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2章
愚者の狂想曲 57 女王裁判
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時刻は夜明け前。
客馬車で宿舎に無事に戻って来れた俺達は、寛ぎの間に雪崩れ込む様に入り込んだ。
俺達の帰りを心配しながら待っていたステラ、ミーア、シノンの3人が、何事かと部屋の入口に目を向ける。
明らかに戦闘が合ったと思われる俺達の服装の汚れを見たメーティスが、腕組みをしながら瞳を細めていた。
「…葵ちゃん…何かあったの?」
静かにそう言ったメーティスの言葉を聞きながら、俺は胸に抱きかかえて憔悴しきっているマリアネラをソファーに座らせる。
「…ええ少し。…とりあえずゴグレグさん、マリアネラさんを部屋に連れて行って休ませてあげて下さい」
「…承知した」
言葉少なげにそう言ったゴグレグは、マリアネラの肩を支えながら寛ぎの間から出て行く。
「ステラ、ミーア、シノンは、怪我をしているマルコと魔法師団の人を、部屋に連れて行って休ませてあげて。魔法である程度応急処置はしてるけど、本格的な治療はまだだから」
「「「はい!葵様!」」」
声を揃えて返事をするステラ、ミーア、シノンの3人は、マルコと魔法師団の2人に肩を貸しながら部屋を出て行く。
それを確認した俺は疲れが一気に出てきて、ドッとソファーに座り込む。
そんな俺の両隣にマルガとリーゼロッテも疲れた表情で座っていた。
「…で、葵ちゃん何が合ったの?」
「…それは私から説明しますわメーティスさん」
綺麗な声を響かせるリーゼロッテが、俺の代わりに事の次第を説明してくれる。
リーゼロッテの話を静かに聞いていたメーティスの表情が険しくなる。
「…そう、テトラグラマトンラビリンスがね…」
「メーティスさんはテトラグラマトンラビリンスを知ってるのですか?」
マルガの言葉を聞いたメーティスは、より一層表情を険しくする。
「…知っているわ。と言うか…戦った事があるのよ。私がまだ…リーゼロッテ位の歳の頃の話だけどね。当時の私は自分の力に過信していたのね。強者と戦いたかった。そこで噂に聞いていたテトラグラマトンラビリンスの内の1人に戦いを挑んだの」
「そ…それで…どうなったのですかメーティスさん?」
マルガの好奇心の篭った言葉に、軽く笑うメーティスは
「…何も出来なかった。私は命からがら転移のマジックアイテムを使って脱出したわ」
「そ…そんな…メーティスさんが何も出来ないなんて…」
マルガの困惑した言葉を聞いたメーティスはフフと笑う。
「ま…若気の至りと言うやつかしら?テトラグラマトンラビリンス達はLVは勿論の事、強力で特殊なレアスキルを持っている者が多いらしいわ。私と戦ったテトラグラマトンラビリンスも強力なレアスキルを持っていたと思う。どんなレアスキルかは解らないけど、当時の私が何も出来ない様な物をね…。今は彼らも代替わりをして人も変わって居るでしょうけど…その異常な強さは変わっていないと思うわ。それは実際に戦った貴方達なら良く解るでしょう?」
メーティスの言葉を聞いたマルガはコクコクと頷き、リーゼロッテも静かに頷いていた。
「…そう言えばジェラードさんは、女神アストライアの御使いに力を授けて貰ったって言ってましたけど…どんな御使なのでしょうねご主人様?」
俺を見て可愛い首をかしげるマルガに、さあ?と苦笑いをする俺。
「…光の精霊長ヴィシュヌかもしれないわね」
俺とマルガを見ていたメーティスが囁く様に呟く。
「光の精霊長と言う事は、神聖オデュッセリアの守護神のですか?」
「そうよリーゼロッテ。各精霊の長は属性以外に特殊な力を持っているの。光の精霊長ヴィシュヌはレアスキルを与える事が出来ると噂で聞いた事があるわ。只、誰にも与えられる様なものではなくて、実際にレアスキルを発現出来る者は極々一部の者だけだと聞いたけどね」
メーティスの説明になるほどと頷く俺とマルガ。
「…兎に角、これで誰が内通者でであるか解ったわね。まさかマリアネラの長年深い親交の合った人物がソレだとは思いもしなかったけど。…彼女…立ち直ってくれると良いわね」
そう言ってマリアネラ達が出て行った扉を見つめ、儚そうな表情をするメーティス。
「この件は私からルチアに報告しておくわ。葵ちゃん達は疲れたでしょう?ゆっくりと休みなさい。明日は女王裁判が控えているんだから」
メーティスの言葉に頷く俺達は重い足取りで自分の部屋に戻る。
そんな俺達の後ろ姿を見ていたメーティスは深い溜息を吐く。
「…全く、やってくれるわね神聖オデュッセリアも。まあ…今に始まった事じゃないけど」
そう言って寛ぎの間の窓を見て、朝日が登るのを見つめているメーティス。
「…だけど、私もあの頃の様な小娘では無いわ。これ以上好き勝手には…やらせないわよ?」
そう言って朝日をも凍りつかせる様な眼差しをするメーティスは、静かに寛ぎの間を出て行くのであった。
今日は女王裁判がヴァレンティーノ宮殿のテミス宮で開かれる日だ。
用意をした俺達が食堂に降りると、威厳と気品の有る礼服を着ているメーティスが優しく微笑みかけてきた。
その何時もと違う装いのメーティスを見たマルガは、大きな可愛い目をパチクリとさせていた。
「何か…いつもとは違うのですメーティスさん!」
「あら?いつもとそんなに変わらないと思うけど?」
そう言いながらクルッと回り綺麗にお辞儀をして、妖艶で美しい微笑みを湛えるメーティス。
それを見て羨ましそうな顔をして居るマルガは指を咥えていた。
そんなマルガをクスクスと笑っている皆を感じて、マルガはペロっと可愛い舌を出して少し赤くなっている。
「じゃ、早く朝食を食べちゃって葵ちゃん。女王裁判の開廷は朝刻の5の時(午前10時)よ。もう既にこちらの準備は出来ているから、朝食を食べたらすぐにヴァレンティーノ宮殿に向かうわ」
メーティスの言葉に頷く俺達はステラ達から朝食を貰い、食べ始める。
その食べている間に女王裁判での段取りを再度確認し、食べ終わった俺達は宿舎の外に出る。
そして宿舎の外に出て、その光景を見た見たマルガは感嘆の声を出す。
そこには、素晴らしい鎧を身に纏い、規律正しく並んでいるエンディミオン光暁魔導師団の姿があった。
人数にして300人は居るであろうか?その中央には、エンディミオン光暁魔導師団の紋章の入った、綺麗な装飾のされた大きな鋼鉄馬車があり、宿舎から出てきたメーティスを見て各々が持つ武器を胸にかざして一斉に敬礼をしていた。
瞳を真ん丸にしているマルガを見て、クスッと軽く笑うメーティスが
「葵ちゃん達は鋼鉄馬車に乗り込んで頂戴。私はこの鋼鉄馬車の御者台に座るから」
「え!?メーティスさんが御者台にですか!?」
少し戸惑っているマルガの頭を優しく撫でるメーティス。
「…確かに私も女王裁判に出廷する身分だけど、今は貴方達の護衛が最優先。鋼鉄馬車の中に居たら、いざという時に戦いにくいでしょう?そう言う事よ」
そう言って優しい微笑みを向けるメーティスは、俺達の背中を押して鋼鉄馬車に乗せる。
そして、俺達が乗り込んだのを確認して鋼鉄馬車の扉を閉め、御者台の護衛者専用の席に飛び移ると、魔法師団に向き直る。
「ヴァレンティーノ宮殿に向かうわ!この鋼鉄馬車を中心に、鷹の陣形にて移動を開始して!進路を阻む者や、襲ってくる者には容赦する必要は無いわ!…全軍進め!」
メーティスのソノ言葉を聞いた魔法師団達は素早く陣形を組むと、ゆっくりと進み出す。
その言葉を鋼鉄馬車の中で聞いていた俺達も、いよいよ事が進みだす緊張感に包まれていた。
「ユーダさん大丈夫ですか?」
女王裁判に刻一刻と近づいているのを感じているのか、緊張して少し震えているユーダが気になって声をかけた。
「は…はい、だ…大丈夫です」
少し弱々しくそう言いながら、緊張した面持ちのユーダ。
今日の出廷は俺達からは、俺、ユーダ、ナディアの3人が、出廷して法廷で証言する事になっている。
マルガとリーゼロッテは俺達の護衛と言う名目で、出廷を許可されている。
本来ならマルコも護衛としてついてくる予定だったが、ジェラードに刺された傷が予想より酷く動けないので、宿舎で療養する事になった。
『絶対に悪いやつを倒してきてね!』
そう言って残念そうにしていたマルコに、任せといてマルコちゃん!と、元気一杯に鼻をフンフンとさせていたマルガ。
そんな事を思い出していると、俺の手をギュッと握るちっちゃな手の感触を感じた。
ふとそこに視線を落とすと、ナディアが思いつめた様な表情で俺を見つめていた。
「…大丈夫だよナディア。女王裁判で…コティー達の仇を討つから…ね?」
その俺の言葉を聞いたナディアは、瞳に少し涙を浮かべながら、静かにコクッ頷く。
そんなナディアノ頭を優しく撫でながら鋼鉄馬車に揺られていると、純白に光り輝く宮殿が見えてきた。
その何者にも汚される事を許さぬ宮殿の中に、俺達は入っていく。そして更に暫く鋼鉄馬車に揺られていると、鋼鉄馬車がゆっくりと停止する。
それと同時に鋼鉄馬車の扉が開かれ、少し表情の引き締まったメーティスが声を掛けてきた。
「さあ就いたわよ。ここがテミス宮よ」
そう言ってテミス宮に視線を向けるメーティス。
その宮はグレー色の石造りの、大きな宮だった。
数々の剣を掲げた兵士の銅像の中心に、右手に剣を持ち、左手の天秤を空高くに掲げる、目隠しをされた女神の銅像が、全てを見透かす様な威厳を漂わせて、俺達を見下ろしていた。
その光景に見惚れている俺達を見て、クスッと少し微笑むメーティスが俺達を案内してくれる。
そして、豪華な部屋の一室に案内され一緒に中に入る。
「さあ、ここで時間まで待機よ。この王宮で襲われる事は無いと思うけど、私もこの部屋で時間まで待機するわ」
そう言って豪華なソファーに腰を下ろすメーティス。俺達もそれぞれソファーに腰を下ろす。
そして部屋にあった紅茶を皆の分入れてくれるリーゼロッテから、紅茶を貰い一息つく。
「今日…女王裁判に出廷するのは、ルチアさんにハプスブルグ伯爵家当主のアリスティド様、それに御主人様とナディアちゃんとユーダさん。後は…」
「後はジギスヴァルト宰相と…女王であるアウロラと最高司法議会から代表者3名。そして女王裁判の進行役であるアウロラの専属商人であるアルバラードよ」
フンフンとメーティスの言葉を聞いていたマルガは、少し顔を歪める。
「あのアルバラードさんが、女王裁判の進行役なのですかメーティスさん?」
マルガは選定戦の時の事を思い出しているのか、複雑な表情をしていた。
「…何も心配する事は無いわよマルガ。確かにアルバラードは気に食わない奴だけど、アウロラに対する忠誠は本物よ。選定戦では色々あったみたいだけど、ソレは彼なりにアウロラの事を考えていただけよ」
メーティスがそう言いながらマルガの頭を優しく撫でると、その表情を緩めるマルガ。
「とりあえず開廷されるまで再度段取りを確認しておいた方が良いですわね。女王裁判を確実に進める為に」
リーゼロッテの言葉に頷く一同は、段取りを確認していく。そして段取りを確認しながら待っていると、部屋の扉がノックされた。
「皆様、出廷の時間がやって参りました。ご案内致しますので、付いて来て下さい」
俺達はいよいよ女王裁判が始まる事を感じて、表情が引き締まる。
そして、その案内役に付いて長い廊下を歩いて行くと、視界が開けて大きな大広間に出た。
その光景を見たマルガとナディアが、キュッと俺の両袖を握っていた。
その大広間は円形をしており、中央を囲む様に千人位の人々が段々になった傍聴席に座っている。
中央には両側に分かれた席と机が有り、その中心には証言台があった。
その証言台の奥は少し高くなっていて、綺麗な装飾のされた立派な王座があり、その前に3つの豪華な椅子が並んでいる。
千人近い人々は、法廷に入って来た俺達を好奇の眼差しで見て、何かひそひそと話をしている。
俺達は緊張しながらも、用意されている俺達の席まで行き、椅子に腰を下ろす。
そして暫く待っていると、法廷がザワザワと騒がしくなる。
ふと法廷の入り口に目を見けると、ルチアとアリスティド卿、そしてジギスヴァルト宰相が法廷に現れた様であった。
