今日も楽しくいきまshow!?

犬野きらり

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94 私の存在とは…

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「イズリー家の皆様。船は小さいですが、安全に考慮しておりますし、船酔いも常備薬を用意しております」

ケトルさんが話すと、大きな汽笛の音が海から聞こえた。マリングレー王国の旗が靡いている。

「旦那様の計算、素晴らしいタイミングね。では、私達も船に乗りましょう」

お義母様に言われ、大きな船を背にして私達は、港を出た。


午後に出発して、夕方イズリー領とマリングレー王国の境界の小さな島に着いた。こちらは商人の貿易港と言われて倉庫街と宿場町で…

「酒だ、酒だーー」

騒ぐ声が聞こえる。
治安があまり良くないのかもしれない。
こんな状況の方が、不安を掻き消してくれるとは。久しぶりにゆっくり眠れた。


そして、マリングレー王国に到着した。港は大きい。でもそれより白い砂浜がキラキラ反射して美しさに目を奪われる。

この国を去る時、朝日が昇る前の夜の海だったことを思い出した。

「マリングレー王国に来てしまったわ。大丈夫なのかしら?私が入っても、みんなは怖がらないかしら?」

先生から忌み子は悪者、国民に嫌われているから外には出られない、危険と聞かされていたし…

「大丈夫ですよ。そんなの迷信ですから。それに義姉様の絵姿も出回ってません、すでに現地の情報を綿密にやり取りしてます。絶対悪いことなど起こりません」

レオンが力強く言ってくれた。お義母様は、

「公演は大成功させるわ。そもそもの話がおかしいのだから、必ず国民の気持ちは変わるわ。暗示だか迷信だか知らないけど、自分の目や耳、五感で感じた本能に人は感情が動くはずよ。国民みんなギャフンって言わして見せるわ、任せてね」

お義母様の国民の気持ちを変える宣言…
初めからこの為の台本で劇団だったのかな。
マリングレー王国の迷信にぶつける為に。変えるために。
みんなのおかしな言葉が少しづつ繋がっていく。
…アンドル王子様は私が、この国で忌み子だと知っていたということ!?



辺りを見回した。

「義姉様、どうしましたか?」

中型の商船の為か、マリングレー国民は、こちらを気にしていなかった。誰にも指を指されたり、罵られたりしない…

ストンと何が私の中で落ちた。
壊れたのかもしれない。迷信って何?という。
学校に行っていなければ、クリネット国に行っていなければ、全て知らないで受け入れていた疑問。

これは…レオンの言う通り、私はみんなに知られていないということ。
忌み子は、悪…ただの話…

では何故、私は別塔に閉じ込められていたの?
その原因は近くにいたという事、誰でも良かった?いえ、私は狙われていた?
何故?

先生やあの塔に閉じ込めていた人達は、どうして『私』を入れたの?本当は原因が私ではないと知っていたのでは?

原因ではなくて?

私の中に不安や恐怖とは違う気持ちが湧いてきた。

「義姉様」
「お嬢様!大丈夫ですか!」

ラナに肩を叩かれ目が合った。

「私…」

その続きが言えなかった。気持ちがまだ飲み込めなかった。悪い感情しか浮かび上がらなくて…

「お嬢様、移動しましょう」

レオンが私の手を引いて歩いてくれる。

「はい、我々も準備万端です。外に舞台をすでに作ってありますから、楽しみにして下さいね。こちらの工房と作りあげた素晴らしい作りになっております!」

とケトルさんと義母様の話が聞こえてきた。

「では、この計画はやはり私の為…忌み子の話を作り出したのは、教会、聖女様が原因ですか?」

と思うままに言えば、お義母様とレオンは何とも言えない表情をした。
私に湧き出した感情は『怒り』。
何故私が、という思い…
ある絵本の話が蘇る。…生贄の話。

今までのことが頭の中を巡る。
孤独の寂しさが溢れてきて、辛かった思い出ばかりが出てくる。


「おい牛が~、」
「うわー、牛が荷馬車から脱走したぞーーー」
「「牛が興奮している」」

「気をつけろーーー」

大通りから、港に向かって砂煙が舞い上がっている。

「えっ?」
「何ですか、これは」

レオンとラナが身構えた。
騒音の中聞こえたのは、「牛がー」と言った声。

私の怒りの感情が周りの声に引っ張られて拡散した。

牛?みんなの騒ぎ声、顔を前に向け確認した。
牛だわ、砂煙がすごい。
こちらに向かう勢い、あぁこちらに来るわ。
凄い!

「ケトルさん、ロープはありますか?」

「えっ、はい、馬車に荷物を括りようですが!」

「下さい!」

先を大きな輪を作る。何か気分が上がる、騒ぎ声も私の意識を牛に集中させてくれる。

「義姉様、何をする気ですか!」

「任せてレオン…私、釣りは駄目だったけど、牛の扱いは申し子って言われたのよ!」

勢いよくぐるぐるロープの輪のついた部分を回す。顔が煙でよく見えない。音が近づいてくるのがわかる。
かなり近い。
思いっきり投げた。大きく作った輪は見事に牛の角に引っ掛かる。
誤ったことは、私は牛自体を良く見ていなかったこと…
酪農の牛ではなかった。
まさか角があんなに大きいとは…
すぐに私の身体が傾き…

「お嬢様、すぐに手からロープを離してー」

ラナに言われてすぐに離した。体勢が崩れたが、最近の稽古で体幹が良くなり、数歩足を動かし転倒を避けた。ロープが、勝手に動きまわり、船の桟橋に
絡みついた。
牛はいきなり、ロープでブレーキをかけられる形になりグッと張りつめ、勢いで倒れた。

「うわぁ、押さえろ、縛れ、落ち着かせろー」

漁港にいたマリングレー王国の人達がこちらを注目している。

「すげぇーぞ。あの女の子が、闘牛をロープ一本で倒しちまったぞーーー」

「「「ウォー」」」

海にいる男衆からの響めき。

「見たか、見たか、すげぇぞ」

と興奮しているどんどん集まる野次馬。

「お嬢ちゃん、怪我人が出るところだったよ、ありがとうな」

「いえ」

と一言返し、走って寄ってきた人は、この牛の責任者の人で、後のことはサタンクロス商店に任せた。

野次馬が私を褒め称え、レオンが慌て隠すように私を馬車の方にエスコートしてくれる。

馬車に乗る時、野次馬の方を見た。…白馬に乗った水色の髪に騎士服みたいな人が拍手をして、こちらをジッと笑顔で見ている。何故か他にも騎士服を着ている人はいるのに、その人しか見れない…
あの人はきっと私の家族…

会ったことはないけど、きっとそう。

「今、馬に乗った水色の髪の騎士を見たかしら?」

とレオンに聞いたがわからなかったと言われた。

「この事件は、良い宣伝になるわ。さぁ、まずは、こちらの港街で旗揚げしますわよ!フッフフフ、フッフフフ」

お義母様の何とも言い難い笑い声が響く。いつもの貴婦人感はどこに行ったのかしら?
まぁ、叱られなかっただけ良かったけども。
と考えていると、先程までの全部に向けた怒りがなくなっていた。

「お嬢様、お怪我はないですか?先程は大変顔色が悪く、震えていたようですから…」
ラナとレオンが複雑そうな顔でこちらを見ている。

「牛のおかげで、私の気持ちを八つ当たりせずに飲み込めたわ、後でみんなに話を聞いてもらいたいし、知っていることは教えて欲しいです。きっとこのようになることも含めてお義父様は、この国に私を向かわせたのですね」

お義母様は、

「流石、イズリーの子よ」

と私を最大限に褒め抱きしめてくれた。

「ただ、牛の前に出るのは、絶対に駄目。レオンや護衛がいるのだから頼りなさい」

と言われたけど。


こればかりは…勝手に身体が動いてしまったというか、牛とは相性が良いのよ私。

ふっふふふ…

まぁ、良いか。笑い出すほど、お義母様がめちゃくちゃ張り切っているから~

マリングレー王国の景色を見ながら、あの時先生が、「馬鹿な子ほど可愛い」と言った意味に、胸が痛くなったのに、お義母様がずっと高笑いするから、すぐに消えた。

結局、私は話を聞いてみなければわからない。
「お義母様、私も公演が楽しみです」

イズリー家に養女になれた事、こんな幸せはないと馬車の空気に身を委ねた。

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