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秋葉夕雲

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第四章

212 蒼穹の星

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「おう! こりゃ美味い! この水は美味い! こっちの肉もいい! もっと持ってこい!」
 がはははは。
 そんな豪快な声が聞こえそうなテレパシーが響き渡る。声の主は鷲だ。
 すわ外交と意気込んでいたのに実際にはただの宴会。人生ままならぬものよ。
 リンゴジュースや干し肉をバクついているのが鷲。ふかしたジャガオを食べているのがカンガルー。
「わかってると思うけどタダじゃないぞ」
「かまわんかまわん! 領地を通る許可くらいやろう!」
「ヴェ! これならいくらでも食べれますな」
「記録しておけよマーモット」
「かしこまりました」
 これはオレたちの食料を売り込むチャンスだ。
 ちなみにマーモットは他種族の領地に進む際には必ずついてくる。というかいないとまずい。
 マーモットがいない場合それは無許可の領域侵犯と判断されて、襲われるらしい。マーモットは外交官兼パスポートみたいなもの。だから鷲も自分のマーモットを運んでいる。
 監視されているようでうっとおしいし、単独行動させにくい。けど今高原の連中と喧嘩するわけにもいかないからおとなしく従っている。
「……で? 何でこんなことになったんだ?」
「は。まず我々は王がカンガルーと呼んだ魔物と交渉するためにこの地を訪れました」
 そこまでは話に聞いてる。
「規定の食料をマーモットに渡しました」
 それもわかる。
「領地についたカンガルーにひとまず食料を渡しました」
 何ら問題ない。
「カンガルーが踊り始めました」
 これがわからない。何故踊る? 
 しかし意外なところから返答があった。鷲だ。
「知らんのか?  こいつらは体の動きや肉の盛り上がりで会話する! 喜びや悲しみを体で表現するのだ!」
「このポーズに意味があるのか……?」
「おう!」
「ヴェ!」
 そこまで力強く断言されたら反論できない……まさしく肉体言語。まだまだ世界は広い。
「いやでも普通にしゃべれないわけじゃないよな?」
「無論。しかしながら感動を表すことに我が肉体以上はありますまい!」
 ムキっと新たなパージング。尻尾でバランスをとりつつ大きく足を開いている。
 ……これは地球じゃどんなボディービルダーでも再現不可能だな。見せられてるこっちの正気度はがんがん削られてるけど。
「ええと、つまり飯が美味かったから喜びを表したってことか?」
 ビシイ。
 思わず擬音をつけ足してしまいそうな力強いポーズ。……普通に話してくださいお願いします。
 いやいやそれは言っちゃいけない。相手の気分を害しちゃだめだ。
「あー、二人とも食事は気に入ったのか?」
 ビシイ!
 カンガルーはともかく何で鷲もポーズとってんの……? 仲いいね! ついでにノリいいね君たち!
「そんなに気に入ったなら土産にでもするか?」
「いいのう! 我が部族のガキどもも喜ぶぞ!」
 ……これで鷲が大なり小なり群れでいることは確定。部族、という言葉を考えると鷲はいくつかのグループがあるのかな?
 猛禽類と聞くと孤高のハンターのようなイメージを持っている人もいるかもしれないけど実は群れで暮らしていることも少なくない。前ちょっと話したクロコンドルとかもそうだし。
 まあアンティに加わっている時点でそこそこの規模はあるはずだけどね。話ぶりだと家族仲も悪くはなさそうだ。
 このでかさの生物が集団で上空を埋め尽くすのか。……ちょっと、いやかなり強くね?
 爆弾でも作って上空から投げさせれば中世程度の科学力の文明ならフルボッコにできそうなんだが。それでなくても上をとられているっていうのはかなりのプレッシャーになるからな。味方になれば大満足。敵に回すのは最悪。

「ヴェヴェ! 芋! 食わずにはいられない!」
 カンガルーに視線を向ける。
 地球のカンガルーよりも大型。確か絶滅したカンガルーの中に大型の生物がいたんだっけ。名前は確か……プロコプトドンだったっけ。四メートルくらいの巨体だったらしいけど、それくらいはあるかもしれない。
 地球でも群れを作ることも多いカンガルー。オーストラリアでは車とカンガルーの衝突事故も珍しくないとか。
 知ってるか? フロントガラス割れたりするらしいぜ?
 どんだけパワーあるんだよ。
 カンガルーは平地に特化した走り方をしており、時速40キロ以上の速度を長時間続けられるとか。後はボクシングをして喧嘩することも有名かな。
 ……ここでは脳筋っぽいけど。
 ま、どっちにしても戦いたくねえなあ。でもこれから戦わなきゃいけないんですけどねー。こいつらはばっちりほしい土地の領主だったりする。
 とにかく情報が欲しい。特に使う魔法が何なのかわかれば大幅に有利に戦える。