ルチアはジギスヴァルト宰相をキッと睨みつけると、俺達の座っている席までやってきた。
そんなルチアを見て、ジギスヴァルト宰相はフフと口元を上げて軽く笑っている。
「きちんとここまで来れた様ね葵」
そう言って少し表情を緩めて俺の隣に座るルチア。俺が軽く頷くと、アリスティド卿も軽く頷いていた。
そんな軽く挨拶を交わした俺の手が、ギュウウときつく握られる。
ふと視線を横に落とすと、俺の手をきつく握りながら激しい瞳でジギスヴァルト宰相を睨みつけているナディアの姿があった。
俺はそんなナディアの頭を撫でていると、一際法廷が騒がしくなる。
それと同時に法廷内の全ての人々が席から立ち上がり、胸に手をかざし軽く頭を下げていた。
その皆の視線の方に振り向くと、国宝級の美しい刺繍の入った気品の有る白いドレスに身を包んだ女王アウロラの姿があった。
アウロラが王座に座ると、皆も同じ様に席に座り直す。アウロラの後ろを付いて来た3人の高齢の男性が、王座より低い位置にある前方の椅子に座ったのを確認したアウロラが口を開く。
「これより女王裁判を開廷します。アルバラード、お願いしますわ」
その声を聞いた1人の男は前に出て行き、胸に手をかざし綺麗にお辞儀をする。
「女王裁判の進行役を努めさせて頂くアルバラードです。皆様よろしくお願いします」
そう言って涼やかな微笑みを湛えるアルバラードは、俺達とジギスヴァルト宰相宰相の方を見て
「ではまず、今回女王裁判が何故開廷されるに至ったか、申請人であるアリスティド卿から説明して頂きたいと思います。宜しいですかなアリスティド卿?」
「ええ、アルバラード卿、説明させて頂きましょう」
そう言って席を立つアリスティド卿は、手に持つ書類に目を通す。
「…今回、私達が女王裁判を開廷する申請をさせて頂いたのは、メネンデス伯爵家による莫大な国家の国費の一部を横領していた事が明るみに出たからです」
そう言って説明を始めるアリスティド。
今回、メネンデス伯爵家やジギスヴァルト宰相がした事は、全て法廷で明かされる事は無い。
正確には出来ないと言った方が正解であろう。
メネンデス伯爵家やジギスヴァルト宰相が教会を通じてソレを施しさせていた事は、闇に伏されている。
バスティーユ大監獄の特別区画にあった複数の供給準備室は、そこで行われていた事を確認された後、アリスティド卿の指示で、全てを魔法で燃やし尽くされた。あの部屋で行われていた事は、一部の者しか知り得ない事となっている。
それに関わっていたモリエンテス騎士団の者達は、その殆どがマティアスやヴィシェルベルジェール白雀騎士団、エンディミオン光暁魔導師団との戦闘で死亡し、その他の者達は自滅の腕輪を身につけ、自ら自害して全てを燃やし尽くしていた。
ある程度情報の封じ込みに成功したアリスティド卿は、メネンデス伯爵家が国費を横領していた事のみの情報を流布し、情報を操作している。
極一部には、施しにソレを与えていたと噂が立ってはいたが、ヴィンデミア教教会がソレに対して何も動かない事と、ハプスブルグ伯爵家がヴィンデミア教に対して特段な対処をしていない事から、只の悪質な噂であると認識されていた。
アリスティドはバスティーユ大監獄で、メネンデス伯爵家やモリエンテス騎士団が国費を横領していた事を、実に上手く巧みにソノ事実を隠し説明している。
ある程度の情報を得て法廷に傍聴に来ているであろう千人近い有力者達は、アリスティドの説明を聞いてザワザワと話をしている。
そして、アリスティドの説明が終わり、会場に手を向け静寂にさせるアルバラードが
「…成る程、アリスティド卿の話はよく解りました。では何故ジギスヴァルト宰相をこの女王裁判に出廷させたのでしょう?この件の主犯であるメネンデス伯爵やモリエンテス騎士団の団長であるルードヴィグの行方が解らないのに」
「バスティーユ大監獄や各地の大都市の傍にある監獄や収容所は、全てジギスヴァルト宰相が統括して居るからです」
「…それはつまり、ジギスヴァルト宰相がメネンデス伯爵とモリエンテス騎士団と通じ、膨大な国費を横領していた共犯だと言いたいのですかな?」
アリスティドの言葉を聞いたアルバラードはそう言い、流し目でジギスヴァルト宰相を見る。
そのアルバラードの言葉を聞いた傍聴席の有力者達は一斉にどよめき始める。
それはそうであろう。
大国フィンラルディア王国の強大な権力を持つ六貴族にして、この大国の宰相であるジギスヴァルトがソレに加担していたとなれば、一大事である。
この法廷に来ている有力者達も、メネンデス伯爵家の関与は事実として情報を得ては居るであろうが、ジギスヴァルト宰相がこの場に呼ばれて居るのは、事実の確認のみを統括者であるジギスヴァルト宰相にさせるのが目的であると思っている者が大多数であるからだ。
ソレを統括者であると言うだけで、通じて居ると結びつけた進行役であるアルバラード。
その事は、ジギスヴァルト宰相が参考人としてこの場に呼ばれたのではなく、当事者、つまり容疑者としてこの女王裁判の法廷に呼ばれた事を意味するものになるからだった。
ソレを瞬時で理解したジギスヴァルト宰相は、クククと可笑しそうに笑う。
「…何が可笑しいのですかなジギスヴァルト宰相?」
「…いや…何時かとは逆だと感じただだけの事、気になさるなアルバラード卿」
アルバラードの言葉を聞いたジギスヴァルト宰相はそう言って、愉しそうな表情を浮かべ口元をニヤッと釣り上げる。
「…で、ジギスヴァルト宰相。貴方は…メネンデス伯爵とモリエンテス騎士団と通じ、国家の貴重な国費を…横領していたのでしょうか?」
涼やかな微笑みでジギスヴァルト宰相に、決め付けるかの様な言葉を投げかけるアルバラード。
そのアルバラードの言葉を聞いた傍聴席の有力者達が更にどよめく。
ザワザワと騒がしい法廷を見て、フフと軽く笑うジギスヴァルト宰相は静かに瞳を閉じる。
それと同時に、法廷の喧騒を切り裂く様な綺麗な中性的な声が鳴り響く。
「ソレは私から説明させて頂きましょう!」
その聞き覚えのある中性的で綺麗な声の方に視線を移すと、1人の青年がツカツカと足音をさせて法廷内に現れる。
そしてアウロラ女王の前に現れた金髪の超美青年は、片膝をつき頭を下げる。
「お久しぶりに御座いますアウロラ女王陛下、アルバラード卿」
そう言って頭を上げる金髪の超美青年は俺に振り返り、その顔に美しい微笑みを湛える。
「…君も久しぶりだね葵。おっと…今はルチア様の専任商人の葵殿とお呼びした方が良いのかな?」
「ヒュ…ヒュアキントス!?な…何故お前がここに!?」
困惑している俺の表情を見て、ニヤッと口元を上げるヒュアキントス。
「…ヒュアキントス殿、貴方は今回、この女王裁判の法廷には呼ばれていませんが?何をしに現れたのですかな?事と次第によっては…貴方を罰しなければなならなくなりますが?」
瞳を細めてヒュアキントスを見つめそう言うアルバラード。
「そこのド・ヴィルバン商組合、統括理事であるレオポルド殿の息子であるヒュアキントスは、私の代弁者として私がこの法廷に呼びました」
そう言って静かに瞳を開けるジギスヴァルト宰相。
「各法廷に於いて、法廷に出廷する者には、代弁者を立てる権利が与えられています。それは最高位の法廷である女王裁判の法廷にも与えられている権利です」
そう言って涼やかな微笑みをしながら、アルバラードを見据えるヒュアキントス。
それを聞いたアルバラードはアウロラに視線を送ると、アウロラは静かに頷いていた。
「…確かに、各法廷に出廷する者には、代弁者を立てる事を権利として与えられています。この女王裁判の法廷も例外ではありません。しかし、代弁者であるヒュアキントス殿が発言した事は、直接ジギスヴァルト宰相が発言したと同義になります。その全ての責は…貴方…ジギスヴァルト宰相に帰す事になりますが、よろしいのですか?」
「…それで構わぬよアルバラード卿。私とて代弁者の意味を知る者。良く理解して居る」
フフと笑うジギスヴァルト宰相の言葉を聞いたアルバラードは静かに頷く。
「では、私がジギスヴァルト宰相の代弁者として、この女王裁判に出廷する事は問題はありませんねアルバラード卿?」
「…そうですね、問題はありません」
そう言って瞳を細めてヒュアキントスを見つめるアルバラード。
アルバラードの言葉を聞いたヒュアキントスはフフと笑いを浮かべると、その中性的な綺麗な声を響かせる。
「では、私がこの続きを説明をさせて頂きましょう!」
そう言って法廷内を見渡しながら言ったヒュアキントスは、アルバラードに向き直る。
「…先程、まるでジギスヴァルト宰相がメネンデス伯爵達と通じ、この一件に手を貸していたかの様な事を言われましたが…アルバラード卿、貴方は大きな勘違いをしていらっしゃる」
「…それはどう言う事でしょうかヒュアキントス殿?」
少しきつくヒュアキントスを見つめるアルバラード。そんなアルバラードを見て、フフと軽く笑うヒュアキントス。
「それにはまず、私達が用意した証人にも話を聞かなければなりません」
そう言ってジギスヴァルト宰相の方にもある、自らが入って来た出入り口に目を向ける。
するとその出入り口から1人の男性が法廷に現れ、中心にある証言台にしっかりとした感じで上る。
その男性を見た傍聴席の有力者達が再度ざわめき始め驚いている。
傍聴席の人々だけではなく、ルチアやアリスティド卿は勿論の事、アウロラ女王でさえその出廷した人物を瞳を細めて見ていた。
その男性は胸に手をかざし、綺麗にお辞儀をする。
「私はモリエンテス騎士団団長、ルードヴィグ・イザークです。ジギスヴァルト宰相やヒュアキントス殿の要請により、この法廷に証人として出廷させて頂きました」
その言葉を聞いた俺とリーゼロッテが顔を見合わせる。
一体どういうつもりなんだ?
俺はメネンデス伯爵と団長であるルードヴィグは、既に国外に逃げ出しているか、ジギスヴァルト宰相によって監禁、もしくは始末されているとさえ思っていた。
それなのにわざわざこの法廷に、不利になるのを覚悟の上で証人として出廷させる意味が理解出来なかった。
法廷のざわめきを片手で制するアルバラード。
「…ヒュアキントス殿、主犯とされているモリエンテス騎士団団長、ルードヴィグ殿をこの場に証人として出廷させたと言う事は…その罪を受けさせる為と言う事でよろしいのでしょうか?」
アルバラードがルードヴィグを見つめながら言うと、軽く首を横に振るヒュアキントス。
「いいえ違います。そもそもそれこそが勘違いなのですよアルバラード殿。彼は罪人ではなくて…証人なのですよ?」
「…それはどう言う事なのでしょうかヒュアキントス殿?」
ヒュアキントスの言葉に更に瞳を細めるアルバラード。そんなアルバラードを見て一切の表情を崩さない涼やかな微笑みを浮かべるヒュアキントス。
「…事の始まりは、モリエンテス騎士団団長、ルードヴィグ殿からジギスヴァルト宰相に相談された事が始まりでした。『メネンデス伯爵様が、一部のモリエンテス騎士団を使い何かをしている』とね」
そう言ってルードヴィグの肩に手を置くヒュアキントス。
「私は主人であるメネンデス伯爵様が、モリエンテス騎士団の一部の者達を使い、何かをしている旨の情報を、私の信頼の置ける部下から報告を受けました。ソレを聞いた私は、主人に忠誠を誓う身でしたが、このフィンラルディア王国の背信に繋がる様な事は出来ないと感じ、調査を始めました。しかし、厳重に注意を払っていたメネンデス伯爵様と一部の団員達が、どの様な事をしているか迄は掴めないでいました。そこで、ジギスヴァルト宰相に相談させて頂いたのです」
「そして、相談を受けたジギスヴァルト宰相は、私や私の父に調査を依頼されました。モリエンテス騎士団の団長であるルードヴィグ殿であれば、主人であるメネンデス伯爵を調べるにしても限界が有りましたからね。ジギスヴァルト宰相のソノ依頼を受けた私と父は、影からメネンデス伯爵と一部の団員達の調査を始めたのです」
そう言ってアルバラードを見るヒュアキントス。
「そして、長い調査の結果、メネンデス伯爵が国家の貴重な国費の一部を、横領しているかもしれないと掴みかけてはいましたが、決定的な証拠が掴めないまま、時間だけが過ぎて行きました。そんな折、ルチア様とアリスティド卿が決定的な証拠をバスティーユ大監獄で見つけ、今に至って居るのです」
