迷宮攻略企業シュメール

秋葉夕雲

文字の大きさ
304 / 315
第四章 天命

第四十二話 光

しおりを挟む
 擬態の魔人と戦うのはこれで二度目。
 そして対策を練る時間はわずかながらあった。
 そこから導き出された答えは。
 速攻である。

 最も近づいていたミミエルが銅の槌を振るう。
 それを躱す擬態の魔人にシャルラの矢が迫る。ミミエルに当たってもおかしくない撃ち方だったが、そこはミミエルも了承している。
 それさえも躱した擬態の魔人に背後からターハが迫るが髪に潜む蛇がターハをけん制する。
 それを見た四人の思いは。
(やっぱりだ)
(擬態の魔人は)
(誰かに擬態しているとき)
(擬態している本人の掟しか使えない!)
 現在ラマトの姿をしている擬態の魔人はラマトの掟しか使えない。つまりイレースのメラムを纏った掟……『敵をひれ伏せさせる掟』は使えない。
 あれを使われて全滅した前回の失敗は繰り返さない。
 だから、可能な限りラマトであるうちに倒す。
 ……エタ以外の三人はイレースの姿になった魔人をエタの目の前で殺したくないという意図もあったのだが……どうあれ素早く仕留めることに異論はなかった。
 エタが知っているラマトの掟は二つ。
 槍。『投げると手元まで戻る掟』。『泡を浮かべる掟』を持つ造花。
 だが他にも掟を持っているかもしれない。可能であれば、それらさえ使う前に倒す。
 三人が擬態の魔人を追い詰める。ラマトは優秀な冒険者だが、さすがに三対一で勝てるほど強くはない。
 そして擬態の魔人はその擬態が完璧であるが故か、擬態の魔人が持つ能力は使えても、擬態している本人よりは強くなれない。
 擬態の魔人が本来の姿を取り戻す隙は与えない。
 とん、とラマトの背中が樹に当たる。追い詰めるようにミミエルとターハが左右から襲い掛かる。
 ぶん、と地面を抉りそうな衝撃を纏った攻撃が……樹にあたる。
 擬態の魔人はトカゲよりも器用に二本足で樹に張り付いていた。
「あのサンダル、掟だ!」
 この場の誰も知る由もないが、ラマトのサンダルには『壁に張り付く掟』が籠められている。
 エタたちも初見の掟を使われては有効な対処が困難だった。
 さらに擬態の魔人は器用に樹を登り、その幹の上に立つ。明らかな隙を与えてしまった。
「エタ! 逃げなさい!」
 ミミエルが叫ぶ。
 擬態の魔人は本性を現し、いくつもの動物や植物を組み合わせた奇怪な姿に変身……いやこれすらも擬態なのか。
 さらに金色の斧を取り出した。
 エタもようやく走り出す。
 背後から滔滔と祝詞が聞こえる。
「偉大なる太陽と法の神、シャマシュ神に希う。ここに聖なる威厳を示したまえ」
 すさまじい閃光と、轟音が響く。
 これがメラムを纏った掟。これがある限り、擬態の魔人は倒せない。この光と音を聞けば誰もが直ちに地に伏せてしまう。
 耳を閉じながらエタは必死で走る。あまりにも必死すぎたせいで、、の神印が胸元から飛び出てしまった。
 むしろこうしたほうが安全なのだ。擬態の魔人はエタだけがこの塔を攻略できると思っている。だからエタだけは明確に排除する理由がある。
 他はわざわざ殺す理由がない。
 だからやはりエタは走る。
 そして前の階層に戻る扉を見つけ、そこに飛び込んだ。何度も足を運んだ同じ風景が目に入る。
 扉は同じグループの人間しか同じ螺旋階段に通さない。だからこれで擬態の魔人は手を出すことができない。



 ただし。
 擬態の魔人がシュメールの誰かに擬態しない限り。

 扉に振り向いたエタは扉をくぐってきたミミエルと目が合った。もちろん本物のミミエルではない。エタが逃げた螺旋階段にたどり着くために擬態の魔人がミミエルに化けているのだ。
 オオカミの瞳が迫る。
 そして。

 横合いで待ち構えていたラバサルの斧がミミエルに擬態した魔人の片腕を切り落とし、その勢いのまま胸に刃を突き立てた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...