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16話 ★
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四方から強烈な照明を受けながら、隼人は猫足の椅子に座って決め顔を作る。
「はーい! じゃあ目線こっちで! 優しく微笑む感じでお願い。はい、いいよ!」
ストロボの光が隼人の一瞬を写し撮る。
時には足を組んだりあえて肘掛けに座ってみたり、全てはカメラマンの指示通りに動いていく。
今日の仕事は雑誌の表紙の撮影。
隼人は世間の求める『藤村隼人』として盛りに盛った表情で仕事をこなす。
そんな隼人を女性スタッフ達が熱い眼差しで見守っている。しかし当の隼人はそんな視線を意識することなく全く違うことを考えていた。
(今日は上手く出来るかな……)
アダルトグッズで滅茶苦茶に感じさせられたあの夜。
あれ以来、隼人は仙崎によって与えられたルールをこなしながら日々を送っていた。
そのルールとは自慰行為をして一日に三回、二度ずつの射精をする、というもの。
ようは一日に合計で六回も出さなくてはいけないのだ。
もともとオナニーなんて滅多にしてこなかった隼人にはなかなかきついノルマだ。
しかし仙崎に言わせればこのくらい隼人には出来るし、もっとしてもいいくらいだそうだ。
「隼人さんは間違いなく人より性欲が強い。やはり芝居のときに顕著に現れてしまうのは自覚がなくても溜まっているからでしょう。なので毎日きちんと抜く習慣をつけて、芝居の仕事があるときは普段よりもっと回数をふやして体調を合わせましょう」
「そうするのがいいんだろうけど……」
「実際にお芝居の仕事が入れば今までと違うことがわかると思います。もし効果がなくて性欲が昂ぶってしまっても、女性に手を出してしまう前に私が止めに入りますよ」
「その時はお願い。でも俺やっぱりそんなに何回も抜く時間なんて取れる気がしない。朝はぎりぎりまで寝てるし、昼も忙しいし、いつも上手く気分が乗らなくて一回抜くのに時間かかるし」
「そこは私か調整します。隼人さんの体調を考えながらスケジュールをたてるのは私のお仕事ですから」
「わかった。任せるよ」
そして仙崎に手伝われながら射精管理をする日々が始まった。
朝、昼、晩、と仕事の合間をぬって自慰行為をする日々は、すでに数日経過しているが隼人は未だに慣れない。
というか隼人は自分で処理することが出来ていなかった。
朝はしっかり覚醒できずに夢うつつのまま仙崎に抜いてもらって、昼は忙しいのと仕事先で処理するという環境に勃たせられず仙崎の手淫で処理してもらっていた。
夜も自分で抜こうと試しても、最後までイけなくて結局仙崎に導いてもらうことが多い。
(ちゃんと自分でイけるようにならないと……)
仙崎の方法に効果があっても、隼人が一人で出来るようにならなければ問題の解決にはならない。
仙崎は代理のマネージャーだ。落合が復帰したら仙崎はいなくなってしまう。仙崎がいてくれるうちに性欲をコントロール出来るようにならなければ。
「オッケーです! いやー、良かったよ。バッチリ決まってたた!」
「ありがとうございます! スタッフの皆さんが格好良くしてくれたおかげですよ」
実際はこの仕事の事とはまったく別の事を考えていたのだが、そんなことおくびにも出さないで笑顔で答える。
隼人の良心の部分が仕事に対して不誠実だと主張するが、今はそれを無視して求められている『藤村隼人』を演じる。
「謙虚だね~。その言葉を聞いたらみんな喜ぶよ。次、仕事入ってるんだろう? 見本ができたら事務所に届けるね」
「はい、ありがとうございます。それでは僕はここで失礼します。お疲れ様でした」
隼人はスタッフに衣装を返して別れの挨拶を交わしていると、仙崎が隼人の荷物を持ってやってくる。