ヒュアキントスの説明を聞いたアルバラードは、顎に手を添えながら
「…では、ルードヴィグ殿は最初からメネンデス伯爵の不正を暴く為に、ジギスヴァルト宰相や貴方方と共に行動していたと言う事なのでしょうか?」
「そうです。アルバラード卿の言う通りですね」
ヒュアキントスは涼やかな微笑みをしてアルバラードを見据えていた。
その話を全て聞いたルチアがギュッと握り拳に力を入れていた。
…そうきたか。
自分達もハプスブルグ伯爵家やルチアと同じ様に、メネンデス伯爵家の不正を調べていた。
とんだ茶番だ。そう素直に思う。
ふとルチアとアリスティド卿の顔を見ると、それが解るかの様なキツイ表情をしていた。
「それでは、何故私達に声を掛けてくれなかったのでしょうか?ジギスヴァルト宰相や沢山の情報網を持つ大商組合であるド・ヴィルバン商組合、統括理事であるレオポルド殿や、その息子である貴方が私達に協力して頂ければ、もっと早くにメネンデス伯爵の不正を暴く事が出来たかも知れませんが?貴方方の事だ、私達がメネンデス伯爵家を調べている情報も掴んでいたのではありませんか?」
そう言ってキツイ口調でヒュアキントスを問い詰めるアリスティド卿。
そんなアリスティド卿を見てフフと軽く笑うヒュアキントス。
「ええ、確かに正義の象徴であるハプスブルグ伯爵家とルチア王女様が、メネンデス伯爵家を調べている旨の情報は掴んでいました。しかし、相手は私達やアリスティド卿ですらなかなか情報を与えぬ程、用心深く行動をしていました。確かに私達はアリスティド卿方との合流も考えましたが、別々の方法を敢えて取らせて頂きました」
「…それは、何故でしょうか?」
声を低くしてヒュアキントスに問いただすアリスティド。
「…それは、別々の方向から調べた方がメネンデス伯爵を追い詰める事が出来ると思ったからですよ。伏兵は敵に多大な被害をもたらす事が出来ますが、伏していなければその効果はありません。つまり、そう言う事です。相手が手強かったのは、実際調べていたアリスティド卿も解っているはずです。…むしろ良くバスティーユ大監獄で、メネンデス伯爵の拠点とも言える場所を発見出来た事が驚きですね」
そう言ってニヤッ嗤いながら俺に視線を向けるヒュアキントス。
「…バスティーユ大監獄や他の監獄を統括していたジギスヴァルト宰相が、バスティーユ大監獄のあの区画を知らなかったのでしょうか?」
「それについては、実際に突然視察に行かれたルチア様やアリスティド卿でさえ、あの区画を発見できなかったのでしょう?隅々まで視察されたルチア王女様やアリスティド卿が発見出来なかった位です。ジギスヴァルト宰相がその存在を知らなくても何ら不思議ではない。それにあの区画は、ジギスヴァルト宰相が統括に任命される遥か以前からあった物らしいですね。その秘密を知る者は今となっては居なかったはずらしい。何せバスティーユ大監獄が造られた時の代物らしいですからね。何百年も放置されていたあの区画の存在を、メネンデス伯爵がどうやって知ったか…調査が必要でしょうね」
アリスティドのキツイ口調の言葉を聞いても、涼やかな微笑みを一切崩さず、淡々と説明をするヒュアキントス。
このヒュアキントスの事だ、この場に出てくる位なのだから、十分に女王裁判の対策を練って来ているであろう。
これ以上、決定的な証拠や証言がない限り、ジギスヴァルト宰相を追い詰める事は不可能であろう。
俺がその様な事を考え始めた時、バンと机を叩き、立ち上がるルチアが口を開く。
「良く解ったわヒュアキントス。今度はこちらの証人の話を聞いて貰うわ。下がって貰えるかしら?」
きつい口調で言ったルチアの言葉を聞いたヒュアキントスは、仰せのままにと言うと、ルードヴィグと一緒にジギスヴァルト宰相の側の席に戻っていく。
それを確認したルチアは、目でアリスティドに合図を送ると、それに頷くアリスティド。
俺はルチア達が一気に攻勢に転じるのだと感じ、話を聞いていた。
「では、今度はこちらの証人の話を聞いて頂きましょう」
そう言ったアリスティドはユーダの肩にそっと手を置く。
ユーダは緊張気味に俺やルチアを見て、静かに立ち上がる。そして、アリスティドと共に証言台に上がるユーダ。
「わ…私はユーダと申します」
そう言って少し震えながら深々と頭を下げるユーダ。
「このユーダさんは、メネンデス伯爵に捕まって、バスティーユ大監獄の例の区画に監禁されていた所を、ルチア王女様の専任商人である葵殿に救われた方です。彼女は非常に重要な情報を得ています。それを…これからこの場で…証言して頂こうと思います」
アリスティドがそう説明すると、当然の様にヒュアキントスが口を開く。
「…その女性、貴族の方でもなんでもない只の平民の女性とお見受けしますが、その女性は、この法廷の最高位であるこの女王裁判で証人として、相応しい方なのでしょうか?重要な証言をお持ちとの事でしょうが…その信憑性は…大丈夫なのですかね?」
少し薄ら笑いを浮かべるヒュアキントス。
当然、ヒュアキントス達はユーダの事を理解している。
そりゃそうだ、自分達が捕まえ監禁させたのだから。
ユーダが持っている証言が、如何に自分達に不利に働くかは、十二分に理解しているであろう。
なので、ユーダの証言を如何に潰すかが、ヒュアキントス達の1番の懸念で、1番重要としている所だ。
ユーダの証言の信憑性を如何に潰せるか…
ヒュアキントス達はこれに全力をかけてくるであろう。
「それは心配しなくて大丈夫よヒュアキントス。彼女は私の専任商人である葵達の信頼のおける仲間であり、実際にグリモワール学院の宿舎から攫われて、バスティーユ大監獄に捕らわれていたわ。それは私やアリスティド卿が確認をしているわ。それに、実際にグリモワール学院から攫われた事や、助けだされた事は、ここにいるグリモワール学院の統括理事であるメーティス卿や私の専任商人である葵が今から証言するわ!」
そう言い放ったルチアが俺とメーティスに視線を向ける。
俺とメーティスは席から立ち上がり、同じ様に証言台に上がると、攫われた経緯や助け出した時の事を細かく聞かれる。
俺は例の事は伏せて、話せる部分だけを説明し、自分の席にメーティスと一緒に戻る。
「…成る程、良く解りました。確かに不自然な所は見受けられませんが?」
そう言って話を聞いたアルバラードが、流し目でヒュアキントスを見る。
「…確かに攫われた経緯や助けだされた方法や状況も解りました。ですが、それとその女性が信頼出来る人物であると結びつくのでしょうか?」
そう言って少し嘲笑うかの様なヒュアキントスを見て、ルチアが表情をきつくする。
「…彼女が信頼出来る人物である事は、このフィンラルディア王国の王女である私や、ハプスブルグ伯爵家当主であるアリスティドも認めているわ。…ヒュアキントス貴方は、王女で有る私や、アリスティドが認める証人を認めないと言うのかしら?つまりそれは、王女である私や六貴族であるアリスティド卿を認めないと聞こえるのだけど?」
少し低い声で言ったルチアのその言葉を聞いたヒュアキントスは
「…別にそう言う訳ではありませんよルチア王女様。只、この女王裁判に相応しい人物であるか、聞きたかっただけです。…その女性が信用出来る人物であると…ルチア王女様やアリスティド卿が認めているのであれば…問題はありません。…本当に信じて良いのですねルチア王女様?」
「ええ!大丈夫よ!ユーダが信用の出来る人物である事は、フィンラルディア王国の王女の名をかけて、宣誓するわ。アリスティドも同じ気持ちよ」
そう言ってアリスティドにルチアが振り向くと、同じ様に頷いているアリスティド。
「…解りました。王女の名と正義の象徴の名をかけると言われるのなら…私にはこれ以上言う事はありません。…その女性に証言をして貰って下さい」
そう言って、涼やかな微笑みを湛えていたヒュアキントスが、一瞬俺に視線を合わせる。
その時、俺はヒュアキントスの表情に薄ら寒いモノを感じた。
「ではユーダさん、話して頂けますか?」
アルバラードの優しいその言葉に、恐る恐ると言った感じで口を開いていくユーダ。
「私は…」
ユーダはグリモワール学院でどう言った経緯でバスティーユ大監獄に連れ去られたかを説明を始める。
その内容は打ち合わせをした通りで、ルチアも俺達も予定通り事が進んでいると感じていた。
そして俺と視線を合わすリーゼロッテは、ヒュアキントスが如何にユーダの証言の信憑性を潰してくるかと、そんな思いで顔を見合わせていた。
「解りました。貴女が攫われた経緯は良く理解出来ました。…それで、その攫われたバスティーユ大監獄で…誰に会って、どの様な話を聞かれたのでしょうか?」
アルバラードのその言葉を聞いたユーダはビクッと身体を震わせる。
…いよいよだ。皆がそう感じた時、少し震えているユーダが俺の方を向き、悲しそうな儚い表情を浮かべる。そして、アルバラードに向き直り、説明を始めるユーダ。
「私は…囚えられている部屋で…メネンデス伯爵に会いました。そして…この部屋で大人しくしていれば命は取らないと言われました」
「…成る程、それから、そのメネンデス伯爵は…どの様な事を言いましたか?それに他に…誰かと会いませんでしたか?貴女の知った話を全て偽りなく証言して下さい」
そのアルバラードの言葉を聞いたユーダは、キュッと唇を噛み締めている様に見えた。
暫くそうやって俯いていたユーダは静かに顔を上げ、ゆっくりと話し始める。
「メネンデス伯爵は…部下の兵士に色々と指示を出していました。色々と支持を出していましたが、一番注意を払っていたのは、メネンデス伯爵を調べているルチア王女様達と…ジギスヴァルト宰相様達の動向に注意せよと指示を出していました。絶対に国費の横領をルチア王女様方やジギスヴァルト宰相様達に見つかる事が無いように…徹底して指示を出していました」
ユーダは震えながらも皆に聞こえる様に証言する。
その証言を聞いていた俺は、当然その打ち合わせと違う証言に呆然となる。
…え!?
ジギスヴァルト宰相が同じ様に調べていた!?
ジギスヴァルト宰相はメネンデス伯爵と共謀して、俺達の警戒をしていたはずなのに!?
俺が混乱しながらその様な事を考えている間にも話は進んでいく。
「…メネンデス伯爵は…確かにそう言ったのですね?」
少しキツイ口調のアルバラードに、身体を少しビクッさせているユーダは話を続ける。
「…はい…そうです」
「メネンデス伯爵の他に…他の誰かに会いませんでしたか?」
「いえ…メネンデス伯爵の他は…伯爵の部下である兵士だけです」
「…メネンデス伯爵の他に…この場に居る者を見た…そう言う事はないのでしょうか?」
そのアルバラードの言葉を聞いたユーダは軽く辺りを見回し、
「…いえ、この場に居る人には会った事はありません。メネンデス伯爵のみです」
そうきっぱりと証言したユーダの言葉を聞いたヒュアキントスが、ニヤッと口元を上げる。
「…この場に居るものには会った事は無い。貴女の話を聞くに…メネンデス伯爵が主犯であるととれますが…貴女はどう思いましたか?」
ヒュアキントスのソノ質問に軽く俯くユーダは、
「…私もそう思います。メネンデス伯爵が全ての指示を詳細に出していました。全てメネンデス伯爵の思惑で…動いていたと様に感じました…これ以上は…私には解りません」
そうか細い声で言ったユーダ。
「ユーダさん!!何故ですか!?どうして…どうしてその様な証言を!?」
俺はほぼ無意識にそう叫んで自分の席を立っていた。そんな俺を悲しそうな儚げな表情で見つめるユーダは激しく瞳を揺らす。
その次の瞬間、俺は強引に腕を引かれ席に着席させられる。ドカッと椅子に腰を下ろされる俺。
俺は腕をキツク掴むその痛さに振り向くと、ルチアがその唇をキュッと噛み締め、キツイ瞳でジギスヴァルト宰相とヒュアキントスを睨みつけていた。
その意味の解らない俺に、全てを一瞬で理解したリーゼロッテが軽く首を横に振り、俺の肩に優しく手を置く。
な…何故…ユーダさんはあんな証言を!?
ユーダさんの証言で、ジギスヴァルト宰相達を一気に追い詰めるはずだったのに!?
それなのに…何故…ジギスヴァルト宰相を守る様な証言を!?
