92 / 120
92 最近の日常
しおりを挟む
冬季休暇も終わり、教室に入ると、
「おはよう、ミランダ、今朝久しぶりに私、あの方に会ったわ」
「リリエット、おはよう。あの方?マリアーノ様?」
と聞けば、
「違うわ。ダイアナさんよ…復学したのね。私の聞いた話では、ファンド侯爵家に学校を辞めさせられたはずだけど。また注意をしましょうね、ミランダ。あなたは狙われやすいから」
もう~、心配症ね、リリエットは!
「ありがとう。もちろん注意するわ。でもダイアナさんだって、厳しい注意をされたのよ、もう同じことはしないと思うけど…あら、そんなことマリアーノ様にも思って、同じような場面見たわね。マリアーノ様とまた争い事にならないと良いわね」
と少し前までリリエットもマリアーノ様の尻拭いに駆り出されて、大変そうだったのを思い出して声をかけた。
「そうね、ああいう…個性的な人は、あまり反省しないのよ。自我が強くてね」
溜息を吐いていた。相当大変だったのね。教室内では、やはりダイアナさんの話題で盛り上がっていた。人気者だわ。
授業が終わり、馬車留にお義兄様と向かって歩いていると、
「サイファ様~、あちらにディライド様がいます、やはり謝罪をした方が良いと私は思います!ディライドさーまー」
鼻にかかった甘え声の口調が聞こえてきた。声が大きいのも特徴ですね。
お久しぶりです。
「あぁ、ミランダちゃん、アレは無視していいから。サイファに任せてある。もし絡んでくるようだったら、言ってね。しっかり注意するから」
と周りに聞こえるように言われた。
お義兄様が良いなら、無視しよう。
考えてみると、あの方に関わってから私の周りが騒がしくなったなと思う。あの人攫い事件…
ダイアナさんの声が一際大きくなって、
「大丈夫ですか?お義兄様の名前をまだ叫んでるようですが」
と言えば、一言「無視」で締め括られた。少し同情をしてしまうわ。
学校の帰りは練習という日々…
他の団員さんが働いているので全員が揃ったのは、初日だけだったが、何故かお義母様のお友達の貴婦人達が、どんどん集まってくる…。
ソファー、テーブル、絨毯、大きなピアノまで用意されている。
貴族のサロンの一室みたい。
「あの~お義母様、団員の数が私を含め、今日は4名ですが、監督をして下さる皆様が団員の数を倍に超えましたが…もしよろしければ皆様も参加されたりすれば、かなり大きな何かが出来るのではないでしょうか?」
聞いてみるが、貴婦人全員が顔振り、
「ミランダ、違うの。演劇には夢がある同志が集まったの。脚本、演出、衣装、監督、やる役割が違うのよ。私達は一つの作品を作る同志、皆様、頑張りましょうね」
と言えば、
「「「「ええ、楽しいですわ。学生みたい~」」」」
と最高の笑顔で貴婦人達に言われた。
…楽しいなら、それで良いのか。
歌の練習をしながら、私は何故かソロパートがある。これは?
「お義母様、私のような素人の目立たない者が突然歌い出されても、領民のみなさんが驚きますし、楽しめないのでは?上手くもないですし。ここはプロの劇団員の方にお願いした方が良いのでは…」
「大丈夫、彼らも劇に関して素人よ!我々は見る専門、ミランダみたいなタイプこそ演劇で、派手に輝くのよ、これは光、希望なの。下手でいいのよ、愛嬌があって素敵でしょう、山場は完璧よ。それに衣装も発注しましたし、…配役は決まったわ」
配役も決まったの?劇団員素人?
