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2.悪役令嬢、高額スパチャにビビる
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《シエルノワール様、今夜も癒されたよ~》
《夜泣きしていたうちの子が、あなた様の朗読で眠ってくれました》
《もう推しが尊すぎて語彙力喪失!》
《耳が幸せって……こういうこと?》
配信が終わるたび、端末にはそんな感想が山ほど届くようになった。
最初は一人、二人だったリスナーは、配信を開始してひと月が経った今、三桁を超え、スパチャは洒落にならない額に膨れ上がっている。
「王宮の俸給より良かったりして」
ぽつりと呟いた声が、部屋に反響した。セレノアとしては孤独だけれど、シエルノワールにはたくさんの応援者がいるから、気にしない。
そして今夜もまた魔法をかけて『ミロワール・ヴィヴィアン』を起動させる。
「さあ、今夜はどんなお話をしましょうか、子羊ちゃんたち?」
子羊というのはリスナーの呼称だ。最初に呼びかけてから、いつの間にか彼らの間で定着してしまっていたので、そのまま使っている。
《職務上の人づきあいがうまくいきません。周囲は自分に気を遣い過ぎて、本音を話してくれないのです》
ぽこんとコメントが表示された。
発言した子羊は『ポンコツ紳士』さんだ。
最近の配信では、朗読会より、悩み相談室のコーナーの方が人気を博していた。人間関係、学校の成績、自分の性格や恋人についてなど、内容は多岐にわたる。
話を聞いてもらえただけでよかったという者もいれば、アドバイスが効いて悩みが解消されたと喜んでくれる者もいて、私は充実感でいっぱいだった。
「あ、ポンコツ紳士さん、こんばんは。この間は100リュミありがとう」
にっこりと笑うと画面の中のシエルノワールも笑顔になり、ハートのエフェクトがきらきらと飛ぶ。
だいぶシエルノワールが板についてきた。
「そうね……言葉の壁は『力』がある人ほど高くなるわ。時には弱さを見せることで、人は近づいてきてくれるかもしれないわよ」
私は慎重に答えた。
自分もかつて公爵令嬢という身分を振りかざし、周囲の者には己の聞きたい言葉しか言わせないようにしていた。同じように人間関係の構築に悩んでいる人がいるなら力になりたい。
前世の記憶を取り込んだ私は、今ではもう使用人たちともわだかまりなく接することができている。きっとポンコツ紳士さんも変わることができると信じて、とびきりの笑顔でエールを送った。
《相談に乗ってくれてありがとうございます。実践してみます》
ポンコツ紳士さんから300リュミのスパチャが飛んできた。
ちなみに100リュミでワイン1箱が買えるくらいの値段だ。おそらく深夜帯に『ミロワール・ヴィヴィアン』を個人で起動できるのは貴族層くらいなので、自然とスパチャの額も奮発してくれる人が多いが、このポンコツ紳士さんは頻繁に送ってくれているにもかかわらず、100リュミを下回ることはない。相当な上流階級の生まれなのだろう。
だが、ここは互いに匿名で、自由に言いたいことを語る場所。相手の素性を詮索してはいけないというルールを設けていた。
また別の日――。
《失敗を恐れて、うまくいかないことがあります。立場的に間違いを許されないんです》
再びポンコツ紳士さんだ。この人は真面目で優しくて、責任感の強い性格なのだろう。とても好感が持てる。
「完璧であろうとするのは素晴らしいことよ。でも誰にでも間違いはあるもの。失敗しても、それを認められるかどうか、次に生かせるかどうかであなたは強くなれるはず」
そう答えると、お礼のコメントとともに500リュミが飛んできた。
どこの誰かはわからないけれど、いつかこの人と二人で話がしてみたい。ポンコツ紳士さんなら、私の『悪役令嬢』としての失敗を静かに聞いてくれそうな気がした。
さらに別の配信日の始まりには、いきなり1000リュミが飛んできた。
《先日、ノワたんのお言葉を実践したら、うまくいきました。ありがとうございました》
発言主はポンコツ紳士さん――いや、いつの間にか『ポンコツ紳士@ノワたん推し』に改名している。
「実践したのはあなたの勇気と努力あってのことよ。よかったわね」
金額にびびりながらも、私は笑顔で掌をひらひらと振った。
《私は大勢に言葉を届けることはできても、ここまで誰か一人と真剣に向き合ったことはありませんでした。あなたの言葉が私を変えてくれたんです》
丁寧にお礼を言える人だなと感心しかけて、背筋がぞわりとした。
――大勢に言葉を届ける。
それはかなり上の立場の人間でなければ、やらないことなのではないだろうか。
ちらっと知っている顔が浮かんだが、すぐに打ち消した。まさかあの真面目なイヴェインが推しに貢ぐなんて……ない、ない。
