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005:試合

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「は、はーい。少々お待ちくださーい。」

いきなりびっくりした。全く、盗聴されていたんじゃないかと思ってヒヤヒヤしたが、いろんな意味で助かった。

ジルさんグッジョブ!

「……じゃあ、この話はまた後で」

そう言って一旦この話を終了する。ララは肯定の意味を表し首と縦に振っていた。

よし、とりあえずこっちの要件は後回しと。
今からトレヴァーとの面会かー。イマイチやりにくいんんだよな、あの領主様。何か隠していそうというか、黒そうとかいうか。




「君を剣術指南役に任命するってのでどうかな」

「トレヴァー様!いきなり指南役など待遇が良すぎます。何卒ご検討のほどお願いいたします」

今まで見たこともないほどのジルさんの慌てっぷり。昨日のジルさんしか見たことない俺が言うのもなんだが。

面会のために昨日と同じ部屋にやってきたが、入って来た途端これだ。ちなみにララは部屋でお留守番だ。
まあ、見ているこっちはジルさんの態度の変化に失笑ぎみだが。次の言葉までは……。

「はあ、……ならジルバート、お前が試合をしろ。それで勝ったらお前の言い分も少しは考慮してやっても良い。だが、負けたら……わかっているよな」

「はっ、その際はトレヴァー様の意のままに」

「まあ、そういう訳で立会いは私がするので……お願いできないだろうか?」

「はあー。まあ、構いませんが………」

うーん。要約すると俺と試合をさせてジルさんが負けたら俺が指南役に就任。ジルさんが勝ったらトレヴァーの領主様が考慮して結局指南役に就任、って感じかな。

いや、もっと複雑か。
トレヴァーの領主様は俺の腕前を知らない。となるとその実力を見る必要がある訳だ。だが、客人としてもてなしている以上試合はさせられないと。そこで、ジルさんの出番となる訳だ。もともとジルさんの性格などを熟知している領主様からしてみればジルさんはほぼ確実に俺との試合を望んでくると見込んでいた。そして領主様それを認め試合の許可を出すと。で、試合は行われ俺の実力もわかりジルさんも納得ができて一石二鳥となる訳だ。

うーん。俺の実力があればそのまま指南役に収まる訳だから領主様は更に得をし、一石三鳥となるか。というか、ほぼ領主様しか得をしないな。
まあ、せいぜい相手の手の内で踊って見ますよ。

って安易に了承してしまったが、これって結構やばいな。ジルさんは負けないために多分本気でくる。それに比べて俺は実戦経験なし。しかも、片手剣スキルの使い方もわかんないし。下手したら、あんまりにも俺が弱すぎて雇ってもらえないかもしれないし。
就職難のこのご時世にこれは厳しい………この世界はどうだか知らないが。
さーて。と、なると一昨日までやっていた剣道の型に頼るしかないわけだ。実際、この世界の剣士がどの程度なのかも分からない訳だし意外となんとかなちゃったり………しないよねー。

「ついて来い」

ふぅー、いつも通りのジルさんだ。せめて刃引きしてたらいいな。



ついた場所は修練場。様々な武器や防具が樽のようなものにぞんざいに入れられており、乾いた地面にはところどころクレーターが見受けられる。
はっきり言って怖い。だってクレーターだよクレーター。どんな力入れたらこんな風になるだか。サ◯ヤ人の仕業と言われたら納得しそう……マジで。

「好きな武器を選べ」

だ、そうです。はっき言ってどんな武器を使おうが負けそう。とりあえずスキルにもある片手剣を選ぶとしますか。
おっと、幸運というかなんというか全て刃引きしてあるじゃないか。これなら打撲くらいに………ならないよね。まあ、わかってたけどね。
正直武器の良し悪しなんてわかるはずもないので適当に近くにあるものを手に取る。
そういえば、言葉はちゃんと伝わるんだよな。確かに言ってることと口の動きは合っていないのだが。まあ、異世界ってそんなものだと思っときゃいいのかな。多分。できれば文字も読めたらいいな。

「始めるぞ」

そんな声がかかり、頷いて距離を取る。離れたところにはトレヴァーの姿もある。護衛が居なくてもいいのだろうか……まあ、いいのだろう。

「では、始めるぞ。準備はいいか?ーーー始め!」

トレヴァーの声で試合が始まる。







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