愚者の狂想曲☆

ポニョ

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2章

愚者の狂想曲 45 依頼放棄

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「さあこれで治癒魔法は終了ね」

マリアネラに治癒魔法を施したメーティスは、ベッドの傍の椅子に腰を掛ける。

俺達はメーティスに言われた通り宿舎に戻り、沢山ある内の寝室の一室に、マリアネラとゴグレグを連れて来ていたのだ。

マリアネラとゴグレグの寝ているベッドの傍で、心配そうに2人を見つめているマルガにマルコ。

その2人の隣で、同じ様に心配そうなステラ、ミーア、シノンの3人。



「メーティスさん…マリアネラさんもゴグレグさんも大丈夫なんですよね?」

「2人共大丈夫よマルガ。この女性は体中斬られていたけど、後遺症も残らない様に完璧に治癒魔法を施したわ。私の治癒魔法なら傷跡すら残さないからね。そっちのワーリザードの男性も、かなり深手の傷だったけど、元々身体能力の高いワーリザード、回復力は普通の人をはるかに超えているわ。まあ…かなりの重症だったから、2~3日は身体の痛さで、満足に戦えないかもしれないけどね」

メーティスの優しい言葉を聞いて、ホッと胸を撫で下ろしているマルガにマルコは、安堵の表情でベッドに寝ているマリアネラとゴグレグを見つめていた。



「しかし、一体どうしたっていうの葵ちゃん?何があったの?」

「あんな状態だったので、マリアネラさんとゴグレグさんから事情を聞けてないけど…多分、ハプスブルグ伯爵家の別邸に、例の死体を持ち込ませたくない人攫い達の襲撃を受けたのだと思います。それを証拠に、例の死体をマリアネラさんとゴグレグさんは、連れてきて居ませんでしたからね。きっと、それどころでは無かったのでしょう」

俺の言葉を聞いて、そうねと言いながら、ベッドに視線を向けるメーティス。

そんな俺とメーティスを見ていたマルガは、少し言い難い様な表情で俺を見る。



「所でご主人様…ヨーランさんの姿が見えないのですが…」

マルガの言葉を聞いた一同は、顔を見合せる。

何があったのかを理解出来る様な、その淋しげな表情の皆を見たマルガは、マリアネラとゴグレグを見ながら、瞳を揺らしていた。



「…私の…ヴァルデマール侯爵家の魔導師団である、エンディミオン光暁魔導師団に、すぐにヴェッキオを捜索させる様に指示を出すわ。じゃ…私は戻るわね」

そう言って椅子から立ったメーティスは部屋の扉の前まで行き振り返る。



「そうそう、この宿舎や貴方達にも、エンディミオン光暁魔導師団の護衛をつける事にするから。私の魔導師団達なら、例の奴ら相手でも引けを取らないから安心だしね。私もいつも貴方達の傍に居られる訳じゃないから」