俺がその様な事を思い混乱していると、視線を感じた。
その視線に気がついた俺がそちらに目を見けると、金髪の超美青年が悪魔の様な微笑みを湛えていた。
「ま…まさか…お前が…?」
掠れる様なその声を出して脱力している俺を見たヒュアキントスは、恍惚の表情を浮かべる。
そのヒュアキントスの表情を見た俺は、噛み合わなかった歯車が合わさるのを感じる。
そして激しく睨み、全てを俺が理解したと感じたヒュアキントスは、口元をニヤッと釣り上げる。
「…成る程、確かに重要な証言でしたね。やはり私達の調査の通り、メネンデス伯爵が全ての黒幕として指示を出していましたか」
そう言って、複数の羊皮紙を持ちながら、ゆっくりと証言台にやってくるヒュアキントス。
「…私達はメネンデス伯爵の身柄を押さえています」
そのヒュアキントスの言葉にざわめく法廷。
「…私達はルチア王女様達がバスティーユ大監獄で証拠を掴んだ後、メネンデス伯爵の行方を追っていました。そして、ルードヴィグ殿の協力もあり、その行方を掴んだのです」
「…それで、その当事者であるメネンデス伯爵はどこに居るのでしょうか?出来れば、この女王裁判の法廷に連れて頂きたいのですが?」
アルバラードの低いその声を聞いたヒュアキントスは軽く首を横に振る。
「それは…出来ません」
「何故でしょうか?」
「…私達がメネンデス伯爵の行方を掴み、その館にたどり着いた時には…彼は…自害していました。恐らく…もう逃げられないと、覚悟したのでしょう。ですから、この女王裁判の法廷に出廷させる事は出来ないのです」
そう言って軽く両手を上げ苦笑いをするヒュアキントス。
「…まあ、メネンデス伯爵の亡骸は棺に入れて、このテミス宮の別室に運んで有ります。その亡骸で良ければ…この女王裁判の法廷に出廷させますが?」
「…解りました、後で確認させて頂きます」
淡々と言うアルバラードを見て、フッと軽く笑うヒュアキントス。
「そして、その突き止めたメネンデス伯爵の隠れ家で、彼の行なっていたと思われる、国費の横領の証拠を掴んだ羊皮紙がこれになります」
そう言って羊皮紙の束をアルバラードに手渡すヒュアキントス。
アルバラードはその羊皮紙の内容を確認すると、アウロラの前に座っている最高司法議会の代表者3人に手渡す。それを確認した最高司法議会の代表の3人はソレをアウロラに手渡す。
アウロラもその羊皮紙に目を通していく。
「その羊皮紙を見て貰えれば、メネンデス伯爵が国費を横領していたのは明白。…まあ、最終的にその横領した国費が何処に流れていたかは、まだ調査中ですがね」
そう言ったヒュアキントスは一歩前に出て、キツイ表情をアルバラードに向ける。
「これで、全て解って貰えたのでは無いでしょうかアルバラード卿?私達の話も、ルチア王女様やアリスティド卿がその名前と誇りを賭けて証人として証言させた、ユーダさんとの話とも合っています。私達を疑っていた事は気にはしていません。伏していたのですから。なれど、ジギスヴァルト宰相がこの国を憂い、アウロラ女王陛下に忠誠を誓っているのは真の事実!ソレは明白は証拠と証言の上に知ら示されています!…どうか…良き裁きを!!!!」
ヒュアキントスは一気に甲高い声で、この法廷に居る全ての者に知らしめるが如く、その中性的で綺麗な声を響かせる。
その言葉を聞いたアルバラードがアウロラに視線を投げかけると、軽く頷くアウロラ。
それを見たアルバラードは、王座の前に座っている最高司法議会の代表の3人に近寄る。
すると最高司法議会の代表の3人は王座の傍まで近寄り、アウロラと話をし始める。
暫く話をしていたアウロラと最高司法議会の代表の3人であったが、話が終了したのか最高司法議会の代表の3人は自分達の席に帰っていく。
そして、軽く瞳を閉じるアウロラは、ゆっくりとその瞳を開く。
「…沙汰を言い渡します。…国費を横領していたメネンデス伯爵家は、取り潰しの上、その家族共々その罪を与えます。更にそれに加担していた者達も全てその罪を与えます」
そのアウロラの言葉を聞いた法廷はざわつくが、アルバラードの制止される。
そして再度鎮まりかえった法廷に、女王の声が響く。
「…この一件は、まだ解っていない事があります。アリスティド卿とジギスヴァルト宰相は互いに協力して、全ての情報を共有し、事の解明にあたって下さい。…アリスティド卿、ジギスヴァルト宰相、頼みましたよ」
「「は!仰せのままに!!」」
声を揃えるアリスティド卿とジギスヴァルト宰相。
それを見て軽く溜め息を吐くアウロラは、王座から立ち上がり、
「これにて、法廷は閉廷します。皆、大儀でありました」
そのアウロラの言葉を聞いた法廷から拍手が鳴り響く。
そのテミス宮を揺るがし、全ての事実を押し流すかの様な拍手の波が、ひとつの声で切り裂かれる。
「嘘だ!!!!そんなの嘘だ!!!!!」
魂の慟哭の様なその咆哮に、法廷に沸き起こっていた拍手が鳴り止む。
それは俺の横に座っていたナディアが、法廷の中心に飛び出し叫んだからであった。
「嘘だ!…お前等は…私の大切な仲間を…鋼鉄馬車で攫って…非道い事をして…殺した!!!!」
そう言ってジギスヴァルト宰相やヒュアキントスをキツク睨めつけながら、ちっちゃな手で指をさすナディア。
「お前達は…悪者だ!!!何故…なぜ…お前達の様な者が助かって…コティー達が…死なないといけないの!?…そんなの…嘘だ!!!!」
そう言って大粒の涙を流しながら、激しく言い立てる。
「…許さない。…コティー達の…仇!!!!!!」
そう声高に叫んだナディアはジギスヴァルト宰相目掛けて飛びかかっていく。
それを見た護衛の兵士が剣を抜き、ナディアに斬りつける。
そして、その剣先から鮮血が飛び散る。
「…すいません、ジギスヴァルト宰相。この子はまだ歳も若く、何も解っていないのです」
跳びかかるナディアを抑えこみ、ナディアを抱く様に守った俺は、肩口に兵士の剣を受けていた。
かなり深く斬られたのか激しい痛み共に夥しい血が流れ出し、その血が腕に伝いナディアの顔に流れる。
「…この子は過酷な環境で生きてきて…教育をまだしっかりと受けていません。この子は…誤解しているだけなのです。…どうか…お許しを…」
そう言ってナディアを抑えながら、俺は片膝をつき、血を流しながら深々と頭を下げる。
その流血沙汰に一瞬静まり返っていた法廷であったが、その静寂を綺麗な中性的な声が打ち破る。
「…ジギスヴァルト宰相許して上げては如何でしょう?どうやら教育を満足に受けてはおらぬ亜種族の子供の様ですし。それに、ルチア様の専任商人である葵殿が、こうも頭を下げて居るのですから」
ヒュアキントスのソノ言葉を聞いたジギスヴァルト宰相は、ニヤッと口元を上げる。
「…まあ、女王裁判の開廷中であれば、法廷を汚した罪をその死を持って償わさなければならぬが、法廷はもう閉廷している。私を侮辱した事も、教育を満足に受けていないなら仕方無い。我らは弱者に寛容でなければならぬからな。葵殿が頭を下げている事であるし…今回は特別に許してやろう」
そのジギスヴァルト宰相の言葉を聞いた兵士は、俺の肩に突き刺さる剣を引き抜き、鞘に収める。
「…ありがとうございますジギスヴァルト宰相。その慈悲に感謝致します」
頭をあげずにそう言った俺の言葉を聞いて、フフと笑うジギスヴァルト宰相は出口に向かう。
それを見て、事が収まったと感じた法廷内の人々は、ザワザワと話をしながら退廷していく。
許して貰えた事に安堵している俺の元に、マルガとリーゼロッテが急ぎ駆け寄ってくる。
「ご主人様!大丈夫ですか!?」
「すぐに治療しますわ葵さん」
そう言って俺に治癒魔法をかけて行くマルガとリーゼロッテ。
「そ…空…」
やっと声を出せる様になったナディアが、大粒の涙をポロポロと流しながら俺にしがみつく。
「ごめんなさい…空…」
「…ナディア…」
俺は泣きじゃくりながら胸にしがみ付くナディアをしっかりと抱きしめる。
そんな俺達を、激しく瞳を揺らしながら見つめているユーダ。
傷を回復して貰った俺は、ユーダに近づこうとして、その前に立ち塞がる人物に目を向ける。
「…ユーダさん、貴女の事は私達がこれから保護しましょう。貴女の家族共々、生まれ故郷に送らさせて頂きましょう」
俺の前に立つヒュアキントスが、ユーダを見て涼やかな微笑みを浮かべる。
「ユーダさんは、俺達の仲間だ!ユーダさん…そうだよね?」
俺のその声を聞いたユーダは、その瞳を潤ませ俯く。
「…私は…ヒュアキントス様に…今後保護して頂きます」
微かに声を出したユーダの言葉を聞いたヒュアキントスは、ニヤッと口元を上げる。
「解りました。ユーダさんの保護は私達が責任をもってさせて頂きましょう。では…行きましょうか」
そう言ってヒュアキントスに肩を抱かれながら退廷していくユーダ。
「ユーダさん!!!」
その声に振り向かず、俯きながら法廷を出て行ったユーダ。
俺はマルガとリーゼロッテに手を引かれながら、ルチア達の元に戻っていく。
「離して!!」
法廷を出て廊下を歩くユーダは、ヒュアキントスの手を振り払い声高に叫ぶ
「…これで…私の主人と娘は…返してくれるのでしょうね?」
涙を流しながらヒュアキントスにきつい口調で言うユーダ。
それを聞いてフフと笑うヒュアキントス。
「それは勿論。貴女は非常に良い仕事を今迄してくれましたからね。…すぐに…主人と娘に会わせて差し上げますよ」
そう言って涼やかな微笑みを浮かべるヒュアキントスを只々睨みつけているユーダは、ヒュアキントスと共にテミス宮から出て行くのであった。
俺は今、バレンティーノ宮殿の門の外に1人立っている。
どうしてもユーダがした事が納得できなくて、ユーダに一目あって真実を聞きたかったのだ。
マルガ達は王宮にある客間で待機してもらっている。
ユーダの話を他の皆に聞かせて良いか悩んだ末、俺1人が向かう事にした。
暫く待っていると、ヒュアキントス達を乗せた豪華な馬車が、護衛の兵士達と共に門から出てきた。
俺はその前に立ち、進路を阻む様に立ち塞がる。
「なんだ貴様は!我らの進路を阻むのなら…容赦はせぬぞ!!」
そう言い払って、俺を取り囲む兵士達。
その様子に気がついた金髪の美青年が、豪華な馬車から降りてきた。
「…おやおや葵殿ではありませんか。どうなされたのですか?」
淡々と言うヒュアキントスに苛立ちを感じながら
「…ユーダさんに合わせろ!…2人だけで話したい事がある!」
その言葉を聞いたヒュアキントスはフフと笑う。
「もう彼女との話は終わっているはずですが?」
「いいから話をさせろヒュアキントス!!!」
俺の甲高い声を聞いたヒュアキントスは軽く溜め息を吐く。
「…彼女は女王裁判の法廷で証言をした。まだ生き残っているかもしれないメネンデス伯爵家の者達によって、報復される可能性がある。警護中なのですがね?」
「解っている!だから…少しで良い!…話をさせろヒュアキントス!」
その激しく睨む俺を見たヒュアキントスは再度深い溜息を吐く。
「…仕方ないですね。まあ良いでしょう。貴方達は下がりなさい」
そう言って兵士達を下がらせるヒュアキントス。
そしてヒュアキントスは豪華な馬車の中を覗きこむと、ユーダを外に連れ出す。
俺の顔を見たユーダは瞳を激しく揺らしていた。
「…ユーダさん…」
俺はその切なそうなユーダの顔を見て、静かにユーダに近寄る。
そんな俺達を、少し離れて見ているヒュアキントスと護衛の兵士達。
俺はユーダの傍に近寄ると、その手を握る。
「…ユーダさん。貴女は俺達の仲間だ。…一体…何があったのですか?」
その言葉を聞いたユーダは、その瞳を潤ませる。
「わ…私は…」
そう言って、ユーダがか弱き声で離そうとした時であった。
高速で風を切る音が一瞬聞こえたと思うと、次の瞬間、ユーダの胸に数本の弓矢が突き刺さる。
「ユーダさん!!!」
俺は倒れそうなるユーダを抱える。
弓矢は正確に心臓を貫いていて、ユーダの胸からは大量の血が流れ出す。
「ユーダさんしっかりして!今治癒魔法を使える人を…」
そう言いかけた所で、口から血を吐くユーダが、俺の手をキュッと握り締める。
「あ…葵さん…ご…ごめん…な…さい。わ…私…主人と…娘を…奴ら…に…」
「しっかりして!ユーダさん!!誰か!ユーダさんに治癒魔法を!」
俺の叫びを聞いて顔を見合せている兵士達は、その場を動こうとはしなかった。
「…ああ、愛しいグエン…ルル…これで…」
虚ろな瞳でそう言ったユーダは、口から血を吐き俺の腕の中で事切れる。
「ユーダさん!!!」
俺がユーダを抱きしめていると、フフと笑うヒュアキントス。
「…だから言ったではありませんか。彼女は護衛中だと。貴方がこの様に話をしなければ…彼女は死なずに済んだのですがね」
そう言ってニヤッと口元を上げるヒュアキントス。
その言葉を聞いた俺は、全身が逆立つ怒りが湧き上がる。
「…お前なんだな?…お前が…お前が全て仕組んだのだなヒュアキントス!!!」
激昂して言う俺を観て、愉しそうな顔をするヒュアキントス。
「…何がですか?」