「お疲れ様でした。上着をどうぞ」
「うん。ありがとう」
仙崎から自分の荷物を受け取ると、隼人は次の仕事へ意識を切り替える。隼人はスタジオを出ながら仙崎に確認を取る。
「次ってバラエティの収録だったよね?」
「はい。これから車で移動になります。昼食はあちらでお弁当が用意されているので少し早めに入って食事を取りましょう」
「オッケー」
「ところで隼人さんは車の中と移動先の楽屋、どちらでしましょうか?」
仙崎の質問に隼人の動きが一瞬止まった。
隼人はとっさに周囲を探るが人の気配はいない。
彼は人がいないことを確認して隼人に聞いてきたのだろう。
隼人はホッと胸をなでおろす。
仙崎ならきちんと配慮してくれるのはわかっているが、こうも堂々も聞かれると焦ってしまう。
今の質問はお昼分の射精ノルマはどこでするか、を遠回しに聞いてきたのだ。
隼人は何事もなかったかのように歩き出したが、少し頬を赤らめて気まずそうに小声で答える。
「次の収録は共演者が多いから挨拶回りとかで楽屋は人の出入りが激しいと思う。だから……その、車の中で……かな」
やはりこのルールのある生活にはまだ慣れない。
隼人はもじもじと歯切れの悪い答えを返す。
仙崎はそんな隼人の消え入りそうな声をしっかり聞き取ると、隼人にそっと耳打ちをする。
「ではここの駐車場ですませてしまいましょう。人気の少ないところに駐車してあります」
耳元にかかる仙崎の息にぞくぞくっと背筋に何かが走る。
熱い吐息が漏れそうになって隼人は思わず唇を結んだ。
今の自分の状態が何なのかわからない。
これは一体なんなのだろう。
「隼人さん?」
「あっ、……うん。わかった、行こう」
仙崎の声で思考の深みへ入り込みそうになっていた自分を現実に引き戻す。
隼人は背中に添えられた彼の手の大きさを感じながらエレベーターに乗り込むと駐車場に降りていく。
地下駐車場にある車は確かに目立たない隅に駐めてあった。
左側面と後ろは壁なので人の目を気にするのは正面と右側からだけだ。
現場に入る時はもっと入り口に近かったので駐め直したのだろう。
仙崎が車のドアを開けると車に取り付けられているカーテンを全て引く。そして後部座席のシートにタオルを敷くと隼人を振り返る。
「準備ができました。さあ、どうぞ」
「ありがとう」
隼人は仙崎に促されて車に乗り込むとタオルの上に腰を下ろした。
カーテンの引かれた車の中はちょっとした個室のようになっている。仕事中で楽屋を安全に使えないときはここで自慰をするのだ。
「時間の余裕はありますから、落ち着いて集中すれば大丈夫ですよ」
「……うん」
「では私は外で見張っておきますね。万が一、人が来そうな場合はノックします」
「わかった」
仙崎が外から車のドアを閉めて隼人は一人きりになった。
「さっさと抜かないと」
隼人は決意を固めてズボンのボタンを外してチャックを下ろし自分のものを取り出す。イヤホンをつけてスマートフォンを手に取るとおかずになりそうな動画を再生する。
時間に余裕があると言っても無限に使えるわけではない。トラブルに出くわすこともある。早めに終わらせるにこしたことはない。
隼人は動画の最初の方をスキップしてすでに合体しているシーンまでスクロールバーを動かす。
イヤホンから女優の喘ぎ声が聞こえてくる。
シャツをめくって自分のペニスを掴むと上下に扱き始める。
肌と肌がぶつかる音に合わせて右手を動かす。
「んっ、ふうっ……、んうっ」
隼人のそれは少しずつ反応を見せ、わずかに固く勃ち上がりはじめる。
(速く……。速くイかないと)
隼人は性急に刺激を与える。
しかしまだ完全には勃起しない。
離れた場所で車が出入りする音が聞こえる。
車のドアが開いて勢いよく閉まる音。
複数の人間の足音と話し声。
イヤホンから聞こえてくる音にだけ集中しなければならないのに、どうしても外から聞こえてくる音が気になってしまう。
