稲荷狐となまくら侍 -明治あやかし捕物帖-

山口 実徳

文字の大きさ
20 / 64

エクソシスト②

しおりを挟む
 悪魔と言われたそばから神だと言われて、家具たちは混乱に陥った。宙に浮かんだままピタリと止まり、首を傾げるように右へ左へ傾いていた。
「道具は100年経つと精霊が宿って、付喪神になるんだよ。そうすると、こうやって動けるようになるんだ」
 淡々とコンコが説明すると、そうだったのかと家具たちは驚いて仰け反った。自分自身が神だとは、夢にも思わなかったのだ。

「だから、お祓いしたら失礼だよ。長い間お世話になった家具が魂を宿したんだ、ちゃんとおまつりしないとダメだよ」
 コンコの話を聞いた神父は、開いた口が塞がらない。八の字になった眉毛から、理解に苦しんでいることがよくわかる。

 神父は、何から伝えればいいのか、わからないまま時を流してしまった。浮かんでは消えていくありふれた言葉では、この子供に反論できない。
 何とか絞り出した言葉は、神父としての誇りを賭けていた。
「神は、ひとりだけ! こんなに沢山いない!」
 リュウがなだめるように割って入った。
「八百万の神と言ってな、日本は多くの神が至るところにおわすのだ」

 一神教であるキリスト教の神父、しかもエクソシストにとって納得できるものではない。
「日本人は悪魔を神と信じますか!?」
 その言葉にコンコがカチンときた。眉間にしわ寄せ眉を吊り上げ、口調に怒りが込められた。
「だーかーらー! これは付喪神! 神様!」
「神、沢山いない! 何故ワカラナイ!?」
 するとコンコはフフンと鼻で笑い、とっておきの隠し玉を取り出した。
「何を隠そう、僕が神様なんだから」

 どうだ、参ったか。
 そういう顔をして見せたが、神父はあんぐり口を開け、そのうち身体を震わせて、ついには大声を上げて笑いだした。
「何がおかしいの! 僕は本物の神様だよ!」
「Hey boy! オモシロイネー!」
 コンコが放った渾身の一撃が、悪い冗談か子供の強がりとしか思えなくて、神父は笑いが止まらない。

 笑いすぎてヒィヒィ喘いでいる神父にコンコは激怒し、半べそかいた目を吊り上げて、噛み鳴らしている歯を剥いて、ワナワナとする怒りのやり場に地団駄を踏んで、ぐぎぃぃぃぃむぎぃぃぃぃと声にならない声を上げていた。
 これでは益々コンコが神様に見えない。リュウは呆れてため息をついてから、深く息を吸った。

「いい加減にしろ!! 神かあやかしか知らぬが、主人が迷惑しておることには変わらんのだぞ!」
 リュウの一喝に、ふたりもピタリと止まった。
「神であろうと、あやかしであろうと、憑物には変わらんのだろう。ならばコンコは祝詞を唱えればいい。神父は、その書物を読むのか?」
 神父は借りてきた猫のように、大人しくYesと言ってうなずいた。

「あやかしならば憑物が浮き出る。神であれば、そのままだろう」
 これまでのあやかし退治の経験から、そうなるだろうとリュウは判断した。
 神への祝福を唱えるのだから、多分そうなるとコンコも神父も納得した。

 コンコが祝詞を唱えると同時に、神父は十字架を掲げて聖書を読み上げた。
「ああもう、うるさいなぁ!」
「アナタ、声大きいよ!」
「ふたりとも、集中しろ!」

 仕切り直したが、宙に浮いて止まった家具たちから悪霊が出てくる気配はない。むしろ薄っすらとした黄金色の光を放ち、嬉しそうに踊っているように見えた。
「Oh my…God…really?」
「ほらね、やっぱり付喪神だったよ」
 しかし神だとしても、家具が宙に浮くことを何とかしなければ終われない。この家具たちの要求を聞いてみるしかなさそうだ。

「君たちは、使ってもらいたいのかな?」
 家具たちは、うんうんとうなずいた。
「使えば大人しくしておるか」
 家具たちは、ううんと悩んでいる。
「浮くと主人、怖がりマス」
 家具たちは、悩んで身体を傾けている。
「毎日踊っていないと嫌かな?」
 家具たちは、お互いの顔を見合わせた。
「落ちるのは書物だけだ。虫干しの日だけでは、どうだ」
 家具たちは、葛藤に身体を震わせた。
「主人と相談、ダメですか?」
「そうだよ、ご主人がいいよって言ったら踊ればいいんだよ」
「身体を震わせて伝えればいい。それで良ければ主人に話しておく」
 家具たちは、それならいいと深くうなずいて、元いた位置に収まった。

 付喪神の説明と、踊りの許可制の承諾得るために、3人は主人の元へと向かっていった。
「What!? アナタGarlだった? 服違うヨ?」
 コンコは祝詞を唱えたとき、霊力を使って洋服を巫女装束に変えていたのだ。
「言ったでしょう? 僕は神様だって」
 巫女装束から洋装に戻ると、神父は驚きのあまり言葉を失った。目の前で起きたことが信じられないが、確かにこの目で見たのだから。

「日本、不思議な国です。近くに神様いっぱい、神様と友達みたいネ!」
 友達と言われて、崇め奉られる神様なのにと、少し不服そうなコンコである。
「八百万、神にも色々いるからな」
 よく泣き、よく笑い、よく怒る神様らしくない稲荷狐のコンコは、今はぷうっとむくれている。

 そのとき、2階からドタドタドタと激しい物音が響いたので、すぐ近くの階段を見上げて様子を覗った。
 若い娘が仰向けに這って階段を駆け下り、3人の前で止まると首をぐるぐる回しはじめて、白目を剥いて口をカパッと開いて、ケケケケケと怪鳥のように笑いだした。
 リュウは刀を抜き、神父は聖書と十字架を手にして、コンコは祝詞を唱えはじめた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...