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1章
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メイドが連れてきた専属の医者にはどこも悪いところは無いと診断されて、「暫くは安静にしてなさい」と言われた。
医者が出ていったところで
『貴方、名前は何だったかしら?』
と聞いた。
「あっはい!アンと申します....!」
『そう、アンね。』
『今まできっと貴方たちには酷いことをしてきたと思うわ。私のことを見て欲しい一心だったの。ごめんなさい』
そう、謝った。
きっとカリナはどうやって人と接したら良いのか分からなくなっていたんだ。
だからわがままを言うことで相手に構ってもらっている気がして止められなかった。
でもそれではカリナが求める愛や幸せはやって来ない。
私が憧れ続けたカリナを幸せにしてみせる。
アンは驚きながら目に涙を溜めていた。
「本当にどうしてしまわれたのですか....?」
今まで散々わがままを言い、暴力を振るい酷な思いをさせて来たのだから戸惑っても仕方ないだろう。
信じられないという顔で私をじっと見ているアンに
『そこに座って。少し話をしましょう。』
と告げて、ベッドの横にある椅子に座るように言った。
私は、恐る恐る座るアンを横目に
カリナを思いながら少しずつ話し始めた。
『私のお父様とお母様は、私に興味ないでしょう?それなのに外には出して貰えない。』
カリナは愛されていない上に、行動も制限されて学園に行く以外はずっと自室に閉じ込められていたのだ。
『ずっと寂しかったの。誰にも愛して貰えない事も、学校以外自由に外も出歩けないことも。』
『だから人とどうやって接していいか分からなかったの。貴方たちは私がわがままを言ったり叩いたりしたら困った顔をしながらも会話をしてくれるでしょ。それで構ってもらっている気になっていたのよ。』
『私が暴言を吐いて、貴方たちが謝って。って、そんなの会話じゃないって気づいたの。もっとちゃんとした会話をしないといけないって。』
そこまで話すとアンは涙を流しながら
「いつの間にそんなに大人になっていらっしゃったのですか?」
と、どこか悔しそうに言った。
『全然。まだまだ子供よ。何故私は愛して貰えないか分かってもいないし。愛してもらうための努力の仕方も分からないもの。』
これはカリナではなく、花梨菜の思いでもあった。
「......きっと私たち大人がお嬢様を無理やり大人にしてしまったのですね。
私はお嬢様が3歳の時からお傍に付かせて頂いております。その時から旦那様や奥様からどのような扱いを受けているか分かっていました。
しかし私たち使用人にはどうすることも出来ないと、見て見ぬふりをして参りました。」
それが使用人としては正しい判断だ。雇い主に意見を言うことなんて許されない。
ましてやロンベルク家は王家に次ぐ大貴族の公爵家だ。
『貴方たちは何も悪くないわ』
そう言うと、
「いいえっ。大人として、旦那様や奥様に意見することは出来なくとも、お嬢様に愛情とは、人との関わりとは、どんなものなのかをお教えする事は出来ましたっ。それを怠ったのは私たちですッッ」
そう言って両手でスカートを握り閉めていた。
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