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36 ティア・マリングレー 1

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ティアside

「ティア王女様、御髪が!」

「…誰にも話さないでね、わかった?」

無言で頷く侍女。
知らぬ間に、髪の一房が真っ白になっていた。代償だけで成果を得られなかったクリネット国の夜会…

「最悪」

でも確かに忌み子の存在を感じるのに!
マリングレー王国に帰国した。


「リウムお兄様、空振りでしたわ…
楽しそうに笑う声…友達、和気藹々と声や存在ははっきりと聞こえるのに。顔は見えない。名前も聞こえない。何かの事件に巻き込まれて恐怖した事、ダンスを楽しむ様子。
ハァー、思い出すだけで最悪だわ。名無しだと本当に面倒です。全くどこに逃げたのかしら?ある日突然いなくなるなんて、あり得ますか?何故誰も何ヶ月も気づかなかったのでしょう?本当に兄様達は知らないのよね?」

表情一つ変えない、第二王子が書類を書きながら、

「…ティアがいう手引きした者、連れ去った者も足取りは掴めない。一度も外に出たことがない、自ら脱走をして普通なら生きていけないだろう?もうこの世にいないかもしれない。ティアに言われなければ、忌み子の記憶なんて誰もないのだから。
それよりアンドル王子には興味持たなかったのか?友好国だ、婚約者に押せば彼の国も嫌とは言えないよ」

と笑った。

「は!?
冗談じゃないわ、あんな子供、馬鹿王女に振り回される顔だけ王子でしたのよ。人間らしさもない」

「酷いこと言う」

と兄様は笑った。

何も知らないなら死ぬ可能性もある、でも私と同じ転生者なら…
ちょうど私がアクア兄様に追い詰められた日が怪しい。
手引きがあったと考えるのが普通。

でも、知らない人物を助ける人なんている?

「問題は必ず起こっているはずなんです。一年以上見つからない、この国にはいないのです。アクア兄様は?」

「ああ、昏睡状態が続いている」

リウム兄様は答える。

「どうか面会をさせて下さい。アクア兄様には今も、信じられません。私を悪女だ、魔女なんて言うのですもの。忌み子の呪いが移るなんて…その機会を狙っての脱走だと思うと、通じているとしか考えられない。それに、最近兄様の所属していた騎士団が、教会に対しての横暴は許せません」

「アクア兄様は、気狂いを起こしたんだ。隔離しなければ再び同じ事が起こる。どうせ調査済みだろう。教会は調子に乗りすぎている…」

…気狂い?都合が良すぎるわ。

「教会は諌めますから…外の情報集めと資金調達ですよね。今、私の為に船を作ってくれているからですわ。兄様の側近の一人も、別塔の見張りをやっていたのですよね?怪しくないですか、その者、情に流されたとか…懐柔されたとかで、その者が脱走を手引きしたとかはないのですか?」

「…何故また振り返す。こう見えて妹の為に動いているつもりだけどな」

「ふふふ…
妹の為って、良い言葉。忌み子に呪われて、母様にアクア兄様、何故私に刃を向けるのかしら?」

国王、王妃は、忌み子の美しさに生まれたばかりから、明らかに特別扱いしていた。赤子に記憶がないと思って…

私は生まれる前から知っている。あの忌み子が狭い腹の中勝手に動いて、私を端に追いやり、足蹴にもされた。

艶々、ふっくらのお姫様だと…みんなの目が私と妹では違った。
転生者として目覚めていた私は、言葉を理解し、人の顔を理解した。あの忌み子が四本足で動く頃、私は自分の足で立ち動き、言葉を理解し始めた。

『神童』 

と大騒ぎされた。
マリングレー国と聞いた時、私の妹が書いた絵本の物語ではないかと突然考えが浮かんだ。

大っ嫌いな妹…
転生してもまた双子の妹がいるなんて!
そしてまた同じ扱い。私の未来が見えるわ…

宝物庫に入れたのは、幸運だった。人魚姫が拾った黒真珠、何故ここにある?
私の知識を確かめるには十分だった。

黒真珠を手に入れ、この物語が妹の作品のその後だと確信した。だってティアなんて王女は知らない。

もしかしら…同じように…使えたら。
私は人魚姫ではない。
だけど
願い事が一度だけ叶えてもらえるのではないか?祝福は一度だけだったはず。

願ってみよう、上手く詰め込んで!