「あの、私は何から聞けば良いのでしょうか…」
「小さい事は気にしないの、台本は、私の従姉妹の渾身の作品よ。今回の件にピッタリのテーマでね、ここで開花出来るなんて、従姉妹として私も嬉しいわ」
お義母様が答えた。私が言おうとした疑問を『気にしない』の一言で切られてしまった。義兄は義母似だな…
「お義母様の従姉妹の方は存じあげてませんでした。私、挨拶した方がよろしくないですか?練習ばかりをしていて、皆様に失礼な態度を取っていませんか?」
「役者は、練習が仕事。今は貴族も平民も年齢、性別関係ないのよ、演劇を楽しむ者、愛する者が一つになって作っていくの。みんな平等で堅苦しさなんて邪魔なだけよ。ミランダは、お祭りで、みんなが楽しんでいる姿を思い浮かべて欲しいの。私達の事は気にしないで。好き勝手にやっているのよ。それに、最近噂になりつつあって、この会に参加希望者が殺到して困るのよね…全く皆様ったら、どこで情報を仕入れてくるのやら、自分の熱い思いを表現出来るなんて、夢みたいだもの、これ以上の人数は私もご遠慮したいのよ、内密ですし。統制が効かなくなっても困るわ」
駄目だわ、私の話をすでに聞いてないわ。
お義母様は、この練習場にいるとき劇団の監督という顔しかしないわね。もう話は通じない。
「お嬢様、台本です。頑張りましょう。みんなに喜んでもらえるように!」
「ラナ、そうね。色々考えずに私の出来ることをするわ。お祭りの最大のサプライズになるように。みんな楽しそうに作業しているのですから!そういえば、ケトルさん、最近見ないわね…」
「…貴婦人だらけだから商売をしようとして、演劇に熱のない者は、この場から立ち去れと言われて追い出されたのですよ。私より皆様の熱気は、凄いですよ。他領のお祭りのために、素晴らしいですよね」
と嬉しそうにラナが言う。…私も気をつけなければ。
「歌が下手なら練習をすれば良いことですもの。頑張るわ。初めて尽くしで驚くことばかりだけど…」
台本『海の精霊の愛し子』が配られた。
*
「ミランダ、最近声が出ているわね、姿勢も良いし、ダンスの練習?」
リリエットに聞かれ、何と答えれば良いのかな。確かにダンスみたいな振り付けも多くあって、歌も発声練習も毎日しているし…
「お義母様に姿勢の注意とお腹から声を出すように言われているのよ」
「イズリー家の淑女教育ね。来月開催される夜会の準備かしら?アンドル王子様の婚約者決めのパーティーの話が、前建国祭夜会になるなんて驚いたわ。我が家にも招待状が届いて、慌て新しいドレスを発注したのよ。ミランダは、発注した?」
だから、朝から教室内のみんなも声が弾んでいたのね。みんな楽しそう。
「いいえ?私は、家族からまだ何も聞かされていないわ。リリエットも楽しそうね」
笑って聞くと、少し恥ずかしそうに、
「ええ、だって王宮のパーティーなんて初めてよ。私も参加出来るなんて夢のようだわ。ミランダがまだ知らないなんて意外だったわ、ディライド様が、すぐ教えてくれそうだけど…アンドル王子様もお忙しいのか、最近学校でお見かけしないもの」
「そうよ。お義父様もよ。ではクラスの大半が参加になるの?本当に大規模な夜会なのね」
「15才以上の王宮に通える貴族みたいよ。領地にいたら参加出来なかったけど、学校通いのため小さいけど王都住みだから、我が家はたまたまね。スタンルートは、私のエスコートで一緒に来てくれる予定だけど、ご両親は領地にいるから不参加だし。男爵家や子爵家は親戚で屋敷を持つ人も多いから、このクラスでも数人じゃないかしら」
流石情報通だわ。
「ねぇ、今マリアーノ様とダイアナさんが廊下で偶然会ったのだけど、お互いそっぽを向き合っているのよ」
教室に入って来た女生徒がみんなに聞こえるように話した。
要注意人物として、ダイアナさんやマリアーノ様を見ているけど、以前より大人しくなっている。
トラブルを起こす者同士、かなりの確率で二人は鉢合わせる。
リリエットは、
「夜会の為に騒動を避けているのでしょう、二人とも(小声で)アンドル王子様狙いだから」
そうなのね。お二人ともお義兄様を気にしているような側面があったみたいだけど…確かに、王子様を追いかけている印象があるわ。
「同じ人を好きになってしまったのね」
と言えば、
「そんな綺麗なものじゃないと思うわよ」
と返ってきた。
パーティーに参加する予定のクラスメイトが、ドキドキしている中、私は台本に心配していた。マリングレー国の国民に知られたら…
お義母様は、演劇とは風刺がつきものとか言うし…
イズリー領のお祭りだから大丈夫なのかな?
