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31婚約 タヌキ令嬢脱却計画

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朝、夕のランニング6周、お祖父様も共に走ることなった。
「6周、そんなものじゃ足りないだろう?毎日近くの山までランニングじゃあ!!」
横からヤイヤイ言われる。

あ~、駄目だ、うるさいわ、無視しちゃう。めちゃ嫌いなタイプかも、なんかイライラしちゃうんですけど…おじいちゃんですけどね~
母様と同じく話を聞かなそうだし。

「私は絶対に決められた距離しか走りませんから。家庭教師の授業もありますしね。体力の限界です」
淡々とその意見を否定して自分のペースで走る。

「そんな~、リサーナ、頑張れば君もグリトン王国最強の女騎士になれるよ。まだ若いしバンバン魔物倒しに行こうよ~」

「あ~、私、公爵令嬢ですので、魔物倒しに行く必要ないです~」

ゆっくり走っていれば会話させられる、これがとてつもなく面倒臭いおじいちゃんだ。
仕方無しに今日も自分の持てる最大限のフルスピードで走るしかない。

ゼーハァーゼーハァ、と呼吸が荒ければ、喋れない理由になるからだ。
何故こうなったのだ!!
とんでも爺さん来襲に使用人を恨むように見れば、目線を外す。

朝食も昼食も夕食も一人楽しげに話して笑っている。
あーぁ体力余っているのだなぁということだけはわかる、三日目からは公爵家の私設兵団もお祖父様が鍛え、領地内のパトロールもお祖父様がやることに決まった。

元気な働き盛りの人が、フルパワーのお祖父様に鍛えられ、大変賑やかにバサバサと倒れていく様にお父様も
「我が家の兵士、肝心な時に働けるのかな」
と心配していたのは空耳ではないと思う。喋り続けるお祖父様に汗を垂らしているお父様、同情はしないわ。

全ての元凶はお父様!
と私は思っているけど。

私の訓練も決して孫だからなんて理由で緩めない、むしろ孫だからこそ、剣技が美しくないのがお気に召さないらしく、どのくらいの踏み込み足に素振りをやり直しさせられたかわからなかった。
その間もお喋りは止まらない。


そして、今着てるワンピースの二の腕が、ドリーの指3本分入るようになり、ドミニオン商会で採寸、新調することになった。

「お嬢様おめでとうございます。ゴリラ令嬢脱却計画、これにて終了です!」
とドリーに告げられた。

言葉を噛み締めた。
辛かった。アグーからゴリラと言われ、いじめね、解放…

長かった。ゴリラ令嬢生活…考えてみれば4ヶ月以上あったのではないかしら?
その点アグー脱却は1ヶ月という早さだから、計画を立てたドリー達は、進みの遅さを感じたんだろうな。

「ハァ~、やっと終わったわね。これで好きなものを食べれるわ~」
と言えば、ドリーは一度笑った後、
「お嬢様、プラント公爵家使用人一同、本日よりタヌキ令嬢脱却計画に入ります」

「え!?タヌキ?」
もういいでしょう、流石にこのぐらいの体型の令嬢探せば何処かにいるって。
少々の太り具合よ。
コロコロって感じのぬいぐるみボディーって感じでかわいいと思うのよ、私は?
後、そのネーミング、アントレに馬鹿にされるよ、きっと。

「ぽっちゃり具合確かに以前のお嬢様とは全くの別物。幾重の毛皮を脱ぎ捨てだでしょうか…今回の採寸で驚く結果になることは、我々一同喜んでおりますが、こちら学園の制服の既製品です。お召しかえをしてみましょうか?」

ドリーは静かにまず身長が合っていることを私に確認させた。
そしてワンピースを上に上げる、両腕パツンパツン、特に肘から二の腕が…しかし肩まで入った。
これは、今までの剣術の血と汗の努力の成果です。
そして、この学園の制服、二の腕がとても絞られたデザインなことがわかった…

…問題は後ろのファスナーが上がらないことだ。左に捻っても右に捻っても隙間が出来ない…
少しもファスナーは動かない。


このみっともない状態が絶望すぎて、私は気づかなかった…公爵令嬢なんだから、特注品を作ればいいだけだということを…

「お嬢様、現在この状態でございます。我々も、もう一段階、先を目指しこのファスナーが上がり切るその日を想像してお嬢様をお支えします。タヌキ令嬢脱却計画にお嬢様の署名を頂ければ、一丸となって頑張れます」
「「「お嬢様お願いします」」」