必死に手を動かすが固くなりきらない。
それどころかむしろ萎えていく。
このままでは出すところまでたどり着けない。
時計を見るとすでにかなり時間が経過していた。
(……どうしよう。まだ一回もイけてない)
焦りはさらに隼人からその気を奪っていく。
仙崎にしてもらうときはあっという間に達してしまうのに、自分でやるとこんなにも時間がかかってしまう。
扱く手に力が入るがそれでも隼人のものは固くならない。
刻々と過ぎていく時間を見て隼人はついに諦めた。
「無理だ。もうこれ以上時間を使えない……」
時間を無駄にしてしまった焦燥感と自分で達せなかった絶望感を抱えながら、隼人はズボンを直して車のドアを開ける。
外では仙崎が車のすぐそばでこちらに背を向けながら手帳を確認していた。
「あの……、仙崎さん」
振り向いた仙崎は隼人の表情で全てを察したらしい。
彼は優しく微笑みながら身をかがめると隼人の頬をそっと撫でる。
「上手く出来なかったのですね。そんなに落ち込まなくても大丈夫ですよ」
「ごめんなさい。外の音が気になっちゃって……」
仙崎はそのまま車に乗り込んで隼人の隣に座わると気落ちしている隼人を抱きしめた。
隼人は仙崎の大きな腕にきゅっと包まれて思わず涙が出そうになる。
「隼人さんだけではありません。大半の人がそうなります。繊細な問題ですから」
「でも俺は出来るようにならないとでしょ」
「いずれはそうなる必要はあります。ですが今は私がいます」
隼人を慰めていた仙崎の手が隼人のズボンの中へするりと侵入する。
下着に収まっていた萎えた隼人のものを掴むとゆっくり刺激を与え始める。
暖かくて大きな手に包まれて、優しく感度を引き出される。
「あっ、んんっ! はっ、あっ……」
あれだけ隼人が扱いても反応しなかったペニスが充血して勃ち始める。
「あっ、あっ、あっ!」
「隼人さん、ズボンを緩められますか?」
「んっ、うん……。 は、あっ……、ふっ、んっ……」
隼人は快感で震える手でスボンの前をくつろげる。
先程とは打って変わって固く勃起した陰茎が仙崎によって引き出され大胆に扱かれる。
「ああっ! あっ、あっ! んんっう!」
「上手に感じていますね。気持ちいいですか?」
「んっ! ああっ! んんっ、き、気持ちいいっ!」
隼人は涙目になりながら正直に答える。
だが自分では出来なくて、仙崎の手にはこんなにも反応してしまうことをまだ受け入れられない。
「で、でも、あっ、んんっ! おれ、こんな、自分で、やらなきゃ! あああっ!」
隼人の必死の訴えは仙崎の手淫に呑み込まれていく。
「これでいいんですよ。楽しめなければ続けられませんから。ただ少し声を抑えましょうね」
「あっ! んう!? んっ! んうっ、んっ――――!」
隼人の後頭部から回された左手が隼人の口を塞ぐ。
隼人は仙崎の首筋に埋もれるように引き寄せられて、彼のその強引さと香ってくる体臭に頂点に達した。
ビクビクと身体を跳ねさせて白濁を漏らす隼人に仙崎は囁く。
「隼人さんは細いことを気にする必要はありません。ではもう一度イきましょうね」
「んっ! ふうっ! んうっ、んんっ!」
車内に響く卑猥な水音と与えられる快感は、隼人を確実に染め上げていく。
達したばかりのものを刺激されて、あまりの快楽に身体が勝手に逃げをうつ。
だがびくともせず、隼人の陰茎は嬉しそうに先走りをこぼす。
隼人は強い快感に目の前がチカチカさせて、意識が遠くなりかける。
気持ち良い。何も考えずにこの快楽に身を任せたい。
隼人は仙崎の手の動きに合わせて腰を振る。
「んんっ! んっ、んっ、んんっ!」
「私の課したルールに気負う必要はありません。少しずつ出来るようになればいいし、出来なくても私が導きますよ。大丈夫、私が側にいますからね」
隼人の中で被虐の扉が開いてることに仙崎はとうに気付いている。その扉の先は仙崎の作る底なし沼。
