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本編
隣の席のイザリくん
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桜もすっかり散り切って青々とした葉が木々に生い茂る新学期半ば。
大学生には必修の授業というものがある。その単位を取っていないと卒業できない恐ろしい授業のことだ。
1年生の授業のほとんどがその“必修”に位置するのだが、そのうちの一つが語学の授業である。
高校とは違い、大学の講義は自由にどこの席でも座ってよいのが醍醐味なのだが、俺の大学では語学の授業のクラス構成と席順だけは強制的にあいうえお順になっている。
浜ノ辺 貝(はまのべ かい)、ハ行の苗字の俺の隣は可愛い女子、…なんて都合のいい展開は訪れず。
「なあ、タダシから聞いたんだけど、イザリ、お前また彼女変わったの?」
「うん」
友人の問いかけにピースサインを作って簡潔に答えるのは、湊 漁(ミナト イザリ)くん。マ行の彼は俺の真隣に座るとんでもないチャラ男くんで、見た目が非常に麗しくて、構内にいるときはいつもいろんな男女とわいわい喋っていて、女子からとんでもなく人気があって、本人もそれを自覚しているのかいないのか数年上のカノジョをとっかえひっかえしていると噂の、正直言って俺の苦手なタイプに当てはまる男子だ。
「また年上の頼れるステキなお姉さん?もしかしてOLとか?」
「や、1個下の高校生」
その瞬間、わ!と周りの空気が揺れる。
「コーコーセーは犯罪でしょ!淫行条例違反!」
「お前~!女子高生とか付き合うってかそもそもどうやって知り合ったんだよ?!」
「普通にネットで知り合った。」
「やっぱイザリくらい顔が良ければどんな女子とでも付き合えるんだ。」
「羨ましすぎる…」
ある者は頭をかかえ、ある者は身を乗り出し騒がしく質問攻めにする友人たちに涼しい顔をしながら答えるイザリくんは、なんでもないことのように言った。
「部活やってて体力ありそうやから好きになれるかな~思て付き合ってみた。ハードでマニアックなプレイとかしてみたいやん。」
そんな卑猥な話を学校でスナ!!!
俺は叫び出したいのを堪えつつ、でもやはりそういう話に興味がないと言えば嘘になるからだろうか、俺の意思に反し体は話の続きを聞きたいがために席を動こうとしてくれない。いや、ほんとそういうの興味ないから。もうすぐ授業始まるから席を立たないだけだから。ほんと全然興味ない。
俺の心の中の言い訳に構わず、イザリくんの『ハードでマニアックな』発言に爆笑の嵐が巻き起こり、ドッと沸いた外野たちはさらに質問を投げかけている。
イザリくんたちの話に聞き耳を立てているのはもはや俺だけではない。きっとクラス中の人間にとってこの話の続きが気になっているに違いない。
「は~?お前そんなんで決めたの?」
「名前は?顔は?写真見せてよ。」
「マナミちゃん。東京の○○高校3年生、ダンス部。ほら。」
それが聞こえた瞬間、俺はワクワクしていた心臓が瞬時に凍り付くのを感じた。ごめん今何て言った?
「うわ、ふっつ~のコ。意外、イザリってもっと派手なコがタイプだと思ってた。」
「いや、それが意外にコイツ派手目なコとは付き合わねーのよ。前に付き合ってたちょっとツンツンした感じのしっかりめの黒髪お姉さんとか最高にイザリのタイプだったのに、何。急にタイプチェンジするじゃん。」
するとイザリくんからまたもや爆弾発言が。
「縛ったら『こわいからやめて。』って言われてん。オレも無理強いしてまでやりたいとかは思ってないし。価値観の相違やな。んで別れた。でもそのコは『緊縛とか興味ある?』って聞いたら『頑張って勉強します!』て言うてくれて…、ええコやろ?」
ニヤリと笑うイザリくんに一瞬固まる空気。しかしさすがは陽キャたちだ。すぐに明るい雰囲気を取り戻す。
「イザリお前絶対気ぃ遣われてるわソレ!」
「健気ないい子じゃん。イザリにはもったいね~!」
「マジでショック。オレが付き合おうって狙ってたのに。」
「いやお前この子知らねーだろ!」
そうして鳴り響く授業開始のチャイムと、教授がマイクを準備する音。イザリくんの友人たちは辺りから解散して自席へ戻っていく。
俺はそれが鳴りやむ前に、俺は隣に座るイザリくんに一つ、約束を取り付けた。気まずい内容だけど、俺たちはこの話題について真剣に話さなければならない。
ほぼ喋ったことない相手だぞ。
緊張で吐きそうになる。
