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第四章 天命
第四十三話 師弟
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この迷宮を登っている最中。
「擬態の魔人の対策ですが、神印を入れ替えようかと思います」
「神印を? 例えばあたしがエレシュキガルの神印を持っておくってこと?」
ミミエルの言葉にエタが頷く。
「擬態の魔人は記憶までは擬態できません。見えるところにない持ち物に関してはおそらく無理だと思います」
「普段神印は隠しておいて誰かと合流したりするときに見える場所につけておくのね」
「うん。さらに同じ人が二人いた時や怪しい人がいたら神印をだして自分の信仰している神を言う」
「単純な作戦だけどまあそれが確実だよな」
「だがそれは擬態への対策だ。倒す方法はあるのか?」
ラバサルの質問への答えもすでに用意してある。
「はい。一番いいのは螺旋階段に誘い込むことです。同じ螺旋階段に入るにはシュメールの誰かに擬態する必要があります。僕が上手く話を進めれば僕を狙うようにできるでしょう」
「だから螺旋階段に入った直後は擬態の魔人はわしらの携帯粘土板を盗みでもしない限り、掟が使えないはず。わかった。なら、螺旋階段で待ち伏せる役はわしに任せろ」
ラバサルの瞳はすでに覚悟が決まっているようだった。
ラバサルは冒険者としてのイレースとはこの中で最も付き合いが長い。だからこそ自分の手で擬態の魔人を倒したいと思っていた。
わずかな時間とどまることさえ難しい螺旋階段に息を殺して潜み、そして。
「ぬ、うん!」
斧を引き抜き、追撃する。
ミミエルに擬態した魔人の足元を狙う。だがそれは太ももに浅い傷をつけただけだった。
擬態の魔人は飛びのくと様々な動物が組み合わさった姿に変わった。
そして再び金色の斧を出現させる。
ラバサルは鈍く光る斧を携え走る。立場も、姿も、何もかも変わってしまった師弟は向かい合う。
今が最大の好機だ。なぜなら『敵をひれ伏せさせる掟』は斧を両手で振りかぶらなければ使えない。
さらに両手で斧を振るえるラバサルの方が圧倒的に優位だ。
それを証明するように一瞬速くラバサルが踏み込み、斧の一撃を放ち……擬態の魔人が背中から生やした腕で斧をより速く振り下ろした。人ではありえない一撃。読めるはずもない。
一瞬の静寂。
だが。
ラバサルは半身をずらすだけで擬態の魔人の攻撃を躱していた。まるで、予知していたように。
武術において常識とも言えることだが、渾身の一撃を放った後ほど隙だらけの瞬間はない。
ラバサルの反撃は擬態の魔人の腹に深々と突き刺さり……その勢いを殺すことができず階段の窓に吹き飛ばされる。擬態の魔人は窓枠を掴もうとして……失敗した。
その時。
「何故……わかった?」
そう魔人が呟いた気がした。魔人が消え、何かが風を切る音が遠くなっていく。
すぐに窓に近づき、窓の外を見るが……ただ、空があるだけだった。
後はもう動くものすらない。ただ、肌を裂くような冷たさと息苦しさだけがある。
ぽつりとラバサルがしゃべる。
「何故かだと。決まっているだろうが。弟子の動きが読めん師がどこにいる」
その言葉にエタは胸が締め付けられそうになった。
やはりラバサルにとって魔人になり果てたとしてもイレースは弟子だったのだ。
エタも、これで大願は果たしたことになる。だが、胸がすくような気持ちはない。
ただただ、苔をむりやり口に含んだような苦さだけが広がっている。これでイレースは救われたのだろうか。報われたのだろうか。
ただ少なくとも、彼女がこの大地をさまようことだけはない。
螺旋階段に仲間たちが入ってくる。
その時ようやくエタは安堵した気持ちになれたのだった。
「擬態の魔人の対策ですが、神印を入れ替えようかと思います」
「神印を? 例えばあたしがエレシュキガルの神印を持っておくってこと?」
ミミエルの言葉にエタが頷く。
「擬態の魔人は記憶までは擬態できません。見えるところにない持ち物に関してはおそらく無理だと思います」
「普段神印は隠しておいて誰かと合流したりするときに見える場所につけておくのね」
「うん。さらに同じ人が二人いた時や怪しい人がいたら神印をだして自分の信仰している神を言う」
「単純な作戦だけどまあそれが確実だよな」
「だがそれは擬態への対策だ。倒す方法はあるのか?」
ラバサルの質問への答えもすでに用意してある。
「はい。一番いいのは螺旋階段に誘い込むことです。同じ螺旋階段に入るにはシュメールの誰かに擬態する必要があります。僕が上手く話を進めれば僕を狙うようにできるでしょう」
「だから螺旋階段に入った直後は擬態の魔人はわしらの携帯粘土板を盗みでもしない限り、掟が使えないはず。わかった。なら、螺旋階段で待ち伏せる役はわしに任せろ」
ラバサルの瞳はすでに覚悟が決まっているようだった。
ラバサルは冒険者としてのイレースとはこの中で最も付き合いが長い。だからこそ自分の手で擬態の魔人を倒したいと思っていた。
わずかな時間とどまることさえ難しい螺旋階段に息を殺して潜み、そして。
「ぬ、うん!」
斧を引き抜き、追撃する。
ミミエルに擬態した魔人の足元を狙う。だがそれは太ももに浅い傷をつけただけだった。
擬態の魔人は飛びのくと様々な動物が組み合わさった姿に変わった。
そして再び金色の斧を出現させる。
ラバサルは鈍く光る斧を携え走る。立場も、姿も、何もかも変わってしまった師弟は向かい合う。
今が最大の好機だ。なぜなら『敵をひれ伏せさせる掟』は斧を両手で振りかぶらなければ使えない。
さらに両手で斧を振るえるラバサルの方が圧倒的に優位だ。
それを証明するように一瞬速くラバサルが踏み込み、斧の一撃を放ち……擬態の魔人が背中から生やした腕で斧をより速く振り下ろした。人ではありえない一撃。読めるはずもない。
一瞬の静寂。
だが。
ラバサルは半身をずらすだけで擬態の魔人の攻撃を躱していた。まるで、予知していたように。
武術において常識とも言えることだが、渾身の一撃を放った後ほど隙だらけの瞬間はない。
ラバサルの反撃は擬態の魔人の腹に深々と突き刺さり……その勢いを殺すことができず階段の窓に吹き飛ばされる。擬態の魔人は窓枠を掴もうとして……失敗した。
その時。
「何故……わかった?」
そう魔人が呟いた気がした。魔人が消え、何かが風を切る音が遠くなっていく。
すぐに窓に近づき、窓の外を見るが……ただ、空があるだけだった。
後はもう動くものすらない。ただ、肌を裂くような冷たさと息苦しさだけがある。
ぽつりとラバサルがしゃべる。
「何故かだと。決まっているだろうが。弟子の動きが読めん師がどこにいる」
その言葉にエタは胸が締め付けられそうになった。
やはりラバサルにとって魔人になり果てたとしてもイレースは弟子だったのだ。
エタも、これで大願は果たしたことになる。だが、胸がすくような気持ちはない。
ただただ、苔をむりやり口に含んだような苦さだけが広がっている。これでイレースは救われたのだろうか。報われたのだろうか。
ただ少なくとも、彼女がこの大地をさまようことだけはない。
螺旋階段に仲間たちが入ってくる。
その時ようやくエタは安堵した気持ちになれたのだった。
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