「ユーダさんの事も、女王裁判の事も全てだ!俺達の傍で…ユーダさんを監視として置き、情報を流させ、俺達が女王裁判を申請事を解っていたお前は、その女王裁判で勝利を確実にする為に、ユーダさんに決定的な証言をさせた!その上…ユーダさんを!!!!!」
俺の歪む顔を見て、恍惚の表情を浮かべるヒュアキントスはクククと嗤う。
「…何の事を言っているのか解りませんね。私は只、ジギスヴァルト宰相の要請で動いていただけ。それだけの事ですよ」
そう言って愉しそうに嘲笑うヒュアキントス。
「…貴様!!!」
俺がユーダを地面に置き、ヒュアキントスに飛びかかろうとした時であった。
両側から俺を抑えこむ柔らかい感触が伝わってきた。
「ご主人様ダメです!」
「そうですわ葵さん、落ち着いて下さい」
俺はマルガとリーゼロッテに両側から抑えこまれていた。
それを見たヒュアキントスは気に食わなさそうにフンと鼻を鳴らす。
「…その女性の亡骸は貴方に預けましょう。護衛の必要がなければ…私とは関係ないですからね」
そう言って豪華な馬車に乗り込むヒュアキントス。
「待て!まだ話は終わっていないぞヒュアキントス!!!」
叫ぶ俺に一切振り返らないヒュアキントスを乗せた馬車は、護衛の兵士と共に遠ざかっていく。
「もっと早くに…私とリーゼロッテさんが来れば…」
そう言って可愛い瞳に涙を浮べているマルガは、事切れている涙に瞳を濡らしているユーダの亡骸を見つめていた。
「…とりあえず、皆の所に戻りましょう」
そう言って俺の肩を優しく抱き寄せるリーゼロッテ。
俺はユーダの亡骸を抱え上げ、皆の元に戻るのであった。
「…これで、あの女の始末も出来ませたし、全て終了ですねヒュアキントス?」
真っ赤な燃える様な髪の美青年がヒュアキントスに言う。
「そうだねアポローン」
アポローンの言葉に、恍惚の表情を浮かべるヒュアキントス。
「随分と嬉しそうだね。あの葵の歪む顔を見れたのが、そんなに嬉しかったのかい?」
その言葉を聞いたヒュアキントスはフッと笑う。
「…まあ、選定戦での借りは返せたかな?まだまだ返し足りないけどね。それはまた次回だね」
そう言って再度恍惚の表情を浮かべるヒュアキントス。
「…そう言えば、あの始末した女の攫った家族はどうなったんだいヒュアキントス?」
「さあ?あの女は、ジギスヴァルト宰相が用意したからね。僕には解らないんだよ。まあ…ジギスヴァルト宰相事だ、もうとっくの昔に供給準備室送りになってるだろうさ。今頃あの世で家族の対面でもしているんじゃないかい?」
ヒュアキントスの言葉を聞いたアポローンは軽く溜め息を吐く。
「…弱者は常に奪われるだけなのさ。奪われるのが嫌なら、強者になるしか無い。僕たちは常に奪う側の強者でいたいものだね」
そう言って軽く笑うヒュアキントスに頷くアポローン。
「とりあえずは、父の元に向かおう。僕達には次の仕事が待っているからね」
ヒュアキントス達を乗せた馬車は、優雅に婿敵の場所に向かうのであった。
客馬車で宿舎に無事に戻って来れた俺達は、寛ぎの間に雪崩れ込む様に入り込んだ。
俺達の帰りを心配しながら待っていたステラ、ミーア、シノンの3人が、何事かと部屋の入口に目を向ける。
明らかに戦闘が合ったと思われる俺達の服装の汚れを見たメーティスが、腕組みをしながら瞳を細めていた。
「…葵ちゃん…何かあったの?」
静かにそう言ったメーティスの言葉を聞きながら、俺は胸に抱きかかえて憔悴しきっているマリアネラをソファーに座らせる。
「…ええ少し。…とりあえずゴグレグさん、マリアネラさんを部屋に連れて行って休ませてあげて下さい」
「…承知した」
言葉少なげにそう言ったゴグレグは、マリアネラの肩を支えながら寛ぎの間から出て行く。
「ステラ、ミーア、シノンは、怪我をしているマルコと魔法師団の人を、部屋に連れて行って休ませてあげて。魔法である程度応急処置はしてるけど、本格的な治療はまだだから」
「「「はい!葵様!」」」
声を揃えて返事をするステラ、ミーア、シノンの3人は、マルコと魔法師団の2人に肩を貸しながら部屋を出て行く。
それを確認した俺は疲れが一気に出てきて、ドッとソファーに座り込む。
そんな俺の両隣にマルガとリーゼロッテも疲れた表情で座っていた。
「…で、葵ちゃん何が合ったの?」
「…それは私から説明しますわメーティスさん」
綺麗な声を響かせるリーゼロッテが、俺の代わりに事の次第を説明してくれる。
リーゼロッテの話を静かに聞いていたメーティスの表情が険しくなる。
「…そう、テトラグラマトンラビリンスがね…」
「メーティスさんはテトラグラマトンラビリンスを知ってるのですか?」
マルガの言葉を聞いたメーティスは、より一層表情を険しくする。
「…知っているわ。と言うか…戦った事があるのよ。私がまだ…リーゼロッテ位の歳の頃の話だけどね。当時の私は自分の力に過信していたのね。強者と戦いたかった。そこで噂に聞いていたテトラグラマトンラビリンスの内の1人に戦いを挑んだの」
「そ…それで…どうなったのですかメーティスさん?」
マルガの好奇心の篭った言葉に、軽く笑うメーティスは
「…何も出来なかった。私は命からがら転移のマジックアイテムを使って脱出したわ」
「そ…そんな…メーティスさんが何も出来ないなんて…」
マルガの困惑した言葉を聞いたメーティスはフフと笑う。
「ま…若気の至りと言うやつかしら?テトラグラマトンラビリンス達はLVは勿論の事、強力で特殊なレアスキルを持っている者が多いらしいわ。私と戦ったテトラグラマトンラビリンスも強力なレアスキルを持っていたと思う。どんなレアスキルかは解らないけど、当時の私が何も出来ない様な物をね…。今は彼らも代替わりをして人も変わって居るでしょうけど…その異常な強さは変わっていないと思うわ。それは実際に戦った貴方達なら良く解るでしょう?」
メーティスの言葉を聞いたマルガはコクコクと頷き、リーゼロッテも静かに頷いていた。
「…そう言えばジェラードさんは、女神アストライアの御使いに力を授けて貰ったって言ってましたけど…どんな御使なのでしょうねご主人様?」
俺を見て可愛い首をかしげるマルガに、さあ?と苦笑いをする俺。
「…光の精霊長ヴィシュヌかもしれないわね」
俺とマルガを見ていたメーティスが囁く様に呟く。
「光の精霊長と言う事は、神聖オデュッセリアの守護神のですか?」
「そうよリーゼロッテ。各精霊の長は属性以外に特殊な力を持っているの。光の精霊長ヴィシュヌはレアスキルを与える事が出来ると噂で聞いた事があるわ。只、誰にも与えられる様なものではなくて、実際にレアスキルを発現出来る者は極々一部の者だけだと聞いたけどね」
メーティスの説明になるほどと頷く俺とマルガ。
「…兎に角、これで誰が内通者でであるか解ったわね。まさかマリアネラの長年深い親交の合った人物がソレだとは思いもしなかったけど。…彼女…立ち直ってくれると良いわね」
そう言ってマリアネラ達が出て行った扉を見つめ、儚そうな表情をするメーティス。
「この件は私からルチアに報告しておくわ。葵ちゃん達は疲れたでしょう?ゆっくりと休みなさい。明日は女王裁判が控えているんだから」
メーティスの言葉に頷く俺達は重い足取りで自分の部屋に戻る。
そんな俺達の後ろ姿を見ていたメーティスは深い溜息を吐く。
「…全く、やってくれるわね神聖オデュッセリアも。まあ…今に始まった事じゃないけど」
そう言って寛ぎの間の窓を見て、朝日が登るのを見つめているメーティス。
「…だけど、私もあの頃の様な小娘では無いわ。これ以上好き勝手には…やらせないわよ?」
そう言って朝日をも凍りつかせる様な眼差しをするメーティスは、静かに寛ぎの間を出て行くのであった。
今日は女王裁判がヴァレンティーノ宮殿のテミス宮で開かれる日だ。
用意をした俺達が食堂に降りると、威厳と気品の有る礼服を着ているメーティスが優しく微笑みかけてきた。
その何時もと違う装いのメーティスを見たマルガは、大きな可愛い目をパチクリとさせていた。
「何か…いつもとは違うのですメーティスさん!」
「あら?いつもとそんなに変わらないと思うけど?」
そう言いながらクルッと回り綺麗にお辞儀をして、妖艶で美しい微笑みを湛えるメーティス。
それを見て羨ましそうな顔をして居るマルガは指を咥えていた。
そんなマルガをクスクスと笑っている皆を感じて、マルガはペロっと可愛い舌を出して少し赤くなっている。
「じゃ、早く朝食を食べちゃって葵ちゃん。女王裁判の開廷は朝刻の5の時(午前10時)よ。もう既にこちらの準備は出来ているから、朝食を食べたらすぐにヴァレンティーノ宮殿に向かうわ」
メーティスの言葉に頷く俺達はステラ達から朝食を貰い、食べ始める。
その食べている間に女王裁判での段取りを再度確認し、食べ終わった俺達は宿舎の外に出る。
そして宿舎の外に出て、その光景を見た見たマルガは感嘆の声を出す。
そこには、素晴らしい鎧を身に纏い、規律正しく並んでいるエンディミオン光暁魔導師団の姿があった。
人数にして300人は居るであろうか?その中央には、エンディミオン光暁魔導師団の紋章の入った、綺麗な装飾のされた大きな鋼鉄馬車があり、宿舎から出てきたメーティスを見て各々が持つ武器を胸にかざして一斉に敬礼をしていた。
瞳を真ん丸にしているマルガを見て、クスッと軽く笑うメーティスが
「葵ちゃん達は鋼鉄馬車に乗り込んで頂戴。私はこの鋼鉄馬車の御者台に座るから」
「え!?メーティスさんが御者台にですか!?」
少し戸惑っているマルガの頭を優しく撫でるメーティス。
「…確かに私も女王裁判に出廷する身分だけど、今は貴方達の護衛が最優先。鋼鉄馬車の中に居たら、いざという時に戦いにくいでしょう?そう言う事よ」
そう言って優しい微笑みを向けるメーティスは、俺達の背中を押して鋼鉄馬車に乗せる。
そして、俺達が乗り込んだのを確認して鋼鉄馬車の扉を閉め、御者台の護衛者専用の席に飛び移ると、魔法師団に向き直る。
「ヴァレンティーノ宮殿に向かうわ!この鋼鉄馬車を中心に、鷹の陣形にて移動を開始して!進路を阻む者や、襲ってくる者には容赦する必要は無いわ!…全軍進め!」
メーティスのソノ言葉を聞いた魔法師団達は素早く陣形を組むと、ゆっくりと進み出す。
その言葉を鋼鉄馬車の中で聞いていた俺達も、いよいよ事が進みだす緊張感に包まれていた。
「ユーダさん大丈夫ですか?」
女王裁判に刻一刻と近づいているのを感じているのか、緊張して少し震えているユーダが気になって声をかけた。
「は…はい、だ…大丈夫です」
少し弱々しくそう言いながら、緊張した面持ちのユーダ。
今日の出廷は俺達からは、俺、ユーダ、ナディアの3人が、出廷して法廷で証言する事になっている。
マルガとリーゼロッテは俺達の護衛と言う名目で、出廷を許可されている。
本来ならマルコも護衛としてついてくる予定だったが、ジェラードに刺された傷が予想より酷く動けないので、宿舎で療養する事になった。
『絶対に悪いやつを倒してきてね!』
そう言って残念そうにしていたマルコに、任せといてマルコちゃん!と、元気一杯に鼻をフンフンとさせていたマルガ。
そんな事を思い出していると、俺の手をギュッと握るちっちゃな手の感触を感じた。
ふとそこに視線を落とすと、ナディアが思いつめた様な表情で俺を見つめていた。
「…大丈夫だよナディア。女王裁判で…コティー達の仇を討つから…ね?」
その俺の言葉を聞いたナディアは、瞳に少し涙を浮かべながら、静かにコクッ頷く。
そんなナディアノ頭を優しく撫でながら鋼鉄馬車に揺られていると、純白に光り輝く宮殿が見えてきた。
その何者にも汚される事を許さぬ宮殿の中に、俺達は入っていく。そして更に暫く鋼鉄馬車に揺られていると、鋼鉄馬車がゆっくりと停止する。
それと同時に鋼鉄馬車の扉が開かれ、少し表情の引き締まったメーティスが声を掛けてきた。
「さあ就いたわよ。ここがテミス宮よ」
そう言ってテミス宮に視線を向けるメーティス。
その宮はグレー色の石造りの、大きな宮だった。
数々の剣を掲げた兵士の銅像の中心に、右手に剣を持ち、左手の天秤を空高くに掲げる、目隠しをされた女神の銅像が、全てを見透かす様な威厳を漂わせて、俺達を見下ろしていた。
その光景に見惚れている俺達を見て、クスッと少し微笑むメーティスが俺達を案内してくれる。
そして、豪華な部屋の一室に案内され一緒に中に入る。
「さあ、ここで時間まで待機よ。この王宮で襲われる事は無いと思うけど、私もこの部屋で時間まで待機するわ」
そう言って豪華なソファーに腰を下ろすメーティス。俺達もそれぞれソファーに腰を下ろす。
そして部屋にあった紅茶を皆の分入れてくれるリーゼロッテから、紅茶を貰い一息つく。
「今日…女王裁判に出廷するのは、ルチアさんにハプスブルグ伯爵家当主のアリスティド様、それに御主人様とナディアちゃんとユーダさん。後は…」
「後はジギスヴァルト宰相と…女王であるアウロラと最高司法議会から代表者3名。そして女王裁判の進行役であるアウロラの専属商人であるアルバラードよ」
フンフンとメーティスの言葉を聞いていたマルガは、少し顔を歪める。
「あのアルバラードさんが、女王裁判の進行役なのですかメーティスさん?」