隣に座るイザリくんが放つ圧倒的なキラキラオーラと、奇跡のような顔面の良さに、無様にもガクガクと震えながら、俺は受講を開始した。もちろん教授が話すことなどほとんど頭に入ってこなかった。
大学生には必修の授業というものがある。その単位を取っていないと卒業できない恐ろしい授業のことだ。
1年生の授業のほとんどがその“必修”に位置するのだが、そのうちの一つが語学の授業である。
高校とは違い、大学の講義は自由にどこの席でも座ってよいのが醍醐味なのだが、俺の大学では語学の授業のクラス構成と席順だけは強制的にあいうえお順になっている。
浜ノ辺 貝(はまのべ かい)、ハ行の苗字の俺の隣は可愛い女子、…なんて都合のいい展開は訪れず。
「なあ、タダシから聞いたんだけど、イザリ、お前また彼女変わったの?」
「うん」
友人の問いかけにピースサインを作って簡潔に答えるのは、湊 漁(ミナト イザリ)くん。マ行の彼は俺の真隣に座るとんでもないチャラ男くんで、見た目が非常に麗しくて、構内にいるときはいつもいろんな男女とわいわい喋っていて、女子からとんでもなく人気があって、本人もそれを自覚しているのかいないのか数年上のカノジョをとっかえひっかえしていると噂の、正直言って俺の苦手なタイプに当てはまる男子だ。
「また年上の頼れるステキなお姉さん?もしかしてOLとか?」
「や、1個下の高校生」
その瞬間、わ!と周りの空気が揺れる。
「コーコーセーは犯罪でしょ!淫行条例違反!」
「お前~!女子高生とか付き合うってかそもそもどうやって知り合ったんだよ?!」
「普通にネットで知り合った。」
「やっぱイザリくらい顔が良ければどんな女子とでも付き合えるんだ。」
「羨ましすぎる…」
ある者は頭をかかえ、ある者は身を乗り出し騒がしく質問攻めにする友人たちに涼しい顔をしながら答えるイザリくんは、なんでもないことのように言った。
「部活やってて体力ありそうやから好きになれるかな~思て付き合ってみた。ハードでマニアックなプレイとかしてみたいやん。」
そんな卑猥な話を学校でスナ!!!
俺は叫び出したいのを堪えつつ、でもやはりそういう話に興味がないと言えば嘘になるからだろうか、俺の意思に反し体は話の続きを聞きたいがために席を動こうとしてくれない。いや、ほんとそういうの興味ないから。もうすぐ授業始まるから席を立たないだけだから。ほんと全然興味ない。
俺の心の中の言い訳に構わず、イザリくんの『ハードでマニアックな』発言に爆笑の嵐が巻き起こり、ドッと沸いた外野たちはさらに質問を投げかけている。
イザリくんたちの話に聞き耳を立てているのはもはや俺だけではない。きっとクラス中の人間にとってこの話の続きが気になっているに違いない。
「は~?お前そんなんで決めたの?」
「名前は?顔は?写真見せてよ。」
「マナミちゃん。東京の○○高校3年生、ダンス部。ほら。」
それが聞こえた瞬間、俺はワクワクしていた心臓が瞬時に凍り付くのを感じた。ごめん今何て言った?
「うわ、ふっつ~のコ。意外、イザリってもっと派手なコがタイプだと思ってた。」
「いや、それが意外にコイツ派手目なコとは付き合わねーのよ。前に付き合ってたちょっとツンツンした感じのしっかりめの黒髪お姉さんとか最高にイザリのタイプだったのに、何。急にタイプチェンジするじゃん。」
するとイザリくんからまたもや爆弾発言が。
「縛ったら『こわいからやめて。』って言われてん。オレも無理強いしてまでやりたいとかは思ってないし。価値観の相違やな。んで別れた。でもそのコは『緊縛とか興味ある?』って聞いたら『頑張って勉強します!』て言うてくれて…、ええコやろ?」
ニヤリと笑うイザリくんに一瞬固まる空気。しかしさすがは陽キャたちだ。すぐに明るい雰囲気を取り戻す。
「イザリお前絶対気ぃ遣われてるわソレ!」
「健気ないい子じゃん。イザリにはもったいね~!」
「マジでショック。オレが付き合おうって狙ってたのに。」
「いやお前この子知らねーだろ!」
そうして鳴り響く授業開始のチャイムと、教授がマイクを準備する音。イザリくんの友人たちは辺りから解散して自席へ戻っていく。
俺はそれが鳴りやむ前に、俺は隣に座るイザリくんに一つ、約束を取り付けた。気まずい内容だけど、俺たちはこの話題について真剣に話さなければならない。
ほぼ喋ったことない相手だぞ。
緊張で吐きそうになる。
隣に座るイザリくんが放つ圧倒的なキラキラオーラと、奇跡のような顔面の良さに、無様にもガクガクと震えながら、俺は受講を開始した。もちろん教授が話すことなどほとんど頭に入ってこなかった。
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