【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした

犬野きらり

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32面倒事

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テストも終わった。夏休みが始まる。
「ガレットさん、私達夏休みは、伯爵領に戻ります。来週荷造りでうるさくするかもしれません、よろしくお願いします」
と言えば、ガレットさんは、
「わかりました」
と笑った。相変わらず美しい、中年紳士には見えない。多分色々誤魔化していそうな、裏がありそうな笑顔の時が一番怖い。
しかし、特別警護なんてやっぱりいらなかったでしょう、と少しドヤ顔で言いたかった。
成績も発表され、補修もなくすっきりと領地に帰れる。今週の休みにクラスメートとは、王都のカフェに行こうと話してる。幸せを感じていれば、担任の先生から呼び出しを頂き、待ったをかけられた。

「やぁ、来てくれたね。アーシャ・ドミルトン嬢」
「はい、学園長」
嫌な予感しかしない。何故ここにガレットさんがいるの!?
「そのだね、アステリア王国の学園の生徒が交流会で来週来るのだよ。その案内役を頼みたい」
とチラッとガレットさんを見る学園長。ガレットさんは一体何者?
「お断りします。我が校には、生徒会という代表者がおります。1年生の私では、お恥ずかしい姿を晒すだけです」
と、私は、少しの隙間もなく断った。学園長は、汗をふきながら、
「それが、我々には無理だと手に負えないと生徒会が断ってきたのだよ。出来れば、フランツ王子様に案内役をお願いしたいと頼んできた」
「何故会ってもいないのに、そんなことを言うのですか?」
と質問すれば、
「いや、学園に留学希望を出しているアステリア王国の第二王女リア様が先に王宮に入られた。先日、生徒会の者達と来週の学園案内の打ち合わせに行ってきて、その言い負かされてしまって、生徒会の者達は心が折れて無理だと言ってきたんだよ」
と言われたが、
「そんな大層な方、ただの伯爵令嬢には無理です」
と言えば、ガレットさんが、
「王妃様からフランツ王子様はお忙しく都合がつかないと言われまして、本来でしたら、フランツ王子様の婚約者にお願いしたいんですが、誰に頼んでも争いを生みますから、全く違う人に頼みましょうとなりました」
と含み笑いのように言う。
「だからと言って、私である意味はありませんよね!」
と強気に対応する。嫌な予感しかしない。アステリア国の第二王女…
私の予告書に当てはめれば、ルイーゼが消えた後の悪役令嬢…
「そうですね。しかし成績優秀者ですので皆が認めるでしょう。いやはや王子様と争うなんて本当に優秀なんですねアーシャ様」
と笑顔で話される。いや、こんなお世辞で絆されない。
「いや、そんなことないです。私ごときの成績なんて」
「順位や点数張り出してもいいと学園長は、おっしゃっている」
「は?順位なんて張り出しはしないじゃないですか?」
と言い返せば、ガレットさんも
「生徒のやる気に繋がるならと学園長は考えられている。順位や点数が出て困るのは、アーシャ様じゃないですか?こんな優秀なアーシャ様が、婚約候補者じゃないなんておかしいとか現候補者の目にはどんなふうに映るかな?」
と返された。
「それは脅しですか?」
と真っ直ぐにガレットさんを見た。学園長は申し訳なさげにしている。
これは、交渉ではない。命令に近い。
「学園案内を教師の皆様でやるという手段もありますよね。こんな案内役をやるとなれば、ルイーゼ様のお怒りを買います。全くもって私に得が一つもありませんね。決まり事を押し付けられているだけだし」
ガレットさんも流石に、肩を上げた。学園長は、冷や汗をかいている。
「仕方ないですよ、本来は、あなたが婚約者だったのを王子や王妃に候補者を5人も当てがわせたのでしょう?」
と言われ、
「違います!私は、婚約者に選ばれていません。きっとドミルトン家では、私とエリオン様の婚姻を検討していると思います」
語気が荒くなった。
「なら、エリオン様は生徒会の役員です、手伝ってあげられたら?」

「何故、そこまで私にこだわるのですか?」
「いえ、アステリア王国にこの国を取られることが嫌だからですよ」
とガレットさんは笑いも無しで言う。
「側妃様の件もそうですが、何故そんなにアステリア王国の者をこの国に簡単に入れるのですか?」
と一番聞いてみたい事を聞いた。国をめちゃくちゃにしたくなければ、規制をかけるべきだ。

「それは、国王の政治批判ですか?」
「待って下さい。そうではありません。普通の疑問です。フランツ王子様が案内したくない第二王女を留学させる。本当に勉強したいなら、学園の案内で文句は出ませんよね、第二王女様の目的は何ですか?」
と聞けば、ガレットさんは、全て予想だから話せないと言う。このままだと、平行線だ。もう一度、
「やはり私では、身分不相応ですので」
と断った。
「大丈夫ですよ、あなたは、今日から生徒会メンバーですから。みんな優秀な人が来てくれる事に喜んでおります」
何故ガレットさんがこんな饒舌に語るのだろう。
「私、生徒会の顧問でして、この学園の理事長ですので」

何???

「というわけで、理事長の推薦もあります、生徒会のメンバーとしてアステリア王国の交流会に参加、案内役を頼みますね。アーシャ嬢」
学園長の言葉は、頭に残るようで、音は、別撮りのように流れていく。


「アーシャ様、何かありましたか?」
情報通のコルンさんが聞きにきた。こういう軽さが情報仕入れに役立っているのだなと感心する。
「何か、というのは?えっと」
私は、聞き返し、苦笑いをした。まだ私の中でちゃんと噛み砕ききれてない理解があって追いつかない。
コルンさんも怪しげな顔はするけど、席に戻った。

ガレットさんは、理事長。寄宿舎の管理人をやっていて。
アステリア王国の交流会があって。第二王女様が来ている。
面倒くさくなりそうで早く領地に帰りたかった。空はやっぱり青空で、魚釣り日和だと思った。別にここにいる必要はないのではないか?家族のみんなに言えば、許してくれるのではないかと思った。ここに婚約者探しに来ているなら、なんとか家族のコネを駆使して紹介してもらうとかあるな。

今日も廊下では婚約候補者のぶつかり合いが展開されている。この様子に平和だなぁと感じる。

「アーシャ!」
突然呼ばれた先には、真ん中にルイーゼ様、両側をサラ、リリアンの3人組。悪役令嬢らしい、立派な扇子を広げていた。
「お久しぶりです。ルイーゼ様」
挨拶をすれば、高圧的な物言いが降ってきた。
「来週、茶会を、開きます。クラスメートを連れて来なさい」

何を言っているんだ、この人は?何故私が、悪役令嬢の茶会にわざわざ嫌味を言われる為に行かなければならないのだ。それにクラスメートだって王都のカフェに行こうという約束がある。
あちらが先約だ。

「申し訳ございませんが、先約がありまして、参加は残念ですが、辞退申し上げます」
と言えば、また形相が変わって、
「ドミルトン家のくせに、私に逆らうと言うの。伯爵令嬢ごときが!」
あーまた言っているよ、この人、伯爵令嬢、令息、何人いると思っているんだろう。この廊下でまた印象悪くしているわ。
王都のカフェの事は言えないし、どうしましょうか。やっぱりあれを言い訳にするのが平和的解決かしら?

「先約というのは、アステリア王国の交流会についてです。学園長からお話を頂きまして、私なりに助力したいと思っております」
「なんですって!アステリア王国ですって。なんでアーシャなんかを」
「その旨は、学園長にお聞き下さい」
ガリッと音がした。
鬼の形相にまたなった。そして近くにいた他の婚約候補者が動き出した。きっと情報収集だろう。それを見たサラがリリアンとルイーゼに報告していた。
またガリッと音がする。そんなに歯を強く噛んだら折れてしまうのではと心配になるわ。

「覚えておきなさいよ!」
バチン、扇子の畳む音。

捨て台詞!
凄い、なんか新鮮だった。悪役令嬢の次回に続く的発言は、私の心を過熱し、すぐに絵を描きたくなった。アンテナに引っかかった面白を夢中で描き終えると、
「あっ!私、手伝うって言っちゃった」
後悔することになった。

面倒を引き受けたことと今日描いたイラストを見ながら、良い悪役令嬢の表情が見れたことの方が、天秤が傾いた。
なら、仕方ない。
また見れるかもしれない、ルイーゼの本気とアステリア王国の王女の悪役令嬢対決もあるかもしれない。
面倒だと思っているくせに、これから起こるかもしれないetcに心が踊ってしまっていた。
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