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47 中庭は悩みを語る場所なのか(違います)

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お義兄様の先生から、宿題(中身を確認していないけど)らしい物を預かった。先生も真面目だな…流石にウランダル王国に、(留学でもないので)行っているとは言えず、現在いる場所は、領地と話す事になっているのだけど。
宿題が溜まる一方で…申し訳ないと思う。

別館から出て、気にしてはいけないと思いつつ、木の影を見る。

やっぱりまだ丸い塊みたいに黒い影があった。
溜息ではない、が、
これはこれで気になる。

「藪を突くと…駄目よ。リリエットに怒られるわ…今日は、そのまま帰りましょう…」

渡り廊下を渡らず、そのまま真っ直ぐに馬車留めに行く、の、私は!

後ろ髪を引かれるというのは、こういうことだろう。前に踏み出す一歩がなかなか出ない。私の方が溜息を吐いた。

乗り掛かった船、の話は知らないわね。
ハァーーー
私が溜息!
「これじゃ意味ないじゃない!?もう!ほんの少し、寄り道をするだけ…」

誰かに言い訳するみたいに、そっと声に出した。

なるべく驚かさないように、小さな声で
「ニャーン」
と言ってみた。
黒い丸い影は大きく揺れた。
驚かしてしまったわ。
あなたの方が猫みたいね。

声を必死に我慢しているのか、
「あ、う、」

とか聞こえた。若干怪しい。何をしていたのだ、溜息の船乗りは!?
でも、どこの誰かはわからないのに、小さくなった黒い塊が、慌て動いて、形を変えて、何だか可愛いと思った。溜息の船乗りだけど…絆されてしまったのかもしれない。

「丸まってどうしたニャーン?」

と聞いてみた。

返事は返ってこない。

確かにこれは余計なお世話だった。
話をしたくない時もあるだろう。たかだか溜息を吐いた人が、更に影が小さくなってしまったのを気にしただけだから。
自己満足のお節介の押し付けだった…

だけど、ひとりぼっちの経験が長い私は、何となくだけど、この人は寂しがり屋ではないかと思う…
逃げる場所がいつも同じって、もしかしたら、この人は私に会いたいと思ってくれているのかもしれない…

私の他にもいるかもしれないけど…

「…私ね、失敗してしまったの。もっと考えて注意しなさいって言われているのに、自分から興味の先に歩いてしまうの。だから、いつも私の周りにいる人に迷惑をかけてばかりで…心配ばかりさせているの。
私のせいなのに、辛そうにしている人がいるの。
ご自分を責めているみたいな顔をして…とても怒っていたみたいなの…たぶん自分自身に。私、それなのに、少し笑ってしまって、怒らせてしまったわ。
私には、何も出来ないの。助けてあげられないの。話を聞くことも出来ない。会いに行くことも出来ない…
私は、みんなから助けられているのに!謝ることも出来ない。

だからね、迷惑をかけないために、もっとみんなを頼ろうと思ったの。まず一歩進む前に話そうと決めたの。それなのに、またこうして一歩勝手に進んでしまったのだけど…だからね、気づいても、もうここには、来ないの。私の行動で、心配も迷惑も不安もさせたくないから…
ごめんなさい、私の話、長くなってしまったわ。そして頑張ってくださいね(学校生活)」





* 

中庭 〇〇side

何をやっているんだ!
何故もっと考えられない。ディライドみたいに、先を読んで言動出来ないから駄目なんだ!

こればかりが頭の中を巡って、何も手につかない。

本当に私は駄目だ。こんな自分を知らないなんて言い訳だ。感情のコントロールも表情も、幼い頃から躾られたのに。
怒り、悲しい、不安、
何が、自分をこんなに苛立たせているかわかっていないのが、きっと問題だと思う。
実際今、執務が手についてない…これは、公私混同だ。
ほとんど二人が自主的に動いてやってくれている。

わかっているのに…頭が仕事を拒否している。
これも、言い訳だろうな。
とうとう、今朝は、グレゴリーもサイファも何も言わなくなった。私が聞く耳を持たないからだろう。

それでいい、私なんて心配される価値もない。子供じみた考えで一人の令嬢を危険に晒した。後一歩遅かったら、次の一手で、あの鞭が足や手、顔、身体、どこに当たっていたかわからなかった。たまたま一手を防いだだけだ。取り返しがつかなかった。

私の責任だ。

「ニャーン」

小さく聞こえた。動物真似…
ミランダ嬢だ!
何で!いや、ここに来た私が言うのは、おかしい、どうすればいい!

逃げるか!

身体を小さくし、誰からも見えないようにと抱え込んでいた身体が、動いた弾みで、木の根に服を引っかけた。
あ、う、
思わず、声が出た。
何をしている、俺は!
最悪だ。

「丸まってどうしたニャーン?」

もう動けない…名乗り出るべきだろうか?何と言えばいい?普通に出たら驚かせてしまうよな、きっと。

突然、ミランダ嬢が話し始めた。
どうすればいいか?前と逆だぞ…聞いて欲しいのか!?いや、答えることなんて出来ない、まずは、彼女に俺は謝るべきだ。
でも彼女は話していて…

自分が勝手に行動して、周りに迷惑をかけていると…

それは俺が、君にしたことなのに!
何故君が、周りにしたことになっているのか!

どうして?
もうここには来ないと言った。

えっ!?胸がドンと何かに叩かれたみたいに、動けなかった。声が出なかった。

手は伸ばせなかった。

…彼女の言葉が頭の中をぐるぐる巡ってくる。
彼女の言った『辛そうな人』『自分を責めている人』『怒っている人』これは、全部俺のことではないか?
勘違いか?
…彼女は何とかしたい的なことを言っていたが、会えないと。

やっぱり、俺のことじゃないか!?勘違いか?

「あ!」
やっと声が出た。心臓の音が忙しない。何故だ?謝ることに緊張しているからか?
身体が思うように動かない。

ようやく立ち上がって、木から出た。

もうだいぶ離れた場所に、水色の髪を揺らしている女生徒がいた。

ここから呼んだら聞こえるかな?
大きな声を出せば、
振り向いてくれるかな?
俺だとわかったら、
俺を見てくれるかな?
見られた後どうすればいい?



彼女は、俺を心配していた。

たぶんだけど。
でも、どうしてか物凄い嬉しいと感じて、嫌われていないと思ってしまう。

あぁ、水色の髪が揺れているかもわからないほどに、小さく見える。

すぐにごめんって言えば良かった。
俺のせいでと。
反省の気持ちがあるのに、言葉が出なくて…
それなのに、自分都合に解釈してるかもしれないが嬉しくなっている。
罪悪感があるのに…
気持ちが混合する自分勝手さを棚に上げて、声を出して、自分を見てと振り向かせたくなる。
手を伸ばしてしまいたい。

この気持ちは何だろう?
自分の不都合を消す為に、良いように置き換えているのか?

これは一体何だろう…
自分が、感情が、勝手に何かを訴えている。

『俺を見て…』



「アンドル?」

「ああ、グレゴリー」

「どうした?いや、執務が溜まっているし、サイファから連絡が来た。動きがあったらしい。早く行くぞ」

「あぁ、わかっている!すまなかった」

勝手に、足が前進した。
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