「…ありがとうございますメーティスさん」

俺の御礼の言葉に、フフッと優しい微笑みを向けるメーティスは、静かに部屋の扉を開け出ていった。



「じゃ…ステラ、ミーア、シノン、マリアネラさんとゴグレグさんの事頼むね。2人の目が覚めて、何か食べれそうなら、食べさせてあげて」

俺の言葉にコクッと頷くステラ、ミーア、シノンの3人。



「あの…ご主人様。私も…マリアネラさん達を見てていいですか?」

「オイラも…いい?葵兄ちゃん」

マルガとマルコはマリアネラとゴグレグの事が心配なのか、ベッドの傍から離れようとはしなかった。



「…いいよ。俺は1階の広間に居てるから、マリアネラさんとゴグレグさんが目を覚ましたら、俺に教えてくれる?」

「解りましたご主人様!」

「解ったよ葵兄ちゃん!」

嬉しそうなマルガとマルコの表情に癒されながら、俺とリーゼロッテは部屋を出る。

そして、1階の寛ぎの間に到着した時に、ダダダと走って来たエマが俺に抱きついた。



「葵お兄ちゃん~。マリアネラお姉ちゃんとトカゲさんは大丈夫だった~?」

ちっちゃな瞳に涙を浮べているエマは、ギュッと俺にしがみつく。



「…大丈夫だよエマ。マリアネラさんもゴグレグさんも、もう心配ないから」

「そうなんだ!よかった~!」

瞳をウルウルとさせていたエマは嬉しそうに安堵している。その可愛い頭を優しく撫でると、エヘヘと可愛い微笑みを向けてくれるエマ。



「しかし…このグリモワール学院にまで追ってくるだなんて…余程葵さん達の事が目障りだったのでしょうか?」

エマの頭を撫でている俺の傍に来るレリア。



「…どうだろう?俺達の事をどう思っているかは、相手にしか解らない事だからね。だけど、何かの手がかりになるかも知れない死体を手に入れた俺達の事を、気には入ってはいないのは確かだろうけど」

「葵さんの言う通りですね。でも、あの暁の大魔導師の2つ名をもつメーティスさんが、今度この学院に手を出したら容赦はしないと、宣言していましたからね。大国フィンラルディアのみならず、世界にその名声を知られているエンディミオン光暁魔導師団を、相手にしたくは無いでしょう。この学院に攻め入ってくる様な事は、もう無いと思っても良いでしょう」

その言葉を聞いたレリアは、エマの頭を撫でながら安堵の表情を浮かべる。



「リーゼロッテの言う通りだね。それに、この宿舎や皆にも、メーティスさんがエンディミオン光暁魔導師団の護衛をつけてくれるらしいから、町に出かける時も安全だと思うよ」

「それは良かったですね葵さん。…ですが…」

俺の傍で少し心配そうな、歯切れの悪いユーダが言葉尻をしぼめる。



「…ユーダさんの言いたい事は解ってますよ。…リーゼロッテ、予定よりかなり遅れてるけど、ハプスブルグ伯爵家の別邸に向かう。準備してくれる?」

「…解りましたわ葵さん。少し待っていてくださいね」

リーゼロッテはそう告げると、寛ぎの間から出て行く。

そして、暫く待っていると、準備の出来たリーゼロッテが帰ってきた。



「ユーダさんが心配しなくても良い様にしてきますので、安心して下さい」

俺のその言葉に、自分が言いたくて言えなかった事が含まれている事を感じたユーダは、申し訳なさそうに微笑む。



「ではちょっと行って来ますので、後の事…頼みますねレリアさんユーダさん」

俺の言葉に頷くレリアにユーダ。

準備の出来ている俺とリーゼロッテは、寛ぎの間を出て宿舎の外に出ると、4人の魔道服を着た兵士が馬車の傍で立っていた。その立ち振舞からして、かなりの実力者で有る事が解る。