「おはよう、ミランダ、今朝久しぶりに私、あの方に会ったわ」
「リリエット、おはよう。あの方?マリアーノ様?」
と聞けば、
「違うわ。ダイアナさんよ…復学したのね。私の聞いた話では、ファンド侯爵家に学校を辞めさせられたはずだけど。また注意をしましょうね、ミランダ。あなたは狙われやすいから」
もう~、心配症ね、リリエットは!
「ありがとう。もちろん注意するわ。でもダイアナさんだって、厳しい注意をされたのよ、もう同じことはしないと思うけど…あら、そんなことマリアーノ様にも思って、同じような場面見たわね。マリアーノ様とまた争い事にならないと良いわね」
と少し前までリリエットもマリアーノ様の尻拭いに駆り出されて、大変そうだったのを思い出して声をかけた。
「そうね、ああいう…個性的な人は、あまり反省しないのよ。自我が強くてね」
溜息を吐いていた。相当大変だったのね。教室内では、やはりダイアナさんの話題で盛り上がっていた。人気者だわ。
授業が終わり、馬車留にお義兄様と向かって歩いていると、
「サイファ様~、あちらにディライド様がいます、やはり謝罪をした方が良いと私は思います!ディライドさーまー」
鼻にかかった甘え声の口調が聞こえてきた。声が大きいのも特徴ですね。
お久しぶりです。
「あぁ、ミランダちゃん、アレは無視していいから。サイファに任せてある。もし絡んでくるようだったら、言ってね。しっかり注意するから」
と周りに聞こえるように言われた。
お義兄様が良いなら、無視しよう。
考えてみると、あの方に関わってから私の周りが騒がしくなったなと思う。あの人攫い事件…
ダイアナさんの声が一際大きくなって、
「大丈夫ですか?お義兄様の名前をまだ叫んでるようですが」
と言えば、一言「無視」で締め括られた。少し同情をしてしまうわ。
学校の帰りは練習という日々…
他の団員さんが働いているので全員が揃ったのは、初日だけだったが、何故かお義母様のお友達の貴婦人達が、どんどん集まってくる…。
ソファー、テーブル、絨毯、大きなピアノまで用意されている。
貴族のサロンの一室みたい。
「あの~お義母様、団員の数が私を含め、今日は4名ですが、監督をして下さる皆様が団員の数を倍に超えましたが…もしよろしければ皆様も参加されたりすれば、かなり大きな何かが出来るのではないでしょうか?」
聞いてみるが、貴婦人全員が顔振り、
「ミランダ、違うの。演劇には夢がある同志が集まったの。脚本、演出、衣装、監督、やる役割が違うのよ。私達は一つの作品を作る同志、皆様、頑張りましょうね」
と言えば、
「「「「ええ、楽しいですわ。学生みたい~」」」」
と最高の笑顔で貴婦人達に言われた。
…楽しいなら、それで良いのか。
歌の練習をしながら、私は何故かソロパートがある。これは?
「お義母様、私のような素人の目立たない者が突然歌い出されても、領民のみなさんが驚きますし、楽しめないのでは?上手くもないですし。ここはプロの劇団員の方にお願いした方が良いのでは…」
「大丈夫、彼らも劇に関して素人よ!我々は見る専門、ミランダみたいなタイプこそ演劇で、派手に輝くのよ、これは光、希望なの。下手でいいのよ、愛嬌があって素敵でしょう、山場は完璧よ。それに衣装も発注しましたし、…配役は決まったわ」
配役も決まったの?劇団員素人?
