「顔も見たくない」と婚約破棄されたので、引きこもってVtuberを始めた悪役令嬢だけど、今日も王子から高額スパチャが飛んでくる

宮永レン

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3.悪役令嬢、ため息をつく

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 その後も『星結びの茶会』は人気を維持し、は爆発的に増えていく。私の真似をする人間も増え、世はまさにVtuber時代!

 エフェクトをかけられるほど魔力の高くない者は、そのまま顔と実名を出して配信活動をしているようだが、皆それぞれが楽しんでいるようである。

《あなたの声を聞くようになってから、いつも心が温かいのです。朝目覚めた時に、いつもノワたんの姿を思い出して幸せに浸っています》
 そんなコメントとともに、ポンコツ紳士さんから5000リュミが飛んできた。

《ポンコツ紳士、やっぱり今夜も来たか!》
《桁が!おかしい!! 見間違いかな》
《どこの王様ですか》
《いいからもう告白しちゃいな?》
 コメント欄が一気に盛り上がる。最近はずっとこんな感じだ。

 私は配信後、こっそりと匿名巨大掲示板を覗いてみる。

《ポンコツ紳士=イヴェ○イン○殿下じゃね?》
《伏せ字になってなくて草》
《あんな高額スパチャ、まじで王族じゃなきゃ無理だって父上が言ってた》
《親子で見てるのかよw》
《この前、エマ嬢と婚約解消してたの決定的よね》
《そうそう。ノワたん、罪な女~》
《大体にして、シエルノワールって誰なの?》
《セレノアみたいな高慢女だったらどうする?》
《ノワたんをあんな女と一緒にすな~怒》
《私は知らなくていい。中身知ったらがっかりする》
 そこまで読んで、魔力の流れを断ち切った。画面が真っ暗になる。

「これ絶対バレたらだめなやつ~~!」
 心臓が嫌な音を立てる。

「やっぱり十中八九、イヴェインが『ポンコツ紳士』さんで間違いなさそうね……って、それよりエマと婚約解消したってどういうこと!?」
 配信に夢中になっていて、王都の事情について何も情報収集できていなかった。

 再び『ミロワール・ヴィヴィアン』を起動させ、ニュース欄を見ると、数日前に速報として扱われていた。理由は明言されていないが、双方同意の上でと書かれている。

「そんな……」
 自分がルートとは別行動をとってしまったことが、ストーリーに影響しているのだろうか。エマに申し訳ないが、謝る手段が見つからない。

 罪悪感というものは、真夜中になると余計に膨らむ。私は一日だけ配信をお休みした。ゆっくりお風呂に入って、蜂蜜入りのミルクを飲んで、目の下のクマに魔法で湿布を貼って――少しでも私の配信から離れればイヴェインも冷静になれるかも。

 と、思ったのだけれど――。

「……どうしてよ」
 翌日、配信を再開してみたら、いきなりポンコツ紳士さんから10,000リュミが飛んできた。

《お元気そうでよかったです。これはお見舞いです、受け取ってください》

 さすがに多すぎでしょう。

《あなたの声が聞けなくて、今日の演説では何度も言葉に詰まり、民に心配をかけてしまいました》

 そのコメントに私はひっくり返りそうになった。

 ――もう隠す気ありませんね!?

 誰もがそう思っただろう。だが、ここには詮索禁止のルールがある。破れば『即・アカBAN』なので、子羊たちは沈黙している。

「あ、あの、さすがにあまり無理しないでね? ポンコツ紳士さん、お気持ちだけで充分よ」
 私は焦りながら画面に向かって声をかけた。

《もしも願いが叶うなら、一目お顔を拝見できませんか?》
 再び、ぽこんとコメント。そして表示されたスパチャの額は10万リュミ。

「ぶっ!!」
 紅茶を飲もうとしていた私は、豪快にむせかけた。

 ――私、あなたが顔も見たくないって言っていた相手なんですけど!?
 ここまで一途だと、嬉しいような悲しいような複雑な気持ちだ。

《正気なのか、ポンコツ紳士!》
《別荘一軒建つが?》
《二人の愛の巣ってことじゃね?》
《ノワたん、黙っちゃったよー笑》
 コメントがすごい勢いで流れていく。

 ――どうしよう!?
 あきらかに、イヴェインは暴走している。恋は盲目というやつだろうか。

 止めるには、直接会うしかない? 
 だめ、だめ!
 そんなの絶対にお断りですわ~!

「お、お顔はちょっと……顔面偏差値が夜型のせいで……ほら、鏡割れるタイプのやつなの……ふふふ……」
 シエルノワールが照れ顔になったり、焦ったりする様子に、子羊たちからは《かわいい》のコメント。

 ポンコツ紳士さんからのコメントはない。その代わりに、画面にぽこんと表示される「ハート型の投げキスアイテム(250リュミ)」が、5連投。

 やめて~! こんなのむしろ罰ゲーム!

 私はイヴェインに愛想をつかされ、婚約破棄された張本人なのに。
 正体がばれたら、笑い者になるだけ。ここまで私を応援してくれた『ポンコツ紳士』さんも、一緒に馬鹿にされるわよ。

「ごめんなさい。私は夜空の片隅から声を届けることしかできないの」
 動揺を抑え、シエルノワールのアバターが、ぺこりと大きく頭を下げる。

「今夜もお付き合いしてくれてありがとう。また25時、『星結びの茶会』でお会いしましょう」
 そう言って、急いで配信を切った私は深いため息をついた。

「イヴェインだって、私がセレノアだと知ったらがっかりするに違いないもの」
 彼が好きなのはシエルノワールであって、セレノアではない。

 再び顔も見たくないと言われたら、二度と立ち直れないかもしれない。これでも私は、前世でプレイしていたこの乙女ゲーム『星恋ロンド~運命は夜空に踊る~』の正統派ヒーロー枠のイヴェイン推しだったのだ。推しからの失望なんて一度きりで充分だ。

 どうせなら嫌われる前に前世の記憶を取り戻して好感度を上げたかったけど、過ぎたことを悔やんでも仕方がない。


 その翌日、予想外のことが起きた――。

「はじめまして、セレノア様」
 にこにこと愛らしい笑顔を向けてきたのは、エマだった。

 使用人に来客だと告げられ、断ろうとしたら、もうすでに部屋の前にいる……って、これいったいどんな状況!?
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