「葵さんこちらの方々は、私達が外出する時に護衛をしてくれる、エンディミオン光暁魔導師団の方々ですわ。メーティスさんが早速手を回してくれた見たいです」

「そうなんだ。よろしくお願いします」

「我が主メーティス様直々の命、この命に代えても、貴方達をお護りする事を誓いましょう」

その言葉に頭を下げて礼を言い、荷馬車に乗り込む。エンディミオン光暁魔導師団の4人も、自分達の馬車に乗り込む。

それを確認した俺は、リーズの手綱を握り荷馬車を進める。

しっかりと俺達を護衛しながら、辺りに敵がいないかを警戒しながら着いて来てくれる事に安堵感を覚えながら、俺達の馬車はハプスブルグ伯爵家の別邸の前まで到着した。



「エンディミオン光暁魔導師団方々は、館の中の客間で寛いでいて下さい。話が終わりましたら、部屋に行かせて貰います」

「解りました葵殿。ここはあのハプスブルグ伯爵家の別邸、何も無いと思いますが、何か有りましたら、すぐに我々に言って下さい」

エンディミオン光暁魔導師団の兵士の言葉に頷き、俺とリーゼロッテは別邸の案内役に付いて行く。

そして、部屋の中に入ると、ルチアとマティアス、マクシミリアンが俺とリーゼロッテに視線を向ける。



「…随分と遅かったじゃない葵。…何かあったの?」

いつもなら少しでも待たせるとプンプンしているはずのルチアは、少し心配そうな表情を向ける。



「…うん、例の人攫いの奴らに襲撃されたんだ」

その言葉を聞いたルチアは表情をきつくする。

俺はルチア達に襲撃された内容を説明すると、顔を見合わせて何かを考えているルチアにマティアス、マクシミリアンの3人。

そして、マクシミリアンが顎に手を当てながら口を開く。



「…マスタークラスの手練を8人か…解せんな…」

「それはどういう事なのでしょうか?マクシミリアン様」

マクシミリアンの言葉に疑問に思ったリーゼロッテが綺麗な声を響かせる。



「それはですねリーゼロッテ殿、マスタークラスともなれば、普通の騎士団の隊長や小隊長、傭兵団で言う所の百人長クラスの人材。それを8人も投入する事に、疑問を感じているのですよ」

「…もっと詳しく説明してくれませんかマティアスさん?」

俺がマティアスに追加の説明を求めると、ルチアが紅茶に口をつけながら



「それはね葵、使い捨ての出来る人攫いの遺体を取り返す為に、貴重なマスタークラスの人材を使う事に疑問を感じているからよ」

「それは…このハプスブルグ伯爵家の別邸に、遺体を持ち込まれたら色々調べられて、何かの情報を掴まれると思ったからじゃないの?だから、実力のあるマスタークラスの者で、俺達を襲わせた。そうじゃないの?」

俺の言葉に軽く溜め息を吐くルチア。

リーゼロッテはルチアの言葉を聞いて、何か考えていた。



「葵、前にも言ったけどあの遺体だけじゃ、メネンデス伯爵家や、モリエンテス騎士団の関与の証拠にならないと説明したでしょ?つまり、あの遺体には、それほど価値は無いのよ。例の遺体の身元を調べたとしても、きっと尻尾を掴める様な証拠は出なかったと思うわ」

「ルチア王女の言う通りだな。我らヴィシェルベルジェール白雀騎士団の秘密部隊でさえ、情報を掴ませない奴らなのだ。もしもの事を考えて、人を攫わせている者達は、使い捨ての出来る、身元を調べられても何も証拠の出ない者達を使っているだろう」

「マクシミリアンの言う通りね。私だって、例の遺体をここに持ち込ませる様に指示を出したのは、葵達に余計な罪が掛からない様に手配するのが目的だった事だしね。だから、特別な護衛はつけなかった。まあ…直接動けない私達には、出来る事は限られているけどね」

ルチアとマクシミリアンの説明を聞いて、疑問を深める俺。



確かにルチアとマクシミリアンの言う通りだ。

使い捨ての何も証拠の出ない遺体を回収するのに、わざわざ危険を犯して、しかも、貴重な兵力を投入するとは思えない。

じゃ…相手は何を考えて…

俺がその様に思案していると、確信を得たかの様な、透き通る金色の瞳をキラリと光らせるリーゼロッテが



「それはつまり…相手には他の目的があった…と、言う事ですわねルチアさん?」

リーゼロッテの言葉を聞いたルチアは、リーゼロッテの全てを理解したかの様な表情を見て、キュッと唇を噛み締める。



「リーゼロッテ…どういう事?何か気づいたなら…教えて欲しいけど…」

疑問に思い首を傾げている俺に、少し言い難そうに話を続けるリーゼロッテ。



「それはですね葵さん…今回の襲撃は…例の遺体の回収と処分が目的ではなく…最初から目標は私達とマリアネラさん達だったと言う事ですわ」

リーゼロッテの言葉に、儚げに俯くルチア。



「え…俺達やマリアネラさん達を処分する為に、わざわざマスタークラスを投入したって事!?でも…俺達やマリアネラさん達は、まだ特に決定的な証拠を掴んだ訳でも無はずだけど…唯一の手がかりである自滅の腕輪にしたって、調べて貰っているけど、何処迄詳しい情報を得られるかも解らないのに…」

俺の困惑している表情を見て、リーゼロッテは静かに目を閉じる。

そして、その美しい金色の瞳を開くと、ルチアを見つめながら、



「それは…警告ですわ葵さん」

「警告?警告って…何?」

更に疑問を深める俺にマティアスが



「…つまり、これ以上深入りするなら…ルチア様の大切にしている者達…葵殿達に危害を加えると警告したかったのでしょう。葵殿の関与により、ルチア様に繋がっている事を相手は知っているのでしょう。葵殿はルチア様の専任商人です。王宮で以前の選定戦の事を知らない者など居ません。ルチア様が特別に心を開かれている葵殿に危険を与える事によって、ルチア様にこの件から手を引かせる、又は、これ以上何かをさせない様に、したかったのでしょうね」

マティアスの言葉を聞いたルチアは完全に俯いてしまった。

そのルチアの傍に近寄り、そっと優しく肩に手を置くマクシミリアン。



そうか…今回の襲撃は、ルチアにプレッシャーを与える為だけに行われたものだったって訳か。

遺体を処分したのはあくまでもついでの事であり、本当の目標はルチア。

なるほど…



「…まあ、今回は警告であったので、お前達を殺すつもりは、相手には無かったのかもしれん。先に依頼を受けていた者達は殺されていたかもしれんがな。だが、かなりの重症を負わされて、後遺症が残っている位の事はされていたかもしれん。…運が良かったなお前達」

マクシミリアンの言葉に、薄ら寒いものを感じる。

解ってはいたけど、国の厄介事に首を突っ込む事の危険性…

ルチアは俺に顔を向けると、その綺麗な瑠璃色の大きな瞳を揺らしていた。

俺はルチアの傍に近寄ると、マクシミリアンと反対側のルチア肩に手を置き、



「…ルチア、俺達はこの辺で、この依頼を放棄する事にしたよ。今日ここに来たのは、その事を伝え様としたかったんだ」

俺のその言葉を聞いたルチアは、安堵したかの様な、そして、少しさみし気な表情を浮かべると



「…そう、解ったわ。それがいいわね。貴方の大切な人達を…危険に巻き込む事は出来ないわね」

「…ごめんルチア。力になれなくて…」

「…いいわよそんな事。貴方が気にする事じゃないわ」

「ルチア…」

ルチアの儚げな表情を見た俺は思わず言葉をつまらせてしまう。

そんな俺とルチアの間に割って入るマクシミリアンはルチアの肩を引き寄せると



「これからは、ヴィシェルベルジェール白雀騎士団、副団長であるこの私がルチア王女をお守りする。お前は商売に専念する事だな」

少し得意げに俺に言うマクシミリアンの手を振りほどくルチア。



「貴方の気持は嬉しいけど…気安く触らないでくれるかしらマクシン?」

「良いではないですかルチア王女。俺達は小さい頃からの付き合いだし、それに婚約者じゃないですかか」

「ふえ!?ルチアの婚約者!?」

マクシミリアンの言葉に思わず変な声を出してしまった。オラ恥ずかしい!

ルチアは俺を見て取り乱しながら、マクシミリアンに向き直ると、



「誰が貴方の婚約者よ!誰が!」

「だって小さい頃に約束しましたよね。結婚してくれるって」

「それは貴方が泣きながら平伏して何度も私にお願いするからでしょ!それに、私が気にいる男に成ったら認めてあげるって言っただけでしょ!婚約なんてした覚えはないけど?」

「逆に言うと、認めて貰えたら結婚してくれるって事でしょう?…僕は諦めないからねルチア王女」

不敵に微笑むマクシミリアンに、盛大に溜め息を吐くルチア。マティアスは苦笑いをしていた。



「とりあえず話は終わった見たいなので、葵殿は私が館の外まで案内しよう。詳細は後で使いの者を宿舎に回す。行くぞ葵殿」

「あ…はい。じゃ、またなルチア。マティアスさんも」

俺とリーゼロッテはルチアとマティアスに挨拶をして、マクシミリアンの後を付いて部屋の外に出て歩き始める。



「良き判断であったと言っておこうか」

俺とリーゼロッテの前を歩いていたマクシミリアンが、足を止めて振り返る。



「…そうでしょうか?」

「今のままなら、ルチア王女はお前達の事が気がかりで、奴らの事に全力で取り掛かれないかもしれんからな。お前達が手を引く事によって、気がかりなしに事に当たれる。それにメーティス卿のエンディミオン光暁魔導師団がお前達の事を守ってくれるのであれば尚更だ」

マクシミリアンの言葉を聞いたリーゼロッテは涼やかな微笑みを浮かべると



「…先程とは言葉の雰囲気が違いますわねマクシミリアン様」

「そうかな?事実を言ったまでだ。それに…ルチア王女の心配している顔を…見たくは無いのでな」

そう言って優しい微笑みを浮かべるマクシミリアン。

そのマクシミリアンの微笑みを見て、表情を緩めるリーゼロッテ。



「…本当に、ルチアさんの事を好きでいらっしゃるのですねマクシミリアン様は」

「当たり前だ!あの約束を取り付けるのに…どれだけ頭を地に擦りつけた事か!僕はルチアを愛してる。小さい頃からずっとね。ルチア王女の幸せは僕が守る!」

自信満々にきっぱりと言い切るマクシミリアン。



「…葵殿は商売の方から、ルチア王女を助けてやってくれ。ルチア王女は何故だか解らないが、葵殿達の事を気に入っている様だ。それでルチア王女が喜ぶので有れば、僕もその方が良いからね。だが…葵殿には、ルチア王女を渡さない。それだけはここで宣言しておこう!」

そう言って俺にその不敵な美しい顔を向けるマクシミリアン。



いやいやいや!

無いから!あのブンブン突撃娘に、何かしようとか思ってませんから!

まあ…可愛いのは認めるけど…



「いや…俺は別に…ルチアの事を、そんな対象に見てませんから!」

「本当か?じゃ…僕がルチア王女を奪っても良い訳だな?」

ニヤッと微笑むマクシミリアンの顔を見た俺は、何故か解らないが心がざわつくのを感じていた。



「それはルチアが決める事なので、俺は知りません!ですが、ルチアは俺達の仲間でもあります。貴方とルチアの関係は知りませんが、俺は俺なりのやり方で、仲間であるルチアの力になりたいと思っています。それには、貴方の許可は貰いませんのであしからず!」

きっぱりと言い切った俺の言葉を聞いて、楽しそうに微笑むマクシミリアンは、



「解った。そうしてくれたまえ葵殿」

あっさりと俺の言葉を拒否もせず受け入れるマクシミリアンに呆気にとられる俺を見て、クスクスと楽しそうに笑うリーゼロッテはマクシミリアンに向き直る。



「わざわざ葵さんに言わなくても良いでしょうに」

「騎士はいつでも正々堂々と勝負するものだ。まあ…秘密組織を持つハプスブルグ伯爵家が言う事では無いのかもしれんがな」

少し苦笑いをするマクシミリアンに、フフと笑うリーゼロッテは、



「ですが…私は嫌いじゃありませんわ」

「美しい貴女にそう言って貰えると、嬉しいですね」

楽しそうにリーゼロッテに微笑んでいたマクシミリアンは俺の前に来ると



「この話はここまでだ。奴らの企みは、フィンラルディア王国の正義の象徴であるハプスブルグ家が、必ず暴いて法の下に引きずりだし、裁きを受けさせてみせる。アウロラ女王やルチア王女が目指すものを実現させる為にね」

清々しいまでのその思いの篭った言葉に、少し清らかな物を感じる俺。



「…そうなると良いですね。俺もそう思いますよ」

「思うではダメだ。そうさせてみせるだ。葵殿」

「なるほど…確かにそうですね」

苦笑いしている俺に、フフと笑うマクシミリアンは、俺の肩に手を置く。



「…先程言った事は全て事実だ。別の方面から…ルチア王女の力になってやってくれ」

「…解ってますよ。ルチアは俺達の仲間ですからね」

「うむ。…だが、ルチア王女は渡さないよ?」

「…しつこいですねマクシミリアン様は…。俺は…別に…ルチアの事は…」

俺の憤っている言葉を楽しそうに聞いている、マクシミリアンにリーゼロッテ。

俺は少し悶々としながら、ハプスブルグ伯爵家の別邸を後にしたのであった。













宿舎に帰ってきた俺とリーゼロッテは、馬のリーズと荷馬車を馬小屋と馬車置き場に移動させ、護衛してくれたエンディミオン光暁魔導師団の4人に礼を言って別れて、宿舎の中に入った。

するとユーダがトレイに何かを乗せて、階段を登ろうとしていた所であった。



「あ!葵さんおかえりなさい!」

「ただいまユーダさん。その食べ物…どこに持っていくの?」

「はい、マリアネラさんとゴグレグさんが目を覚ましましたので、少しでも食べて貰おうと思いまして」

「目を覚ましたんだ。俺達も行くよ。話したい事もあるしね」

俺の言葉に頷くユーダと一緒に、俺はマリアネラ達が居る部屋に向かう。

そして、部屋の中に入ると、皆の視線が俺達に集まる。



「おかえりなさいですご主人様!」

テテテと走り寄ってきたマルガは、嬉しそうに俺に腕組みをする。



「ただいまマルガ。皆もこの部屋に来ていたんだね」

部屋にはこの宿舎に住んでいる全員が集まっていた。

皆がマリアネラ達の事を心配していたのであろう。エマに至っては、余程心配していたのか、ゴグレグの膝に頭をあずけて眠っている。

きっと、ゴグレグが目を覚ましたのを見て、泣いたんだね。

エマの目元が赤く腫れてる。今は泣きつかれて寝てしまったって所であろう。

俺はそれを微笑ましく思いながら、マリアネラの寝ているベッド迄近寄る。



「…マリアネラさん具合はどうですか?」

「…ああ、体中痛いけど…何とか大丈夫みたいだね」

儚げに微笑むマリアネラ。



「ゴグレグさんも大丈夫ですか?」

「…大丈夫だ。問題ない」

膝下に寝ているエマの頭を優しく撫でている子煩悩リザードを、微笑みながら見ているマルガにマルコ。



「葵達には迷惑を掛けたね。助けてくれてありがとね葵」

「いえ、俺達もマリアネラさん達には助けて貰ってますし…気にしないでください。ユーダさんお願い」

俺の言葉にユーダは、トレイに乗せてきたスープをマリアネラ達の膝の上に乗せる。

身体を起こして貰ったマリアネラとゴグレグは、痛々しそうにスプーンに手を伸ばす。



「少しでも食べて下さい。メーティスさんの治癒魔法で傷は治ってますが、栄養を取らないと治りが遅くなりますからね」

「…解ってるよ葵。ありがとね」

そう言って少しずつスープに口をつけていくマリアネラとゴグレグ。



「…マリアネラさん、俺達は例の依頼を放棄する事にしました。さっきハプスブルグ伯爵家の別邸に行きまして、ルチアとマクシミリアン様にそう告げて来ました」

俺の言葉に皆が一斉に振り向く。

その中で静かにマリアネラが口を開く。



「そうかい…それがいいかもね」

「マリアネラさん達はどうするのですか?」

俺の問いかけに、キュッと唇を噛むマリアネラは



「…私は…依頼を続けるよ。ヨーランの敵も打ちたいからね…。葵、お願いがあるんだ。前に葵達が戦った十字路に…ヨーランが居るはずなんだ。ヨーランを…連れて帰ってきて…くれないか?」