「あの、私は何から聞けば良いのでしょうか…」
「小さい事は気にしないの、台本は、私の従姉妹の渾身の作品よ。今回の件にピッタリのテーマでね、ここで開花出来るなんて、従姉妹として私も嬉しいわ」
お義母様が答えた。私が言おうとした疑問を『気にしない』の一言で切られてしまった。義兄は義母似だな…
「お義母様の従姉妹の方は存じあげてませんでした。私、挨拶した方がよろしくないですか?練習ばかりをしていて、皆様に失礼な態度を取っていませんか?」
「役者は、練習が仕事。今は貴族も平民も年齢、性別関係ないのよ、演劇を楽しむ者、愛する者が一つになって作っていくの。みんな平等で堅苦しさなんて邪魔なだけよ。ミランダは、お祭りで、みんなが楽しんでいる姿を思い浮かべて欲しいの。私達の事は気にしないで。好き勝手にやっているのよ。それに、最近噂になりつつあって、この会に参加希望者が殺到して困るのよね…全く皆様ったら、どこで情報を仕入れてくるのやら、自分の熱い思いを表現出来るなんて、夢みたいだもの、これ以上の人数は私もご遠慮したいのよ、内密ですし。統制が効かなくなっても困るわ」
駄目だわ、私の話をすでに聞いてないわ。
お義母様は、この練習場にいるとき劇団の監督という顔しかしないわね。もう話は通じない。
「お嬢様、台本です。頑張りましょう。みんなに喜んでもらえるように!」
「ラナ、そうね。色々考えずに私の出来ることをするわ。お祭りの最大のサプライズになるように。みんな楽しそうに作業しているのですから!そういえば、ケトルさん、最近見ないわね…」
「…貴婦人だらけだから商売をしようとして、演劇に熱のない者は、この場から立ち去れと言われて追い出されたのですよ。私より皆様の熱気は、凄いですよ。他領のお祭りのために、素晴らしいですよね」
と嬉しそうにラナが言う。…私も気をつけなければ。
「歌が下手なら練習をすれば良いことですもの。頑張るわ。初めて尽くしで驚くことばかりだけど…」
台本『海の精霊の愛し子』が配られた。
*
「ミランダ、最近声が出ているわね、姿勢も良いし、ダンスの練習?」
リリエットに聞かれ、何と答えれば良いのかな。確かにダンスみたいな振り付けも多くあって、歌も発声練習も毎日しているし…
「お義母様に姿勢の注意とお腹から声を出すように言われているのよ」
「イズリー家の淑女教育ね。来月開催される夜会の準備かしら?アンドル王子様の婚約者決めのパーティーの話が、前建国祭夜会になるなんて驚いたわ。我が家にも招待状が届いて、慌て新しいドレスを発注したのよ。ミランダは、発注した?」
だから、朝から教室内のみんなも声が弾んでいたのね。みんな楽しそう。
「いいえ?私は、家族からまだ何も聞かされていないわ。リリエットも楽しそうね」
笑って聞くと、少し恥ずかしそうに、
「ええ、だって王宮のパーティーなんて初めてよ。私も参加出来るなんて夢のようだわ。ミランダがまだ知らないなんて意外だったわ、ディライド様が、すぐ教えてくれそうだけど…アンドル王子様もお忙しいのか、最近学校でお見かけしないもの」
「そうよ。お義父様もよ。ではクラスの大半が参加になるの?本当に大規模な夜会なのね」
「15才以上の王宮に通える貴族みたいよ。領地にいたら参加出来なかったけど、学校通いのため小さいけど王都住みだから、我が家はたまたまね。スタンルートは、私のエスコートで一緒に来てくれる予定だけど、ご両親は領地にいるから不参加だし。男爵家や子爵家は親戚で屋敷を持つ人も多いから、このクラスでも数人じゃないかしら」
流石情報通だわ。
「ねぇ、今マリアーノ様とダイアナさんが廊下で偶然会ったのだけど、お互いそっぽを向き合っているのよ」
教室に入って来た女生徒がみんなに聞こえるように話した。
要注意人物として、ダイアナさんやマリアーノ様を見ているけど、以前より大人しくなっている。
トラブルを起こす者同士、かなりの確率で二人は鉢合わせる。
リリエットは、
「夜会の為に騒動を避けているのでしょう、二人とも(小声で)アンドル王子様狙いだから」
そうなのね。お二人ともお義兄様を気にしているような側面があったみたいだけど…確かに、王子様を追いかけている印象があるわ。
「同じ人を好きになってしまったのね」
と言えば、
「そんな綺麗なものじゃないと思うわよ」
と返ってきた。
パーティーに参加する予定のクラスメイトが、ドキドキしている中、私は台本に心配していた。マリングレー国の国民に知られたら…
お義母様は、演劇とは風刺がつきものとか言うし…
イズリー領のお祭りだから大丈夫なのかな?
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
53
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる