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エクソシスト②
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悪魔と言われたそばから神だと言われて、家具たちは混乱に陥った。宙に浮かんだままピタリと止まり、首を傾げるように右へ左へ傾いていた。
「道具は100年経つと精霊が宿って、付喪神になるんだよ。そうすると、こうやって動けるようになるんだ」
淡々とコンコが説明すると、そうだったのかと家具たちは驚いて仰け反った。自分自身が神だとは、夢にも思わなかったのだ。
「だから、お祓いしたら失礼だよ。長い間お世話になった家具が魂を宿したんだ、ちゃんとお祀りしないとダメだよ」
コンコの話を聞いた神父は、開いた口が塞がらない。八の字になった眉毛から、理解に苦しんでいることがよくわかる。
神父は、何から伝えればいいのか、わからないまま時を流してしまった。浮かんでは消えていくありふれた言葉では、この子供に反論できない。
何とか絞り出した言葉は、神父としての誇りを賭けていた。
「神は、ひとりだけ! こんなに沢山いない!」
リュウがなだめるように割って入った。
「八百万の神と言ってな、日本は多くの神が至るところにおわすのだ」
一神教であるキリスト教の神父、しかもエクソシストにとって納得できるものではない。
「日本人は悪魔を神と信じますか!?」
その言葉にコンコがカチンときた。眉間にしわ寄せ眉を吊り上げ、口調に怒りが込められた。
「だーかーらー! これは付喪神! 神様!」
「神、沢山いない! 何故ワカラナイ!?」
するとコンコはフフンと鼻で笑い、とっておきの隠し玉を取り出した。
「何を隠そう、僕が神様なんだから」
どうだ、参ったか。
そういう顔をして見せたが、神父はあんぐり口を開け、そのうち身体を震わせて、ついには大声を上げて笑いだした。
「何がおかしいの! 僕は本物の神様だよ!」
「Hey boy! オモシロイネー!」
コンコが放った渾身の一撃が、悪い冗談か子供の強がりとしか思えなくて、神父は笑いが止まらない。
笑いすぎてヒィヒィ喘いでいる神父にコンコは激怒し、半べそかいた目を吊り上げて、噛み鳴らしている歯を剥いて、ワナワナとする怒りのやり場に地団駄を踏んで、ぐぎぃぃぃぃむぎぃぃぃぃと声にならない声を上げていた。
これでは益々コンコが神様に見えない。リュウは呆れてため息をついてから、深く息を吸った。
「いい加減にしろ!! 神かあやかしか知らぬが、主人が迷惑しておることには変わらんのだぞ!」
リュウの一喝に、ふたりもピタリと止まった。
「神であろうと、あやかしであろうと、憑物には変わらんのだろう。ならばコンコは祝詞を唱えればいい。神父は、その書物を読むのか?」
神父は借りてきた猫のように、大人しくYesと言ってうなずいた。
「あやかしならば憑物が浮き出る。神であれば、そのままだろう」
これまでのあやかし退治の経験から、そうなるだろうとリュウは判断した。
神への祝福を唱えるのだから、多分そうなるとコンコも神父も納得した。
コンコが祝詞を唱えると同時に、神父は十字架を掲げて聖書を読み上げた。
「ああもう、うるさいなぁ!」
「アナタ、声大きいよ!」
「ふたりとも、集中しろ!」
仕切り直したが、宙に浮いて止まった家具たちから悪霊が出てくる気配はない。むしろ薄っすらとした黄金色の光を放ち、嬉しそうに踊っているように見えた。
「Oh my…God…really?」
「ほらね、やっぱり付喪神だったよ」
しかし神だとしても、家具が宙に浮くことを何とかしなければ終われない。この家具たちの要求を聞いてみるしかなさそうだ。
「君たちは、使ってもらいたいのかな?」
家具たちは、うんうんとうなずいた。
「使えば大人しくしておるか」
家具たちは、ううんと悩んでいる。
「浮くと主人、怖がりマス」
家具たちは、悩んで身体を傾けている。
「毎日踊っていないと嫌かな?」
家具たちは、お互いの顔を見合わせた。
「落ちるのは書物だけだ。虫干しの日だけでは、どうだ」
家具たちは、葛藤に身体を震わせた。
「主人と相談、ダメですか?」
「そうだよ、ご主人がいいよって言ったら踊ればいいんだよ」
「身体を震わせて伝えればいい。それで良ければ主人に話しておく」
家具たちは、それならいいと深くうなずいて、元いた位置に収まった。
付喪神の説明と、踊りの許可制の承諾得るために、3人は主人の元へと向かっていった。
「What!? アナタGarlだった? 服違うヨ?」
コンコは祝詞を唱えたとき、霊力を使って洋服を巫女装束に変えていたのだ。
「言ったでしょう? 僕は神様だって」
巫女装束から洋装に戻ると、神父は驚きのあまり言葉を失った。目の前で起きたことが信じられないが、確かにこの目で見たのだから。
「日本、不思議な国です。近くに神様いっぱい、神様と友達みたいネ!」
友達と言われて、崇め奉られる神様なのにと、少し不服そうなコンコである。
「八百万、神にも色々いるからな」
よく泣き、よく笑い、よく怒る神様らしくない稲荷狐のコンコは、今はぷうっとむくれている。
そのとき、2階からドタドタドタと激しい物音が響いたので、すぐ近くの階段を見上げて様子を覗った。
