お前が代わりに『カノジョ』やれ

パイ生地製作委員会

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お前が代わりに『カノジョ』やれ

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「やからどしたん?」
「っえ?」
 
 『授業後、二人だけで話せないかな?』とイザリくんを誘ってやってきた語学教室棟の人気のない北階段の一番下。いや、実際には話しかけるのが怖すぎて嚙みまくり、こんなにスムーズに喋ることが出来なかったのだが。

 ともかく外野に邪魔されることなくスムーズに移動して俺は必死に事情を説明し、授業中に考えに考えまくった言葉を尽くしてイザリくんを説得しようとした。彼女に『ハードでマニアックな』遊びをするのはやめてくれ、という内容で。それはもう切実に。それなのに返って来たのが先ほどの冷たい一言だった。

 俺はこんなに言葉を尽くしたのに、返って来たのはたった一言の拒絶と無関心。
 
 そもそもなぜ俺がこんなにも他人の情事に必死になるかって?そりゃ、…―。
 
「キミの妹がオレの彼女なだけで、キミに一体何の関係があってそんなこと言われなあかんの?オレらが仲睦まじくナニしようが、キミにはな~んもカンケーないやん。」
 
 そうなんだけどさ!そうなんだけども!
 それでも俺はあんなことを聞いておいて見す見す妹をこのイケメン変態くんに生贄に捧げたいとはどうしても思えなかった。
 
「で、でも真波(マナミ)はほんとにいい子なんだ!ま、マニアックなプレイ…に利用されるの分かってて見過ごせないよ!ま、まま、まだ、高校生だし!18歳にもなってない未成年だし!そっ、それに今から受験の大変な時だし!だからその、ぇ、え……っちなこととかは、その…っ!」
 
 俺が必死に話している間も、イザリくんは興味なさそうに虚空を見つめている。え?俺の話そんなに面白くない?普通に傷つくが。
 そんな彼の態度に業を煮やして俺はイザリくんが羽織っている春らしいおしゃれなニットの上着の襟元を両手で鷲掴んで、彼の目線を無理矢理俺の低い目線に合わせ、こう叫んだ。

「大切なきょうだいなんだ。お願いします!」
 
 その時、明るい茶色がかった素敵なアンバー色の瞳がようやく俺を正面から見据えた。ハッとしたような、怒りに燃えているような、羨ましがるような…、見開かれたイザリくんの目は次々と感情を露わにすると、その美しい曲線を描く見事な唇からポツリと言葉が漏れ出した。
 
「きょうだいなんか、別にタイセツじゃなくない?…なんでそんな”タイセツ”なん?」
 
 なぜ大切か。そんなの簡単だ。俺と妹の間柄は『ドライなのに濃ゆい関係』だからだ。

 そう、あれは俺が高校受験を控えた中学3年生のとき。中2だった妹が『バイトする。』と言い出した。
 中学生なので働くと言えば新聞の配達のアルバイトくらいしかない。良い子よろしく毎日夜8時に寝て朝3時に起きる生活で貯めたお金でてっきり自分の欲しいものを買うのかと思ったら、なんと、俺の塾代としてその金を『貸して』くれたのだった。
 妹のおかげもあって無事第一志望の高校に入学できた俺は、その『借金』を今度は俺がアルバイトをして返済し、そのお金で妹は塾に通った。
 俺が大学受験をするときもそうだ。妹は高校1年生からコツコツと貯めたバイト代を俺が塾に通う費用の為に『貸して』くれて、今度は大学生になった俺がそれの返済をしている最中なのだった。
 
 年が近いので小学生の頃は『誰がお菓子を多く食べた』とか、『誰が順番を破って不公平だ』だとか、大人にとっては些細なことでよくケンカをしていたものの。しかし、今となってはそんなことも懐かしい思い出へと変化した。俺たちは成長したのだ。

 まさに持ちつ持たれつ、かといってベタベタしない、干渉しない、だけど心の奥で繋がってる。
 譲り合いの精神、共存共栄、ギブアンドテイクでビジネスライク、俺たちはともかく濃くてドライな関係なのだ。
 
 ―…と、いうことをカッコ悪くしどろもどろになりながら説明すると、彼から「分かった。」と了承の言葉を頂け、俺は満面の笑みを浮かべた。
 
 やった!俺の真剣な思いのたけが伝わったんだ!
 
「ほなお前が代わりに『カノジョ』やれよ。」
 
 はい?今、何と?
 
「家族とは言え他人の事情にそんな口出すんやったらお前が妹の代わりに『カノジョ』やれって言うたんや。」
 
 心の中に留めておいたと思っていた疑問はつい外に出してしまっていたらしい。イザリくんはさも俺を『飲み込みの遅い面倒なヤツ』、と罵るかのような視線を送り、二度同じことを繰り返した。そんなホリの深くて鼻筋のハッキリした彫刻みたいなカッコいい顔で呆れられると怖いからやめてほしい。マジで怖いからやめた方が良いよ?それ。
 
「か、『カノジョ』?に、なるとは一体…?」
「キミ、オレと妹がえっちなことするんが嫌なんやろ?分かったよ、そしたら妹チャンには手ぇ出さんどいたる。ほの代わりキミが妹チャンがやる以外のこと全部引き受けんねん、全部。理解した?」
「い、いやいや。いやいやいや…。さすがにそれはちょっとっ…」
「じゃあ~、マナミに手取り足取りあれやこれやをレクチャーするしかないよなあ…」
 
 そこまで言われてみすみす黙っていられる俺ではなかった。
 妹が『良い』と思って選んだ人なんだから外野の俺が『別れなさい』なんて言えるはずもないし、仮に言ったとして突然何を言うんだと妹はきっと耳を貸さないだろう。俺だってイザリくんが妹に変なことをしなければ別に二人がお付き合いすることに何の不満はないのだ。だから、だから…―。
 
「やる、やるから!やっぱりやります!」
 
 気づいたら必死にイザリくんの手を取りそう叫んでいた。
 するとイザリくんはその手をギリギリと音がしそうなくらい強い力で握り返して来て言う、「人に頼むんやからちゃあんと言いや。『イザリくんのカノジョ、やらせて下さいお願いします』やろ、ホラ。」…この男、控えめに言って鬼畜か?
 
こうして俺は何度も言い直しをさせられ三度目でようやくOKが出たとき、晴れてイザリくんの『カノジョ』カッコ代理カッコデート以外のこと全部担当、という妙なポジションにめでたく据え置かれたのだった。

「い、痛ッ!痛い!、い、言うから!今度こそちゃんと言うから!ごめん、ごめんなさい!イザリくんの゛!カノジョをやらせてください゛!付き合って下さい!お願いしますッ!」

「しゃーないなあ。ホンマ、しゃーなしで付き合ったるわ。この温情、ありがたく思えよ。」

 誰かこのムカつくイケメンの頭をしばいてやってくれ!
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