マルガは選定戦の時の事を思い出しているのか、複雑な表情をしていた。
「…何も心配する事は無いわよマルガ。確かにアルバラードは気に食わない奴だけど、アウロラに対する忠誠は本物よ。選定戦では色々あったみたいだけど、ソレは彼なりにアウロラの事を考えていただけよ」
メーティスがそう言いながらマルガの頭を優しく撫でると、その表情を緩めるマルガ。
「とりあえず開廷されるまで再度段取りを確認しておいた方が良いですわね。女王裁判を確実に進める為に」
リーゼロッテの言葉に頷く一同は、段取りを確認していく。そして段取りを確認しながら待っていると、部屋の扉がノックされた。
「皆様、出廷の時間がやって参りました。ご案内致しますので、付いて来て下さい」
俺達はいよいよ女王裁判が始まる事を感じて、表情が引き締まる。
そして、その案内役に付いて長い廊下を歩いて行くと、視界が開けて大きな大広間に出た。
その光景を見たマルガとナディアが、キュッと俺の両袖を握っていた。
その大広間は円形をしており、中央を囲む様に千人位の人々が段々になった傍聴席に座っている。
中央には両側に分かれた席と机が有り、その中心には証言台があった。
その証言台の奥は少し高くなっていて、綺麗な装飾のされた立派な王座があり、その前に3つの豪華な椅子が並んでいる。
千人近い人々は、法廷に入って来た俺達を好奇の眼差しで見て、何かひそひそと話をしている。
俺達は緊張しながらも、用意されている俺達の席まで行き、椅子に腰を下ろす。
そして暫く待っていると、法廷がザワザワと騒がしくなる。
ふと法廷の入り口に目を見けると、ルチアとアリスティド卿、そしてジギスヴァルト宰相が法廷に現れた様であった。
ルチアはジギスヴァルト宰相をキッと睨みつけると、俺達の座っている席までやってきた。
そんなルチアを見て、ジギスヴァルト宰相はフフと口元を上げて軽く笑っている。
「きちんとここまで来れた様ね葵」
そう言って少し表情を緩めて俺の隣に座るルチア。俺が軽く頷くと、アリスティド卿も軽く頷いていた。
そんな軽く挨拶を交わした俺の手が、ギュウウときつく握られる。
ふと視線を横に落とすと、俺の手をきつく握りながら激しい瞳でジギスヴァルト宰相を睨みつけているナディアの姿があった。
俺はそんなナディアの頭を撫でていると、一際法廷が騒がしくなる。
それと同時に法廷内の全ての人々が席から立ち上がり、胸に手をかざし軽く頭を下げていた。
その皆の視線の方に振り向くと、国宝級の美しい刺繍の入った気品の有る白いドレスに身を包んだ女王アウロラの姿があった。
アウロラが王座に座ると、皆も同じ様に席に座り直す。アウロラの後ろを付いて来た3人の高齢の男性が、王座より低い位置にある前方の椅子に座ったのを確認したアウロラが口を開く。
「これより女王裁判を開廷します。アルバラード、お願いしますわ」
その声を聞いた1人の男は前に出て行き、胸に手をかざし綺麗にお辞儀をする。
「女王裁判の進行役を努めさせて頂くアルバラードです。皆様よろしくお願いします」
そう言って涼やかな微笑みを湛えるアルバラードは、俺達とジギスヴァルト宰相宰相の方を見て
「ではまず、今回女王裁判が何故開廷されるに至ったか、申請人であるアリスティド卿から説明して頂きたいと思います。宜しいですかなアリスティド卿?」
「ええ、アルバラード卿、説明させて頂きましょう」
そう言って席を立つアリスティド卿は、手に持つ書類に目を通す。
「…今回、私達が女王裁判を開廷する申請をさせて頂いたのは、メネンデス伯爵家による莫大な国家の国費の一部を横領していた事が明るみに出たからです」
そう言って説明を始めるアリスティド。
今回、メネンデス伯爵家やジギスヴァルト宰相がした事は、全て法廷で明かされる事は無い。
正確には出来ないと言った方が正解であろう。
メネンデス伯爵家やジギスヴァルト宰相が教会を通じてソレを施しさせていた事は、闇に伏されている。
バスティーユ大監獄の特別区画にあった複数の供給準備室は、そこで行われていた事を確認された後、アリスティド卿の指示で、全てを魔法で燃やし尽くされた。あの部屋で行われていた事は、一部の者しか知り得ない事となっている。
それに関わっていたモリエンテス騎士団の者達は、その殆どがマティアスやヴィシェルベルジェール白雀騎士団、エンディミオン光暁魔導師団との戦闘で死亡し、その他の者達は自滅の腕輪を身につけ、自ら自害して全てを燃やし尽くしていた。
ある程度情報の封じ込みに成功したアリスティド卿は、メネンデス伯爵家が国費を横領していた事のみの情報を流布し、情報を操作している。
極一部には、施しにソレを与えていたと噂が立ってはいたが、ヴィンデミア教教会がソレに対して何も動かない事と、ハプスブルグ伯爵家がヴィンデミア教に対して特段な対処をしていない事から、只の悪質な噂であると認識されていた。
アリスティドはバスティーユ大監獄で、メネンデス伯爵家やモリエンテス騎士団が国費を横領していた事を、実に上手く巧みにソノ事実を隠し説明している。
ある程度の情報を得て法廷に傍聴に来ているであろう千人近い有力者達は、アリスティドの説明を聞いてザワザワと話をしている。
そして、アリスティドの説明が終わり、会場に手を向け静寂にさせるアルバラードが
「…成る程、アリスティド卿の話はよく解りました。では何故ジギスヴァルト宰相をこの女王裁判に出廷させたのでしょう?この件の主犯であるメネンデス伯爵やモリエンテス騎士団の団長であるルードヴィグの行方が解らないのに」
「バスティーユ大監獄や各地の大都市の傍にある監獄や収容所は、全てジギスヴァルト宰相が統括して居るからです」
「…それはつまり、ジギスヴァルト宰相がメネンデス伯爵とモリエンテス騎士団と通じ、膨大な国費を横領していた共犯だと言いたいのですかな?」
アリスティドの言葉を聞いたアルバラードはそう言い、流し目でジギスヴァルト宰相を見る。
そのアルバラードの言葉を聞いた傍聴席の有力者達は一斉にどよめき始める。
それはそうであろう。
大国フィンラルディア王国の強大な権力を持つ六貴族にして、この大国の宰相であるジギスヴァルトがソレに加担していたとなれば、一大事である。
この法廷に来ている有力者達も、メネンデス伯爵家の関与は事実として情報を得ては居るであろうが、ジギスヴァルト宰相がこの場に呼ばれて居るのは、事実の確認のみを統括者であるジギスヴァルト宰相にさせるのが目的であると思っている者が大多数であるからだ。
ソレを統括者であると言うだけで、通じて居ると結びつけた進行役であるアルバラード。
その事は、ジギスヴァルト宰相が参考人としてこの場に呼ばれたのではなく、当事者、つまり容疑者としてこの女王裁判の法廷に呼ばれた事を意味するものになるからだった。
ソレを瞬時で理解したジギスヴァルト宰相は、クククと可笑しそうに笑う。
「…何が可笑しいのですかなジギスヴァルト宰相?」
「…いや…何時かとは逆だと感じただだけの事、気になさるなアルバラード卿」
アルバラードの言葉を聞いたジギスヴァルト宰相はそう言って、愉しそうな表情を浮かべ口元をニヤッと釣り上げる。
「…で、ジギスヴァルト宰相。貴方は…メネンデス伯爵とモリエンテス騎士団と通じ、国家の貴重な国費を…横領していたのでしょうか?」
涼やかな微笑みでジギスヴァルト宰相に、決め付けるかの様な言葉を投げかけるアルバラード。
そのアルバラードの言葉を聞いた傍聴席の有力者達が更にどよめく。
ザワザワと騒がしい法廷を見て、フフと軽く笑うジギスヴァルト宰相は静かに瞳を閉じる。
それと同時に、法廷の喧騒を切り裂く様な綺麗な中性的な声が鳴り響く。
「ソレは私から説明させて頂きましょう!」
その聞き覚えのある中性的で綺麗な声の方に視線を移すと、1人の青年がツカツカと足音をさせて法廷内に現れる。
そしてアウロラ女王の前に現れた金髪の超美青年は、片膝をつき頭を下げる。
「お久しぶりに御座いますアウロラ女王陛下、アルバラード卿」
そう言って頭を上げる金髪の超美青年は俺に振り返り、その顔に美しい微笑みを湛える。
「…君も久しぶりだね葵。おっと…今はルチア様の専任商人の葵殿とお呼びした方が良いのかな?」
「ヒュ…ヒュアキントス!?な…何故お前がここに!?」
困惑している俺の表情を見て、ニヤッと口元を上げるヒュアキントス。
「…ヒュアキントス殿、貴方は今回、この女王裁判の法廷には呼ばれていませんが?何をしに現れたのですかな?事と次第によっては…貴方を罰しなければなならなくなりますが?」
瞳を細めてヒュアキントスを見つめそう言うアルバラード。
「そこのド・ヴィルバン商組合、統括理事であるレオポルド殿の息子であるヒュアキントスは、私の代弁者として私がこの法廷に呼びました」
そう言って静かに瞳を開けるジギスヴァルト宰相。
「各法廷に於いて、法廷に出廷する者には、代弁者を立てる権利が与えられています。それは最高位の法廷である女王裁判の法廷にも与えられている権利です」
そう言って涼やかな微笑みをしながら、アルバラードを見据えるヒュアキントス。
それを聞いたアルバラードはアウロラに視線を送ると、アウロラは静かに頷いていた。
「…確かに、各法廷に出廷する者には、代弁者を立てる事を権利として与えられています。この女王裁判の法廷も例外ではありません。しかし、代弁者であるヒュアキントス殿が発言した事は、直接ジギスヴァルト宰相が発言したと同義になります。その全ての責は…貴方…ジギスヴァルト宰相に帰す事になりますが、よろしいのですか?」
「…それで構わぬよアルバラード卿。私とて代弁者の意味を知る者。良く理解して居る」
フフと笑うジギスヴァルト宰相の言葉を聞いたアルバラードは静かに頷く。
「では、私がジギスヴァルト宰相の代弁者として、この女王裁判に出廷する事は問題はありませんねアルバラード卿?」
「…そうですね、問題はありません」
そう言って瞳を細めてヒュアキントスを見つめるアルバラード。
アルバラードの言葉を聞いたヒュアキントスはフフと笑いを浮かべると、その中性的な綺麗な声を響かせる。
「では、私がこの続きを説明をさせて頂きましょう!」
そう言って法廷内を見渡しながら言ったヒュアキントスは、アルバラードに向き直る。
「…先程、まるでジギスヴァルト宰相がメネンデス伯爵達と通じ、この一件に手を貸していたかの様な事を言われましたが…アルバラード卿、貴方は大きな勘違いをしていらっしゃる」
「…それはどう言う事でしょうかヒュアキントス殿?」
少しきつくヒュアキントスを見つめるアルバラード。そんなアルバラードを見て、フフと軽く笑うヒュアキントス。
「それにはまず、私達が用意した証人にも話を聞かなければなりません」
そう言ってジギスヴァルト宰相の方にもある、自らが入って来た出入り口に目を向ける。
するとその出入り口から1人の男性が法廷に現れ、中心にある証言台にしっかりとした感じで上る。
その男性を見た傍聴席の有力者達が再度ざわめき始め驚いている。
傍聴席の人々だけではなく、ルチアやアリスティド卿は勿論の事、アウロラ女王でさえその出廷した人物を瞳を細めて見ていた。
その男性は胸に手をかざし、綺麗にお辞儀をする。
「私はモリエンテス騎士団団長、ルードヴィグ・イザークです。ジギスヴァルト宰相やヒュアキントス殿の要請により、この法廷に証人として出廷させて頂きました」
その言葉を聞いた俺とリーゼロッテが顔を見合わせる。
一体どういうつもりなんだ?
俺はメネンデス伯爵と団長であるルードヴィグは、既に国外に逃げ出しているか、ジギスヴァルト宰相によって監禁、もしくは始末されているとさえ思っていた。
それなのにわざわざこの法廷に、不利になるのを覚悟の上で証人として出廷させる意味が理解出来なかった。
法廷のざわめきを片手で制するアルバラード。
「…ヒュアキントス殿、主犯とされているモリエンテス騎士団団長、ルードヴィグ殿をこの場に証人として出廷させたと言う事は…その罪を受けさせる為と言う事でよろしいのでしょうか?」
アルバラードがルードヴィグを見つめながら言うと、軽く首を横に振るヒュアキントス。
「いいえ違います。そもそもそれこそが勘違いなのですよアルバラード殿。彼は罪人ではなくて…証人なのですよ?」
「…それはどう言う事なのでしょうかヒュアキントス殿?」
ヒュアキントスの言葉に更に瞳を細めるアルバラード。そんなアルバラードを見て一切の表情を崩さない涼やかな微笑みを浮かべるヒュアキントス。
「…事の始まりは、モリエンテス騎士団団長、ルードヴィグ殿からジギスヴァルト宰相に相談された事が始まりでした。『メネンデス伯爵様が、一部のモリエンテス騎士団を使い何かをしている』とね」
そう言ってルードヴィグの肩に手を置くヒュアキントス。
「私は主人であるメネンデス伯爵様が、モリエンテス騎士団の一部の者達を使い、何かをしている旨の情報を、私の信頼の置ける部下から報告を受けました。ソレを聞いた私は、主人に忠誠を誓う身でしたが、このフィンラルディア王国の背信に繋がる様な事は出来ないと感じ、調査を始めました。しかし、厳重に注意を払っていたメネンデス伯爵様と一部の団員達が、どの様な事をしているか迄は掴めないでいました。そこで、ジギスヴァルト宰相に相談させて頂いたのです」