若い娘が仰向けに這って階段を駆け下り、3人の前で止まると首をぐるぐる回しはじめて、白目を剥いて口をカパッと開いて、ケケケケケと怪鳥のように笑いだした。
リュウは刀を抜き、神父は聖書と十字架を手にして、コンコは祝詞を唱えはじめた。
「道具は100年経つと精霊が宿って、付喪神になるんだよ。そうすると、こうやって動けるようになるんだ」
淡々とコンコが説明すると、そうだったのかと家具たちは驚いて仰け反った。自分自身が神だとは、夢にも思わなかったのだ。
「だから、お祓いしたら失礼だよ。長い間お世話になった家具が魂を宿したんだ、ちゃんとお祀りしないとダメだよ」
コンコの話を聞いた神父は、開いた口が塞がらない。八の字になった眉毛から、理解に苦しんでいることがよくわかる。
神父は、何から伝えればいいのか、わからないまま時を流してしまった。浮かんでは消えていくありふれた言葉では、この子供に反論できない。
何とか絞り出した言葉は、神父としての誇りを賭けていた。
「神は、ひとりだけ! こんなに沢山いない!」
リュウがなだめるように割って入った。
「八百万の神と言ってな、日本は多くの神が至るところにおわすのだ」
一神教であるキリスト教の神父、しかもエクソシストにとって納得できるものではない。
「日本人は悪魔を神と信じますか!?」
その言葉にコンコがカチンときた。眉間にしわ寄せ眉を吊り上げ、口調に怒りが込められた。
「だーかーらー! これは付喪神! 神様!」
「神、沢山いない! 何故ワカラナイ!?」
するとコンコはフフンと鼻で笑い、とっておきの隠し玉を取り出した。
「何を隠そう、僕が神様なんだから」
どうだ、参ったか。
そういう顔をして見せたが、神父はあんぐり口を開け、そのうち身体を震わせて、ついには大声を上げて笑いだした。
「何がおかしいの! 僕は本物の神様だよ!」
「Hey boy! オモシロイネー!」
コンコが放った渾身の一撃が、悪い冗談か子供の強がりとしか思えなくて、神父は笑いが止まらない。
笑いすぎてヒィヒィ喘いでいる神父にコンコは激怒し、半べそかいた目を吊り上げて、噛み鳴らしている歯を剥いて、ワナワナとする怒りのやり場に地団駄を踏んで、ぐぎぃぃぃぃむぎぃぃぃぃと声にならない声を上げていた。
これでは益々コンコが神様に見えない。リュウは呆れてため息をついてから、深く息を吸った。
「いい加減にしろ!! 神かあやかしか知らぬが、主人が迷惑しておることには変わらんのだぞ!」
リュウの一喝に、ふたりもピタリと止まった。
「神であろうと、あやかしであろうと、憑物には変わらんのだろう。ならばコンコは祝詞を唱えればいい。神父は、その書物を読むのか?」
神父は借りてきた猫のように、大人しくYesと言ってうなずいた。
「あやかしならば憑物が浮き出る。神であれば、そのままだろう」
これまでのあやかし退治の経験から、そうなるだろうとリュウは判断した。
神への祝福を唱えるのだから、多分そうなるとコンコも神父も納得した。
コンコが祝詞を唱えると同時に、神父は十字架を掲げて聖書を読み上げた。
「ああもう、うるさいなぁ!」
「アナタ、声大きいよ!」
「ふたりとも、集中しろ!」
仕切り直したが、宙に浮いて止まった家具たちから悪霊が出てくる気配はない。むしろ薄っすらとした黄金色の光を放ち、嬉しそうに踊っているように見えた。
「Oh my…God…really?」
「ほらね、やっぱり付喪神だったよ」
しかし神だとしても、家具が宙に浮くことを何とかしなければ終われない。この家具たちの要求を聞いてみるしかなさそうだ。
「君たちは、使ってもらいたいのかな?」
家具たちは、うんうんとうなずいた。
「使えば大人しくしておるか」
家具たちは、ううんと悩んでいる。
「浮くと主人、怖がりマス」
家具たちは、悩んで身体を傾けている。
「毎日踊っていないと嫌かな?」
家具たちは、お互いの顔を見合わせた。
「落ちるのは書物だけだ。虫干しの日だけでは、どうだ」
家具たちは、葛藤に身体を震わせた。
「主人と相談、ダメですか?」
「そうだよ、ご主人がいいよって言ったら踊ればいいんだよ」
「身体を震わせて伝えればいい。それで良ければ主人に話しておく」
家具たちは、それならいいと深くうなずいて、元いた位置に収まった。
付喪神の説明と、踊りの許可制の承諾得るために、3人は主人の元へと向かっていった。
「What!? アナタGarlだった? 服違うヨ?」
コンコは祝詞を唱えたとき、霊力を使って洋服を巫女装束に変えていたのだ。
「言ったでしょう? 僕は神様だって」
巫女装束から洋装に戻ると、神父は驚きのあまり言葉を失った。目の前で起きたことが信じられないが、確かにこの目で見たのだから。
「日本、不思議な国です。近くに神様いっぱい、神様と友達みたいネ!」
友達と言われて、崇め奉られる神様なのにと、少し不服そうなコンコである。
「八百万、神にも色々いるからな」
よく泣き、よく笑い、よく怒る神様らしくない稲荷狐のコンコは、今はぷうっとむくれている。
そのとき、2階からドタドタドタと激しい物音が響いたので、すぐ近くの階段を見上げて様子を覗った。
若い娘が仰向けに這って階段を駆け下り、3人の前で止まると首をぐるぐる回しはじめて、白目を剥いて口をカパッと開いて、ケケケケケと怪鳥のように笑いだした。
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