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初陣
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遅れて駆け付けたヴェルダの南軍とラランジャの義勇軍を加え、アルベール王を総大将とする連合軍が北の国境へ向けて出立した。
サフランをはじめとする者たちは、交戦したばかりの三公爵の軍が寝返ったことに唖然とした。憤慨する者もいたが、アルベール王から事の次第を説明されると反論はそれ以上上がらなかった。サフランは族長としての立ち回りが忙しいのか、直接顔を合わせることはなかった。
カトレアは、三公爵の代わりにコルデホーザの代表として赴くこととなった。用意していた予備の毒矢を他の弓兵部隊にも持たせ、自らも長弓と毒矢を携え、生まれて初めてズボンと金属製の胸当てを身に着けた。これに帷子を加えると腕が上がらず、妥協した。
ヴェルダの北西部は林がまばらで起伏も少ない。見通しの良い平地での交戦になるというのがアルベール王の弁だ。
翌日正午には国境へと到着する地点まで進み、軍営を張った日、前線の偵察に向かっていた者から報告があった。やはりコルデホーザの北軍が主力部隊らしく、ヴェルダの軍勢は食い止めてはいるが劣勢だという。毒矢は単なる足止めにしかならず、勢いがコルデホーザにあることから士気を削ぐまでには至っていないらしい。
さらに、イーデン自ら大国の援軍を率いていると聞き、カトレアは戦慄した。
文官であるイーデン自身が戦線に参加することはないが、こちらの動向も耳に届いているはずだ。アルベール王は公爵たちに警戒を怠らないよう、釘を刺していた。
レイは無事だろうか。ルークは、一体どの辺りで何をしているのだろうか。不安に蝕まれそうな自分を叱咤し、カトレアは翌日の決戦に備えた。
翌朝、日の出を待たずに出発した連合軍は、国境にほど近い平地まで辿り着いた。
ぎらぎらとした太陽が、峡谷を挟み争う二つの軍を容赦なく焦がしている。谷沿いには弓に倒れ息絶えた兵士の姿が両軍に見受けられ、カトレアは目を背けそうになるのを耐えた。
二国を繋ぐ幅広の石橋にはヴェルダの軍勢がおり、板を打ち付けた砦の鉄門には土嚢が積み上げられていた。連日の攻防のためか板はひび割れ、鉄門は歪んでいる。兵士たちが自ら身を盾にし突破を阻止しているものの、無慈悲な衝撃音が鉄門の向こうから響いていた。
アルベール王の指揮により、弓兵部隊が敵の前線を叩くため先陣を切った。他の部隊は三公爵が主立ち、砦を守る兵士たちの加勢に入る。カトレアは護衛の騎馬兵に三方を守られ、後方から馬を走らせた。こんな自分にも、今は自ら護衛を買って出る者がついて来てくれる。素直に嬉しかった。
吹き荒れる熱風と沢山の息遣い。蹄と軍靴の舞。全てが止み、静寂の後に立つのは自分たちだ。
「ヴェルダ軍に告ぐ! 耐え忍ぶ時は終わった、門を開き我らに続け!」
公爵の一人が砦に向かい咆哮を上げる。防戦に徹していた兵士たちは疲弊した表情から一転し、大量の援軍に息を吹き返した。
脆くなっていた鉄門はすぐさま開かれ、大砲を構えていたコルデホーザの前線はこれ幸いと突撃する。しかし新たな弓兵部隊の援護射撃により足を取られ、その隙に連合軍がコルデホーザの国領側へなだれ込んだ。
三公爵の軍勢が加わったことにより、兵力の差は連合軍が上回った。それでも死傷者はこちらの方が多い。だが、もう無駄な血は流させない。
(この戦いに勝てば、やっと……!)