「そして、相談を受けたジギスヴァルト宰相は、私や私の父に調査を依頼されました。モリエンテス騎士団の団長であるルードヴィグ殿であれば、主人であるメネンデス伯爵を調べるにしても限界が有りましたからね。ジギスヴァルト宰相のソノ依頼を受けた私と父は、影からメネンデス伯爵と一部の団員達の調査を始めたのです」
そう言ってアルバラードを見るヒュアキントス。
「そして、長い調査の結果、メネンデス伯爵が国家の貴重な国費の一部を、横領しているかもしれないと掴みかけてはいましたが、決定的な証拠が掴めないまま、時間だけが過ぎて行きました。そんな折、ルチア様とアリスティド卿が決定的な証拠をバスティーユ大監獄で見つけ、今に至って居るのです」
ヒュアキントスの説明を聞いたアルバラードは、顎に手を添えながら
「…では、ルードヴィグ殿は最初からメネンデス伯爵の不正を暴く為に、ジギスヴァルト宰相や貴方方と共に行動していたと言う事なのでしょうか?」
「そうです。アルバラード卿の言う通りですね」
ヒュアキントスは涼やかな微笑みをしてアルバラードを見据えていた。
その話を全て聞いたルチアがギュッと握り拳に力を入れていた。
…そうきたか。
自分達もハプスブルグ伯爵家やルチアと同じ様に、メネンデス伯爵家の不正を調べていた。
とんだ茶番だ。そう素直に思う。
ふとルチアとアリスティド卿の顔を見ると、それが解るかの様なキツイ表情をしていた。
「それでは、何故私達に声を掛けてくれなかったのでしょうか?ジギスヴァルト宰相や沢山の情報網を持つ大商組合であるド・ヴィルバン商組合、統括理事であるレオポルド殿や、その息子である貴方が私達に協力して頂ければ、もっと早くにメネンデス伯爵の不正を暴く事が出来たかも知れませんが?貴方方の事だ、私達がメネンデス伯爵家を調べている情報も掴んでいたのではありませんか?」
そう言ってキツイ口調でヒュアキントスを問い詰めるアリスティド卿。
そんなアリスティド卿を見てフフと軽く笑うヒュアキントス。
「ええ、確かに正義の象徴であるハプスブルグ伯爵家とルチア王女様が、メネンデス伯爵家を調べている旨の情報は掴んでいました。しかし、相手は私達やアリスティド卿ですらなかなか情報を与えぬ程、用心深く行動をしていました。確かに私達はアリスティド卿方との合流も考えましたが、別々の方法を敢えて取らせて頂きました」
「…それは、何故でしょうか?」
声を低くしてヒュアキントスに問いただすアリスティド。
「…それは、別々の方向から調べた方がメネンデス伯爵を追い詰める事が出来ると思ったからですよ。伏兵は敵に多大な被害をもたらす事が出来ますが、伏していなければその効果はありません。つまり、そう言う事です。相手が手強かったのは、実際調べていたアリスティド卿も解っているはずです。…むしろ良くバスティーユ大監獄で、メネンデス伯爵の拠点とも言える場所を発見出来た事が驚きですね」
そう言ってニヤッ嗤いながら俺に視線を向けるヒュアキントス。
「…バスティーユ大監獄や他の監獄を統括していたジギスヴァルト宰相が、バスティーユ大監獄のあの区画を知らなかったのでしょうか?」
「それについては、実際に突然視察に行かれたルチア様やアリスティド卿でさえ、あの区画を発見できなかったのでしょう?隅々まで視察されたルチア王女様やアリスティド卿が発見出来なかった位です。ジギスヴァルト宰相がその存在を知らなくても何ら不思議ではない。それにあの区画は、ジギスヴァルト宰相が統括に任命される遥か以前からあった物らしいですね。その秘密を知る者は今となっては居なかったはずらしい。何せバスティーユ大監獄が造られた時の代物らしいですからね。何百年も放置されていたあの区画の存在を、メネンデス伯爵がどうやって知ったか…調査が必要でしょうね」
アリスティドのキツイ口調の言葉を聞いても、涼やかな微笑みを一切崩さず、淡々と説明をするヒュアキントス。
このヒュアキントスの事だ、この場に出てくる位なのだから、十分に女王裁判の対策を練って来ているであろう。
これ以上、決定的な証拠や証言がない限り、ジギスヴァルト宰相を追い詰める事は不可能であろう。
俺がその様な事を考え始めた時、バンと机を叩き、立ち上がるルチアが口を開く。
「良く解ったわヒュアキントス。今度はこちらの証人の話を聞いて貰うわ。下がって貰えるかしら?」
きつい口調で言ったルチアの言葉を聞いたヒュアキントスは、仰せのままにと言うと、ルードヴィグと一緒にジギスヴァルト宰相の側の席に戻っていく。
それを確認したルチアは、目でアリスティドに合図を送ると、それに頷くアリスティド。
俺はルチア達が一気に攻勢に転じるのだと感じ、話を聞いていた。
「では、今度はこちらの証人の話を聞いて頂きましょう」
そう言ったアリスティドはユーダの肩にそっと手を置く。
ユーダは緊張気味に俺やルチアを見て、静かに立ち上がる。そして、アリスティドと共に証言台に上がるユーダ。
「わ…私はユーダと申します」
そう言って少し震えながら深々と頭を下げるユーダ。
「このユーダさんは、メネンデス伯爵に捕まって、バスティーユ大監獄の例の区画に監禁されていた所を、ルチア王女様の専任商人である葵殿に救われた方です。彼女は非常に重要な情報を得ています。それを…これからこの場で…証言して頂こうと思います」
アリスティドがそう説明すると、当然の様にヒュアキントスが口を開く。
「…その女性、貴族の方でもなんでもない只の平民の女性とお見受けしますが、その女性は、この法廷の最高位であるこの女王裁判で証人として、相応しい方なのでしょうか?重要な証言をお持ちとの事でしょうが…その信憑性は…大丈夫なのですかね?」
少し薄ら笑いを浮かべるヒュアキントス。
当然、ヒュアキントス達はユーダの事を理解している。
そりゃそうだ、自分達が捕まえ監禁させたのだから。
ユーダが持っている証言が、如何に自分達に不利に働くかは、十二分に理解しているであろう。
なので、ユーダの証言を如何に潰すかが、ヒュアキントス達の1番の懸念で、1番重要としている所だ。
ユーダの証言の信憑性を如何に潰せるか…
ヒュアキントス達はこれに全力をかけてくるであろう。
「それは心配しなくて大丈夫よヒュアキントス。彼女は私の専任商人である葵達の信頼のおける仲間であり、実際にグリモワール学院の宿舎から攫われて、バスティーユ大監獄に捕らわれていたわ。それは私やアリスティド卿が確認をしているわ。それに、実際にグリモワール学院から攫われた事や、助けだされた事は、ここにいるグリモワール学院の統括理事であるメーティス卿や私の専任商人である葵が今から証言するわ!」
そう言い放ったルチアが俺とメーティスに視線を向ける。
俺とメーティスは席から立ち上がり、同じ様に証言台に上がると、攫われた経緯や助け出した時の事を細かく聞かれる。
俺は例の事は伏せて、話せる部分だけを説明し、自分の席にメーティスと一緒に戻る。
「…成る程、良く解りました。確かに不自然な所は見受けられませんが?」
そう言って話を聞いたアルバラードが、流し目でヒュアキントスを見る。
「…確かに攫われた経緯や助けだされた方法や状況も解りました。ですが、それとその女性が信頼出来る人物であると結びつくのでしょうか?」
そう言って少し嘲笑うかの様なヒュアキントスを見て、ルチアが表情をきつくする。
「…彼女が信頼出来る人物である事は、このフィンラルディア王国の王女である私や、ハプスブルグ伯爵家当主であるアリスティドも認めているわ。…ヒュアキントス貴方は、王女で有る私や、アリスティドが認める証人を認めないと言うのかしら?つまりそれは、王女である私や六貴族であるアリスティド卿を認めないと聞こえるのだけど?」
少し低い声で言ったルチアのその言葉を聞いたヒュアキントスは
「…別にそう言う訳ではありませんよルチア王女様。只、この女王裁判に相応しい人物であるか、聞きたかっただけです。…その女性が信用出来る人物であると…ルチア王女様やアリスティド卿が認めているのであれば…問題はありません。…本当に信じて良いのですねルチア王女様?」
「ええ!大丈夫よ!ユーダが信用の出来る人物である事は、フィンラルディア王国の王女の名をかけて、宣誓するわ。アリスティドも同じ気持ちよ」
そう言ってアリスティドにルチアが振り向くと、同じ様に頷いているアリスティド。
「…解りました。王女の名と正義の象徴の名をかけると言われるのなら…私にはこれ以上言う事はありません。…その女性に証言をして貰って下さい」
そう言って、涼やかな微笑みを湛えていたヒュアキントスが、一瞬俺に視線を合わせる。
その時、俺はヒュアキントスの表情に薄ら寒いモノを感じた。
「ではユーダさん、話して頂けますか?」
アルバラードの優しいその言葉に、恐る恐ると言った感じで口を開いていくユーダ。
「私は…」
ユーダはグリモワール学院でどう言った経緯でバスティーユ大監獄に連れ去られたかを説明を始める。
その内容は打ち合わせをした通りで、ルチアも俺達も予定通り事が進んでいると感じていた。
そして俺と視線を合わすリーゼロッテは、ヒュアキントスが如何にユーダの証言の信憑性を潰してくるかと、そんな思いで顔を見合わせていた。
「解りました。貴女が攫われた経緯は良く理解出来ました。…それで、その攫われたバスティーユ大監獄で…誰に会って、どの様な話を聞かれたのでしょうか?」
アルバラードのその言葉を聞いたユーダはビクッと身体を震わせる。
…いよいよだ。皆がそう感じた時、少し震えているユーダが俺の方を向き、悲しそうな儚い表情を浮かべる。そして、アルバラードに向き直り、説明を始めるユーダ。
「私は…囚えられている部屋で…メネンデス伯爵に会いました。そして…この部屋で大人しくしていれば命は取らないと言われました」
「…成る程、それから、そのメネンデス伯爵は…どの様な事を言いましたか?それに他に…誰かと会いませんでしたか?貴女の知った話を全て偽りなく証言して下さい」
そのアルバラードの言葉を聞いたユーダは、キュッと唇を噛み締めている様に見えた。
暫くそうやって俯いていたユーダは静かに顔を上げ、ゆっくりと話し始める。
「メネンデス伯爵は…部下の兵士に色々と指示を出していました。色々と支持を出していましたが、一番注意を払っていたのは、メネンデス伯爵を調べているルチア王女様達と…ジギスヴァルト宰相様達の動向に注意せよと指示を出していました。絶対に国費の横領をルチア王女様方やジギスヴァルト宰相様達に見つかる事が無いように…徹底して指示を出していました」
ユーダは震えながらも皆に聞こえる様に証言する。
その証言を聞いていた俺は、当然その打ち合わせと違う証言に呆然となる。
…え!?
ジギスヴァルト宰相が同じ様に調べていた!?
ジギスヴァルト宰相はメネンデス伯爵と共謀して、俺達の警戒をしていたはずなのに!?
俺が混乱しながらその様な事を考えている間にも話は進んでいく。
「…メネンデス伯爵は…確かにそう言ったのですね?」
少しキツイ口調のアルバラードに、身体を少しビクッさせているユーダは話を続ける。
「…はい…そうです」
「メネンデス伯爵の他に…他の誰かに会いませんでしたか?」
「いえ…メネンデス伯爵の他は…伯爵の部下である兵士だけです」
「…メネンデス伯爵の他に…この場に居る者を見た…そう言う事はないのでしょうか?」
そのアルバラードの言葉を聞いたユーダは軽く辺りを見回し、
「…いえ、この場に居る人には会った事はありません。メネンデス伯爵のみです」
そうきっぱりと証言したユーダの言葉を聞いたヒュアキントスが、ニヤッと口元を上げる。
「…この場に居るものには会った事は無い。貴女の話を聞くに…メネンデス伯爵が主犯であるととれますが…貴女はどう思いましたか?」
ヒュアキントスのソノ質問に軽く俯くユーダは、
「…私もそう思います。メネンデス伯爵が全ての指示を詳細に出していました。全てメネンデス伯爵の思惑で…動いていたと様に感じました…これ以上は…私には解りません」
そうか細い声で言ったユーダ。
「ユーダさん!!何故ですか!?どうして…どうしてその様な証言を!?」
俺はほぼ無意識にそう叫んで自分の席を立っていた。そんな俺を悲しそうな儚げな表情で見つめるユーダは激しく瞳を揺らす。
その次の瞬間、俺は強引に腕を引かれ席に着席させられる。ドカッと椅子に腰を下ろされる俺。
俺は腕をキツク掴むその痛さに振り向くと、ルチアがその唇をキュッと噛み締め、キツイ瞳でジギスヴァルト宰相とヒュアキントスを睨みつけていた。
その意味の解らない俺に、全てを一瞬で理解したリーゼロッテが軽く首を横に振り、俺の肩に優しく手を置く。
な…何故…ユーダさんはあんな証言を!?
ユーダさんの証言で、ジギスヴァルト宰相達を一気に追い詰めるはずだったのに!?
それなのに…何故…ジギスヴァルト宰相を守る様な証言を!?