いつもの覇気のないマリアネラの瞳は、零れそうな涙を必死に留めていた。



「その人なら…私のエンディミオン光暁魔導師団が連れて帰ってきたわ」

その声に振り向くと、妖艶な身体を入り口にもたれかけさせながら、メーティスが立っていた。



「そうですか…ありがとうございます…」

「…気にしなくても良いわ。今はゆっくりと静養する事ね。でも…依頼をこのまま続けるのには、私は賛成しないわね。連れて帰ってきたノーム族の男性は、満足そうな顔をしていたらしいわよ。彼は貴女達を無事に逃がせた事に全てを掛けたのではなくて?それなのに…また…自ら危険に身を投じるなんて。彼はそんな事を望んではいないはずよ?」

腕組みをしているメーティスの言葉を聞いたマリアネラは、ギュッと握り拳に力を入れると



「…解っています。折角ヨーランが助けてくれた命です。ですが…私も冒険者の端くれ。このまま引き下がる事は出来ません」

マリアネラは静かにメーティスに語りかける。

その静かな言葉に、揺るぎない意志を感じたメーティスは、溜め息を吐く。



「…依頼を止めるのであれば、貴女達にも、暫くエンディミオン光暁魔導師団の護衛をつけ様と思っているけど、依頼を続けるのなら、護衛はつけれないわよ?…それでもいいの?」

「…はい、覚悟してます」

「そう…。解ったわ」

「すいません…」

そう言って頭を下げるマリアネラを、黙って見つめているメーティス。

俺はメーティスの傍まで行くと、その華奢な腕を取り、



「皆は暫くここでマリアネラさん達の事を頼むよ。俺はちょっとメーティスさんと話があるから行くね。ゆっくりして下さいね。マリアネラさんゴグレグさん」

俺の言葉に礼を言うマリアネラとゴグレグ。

俺はメーティスの腕を引っ張りながら、部屋を出る。

そして、2つ先の使っていない部屋にメーティスと一緒に入る。

メーティスは部屋の中をキョロキョロと見渡すと、俺に近寄り妖艶な微笑みを浮かべる。



「なになに~葵ちゃん。私をこんな所に連れ込んで…何する気なのかしら?」

メーティスはその豊満な女体を味合わせる様に俺に身体を密着させる。

メーティスの柔らかさと、少し鼻にかかる甘い匂いにドキッなってしまう。



「な…なにもしませんから!」

「そうなの?つまらないわ~」

悪戯っぽく、楽しそうにクスクスと笑っているメーティス。



「所で話が有るのでしょう?何かしら葵ちゃん?」

「はい…マリアネラさん達を…影から護衛してくれませんか?」

俺の言葉を聞いたメーティスは腕組みをしながら俺に振り返る。



「…私のエンディミオン光暁魔導師団は優秀な人材が揃っているわ。だから、護衛だけをするには申し分ないけど、依頼をする上で、そんな事をしたら、彼女の仕事の邪魔をしちゃう事になっちゃうわよ?この私でさえ感知される様な相手なのよ?彼女達に気づかれ無くても、そいつらには気づかれちゃうわ。彼女達は…満足に行動出来ない結果になるわよ?」

「ええ…解ってます。その上でお願いしたいのです」

俺の言葉を聞いたメーティスは深く溜め息を吐き、流し目で俺を見ながら、



「それに…依頼を放棄しないのは彼女の意志よ?それを無視する事にもなっちゃうけど。もし、護衛している事が解れば…葵ちゃん、貴方彼女に恨まれるかもしれないわよ?」

「それでも…構いません。相手は…次にどんな事をしてくるか解りません。マリアネラさん達も手練ですが、相手はその上を行く手練の集団です。次は命の保証はありません。大切な仲間を奪われた怨みや悲しみは解りますが…俺はマリアネラさん達には生きて欲しいのです」