(首輪と鎖と枷を付けて沈む隼人は、さぞかし映えるでしょうね)
仙崎は射精を終えて快感に震える隼人を強く抱き締めた。
「はーい! じゃあ目線こっちで! 優しく微笑む感じでお願い。はい、いいよ!」
ストロボの光が隼人の一瞬を写し撮る。
時には足を組んだりあえて肘掛けに座ってみたり、全てはカメラマンの指示通りに動いていく。
今日の仕事は雑誌の表紙の撮影。
隼人は世間の求める『藤村隼人』として盛りに盛った表情で仕事をこなす。
そんな隼人を女性スタッフ達が熱い眼差しで見守っている。しかし当の隼人はそんな視線を意識することなく全く違うことを考えていた。
(今日は上手く出来るかな……)
アダルトグッズで滅茶苦茶に感じさせられたあの夜。
あれ以来、隼人は仙崎によって与えられたルールをこなしながら日々を送っていた。
そのルールとは自慰行為をして一日に三回、二度ずつの射精をする、というもの。
ようは一日に合計で六回も出さなくてはいけないのだ。
もともとオナニーなんて滅多にしてこなかった隼人にはなかなかきついノルマだ。
しかし仙崎に言わせればこのくらい隼人には出来るし、もっとしてもいいくらいだそうだ。
「隼人さんは間違いなく人より性欲が強い。やはり芝居のときに顕著に現れてしまうのは自覚がなくても溜まっているからでしょう。なので毎日きちんと抜く習慣をつけて、芝居の仕事があるときは普段よりもっと回数をふやして体調を合わせましょう」
「そうするのがいいんだろうけど……」
「実際にお芝居の仕事が入れば今までと違うことがわかると思います。もし効果がなくて性欲が昂ぶってしまっても、女性に手を出してしまう前に私が止めに入りますよ」
「その時はお願い。でも俺やっぱりそんなに何回も抜く時間なんて取れる気がしない。朝はぎりぎりまで寝てるし、昼も忙しいし、いつも上手く気分が乗らなくて一回抜くのに時間かかるし」
「そこは私か調整します。隼人さんの体調を考えながらスケジュールをたてるのは私のお仕事ですから」
「わかった。任せるよ」
そして仙崎に手伝われながら射精管理をする日々が始まった。
朝、昼、晩、と仕事の合間をぬって自慰行為をする日々は、すでに数日経過しているが隼人は未だに慣れない。
というか隼人は自分で処理することが出来ていなかった。
朝はしっかり覚醒できずに夢うつつのまま仙崎に抜いてもらって、昼は忙しいのと仕事先で処理するという環境に勃たせられず仙崎の手淫で処理してもらっていた。
夜も自分で抜こうと試しても、最後までイけなくて結局仙崎に導いてもらうことが多い。
(ちゃんと自分でイけるようにならないと……)
仙崎の方法に効果があっても、隼人が一人で出来るようにならなければ問題の解決にはならない。
仙崎は代理のマネージャーだ。落合が復帰したら仙崎はいなくなってしまう。仙崎がいてくれるうちに性欲をコントロール出来るようにならなければ。
「オッケーです! いやー、良かったよ。バッチリ決まってたた!」
「ありがとうございます! スタッフの皆さんが格好良くしてくれたおかげですよ」
実際はこの仕事の事とはまったく別の事を考えていたのだが、そんなことおくびにも出さないで笑顔で答える。
隼人の良心の部分が仕事に対して不誠実だと主張するが、今はそれを無視して求められている『藤村隼人』を演じる。
「謙虚だね~。その言葉を聞いたらみんな喜ぶよ。次、仕事入ってるんだろう? 見本ができたら事務所に届けるね」
「はい、ありがとうございます。それでは僕はここで失礼します。お疲れ様でした」
隼人はスタッフに衣装を返して別れの挨拶を交わしていると、仙崎が隼人の荷物を持ってやってくる。
「お疲れ様でした。上着をどうぞ」
「うん。ありがとう」
仙崎から自分の荷物を受け取ると、隼人は次の仕事へ意識を切り替える。隼人はスタジオを出ながら仙崎に確認を取る。