双子の迷信をばら撒き、みんなの記憶を書き変えられたはず…私は聖女になり、妹の名前を取り上げ、忌み子にした。
誰もあの子の名前も存在も覚えていないはずなのに…

数日経ったある日、母様の私を見る目が、とても嫌だった、あの憐れみを向けて、笑みを見せる顔。

憎しみが再び溢れた。あの忌み子は、自分の置かれた立場がわかっていない。
名無しのくせに、みんなから嫌われているのに、相変わらず呑気に母様から、母乳を飲んでいた。どうして母様に嫌われていない?忌み子のくせに!
愚かで儚くて小さい生き物…名無しの赤子。
母様もこいつも処分しよう。

忌み子から黒い瘴気を纏わせ、母様を包んだ。
ザマァミロ…忌み子の方に黒真珠を投げて割れば、二人のせいに出来る。

あの子の絵本の魔女との契約…力の副作用、何かを得て失う力。
自分の何かが吸い取られるように…黒真珠が私の中に入って意識は飛んだ。

気づいた時は三年後の世界だった。

私は三年も寝たままらしく、記憶もない。
使用人に問い詰め、私は被害者、忌み子が悪の加害者、病床についた母様という構図が出来ていた。
あの日、王族はみんな呪いを受け瞳の色を失ったと聞いた。

鏡を見れば、肌がまるで前世の時の年齢のものになっていた。中年女性の肌、皺、シミ…そして顔。侍女達の同情…許せない、誰が悪い?

忌み子が悪い。許せない!

「父様、忌み子は生きてますよね?処分して下さい!母様や私に対する呪いの力、酷すぎます」

訴えたのに、

「忌み子は、王妃と同様な症状で、幽閉処分した。ティアが心配することはない」

誰も忌み子の話をしないから、記憶にないとあの頃は誤魔化されたけど…やはり何かおかしい…

「兄様、私が療養せざる得なかった時、母様は目覚めましたか?以前一度見た時は、髪も真っ白く短くなって昏睡状態でしたよね」

「ああ、今もだよ。隔離したまま。忌み子の呪いを受けた…栄養がまわらないみたいだよ」

見つめても、兄様の動揺はない。

ハァーーー

「私が最後に見た記憶通りなら、忌み子は美しい容姿、水色髪。兄様が言うならグレーの瞳に白髪…イズリー領が紛れるなら怪しいと忌み子の存在確認をしましたが、ディライド様は、同じ時期に留学に我が国に来てましたし…夜会でもイズリー家は堂々としてました。調査しても、学校に転入生や疑われるような者もいない」

あれ!?

…私は何か忘れてない?肝心なこと。
私は、転生者でこの絵本の物語をその後の世界だと知っていて…
同じ状況のダイアナは、ここが自分がヒロインの世界だと改変するなと言った。
私に…
夢見の乙女の世界… そんな話は知らない。私はクリネット国に関わっていない。
誰かが改変している!
やはり問題も争い事も起きていたのよ!!

「慌て同類を排除しなきゃって動いたけど、話を聞くべきだったかもしれない」

「何か言ったか?」

「もう一度クリネット王国に行きたいの、お兄様、私も留学したいわ!」

「この国の聖女が簡単に国を出れるわけないだろう、ティア、頭を冷やせ!何をそんなに焦っているんだ」

クリネット王国が揉めれば、あの子が出てくる。改変しているのは、忌み子なのよ!
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