手綱を強く掴んだ時だった。唐突に、左右の騎馬がいななき視界から消えた。
振り向いた瞬間、背後を守っていた護衛が犬歯を覗かせた。気が付いた時には他の護衛同様、騎馬の足を切られ地面に投げ出されていた。馬たちは苦しげに泡を吹いている。カトレアは全身を叩きつけられ、かすれた声を上げた。
「まさか、あなた……」
見上げると、長剣から赤黒い液体を滴らせた騎馬兵は目をぎらつかせた。
「嫌われ者だった王女様がのぼせ上がったのが運の尽きだな。さあ、イーデン様がお待ちかねだ」
さらに後方を取り巻いていたのは、似たような目つきの者ばかりだった。
サフランをはじめとする者たちは、交戦したばかりの三公爵の軍が寝返ったことに唖然とした。憤慨する者もいたが、アルベール王から事の次第を説明されると反論はそれ以上上がらなかった。サフランは族長としての立ち回りが忙しいのか、直接顔を合わせることはなかった。
カトレアは、三公爵の代わりにコルデホーザの代表として赴くこととなった。用意していた予備の毒矢を他の弓兵部隊にも持たせ、自らも長弓と毒矢を携え、生まれて初めてズボンと金属製の胸当てを身に着けた。これに帷子を加えると腕が上がらず、妥協した。
ヴェルダの北西部は林がまばらで起伏も少ない。見通しの良い平地での交戦になるというのがアルベール王の弁だ。
翌日正午には国境へと到着する地点まで進み、軍営を張った日、前線の偵察に向かっていた者から報告があった。やはりコルデホーザの北軍が主力部隊らしく、ヴェルダの軍勢は食い止めてはいるが劣勢だという。毒矢は単なる足止めにしかならず、勢いがコルデホーザにあることから士気を削ぐまでには至っていないらしい。
さらに、イーデン自ら大国の援軍を率いていると聞き、カトレアは戦慄した。
文官であるイーデン自身が戦線に参加することはないが、こちらの動向も耳に届いているはずだ。アルベール王は公爵たちに警戒を怠らないよう、釘を刺していた。
レイは無事だろうか。ルークは、一体どの辺りで何をしているのだろうか。不安に蝕まれそうな自分を叱咤し、カトレアは翌日の決戦に備えた。
翌朝、日の出を待たずに出発した連合軍は、国境にほど近い平地まで辿り着いた。
ぎらぎらとした太陽が、峡谷を挟み争う二つの軍を容赦なく焦がしている。谷沿いには弓に倒れ息絶えた兵士の姿が両軍に見受けられ、カトレアは目を背けそうになるのを耐えた。
二国を繋ぐ幅広の石橋にはヴェルダの軍勢がおり、板を打ち付けた砦の鉄門には土嚢が積み上げられていた。連日の攻防のためか板はひび割れ、鉄門は歪んでいる。兵士たちが自ら身を盾にし突破を阻止しているものの、無慈悲な衝撃音が鉄門の向こうから響いていた。
アルベール王の指揮により、弓兵部隊が敵の前線を叩くため先陣を切った。他の部隊は三公爵が主立ち、砦を守る兵士たちの加勢に入る。カトレアは護衛の騎馬兵に三方を守られ、後方から馬を走らせた。こんな自分にも、今は自ら護衛を買って出る者がついて来てくれる。素直に嬉しかった。
吹き荒れる熱風と沢山の息遣い。蹄と軍靴の舞。全てが止み、静寂の後に立つのは自分たちだ。
「ヴェルダ軍に告ぐ! 耐え忍ぶ時は終わった、門を開き我らに続け!」
公爵の一人が砦に向かい咆哮を上げる。防戦に徹していた兵士たちは疲弊した表情から一転し、大量の援軍に息を吹き返した。
脆くなっていた鉄門はすぐさま開かれ、大砲を構えていたコルデホーザの前線はこれ幸いと突撃する。しかし新たな弓兵部隊の援護射撃により足を取られ、その隙に連合軍がコルデホーザの国領側へなだれ込んだ。
三公爵の軍勢が加わったことにより、兵力の差は連合軍が上回った。それでも死傷者はこちらの方が多い。だが、もう無駄な血は流させない。
(この戦いに勝てば、やっと……!)
手綱を強く掴んだ時だった。唐突に、左右の騎馬がいななき視界から消えた。
振り向いた瞬間、背後を守っていた護衛が犬歯を覗かせた。気が付いた時には他の護衛同様、騎馬の足を切られ地面に投げ出されていた。馬たちは苦しげに泡を吹いている。カトレアは全身を叩きつけられ、かすれた声を上げた。
「まさか、あなた……」
見上げると、長剣から赤黒い液体を滴らせた騎馬兵は目をぎらつかせた。
「嫌われ者だった王女様がのぼせ上がったのが運の尽きだな。さあ、イーデン様がお待ちかねだ」
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