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アルド・カガリ
プロポーズ
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「ねえねえ!」
競走だと言い出したはずのスルファンは何故かわざわざボクの隣に並んで声を掛ける。
「どうしました?」
「もっと速く走れるよね?遠慮しなくて良いんだよ?」
手を抜いているのを見抜いたのか、或いは単純に勘で言っているのか。
円卓での淑女然とした姿は偽装?
「……わかりました」
どちらにせよ少し速度を上げた方が賢明だろう。
「お!そうこなくっちゃ!」
期待に応えられたのかは分からないが、スルファンはまたボクと並んで走り始める。
「カガリくんってリースの弟子だよね?」
「……はい」
アルド・リース。孤児だったボクを拾って育ててくれた親のような存在であり、聖法や戦闘技術の師匠でもある。
「師匠のことを知ってるんですか?」
何を考えているのか読めないのなら世間話でもして余計な詮索を躱そう。
「もちろん!貴族じゃなかったから枢機卿にはなれなかったけど、父娘そろって特務部隊で活躍してたの、実は密かに憧れてたんだぁ」
"特務部隊"という言葉を聞いてボクの胸がキュッとなる。
「小さな町を飲み込んで繁殖し続ける魔獣を根絶やしにした話とか有名よね~」
なんだこの女……。一体、何を知っている?
「今はボクが師匠の家を継いで枢機卿になりました。もう貴族でなければ枢機卿になれないのは過去の話です」
あの戦争での働きが無ければ、他の枢機卿達も……聖王ですらも考えを改めようとしなかっただろう。
それほど、聖王国の上層部は貴族や王族といった出自ばかりを重んじる人間達だった。
「そうね。でも、法力の強い相手同士で結婚してきた貴族が上に行きやすいのは当たり前っちゃ当たり前よね」
「そうですね」
スルファンはカイモンとは違う種類の人間と思っていたけど、やっぱり貴族はそんな考え方になるんだ。
「そこでなんだけどさ……。カガリくん」
「アタシと結婚しない?」
「は?」
突然の告白に不意をつかれ、つい立ち止まってしまった。
「な、なんの冗談ですか?」
「ん~、冗談とかじゃなくてね?」
ボクが止まった場所にスルファンが歩いてくる。
「カガリくんって良い"恩恵"を貰ってるよね?戦争の時からずっと見た目が変わらないし、たぶん"不老"とかかな?」
"生き返りの恩恵"の内容を見抜かれている。
「人が使える法力の上限は大人になるまで成長し続ける……私の言いたいことはわかるよね??」
「……はい」
常識だ。身体が成長期を迎える歳の頃が最も法力の容量が増えるから、聖王国では子供の頃から洗礼を受けさせて強い聖法使いを育てる。
「そしてカガリくんは恩恵のおかげで今も法力が成長し続けている……」
状況証拠からの推理。
いつから観察されていたのか分からず、指摘が当たっている以上不自然な否定はできない。
「アタシと結婚して正式に貴族になれたら、カガリくんも今の八席より上になれるよ?」
たしかにスルファンは上級貴族では無いが立派な貴族だ。
貴族でないボクと違って、スルファンは自分より格上の貴族より高い第二席の地位を得ている。
そのことからも分かるとおり、未だに貴族であることは本人の実力よりも重要視されているのだ。
だが。
「身に余る申し出ですが……ボクには心に決めた相手がいますのでお断りさせていただきます」
ここでボクが誰かと結ばれて幸せになるなんてありえない。
あの日からボクが目指したものはそんな簡単なた幸せなんかじゃないんだ。
「そっかぁ。残念……」
言葉とは裏腹に、断られることが分かっていたような余裕の微笑みを浮かべている。
「その相手ってリースでしょ?」
何故この人はその答えにたどり着けるのだろう?
そのことは誰にも話していないのに。
「どうしてそう思うんですか?」
「だって、アタシに勝てる女なんてリースだけだったもん」
理由としてはひどく個人的で理不尽なものだった。
「あ~。死んでてもそれだけ想われるなんて幸せ者よねぇ」
ため息をつくスルファン。師匠とはどんな関係だったんだろう?