「…それは葵ちゃんの気持の押し付けよ?」

「それでもです。僕は何を思われても構いません。ですから…お願いします」

俺はそう言うと深々と頭を下げる。

それを呆れ顔で見ていたメーティスは、クスッと楽しそうに笑う。



「…本当にキャスバルに似ているわね葵ちゃんは…」

「はい?なにか言いました?メーティスさん?」

「いいえ~葵ちゃんは可愛いなと思っただけよ~」

そう言ってクスクスと笑っているメーティスは再度俺の腕に抱きつく。



「解ったわ。葵ちゃんの頼みだから、特別に聞いてあげる」

「ありがとうございますメーティスさん」

「いいのよ~その内、お返しはして貰うから」

「ええ!?…僕に出来る事でお願いしますねメーティスさん?」

「解ってるわよ葵ちゃん~」

ニコニコと微笑むメーティスに、何かゾクッとしたものを感じながら、苦笑いしている俺は、皆のもとに戻っていくのであった。













ここは豪華な屋敷の一室。その中で大きな声が響く。



「ええい!どういう事なのだヒュアキントス!マスタークラスの人員を7人も失うとは!」

男の怒号に、頭を下げるヒュアキントス。



「…どうやら、相手を深追いし過ぎて、グリモワール学院内で戦闘になったらしいです。そして、暁の大魔導師の逆鱗に触れた様ですね。私は深追いはするなと言いつけていたのですが…」

「それは、私の騎士団が…悪いと言う事かヒュアキントス?」

「その様な事は…言っては居ませんよ。ですが、流石の騎士団も、あの暁の大魔導師相手では…」

ヒュアキントスの言葉に、グウと唸る男。



「…その件はもう良い。手はず通りに頼むぞヒュアキントス!」

男はそう吐き捨てる様に言うと、けたたましく部屋を出ていった。

それを見て軽く溜め息を吐くヒュアキントスに、紅茶を差し出すアポローン。

それを微笑みながら受け取り、口をつけるヒュアキントス。



「とんだとばっちりだねヒュアキントス」

「フフフそうかもねアポローン。本当ならマスタークラスの彼らには、簡単な仕事だったはずなんだ。しかし、予想外の抵抗にあい、しくじってしまった。このまま指示通りに出来ないで帰ってこれないと感じた彼らは、焦ったのだろうさ。まさか、あのグリモワール学院内で戦闘をするなんて…愚かな」

そう言って再度紅茶に口をつけるヒュアキントス。



「まあ、彼らの事はどうでも良い。幸い今回は何も情報を与えられないでいた様だしね。それに…僕達の目的は達成出来たみたいだしね」

「それは…あの葵達が、依頼をやめたと言う事かな?」

アポローンの言葉を聞いたヒュアキントスは、少しきつい表情をする。



「…そうだね。僕にとって、1番の不安要素は彼だけだ。彼は…僕の想像を超える何かを持っている感じがするんだよ」

「天才の君にそう言わせるとは…彼は凄いね」

「どうかな?ただ…僕の考え過ぎかも知れないけどね」

そう言ってフフッと笑うヒュアキントス。



「彼には…外からどう奪われるか見て貰う事にするよ。全ては僕達の計画通りに進んでいる。心配は無いさ」

そう言って書類に目を通すヒュアキントス。



「僕は4~5日、王都を離れる。後の事は頼んだよアポローン」

「了解ヒュアキントス。後の事は任せて」

ヒュアキントスはアポローンを引き寄せるとその口を吸い寄せる様に、唇を重ねる。



「この仕事が終われば、こんな所に居る必要も無くなる。もう少し我慢をしておくれアポローン」

「僕の事は気にしないでくれヒュアキントス。僕は君の為ならなんでもするよ」

「…可愛いことを言ってくれるね…アポローン」

再度アポローンを抱きしめるヒュアキントス。



「もう少しで僕達の計画は成る。フフフ」

アポローンを抱きしめながら窓の外に目を向けるヒュアキントスの瞳には、王都ラーゼンシュルトの町並みが写っていた。
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