「しかしまあよくもそんな巨体で空を飛べるもんだな。何かコツでもあるのか?」
 まずは鷲。軽くジャブ。
「何じゃお主。空の青さを知りたいのか?」
 めっさ目をキラキラさせてますよ!? あかん。これジャブでテンカウントとれてまうやつや。
 どいうかこのセリフどっかで……あ、だいぶ前に殺した鷲がそんなこと言ってたっけ。懐かしい。
「そうだな。教えてくれるか?」
「よっしゃ! 任せろ!」
 豪快な声で空の青さをとくと語る。……どことなく聞き覚えがある。もしかしてあの鷲、ここの出身だったのか?
「どうじゃ? 主らの住んでいる場所もロバイと同じく空は広いか?」
「空はどこでも変わらんよ。いやまあ北極に行ったりしたらオーロラとかが見れるかもしれんけど」
「オーロラ? なんじゃそりゃ?」
「空が緑とか赤色に光る現象のことだよ。見たことないか?」
「ふうむ。北の方でそれが赤くなるのを見たことはあるが」
 あるんだ。中国とかヨーロッパでも観測できるとは聞く。こいつらなら人間には見えない光が見えるかもしれないし、そもそも上空に上がればオーロラも観測しやすくなるかもしれない。
 色々考えさせられるな。
「……やはりお前らはロバイの外からやってきたようだなあ」
「まあそうだけど、なんでだ?」
「妙なことを知っておるかと思えばこのロバイでは当たり前に知っておることも知らん」
 もしかしてこいつオレのことを探ってたのか? ……大雑把に見えてなかなか侮れないな。
 ちなみにロバイとは草原や高原を意味する言葉のようだ。さらに言うなら世界、という意味もある。複数の意味を持っていたり、日本語に翻訳しづらい言葉だと普通名詞と固有名詞の中間のように感じることがある。
 ロバイという言葉が世界を意味することからこの高原をどう思っているかおおよそわかる。だからちょっとした疑問が口をついて出た。
「オレからも質問したいんだけどいいか?」
「おう、なんじゃ」
「何でお前たちはここから出ていかないんだ?」
 ここに来た当初から考えていたことだ。この高原はオレの想像通り厳しい。
 昼夜の寒暖差は激しいし、水の確保にも苦労する。オレたちがもともといた地方に比べれば雲泥の差だ。
「そらアンティに殉ずるためよ」
 ま、そういう理由か。わかりやすいけどわからないな。種の存続と繁栄よりも信仰が大事かね?
「ここから出ようと思ったことはないのか?」
 もしもこいつじゃなくても誰かそう思っている奴がいるなら勧誘するのも悪くない。
「私はそう思ったことはないがなあ。我らの仲間にはロバイの外に出ようとしたものもいるぞ」
「へえ。どんな奴?」
「武者修行にでた奴や、世界が丸いことを証明しようとした奴だな」
 ……ん?
「お前ら、惑星が丸いってことを理解してるのか?」
「おお。まあ言うても流石に空の彼方に行って確認はできてないがなあ。じゃから、そんなわけないというやつもおる。世界を一巡できた奴もおらんからのう。ようは確かめた奴がおらんのよ」
 さしもの鷲でも世界一周は難しいらしい。もっとも一年で地球一周に匹敵する距離を移動する渡り鳥はいるらしいけどな。
「じゃあ、何でそう思うんだ?」
「例えば、西に向かって思うさま飛ぶと日の出の時間が遅くなる。後は神官様もそうおっしゃっておるしな」
 神官はマーモットのことだな。
 地球に時差と言うものがあるように、東西に数千キロ移動すれば日の出日の入りの時刻は違う。こいつらの飛行能力やテレパシーなら一日の間にそれだけの距離を情報的に、あるいは物理的に移動することが可能だ。
 そういえばヒトモドキも地動説を理解してたんだっけ。やっぱり生物が違うと見えるものが違うか。
 少しだけ思案するために黙り込む。
 しかし鷲はオレに構わず話しかける。いや、むしろこの隙をこそ待っていたのかもしれない。

「ま、お主にこんな話をしてもしょうがないか。何しろからの」
「ん、いやそうだけど結構面白いぞ」
 気のない、何も考えていない返事をしてしまう。
(あれ? オレが鷲と話したことが初めてじゃないって……話して……? あ!?)
「て、てめえ! カマかけやがったな!?」
 にやりと意地の悪そうな笑顔を鷲は向ける。確信犯か!
 くそ! これだから豚羊を仲間にしておきたかったんだ! この手の舌戦とか腹の探り合いは得意じゃないんだよ!
 わざとペラペラしゃべっておいて油断させてから重要そうな情報を掴ませて隙を作るとか……結構やり手だなこいつ!
「ち、確かにそうだオレたちは鷲と会話したことがある。お前らの知り合いか?」
「恐らくだがな。おぬしらが殺したのはこの私の弟だろうな」
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