「ちょっと時間とっちゃったね。この話は二人だけの秘密だからね~」
そう言うと、スルファンはまた走り出した。
走り出す前に見えたスルファンの目尻には、気のせいか涙が見えた気がした。
競走だと言い出したはずのスルファンは何故かわざわざボクの隣に並んで声を掛ける。
「どうしました?」
「もっと速く走れるよね?遠慮しなくて良いんだよ?」
手を抜いているのを見抜いたのか、或いは単純に勘で言っているのか。
円卓での淑女然とした姿は偽装?
「……わかりました」
どちらにせよ少し速度を上げた方が賢明だろう。
「お!そうこなくっちゃ!」
期待に応えられたのかは分からないが、スルファンはまたボクと並んで走り始める。
「カガリくんってリースの弟子だよね?」
「……はい」
アルド・リース。孤児だったボクを拾って育ててくれた親のような存在であり、聖法や戦闘技術の師匠でもある。
「師匠のことを知ってるんですか?」
何を考えているのか読めないのなら世間話でもして余計な詮索を躱そう。
「もちろん!貴族じゃなかったから枢機卿にはなれなかったけど、父娘そろって特務部隊で活躍してたの、実は密かに憧れてたんだぁ」
"特務部隊"という言葉を聞いてボクの胸がキュッとなる。
「小さな町を飲み込んで繁殖し続ける魔獣を根絶やしにした話とか有名よね~」
なんだこの女……。一体、何を知っている?
「今はボクが師匠の家を継いで枢機卿になりました。もう貴族でなければ枢機卿になれないのは過去の話です」
あの戦争での働きが無ければ、他の枢機卿達も……聖王ですらも考えを改めようとしなかっただろう。
それほど、聖王国の上層部は貴族や王族といった出自ばかりを重んじる人間達だった。
「そうね。でも、法力の強い相手同士で結婚してきた貴族が上に行きやすいのは当たり前っちゃ当たり前よね」
「そうですね」
スルファンはカイモンとは違う種類の人間と思っていたけど、やっぱり貴族はそんな考え方になるんだ。
「そこでなんだけどさ……。カガリくん」
「アタシと結婚しない?」
「は?」
突然の告白に不意をつかれ、つい立ち止まってしまった。
「な、なんの冗談ですか?」
「ん~、冗談とかじゃなくてね?」
ボクが止まった場所にスルファンが歩いてくる。
「カガリくんって良い"恩恵"を貰ってるよね?戦争の時からずっと見た目が変わらないし、たぶん"不老"とかかな?」
"生き返りの恩恵"の内容を見抜かれている。
「人が使える法力の上限は大人になるまで成長し続ける……私の言いたいことはわかるよね??」
「……はい」
常識だ。身体が成長期を迎える歳の頃が最も法力の容量が増えるから、聖王国では子供の頃から洗礼を受けさせて強い聖法使いを育てる。
「そしてカガリくんは恩恵のおかげで今も法力が成長し続けている……」
状況証拠からの推理。
いつから観察されていたのか分からず、指摘が当たっている以上不自然な否定はできない。
「アタシと結婚して正式に貴族になれたら、カガリくんも今の八席より上になれるよ?」
たしかにスルファンは上級貴族では無いが立派な貴族だ。
貴族でないボクと違って、スルファンは自分より格上の貴族より高い第二席の地位を得ている。
そのことからも分かるとおり、未だに貴族であることは本人の実力よりも重要視されているのだ。
だが。
「身に余る申し出ですが……ボクには心に決めた相手がいますのでお断りさせていただきます」
ここでボクが誰かと結ばれて幸せになるなんてありえない。
あの日からボクが目指したものはそんな簡単なた幸せなんかじゃないんだ。
「そっかぁ。残念……」
言葉とは裏腹に、断られることが分かっていたような余裕の微笑みを浮かべている。
「その相手ってリースでしょ?」
何故この人はその答えにたどり着けるのだろう?
そのことは誰にも話していないのに。
「どうしてそう思うんですか?」
「だって、アタシに勝てる女なんてリースだけだったもん」
理由としてはひどく個人的で理不尽なものだった。
「あ~。死んでてもそれだけ想われるなんて幸せ者よねぇ」
ため息をつくスルファン。師匠とはどんな関係だったんだろう?
「ちょっと時間とっちゃったね。この話は二人だけの秘密だからね~」
そう言うと、スルファンはまた走り出した。
走り出す前に見えたスルファンの目尻には、気のせいか涙が見えた気がした。
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