――だいたいポンコツ紳士って名前が意味不明。
高額スパチャに、他の子羊たちもざわついていたが、その日はそのままわちゃわちゃと会話が続いて、誰も気にしなくなった。
《夜泣きしていたうちの子が、あなた様の朗読で眠ってくれました》
《もう推しが尊すぎて語彙力喪失!》
《耳が幸せって……こういうこと?》
配信が終わるたび、端末にはそんな感想が山ほど届くようになった。
最初は一人、二人だったリスナーは、配信を開始してひと月が経った今、三桁を超え、スパチャは洒落にならない額に膨れ上がっている。
「王宮の俸給より良かったりして」
ぽつりと呟いた声が、部屋に反響した。セレノアとしては孤独だけれど、シエルノワールにはたくさんの応援者がいるから、気にしない。
そして今夜もまた魔法をかけて『ミロワール・ヴィヴィアン』を起動させる。
「さあ、今夜はどんなお話をしましょうか、子羊ちゃんたち?」
子羊というのはリスナーの呼称だ。最初に呼びかけてから、いつの間にか彼らの間で定着してしまっていたので、そのまま使っている。
《職務上の人づきあいがうまくいきません。周囲は自分に気を遣い過ぎて、本音を話してくれないのです》
ぽこんとコメントが表示された。
発言した子羊は『ポンコツ紳士』さんだ。
最近の配信では、朗読会より、悩み相談室のコーナーの方が人気を博していた。人間関係、学校の成績、自分の性格や恋人についてなど、内容は多岐にわたる。
話を聞いてもらえただけでよかったという者もいれば、アドバイスが効いて悩みが解消されたと喜んでくれる者もいて、私は充実感でいっぱいだった。
「あ、ポンコツ紳士さん、こんばんは。この間は100リュミありがとう」
にっこりと笑うと画面の中のシエルノワールも笑顔になり、ハートのエフェクトがきらきらと飛ぶ。
だいぶシエルノワールが板についてきた。
「そうね……言葉の壁は『力』がある人ほど高くなるわ。時には弱さを見せることで、人は近づいてきてくれるかもしれないわよ」
私は慎重に答えた。
自分もかつて公爵令嬢という身分を振りかざし、周囲の者には己の聞きたい言葉しか言わせないようにしていた。同じように人間関係の構築に悩んでいる人がいるなら力になりたい。
前世の記憶を取り込んだ私は、今ではもう使用人たちともわだかまりなく接することができている。きっとポンコツ紳士さんも変わることができると信じて、とびきりの笑顔でエールを送った。
《相談に乗ってくれてありがとうございます。実践してみます》
ポンコツ紳士さんから300リュミのスパチャが飛んできた。
ちなみに100リュミでワイン1箱が買えるくらいの値段だ。おそらく深夜帯に『ミロワール・ヴィヴィアン』を個人で起動できるのは貴族層くらいなので、自然とスパチャの額も奮発してくれる人が多いが、このポンコツ紳士さんは頻繁に送ってくれているにもかかわらず、100リュミを下回ることはない。相当な上流階級の生まれなのだろう。
だが、ここは互いに匿名で、自由に言いたいことを語る場所。相手の素性を詮索してはいけないというルールを設けていた。
また別の日――。
《失敗を恐れて、うまくいかないことがあります。立場的に間違いを許されないんです》
再びポンコツ紳士さんだ。この人は真面目で優しくて、責任感の強い性格なのだろう。とても好感が持てる。
「完璧であろうとするのは素晴らしいことよ。でも誰にでも間違いはあるもの。失敗しても、それを認められるかどうか、次に生かせるかどうかであなたは強くなれるはず」
そう答えると、お礼のコメントとともに500リュミが飛んできた。
どこの誰かはわからないけれど、いつかこの人と二人で話がしてみたい。ポンコツ紳士さんなら、私の『悪役令嬢』としての失敗を静かに聞いてくれそうな気がした。
さらに別の配信日の始まりには、いきなり1000リュミが飛んできた。
《先日、ノワたんのお言葉を実践したら、うまくいきました。ありがとうございました》
発言主はポンコツ紳士さん――いや、いつの間にか『ポンコツ紳士@ノワたん推し』に改名している。
「実践したのはあなたの勇気と努力あってのことよ。よかったわね」
金額にびびりながらも、私は笑顔で掌をひらひらと振った。
《私は大勢に言葉を届けることはできても、ここまで誰か一人と真剣に向き合ったことはありませんでした。あなたの言葉が私を変えてくれたんです》
丁寧にお礼を言える人だなと感心しかけて、背筋がぞわりとした。
――大勢に言葉を届ける。
それはかなり上の立場の人間でなければ、やらないことなのではないだろうか。
ちらっと知っている顔が浮かんだが、すぐに打ち消した。まさかあの真面目なイヴェインが推しに貢ぐなんて……ない、ない。
――だいたいポンコツ紳士って名前が意味不明。
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