「次ってバラエティの収録だったよね?」
「はい。これから車で移動になります。昼食はあちらでお弁当が用意されているので少し早めに入って食事を取りましょう」
「オッケー」
「ところで隼人さんは車の中と移動先の楽屋、どちらでしましょうか?」
仙崎の質問に隼人の動きが一瞬止まった。
隼人はとっさに周囲を探るが人の気配はいない。
彼は人がいないことを確認して隼人に聞いてきたのだろう。
隼人はホッと胸をなでおろす。
仙崎ならきちんと配慮してくれるのはわかっているが、こうも堂々も聞かれると焦ってしまう。
今の質問はお昼分の射精ノルマはどこでするか、を遠回しに聞いてきたのだ。
隼人は何事もなかったかのように歩き出したが、少し頬を赤らめて気まずそうに小声で答える。
「次の収録は共演者が多いから挨拶回りとかで楽屋は人の出入りが激しいと思う。だから……その、車の中で……かな」
やはりこのルールのある生活にはまだ慣れない。
隼人はもじもじと歯切れの悪い答えを返す。
仙崎はそんな隼人の消え入りそうな声をしっかり聞き取ると、隼人にそっと耳打ちをする。
「ではここの駐車場ですませてしまいましょう。人気の少ないところに駐車してあります」
耳元にかかる仙崎の息にぞくぞくっと背筋に何かが走る。
熱い吐息が漏れそうになって隼人は思わず唇を結んだ。
今の自分の状態が何なのかわからない。
これは一体なんなのだろう。
「隼人さん?」
「あっ、……うん。わかった、行こう」
仙崎の声で思考の深みへ入り込みそうになっていた自分を現実に引き戻す。
隼人は背中に添えられた彼の手の大きさを感じながらエレベーターに乗り込むと駐車場に降りていく。
地下駐車場にある車は確かに目立たない隅に駐めてあった。
左側面と後ろは壁なので人の目を気にするのは正面と右側からだけだ。
現場に入る時はもっと入り口に近かったので駐め直したのだろう。
仙崎が車のドアを開けると車に取り付けられているカーテンを全て引く。そして後部座席のシートにタオルを敷くと隼人を振り返る。
「準備ができました。さあ、どうぞ」
「ありがとう」
隼人は仙崎に促されて車に乗り込むとタオルの上に腰を下ろした。
カーテンの引かれた車の中はちょっとした個室のようになっている。仕事中で楽屋を安全に使えないときはここで自慰をするのだ。
「時間の余裕はありますから、落ち着いて集中すれば大丈夫ですよ」
「……うん」
「では私は外で見張っておきますね。万が一、人が来そうな場合はノックします」
「わかった」
仙崎が外から車のドアを閉めて隼人は一人きりになった。
「さっさと抜かないと」
隼人は決意を固めてズボンのボタンを外してチャックを下ろし自分のものを取り出す。イヤホンをつけてスマートフォンを手に取るとおかずになりそうな動画を再生する。
時間に余裕があると言っても無限に使えるわけではない。トラブルに出くわすこともある。早めに終わらせるにこしたことはない。
隼人は動画の最初の方をスキップしてすでに合体しているシーンまでスクロールバーを動かす。
イヤホンから女優の喘ぎ声が聞こえてくる。
シャツをめくって自分のペニスを掴むと上下に扱き始める。
肌と肌がぶつかる音に合わせて右手を動かす。
「んっ、ふうっ……、んうっ」
隼人のそれは少しずつ反応を見せ、わずかに固く勃ち上がりはじめる。
(速く……。速くイかないと)
隼人は性急に刺激を与える。
しかしまだ完全には勃起しない。
離れた場所で車が出入りする音が聞こえる。
車のドアが開いて勢いよく閉まる音。
複数の人間の足音と話し声。
イヤホンから聞こえてくる音にだけ集中しなければならないのに、どうしても外から聞こえてくる音が気になってしまう。
必死に手を動かすが固くなりきらない。
それどころかむしろ萎えていく。
このままでは出すところまでたどり着けない。