どこから出てきたメイド達!
何故そんなに署名させたいの?一丸になることってそんなに重要なのかしら。

私はみんなの主人、リサーナですからね、使用人達のお願い聞いてはあげるけど。

「はい、書いたわよ、みんな」
と言ってその紙を渡す。

「はい、これでこのプロジェクトがお嬢様主導のもとで行われます。責任者の欄が埋まりました!」
「以前は奥様にお願いしていたのですが、奥様には出産に全力を尽くしてもらい幸せ家族計画のみに集中して欲しかったのでお嬢様が引き受けてくれて良かったです」
と言って二人のメイドは、執事長に渡してくると言って出ていった。

次の日、私は知った。署名は、きちんと用紙の中身を読んでからしなければいけない。
責任者とは、そのプロジェクトを遂行する為に導く者である。
自分のプロジェクトを自分が責任者となって、決して逃げれないタヌキ令嬢脱却計画になった。



王宮 王妃の部屋

「フフフ、困っているのあの子…へぇー、プラント公爵令嬢が、フリップとの婚約にノリノリなのね。可愛いじゃない。私、とってもいい事してあげたわね。勿論フリップのためにね。義理でも私の息子ですからね。フフフッハァ~楽しいわ、で、なんだったかしら?手紙が来たんだったかしら?では、その手紙を持ってフリップに部屋にきなさいと伝えなさい。あの子の口から聞きたいわ。公爵令嬢の我儘を!」

一人の侍従が頭を下げ部屋を出ていく。
あの侍従がフリップの持ち物や行動を管理する責任者、全部あの子の事は筒抜け。今日も困った顔が見れるわ、ザマァみろね。



「フリップ王子、王妃様が、昨日のスケジュール変更の件で直接お話しがしたいと申し受けましたが、いかが致しますか?公爵令嬢のお手紙も持ってきて欲しいとのことです」
と侍従が聞いた。
「やっぱり勝手にスケジュール変更は駄目か。どうしたら王妃様に変更を許可してもらえると思う?」
とフリップは目の前の侍従に聞いた。

こいつが王妃と繋がっていることはルーを監視につけて知っていた。私の持ち物全てのチェックをしている。最初に持ち物がなくなったのは、母が最後にくれたぬいぐるみ、それから少しずつ母の品が無くなってルーが、今は預かってくれている。
彼女の手紙が盗られなかったのは、書いてある内容だろうなぁ、と笑いながら軽く手紙に触れる。

相変わらずだよ。リサーナ。

「失礼します、フリップです」

「入りなさい、夏休みのスケジュール変更を希望しているそうね、公務もありますし家庭教師もおりますでしょう、王族としてその責任と覚悟の自覚が足りないのではなくて!」
と王妃は告げた。

「申し訳ありません、先日婚約しましたリサーナ嬢が、プラント領地に来てほしいと申しておりまして」
と手紙を見せる。

『フリップ・グリトン殿下

父から婚約の証の品々受け取りましたわ。
素晴らしい出来で、私、幸せになりました。あの光り輝く幸せの金色に心が魅了されました。
夢にも出てくる甘い幸せに毎日少しづつ実感しています。
つきましては、また黄金の幸せを送っていただけたら幸いです。

一緒にお食事もしたいですね。
好みの話もしたいですし、また新たな挑戦のお手伝いも出来そうですので、絶対プラント領に来てください。

夏休みに入ったと聞きました。
確か、王都で土産を買いに行った時、夏休みに遊びに来てくださいと約束しましたよね、よろしくお願いします。

リサーナ・プラント』

「フフフッ、相変わらず自分勝手な子ね。フリップ、良かったわね、絶対なんて可愛い我儘じゃないの。宝石を強請るなんて子供でも貴族令嬢ね。中々強欲そうで困るわ、フフ~ン私もあの子には借りがあるから夏休み終わりの三日間だけプラント領地に行っていいわよ、そこで少し躾てきたらどう?学園では、ブラッシュの迷惑にはならないようにしておいてね」

「…わかりました。ありがとうございます、王妃様」
と言って部屋を出た。
フゥー
良かった。溢れそうになる笑みをグッと噛み締めて前に歩き出した。

漏れ出す高笑いが聞こえる部屋を耳ざわりに感じたが、それより夏休みに楽しみが出来た喜びの方が大きかった。
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