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アルド・カガリ
晴天
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「これで大丈夫かな?」
気絶したエルさんを縛り上げておく。
灯花と手分けして、エルさんの愛馬がいないか探していると……。
「おっ?」
雑木林がガサガサと揺れたかと思うと、しょんぼり顔のシェレットがゆっくりと出てきた。
「心配せずとも、ご主人は寝ているだけでござるよ」
シェレットの首を灯花が撫でる。
じーっとエルさんを見つめる姿は、本当に心配しているよう。
「うわっぷ」
長い舌で灯花の顔を舐めるシェレット。
「前にもこんなことがあったでこざるなぁ……」
「なんか美味そうな匂いでもしてるんじゃないか?」
「……馬だけに?」
「ぷっ」
そんなつもりは無かったのに、不意打ちの駄洒落で少し笑ってしまった。
「拙者達がエル氏を連れていくわけにもいかないでござるし、ここはやはりシェレちゃんに頼むしか……」
僕達がエルさんの方を見ると、シェレットはその場に座った。
「乗せろってことかな?」
「ブフルル」
気を失っているエルさんを起こさないように注意しながら、シェレットに乗せて落ちないように体を縛り付ける。
「これも忘れずに……と」
近くの木陰に置いてあった鞘に大剣を入れ、これもついでに縛っておく。
「それじゃ、あとは任せたでござるよ~」
灯花がシェレットの尻を撫でると、そのままどこかへ歩いて行ってしまった。
ワオオオォォーーーーーーーーー!!
「向こうの二人も無事に着いたみたいだな」
遠くから聞こえてくる狼の遠吠えに似た音。
サーラさんに渡していた狼笛だ。
「ユウ氏……」
「ん? どうした?」
シェレットが行った方向を見ながら、灯花が僕を呼ぶ。
「……帰れると良いでござるな」
「あぁ……本当にな」
つい最近まで笑い合っていた相手と敵対してしまうこの世界に、恐らく灯花は不安を感じているのだろう。
僕も同じだ。
元の世界では自分の周囲に気を配っていればそれで良かった。
でもこの世界でなんとなく感じたのは、色んな人達の考えや都合の中で生きていくことの複雑さ。
……もしかしたら、知らなかっただけで僕達の世界も同じだったのかも。
「……ん」
身体が動かない。
胸の辺りが強く痛む。
目を開けると、そこには見慣れた毛色の鬼馬の頭。
歩く動作に合わせて左右に少し揺れている……。
そこでエルは現状を理解した。
「……私、負けてしまいましたのね」
自身が人界最強だなんて思い上がりは持っていなかった。
しかし、たった二人の少年少女に敗北するとも考えていなかった。
少年はどこにでもいそうな普通の子供。
決して腕力や体力に優れるわけではなかったが、聖法を使う以上はその危険性から強く警戒していた。
少女は金色の髪を持ちながらも聖法を使えず、しかし愛剣を軽々と振り回す人外な膂力を警戒していた。
それでも。
その二人が相手ならば、加護の力を解放した自分の方が上……だったはずなのに。
(あれはまさしく……)
間違いなく、少女はなんらかの加護を受けていた。
それも龍王樹より強力な加護。
もしかすると……。
「シェレット、止まりなさい」
声に応じて揺れがおさまる。
指の爪で少しずつ戒めを千切り、自由になった手を懐に入れて小剣を取り出す。
「…………」
砕かれた胸甲こそ無かったものの、武器が廃棄されていないのは少年たちが素人であることを物語っていた。
「…………どう報告するべきか困ったものですわね」
地に降り立ち、服装を整える。
空を見上げると、エルの悩みなど知ったことかと言わんばかりの青空が広がっていた。
【第五章 完】
気絶したエルさんを縛り上げておく。
灯花と手分けして、エルさんの愛馬がいないか探していると……。
「おっ?」
雑木林がガサガサと揺れたかと思うと、しょんぼり顔のシェレットがゆっくりと出てきた。
「心配せずとも、ご主人は寝ているだけでござるよ」
シェレットの首を灯花が撫でる。
じーっとエルさんを見つめる姿は、本当に心配しているよう。
「うわっぷ」
長い舌で灯花の顔を舐めるシェレット。
「前にもこんなことがあったでこざるなぁ……」
「なんか美味そうな匂いでもしてるんじゃないか?」
「……馬だけに?」
「ぷっ」
そんなつもりは無かったのに、不意打ちの駄洒落で少し笑ってしまった。
「拙者達がエル氏を連れていくわけにもいかないでござるし、ここはやはりシェレちゃんに頼むしか……」
僕達がエルさんの方を見ると、シェレットはその場に座った。
「乗せろってことかな?」
「ブフルル」
気を失っているエルさんを起こさないように注意しながら、シェレットに乗せて落ちないように体を縛り付ける。
「これも忘れずに……と」
近くの木陰に置いてあった鞘に大剣を入れ、これもついでに縛っておく。
「それじゃ、あとは任せたでござるよ~」
灯花がシェレットの尻を撫でると、そのままどこかへ歩いて行ってしまった。
ワオオオォォーーーーーーーーー!!
「向こうの二人も無事に着いたみたいだな」
遠くから聞こえてくる狼の遠吠えに似た音。
サーラさんに渡していた狼笛だ。
「ユウ氏……」
「ん? どうした?」
シェレットが行った方向を見ながら、灯花が僕を呼ぶ。
「……帰れると良いでござるな」
「あぁ……本当にな」
つい最近まで笑い合っていた相手と敵対してしまうこの世界に、恐らく灯花は不安を感じているのだろう。
僕も同じだ。
元の世界では自分の周囲に気を配っていればそれで良かった。
でもこの世界でなんとなく感じたのは、色んな人達の考えや都合の中で生きていくことの複雑さ。
……もしかしたら、知らなかっただけで僕達の世界も同じだったのかも。
「……ん」
身体が動かない。
胸の辺りが強く痛む。
目を開けると、そこには見慣れた毛色の鬼馬の頭。
歩く動作に合わせて左右に少し揺れている……。
そこでエルは現状を理解した。
「……私、負けてしまいましたのね」
自身が人界最強だなんて思い上がりは持っていなかった。
しかし、たった二人の少年少女に敗北するとも考えていなかった。
少年はどこにでもいそうな普通の子供。
決して腕力や体力に優れるわけではなかったが、聖法を使う以上はその危険性から強く警戒していた。
少女は金色の髪を持ちながらも聖法を使えず、しかし愛剣を軽々と振り回す人外な膂力を警戒していた。
それでも。
その二人が相手ならば、加護の力を解放した自分の方が上……だったはずなのに。
(あれはまさしく……)
間違いなく、少女はなんらかの加護を受けていた。
それも龍王樹より強力な加護。
もしかすると……。
「シェレット、止まりなさい」
声に応じて揺れがおさまる。
指の爪で少しずつ戒めを千切り、自由になった手を懐に入れて小剣を取り出す。
「…………」
砕かれた胸甲こそ無かったものの、武器が廃棄されていないのは少年たちが素人であることを物語っていた。
「…………どう報告するべきか困ったものですわね」
地に降り立ち、服装を整える。
空を見上げると、エルの悩みなど知ったことかと言わんばかりの青空が広がっていた。
【第五章 完】
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