俺がその様な事を思い混乱していると、視線を感じた。
その視線に気がついた俺がそちらに目を見けると、金髪の超美青年が悪魔の様な微笑みを湛えていた。
「ま…まさか…お前が…?」
掠れる様なその声を出して脱力している俺を見たヒュアキントスは、恍惚の表情を浮かべる。
そのヒュアキントスの表情を見た俺は、噛み合わなかった歯車が合わさるのを感じる。
そして激しく睨み、全てを俺が理解したと感じたヒュアキントスは、口元をニヤッと釣り上げる。
「…成る程、確かに重要な証言でしたね。やはり私達の調査の通り、メネンデス伯爵が全ての黒幕として指示を出していましたか」
そう言って、複数の羊皮紙を持ちながら、ゆっくりと証言台にやってくるヒュアキントス。
「…私達はメネンデス伯爵の身柄を押さえています」
そのヒュアキントスの言葉にざわめく法廷。
「…私達はルチア王女様達がバスティーユ大監獄で証拠を掴んだ後、メネンデス伯爵の行方を追っていました。そして、ルードヴィグ殿の協力もあり、その行方を掴んだのです」
「…それで、その当事者であるメネンデス伯爵はどこに居るのでしょうか?出来れば、この女王裁判の法廷に連れて頂きたいのですが?」
アルバラードの低いその声を聞いたヒュアキントスは軽く首を横に振る。
「それは…出来ません」
「何故でしょうか?」
「…私達がメネンデス伯爵の行方を掴み、その館にたどり着いた時には…彼は…自害していました。恐らく…もう逃げられないと、覚悟したのでしょう。ですから、この女王裁判の法廷に出廷させる事は出来ないのです」
そう言って軽く両手を上げ苦笑いをするヒュアキントス。
「…まあ、メネンデス伯爵の亡骸は棺に入れて、このテミス宮の別室に運んで有ります。その亡骸で良ければ…この女王裁判の法廷に出廷させますが?」
「…解りました、後で確認させて頂きます」
淡々と言うアルバラードを見て、フッと軽く笑うヒュアキントス。
「そして、その突き止めたメネンデス伯爵の隠れ家で、彼の行なっていたと思われる、国費の横領の証拠を掴んだ羊皮紙がこれになります」
そう言って羊皮紙の束をアルバラードに手渡すヒュアキントス。
アルバラードはその羊皮紙の内容を確認すると、アウロラの前に座っている最高司法議会の代表者3人に手渡す。それを確認した最高司法議会の代表の3人はソレをアウロラに手渡す。
アウロラもその羊皮紙に目を通していく。
「その羊皮紙を見て貰えれば、メネンデス伯爵が国費を横領していたのは明白。…まあ、最終的にその横領した国費が何処に流れていたかは、まだ調査中ですがね」
そう言ったヒュアキントスは一歩前に出て、キツイ表情をアルバラードに向ける。
「これで、全て解って貰えたのでは無いでしょうかアルバラード卿?私達の話も、ルチア王女様やアリスティド卿がその名前と誇りを賭けて証人として証言させた、ユーダさんとの話とも合っています。私達を疑っていた事は気にはしていません。伏していたのですから。なれど、ジギスヴァルト宰相がこの国を憂い、アウロラ女王陛下に忠誠を誓っているのは真の事実!ソレは明白は証拠と証言の上に知ら示されています!…どうか…良き裁きを!!!!」
ヒュアキントスは一気に甲高い声で、この法廷に居る全ての者に知らしめるが如く、その中性的で綺麗な声を響かせる。
その言葉を聞いたアルバラードがアウロラに視線を投げかけると、軽く頷くアウロラ。
それを見たアルバラードは、王座の前に座っている最高司法議会の代表の3人に近寄る。
すると最高司法議会の代表の3人は王座の傍まで近寄り、アウロラと話をし始める。
暫く話をしていたアウロラと最高司法議会の代表の3人であったが、話が終了したのか最高司法議会の代表の3人は自分達の席に帰っていく。
そして、軽く瞳を閉じるアウロラは、ゆっくりとその瞳を開く。
「…沙汰を言い渡します。…国費を横領していたメネンデス伯爵家は、取り潰しの上、その家族共々その罪を与えます。更にそれに加担していた者達も全てその罪を与えます」
そのアウロラの言葉を聞いた法廷はざわつくが、アルバラードの制止される。
そして再度鎮まりかえった法廷に、女王の声が響く。
「…この一件は、まだ解っていない事があります。アリスティド卿とジギスヴァルト宰相は互いに協力して、全ての情報を共有し、事の解明にあたって下さい。…アリスティド卿、ジギスヴァルト宰相、頼みましたよ」
「「は!仰せのままに!!」」
声を揃えるアリスティド卿とジギスヴァルト宰相。
それを見て軽く溜め息を吐くアウロラは、王座から立ち上がり、
「これにて、法廷は閉廷します。皆、大儀でありました」
そのアウロラの言葉を聞いた法廷から拍手が鳴り響く。
そのテミス宮を揺るがし、全ての事実を押し流すかの様な拍手の波が、ひとつの声で切り裂かれる。
「嘘だ!!!!そんなの嘘だ!!!!!」
魂の慟哭の様なその咆哮に、法廷に沸き起こっていた拍手が鳴り止む。
それは俺の横に座っていたナディアが、法廷の中心に飛び出し叫んだからであった。
「嘘だ!…お前等は…私の大切な仲間を…鋼鉄馬車で攫って…非道い事をして…殺した!!!!」
そう言ってジギスヴァルト宰相やヒュアキントスをキツク睨めつけながら、ちっちゃな手で指をさすナディア。
「お前達は…悪者だ!!!何故…なぜ…お前達の様な者が助かって…コティー達が…死なないといけないの!?…そんなの…嘘だ!!!!」
そう言って大粒の涙を流しながら、激しく言い立てる。
「…許さない。…コティー達の…仇!!!!!!」
そう声高に叫んだナディアはジギスヴァルト宰相目掛けて飛びかかっていく。
それを見た護衛の兵士が剣を抜き、ナディアに斬りつける。
そして、その剣先から鮮血が飛び散る。
「…すいません、ジギスヴァルト宰相。この子はまだ歳も若く、何も解っていないのです」
跳びかかるナディアを抑えこみ、ナディアを抱く様に守った俺は、肩口に兵士の剣を受けていた。
かなり深く斬られたのか激しい痛み共に夥しい血が流れ出し、その血が腕に伝いナディアの顔に流れる。
「…この子は過酷な環境で生きてきて…教育をまだしっかりと受けていません。この子は…誤解しているだけなのです。…どうか…お許しを…」
そう言ってナディアを抑えながら、俺は片膝をつき、血を流しながら深々と頭を下げる。
その流血沙汰に一瞬静まり返っていた法廷であったが、その静寂を綺麗な中性的な声が打ち破る。
「…ジギスヴァルト宰相許して上げては如何でしょう?どうやら教育を満足に受けてはおらぬ亜種族の子供の様ですし。それに、ルチア様の専任商人である葵殿が、こうも頭を下げて居るのですから」
ヒュアキントスのソノ言葉を聞いたジギスヴァルト宰相は、ニヤッと口元を上げる。
「…まあ、女王裁判の開廷中であれば、法廷を汚した罪をその死を持って償わさなければならぬが、法廷はもう閉廷している。私を侮辱した事も、教育を満足に受けていないなら仕方無い。我らは弱者に寛容でなければならぬからな。葵殿が頭を下げている事であるし…今回は特別に許してやろう」
そのジギスヴァルト宰相の言葉を聞いた兵士は、俺の肩に突き刺さる剣を引き抜き、鞘に収める。
「…ありがとうございますジギスヴァルト宰相。その慈悲に感謝致します」
頭をあげずにそう言った俺の言葉を聞いて、フフと笑うジギスヴァルト宰相は出口に向かう。
それを見て、事が収まったと感じた法廷内の人々は、ザワザワと話をしながら退廷していく。
許して貰えた事に安堵している俺の元に、マルガとリーゼロッテが急ぎ駆け寄ってくる。
「ご主人様!大丈夫ですか!?」
「すぐに治療しますわ葵さん」
そう言って俺に治癒魔法をかけて行くマルガとリーゼロッテ。
「そ…空…」
やっと声を出せる様になったナディアが、大粒の涙をポロポロと流しながら俺にしがみつく。
「ごめんなさい…空…」
「…ナディア…」
俺は泣きじゃくりながら胸にしがみ付くナディアをしっかりと抱きしめる。
そんな俺達を、激しく瞳を揺らしながら見つめているユーダ。
傷を回復して貰った俺は、ユーダに近づこうとして、その前に立ち塞がる人物に目を向ける。
「…ユーダさん、貴女の事は私達がこれから保護しましょう。貴女の家族共々、生まれ故郷に送らさせて頂きましょう」
俺の前に立つヒュアキントスが、ユーダを見て涼やかな微笑みを浮かべる。
「ユーダさんは、俺達の仲間だ!ユーダさん…そうだよね?」
俺のその声を聞いたユーダは、その瞳を潤ませ俯く。
「…私は…ヒュアキントス様に…今後保護して頂きます」
微かに声を出したユーダの言葉を聞いたヒュアキントスは、ニヤッと口元を上げる。
「解りました。ユーダさんの保護は私達が責任をもってさせて頂きましょう。では…行きましょうか」
そう言ってヒュアキントスに肩を抱かれながら退廷していくユーダ。
「ユーダさん!!!」
その声に振り向かず、俯きながら法廷を出て行ったユーダ。
俺はマルガとリーゼロッテに手を引かれながら、ルチア達の元に戻っていく。
「離して!!」
法廷を出て廊下を歩くユーダは、ヒュアキントスの手を振り払い声高に叫ぶ
「…これで…私の主人と娘は…返してくれるのでしょうね?」
涙を流しながらヒュアキントスにきつい口調で言うユーダ。
それを聞いてフフと笑うヒュアキントス。
「それは勿論。貴女は非常に良い仕事を今迄してくれましたからね。…すぐに…主人と娘に会わせて差し上げますよ」
そう言って涼やかな微笑みを浮かべるヒュアキントスを只々睨みつけているユーダは、ヒュアキントスと共にテミス宮から出て行くのであった。
俺は今、バレンティーノ宮殿の門の外に1人立っている。
どうしてもユーダがした事が納得できなくて、ユーダに一目あって真実を聞きたかったのだ。
マルガ達は王宮にある客間で待機してもらっている。
ユーダの話を他の皆に聞かせて良いか悩んだ末、俺1人が向かう事にした。
暫く待っていると、ヒュアキントス達を乗せた豪華な馬車が、護衛の兵士達と共に門から出てきた。
俺はその前に立ち、進路を阻む様に立ち塞がる。
「なんだ貴様は!我らの進路を阻むのなら…容赦はせぬぞ!!」
そう言い払って、俺を取り囲む兵士達。
その様子に気がついた金髪の美青年が、豪華な馬車から降りてきた。
「…おやおや葵殿ではありませんか。どうなされたのですか?」
淡々と言うヒュアキントスに苛立ちを感じながら
「…ユーダさんに合わせろ!…2人だけで話したい事がある!」
その言葉を聞いたヒュアキントスはフフと笑う。
「もう彼女との話は終わっているはずですが?」
「いいから話をさせろヒュアキントス!!!」
俺の甲高い声を聞いたヒュアキントスは軽く溜め息を吐く。
「…彼女は女王裁判の法廷で証言をした。まだ生き残っているかもしれないメネンデス伯爵家の者達によって、報復される可能性がある。警護中なのですがね?」
「解っている!だから…少しで良い!…話をさせろヒュアキントス!」
その激しく睨む俺を見たヒュアキントスは再度深い溜息を吐く。
「…仕方ないですね。まあ良いでしょう。貴方達は下がりなさい」
そう言って兵士達を下がらせるヒュアキントス。
そしてヒュアキントスは豪華な馬車の中を覗きこむと、ユーダを外に連れ出す。
俺の顔を見たユーダは瞳を激しく揺らしていた。
「…ユーダさん…」
俺はその切なそうなユーダの顔を見て、静かにユーダに近寄る。
そんな俺達を、少し離れて見ているヒュアキントスと護衛の兵士達。
俺はユーダの傍に近寄ると、その手を握る。
「…ユーダさん。貴女は俺達の仲間だ。…一体…何があったのですか?」
その言葉を聞いたユーダは、その瞳を潤ませる。
「わ…私は…」
そう言って、ユーダがか弱き声で離そうとした時であった。
高速で風を切る音が一瞬聞こえたと思うと、次の瞬間、ユーダの胸に数本の弓矢が突き刺さる。
「ユーダさん!!!」
俺は倒れそうなるユーダを抱える。
弓矢は正確に心臓を貫いていて、ユーダの胸からは大量の血が流れ出す。
「ユーダさんしっかりして!今治癒魔法を使える人を…」
そう言いかけた所で、口から血を吐くユーダが、俺の手をキュッと握り締める。
「あ…葵さん…ご…ごめん…な…さい。わ…私…主人と…娘を…奴ら…に…」
「しっかりして!ユーダさん!!誰か!ユーダさんに治癒魔法を!」
俺の叫びを聞いて顔を見合せている兵士達は、その場を動こうとはしなかった。
「…ああ、愛しいグエン…ルル…これで…」
虚ろな瞳でそう言ったユーダは、口から血を吐き俺の腕の中で事切れる。
「ユーダさん!!!」
俺がユーダを抱きしめていると、フフと笑うヒュアキントス。
「…だから言ったではありませんか。彼女は護衛中だと。貴方がこの様に話をしなければ…彼女は死なずに済んだのですがね」
そう言ってニヤッと口元を上げるヒュアキントス。
その言葉を聞いた俺は、全身が逆立つ怒りが湧き上がる。
「…お前なんだな?…お前が…お前が全て仕組んだのだなヒュアキントス!!!」
激昂して言う俺を観て、愉しそうな顔をするヒュアキントス。
「…何がですか?」
「ユーダさんの事も、女王裁判の事も全てだ!俺達の傍で…ユーダさんを監視として置き、情報を流させ、俺達が女王裁判を申請事を解っていたお前は、その女王裁判で勝利を確実にする為に、ユーダさんに決定的な証言をさせた!その上…ユーダさんを!!!!!」
俺の歪む顔を見て、恍惚の表情を浮かべるヒュアキントスはクククと嗤う。
「…何の事を言っているのか解りませんね。私は只、ジギスヴァルト宰相の要請で動いていただけ。それだけの事ですよ」
そう言って愉しそうに嘲笑うヒュアキントス。
「…貴様!!!」
俺がユーダを地面に置き、ヒュアキントスに飛びかかろうとした時であった。
両側から俺を抑えこむ柔らかい感触が伝わってきた。
「ご主人様ダメです!」
「そうですわ葵さん、落ち着いて下さい」
俺はマルガとリーゼロッテに両側から抑えこまれていた。
それを見たヒュアキントスは気に食わなさそうにフンと鼻を鳴らす。
「…その女性の亡骸は貴方に預けましょう。護衛の必要がなければ…私とは関係ないですからね」
そう言って豪華な馬車に乗り込むヒュアキントス。
「待て!まだ話は終わっていないぞヒュアキントス!!!」
叫ぶ俺に一切振り返らないヒュアキントスを乗せた馬車は、護衛の兵士と共に遠ざかっていく。
「もっと早くに…私とリーゼロッテさんが来れば…」
そう言って可愛い瞳に涙を浮べているマルガは、事切れている涙に瞳を濡らしているユーダの亡骸を見つめていた。
「…とりあえず、皆の所に戻りましょう」
そう言って俺の肩を優しく抱き寄せるリーゼロッテ。
俺はユーダの亡骸を抱え上げ、皆の元に戻るのであった。
「…これで、あの女の始末も出来ませたし、全て終了ですねヒュアキントス?」
真っ赤な燃える様な髪の美青年がヒュアキントスに言う。
「そうだねアポローン」
アポローンの言葉に、恍惚の表情を浮かべるヒュアキントス。
「随分と嬉しそうだね。あの葵の歪む顔を見れたのが、そんなに嬉しかったのかい?」
その言葉を聞いたヒュアキントスはフッと笑う。
「…まあ、選定戦での借りは返せたかな?まだまだ返し足りないけどね。それはまた次回だね」
そう言って再度恍惚の表情を浮かべるヒュアキントス。
「…そう言えば、あの始末した女の攫った家族はどうなったんだいヒュアキントス?」
「さあ?あの女は、ジギスヴァルト宰相が用意したからね。僕には解らないんだよ。まあ…ジギスヴァルト宰相事だ、もうとっくの昔に供給準備室送りになってるだろうさ。今頃あの世で家族の対面でもしているんじゃないかい?」
ヒュアキントスの言葉を聞いたアポローンは軽く溜め息を吐く。
「…弱者は常に奪われるだけなのさ。奪われるのが嫌なら、強者になるしか無い。僕たちは常に奪う側の強者でいたいものだね」
そう言って軽く笑うヒュアキントスに頷くアポローン。
「とりあえずは、父の元に向かおう。僕達には次の仕事が待っているからね」
ヒュアキントス達を乗せた馬車は、優雅に婿敵の場所に向かうのであった。
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