や、新手の男達、守備の兵士でさえ戦闘を辞めて、その魔力の発せられる方に視線を向ける。

そこには光り輝く冷気の魔力を纏って、妖艶な美しい身体をした美女が立っていた。



「この私の治めるグリモワール学院に攻め入るなんて…なんて身の程知らずな…死んで詫びるが良い!」

そう言い放ったメーティスは、右手を掲げると、妖艶な凍る様な微笑みを浮かべる



「氷の結晶になりなさい!アイシクルテンペストフィールド!!!!!」

一瞬で魔法の詠唱を終わらせたメーティスの右腕から、光り輝く冷気が放たれる。

その冷気は7人の人攫いの男達を包み込むと、眩い光を発する。



『カシャリイイイイイン』

その瞬間、無数のワイングラスを打ち合わせたかの様な、美しく甲高い音が辺りに響き渡る。

眩い光に視界を奪われていた俺達は、ゆっくりと瞳を開けて、その光景に絶句する。

7人のマスタークラスの人攫いの男達は、皆が氷の柱の中で氷の結晶にされて絶命していた。

一瞬の出来事に、皆が茫然自失でその光景を眺めている中、一瞬で生き残りのマスタークラスの男の傍に姿を表すメーティス。



「…お前は生きて逃がしてやる。お前たちの主人に伝えなさい。今度…このグリモワール学院に手を出すなら…この暁の大魔導師が相手だとね」

凍りつく様な瞳で見つめられた男は後退りすると、学院の外に高速で跳躍して逃げ出した。



「暁の大魔導師の2つ名は嘘ではありませんねメーティスさん」

リーゼロッテの涼やかな微笑みに、ニコッと微笑むメーティス。

そんな2人を見つめていると、氷の結晶にされた男達の身体が激しく燃え出す。

氷の結晶にされて死亡した事によって、自滅の腕輪の効果が発動したのであろう。

召喚された炎は全てを燃やし尽くし、灰にしてしまった。

それを呆れ顔で見つめるメーティス。



「私の氷を燃やすなんて…闇属性の呪いの炎は厄介ね。呆れちゃうわ」

軽く溜め息を吐きながら言うメーティスは、俺の前に来る。



「とりあえず宿舎に行きましょう葵ちゃん。怪我人も居るみたいだし、私が治療してあげるわ」

メーティスの言葉に頷く俺は、皆に指示を出し、宿舎に向かうのであった。
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