時計を見るとすでにかなり時間が経過していた。
(……どうしよう。まだ一回もイけてない)
焦りはさらに隼人からその気を奪っていく。
仙崎にしてもらうときはあっという間に達してしまうのに、自分でやるとこんなにも時間がかかってしまう。
扱く手に力が入るがそれでも隼人のものは固くならない。
刻々と過ぎていく時間を見て隼人はついに諦めた。
「無理だ。もうこれ以上時間を使えない……」
時間を無駄にしてしまった焦燥感と自分で達せなかった絶望感を抱えながら、隼人はズボンを直して車のドアを開ける。
外では仙崎が車のすぐそばでこちらに背を向けながら手帳を確認していた。
「あの……、仙崎さん」
振り向いた仙崎は隼人の表情で全てを察したらしい。
彼は優しく微笑みながら身をかがめると隼人の頬をそっと撫でる。
「上手く出来なかったのですね。そんなに落ち込まなくても大丈夫ですよ」
「ごめんなさい。外の音が気になっちゃって……」
仙崎はそのまま車に乗り込んで隼人の隣に座わると気落ちしている隼人を抱きしめた。
隼人は仙崎の大きな腕にきゅっと包まれて思わず涙が出そうになる。
「隼人さんだけではありません。大半の人がそうなります。繊細な問題ですから」
「でも俺は出来るようにならないとでしょ」
「いずれはそうなる必要はあります。ですが今は私がいます」
隼人を慰めていた仙崎の手が隼人のズボンの中へするりと侵入する。
下着に収まっていた萎えた隼人のものを掴むとゆっくり刺激を与え始める。
暖かくて大きな手に包まれて、優しく感度を引き出される。
「あっ、んんっ! はっ、あっ……」
あれだけ隼人が扱いても反応しなかったペニスが充血して勃ち始める。
「あっ、あっ、あっ!」
「隼人さん、ズボンを緩められますか?」
「んっ、うん……。 は、あっ……、ふっ、んっ……」
隼人は快感で震える手でスボンの前をくつろげる。
先程とは打って変わって固く勃起した陰茎が仙崎によって引き出され大胆に扱かれる。
「ああっ! あっ、あっ! んんっう!」
「上手に感じていますね。気持ちいいですか?」
「んっ! ああっ! んんっ、き、気持ちいいっ!」
隼人は涙目になりながら正直に答える。
だが自分では出来なくて、仙崎の手にはこんなにも反応してしまうことをまだ受け入れられない。
「で、でも、あっ、んんっ! おれ、こんな、自分で、やらなきゃ! あああっ!」
隼人の必死の訴えは仙崎の手淫に呑み込まれていく。
「これでいいんですよ。楽しめなければ続けられませんから。ただ少し声を抑えましょうね」
「あっ! んう!? んっ! んうっ、んっ――――!」
隼人の後頭部から回された左手が隼人の口を塞ぐ。
隼人は仙崎の首筋に埋もれるように引き寄せられて、彼のその強引さと香ってくる体臭に頂点に達した。
ビクビクと身体を跳ねさせて白濁を漏らす隼人に仙崎は囁く。
「隼人さんは細いことを気にする必要はありません。ではもう一度イきましょうね」
「んっ! ふうっ! んうっ、んんっ!」
車内に響く卑猥な水音と与えられる快感は、隼人を確実に染め上げていく。
達したばかりのものを刺激されて、あまりの快楽に身体が勝手に逃げをうつ。
だがびくともせず、隼人の陰茎は嬉しそうに先走りをこぼす。
隼人は強い快感に目の前がチカチカさせて、意識が遠くなりかける。
気持ち良い。何も考えずにこの快楽に身を任せたい。
隼人は仙崎の手の動きに合わせて腰を振る。
「んんっ! んっ、んっ、んんっ!」
「私の課したルールに気負う必要はありません。少しずつ出来るようになればいいし、出来なくても私が導きますよ。大丈夫、私が側にいますからね」
隼人の中で被虐の扉が開いてることに仙崎はとうに気付いている。その扉の先は仙崎の作る底なし沼。
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